8でエロ入る予定なんですが
筆がかなり止まってます
あと見てれば判ると思いますが 伏線の類は書きながら 前の方に追加していくタイプです
なにせタイトルまだ未定ですしね
筆がかなり止まってます
あと見てれば判ると思いますが 伏線の類は書きながら 前の方に追加していくタイプです
なにせタイトルまだ未定ですしね
「……?」
ふいに目を覚ますと、そこには見慣れた自室の天井と、ヒュウガの顔が有った。
「ヒュウガ、お前、もう来るなって……」
怒鳴るつもりだったのに、出たのはか細い声だけで、葵は困惑した。彼はベッドに寝間着姿で押し込まれてていて、額には濡れタオルが乗せられていた。
「虫の報せ、ですよ先輩。一昨日から様子、おかしかったですし。様子を見に来たら、バスルームでぐったりしてるんですもん。病院に連れて行ったら、ただの風邪だって。お野菜食べないからですよ、ホント。今年の風邪はすごいって言ったじゃないですか」
「うるさい、いいから出て行け、お前の顔なんか見たくもない」
「どうしてそういう嘘吐くんです。大体、その熱じゃ、一人では居られませんよ。ホラ、良い子で寝てて」
「お前……お前、本当に、生意気になりやがって……」
「良い子にしてるんですよ、判りましたね? それじゃあ、スポーツドリンク買って来ますね」
そう言って立ち去ろうとするヒュウガに何か違和感を覚えて、葵は「お前」と声をかける。
「どうやって俺を運んだんだ? お前じゃムリだろ……、体格的にも……車も無いし……」
「樹さんに手伝ってもらいました」
また樹。もう嫌だ。何故そう思うのか判らない。判らないから、何も言えなかった。そうこうしているうちに、「行って来ますね」とヒュウガは出て行く。
しん、とした自室に一人。頭はガンガンするし、熱でクラクラしているし。今何時だ、と携帯を探し、画面を見て驚いた。もうとっくに日付は変わって、1月7日の昼過ぎになっている。仕事、と思ったが、メールが入っている事に気づく。どうやらヒュウガが勝手に携帯から職場に連絡を入れたらしい。回復するまで休め、だそうだ。それですっかり力が抜けてしまった。
もう、本当に散々だ。神社に祭られてた奴は何をしてるんだ、百円も奮発してやったのに。さっさとなんとか、平穏な日々を戻してほしい。そう考えながら、葵は目を閉じた。
「お兄ちゃん、大好き!」
Fの姿が見えた。まだ幼いFの姿。自分もまだまだ小さい体で、一生懸命、Fに手を伸ばしている。
「僕、いつかお兄ちゃんみたいになるよ!」
Fは優しく笑って、頭を撫でてくれる。その温もりが好きで、葵は兄と一緒に過ごす時間が幸せでたまらなかった。
「お兄ちゃんみたいな、ダメな子になってはいけないわよ、葵」
母は冷たくそう言った。
「Fは本当にどうして、何も出来ないの。本当にダメな子」
母はFに向かって、いつもそう叱責した。
大好きな兄が否定される度に、葵の心は冷たくなっていく。
大好きなものを否定されるのは、辛い。とても辛い。葵はその時、それを覚えた。
なら、好きになんてならないほうが、よっぽどマシだ。
兄の事は、好きなんかじゃない。そう思うと楽になれた。兄と同じ道を辿ってはいけないと、結果を出し続けた。その度、兄は叱られた。葵は出来る子なのに、全くFときたら、と。
好きじゃない。好きじゃないから、何を言われても、知らない。何も思うところが無ければ、何も感じない。その筈だ。だから何も考えない。
ヒュウガがまた、メソメソ泣いている。でも側に居てやったのは、泣かれているのが鬱陶しいからだ。
宇佐美さんが悲しんでいる。でも付き合ったのは、これ以上ドツボにハマられたら、後味が悪いからだ。
好きだからじゃない。
――何故?
本当に他人を何とも思っていないなら、放っておけばいいのに。
ヒュウガが泣いているのを見るのは、嫌だ。知らない所で泣いているのはもっと嫌だ。だから側に居てやった。アイツには俺が必要だったから。
なのに、ヒョウガにはもう、俺は必要無い、らしい。
「先輩、買って来ましたよ」
ヒュウガの声で目が覚める。いつの間にか側に彼が居た。サイドボードにスポーツドリンクが置かれている。
「食欲無いでしょうけど、何か食べますか? 体力付けないと……」
「……ヒュウガ……」
「はい?」
「俺、もう要らないか……?」
ヒュウガがきょとんとしたので、葵は「もう、お前には、俺は必要無いか?」と聞き直す。するとヒュウガは苦笑して、「何を弱気になってるんですか」と優しく頬を撫でてきた。
「先輩は今までも、これからも、大切で掛け替えのない人ですよ。少なくとも、僕にとっては」
「でも、でもよ……」
「恋人が出来たって、それは変わりませんよ。僕にとって先輩は大事な友達です」
「いや、いやそれは違う、それは困る。お前と俺は友達なんかじゃない」
「どうしてですか、どうしてそんなに意固地になってるんですか」
「だって」
だってそうだろう、俺なんかと友達なんて、そんなのはいけない。
口をついて出た言葉に、葵は戸惑った。俺は一体、何を言っているんだろう?
「何でそんな事言うんです……」
「だって、だってそうじゃないか、俺は人として大事なモノの欠けたクズなんだよ、判るだろ、ダメなんだ、人を愛せないんだ。そんなクズに、お、お前らみたいに、ちゃんとした心を持った人間は、釣り合わない、だから、だから友人なんかであっちゃ、ダメなんだ」
「……先輩……」
「それに、それに好きになっちゃダメなんだ、好きになったら、沢山辛い事が有る、だったらいっそ、好きにならないほうがマシだって、そう思って、だから……」
感情が迸って止まらない。言いたい事が山ほど有った。そうだよ、俺はヒュウガの事も、宇佐美さんの事も、兄さんの事も好きなんだ、好きになっちゃいけないのに、いけないのに、好きで好きでたまらないんだ。
「でも先輩……好きになる事は、誰にも止められないです。そこからは逃げられないですよ、仕方ないんです」
ヒュウガが子供をあやすように、優しく髪を撫でてくる。生意気な、と普段なら思うだろうに、その時はとても心地良くて、もっと撫でてほしいとさえ思った。心が弱りきっていたのかもしれない。
「僕もこんな性格だから、本当に人を好きになるのって怖くて……でも、好きな気持ちだけは、どうやっても止められなくて。だから、先輩の側に居続けたし……だからね、先輩。人を好きになる事を恐れても、仕方ないんですよ。確かに、好き合えなかったり、傷付いたりもすると思うけど、でもきっと、好きな事に気づかないより、もっと素敵な事だと思うんです」
「……生意気ばかり、言って……お前どうしちゃったんだよ、ホント……」
「……樹さんと会って、僕ちょっと、変わったかもしれないですね」
ちょっとどころじゃない。いつも俺の後ろでオドオドしてたお前は何処に行ったんだ。いや、いい、これ以上俺の前でメソメソしないなら、まだいい、いや、よくない、だってそれじゃ俺、もうお前には要らないし。
ヒュウガは苦笑して、布団越しにぎゅうと抱きしめてきた。
「もう、先輩また。あのね、僕、先輩の事が大好きなんですよ。だから何処にも行ったりしないし、要らないなんてそんなわけないです。ずっとずっと先輩とも一緒に居ますよ。ね、だから泣かないで。今先輩は、熱で心が弱っちゃってるだけです」
僕も宇佐美さんも、きっとお兄さんも、先輩の事が大好きですよ。きっと先輩のそういう、色んな気持ちやムリも、何処からか伝わってると思うんです。だから大丈夫、怖くないです、寂しくもないですよ。
ヒュウガの声が遠くなる。寂しくなんかない、寂しくなんか。ただ、本が上手く読めないだけだ。だから、一緒に居てくれた方がいい。それだけだ。
また眠っていたらしい。ふと目を覚まして、葵はヒュウガの姿を探した。そして死ぬほど驚いて、飛び起きた。
ベッドの側に、貴俊が座っていたからだ。
「わあ! あ、葵さん、ダメだよ、急に起きちゃ」
「な、なな、何で宇佐美さんが、ここ、に……」
そう言いながらも、重力に引かれてクタリと布団に戻る。まだ全く回復していない。それほど時間が経っていないのか、よほどすごい風邪なのか。よく判らないが、今回ばかりは逃げる事も出来そうにない。
「だ、大丈夫、何もしないから。ただ、看病しに来ただけで……」
「だから、何で、ここに……住所知らないでしょう」
「後輩さんが教えてくれたんだよ。葵さんの携帯からメールくれて。熱が出て弱ってるから、会ってやったほうがいいって……」
ヒュウガあの野郎、後で絶対シメる。
そう心に誓ったが、とにかく今の葵は無力だった。本当に身動きするのさえ辛い。もういい、どうにでもなれ。そう観念したが、貴俊は優しく布団をかけ直すだけだ。
「ほら、昨日の夜、様子がおかしかったから心配してたんだ。コートはあのまま置いて行っちゃうし、探しても見つからないし。一月なのに、雨の中、傘もコートも無しで帰るなんて無茶だよ」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
「だ、だから誤解だよ、葵さん。本当に酔い潰れてたから、休む所を探したら、あそこが近くに有ったから……。葵さん、呼んでも起きないし、俺は雨に濡れてたから、とりあえずシャワーしてただけだし……」
「……何で濡れてたんです? 傘、持ってたじゃないですか」
「いやホラ……葵さんをこう、支えながら歩いて、濡れないようにと思ったら、ちょっと……傘が狭いんで、せめて葵さんだけでも濡れないようにと思って……」
その様子を想像して、葵はようやっと理解した。葵に肩を貸した状態で運んだとして(いい年の男をおんぶしたとは考えたくない)、葵に傘を傾ければ、当然、反対側の肩は濡れるはずだ。酔っていたからか、それとも既に熱でも出ていたのか、あるいは偏見の目で居たか。いずれにしろ、葵はようやく自分の勘違いを認めた。
すると同時に、申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
「……その……すいません……色々……」
「あ、いや、大丈夫、気にしてないよ。あ、コート、ここに掛けておいたから」
貴俊が壁にかかったコートを指差して言う。そうして簡単に話を打ち切ろうとした事に、葵はまた困惑した。
「気にしてないって……普通、気にするでしょう、だって誤解したとはいえ、酷い事もいっぱい言いましたよ」
「ああ……うん。正直言われた後、しばらくは色々考えちゃったけど」
でもさ。貴俊は苦笑して、葵を見る。
「あれは半分、葵さんの本音だったろうと思うけど、半分はたぶん、嘘だろうなって思ったんだ。もしかしたら、自分でも嘘だとは思ってないのかもしれないけど。だってホラ、本当に俺の事、ホモで気持ち悪くて、ただの客とだけ思っているなら、友人から、なんて妥協案はそもそも出なかったと思うし、あんな風に付き合ってくれたりしなかったと思うんだ。だからきっと、葵さんは嘘を吐いてるんじゃないかなって思った。……正直、この間そんな風に勘違いして、痛い目を見たばっかりだから、自信は無いんだけどね」
というわけで、出来れば本当の事を教えてほしいんだ。貴俊は真剣な表情で、葵を見つめている。
「葵さんが本当に、俺をただの客として見ているなら、この関係は終わらせたほうがいいと思う。今まで散々お世話になっておいて言うのも気が引けるけど、きっとこのまま続けても、葵さんの迷惑にしかならないから。俺にはもうあまりお金も無いしね。……だから、ハッキリ、言って欲しい」
「……」
「……あ、別に今じゃなくても、熱が高いし、無理はしないで」
貴俊がようやく思い出したように、慌てて付け足す。それをぼうっと見ながら、葵は少し考えた。
考えた、つもりだったが、どうにも上手くまとまらない。頭はボウッとして、それでいて重りでも乗っているように重くて痛いし、視界は少し歪んでいるし。体は熱いし、でも寒いし。思考を妨害するものが有りすぎて、葵は考えるのを止めた。
だから、思いつくままに、言う。
「……私は、宇佐美さんの事が、嫌いではありません……」
「……え……」
「おっしゃる通り、嫌いならこんなに一緒に居なかったと思います。むしろ、好意を持っていたのかもしれません。正直に言いますと、私は最初から宇佐美さんが、例の女性に対して勘違いをしているのだろうと思っていました。それで貴方が傷付くだろう事も理解した上で、それを止めず……その事を気にしていました。だからきっと、私は貴方の事が好きなのだと思います。自分で考えている以上に」
「じゃ、じゃあ……」
「その上で、私は貴方の恋人どころか、友人にもふさわしくありません。貴方に優しくしたのは、店の利益の為、そして自分が後味の思いをしたくない為。貴方を思っての事ではありません。私にはそういう人情的な物が欠けているし……、そのくせ、自分が誰を好きなのかも判らない、バカです。だから、貴方にふさわしくない」
貴俊はそれを聞いて、しばらく悲しげな表情をしていた。何も言わずに自分の手の平や天井を見たりして、それから言う。
「ふさわしいとかそうじゃないとか、どうでもいいって言ったの、葵さんじゃないか。それに葵さんが、そういう人情が無いとは、俺は思わないよ。売上だけ上げたいなら、俺に何でもいくらでも買わせれば良かった。あの時の俺が有頂天だったの、葵さんだって判ってただろう? 口車に乗って、何でもしたと思うよ。でも、葵さんはそうしなかった。それは葵さんの中に、ポリシーっていうか……何かが有ったから、だよね、たぶん。だからその事を負い目に思う事は全然無いよ。俺は葵さんの事が好きだし」
「私の本性は、先日垣間見たでしょう? あんな男がお望みなんですか……?」
「そう……かもしれない、じゃないかもしれない。上手く言えないけど、葵さんの事、もっともっと知りたいんだ。それで、もっともっと好きになりたい。そりゃ、いいと思えるところだけじゃないと思うよ、判ってる。あんな……あんな男らしい葵さん、想像した事なくて、そりゃビックリした。でも、それでも知りたいって思う。そしてきっと、色んな所を含めて、改めて葵さんと一緒に居たいって思うんだ」
何より、葵さんに心から笑って欲しいんだ。
貴俊はそう言って、一度黙った。葵を見ている。言葉を待っているようだった。けれど、葵は何と言っていいか判らない。
しばらく部屋に沈黙が満ちた。自分の鼓動の音と、熱のせいで大きくなっている呼吸の音だけが聞こえる。何を言うか、考えているのに、そういう音が思考を奪って行くようだった。貴俊は根気強く黙って待っていたが、やがて一つ溜息を吐いて、立ち上がる。
帰るのかと思った。だが貴俊はそのまま、カーテンが閉まったままの窓へ。そしてそっとカーテンを開いた。長い間開いていなかったカーテンは埃を溜めこんでいたらしい。窓から差し込んだ夕日の光で、貴俊の顔が橙に染まっている。その側をいくつか埃の塊が落ちて行くのが見えたが、何しろ熱で働いていない頭には、妙に綺麗に見えた。
「……俺さ、農家の三男で。兄ちゃん二人は、俺と違って本当に頭が良くてさ。ずっと見下されてきたんだ。農業なんてバカがやる仕事だって、出て行ったし。親父の農業を継ぐのはバカの仕事って言われて。まあ、それで素直にそうしちゃう俺、本当にバカなんだと思うけどさ」
それで、何年か前に親父が死んでさ。遺産相続ってなって。兄ちゃん達と仲良く現金3等分するには、畑を売らなきゃいけなかったんだよね。ご先祖様から受け継いでさ、親父と一緒に作った畑は、あっという間にコンクリートで固められて、でっかい駐車場付きのコンビニになってさ。親父と暮らした家は潰されて、綺麗なアパートになってさ。判るよ、俺と親父がどんだけ頑張ったって、あの畑で年間100万円だって稼げやしないんだ。兄ちゃん達のほうが正しいって判ってるよ。金銭的な面ではね。でもさ……でもさ、すごく悔しかった。
貴俊の表情は暗かった。葵はそれが妙に心配になって、のろのろと布団から手を出す。そっと手を伸ばしてみると、気付いた貴俊が苦笑して、その手を握った。そしてまた、側に腰かける。カーテンはそのままだったから、部屋は橙色に染まっていた。
「それで俺、本当に何もかも嫌になって、しばらく荒れてたよ。一日中パチンコやったりさ。でもここで負けたら、本当に俺と親父のして来た事、ムダになっちまうって。残ってた金で、田舎の畑と空き家を借りてさ、やっと調子が戻って来たんだ。でも流石に人間不信になってたから、彼女に出会って、ようやく人が信じられる気がして。で、たぶん信じすぎちゃったんだな。でもそのショックで、また落ちるのを、葵さんが止めてくれた。本当に感謝してるんだ。だからもし、こんな俺が葵さんの役に立てるならって思う。葵さんに心から笑って欲しいって思うんだ。……だから、その……」
「……そんな目に合ったのに、貴方はそんなにも優しいんですね……」
「お、俺は、優しくはないよ、ちょっとバカなだけさ」
「いいえ……貴方は本当に素晴らしい物を持っていると思います。誰がなんと言ったって」
誰がなんと言ったって。お兄ちゃんは、ずっと僕の大好きな、憧れのお兄ちゃん。
あぁ、たったその一言が思えたら、言えたら。こんな遠回りをする事も、無かったのに。
「……バカなのは私の方です。簡単な事も見えない。どうやら私には、それを教えてくれる人が必要みたいです……。私で、いいんですか」
「! も、もちろん! 葵さんが、いいんだ」
そう嬉しそうに言うのが、何とも愛らしい。だから葵は微笑んでしまった。
そうだ。彼に対しては最初から、作ってもないのに、微笑みが漏れていた。
「……では……恋人として、お付き合い、ですね……」
「えっ」
「……えっ?」
貴俊が意外そうな声を上げたので、葵は眉を寄せた。
「嫌なんですか?」
「い、いや、いやいや、すごく嬉しい、嬉しいけど、てっきりその、友達からやり直すのかなって」
「まどろっこしいのは面倒なので……」
「で、でも葵さん、丁寧語のままだし……」
「そ、それはその……私はその、宇佐美さんとはずっとこうして話してきましたし、その方が自然と言うか、その、そうでない話し方をするのは、少し……違和感が有ると言うか……恥ずかしいというか……」
顔が熱くなるのを感じた。全く、急に人間らしい反応をし始めて、手に負えない。あるいは、あんまり話し過ぎたから、熱が上がりでもしたのかもしれないが。
貴俊は一瞬きょとんとして、それからまた嬉しそうな顔をした。
その優しい表情が、やはり、兄に似ている。大好きだった兄に。
いや、今でも大好きな兄、だ。ずっとそれに向き合わなかっただけで。今からでも間に合うだろうか、兄とやり直す事が出来るだろうか。ヒュウガを友人として愛してやれるだろうか。そして、貴俊と愛し合う事が出来るだろうか。
何もかも判らない。不安だらけだったが、不思議と先日まで抱えていた、心のモヤモヤとしたものは、何処かに行ってしまったようだった。
「……じゃあ、キス、していい?」
「ダメです」
「えっ!?」
「熱出てますし。風邪が移ったら大変ですから」
心底残念そうな顔をした貴俊に、優しく「また、治ったら」と言って、葵はまた眠る事にした。
ふいに目を覚ますと、そこには見慣れた自室の天井と、ヒュウガの顔が有った。
「ヒュウガ、お前、もう来るなって……」
怒鳴るつもりだったのに、出たのはか細い声だけで、葵は困惑した。彼はベッドに寝間着姿で押し込まれてていて、額には濡れタオルが乗せられていた。
「虫の報せ、ですよ先輩。一昨日から様子、おかしかったですし。様子を見に来たら、バスルームでぐったりしてるんですもん。病院に連れて行ったら、ただの風邪だって。お野菜食べないからですよ、ホント。今年の風邪はすごいって言ったじゃないですか」
「うるさい、いいから出て行け、お前の顔なんか見たくもない」
「どうしてそういう嘘吐くんです。大体、その熱じゃ、一人では居られませんよ。ホラ、良い子で寝てて」
「お前……お前、本当に、生意気になりやがって……」
「良い子にしてるんですよ、判りましたね? それじゃあ、スポーツドリンク買って来ますね」
そう言って立ち去ろうとするヒュウガに何か違和感を覚えて、葵は「お前」と声をかける。
「どうやって俺を運んだんだ? お前じゃムリだろ……、体格的にも……車も無いし……」
「樹さんに手伝ってもらいました」
また樹。もう嫌だ。何故そう思うのか判らない。判らないから、何も言えなかった。そうこうしているうちに、「行って来ますね」とヒュウガは出て行く。
しん、とした自室に一人。頭はガンガンするし、熱でクラクラしているし。今何時だ、と携帯を探し、画面を見て驚いた。もうとっくに日付は変わって、1月7日の昼過ぎになっている。仕事、と思ったが、メールが入っている事に気づく。どうやらヒュウガが勝手に携帯から職場に連絡を入れたらしい。回復するまで休め、だそうだ。それですっかり力が抜けてしまった。
もう、本当に散々だ。神社に祭られてた奴は何をしてるんだ、百円も奮発してやったのに。さっさとなんとか、平穏な日々を戻してほしい。そう考えながら、葵は目を閉じた。
「お兄ちゃん、大好き!」
Fの姿が見えた。まだ幼いFの姿。自分もまだまだ小さい体で、一生懸命、Fに手を伸ばしている。
「僕、いつかお兄ちゃんみたいになるよ!」
Fは優しく笑って、頭を撫でてくれる。その温もりが好きで、葵は兄と一緒に過ごす時間が幸せでたまらなかった。
「お兄ちゃんみたいな、ダメな子になってはいけないわよ、葵」
母は冷たくそう言った。
「Fは本当にどうして、何も出来ないの。本当にダメな子」
母はFに向かって、いつもそう叱責した。
大好きな兄が否定される度に、葵の心は冷たくなっていく。
大好きなものを否定されるのは、辛い。とても辛い。葵はその時、それを覚えた。
なら、好きになんてならないほうが、よっぽどマシだ。
兄の事は、好きなんかじゃない。そう思うと楽になれた。兄と同じ道を辿ってはいけないと、結果を出し続けた。その度、兄は叱られた。葵は出来る子なのに、全くFときたら、と。
好きじゃない。好きじゃないから、何を言われても、知らない。何も思うところが無ければ、何も感じない。その筈だ。だから何も考えない。
ヒュウガがまた、メソメソ泣いている。でも側に居てやったのは、泣かれているのが鬱陶しいからだ。
宇佐美さんが悲しんでいる。でも付き合ったのは、これ以上ドツボにハマられたら、後味が悪いからだ。
好きだからじゃない。
――何故?
本当に他人を何とも思っていないなら、放っておけばいいのに。
ヒュウガが泣いているのを見るのは、嫌だ。知らない所で泣いているのはもっと嫌だ。だから側に居てやった。アイツには俺が必要だったから。
なのに、ヒョウガにはもう、俺は必要無い、らしい。
「先輩、買って来ましたよ」
ヒュウガの声で目が覚める。いつの間にか側に彼が居た。サイドボードにスポーツドリンクが置かれている。
「食欲無いでしょうけど、何か食べますか? 体力付けないと……」
「……ヒュウガ……」
「はい?」
「俺、もう要らないか……?」
ヒュウガがきょとんとしたので、葵は「もう、お前には、俺は必要無いか?」と聞き直す。するとヒュウガは苦笑して、「何を弱気になってるんですか」と優しく頬を撫でてきた。
「先輩は今までも、これからも、大切で掛け替えのない人ですよ。少なくとも、僕にとっては」
「でも、でもよ……」
「恋人が出来たって、それは変わりませんよ。僕にとって先輩は大事な友達です」
「いや、いやそれは違う、それは困る。お前と俺は友達なんかじゃない」
「どうしてですか、どうしてそんなに意固地になってるんですか」
「だって」
だってそうだろう、俺なんかと友達なんて、そんなのはいけない。
口をついて出た言葉に、葵は戸惑った。俺は一体、何を言っているんだろう?
「何でそんな事言うんです……」
「だって、だってそうじゃないか、俺は人として大事なモノの欠けたクズなんだよ、判るだろ、ダメなんだ、人を愛せないんだ。そんなクズに、お、お前らみたいに、ちゃんとした心を持った人間は、釣り合わない、だから、だから友人なんかであっちゃ、ダメなんだ」
「……先輩……」
「それに、それに好きになっちゃダメなんだ、好きになったら、沢山辛い事が有る、だったらいっそ、好きにならないほうがマシだって、そう思って、だから……」
感情が迸って止まらない。言いたい事が山ほど有った。そうだよ、俺はヒュウガの事も、宇佐美さんの事も、兄さんの事も好きなんだ、好きになっちゃいけないのに、いけないのに、好きで好きでたまらないんだ。
「でも先輩……好きになる事は、誰にも止められないです。そこからは逃げられないですよ、仕方ないんです」
ヒュウガが子供をあやすように、優しく髪を撫でてくる。生意気な、と普段なら思うだろうに、その時はとても心地良くて、もっと撫でてほしいとさえ思った。心が弱りきっていたのかもしれない。
「僕もこんな性格だから、本当に人を好きになるのって怖くて……でも、好きな気持ちだけは、どうやっても止められなくて。だから、先輩の側に居続けたし……だからね、先輩。人を好きになる事を恐れても、仕方ないんですよ。確かに、好き合えなかったり、傷付いたりもすると思うけど、でもきっと、好きな事に気づかないより、もっと素敵な事だと思うんです」
「……生意気ばかり、言って……お前どうしちゃったんだよ、ホント……」
「……樹さんと会って、僕ちょっと、変わったかもしれないですね」
ちょっとどころじゃない。いつも俺の後ろでオドオドしてたお前は何処に行ったんだ。いや、いい、これ以上俺の前でメソメソしないなら、まだいい、いや、よくない、だってそれじゃ俺、もうお前には要らないし。
ヒュウガは苦笑して、布団越しにぎゅうと抱きしめてきた。
「もう、先輩また。あのね、僕、先輩の事が大好きなんですよ。だから何処にも行ったりしないし、要らないなんてそんなわけないです。ずっとずっと先輩とも一緒に居ますよ。ね、だから泣かないで。今先輩は、熱で心が弱っちゃってるだけです」
僕も宇佐美さんも、きっとお兄さんも、先輩の事が大好きですよ。きっと先輩のそういう、色んな気持ちやムリも、何処からか伝わってると思うんです。だから大丈夫、怖くないです、寂しくもないですよ。
ヒュウガの声が遠くなる。寂しくなんかない、寂しくなんか。ただ、本が上手く読めないだけだ。だから、一緒に居てくれた方がいい。それだけだ。
また眠っていたらしい。ふと目を覚まして、葵はヒュウガの姿を探した。そして死ぬほど驚いて、飛び起きた。
ベッドの側に、貴俊が座っていたからだ。
「わあ! あ、葵さん、ダメだよ、急に起きちゃ」
「な、なな、何で宇佐美さんが、ここ、に……」
そう言いながらも、重力に引かれてクタリと布団に戻る。まだ全く回復していない。それほど時間が経っていないのか、よほどすごい風邪なのか。よく判らないが、今回ばかりは逃げる事も出来そうにない。
「だ、大丈夫、何もしないから。ただ、看病しに来ただけで……」
「だから、何で、ここに……住所知らないでしょう」
「後輩さんが教えてくれたんだよ。葵さんの携帯からメールくれて。熱が出て弱ってるから、会ってやったほうがいいって……」
ヒュウガあの野郎、後で絶対シメる。
そう心に誓ったが、とにかく今の葵は無力だった。本当に身動きするのさえ辛い。もういい、どうにでもなれ。そう観念したが、貴俊は優しく布団をかけ直すだけだ。
「ほら、昨日の夜、様子がおかしかったから心配してたんだ。コートはあのまま置いて行っちゃうし、探しても見つからないし。一月なのに、雨の中、傘もコートも無しで帰るなんて無茶だよ」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
「だ、だから誤解だよ、葵さん。本当に酔い潰れてたから、休む所を探したら、あそこが近くに有ったから……。葵さん、呼んでも起きないし、俺は雨に濡れてたから、とりあえずシャワーしてただけだし……」
「……何で濡れてたんです? 傘、持ってたじゃないですか」
「いやホラ……葵さんをこう、支えながら歩いて、濡れないようにと思ったら、ちょっと……傘が狭いんで、せめて葵さんだけでも濡れないようにと思って……」
その様子を想像して、葵はようやっと理解した。葵に肩を貸した状態で運んだとして(いい年の男をおんぶしたとは考えたくない)、葵に傘を傾ければ、当然、反対側の肩は濡れるはずだ。酔っていたからか、それとも既に熱でも出ていたのか、あるいは偏見の目で居たか。いずれにしろ、葵はようやく自分の勘違いを認めた。
すると同時に、申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
「……その……すいません……色々……」
「あ、いや、大丈夫、気にしてないよ。あ、コート、ここに掛けておいたから」
貴俊が壁にかかったコートを指差して言う。そうして簡単に話を打ち切ろうとした事に、葵はまた困惑した。
「気にしてないって……普通、気にするでしょう、だって誤解したとはいえ、酷い事もいっぱい言いましたよ」
「ああ……うん。正直言われた後、しばらくは色々考えちゃったけど」
でもさ。貴俊は苦笑して、葵を見る。
「あれは半分、葵さんの本音だったろうと思うけど、半分はたぶん、嘘だろうなって思ったんだ。もしかしたら、自分でも嘘だとは思ってないのかもしれないけど。だってホラ、本当に俺の事、ホモで気持ち悪くて、ただの客とだけ思っているなら、友人から、なんて妥協案はそもそも出なかったと思うし、あんな風に付き合ってくれたりしなかったと思うんだ。だからきっと、葵さんは嘘を吐いてるんじゃないかなって思った。……正直、この間そんな風に勘違いして、痛い目を見たばっかりだから、自信は無いんだけどね」
というわけで、出来れば本当の事を教えてほしいんだ。貴俊は真剣な表情で、葵を見つめている。
「葵さんが本当に、俺をただの客として見ているなら、この関係は終わらせたほうがいいと思う。今まで散々お世話になっておいて言うのも気が引けるけど、きっとこのまま続けても、葵さんの迷惑にしかならないから。俺にはもうあまりお金も無いしね。……だから、ハッキリ、言って欲しい」
「……」
「……あ、別に今じゃなくても、熱が高いし、無理はしないで」
貴俊がようやく思い出したように、慌てて付け足す。それをぼうっと見ながら、葵は少し考えた。
考えた、つもりだったが、どうにも上手くまとまらない。頭はボウッとして、それでいて重りでも乗っているように重くて痛いし、視界は少し歪んでいるし。体は熱いし、でも寒いし。思考を妨害するものが有りすぎて、葵は考えるのを止めた。
だから、思いつくままに、言う。
「……私は、宇佐美さんの事が、嫌いではありません……」
「……え……」
「おっしゃる通り、嫌いならこんなに一緒に居なかったと思います。むしろ、好意を持っていたのかもしれません。正直に言いますと、私は最初から宇佐美さんが、例の女性に対して勘違いをしているのだろうと思っていました。それで貴方が傷付くだろう事も理解した上で、それを止めず……その事を気にしていました。だからきっと、私は貴方の事が好きなのだと思います。自分で考えている以上に」
「じゃ、じゃあ……」
「その上で、私は貴方の恋人どころか、友人にもふさわしくありません。貴方に優しくしたのは、店の利益の為、そして自分が後味の思いをしたくない為。貴方を思っての事ではありません。私にはそういう人情的な物が欠けているし……、そのくせ、自分が誰を好きなのかも判らない、バカです。だから、貴方にふさわしくない」
貴俊はそれを聞いて、しばらく悲しげな表情をしていた。何も言わずに自分の手の平や天井を見たりして、それから言う。
「ふさわしいとかそうじゃないとか、どうでもいいって言ったの、葵さんじゃないか。それに葵さんが、そういう人情が無いとは、俺は思わないよ。売上だけ上げたいなら、俺に何でもいくらでも買わせれば良かった。あの時の俺が有頂天だったの、葵さんだって判ってただろう? 口車に乗って、何でもしたと思うよ。でも、葵さんはそうしなかった。それは葵さんの中に、ポリシーっていうか……何かが有ったから、だよね、たぶん。だからその事を負い目に思う事は全然無いよ。俺は葵さんの事が好きだし」
「私の本性は、先日垣間見たでしょう? あんな男がお望みなんですか……?」
「そう……かもしれない、じゃないかもしれない。上手く言えないけど、葵さんの事、もっともっと知りたいんだ。それで、もっともっと好きになりたい。そりゃ、いいと思えるところだけじゃないと思うよ、判ってる。あんな……あんな男らしい葵さん、想像した事なくて、そりゃビックリした。でも、それでも知りたいって思う。そしてきっと、色んな所を含めて、改めて葵さんと一緒に居たいって思うんだ」
何より、葵さんに心から笑って欲しいんだ。
貴俊はそう言って、一度黙った。葵を見ている。言葉を待っているようだった。けれど、葵は何と言っていいか判らない。
しばらく部屋に沈黙が満ちた。自分の鼓動の音と、熱のせいで大きくなっている呼吸の音だけが聞こえる。何を言うか、考えているのに、そういう音が思考を奪って行くようだった。貴俊は根気強く黙って待っていたが、やがて一つ溜息を吐いて、立ち上がる。
帰るのかと思った。だが貴俊はそのまま、カーテンが閉まったままの窓へ。そしてそっとカーテンを開いた。長い間開いていなかったカーテンは埃を溜めこんでいたらしい。窓から差し込んだ夕日の光で、貴俊の顔が橙に染まっている。その側をいくつか埃の塊が落ちて行くのが見えたが、何しろ熱で働いていない頭には、妙に綺麗に見えた。
「……俺さ、農家の三男で。兄ちゃん二人は、俺と違って本当に頭が良くてさ。ずっと見下されてきたんだ。農業なんてバカがやる仕事だって、出て行ったし。親父の農業を継ぐのはバカの仕事って言われて。まあ、それで素直にそうしちゃう俺、本当にバカなんだと思うけどさ」
それで、何年か前に親父が死んでさ。遺産相続ってなって。兄ちゃん達と仲良く現金3等分するには、畑を売らなきゃいけなかったんだよね。ご先祖様から受け継いでさ、親父と一緒に作った畑は、あっという間にコンクリートで固められて、でっかい駐車場付きのコンビニになってさ。親父と暮らした家は潰されて、綺麗なアパートになってさ。判るよ、俺と親父がどんだけ頑張ったって、あの畑で年間100万円だって稼げやしないんだ。兄ちゃん達のほうが正しいって判ってるよ。金銭的な面ではね。でもさ……でもさ、すごく悔しかった。
貴俊の表情は暗かった。葵はそれが妙に心配になって、のろのろと布団から手を出す。そっと手を伸ばしてみると、気付いた貴俊が苦笑して、その手を握った。そしてまた、側に腰かける。カーテンはそのままだったから、部屋は橙色に染まっていた。
「それで俺、本当に何もかも嫌になって、しばらく荒れてたよ。一日中パチンコやったりさ。でもここで負けたら、本当に俺と親父のして来た事、ムダになっちまうって。残ってた金で、田舎の畑と空き家を借りてさ、やっと調子が戻って来たんだ。でも流石に人間不信になってたから、彼女に出会って、ようやく人が信じられる気がして。で、たぶん信じすぎちゃったんだな。でもそのショックで、また落ちるのを、葵さんが止めてくれた。本当に感謝してるんだ。だからもし、こんな俺が葵さんの役に立てるならって思う。葵さんに心から笑って欲しいって思うんだ。……だから、その……」
「……そんな目に合ったのに、貴方はそんなにも優しいんですね……」
「お、俺は、優しくはないよ、ちょっとバカなだけさ」
「いいえ……貴方は本当に素晴らしい物を持っていると思います。誰がなんと言ったって」
誰がなんと言ったって。お兄ちゃんは、ずっと僕の大好きな、憧れのお兄ちゃん。
あぁ、たったその一言が思えたら、言えたら。こんな遠回りをする事も、無かったのに。
「……バカなのは私の方です。簡単な事も見えない。どうやら私には、それを教えてくれる人が必要みたいです……。私で、いいんですか」
「! も、もちろん! 葵さんが、いいんだ」
そう嬉しそうに言うのが、何とも愛らしい。だから葵は微笑んでしまった。
そうだ。彼に対しては最初から、作ってもないのに、微笑みが漏れていた。
「……では……恋人として、お付き合い、ですね……」
「えっ」
「……えっ?」
貴俊が意外そうな声を上げたので、葵は眉を寄せた。
「嫌なんですか?」
「い、いや、いやいや、すごく嬉しい、嬉しいけど、てっきりその、友達からやり直すのかなって」
「まどろっこしいのは面倒なので……」
「で、でも葵さん、丁寧語のままだし……」
「そ、それはその……私はその、宇佐美さんとはずっとこうして話してきましたし、その方が自然と言うか、その、そうでない話し方をするのは、少し……違和感が有ると言うか……恥ずかしいというか……」
顔が熱くなるのを感じた。全く、急に人間らしい反応をし始めて、手に負えない。あるいは、あんまり話し過ぎたから、熱が上がりでもしたのかもしれないが。
貴俊は一瞬きょとんとして、それからまた嬉しそうな顔をした。
その優しい表情が、やはり、兄に似ている。大好きだった兄に。
いや、今でも大好きな兄、だ。ずっとそれに向き合わなかっただけで。今からでも間に合うだろうか、兄とやり直す事が出来るだろうか。ヒュウガを友人として愛してやれるだろうか。そして、貴俊と愛し合う事が出来るだろうか。
何もかも判らない。不安だらけだったが、不思議と先日まで抱えていた、心のモヤモヤとしたものは、何処かに行ってしまったようだった。
「……じゃあ、キス、していい?」
「ダメです」
「えっ!?」
「熱出てますし。風邪が移ったら大変ですから」
心底残念そうな顔をした貴俊に、優しく「また、治ったら」と言って、葵はまた眠る事にした。
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二人とも変態。永遠の中二病。
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