その10
診療所に戻ると、永尾さんが座っていた。
「よっす、先生」
「あっ、な、永尾さん、何の用ですか……!?」
「んにゃ、ちょっと打撲が痛んでさ。なんてーの? ウシって魔法使い(物理)だからさあ、相手するの痛くって痛くって……」
「……やっぱり永尾さんが、タヌキ、だったんですね。よくもあんな酷い嘘を……」
「ははっ、まあタヌキは人を化かすのが本性ってね。……俺の事、診察するのは嫌かい、先生」
そう笑顔のまま言われる。俺は少し考えて、一つ溜息を吐くと、診ましょう、と返事をした。
打撲が痛い、とは言われても対処法はあまり無い。とりあえず折れたりなどしていない事を確認すると、湿布を貼ってやる。痛がったが、多少は痛い目をみて欲しいような気もした。
「あててて……まったく、ウシもすんげぇ怒ってるし、あのシカの野郎まで来やがるし、ホントに大変だったんだぜ」
「……」
「……先生も怒ってる、よな?」
判り切ってるだろうに、問うてくるのは何故なのか。
「そりゃあ、騙されて犯されかかったんですから、多少思う所は有りますよ」
「でも治療してくれるんだ。……っててて! 先生、痛い」
「ちょっと我慢して下さい。私は医者ですから、患者は診ますよ、そりゃあ」
「いてて……ならさ、俺も魔法使いなんだよ。しかも佐久間と誓いをした、俺は佐久間……昴を裏切れねえ。だから、先生を捕まえなきゃいけなかった。……でも、これでも悪い事したとは思ってるんだぜ?」
「でも、キツネ君まで殺そうとしたじゃないですか」
「ありゃ方便だよ。キツネなんかの魔力を食っても、そうメリットが有るわけでもないし。昴からもらっておいて、後はテキトーに逃がしてやろうと思ってたさ。キツネにだって譲れねえ理由が有ったんだろ、化けて自分が犯されてでも先生を逃がそうとしたんだ。別に憎いとは思わねえさ。人殺しなんて俺もしたくなかったし」
「……本当に、ですか?」
「はは、まあ腹黒タヌキの言う事だ、信じるか信じないかは先生に任せるさ」
永尾さんは本当に、いつも通り笑う。俺は溜息をついた。永尾さんはタヌキだ。一度はまんまと騙された。大嘘吐きだという事も知っている。だけど、疑ったって仕方が無いじゃないか。信じる以外に、何が出来ると言うのだろう。永尾さんの事は好きだった。タヌキとしての永尾さんと、いつもの永尾さん、どっちが彼の本当の姿なのかは判らない。判らないが、キツネ君の事も考えると、きっとどちらも永尾さんなんだろう。その葛藤の中で生きてたりするのかもしれない。
「ところで先生。魔法使いは正体を隠して生活してる。シカの野郎ぐらい判りやすいのは稀だ。あんな気持ち悪いの抱きたいとも思わないが、バレたら他の魔法使いに何をされるか判らんから、普通は隠してる。だから俺の正体も秘密にしておいてくれよ」
「……他意は無く?」
「あっはっは、疑われるなあ。大丈夫、もう先生を騙す理由は無いさ。少なくとも、今はな」
「……まあ、……なら、いいですけど」
また一つ溜息を吐いて、永尾さんの服を元に戻す。「いや、少し楽になったよ先生」と永尾さんが笑いながら服を正す。打撲の事かと思ったが、どうもそれだけではないようだった。
「先生って本当にいい人だなあ」
「はあ……そうですかね」
「先生もお医者なら判るだろ、誰にも言えない秘密が有るってのは、それなりにしんどい事なんだ。まして俺達魔法使いは、ごく親しい、本当に信頼できる人ぐらいにしか打ち明けられない。まして魔法使いの姿で悪行三昧なんかやっちまった日には……絶対にバレちゃいけない。……先生は俺の、そういう秘密を知ってるんだぜ。利用だって出来るだろうに」
「そんな事しませんよ。俺が悪者になるのも嫌だし、永尾さんとは出来る事なら、今までどおりのお付き合いがしたいですし、俺のほうはそれでいいと思ってるんですから」
「ははは、だから先生はいい人なんだ。キツネが惚れる理由も判るってもんだな」
事情を詳しくは知らないだろうが、永尾さんから見ても、キツネ君の行動原理はそう見えるらしい。それについてはこれ以上語らない事にした。御子だった事と同じで、だんまりを決め込む事にする。
永尾さんがタヌキだろうと関係無い、少なくとも、永尾さんがそれ以前の関係を望むなら。
「あ、そうだ。先生、コレ」
永尾さんが白いハンカチに包まれた何かを手渡してくる。恐る恐る開いてみると、中にはあの、魔法使い避けの指輪が入っていた。
「コレ……」
「いやあ、そいつは効いたわ。流石に御子選びが終わった今となっちゃ、威力もかなり落ちてるけど、まあ先生の持ち物だと指輪の方がまだ思ってるらしい。ちいと魔力が残ってるんだ。拾うの怖かったぜ」
「まだ魔力が残ってるんですか……どれどれ」
えい、と永尾さんに指輪を引っ付けてみたけれど、彼は「あーピリピリして気持ち悪い……」と言う程度で、吹っ飛びも悲鳴も上げはしなかった。
「なんていうの、あの、軽めの静電気が起きてるぐらいの、痛いほどじゃないんだけど、あーピリピリ……みたいな……ほら……」
「あー、言いたい事は判ります」
語彙力に少し問題は有るけれど、大体判った気がする。「じゃあ、ありがたく」と指輪を受け取り、ハンカチを返す。その時に、なんとなく、そのハンカチは永尾さんの趣味の物ではない気がして、じゃあ誰の、と考えたら、あのイケメン村長なんじゃないか、と思う。手触りもいいし、刺繍も入っているし。
「あ、そういえば……佐久間さん、どうなりました? 俺、夢中で落としちゃいましたけど……」
今更心配になって聞いてみたけど、「ああ、大丈夫」と永尾さんは笑う。
「昴はあれでまあ、タフだから。あとあれでいて爽やかな奴だから。先生の事を恨んだりはしてないさ、早速次の御子探しに御執心だから、心配要らないよ」
いきなり襲って落とした相手を恨まないなんて、イケメンだ。いや、俺もそもそもあの人に尻を狙われていたんだっけ。お互い様、という事にして、ともかく無事だそうだから安心した。
「俺とアイツは幼馴染だけど」
永尾さんがポツリと呟く。
「アイツの為に悪い事ばっかりしてるから、俺の正体は知られたくない、だからアイツにも秘密なんだ。アイツも綺麗な事だけで村長やってるわけじゃない、アイツだって、俺に何をやってるかは知られたくないんだろう。永尾伸幸には何も明かさない、ただの昔ながらの親友、さ」
だから、こうして秘密を打ち明けられるのは、少し、怖いけど、少し嬉しい。
永尾さんはそう、俯いて言った。なるほど、魔法使い達も、色々と苦労をしているようだ。まあ魔法使いでなくたって、オンオフの切り替えは有る。昔の友達とは昔の楽しい話をしたい、そんなのも有る。だから、考え過ぎじゃないですか、と言おうかと思ったが、止めておいた。きっとこれは、魔法使い達の悩みなんだろうから。
七月に入って一週間が経った。つまり今日は七夕だ。織姫と彦星が出会ってる夜に、お願い事なんてするもんじゃないと思う。それでも村中で笹飾りは作られたし、この山の中は明かりが少なくて、天の川が綺麗に見えた。だから俺は縁側で、ぼうっと空を見上げていた。
村長はまた佐久間さんになったらしい。キツネ君が隠したりしなければ、御子はあっという間に見つかる。誰が御子だったのかは知らないが、またあのイケメンは御子を食べたんだろう。ふっと永尾さんの顔を思い出したけれど、それ以上は考えない事にした。向こうの事は、向こうで解決するべき事だ。そしてこっちにはこっちのするべき事がある。
スゥっと。キツネ君が現れたのはその時だ。夜に来るのは珍しい。「やあ、もう風邪は大丈夫かい?」と問えば、『橘様のおかげで』といつも通りの返事。それが少しおかしくて、笑ってしまった。
『何か……』
「いや、キツネ君の時には、キツネ君なんだなあって」
『そ、それは、万が一他の方に見られていたら、まずいですし……』
「うんうん、そうだね。上がるかい?」
そう言って自宅の方の玄関を開けると、キツネ君は少々うろたえた後で、おじゃましますと素直に入って来た。
まあ俺の家は綺麗なわけでもないし、かといってゴミ屋敷ってわけでもない感じだ。散らかっていないわけでも無いが、不潔なほどではない……と思いたい。それと万が一そういう事になった時の為にと思って、寝室ぐらいは綺麗にしておいた。尤も、寝る時以外には行かない部屋だから、元々そう散らかっていたわけでもないんだが。
とりあえず茶の間に通して、お茶など出してみたが、キツネ君は緊張したように正座したままで動かない。「何か考えてる?」と尋ねると『とても言えません』と答える。「とても言えないような事を考えているんだ……」と呟くとキツネ君はまた困ったように俯いてしまった。
しばらくの沈黙。カチコチという時計の針の音だけが部屋に響く。テレビでもつけたほうがいいかな、と考えていると、突然キツネ君が『僕を抱いて下さいッ!』と叫んだ。随分情熱的だ。
「キツネ君」
『わ、私を、先生の×××で、××して、~~ぶち犯して下さいッ!』
「き、キツネ君、とりあえず落ち着こう、落ち着こうか?」
全くどこでそんな事を覚えているんだか、某大型掲示板にでも入り浸ってるんだろうか。ね、落ち着いて、ほら、油揚げでも食べて、と油揚げを出すと、彼は仮面をバッと外して、むしゃむしゃ食べた。泣きそうな顔をしながら食べている。
「ぼ、僕は、本気です……っ」
「う、うん、でも楓君、君たぶん、言ってる事の意味判らないまま言ってるよね」
「うう……でもでも先生……ッ」
「わかってる、判ってるよ、君の気持ちが本気だってのは十分判ってる、だからちょっと落ち着こうね?」
物事には順序ってものが有るからね、ね? と言って聞かせると、赤い衣も無くなってすっかりいつもの楓君になった彼は、また泣き出しそうな顔で俯いた。
「ぼ、僕、何をすればいいのか、判らなくて……」
「うんうん、じゃあ、まず、手を繋ごうか?」
「せ、先生と、ですかっ?」
「手も繋げないんじゃ、他の何も出来ないよ。ほら」
そっと手を差し出すと、おずおず楓君も手を出してくる。が、握ろうとはしないので、先に握ってみた。楓君は一瞬ビクッと逃げそうになったが、そのまま大人しくしている。なんだろう、この、小動物と接する感じは。脅かさないように、怖がらせないように、そっとそっと、触れて行く。
「それで、とりあえず、ハグをしようか」
「は、はい、……っ覚悟は、いいです……っ」
そんなに緊張するような事でも無いのに。そう思いつつ、そうっと抱きしめてみる。改めて、楓君の身体は細くて、俺よりずっと小さい。まだ若い子に大変な事をさせてしまったんだなあ、と思いつつ、頭を撫でてみた。世間に慣れていないせいか、楓君は歳の割に少し子供っぽいところがあるような気がする。こうして頭を撫でられるのも、嫌ではないようだし。
楓君は顔を真っ赤にしたまま、されるがままだった。キスしようか、と声をかけると、ぎゅっと抱きついて来て、頷くだけで返事をする。ああ、これは大変だ。なんて初心なんだろう。こっちまで恥ずかしくなってくる。ぎゅうぎゅう胸に顔を埋めているものだから、こんな状態じゃあキスは出来ない。少しだけ身体を離させて、そっと顎に手をかける。優しく上を向かせると、楓君は何故だか涙ぐんでいて、とてつもなく緊張している様子だった。
だから、そんな風にされると、俺の方もなんだか困っちゃうじゃないか。そう思いつつ、ゆっくりと、優しく、唇を重ねる。変な言葉は知ってる癖に、キスの仕方も知らないらしい楓君は、唇もきゅっと引き結んだままだったし、苦しげに眉を寄せているし、呼吸は止めているし。息しようか? と離れて提案して、コクコク頷くのを確認してもう一度口付けたが、やはり息は止めていた。
このままでは楓君が酸欠で倒れてしまうほうが早い。とりあえずキスの仕方を教えるのは、今後の課題にしておこう。要約して抱いて欲しいと言っていたが、こんな調子で最後まで出来るのかどうか。「今日は前戯だけにしておくかい?」と尋ねてみたが、「先生にブッ込んでもらえないと帰れません」と謎の決意が固い。困ったものだ。いや別に下品な物言いは、俺だって男だから引いたりはしないが、普段が初心で大人しく丁寧な子がいきなり単語単語で変な事になると、若干テンションが下がる。いい加減変な物の見すぎだと思った。
このまま事を進めて、「らめぇ」とかそういう今流行りの喘ぎ声なんか上げたりしないだろうか。不安になりながら、楓君の身体を開いていく。
全く、決意が固いものだから、何をされたって止めたいとも嫌だとも言わない。服を脱がせて、身体を見ても、恥ずかしそうに身を捩るばっかりで、予想に反して声の一つも出さない。押し殺したような吐息が時折漏れるばかりで、それは逆に妙にそそる。若い身体は白くて細い。そうだ魔法使いっていうのは、こういう、線の細い色白で、永尾さんだって十分「魔法使い(物理)」の類だ。そうっとなぞるように指で身体を撫でる度に、楓君は小さく身体を震わせて、最終的に恥ずかしそうにまた俺の胸に顔を埋めた。
「……楓君、ええと、もちろん判ってると思うけど、これから俺は……」
「僕のケツに……ナニをぶちこむんですよね……」
「……あー……うん、まあそうなんだけど、……うん、いやまあいいや。その前に指で慣らさないと、かなり痛いというか、危ないから、……ちょっと足を開いてもらえるかな?」
優しく言うと、楓君がおずおず脚を開く。俺は医者だ。そうでなくても男の尻に指を突っ込んで強引に射精させる仕事もした事が有る。いわばプロだ。だから時間をかけずに事を済ますなら、楓君を横向きに寝かせて、尻を出させて指を押し込みぐいぐい押せばいいのは判っている。でもそれは雰囲気が欠片も無い。たまにこの医療スイッチが入ったままの時が有って、随分怒られたものだった。
雰囲気が欠片も無いという点では楓君の言動も十分無い。だからせめて俺の方が、いいムードを作っていかなくちゃいけない。勤めて優しく、ただし医者にはならないように、楓君の身体を安心させるように撫でながら、ゆっくりと事を進めて行った。
大体の位置も判っているし、でもただ射精させたいわけでもないわけだから、愛撫をする事を意識して、楓君の胎内に指をそっと侵入させる。彼は少し眉を寄せて、苦しげに息を吐いたが、そのまま俺に縋りついて何も言わない。そういえば佐久間さんに途中まではされてたんだっけ、と思い出しつつ、ゆっくりと指を動かす。佐久間さんも百戦錬磨のような気がするから、あの時の行為を思い出させなければいいのだけれど。
前立腺を探し出すのは簡単で、そっと何度か撫でていると、楓君が熱い息を吐き出した。よしよし、怖くないからね、と撫でてやりながら、ゆっくりと快感を目覚めさせていく。多少過保護なぐらいのほうがいい、何しろ相手は初めてなんだから。
一度されているせいか、楓君の身体は思ったよりも早く開いていった。時折彼が何か言おうと口を開いて、またきゅっと唇を閉める。何か予定していたおねだりでも有るんだろうか、いやたぶん結構下品な事を言おうとしているんだろう、なら黙っておいてもらったほうが都合が良い。雰囲気の有る性行為についてはおいおい指導していく事にして、今は黙らせておけばいい。幸い、声を押し殺そうとしているのか、言葉どころか喘ぎさえも漏れて来ない。
三本目が入ると、楓君は流石に辛そうにしていたけれど、「止める?」と尋ねても首を横に振るばかりなので、もう最後までするしかないんだろう。それに、楓君も気持ち良くはなっているらしい、彼の身体が熱を持っているから、ここで止めるのも辛いだろう。本当は後ろから入れる方が気持ち良いし、姿勢が楽なんだけれど、やはり恋人との初めての行為という事で有れば、多少無理はしても正常位の方が雰囲気が有るだろう。
何度も「大丈夫?」と確認して、楓君の反応を見る。楓君は何も言わないで、ただコクコク頷くばかりだ。まあ痛ければ意思に関係無く悲鳴も出る。逆に言えば声が漏れるほどは気持ち良くなれて無いのかもしれないが。
極めて優しく、ゆっくりと、楓君の身体を慣らしていく。声こそ出さなかったが、彼も気持ち良くはなれているらしかった。だいぶ解れてきたし、そろそろ大丈夫かな、と様子を窺う。
「楓君、もう大丈夫? ……入っても、いい……?」
優しく尋ねてみると、楓君はコクコク頷く。極力紳士で事を進めてきたが、俺のほうもそろそろ限界だ。指を引き抜くと、それだけで楓君がビクッと震えたが、そのままゴムを付けた俺自身を宛がう。
楓君は一瞬俺のを見て、それから驚いたように目を丸め、そしてギュッと目を閉じた。初めてだし、そりゃ怖いよなあ、と思う。だからって止めたりは、今更出来ないんだけど。
ぐっ、と楓君の中に押し入る。楓君は小さな呻き声を上げて、息を止めている。そんな緊張状態では俺もキツい。「楓君、息、吐こう、ほら」と頭を撫でてやると、安心でもするのか、少し力が抜ける。いい子だね、と囁きながら再び侵入すると、また力が入る。だから撫でる。何度か繰り返して、ようやく全てが収まりきった。
全部入ったよ、と教えてやれば、楓君は涙の零れる顔を真っ赤にする。そうすると、キュン、と内部が締め付けられる。ああ、この子はもしかして恥ずかしいのとか好きなんだろうか。まあ、性格的にM寄りなのは間違いなさそうだけど。もっと慣れてきたら、色々してあげようか。今はこれだけで制一杯だけど。
「……せん、せ……」
「うん?」
「せんせい、……すき、です……」
小さな声でそう呟く。そんな事は重々承知だ。たぶん、好きで好きでたまらないんだろう。それをずっと我慢して、隠してきたんだろう。
「俺も楓君の事が好きだよ」
耳元で囁くと、楓君が震えて、また内部が動く。もう大丈夫かな、と軽く動いてみると、楓君は一度「あっ」と甲高い声をもらして、それで、たまらないといった様子で俺に手を伸ばしてくる。だから抱きしめてあげた。楓君の身体は熱くて、俺にしがみついて震えている。なんてかわいい存在だろう。初めてだし、後ろはまだ苦しいだけかもしれないから、そっと楓君の前に触れてみる。そこは少し力を失っているけど、それでも熱は持っていた。なんとも愛らしい身体だ。
優しく扱いてやると、楓君がしがみついたまま、耳元で熱い息を漏らす。「せんせ、」と舌っ足らずに呼ばれるのがたまらない。何故だか名前を呼ばれるより、よほどキた。
「……楓君、動いていい?」
耳元で、尋ねるというより確認すると、楓君は少し震えて、それから小さく頷いた。それがとても愛らしい。「いい子だね」と囁きながらゆっくり身体を動かすと、楓君は涙をポロポロ零しながらしがみついてくる。
流石に後ろでイくなんて芸当は出来ないだろうし、そっと前もいじめてやると、きゅうきゅう締め付けて来てもっていかれそうになる。楓君は必死に声を押し殺して俺に抱きついている。あぁ、かわいい。この存在が愛しくて仕方ない。
ぐいぐいと扱きあげながら腰を揺らせば、耐えられなくなったのか甲高い声をもらす。「せんせ、も……っ」と聞こえた。だから、「うん、いいよ」とそれだけ返して、楓君の先端をぐにぐに撫でる。ひっ、と小さく息を飲んで、そのまま楓君はビクビクと精を吐き出す。その締め付けに俺も溜まらず射精して、それでくったりと、二人して布団に横たわった。
「先生、お願いが有るんです……」
セックスの後の、心地良い眠気にうとうとしていると、抱いていた楓君が呟く。なあに、と耳元で返すと、彼はおずおずと「先生のところで、働きたいんです」と言う。
「働くって……」
「僕、先生のお役に立ちたいんです……看護の知識は有りませんけど、雑用でもいいので……お願い出来ませんか……」
「それは、いいけど、お給金は難しいかも……」
「お給料なんていりません、僕、とにかく、働きたいんです」
聞けば、ずっと要らない子として存在していた彼は、彼なりに役に立つ方法を考えたらしい。でも事情を知っている人間は僅かだし、給料はどうでもいいから、とにかく自分も働けると言う事を確認したいのだという。
言ってみればリハビリだ。
「……でも楓君の姿じゃムリだよね?」
「そこは、ふさわしい姿に変化して行きます。……だから」
「……うん、判った。ちょうど、一人じゃ結構キツいなって思ってたところなんだ。……ほら、本家のキツネ君も、そうして社会復帰してたみたいだし。……一緒に頑張ろうか、楓君」
「……はいっ、よろしく、お願いします……!」
楓君が笑顔を浮かべた。ああ、こんな愛らしい笑顔を浮かべる子なんだ。この子がこうして笑えるようになるなら、手を貸してあげたい。そう思った。
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