私が何故 D×Bが妥当じゃないかと思ったのか
が判るような気がする回
そういえば日付が入ってないですね……どうしよ
が判るような気がする回
そういえば日付が入ってないですね……どうしよ
「すいません、えっと、Bさん、でしたよね」
店に来るなり一直線に自分の所へやって来たのが誰か、Bは声を聞くまで判らなかった。
以前髪留めを買って行った農夫だ、と判る。判るが、彼の風体はあまりにも変わっていた。皮のジャケットに、真新しいジーンズ、皮靴、髪はサッパリと切って、少しだけ茶色に染めている。表情は柔らかく、優しい眼は相変わらず。こうして見ると、顔立ちは整っている。
どうしたんですか、今更電車男でも読んだんですか。
そう聞きそうになるのをグッと堪えて、「ああ」とほほ笑んだ。
「以前、クローバーの髪留めをお買い上げいただいた」
「そう、そうです、Aです。あ、俺、Aって言います」
聞いてもいないのに、名乗られた。すぐにそれを記憶する。名前を覚えている事は、ポイントが高い。
「A様、先日はお買い上げありがとうございます。雰囲気がお変わりになりましたか?」
「あはは……ちょっとおめかししちゃった」
はにかむ顔も、どことなく愛らしい。「よくお似合いですよ」と特に嘘ではない言葉を紡ぐと、Aは「そ、そうかなぁ、まだ自信が無くって」と頭を掻く。
「いやさ、その……髪留め、渡したら、すごく喜んでくれて……あんなに喜んでもらえるならって、うん、それで、うん、ちょっと彼女が一緒に居ても恥ずかしくないように、しようかなって、ハハハ」
「喜んで頂けたんですね、良かったです」
「そりゃもう! それで俺も、これはイケる! って思って……服とか靴とか買っちゃってさ。お金も無いのに……ああいや、最近は便利だよね、ネット通販に上から下まで全部セットってのが有ってさ。それで揃えてみたんだけど。髪はなんか……知り合いの美容師さんにしてもらって。いや、今でも何となく落ち着かないんだ、こんな若い格好、した事無いから」
「大丈夫、良くお似合いですから。正直に申し上げますと、一瞬A様と判らなかったぐらいですが、着こなしてらっしゃるからこそ、だと思います」
「そ、そうかな、そうかなあ」
Aは嬉しいやら恥ずかしいやら、といった様子で顔を赤らめている。それをやはり複雑な心境で眺めていると、「あ、そうだ」とA。
「またプレゼントしたいんだ。その……彼女の喜んでる顔、また、見たくて」
「左様でございますか……本日は何か、お決めになられている事などは?」
「うん、こないだプレゼントしたばっかりだし、あんまり高い物だと引かれちゃうよね? だからちょっとした物で……あ、でもピアスとかは無し、かな。ほら、やっぱり体に穴を空けるって、考えただけで痛いじゃない?」
「ピアスは付ける方と付けない方で、ハッキリ別れますしね。ちなみに、お相手様は……」
「付けてないんだ」
「でしたら、避けた方が良いでしょうね……」
ざっと店内を見回して、考えを巡らせる。どうしたものか、としばらく考えて、とりあえず提案してみた。
「ブレスレットはいかがでしょうか。この辺りの商品だと、軽くてあまり動きを制限致しませんし、普段付けていらっしゃらなくても、違和感無く使っていただけるかと」
「ブレスレットか……」
「あとは……そうですね、ネックレスなども……」
「……Bさん、Bさんがつけてるのは?」
「えっ?」
そう言われてBはAの見ている先に目をやる。Bの左手首に付けられたブレスレットを見ているのだ。
「あぁ……これですか? これはブレスレットの一種ですね。一応、当店に取り扱ってる物ですが……」
「それがいいなぁ」
そう言われてBは改めてブレスレットを見る。銀色の細身のそれはシンプルな物で、男でも女でも使えそうなデザインだ。逆にいえば地味、なわけで。Bが付けているそれを欲しがる客もたまには居たが、それは大体女性から男性に送る場合の物だった。
「こちらでよろしい……のですか? もう少し女性らしいデザインの物も、ございますが……」
「いやあ……それがいい。細い腕によく似合ってるなぁって思う。いいなぁ……」
ああ、と思う。恐らく、彼の思い人も腕が細いのだろう。Bの腕を通して、彼女の事を見ているのだ。
「……そうですね、こちらならお値段も……。少々お待ち下さい、ご用意致しますから。あ、こちらにお掛けになって」
カウンター前の椅子に促して、ブレスレットを用意する。改めて商品を確認してもらってから、箱に詰め、プレゼント用の包装をしていると、Aが話しかけてくる。
「しかしなんだね、Bさんは親切だね」
「とんでもございません」
「それに美人だし、細いし、かっこいいし、優しいし」
「……恐縮です、ありがとうございます」
「彼女も本当は、Bさんみたいな人が良いかなあ?」
そう言われて、Bは顔を上げる。AはBではなく、店の壁に貼られたポスターを見ていた。エンゲージリングのポスターだ。それをぼんやりと眺めている。
「俺はオシャレも知らないし、そう見た目が良いわけでもないし、貧乏だしさ。そう良い人ってわけでもない。農家なんて不安定な暮らしだし、……仮にその時が来たって、幸せにしてあげられる自信は無いしさ。彼女にはふさわしくないんじゃないか、って」
「A様、お言葉ですが、貴方はお相手様を喜ばせようと、心からお考えです。相手の事を、思っていらっしゃる。まず大切なのは、その気持ちが通じ合う事だと思います。そしてお相手の方も、A様からの贈り物を喜んでいたのでしたら、その事実が大切なのだと私は考えます。それに、A様はとても素敵な方だと思いますよ」
何故だかスラスラとセリフが出た。本心なのかどうか自分でもよく判らない。AはBを見て、困ったように笑うと、
「俺も、Bさんは素敵な人だと思う」
と、何故か返された。
+
「先輩、そのお客さんの事、好きなんですか?」
泊まりたい、と言って寄せ鍋の用意をして来たから、Dと鍋を食べている時だ。その話をしたら、Dがそう言った。
Bが顔を顰めて「何言ってる」と切り捨てると、Dは鍋の中を探りながら言う。
「人として好意を持ってるのかって聞いて……あ、同性愛的な意味じゃないですよ? まあ僕は仮に先輩がそうだったとしても着いて行きますけど」
「馬鹿言え。どっちも無い」
生意気言う奴には肉はやらん、と盛大に肉を取ると、「あー! 僕が買ってきたのに!」とD。
「だって先輩が仕事の話するなんて、珍しいじゃないですか。だから、良い事有ったのかな? って思って……」
「お前と一緒にするな。大体、それでどうして好意なんて話になる。変な客だ、って、ただそれだけの話じゃないか。いいか、俺は人を好きになったりせん。男だろうと、女だろうとだ。あとついでに言っておくが、俺はホモじゃない」
「気にしてた」
「気にしてない」
そっけなく言って、肉を貪る。が、気にしていないわけではなかった。
以前は女とも、男とも付き合った事が有る。どれもあちらが望んで仕方なく受け入れ、あちらが望んで別れた。それに何の感慨も無い。若い頃は特に心と体が一致しないのか、女なら条件反射で抱けもしたが、流石に男とは肉体関係にも至らなかった。どちらにしても、恋人という肩書で居られた時間はあまりに短かったが。
『君の心は何処に有るの? 誰を見ているの?』
そう言えば、付き合っていた男が別れ際に、そんな事を言っていた。
『本当は誰を見ているから、そんなにも心を守っているの?』
意味が判らない。自分は誰も見ていないし、好きでもないし、守りに入っているわけでもない。当時のBはそうはねのけたし、今でもそう思っている。
ただ、少々気になってはいる。きっかけは、この田舎町に左遷された事だ。
ちょっとした優等生だったと思う。この町を出て、名の知れた大学に行き、今のアクセサリー店の本社に入った。成績も良かった。社員との仲も、悪かったようには思わない。
それなのに、この生まれ育った町の、寂れた商店街に有る支店へ飛ばされる事になった。何故ですか、と尋ねると、初老の上司がほほ笑んで答えた。
『君はいつも、何を見て、何処に心を置いているのかね? そう頑なになられては、後々お互いに問題が出る。……少し、探しておいで、本当は自分が何を守ろうとしているのか』
意味が判らない。そう思った。初めて挫折したように感じて、最初は上司を恨んでみた。恨み憎む事が非常に疲れるだけの行為だと判って止めた時に、ようやっと、彼らに言われた事の意味を考える。
(まるで俺が何かから眼をそらして、逃げているみたいじゃないか)
そう思う。だが自分では、そんなつもりはないのだ。だから判らない。判らない、という事にして、また逃げているだけかもしれないが。
「……お前の方はどうなんだ?」
思考を断ち切るように話しかけてみると、Dはきょとんとした顔をする。
「何がです?」
「会社の同僚と、だよ。前に言ってたろう」
「ああ、Cさんの事です?」
Dが人の名前を出すのも珍しい。Bは何とも微妙な気持ちになるのを感じながら、「そう、そいつ」と続きを促す。するとDは嬉しそうに言った。
「今度、コンサートに連れて行ってくれるんです」
「ほう、コンサート。何のだ?」
「え、えっと……その、ロックバンド、の……」
「へえ、意外だな」
まあ大人しい奴がクラシックばっかり聞いてるってわけでもないか。そう呟くと、Dは頷く。
「確かに僕、そういうのも好きですけど、でも、ロックも結構好きで……今度近くの街でコンサートが有るって知ってたから、行きたくって……でも、僕小心者だし、ああいうところって、若くて賑やかな子が多そうだし、1人で行くのは怖くて、どうしようかと思ってたら……Cさんも同じロックバンドが好きで!」
「それで、一緒に行こう、か。渡りに船って奴か? ちょっと出来過ぎじゃないか、そいつ信用出来るんだろうな?」
「え……Cさんは、とっても良い人ですよ? オシャレで、背も高くて、かっこよくて、優しくて……」
ちょっと先輩に似てます……と、うっとりした様子でそう言うものだから、Bはからかうつもりで「お前こそ、そのCが好きなホモなんじゃないか?」と言った。するとDは一瞬きょとんとした後で、真っ赤になって反論してくる。
「そっ、そんなんじゃ! そんなんじゃないです! Cさんは本当に良い人で、ぼ、僕みたいなのにも、優しくしてくれる、本当に素敵な人なんです、だから、そ、そんなのは……そんなんじゃないです……」
その様子が何もか肯定していたが、Bはそれ以上つっこまなかった。理由は様々、まだ食事が終わっていなかったのと、面倒になったのと、……それとほんの少し、ムカムカしてきたこと。
(何を怒る事が有る、Dが誰とどうしてどうなろうと、俺の知った事じゃない)
そう思いながら、またごっそり肉を口に入れる。「お野菜も食べなきゃ、風邪引いちゃいますよ」というDの言葉に、さらにAの事まで思いださされ、Bは無言でDの肉を奪い取った。
店に来るなり一直線に自分の所へやって来たのが誰か、Bは声を聞くまで判らなかった。
以前髪留めを買って行った農夫だ、と判る。判るが、彼の風体はあまりにも変わっていた。皮のジャケットに、真新しいジーンズ、皮靴、髪はサッパリと切って、少しだけ茶色に染めている。表情は柔らかく、優しい眼は相変わらず。こうして見ると、顔立ちは整っている。
どうしたんですか、今更電車男でも読んだんですか。
そう聞きそうになるのをグッと堪えて、「ああ」とほほ笑んだ。
「以前、クローバーの髪留めをお買い上げいただいた」
「そう、そうです、Aです。あ、俺、Aって言います」
聞いてもいないのに、名乗られた。すぐにそれを記憶する。名前を覚えている事は、ポイントが高い。
「A様、先日はお買い上げありがとうございます。雰囲気がお変わりになりましたか?」
「あはは……ちょっとおめかししちゃった」
はにかむ顔も、どことなく愛らしい。「よくお似合いですよ」と特に嘘ではない言葉を紡ぐと、Aは「そ、そうかなぁ、まだ自信が無くって」と頭を掻く。
「いやさ、その……髪留め、渡したら、すごく喜んでくれて……あんなに喜んでもらえるならって、うん、それで、うん、ちょっと彼女が一緒に居ても恥ずかしくないように、しようかなって、ハハハ」
「喜んで頂けたんですね、良かったです」
「そりゃもう! それで俺も、これはイケる! って思って……服とか靴とか買っちゃってさ。お金も無いのに……ああいや、最近は便利だよね、ネット通販に上から下まで全部セットってのが有ってさ。それで揃えてみたんだけど。髪はなんか……知り合いの美容師さんにしてもらって。いや、今でも何となく落ち着かないんだ、こんな若い格好、した事無いから」
「大丈夫、良くお似合いですから。正直に申し上げますと、一瞬A様と判らなかったぐらいですが、着こなしてらっしゃるからこそ、だと思います」
「そ、そうかな、そうかなあ」
Aは嬉しいやら恥ずかしいやら、といった様子で顔を赤らめている。それをやはり複雑な心境で眺めていると、「あ、そうだ」とA。
「またプレゼントしたいんだ。その……彼女の喜んでる顔、また、見たくて」
「左様でございますか……本日は何か、お決めになられている事などは?」
「うん、こないだプレゼントしたばっかりだし、あんまり高い物だと引かれちゃうよね? だからちょっとした物で……あ、でもピアスとかは無し、かな。ほら、やっぱり体に穴を空けるって、考えただけで痛いじゃない?」
「ピアスは付ける方と付けない方で、ハッキリ別れますしね。ちなみに、お相手様は……」
「付けてないんだ」
「でしたら、避けた方が良いでしょうね……」
ざっと店内を見回して、考えを巡らせる。どうしたものか、としばらく考えて、とりあえず提案してみた。
「ブレスレットはいかがでしょうか。この辺りの商品だと、軽くてあまり動きを制限致しませんし、普段付けていらっしゃらなくても、違和感無く使っていただけるかと」
「ブレスレットか……」
「あとは……そうですね、ネックレスなども……」
「……Bさん、Bさんがつけてるのは?」
「えっ?」
そう言われてBはAの見ている先に目をやる。Bの左手首に付けられたブレスレットを見ているのだ。
「あぁ……これですか? これはブレスレットの一種ですね。一応、当店に取り扱ってる物ですが……」
「それがいいなぁ」
そう言われてBは改めてブレスレットを見る。銀色の細身のそれはシンプルな物で、男でも女でも使えそうなデザインだ。逆にいえば地味、なわけで。Bが付けているそれを欲しがる客もたまには居たが、それは大体女性から男性に送る場合の物だった。
「こちらでよろしい……のですか? もう少し女性らしいデザインの物も、ございますが……」
「いやあ……それがいい。細い腕によく似合ってるなぁって思う。いいなぁ……」
ああ、と思う。恐らく、彼の思い人も腕が細いのだろう。Bの腕を通して、彼女の事を見ているのだ。
「……そうですね、こちらならお値段も……。少々お待ち下さい、ご用意致しますから。あ、こちらにお掛けになって」
カウンター前の椅子に促して、ブレスレットを用意する。改めて商品を確認してもらってから、箱に詰め、プレゼント用の包装をしていると、Aが話しかけてくる。
「しかしなんだね、Bさんは親切だね」
「とんでもございません」
「それに美人だし、細いし、かっこいいし、優しいし」
「……恐縮です、ありがとうございます」
「彼女も本当は、Bさんみたいな人が良いかなあ?」
そう言われて、Bは顔を上げる。AはBではなく、店の壁に貼られたポスターを見ていた。エンゲージリングのポスターだ。それをぼんやりと眺めている。
「俺はオシャレも知らないし、そう見た目が良いわけでもないし、貧乏だしさ。そう良い人ってわけでもない。農家なんて不安定な暮らしだし、……仮にその時が来たって、幸せにしてあげられる自信は無いしさ。彼女にはふさわしくないんじゃないか、って」
「A様、お言葉ですが、貴方はお相手様を喜ばせようと、心からお考えです。相手の事を、思っていらっしゃる。まず大切なのは、その気持ちが通じ合う事だと思います。そしてお相手の方も、A様からの贈り物を喜んでいたのでしたら、その事実が大切なのだと私は考えます。それに、A様はとても素敵な方だと思いますよ」
何故だかスラスラとセリフが出た。本心なのかどうか自分でもよく判らない。AはBを見て、困ったように笑うと、
「俺も、Bさんは素敵な人だと思う」
と、何故か返された。
+
「先輩、そのお客さんの事、好きなんですか?」
泊まりたい、と言って寄せ鍋の用意をして来たから、Dと鍋を食べている時だ。その話をしたら、Dがそう言った。
Bが顔を顰めて「何言ってる」と切り捨てると、Dは鍋の中を探りながら言う。
「人として好意を持ってるのかって聞いて……あ、同性愛的な意味じゃないですよ? まあ僕は仮に先輩がそうだったとしても着いて行きますけど」
「馬鹿言え。どっちも無い」
生意気言う奴には肉はやらん、と盛大に肉を取ると、「あー! 僕が買ってきたのに!」とD。
「だって先輩が仕事の話するなんて、珍しいじゃないですか。だから、良い事有ったのかな? って思って……」
「お前と一緒にするな。大体、それでどうして好意なんて話になる。変な客だ、って、ただそれだけの話じゃないか。いいか、俺は人を好きになったりせん。男だろうと、女だろうとだ。あとついでに言っておくが、俺はホモじゃない」
「気にしてた」
「気にしてない」
そっけなく言って、肉を貪る。が、気にしていないわけではなかった。
以前は女とも、男とも付き合った事が有る。どれもあちらが望んで仕方なく受け入れ、あちらが望んで別れた。それに何の感慨も無い。若い頃は特に心と体が一致しないのか、女なら条件反射で抱けもしたが、流石に男とは肉体関係にも至らなかった。どちらにしても、恋人という肩書で居られた時間はあまりに短かったが。
『君の心は何処に有るの? 誰を見ているの?』
そう言えば、付き合っていた男が別れ際に、そんな事を言っていた。
『本当は誰を見ているから、そんなにも心を守っているの?』
意味が判らない。自分は誰も見ていないし、好きでもないし、守りに入っているわけでもない。当時のBはそうはねのけたし、今でもそう思っている。
ただ、少々気になってはいる。きっかけは、この田舎町に左遷された事だ。
ちょっとした優等生だったと思う。この町を出て、名の知れた大学に行き、今のアクセサリー店の本社に入った。成績も良かった。社員との仲も、悪かったようには思わない。
それなのに、この生まれ育った町の、寂れた商店街に有る支店へ飛ばされる事になった。何故ですか、と尋ねると、初老の上司がほほ笑んで答えた。
『君はいつも、何を見て、何処に心を置いているのかね? そう頑なになられては、後々お互いに問題が出る。……少し、探しておいで、本当は自分が何を守ろうとしているのか』
意味が判らない。そう思った。初めて挫折したように感じて、最初は上司を恨んでみた。恨み憎む事が非常に疲れるだけの行為だと判って止めた時に、ようやっと、彼らに言われた事の意味を考える。
(まるで俺が何かから眼をそらして、逃げているみたいじゃないか)
そう思う。だが自分では、そんなつもりはないのだ。だから判らない。判らない、という事にして、また逃げているだけかもしれないが。
「……お前の方はどうなんだ?」
思考を断ち切るように話しかけてみると、Dはきょとんとした顔をする。
「何がです?」
「会社の同僚と、だよ。前に言ってたろう」
「ああ、Cさんの事です?」
Dが人の名前を出すのも珍しい。Bは何とも微妙な気持ちになるのを感じながら、「そう、そいつ」と続きを促す。するとDは嬉しそうに言った。
「今度、コンサートに連れて行ってくれるんです」
「ほう、コンサート。何のだ?」
「え、えっと……その、ロックバンド、の……」
「へえ、意外だな」
まあ大人しい奴がクラシックばっかり聞いてるってわけでもないか。そう呟くと、Dは頷く。
「確かに僕、そういうのも好きですけど、でも、ロックも結構好きで……今度近くの街でコンサートが有るって知ってたから、行きたくって……でも、僕小心者だし、ああいうところって、若くて賑やかな子が多そうだし、1人で行くのは怖くて、どうしようかと思ってたら……Cさんも同じロックバンドが好きで!」
「それで、一緒に行こう、か。渡りに船って奴か? ちょっと出来過ぎじゃないか、そいつ信用出来るんだろうな?」
「え……Cさんは、とっても良い人ですよ? オシャレで、背も高くて、かっこよくて、優しくて……」
ちょっと先輩に似てます……と、うっとりした様子でそう言うものだから、Bはからかうつもりで「お前こそ、そのCが好きなホモなんじゃないか?」と言った。するとDは一瞬きょとんとした後で、真っ赤になって反論してくる。
「そっ、そんなんじゃ! そんなんじゃないです! Cさんは本当に良い人で、ぼ、僕みたいなのにも、優しくしてくれる、本当に素敵な人なんです、だから、そ、そんなのは……そんなんじゃないです……」
その様子が何もか肯定していたが、Bはそれ以上つっこまなかった。理由は様々、まだ食事が終わっていなかったのと、面倒になったのと、……それとほんの少し、ムカムカしてきたこと。
(何を怒る事が有る、Dが誰とどうしてどうなろうと、俺の知った事じゃない)
そう思いながら、またごっそり肉を口に入れる。「お野菜も食べなきゃ、風邪引いちゃいますよ」というDの言葉に、さらにAの事まで思いださされ、Bは無言でDの肉を奪い取った。
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