こっから死にネタばっかりの暗いモードなので注意です。
とりあえず馬超さんが退場。
とりあえず馬超さんが退場。
奇妙な事に、その花瓶は割れなかった。
何度も落としたのに、その度、何か偶然に助けられて無傷のままだった。それを不思議に思っていたが、おかげで馬岱には前以て予測が出来た。
これが割れたという事は。きっと、これを贈ってくれた、若も。
だから、ある日の朝、女中が血相を変えて報告しに来ても、馬岱は「やっぱり」としか思わなかった。
人を失う事には、慣れている。若い頃からずっとこんな調子だった。一族の者は殆ど死に絶え、友人も知人も、愛した人も失った。ただ風変わりな従兄だけが生き残っていたが、それもやがて失われるだろうと、ずっと昔に覚悟を決めた。
その事に自暴自棄になった頃も有る。軽装で戦場を駆けたのは、何も馬に乗る為だけでは無かった。だのに、当たらないのだ。敵の矢も、刃も何もかも、馬岱が居ないかのようにすり抜けて、他の者を傷付ける。そうして馬岱は、己に生き残る呪いがかかっているのだと思うようになった。それを恨みこそすれ、自害するような気にもなれず、ならば、とその宿命に従い、生き続けている。
きっとこれからも、悲しい事は沢山有る、それでもそれを、受け入れる。
そう覚悟をした。覚悟を決めた。そして受け入れた筈だ。何もかも、受け入れる。その筈だ。
その筈、だった。
馬超が体調を崩していたのは知っていた。何度も見舞いに行っている。いつも元気に正義を叫ぶ従兄が臥せっているのは、それだけでも少々不安だった。仕舞には遺言じみた事まで言い始めて、馬岱は内心焦っていたが、有り得る事だからそれを一つ一つ受け入れていた。
今まで迷惑をかけた、すまなかった、お前と共に駆けて楽しかった、ただ曹操に復讐を果たせなかった事と、お前を一人にする事が心残りだ。そう言う従兄に、馬岱は笑った。
子供じゃないんだから、俺は一人で生きていけるよ。曹操の事は仕方無い、あの世で討ち取っておいでよ。そう微笑む馬岱に、馬超はいつになく悲しげな顔で言った。お前は一人では生きていけない。その言葉が、妙に心に焼き付いている。
俺は覚悟を決めたのよ、若。心配しなくても、運命は受け入れられるよ。心配しないで。俺は大丈夫。
そう言い聞かせたのが誰だったのか、よく判らない。
何にせよ、その数日後、馬超は一族の所へと旅立ってしまった。
葬儀の間も涙などは出なかった。蜀の将とはいえ、貧しい国だからそれほど豪華な物にはならなかった。しかし劉禅までもがやって来て、悲しみに眼を伏せ、この国の者達は皆悲しんだ。ただ姜維だけが、少々違う事を悲しんでいたようだった。即ち、また一つ蜀の戦力が減った、と。
姜維がそういう考えを持つ事を、馬岱は否定しなかった。あの諸葛亮の後継であり、この国を守る為に戦っているのは彼だ。だから彼がそう思う事は仕方無い。それを不謹慎だと言っても仕方無いのだ、それもまた事実なのだから。
とり憑かれている、と思う。誰もがそう思っている。それを誰もが否定出来ない。この国にはもう、失ったものの無い者が、居なかったから。
馬岱は何も考えていなかった。少なくとも、己の感情について何も。若が死んだ。もう若とは会えない。その事実だけを受け止めていた。だからその亡骸が土の下に消えても、何も思わなかった。泣いたりもせず、言葉をかけたりもしなかった。微笑んでいたような気さえする。しっかりとそれを受け止めたはずだ。
それでも、自室に戻った時に、夏侯覇の姿を見つけて、少々どきりとした。
「坊や、遊びに来たのかい?」
いつものように微笑んだ。いつものように声をかけた。夏侯覇はいつものように寝台に腰掛けて、脚を揺らせていたが、こくりと一つ頷いただけで、他に何も言わなかった。
受け入れられると思った。平常通りの自分で居ると思っていた。夏侯覇の隣に腰掛けて、それで一言も言葉が見つからない事に気付くまでは。何を言って、何をすればいいのか判らない。ただ床を見つめていて、その事に気付いて少々焦った。何か言わなくては、何かしなくては。けれどそれが見つからない。夏侯覇が何か言えば、と思うのに、彼もまた何も言わず、何もしない。
二人して寝台に腰掛けたまま、ただ静かな時間が流れた。それが次第に重苦しくなってくる。馬岱の心の中に、次第に焦りが生まれてくる。何故なのか、判らない。ただ焦っていた。やがて耐えきれなくなって、「坊や」と発した時には、少々声がかすれていた。
「今日は、遊んであげられそうにないんだ。悪いけど、帰ってもらえるかな」
「やだ」
即答。馬岱は困惑した。こんな時間が夏侯覇にとって楽しいわけでもないだろう。だが今の自分には、夏侯覇をなんとかしてやる余裕が無い気がした。
「坊や、頼むよ、今日は俺ちょい……」
「やだ」
「坊や」
「俺知ってるんだ」
何を、と問えば、こういう空気、と返事。夏侯覇が何を言いたいのか判らない。彼の言葉は少し足りない。
「おっちゃんの側にいなきゃいけない」
「どうして」
「知ってるんだ。おっちゃんがどうなるか。判るから。いなきゃいけない」
「俺がどうなるっていうの。どうもしないよ、大丈夫――」
言葉を遮るように、ぎゅうと抱きしめられた。抱きつかれたのではない、抱きしめられたのだ。己より小さな夏侯覇に。驚いていると、「大丈夫なんかじゃない」と夏侯覇の声。
「なんで耐えようとすんの、耐えきれるわけないよ、そうやって耐えきれなくて、おかしくなっちゃった人知ってるんだよ、俺の大事な人だった、だから今度は耐えさせない、絶対耐えさせない、おっちゃんの事守りたい」
「まもるって、」
「いつもそうだった、俺誰も守れなかった、俺が小さくて弱かったから、でも俺もう嫌なんだ、だからおっちゃん、おっちゃん頼むよ俺に心を許してよ、大丈夫なんて誤魔化すなよ、本当の事言いなよ、判ってるよおっちゃんがそんなつもりで言ってないって事ぐらい、でも言わなきゃ壊れちゃうんだよ、俺知ってるんだ、おっちゃん、ほんとは、ほんとは――」
本当は悲しくて死にそうなぐらい泣きたいんだろ?
ふと気付くと、夏侯覇を寝台に押し付けて、力の限り抱きしめていた。夏侯覇が苦しげな呼吸を繰り返していたが、どうにも抑えられそうになかった。自分でもどうしてそうなったのか、判らない。ただ夏侯覇に顔を寄せて、ぎゅうぎゅう抱きしめて。身体が何故だか震えていた。
そうだよ、そうだ悲しくて辛くて怖くてたまらない、たまらないよ、もう死んでしまいたいと思うよ、こんな、こんなの、こんなのもう嫌だよ。
口に出しているのかそうでないのかもよく判らない。ただたまらなくて、夏侯覇を何度も抱き直しながら震えた。
若にもう会えないなんて、若がもう笑ってくれないなんて、もう若には俺が要らないなんて、俺にもう若が居ないなんて、そんなの、そんなのは嫌だよ、だけどそれを受け入れなくちゃいけない、いけないのに、いけない、いけないから、出来てるはずなんだよ、なのにね、なのに胸が苦しくてたまらない、たまらないよ坊や。
そろり、と頭を撫でられた。子供をあやすようなそれは、いつも馬岱が夏侯覇にしている事だ。今の自分はそれほど危ういのだろうか、この子にこうまで心配させるほどに。そう思うけれど、もう何の余裕も無かった。不思議と涙は出ない。その代わりに、何故だか身体が震えて止まらなかった。
こんなのはもう嫌だ、もううんざりだよ、いっそ死んでしまいたい、君を、これから先、君を失う事を考えたらそれだけで苦しくて苦しくて、いっそ君に殺されたら、あるいは君を殺せたらとさえ思うよ、でもそれはきっと俺にとってとても辛い事で、まして君にこんな思いをさせてはいけないし、どっちみち俺にかかった呪いで君は俺より後には死ねないだろうし、ああ、坊や、坊やが愛しい、君が、君を愛してる、失いたくない、ないんだよ坊や、坊や。
なのに、なのにあらがえない、きっと俺は、君を失う事を、受け入れられない。
夏侯覇はただ黙って、馬岱の髪を撫でていた。馬岱はそれからもずっと似たようなばかり、思い、あるいは言い続けた。思い出すのは昔の事ばかり。小さかった頃、草原での日々、従兄と初めて馬に乗った日、愛らしい女性に思いを寄せた時間、そしてそれらが火と血に飲まれて失われたあの時。
そうして失う度に諦めた、そうして失う度に心を凍らせた、涙も枯れ果てた、なのに、なのに、今でもまだ、それが怖い、怖くてたまらない。そして、今度こそ、次こそ自分は全てを失うと、馬岱は知っている。そして全てを失った時、自分がどうなるか、何処かで判っている。
お前は一人では生きていけない。
馬超がそう悲しげに言う。そう、一人では生きていけない。一人になった時、恐らく死ぬ。身体ではなく、心が。
「おっちゃん、俺、おっちゃんに何にもしてあげられないけど」
夏侯覇の声が、近い。身体の中に、直接響いているようにも感じる。夏侯覇の温もりを、全身に感じる。
「おっちゃんと、出来る限り一緒に居るから、だから、……その間だけでも、俺、おっちゃんと一緒に笑ってるから」
だから、だから。
その先の言葉は紡がれない。それが愛おしくて、馬岱はまた夏侯覇をぎゅうぎゅう抱きしめる。
それまでの間だけでも。悲しい事など考えずに居たい。どうせ壊れるなら。どうせ失うなら。
全てで、愛したい。それだけしか、出来ない。
あまりにも、あまりにも心の余裕を失っていて。
夏侯覇の懐に、あの短刀が無い事を、馬岱は気付かなかった。
+++
あーあーフラグ
何度も落としたのに、その度、何か偶然に助けられて無傷のままだった。それを不思議に思っていたが、おかげで馬岱には前以て予測が出来た。
これが割れたという事は。きっと、これを贈ってくれた、若も。
だから、ある日の朝、女中が血相を変えて報告しに来ても、馬岱は「やっぱり」としか思わなかった。
人を失う事には、慣れている。若い頃からずっとこんな調子だった。一族の者は殆ど死に絶え、友人も知人も、愛した人も失った。ただ風変わりな従兄だけが生き残っていたが、それもやがて失われるだろうと、ずっと昔に覚悟を決めた。
その事に自暴自棄になった頃も有る。軽装で戦場を駆けたのは、何も馬に乗る為だけでは無かった。だのに、当たらないのだ。敵の矢も、刃も何もかも、馬岱が居ないかのようにすり抜けて、他の者を傷付ける。そうして馬岱は、己に生き残る呪いがかかっているのだと思うようになった。それを恨みこそすれ、自害するような気にもなれず、ならば、とその宿命に従い、生き続けている。
きっとこれからも、悲しい事は沢山有る、それでもそれを、受け入れる。
そう覚悟をした。覚悟を決めた。そして受け入れた筈だ。何もかも、受け入れる。その筈だ。
その筈、だった。
馬超が体調を崩していたのは知っていた。何度も見舞いに行っている。いつも元気に正義を叫ぶ従兄が臥せっているのは、それだけでも少々不安だった。仕舞には遺言じみた事まで言い始めて、馬岱は内心焦っていたが、有り得る事だからそれを一つ一つ受け入れていた。
今まで迷惑をかけた、すまなかった、お前と共に駆けて楽しかった、ただ曹操に復讐を果たせなかった事と、お前を一人にする事が心残りだ。そう言う従兄に、馬岱は笑った。
子供じゃないんだから、俺は一人で生きていけるよ。曹操の事は仕方無い、あの世で討ち取っておいでよ。そう微笑む馬岱に、馬超はいつになく悲しげな顔で言った。お前は一人では生きていけない。その言葉が、妙に心に焼き付いている。
俺は覚悟を決めたのよ、若。心配しなくても、運命は受け入れられるよ。心配しないで。俺は大丈夫。
そう言い聞かせたのが誰だったのか、よく判らない。
何にせよ、その数日後、馬超は一族の所へと旅立ってしまった。
葬儀の間も涙などは出なかった。蜀の将とはいえ、貧しい国だからそれほど豪華な物にはならなかった。しかし劉禅までもがやって来て、悲しみに眼を伏せ、この国の者達は皆悲しんだ。ただ姜維だけが、少々違う事を悲しんでいたようだった。即ち、また一つ蜀の戦力が減った、と。
姜維がそういう考えを持つ事を、馬岱は否定しなかった。あの諸葛亮の後継であり、この国を守る為に戦っているのは彼だ。だから彼がそう思う事は仕方無い。それを不謹慎だと言っても仕方無いのだ、それもまた事実なのだから。
とり憑かれている、と思う。誰もがそう思っている。それを誰もが否定出来ない。この国にはもう、失ったものの無い者が、居なかったから。
馬岱は何も考えていなかった。少なくとも、己の感情について何も。若が死んだ。もう若とは会えない。その事実だけを受け止めていた。だからその亡骸が土の下に消えても、何も思わなかった。泣いたりもせず、言葉をかけたりもしなかった。微笑んでいたような気さえする。しっかりとそれを受け止めたはずだ。
それでも、自室に戻った時に、夏侯覇の姿を見つけて、少々どきりとした。
「坊や、遊びに来たのかい?」
いつものように微笑んだ。いつものように声をかけた。夏侯覇はいつものように寝台に腰掛けて、脚を揺らせていたが、こくりと一つ頷いただけで、他に何も言わなかった。
受け入れられると思った。平常通りの自分で居ると思っていた。夏侯覇の隣に腰掛けて、それで一言も言葉が見つからない事に気付くまでは。何を言って、何をすればいいのか判らない。ただ床を見つめていて、その事に気付いて少々焦った。何か言わなくては、何かしなくては。けれどそれが見つからない。夏侯覇が何か言えば、と思うのに、彼もまた何も言わず、何もしない。
二人して寝台に腰掛けたまま、ただ静かな時間が流れた。それが次第に重苦しくなってくる。馬岱の心の中に、次第に焦りが生まれてくる。何故なのか、判らない。ただ焦っていた。やがて耐えきれなくなって、「坊や」と発した時には、少々声がかすれていた。
「今日は、遊んであげられそうにないんだ。悪いけど、帰ってもらえるかな」
「やだ」
即答。馬岱は困惑した。こんな時間が夏侯覇にとって楽しいわけでもないだろう。だが今の自分には、夏侯覇をなんとかしてやる余裕が無い気がした。
「坊や、頼むよ、今日は俺ちょい……」
「やだ」
「坊や」
「俺知ってるんだ」
何を、と問えば、こういう空気、と返事。夏侯覇が何を言いたいのか判らない。彼の言葉は少し足りない。
「おっちゃんの側にいなきゃいけない」
「どうして」
「知ってるんだ。おっちゃんがどうなるか。判るから。いなきゃいけない」
「俺がどうなるっていうの。どうもしないよ、大丈夫――」
言葉を遮るように、ぎゅうと抱きしめられた。抱きつかれたのではない、抱きしめられたのだ。己より小さな夏侯覇に。驚いていると、「大丈夫なんかじゃない」と夏侯覇の声。
「なんで耐えようとすんの、耐えきれるわけないよ、そうやって耐えきれなくて、おかしくなっちゃった人知ってるんだよ、俺の大事な人だった、だから今度は耐えさせない、絶対耐えさせない、おっちゃんの事守りたい」
「まもるって、」
「いつもそうだった、俺誰も守れなかった、俺が小さくて弱かったから、でも俺もう嫌なんだ、だからおっちゃん、おっちゃん頼むよ俺に心を許してよ、大丈夫なんて誤魔化すなよ、本当の事言いなよ、判ってるよおっちゃんがそんなつもりで言ってないって事ぐらい、でも言わなきゃ壊れちゃうんだよ、俺知ってるんだ、おっちゃん、ほんとは、ほんとは――」
本当は悲しくて死にそうなぐらい泣きたいんだろ?
ふと気付くと、夏侯覇を寝台に押し付けて、力の限り抱きしめていた。夏侯覇が苦しげな呼吸を繰り返していたが、どうにも抑えられそうになかった。自分でもどうしてそうなったのか、判らない。ただ夏侯覇に顔を寄せて、ぎゅうぎゅう抱きしめて。身体が何故だか震えていた。
そうだよ、そうだ悲しくて辛くて怖くてたまらない、たまらないよ、もう死んでしまいたいと思うよ、こんな、こんなの、こんなのもう嫌だよ。
口に出しているのかそうでないのかもよく判らない。ただたまらなくて、夏侯覇を何度も抱き直しながら震えた。
若にもう会えないなんて、若がもう笑ってくれないなんて、もう若には俺が要らないなんて、俺にもう若が居ないなんて、そんなの、そんなのは嫌だよ、だけどそれを受け入れなくちゃいけない、いけないのに、いけない、いけないから、出来てるはずなんだよ、なのにね、なのに胸が苦しくてたまらない、たまらないよ坊や。
そろり、と頭を撫でられた。子供をあやすようなそれは、いつも馬岱が夏侯覇にしている事だ。今の自分はそれほど危ういのだろうか、この子にこうまで心配させるほどに。そう思うけれど、もう何の余裕も無かった。不思議と涙は出ない。その代わりに、何故だか身体が震えて止まらなかった。
こんなのはもう嫌だ、もううんざりだよ、いっそ死んでしまいたい、君を、これから先、君を失う事を考えたらそれだけで苦しくて苦しくて、いっそ君に殺されたら、あるいは君を殺せたらとさえ思うよ、でもそれはきっと俺にとってとても辛い事で、まして君にこんな思いをさせてはいけないし、どっちみち俺にかかった呪いで君は俺より後には死ねないだろうし、ああ、坊や、坊やが愛しい、君が、君を愛してる、失いたくない、ないんだよ坊や、坊や。
なのに、なのにあらがえない、きっと俺は、君を失う事を、受け入れられない。
夏侯覇はただ黙って、馬岱の髪を撫でていた。馬岱はそれからもずっと似たようなばかり、思い、あるいは言い続けた。思い出すのは昔の事ばかり。小さかった頃、草原での日々、従兄と初めて馬に乗った日、愛らしい女性に思いを寄せた時間、そしてそれらが火と血に飲まれて失われたあの時。
そうして失う度に諦めた、そうして失う度に心を凍らせた、涙も枯れ果てた、なのに、なのに、今でもまだ、それが怖い、怖くてたまらない。そして、今度こそ、次こそ自分は全てを失うと、馬岱は知っている。そして全てを失った時、自分がどうなるか、何処かで判っている。
お前は一人では生きていけない。
馬超がそう悲しげに言う。そう、一人では生きていけない。一人になった時、恐らく死ぬ。身体ではなく、心が。
「おっちゃん、俺、おっちゃんに何にもしてあげられないけど」
夏侯覇の声が、近い。身体の中に、直接響いているようにも感じる。夏侯覇の温もりを、全身に感じる。
「おっちゃんと、出来る限り一緒に居るから、だから、……その間だけでも、俺、おっちゃんと一緒に笑ってるから」
だから、だから。
その先の言葉は紡がれない。それが愛おしくて、馬岱はまた夏侯覇をぎゅうぎゅう抱きしめる。
それまでの間だけでも。悲しい事など考えずに居たい。どうせ壊れるなら。どうせ失うなら。
全てで、愛したい。それだけしか、出来ない。
あまりにも、あまりにも心の余裕を失っていて。
夏侯覇の懐に、あの短刀が無い事を、馬岱は気付かなかった。
+++
あーあーフラグ
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