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めでぃのくの日記
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2011-09-07 (Wed)
 前回の岱覇シリーズが、何故か馬超が居る設定だったので
 居ない設定で考え直したら、こんな事になってしまった。
 馬岱が酷い人。あと次の話で終わりです。

 憎しみの連鎖からは、何も生まれはしない。

 判り切っている事だ。生き残る気力にぐらいは、なるかもしれないが、憎む事それ自体には意味があまり無い。たとえ復讐を果たしても、失われた物は帰って来ない。心も満たされはしない。判り切っている事だ。

 それでも。

「おっちゃん、おっちゃん! 一緒に食べようぜ!」

 無邪気に笑って肉まんを差し出して来る青年が、愛しいと共に、憎い。




 青年の名は夏侯覇という。魏の国を打ち立てた、曹操の一族の者だ。曹操は馬岱の一族を皆殺しにした。斬り、踏み付け、焼き尽くした。しかし、それは昔の事だ。だから馬岱は個人はその事について、憎んでも恨んでもいないつもりだった。

 それは極身近に、命を掛けて憎んでいる者が居たからかもしれない。憎悪を正義と高らかに叫ぶ従兄の姿が、かえって馬岱を冷静にさせた。憎しみは何も生まない。その証明が、ずっと眼の前に有ったから。

 だからこそ、馬岱は過去についての恨みや憎しみについて、あまり考えずにこれまで生きてきた。実際その感情は今でも、従兄が持っていたそれなどより、よほど軽いのだと思う。

 それでも。

「おっちゃん」

 そう呼んで微笑む青年を、素直に愛せない。



 無邪気、というのが見せかけだけだというのは、とうに気付いている。だからこそ、放っておけなかった。自分と何処か似通っていたからかもしれない。暗いモノを、悲しいモノをあえて何処かに置いて笑う。そうして生きて行くのが似ているから、愛したのかもしれないし、同時にこんなにも憎いのかもしれない。

 いずれにしろ、声をかけたのは馬岱だった。最初はそれと知らず、お互いに立場を理解せぬまま。そうして打ち解けてから知った事実に、馬岱は戸惑い、苦しんだ。

 この子は、何も悪くない。

 この子は自分の親の仇を、この国にしなかった。恨みも悲しみも有るだろうに、蜀の為にきちんと戦ってくれている。この子はそうしているのに、何故俺はそれが出来ない。そう思って、いつも己の手を見つめた。

 愛しかった。愛しくてたまらない。同じ陰を持ちながら、明るく笑う青年が。彼が「夏侯」でなければ、きっと心から愛せただろう。儚げな表情を浮かべる彼を抱きしめて、支えてやりたいと思う。それを彼が嫌がらないだろう事も判っている。

 彼が自分を好いている、という事を、馬岱はよく知っていた。子供のように甘えたり、抱き付いたりしてくる。それが単なる戦友に対する行為でないと、知っている。同じ事を他の者にしているのを、見た事が無いから。

 彼にとって自分は特別な存在なのだろう。判っている。それに応えてやりたい。事実、馬岱にとっても彼は特別愛しい存在なのだ。愛していると言ってもいい程に。

 それでも。

 ……それでも。




 旨い酒が手に入ったと、青年は嬉しそうに笑った。

 宴会などならまだしも、二人で飲むのはまずい、と思った。思ったけれど、上手く断る事が出来なかった。積極的な夏侯覇は、既につまみと共に酒を持って、部屋の前に立っていたのだ。追い返せば彼を傷付けると思った。

 静かに飲めばいい。平常心を失わなければいいのだ。余計な事を言わず、感じず、しないように心がければ。実際、自制して飲んでいたし、夏侯覇と過ごす夜のゆったりとした時間は楽しかった。

「おっちゃん」

「んー?」

「俺、ここに来て良かった」

 眠たげな声。ぽふ、と馬岱の腕に頭を寄せて、夏侯覇が小さく呟く。

「皆優しくて、いい人ばっかで。俺、今すげぇ幸せ。国を出る時は正直、不安で仕方無かったけどさ……おっちゃんに会えて、本当に良かった。……俺、今幸せだ」

 その言葉が馬岱にとってどういう意味を持ったのか。正確な事はもう、彼にも判らない。ただその時馬岱は、死ぬ間際の従兄の事を思い出していた。

 病に侵されて、身も心も蝕まれていく最愛の親族。彼が最期まで、曹操への恨みを口にしていた事を。

 幼い頃、笑ってくれた彼。太陽のように眩かった従兄。風のように爽やかに、名を呼んでくれた。そんな彼が、憎しみに表情を歪めて、唸るように呪いを吐き出していた事を。

 若は、ここに来ても、一時だって幸せじゃなかった。

「うわっ」

 突然の雷光。戸が揺れるほどの音を立てて、稲妻が走る。ややして、激しい雨が地上に降り注ぎ始めた。

 夏侯覇は窓を閉めようと思ったようだ。酒に酔った身体で、ノロノロと窓に歩み寄る。窓に手をかけて、外を見ていた。何か呟いたようだが、雨音と雷にかき消されて、馬岱には聞こえなかった。

 同じように。馬岱が呟いた言葉も、誰にも届かない。

 俺も若も。一時だって幸せじゃなかったよ。

 若から幸せを奪った人間が、俺の側で幸せだなんて。

 そんなのは、許されない。許されないんだよ。

 そして馬岱は夏侯覇の肩に手をかけた。






 乱暴に振り向かせて。戸惑う身体を床に引き倒した。「おっちゃん急に何するんの」と訳も分かっていない彼を組み伏せる。腕力では馬岱が劣るが、体格では勝っている。一度有利になってしまえば、容易く無力化出来た。

 服を脱がしにかかる。ようやっと何かおかしいと勘付いたらしい、夏侯覇が暴れた。いやだ、止めてよ、おっちゃん、やだ。そうして押しのけようとする手を掴み、動きを奪い、反対の手でその頬を打った。

 一瞬何が起こったのか判らなかったようだ。茫然と眼を見開いていた。その眼に涙と共に、恐怖が滲むのがよく見えた。馬岱はその時、何かしら憐れみの感情を覚えたが、止めはしなかった。

 やだ、とか、やめて、とか。そんな言葉を聞いた気がする。それが耳障りで、彼の口に布を押し込んだ。言葉にならない呻き声を上げる彼をうつ伏せにして、両腕を後ろで縛り上げる。

 腰を持ち上げて、油を塗った指を内部に押し込んだ。身を捩ったので、手を上げてみせれば、ビクリとして抵抗を止めた。犬と同じだ、と思うと少々愉快なような気もしたが、少しも楽しい気持ちにはなれなかった。

 その時馬岱は、復讐をしているのだと、思っていた。一族の仇、最愛の従兄をあんな鬼に変えてしまった連中、そして自分達を不幸せにした元凶。それに思い知らせているのだ、と。だのに胸が痛む。夏侯覇は涙に濡れた眼で、時折馬岱を見て、すぐに視線を逸らした。怯えている。それが酷く哀れでたまらない。抱きしめて大丈夫だと言ってやりたい。そうさせているのは自分なのに。

 倒錯している。自分は今、何かを間違えている。

 頭の隅の方で叫んでいるのは、理性と呼ばれるものか。それでも馬岱は止めなかった。ぐいぐいと乱暴に指を押し込み、慣らす。最小限の作業が終わると、すぐに己のそれを押し当てた。

 何をされるのか判ったらしい。夏侯覇がくぐもった悲鳴を上げた。泣きそうな顔を(いや、既に泣いていたかもしれない)いやいやと横に振っていたが、構わなかった。ぐ、とまだ狭いそこに侵入する。うぅ、と夏侯覇の苦しげな呻き声。それがあんまり哀れで、「力を抜いて」と言ってやったが、彼は首を振るばかり。

「出来ないと、辛いのは君だよ」

 そう言っても上手く出来るはずがない。恐怖に縮こまった身体は、快感さえ得てはいなかった。そっと前に触れてやっても、萎えたそれはあまり反応を返さなかった。それでも擦ったり先端を撫でたりしていると、少しづつ夏侯覇の身体から力が抜けていく。ある程度抜けたところで腰を動かし始めると、夏侯覇はまた苦しげな声を上げて、眼をきつく閉じた。

 可哀想に。

 蹂躙しているのは馬岱なのに、不思議とそう思った。少しも楽しくも無く、満たされもしない行為。無駄もいいところだ。馬岱はそう考えながらも、動き続ける。

 大した快感を覚えられないのは、馬岱も同じだ。こんな事がしたかった訳ではないように思う。夏侯覇を苦しめ、痛めつけたかった訳では。ただ、幸せである事が許せなかった。

 誰、が?

 ふいによぎった疑問に寒気を覚えた。何も考えたくない。こうして傷付ける事で、夏侯覇が自分に近寄る事を止めればいいと思う。そうすれば、これ以上傷つける事も無い。

 そうして腰を揺さぶり、精を吐き出した。劣情が真っ白に溶けて、その時だけはいつもと同じで、天にも昇る心地だった。

「……、なん、で……?」

 掠れた小さな声で、我に帰る。

 夏侯覇が泣きながら、馬岱を見ていた。いつの間にやら、口の布が取れていて、震える唇で、言葉を紡ぐ。

「おっ、ちゃん、なんで……? なんで、こんな事、すんの……?」

 おれのこと、きらいだから? 濡れた瞳が見つめてくる。その表情が憎しみに染まっている気がして、眉を寄せた。いや、ただ悲しんで、困惑しているように見える。それでも、たまらなかった。どうであれ、馬岱はそんな彼の表情を見たくなかった。見ていられなかった。

「……っ、やだ、やだやだやめて、おっちゃん、やめて……っ」

 おもむろに布を巻きつけ、眼隠しにする。怯えたような泣き声が辛くて、再び口に布を押し込む。そして馬岱は、再び彼を犯す為に、彼の脚を抱え上げる。

 何の疑問も浮かばないほど、自分を避けるように。




 雨は上がり、劣情の解放の後には、どんよりとした虚しさだけが残った。

 散々に犯した身体には、所々痕が付いていて、拭いてやっても綺麗にはならなかった。泣き濡れた顔も赤くなって、見るだけでも辛い。優しくその頬を撫でて、それから自分にもうそうする資格が無いのだと思い直す。

 もう、坊やが俺に甘えてくる事も、二度と無いだろう。笑ってくれる事も、ましてや幸せだと感じるような事も。

 馬岱はそんな事を考えながら、夏侯覇を部屋に連れて行く為、彼を抱き上げた。

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