終わった!!! とりあえず。
馬岱サイドの後に夏侯覇サイド、とりあえず全滅EDだけど
クロニクルに突入みたいな感じです。
次は現パラかなあ。
超岱でもいいけどw
馬岱サイドの後に夏侯覇サイド、とりあえず全滅EDだけど
クロニクルに突入みたいな感じです。
次は現パラかなあ。
超岱でもいいけどw
黒い。何もかもが。
どんな物も黒い。灰色、とも言える。いずれにせ、世界から色が消えた。水墨画の世界が、眼の前に満ちている。己が筆で描いたものと、同じ世界。何も無い。
風は生温く、匂いは無い。物を食べても不思議と砂のような味しかしない。眠ろうと横になって、一晩中天井を見つめたり、かと思えば落ちるように深く眠ったり。考えるのも億劫でよくぼうっとしていたが、何故だか時折何も無いのに笑った。
皆同じようだった。この国の者達は皆、そうした世界に一人で生きていた。そして終わるのをただただ待っているのだ。悲しみだけが満ちた世界。そこに馬岱は生き残っている。
試みに、従兄や夏侯覇と食べた、肉まんを買った。味はしなかった。ただ熱く、食べにくいだけだ。半分ほど食べて、残りは川に捨てた。魚が啄ばむのをぼうっと見て、ただ時が過ぎるのを待つばかりだった。
+
最後の戦い。皆それを理解していた。今まで北伐を繰り返し、あしらわれてばかりだった蜀に、魏が攻め込んで来たのだ。戦力差は圧倒的、まさに勝てるはずのない戦い。それでも、皆戦い続けるのはやはり、とりつかれているからなのだろう。
戦わずには居られないのだ。そこに、何も無くても。
+
やはり負けた。そもそも勝った事が殆ど無い。それでも、まだ終わらない。こうなれば本拠地である都を、最後の戦場にするしかない。
姜維はそう言うだろう。馬岱もそれに疑問などは無かった。命の限り戦い続けなくてはいけないのだ。皆。
生きて戻るよ。そう兵達に言って、馬を走らせていた。戻って、今度こそ最期になる戦へ、身を投じる。いや、あるいはそれでも死ねないかもしれない。その時はその時だろうが。馬岱はそう考えながら、駆けていた。
どす、と身の内側から音がした。聞いた事の無い音。だから馬岱には、何が起きたのか一瞬判らなかった。え、と声が漏れた直後、続けざまにもう2回。鈍い痛みが背中から全身に焼け広がるようで、ふと己の身体を見ると、胸から矢が生えていた。
え、ともう一度呟く。急速に身体から力が抜け、ぐらりと傾いた。誰かが名を叫んだのも聞こえたが、酷く遠い。熱く焼けるような痛みと共に、凍えるような寒さが全身の自由を奪った。地に溶け落ちるような感覚。目の前がよく見えない。見えているのに、それが何か判らない。世界が斜めに見えて、「落ちる」とそれだけ理解した。
死ぬのって、こんなにアッサリしているもの? あれだけ苦しんだのに。
黒く塗り潰されていく視界。何も判らなくなってきたが、ぼんやりと思う。
あぁ、もしかしたら坊やが、約束を守ってくれたのかもしれない。
そして馬岱は深い闇へと落ちていった。
+++
落ちた、という感覚は無かった。が、仰向けに倒れているのは判る。重い瞼を開くと、眼の前に従兄の顔が有って、馬岱は飛び起きて逃げた。
「ちょ、ちょい若! 近いっ!」
「ようやく眼を覚ましたか。お前が随分起きないものだから、退屈していた」
「退屈って……えっ? 俺、何、夢?」
俺死んだんじゃなかったの? そう問えば、従兄はあっさり「そうだ」と頷く。
「お前は死んだ。夢ではない」
「……って割には、何なのここ? 天の国にしちゃあ、生活感溢れてない?」
そこは街の外れで、随分賑やかな声も聞こえた。道を人々が歩いている。店も有るようだし、飲食している者も見えた。しばらくは従兄の性質の悪い冗談ではないか疑っていたが、ふと何十年も前に死んだ故郷の者達を見つけて絶句した。
「皮肉なものだ。こちらでも生きているのと変わらん。腹は減らんし、身体は傷付かないが、争いは続いている。尤も、有力な者は特に居ないし、誰も本気でやっている気はしないがな。将達があちこちで好き勝手やっている程度だ。おかしな世界としか言いようが無い。極楽浄土とはとても言えないな」
「へ、へぇ……」
馬岱は未だに状況がよく理解出来ないままで、生返事をして頷いた。空は澄み渡っている。見た事も無い鳥がゆっくりと空を飛んでいた。その遥か先には蛇のような何かが飛んでいる。龍、とそう考えて頭を抱えそうになった。現実味が有り過ぎて、理解が出来ない。天の国がこんな場所だという事を、まだ受け入れられていない。
「それに加えて、皆肉体を失って考え方がおかしくなったと見える。お前の寵愛していた青年、彼が動いたのは特に驚くべくもないが、彼の親族だとか仲間だとか、挙句に曹操やその辺りの人間まで立ち上がったのはどう考えてもおかしい。そうじゃないか馬岱」
「な、なんの話なのよ、若」
「お前の話だ」
「俺ぇ?」
思わず自分を指差して言えば、そうだお前だ、と馬超は頷く。
曰く、お前にかかった呪いとやらを解くと、青年を中心に幾人かがこちらの世界を走り回って、遂にそれらしき何かを倒したらしい、結果的に気付けばお前は死んでこちらの世界にやってきた、だとか。
「へ? 俺ホントにそんな呪いとかかかってたの?」
「さあ、知らん」
「知らんって……」
「そもそも、お前の言っていた事だろう。彼はお前の為に親族と、偉そうな奴を叩きのめして行ったんだ。何人の仙人とかそういう類の生き物が犠牲になった事か。尤も、お互いに肉体は無いんだ、嫌がらせにしかならなかったろうがな」
「……約束、守ってくれたんだ」
「散々悔いていたからな、お前を置いて行った事を」
その言い方に、馬岱ははっとする。つまり、馬超はこちらで夏侯覇と話した事になる。
「じゃあ、坊やは? 坊やは何処に居るの、会えるの?」
「ああ、その辺に居るだろう。お前がここに現れてから、随分寝ていたから、待ち呆けて何処かに行ったようだ。……探しに行くか」
思わず立ち上がった。会いたくてたまらなかった。あの笑顔をもう一度見たかった。もう一度あの小さな身体を抱き締めたかった。
馬超を置いて街に走る。人々をかき分けて、その姿を探した。少しすると、明るい髪の青年の後ろ姿を見つけた。
「坊や!」
名を呼ぶと、彼が振り返る。あの日々と変わらない、少し幼い顔立ちが、こちらに向いて、笑顔を浮かべた。
「ちょうど良かった、おっちゃん、肉まん食べる?」
そう言う夏侯覇を、問答無用で抱きしめた。「うわ」と声を上げる夏侯覇を、ぎゅうぎゅう抱きしめた。少ししか経っていない筈なのに、懐かしくてたまらない。周りの事等気にならなかった。
「おっちゃん、あの、……うん、えーと、その、……おはよ、おっちゃん」
ぎゅ、と抱き返されて、それで馬岱は夏侯覇の額に口付けて、おはよう、ありがとうと、呟いた。
酷く、酷く満たされた気持ちだった。
+++
眼が覚めると、眼の前に郭淮が居て。
「かくわ、」
声を出した次の瞬間には、郭淮に抱きしめられていた。
「私は、私は貴方に謝らなければならない」
「かくわい」
「私は沢山の事を間違えました、貴方をどれ程苦しめた事か、貴方に言うべき事が沢山有った、その全てを言えなかった、それでも、許してなどくれないかもしれませんが、それでも言わせて下さい、私は、私はこれでも、これでも貴方を愛していました……!」
「郭淮……」
「何故あんな事をしたのか、私にも判らない、いや本当は判っています、私が弱かったのです。私の弱さが貴方を傷付けた。貴方を……他ならない貴方を」
震える郭淮の声は本当に悲痛で、夏侯覇は眉を寄せた。際限無く謝罪を続けそうな郭淮に、静かに言う。
「郭淮、俺も言ってない事有るよ。言えなかったんだ。俺、郭淮の事好きだった。大好きだったよ、きっと愛してた。でもそれを言えなかったんだ。……今でも、郭淮の事、好きなのは変わんないよ」
そう告げると郭淮は、「夏侯覇殿」と声を詰まらせて、いよいよ強く抱きしめてきた。病弱な割に力は強い。何故だか痛くはないが、それでもぎゅうぎゅうされて自由が無いのは苦しい気がして、「かくわい」と困った声を出したが、それでも放してくれなかった。
「おぉ、息子よ、起きたか! って……郭淮、俺の息子のへし折る気じゃねえだろうな。そろそろ放してやれって」
懐かしい声。そちらを見ると、あの日の父と同じ姿。夏侯覇は茫然として、「とうさん」とそれだけ呟いた。
「おう。見ない間に随分大きくなったな。きっと俺が死んだせいで、お前も苦労したんだろう、郭淮から色々聞いたわ。……お疲れさん」
くしゃり、と頭を撫でられる。その感覚が懐かしくて、嬉しくて、たまらなくて涙が出そうになった。父さん、父さん俺、と何度も言ったが、それ以上言葉にならない。夏侯淵も判っているらしくただただ、夏侯覇の頭を撫でる。
「夏侯覇殿……!」
続いてやってきた張郃は、郭淮を押しのけて夏侯覇を抱きしめた。こちらもぎゅうぎゅうするものだから、夏侯覇はまた名前を呼ぶ事ぐらいしか出来なかった。
「郭淮殿から色々聞きましたとも、貴方がどれだけ苦しんだ事か……それでもこの美しさを失わなかったのですね、貴方は立派な人です。ああ、貴方がこんなに早く死んでしまった事は悲しむべきですが、けれどまた会えて嬉しい……!」
「お、俺も、嬉しいよ、張郃、その、相変わらず意外と腕は立派だな……」
そう言うと、張郃はクスクス笑って手を離してくれた。皆一番輝いていたあの頃のままだった。郭淮は未だに何事か言いながら泣いているような様子だったが、父も張郃も本当に嬉しそうで、夏侯覇も笑った。
「そっか、俺やっぱ死んだんだ。……ここって天国? の割にはなんつーか……」
「天国って感じがしないだろ? 俺様も来た時は驚いたもんだ。でもな、息子よ。ここには龍も居るし、仙人もいっぱい居る。まともじゃない所なのは確かだ」
「仙人」
それを聞いて思い出した。あっ、と声を上げて、父に言う。
「そうだ! 俺、仙人殴り倒さなきゃいけねえんだ!」
「なんだなんだ息子よ、穏やかじゃないな」
「おっちゃんにかかった呪いを解かなきゃ!」
「おっちゃん?」
「あっとえっとそのえっと、蜀で世話になった人! 死ねない呪いかなんかかけられてるんだって! 解いてやんないと! 父さん、仙人何処に居るか知ってる? 俺、一発殴って来る!」
そう言うと、夏侯淵達は顔を見合わせて、それから笑った。
「お前が世話になった人の為、ってんなら、俺達も手を貸さなきゃなあ。よし、息子よ、いっちょ仙人と戦いに行くか! 太公望だろうがなんだろうが、ここにはわんさか居るぞ、どいつが当たりかは判らないけどな!」
「いいの?」
「もちろんです。貴方は私達の大切な仲間、その貴方の大切な人なら、私達にとっても大切な人。さあ、行きましょう、華麗に! ……郭淮殿もさあ、いつまでも泣いていないで」
「私は、私は……」
「おうおう、郭淮はとりあえず泣いてりゃいいや。惇兄にも声かけてみっからよ、久しぶりに大暴れしようじゃないか!」
そう言う父に、夏侯覇は笑った。
「んじゃ、ま、行くとすっか!」
+++
ここまでお付き合い、ありがとうございました!
どんな物も黒い。灰色、とも言える。いずれにせ、世界から色が消えた。水墨画の世界が、眼の前に満ちている。己が筆で描いたものと、同じ世界。何も無い。
風は生温く、匂いは無い。物を食べても不思議と砂のような味しかしない。眠ろうと横になって、一晩中天井を見つめたり、かと思えば落ちるように深く眠ったり。考えるのも億劫でよくぼうっとしていたが、何故だか時折何も無いのに笑った。
皆同じようだった。この国の者達は皆、そうした世界に一人で生きていた。そして終わるのをただただ待っているのだ。悲しみだけが満ちた世界。そこに馬岱は生き残っている。
試みに、従兄や夏侯覇と食べた、肉まんを買った。味はしなかった。ただ熱く、食べにくいだけだ。半分ほど食べて、残りは川に捨てた。魚が啄ばむのをぼうっと見て、ただ時が過ぎるのを待つばかりだった。
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最後の戦い。皆それを理解していた。今まで北伐を繰り返し、あしらわれてばかりだった蜀に、魏が攻め込んで来たのだ。戦力差は圧倒的、まさに勝てるはずのない戦い。それでも、皆戦い続けるのはやはり、とりつかれているからなのだろう。
戦わずには居られないのだ。そこに、何も無くても。
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やはり負けた。そもそも勝った事が殆ど無い。それでも、まだ終わらない。こうなれば本拠地である都を、最後の戦場にするしかない。
姜維はそう言うだろう。馬岱もそれに疑問などは無かった。命の限り戦い続けなくてはいけないのだ。皆。
生きて戻るよ。そう兵達に言って、馬を走らせていた。戻って、今度こそ最期になる戦へ、身を投じる。いや、あるいはそれでも死ねないかもしれない。その時はその時だろうが。馬岱はそう考えながら、駆けていた。
どす、と身の内側から音がした。聞いた事の無い音。だから馬岱には、何が起きたのか一瞬判らなかった。え、と声が漏れた直後、続けざまにもう2回。鈍い痛みが背中から全身に焼け広がるようで、ふと己の身体を見ると、胸から矢が生えていた。
え、ともう一度呟く。急速に身体から力が抜け、ぐらりと傾いた。誰かが名を叫んだのも聞こえたが、酷く遠い。熱く焼けるような痛みと共に、凍えるような寒さが全身の自由を奪った。地に溶け落ちるような感覚。目の前がよく見えない。見えているのに、それが何か判らない。世界が斜めに見えて、「落ちる」とそれだけ理解した。
死ぬのって、こんなにアッサリしているもの? あれだけ苦しんだのに。
黒く塗り潰されていく視界。何も判らなくなってきたが、ぼんやりと思う。
あぁ、もしかしたら坊やが、約束を守ってくれたのかもしれない。
そして馬岱は深い闇へと落ちていった。
+++
落ちた、という感覚は無かった。が、仰向けに倒れているのは判る。重い瞼を開くと、眼の前に従兄の顔が有って、馬岱は飛び起きて逃げた。
「ちょ、ちょい若! 近いっ!」
「ようやく眼を覚ましたか。お前が随分起きないものだから、退屈していた」
「退屈って……えっ? 俺、何、夢?」
俺死んだんじゃなかったの? そう問えば、従兄はあっさり「そうだ」と頷く。
「お前は死んだ。夢ではない」
「……って割には、何なのここ? 天の国にしちゃあ、生活感溢れてない?」
そこは街の外れで、随分賑やかな声も聞こえた。道を人々が歩いている。店も有るようだし、飲食している者も見えた。しばらくは従兄の性質の悪い冗談ではないか疑っていたが、ふと何十年も前に死んだ故郷の者達を見つけて絶句した。
「皮肉なものだ。こちらでも生きているのと変わらん。腹は減らんし、身体は傷付かないが、争いは続いている。尤も、有力な者は特に居ないし、誰も本気でやっている気はしないがな。将達があちこちで好き勝手やっている程度だ。おかしな世界としか言いようが無い。極楽浄土とはとても言えないな」
「へ、へぇ……」
馬岱は未だに状況がよく理解出来ないままで、生返事をして頷いた。空は澄み渡っている。見た事も無い鳥がゆっくりと空を飛んでいた。その遥か先には蛇のような何かが飛んでいる。龍、とそう考えて頭を抱えそうになった。現実味が有り過ぎて、理解が出来ない。天の国がこんな場所だという事を、まだ受け入れられていない。
「それに加えて、皆肉体を失って考え方がおかしくなったと見える。お前の寵愛していた青年、彼が動いたのは特に驚くべくもないが、彼の親族だとか仲間だとか、挙句に曹操やその辺りの人間まで立ち上がったのはどう考えてもおかしい。そうじゃないか馬岱」
「な、なんの話なのよ、若」
「お前の話だ」
「俺ぇ?」
思わず自分を指差して言えば、そうだお前だ、と馬超は頷く。
曰く、お前にかかった呪いとやらを解くと、青年を中心に幾人かがこちらの世界を走り回って、遂にそれらしき何かを倒したらしい、結果的に気付けばお前は死んでこちらの世界にやってきた、だとか。
「へ? 俺ホントにそんな呪いとかかかってたの?」
「さあ、知らん」
「知らんって……」
「そもそも、お前の言っていた事だろう。彼はお前の為に親族と、偉そうな奴を叩きのめして行ったんだ。何人の仙人とかそういう類の生き物が犠牲になった事か。尤も、お互いに肉体は無いんだ、嫌がらせにしかならなかったろうがな」
「……約束、守ってくれたんだ」
「散々悔いていたからな、お前を置いて行った事を」
その言い方に、馬岱ははっとする。つまり、馬超はこちらで夏侯覇と話した事になる。
「じゃあ、坊やは? 坊やは何処に居るの、会えるの?」
「ああ、その辺に居るだろう。お前がここに現れてから、随分寝ていたから、待ち呆けて何処かに行ったようだ。……探しに行くか」
思わず立ち上がった。会いたくてたまらなかった。あの笑顔をもう一度見たかった。もう一度あの小さな身体を抱き締めたかった。
馬超を置いて街に走る。人々をかき分けて、その姿を探した。少しすると、明るい髪の青年の後ろ姿を見つけた。
「坊や!」
名を呼ぶと、彼が振り返る。あの日々と変わらない、少し幼い顔立ちが、こちらに向いて、笑顔を浮かべた。
「ちょうど良かった、おっちゃん、肉まん食べる?」
そう言う夏侯覇を、問答無用で抱きしめた。「うわ」と声を上げる夏侯覇を、ぎゅうぎゅう抱きしめた。少ししか経っていない筈なのに、懐かしくてたまらない。周りの事等気にならなかった。
「おっちゃん、あの、……うん、えーと、その、……おはよ、おっちゃん」
ぎゅ、と抱き返されて、それで馬岱は夏侯覇の額に口付けて、おはよう、ありがとうと、呟いた。
酷く、酷く満たされた気持ちだった。
+++
眼が覚めると、眼の前に郭淮が居て。
「かくわ、」
声を出した次の瞬間には、郭淮に抱きしめられていた。
「私は、私は貴方に謝らなければならない」
「かくわい」
「私は沢山の事を間違えました、貴方をどれ程苦しめた事か、貴方に言うべき事が沢山有った、その全てを言えなかった、それでも、許してなどくれないかもしれませんが、それでも言わせて下さい、私は、私はこれでも、これでも貴方を愛していました……!」
「郭淮……」
「何故あんな事をしたのか、私にも判らない、いや本当は判っています、私が弱かったのです。私の弱さが貴方を傷付けた。貴方を……他ならない貴方を」
震える郭淮の声は本当に悲痛で、夏侯覇は眉を寄せた。際限無く謝罪を続けそうな郭淮に、静かに言う。
「郭淮、俺も言ってない事有るよ。言えなかったんだ。俺、郭淮の事好きだった。大好きだったよ、きっと愛してた。でもそれを言えなかったんだ。……今でも、郭淮の事、好きなのは変わんないよ」
そう告げると郭淮は、「夏侯覇殿」と声を詰まらせて、いよいよ強く抱きしめてきた。病弱な割に力は強い。何故だか痛くはないが、それでもぎゅうぎゅうされて自由が無いのは苦しい気がして、「かくわい」と困った声を出したが、それでも放してくれなかった。
「おぉ、息子よ、起きたか! って……郭淮、俺の息子のへし折る気じゃねえだろうな。そろそろ放してやれって」
懐かしい声。そちらを見ると、あの日の父と同じ姿。夏侯覇は茫然として、「とうさん」とそれだけ呟いた。
「おう。見ない間に随分大きくなったな。きっと俺が死んだせいで、お前も苦労したんだろう、郭淮から色々聞いたわ。……お疲れさん」
くしゃり、と頭を撫でられる。その感覚が懐かしくて、嬉しくて、たまらなくて涙が出そうになった。父さん、父さん俺、と何度も言ったが、それ以上言葉にならない。夏侯淵も判っているらしくただただ、夏侯覇の頭を撫でる。
「夏侯覇殿……!」
続いてやってきた張郃は、郭淮を押しのけて夏侯覇を抱きしめた。こちらもぎゅうぎゅうするものだから、夏侯覇はまた名前を呼ぶ事ぐらいしか出来なかった。
「郭淮殿から色々聞きましたとも、貴方がどれだけ苦しんだ事か……それでもこの美しさを失わなかったのですね、貴方は立派な人です。ああ、貴方がこんなに早く死んでしまった事は悲しむべきですが、けれどまた会えて嬉しい……!」
「お、俺も、嬉しいよ、張郃、その、相変わらず意外と腕は立派だな……」
そう言うと、張郃はクスクス笑って手を離してくれた。皆一番輝いていたあの頃のままだった。郭淮は未だに何事か言いながら泣いているような様子だったが、父も張郃も本当に嬉しそうで、夏侯覇も笑った。
「そっか、俺やっぱ死んだんだ。……ここって天国? の割にはなんつーか……」
「天国って感じがしないだろ? 俺様も来た時は驚いたもんだ。でもな、息子よ。ここには龍も居るし、仙人もいっぱい居る。まともじゃない所なのは確かだ」
「仙人」
それを聞いて思い出した。あっ、と声を上げて、父に言う。
「そうだ! 俺、仙人殴り倒さなきゃいけねえんだ!」
「なんだなんだ息子よ、穏やかじゃないな」
「おっちゃんにかかった呪いを解かなきゃ!」
「おっちゃん?」
「あっとえっとそのえっと、蜀で世話になった人! 死ねない呪いかなんかかけられてるんだって! 解いてやんないと! 父さん、仙人何処に居るか知ってる? 俺、一発殴って来る!」
そう言うと、夏侯淵達は顔を見合わせて、それから笑った。
「お前が世話になった人の為、ってんなら、俺達も手を貸さなきゃなあ。よし、息子よ、いっちょ仙人と戦いに行くか! 太公望だろうがなんだろうが、ここにはわんさか居るぞ、どいつが当たりかは判らないけどな!」
「いいの?」
「もちろんです。貴方は私達の大切な仲間、その貴方の大切な人なら、私達にとっても大切な人。さあ、行きましょう、華麗に! ……郭淮殿もさあ、いつまでも泣いていないで」
「私は、私は……」
「おうおう、郭淮はとりあえず泣いてりゃいいや。惇兄にも声かけてみっからよ、久しぶりに大暴れしようじゃないか!」
そう言う父に、夏侯覇は笑った。
「んじゃ、ま、行くとすっか!」
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