大切なことを思いっきり忘れたりしますが
今日 このサイトが オクラホマサラダだった事を思い出して
びっくりしていました。そんな名前だったっけ。
まぁ友達に、こんにちはって何語だったっけと聞いた時ほどは
引かれないと思いたい。ドン引きでしたよ
こっちだって真剣に聞いてるんですけどね
以下、鬼の10
ちょっと書き足りないとこありましたがとりあえず。
今日 このサイトが オクラホマサラダだった事を思い出して
びっくりしていました。そんな名前だったっけ。
まぁ友達に、こんにちはって何語だったっけと聞いた時ほどは
引かれないと思いたい。ドン引きでしたよ
こっちだって真剣に聞いてるんですけどね
以下、鬼の10
ちょっと書き足りないとこありましたがとりあえず。
元親の乱闘騒ぎは正確に世に知れ渡った。鬼にやられた、と言いふらしていた三人が一転、事故を主張し始めた事が、暗に事実を語ったのだ。結果、鬼と師範への同情が高まった。
件の三人は忌々しげに元親を見たが、事情を知った多くの人間は以前より懇意にしてくれた。潔く処罰されようとしていた鬼を、人間よりも生き方が良いと褒めた。それでも元親は沢山の者に迷惑をかけた事を反省し、驕ったりしないので、また人々に良い印象を与えた。そのおかげで、元親は足の枷を外す事を国から許され、自由へ一歩近付く事となった。
元親に心の余裕が生まれ、元の暮らしを取り戻すと、彼は改めて光秀の言っていた事を考えた。この世には神仏と人間と、そしてその二つの混ざった者が居る。そして元親や元就は、その混ざった者の一人だろう、という話だ。元親もそう説明されれば、納得出来る部分は有った。
自分と人間の外見は良く似ている。角以外は大きさしか変わらない。そこまで似ているのに、体の内に秘めた力では、圧倒的に鬼の方が強い。人間は巨漢ほど良く食うというのに、自分達は三日に一度の飯で腹が満ちる。聴覚も視覚も、腕力なども大きく異なる。人とこれほど似ているのに中身が違う、そういう事は自然には起こらないような気がした。
本当の鬼はとてつもなく強く恐ろしい連中だったんだろうに、何処に行っちまったんだ? 龍が天に帰ったように、本物の黄泉に帰っちまったのか?
考えても考えても答えは出なかった。出るはずもない。元親は首を傾げて、そして考えるのを止めた。何かを考える事を止めるのは得意だった。これまで十数年、毎日してきたのだから。
だが元就が神仏の血を引いていると言った時、光秀がさらりと言った事が事実だとすると、光秀もまた神仏の血を引いていて、それ故に元就に惹かれているらしい。なら、元就や光秀は何の神仏の血を引いているんだろう、と元親は考えてみたが、こちらもさっぱり判らない。だが元就は熱心に太陽を信仰しているし、もしかしたら何か関係有るのかもしれない。しかしその程度しか推測出来なかった。
その日は元就が道場でずっと元親の様子を見ていた。元親の腕を見てみたいと言って、恥ずかしがる元親を無理に連れて道場へ来たのだ。元春は非番だったのでちょうど良かったのも有る。元就は道場の隅に座って、じっと静かに見ていて、元親は緊張しながらも他の人間達と一緒に槍術を練習し、時折勝った。
道場が閉まる頃になると、彼らは掃除をして帰る。元就も手伝うといって聞かないので手伝ってもらい、掃除を終えると二人も帰った。
元就は先を歩いていて、元親はその後をなんとも妙な気持ちで歩いていた。その今まで感じた事の無い気持ちがなんであるかを考え、そしてそれを人間の言う「期待」というものであると結論付けた。
何か言ってほしい、けれどその内容は自分を褒めるものであってほしい、もしそうでないなら何も言わないでほしいのに、何か言ってくれないと落ちつかないから、何でもいいから言ってほしい、でないと胸や腹が痛くなるような妙な感覚で。そういう感情の流れに、元親は静かに苦笑した。
こんな事を考えるなんて、俺も贅沢になったもんだ。
そんな風に思っていると、「元親」と元就が言ったものだから、元親はびくりとしてしまった。
「ようやっておるようだな。道場の者達とも仲良くしておるようだし、槍術の腕もなかなかのものだ」
元就がそう褒めてくれたので、元親はたまらなく嬉しくなって元就の側に駆け寄る。
「わ、判るのか、上手いとか、下手とか」
「我も貴族のたしなみ程度には武術も学んではおる」
「じゃ、じゃあ、今度、手合わせしてくれよ!」
「それは無理だ」
「なんでだよう」
元親の不満そうな声が面白かったらしい。元就はふふ、と小さく笑って言う。
「我は非力であるから、真っ当な武術は得ておらぬのよ。我が辛うじて会得出来たのは、素早い動きや他の流派にない足の動きや構えなどで相手を撹乱し、より長く生き続ける方法だ。稼いだ時間で誰かに助けてもらうしか能の無い男よ。手合わせと言うても、我は逃げ惑う以外に何も出来ぬ」
それより、と元就は続ける。
「武に長けた元春や、明智とでもやったらどうだ」
「……明智? あいつ、強いのか? そんなふうには見えねぇけど」
「あやつもな……不思議な程に強いのだ。従者達が明智に誰も逆らえぬのはそのせいよ。あやつには妙な力が有るのだ、それが何かは判らぬが。……機会が有れば手合わせしてみると良い。おっかないぞ」
元就はそう言って笑った。
元親は話題の中心を光秀にずらされた事がなんとなく不愉快で。これまたなんとなく、元就に後ろから引っ付いて抱いた。体格が違いすぎるので、元就は後ろに転げそうになって元親の腹に背と頭をつける事になった。そんな彼を優しく抱きとめて、そのままでいると、元就が元親を見上げて言う。
「そなたは本当に甘えん坊だな。このままでは歩けぬ。人に見られたらどうするのだ。放せ」
「やだ」
「やだではない、子供みたいな事を申すな」
「やなんだよ」
「どうしたというのだ」
「俺、あんたが好きだ」
そう言うと、元就はきょとんとした顔をする。
「何を改めて。そんな事は知っておる」
「そんな事だなんて言わないでくれよ」
「元親、どうしたのだ? そなた、変だぞ?」
元就がそう怪訝な顔で言っても、元親は「そうだな、俺は変なのかもしれない」とそれだけ答えて、元就を放さなかった。元就はしばらく辺りを気にしていたが、やがて元親に身を任せて、彼が飽きるまでそうさせていた。
結局元親は何故だか元就を放したくなくて、長い間道端に突っ立って元就を抱いていたが、幸いな事には彼らの身長さがあまりに大きくて、多くの人は元就の存在には気付かなかった。やがてこんな事をしていても仕方無いと元親も思い、そろりと手を離す。元就はそれでもしばらくはそのままで居てくれて、そういう気遣いが元親はたまらなく嬉しくて、けれどたまらなく淋しい。
帰るぞ、と優しく声をかけられ、元親は元就の後ろをまたのろのろと着いて歩いた。そうしていると元親は改めて、彼の事が好きだという事を考える。自分を救ってくれた恩人だ、好きになるのは当たり前だったが、その感情は他の誰に寄せる物とも違う。だがそれが何か判らない。それ故に伝えようも無い。元親はいらいらと頭を掻いて、溜息を吐くしかなかった。
屋敷に戻ると元就が急に立ち止まった。元就の背中ばかり見ていた元親は慌てて立ち止まり、そして元就の前に光秀が立っているのに気付いた。
「毛利殿、おかえりなさい。来ましたよ」
光秀がそう笑んで言うので、元親も彼がここに何をしに来たのか悟った。
「あ、明智。……今日だったのか、……先に言ってくれれば、用意もしたのに」
「いえいえ、用意は可愛がしてくれましたよ。私はただここで貴方の帰りを待っていただけです。一緒に夕餉を楽しもうと思いましてね」
「そ、……そうか。なら、……元親、すまぬがそなたは部屋に、」
「毛利殿」
元就が元親を下がらせようとすると、光秀は笑んだまま、
「元親殿も、ご一緒にどうかと、思うのですが」
と言った。光秀に恩が有る身の元就が、その提案に逆らう事は出来ない。元就は泣きそうな顔をして、元親を一度見て、そして判った、と静かに頷いた。元親は訳が判らなかったが、そのまま彼らに着いて、元就の部屋へと入る事になった。
それから元親は彼らの奇妙な夕餉と情事に同席する事になってしまった。元親は退席も当然参加も許されず、その一月に一度の奇妙な儀式を傍観する事になった。
まずは元就の前に水か酒のような透明な液体の満ちる杯が置かれた。そこに光秀がさらさらと何か粉を流し込んだ。元就はしばらく手をつけなかったが、やがて諦めたのかそれを一息に飲み干した。
そうすると夕餉というのは終わって、寝室に移動する事になった。元親も着いて来いと言われたので着いていくはめになり、挙句作業を手伝う事になってしまった。元就は液体を飲み干してしばらくするとくったりとしてしまい、心配している元親に光秀は縄を手渡してきた。両手両脚を動かないように固定し、ついでに声が出ないように轡をするようにと言われ、元親は仕方無く従った。元親には断る権利は無かった。
元就はぼうっと元親や光秀を見るばかりで、特に反応はしなかった。不器用ながらも元親が元就を縛り終えると、光秀は満足したように頷いて、元就の上半身を抱えておくように言った。元親は訳も判らず元就を抱いていた。
それから始まった情事はなんとも奇妙な物で、ただひたすら光秀は元就に奉仕をしているだけなのだ。元就は時折震えて元親の胸に顔を埋めて、びくりと痙攣しながら精を吐き出した。だが光秀は一向、それ以上の行為に及ぼうとはしない。
ただひたすら元就ばかりが快楽に溺れる、それだけの情事だった。ただその回数が増すたびに元就は辛そうに身を捩らせ、暴れようとするので、それを元親は出来るだけ優しく抱きこんでいる、本当に妙な情事で、元親も訳が判らず、特に嫌な気持ちにもならなかった。
元就は何度も苦しげに呻きながらも達し続けて、しまいにはぴくりともしなくなってしまった。元親は慌てたが、光秀は「大丈夫、いつもこれぐらいになると気を失うのですよ」と淡々と説明し、元就を縛っていた縄を解き始める。その際、「ああこんなに跡が着いて。元親殿、いいですか、人間の関節や筋肉の流れを見極めながら縛らなくては怪我をさせてしまいますよ」などと説教までされて、元親は益々訳が判らなくなった。
疲れ果てて眠ってしまった元就を置いて、二人は廊下に出た。もう夜も更けていた。元親と光秀は縁側に腰掛けて、空を見上げた。星は見えない。
「妙な情事だったでしょう」
「え、……あ、うん、そうだなあ」
元親は他に言いようも無く、ただ頷いた。確かに妙な情事だった。元就はともかく、光秀は何もしていないのと変わらないのだから。
「元親殿、これは秘密ですよ」
「お、おう」
「先日話した通り、恐らく私も純粋な人ではありません。しかも恐らくは人に有害な類です」
光秀はそう穏やかに言って、空を見上げる。
「私もお上に拾われて救われた人外なのです。お上は私がそうとは知らなかったのでしょうが。他ならぬ私が知らない事を他の人間が知っているとは思えませんからね。私は無事に成長しましたが、ある歳から人の命が食べたくなった。それもたまらなくです。月に一度、私は飢えて人を襲った。その度にお上は隠蔽する事になり、多大な迷惑をかけましたよ。
せめて迷惑をかけまいと、死体捨て場に行く事もよく有りました。既に遺棄されている命なら誰がどうしようと文句は言うまいと思って、死体を漁り、辛うじて生きている者を見つけたら食べました。そういう事を何年も繰り返していた時に、毛利殿を拾ったのです。毛利殿は雪の舞う中、ただ一人生きていた。私は毛利殿を連れ帰り、食べるつもりだったのですよ」
光秀はそう言って笑った。だからあの人が私に感謝をするのは筋違いな事なのです、と。
「けれど毛利殿を拾い、清めて食べようとしても、何故だか手が出ない。そのうちにあの人は特別だと、何かがそう訴え始めました。直感……でしょうかね。この子は普通ではない、と。私は彼を殺すのは諦めて、そして新たな方法を考えた。彼の精を死なない程度に食べるのはどうかと思いましてね。色々調べて、特別な薬も手に入れて、彼を一晩中愛でました。するとどうした事か、飢えが満ちましてね。
きっと同じ人外だからでしょうね。何か通い合うものが有るんでしょう。それからは飢える度に毛利殿のお世話になりました。毛利殿も私に恩を感じていたから、拒みはしなかったし、それで私が死体を漁らなくて済むならとむしろ喜んで協力してくれたのですよ。だから、私とあの人は貴方が思っているような関係では無いので、心配しないで下さいね」
光秀はそう言って元親を見た。元親はなんとなく光秀と眼を合わせられず、地面を見た。
「……じゃあ、巷で言われてるのは……」
「毛利殿が私の為に体を差し出しているのは確かですよ。でもそれは彼のためではなく、私のためです。彼が出世したのは、ひとえに彼が努力し、才能も有ったからです。私がつまらない贔屓をする人間に見えますか」
「……」
「毛利殿は良くも悪くも己を大事にしない。だから私の屋敷では昼も夜も無く働いて、私に尽くしてくれましたよ。けれど彼も人間です。彼にだって望みは有った。その望みを叶える為には、独立させねばならなかった。だから私は彼を手放したのです。ただ彼が許してくれる限りは、お世話になろうとは思っていますけどね」
「あいつの、望みって?」
元親が尋ねると、光秀は苦笑して言った。
「貴方にも判ると思いますが、人生で最も幸福だった時間を取り戻す事です。毛利殿は生まれが良かった。子供の頃は大層幸せな人だったんでしょう。ですが、毛利殿は既に大人になり、状況も変わってしまった。過去には決して戻れない。けれど毛利殿は過去を取り戻そうとなさっているのですよ」
「過去……?」
「何の悩みも無かった、幸せな頃に戻りたいんですよ、毛利殿は。家族が居て、友人が居て、何も知らずに毎日笑っていれば良かった頃にね」
不毛な事です。他ならぬ自分自身が時を経て変化してしまったのに、過去が戻るはずも無い。けれど我々は誰も彼がそう思う事を笑い、止める事は出来ません。誰もが輝かしい過去を持っているもので、誰もが叶わぬと判っていてその過去に憧れ涙せずにはいられない。美しくなった過去に救いを求めずにはいられない。毛利殿は特別強く過去に縛られていますが、その傾向は誰にでも有ります。だからもう、彼がしたいようにさせるしかないんですよ。
光秀はそう言うと立ち上がっていった。
「申し訳ありませんが、私は所用が有るので、今夜は帰らなくてはいけません」
「え……」
「毛利殿の側に居てくれませんか。布団に押し入っても構いません。まああの人の布団では貴方の体は飛び出てしまうでしょうが。あの方はあれでいて案外心が弱い方ですから、一人で眼が覚めたら不安になると思うのですよ。一部始終見られたのですから、もう恥ずかしくもないでしょうしね」
「……あんたなあ」
「これは毛利殿にも再三言っている事ですが、私は善人という種類の人間ではないのですよ」
では、よろしくお願いしますね。
光秀はそう言うとさっさと屋敷から出て行ってしまった。元親はしばらく縁側に座っていたが、やがて溜息を一つ吐いて、元就の側に戻った。元就は布団の中で眠っていたが、少し考えて布団の中に押し入った。確かに身体がはみ出すので、なんとか元就を抱え入れようとしていると、流石に元就は目覚めてしまった。
「……どうした、もとちか。われにしつぼうしたのでは、なかったのか」
眠たげにそう言う元就に、元親は笑みを浮かべて言ってやった。
「失望なんかするもんか。俺はあんたの事が好きなんだ。噂どおりの人間じゃなくて、かえって安心してるぐらいだぜ。……ほら、もう寝な。側に居てやるから」
元就は不思議そうな顔で元親を見ていたが、やがて、元親に身を擦り寄せて、目を閉じた。
ようやく判った。こいつら、お上とか言うのも含めて、順々に人助けをしたけど、変に卑屈になってるもんだから素直になれねえんだ。
元親はそんな事を考えながら、元就の頭を撫でて眼を閉じた。
俺はどうだろう。今は幸せだ、元就に感謝している。だけど、それでも俺は自由になりたい、黄泉に帰りたい。子供の頃に戻りたい。それは変わらない。元就の事を偉そうに言える立場じゃない。きっと俺はいつか、元就の側を離れて、黄泉に帰るだろうから。
件の三人は忌々しげに元親を見たが、事情を知った多くの人間は以前より懇意にしてくれた。潔く処罰されようとしていた鬼を、人間よりも生き方が良いと褒めた。それでも元親は沢山の者に迷惑をかけた事を反省し、驕ったりしないので、また人々に良い印象を与えた。そのおかげで、元親は足の枷を外す事を国から許され、自由へ一歩近付く事となった。
元親に心の余裕が生まれ、元の暮らしを取り戻すと、彼は改めて光秀の言っていた事を考えた。この世には神仏と人間と、そしてその二つの混ざった者が居る。そして元親や元就は、その混ざった者の一人だろう、という話だ。元親もそう説明されれば、納得出来る部分は有った。
自分と人間の外見は良く似ている。角以外は大きさしか変わらない。そこまで似ているのに、体の内に秘めた力では、圧倒的に鬼の方が強い。人間は巨漢ほど良く食うというのに、自分達は三日に一度の飯で腹が満ちる。聴覚も視覚も、腕力なども大きく異なる。人とこれほど似ているのに中身が違う、そういう事は自然には起こらないような気がした。
本当の鬼はとてつもなく強く恐ろしい連中だったんだろうに、何処に行っちまったんだ? 龍が天に帰ったように、本物の黄泉に帰っちまったのか?
考えても考えても答えは出なかった。出るはずもない。元親は首を傾げて、そして考えるのを止めた。何かを考える事を止めるのは得意だった。これまで十数年、毎日してきたのだから。
だが元就が神仏の血を引いていると言った時、光秀がさらりと言った事が事実だとすると、光秀もまた神仏の血を引いていて、それ故に元就に惹かれているらしい。なら、元就や光秀は何の神仏の血を引いているんだろう、と元親は考えてみたが、こちらもさっぱり判らない。だが元就は熱心に太陽を信仰しているし、もしかしたら何か関係有るのかもしれない。しかしその程度しか推測出来なかった。
その日は元就が道場でずっと元親の様子を見ていた。元親の腕を見てみたいと言って、恥ずかしがる元親を無理に連れて道場へ来たのだ。元春は非番だったのでちょうど良かったのも有る。元就は道場の隅に座って、じっと静かに見ていて、元親は緊張しながらも他の人間達と一緒に槍術を練習し、時折勝った。
道場が閉まる頃になると、彼らは掃除をして帰る。元就も手伝うといって聞かないので手伝ってもらい、掃除を終えると二人も帰った。
元就は先を歩いていて、元親はその後をなんとも妙な気持ちで歩いていた。その今まで感じた事の無い気持ちがなんであるかを考え、そしてそれを人間の言う「期待」というものであると結論付けた。
何か言ってほしい、けれどその内容は自分を褒めるものであってほしい、もしそうでないなら何も言わないでほしいのに、何か言ってくれないと落ちつかないから、何でもいいから言ってほしい、でないと胸や腹が痛くなるような妙な感覚で。そういう感情の流れに、元親は静かに苦笑した。
こんな事を考えるなんて、俺も贅沢になったもんだ。
そんな風に思っていると、「元親」と元就が言ったものだから、元親はびくりとしてしまった。
「ようやっておるようだな。道場の者達とも仲良くしておるようだし、槍術の腕もなかなかのものだ」
元就がそう褒めてくれたので、元親はたまらなく嬉しくなって元就の側に駆け寄る。
「わ、判るのか、上手いとか、下手とか」
「我も貴族のたしなみ程度には武術も学んではおる」
「じゃ、じゃあ、今度、手合わせしてくれよ!」
「それは無理だ」
「なんでだよう」
元親の不満そうな声が面白かったらしい。元就はふふ、と小さく笑って言う。
「我は非力であるから、真っ当な武術は得ておらぬのよ。我が辛うじて会得出来たのは、素早い動きや他の流派にない足の動きや構えなどで相手を撹乱し、より長く生き続ける方法だ。稼いだ時間で誰かに助けてもらうしか能の無い男よ。手合わせと言うても、我は逃げ惑う以外に何も出来ぬ」
それより、と元就は続ける。
「武に長けた元春や、明智とでもやったらどうだ」
「……明智? あいつ、強いのか? そんなふうには見えねぇけど」
「あやつもな……不思議な程に強いのだ。従者達が明智に誰も逆らえぬのはそのせいよ。あやつには妙な力が有るのだ、それが何かは判らぬが。……機会が有れば手合わせしてみると良い。おっかないぞ」
元就はそう言って笑った。
元親は話題の中心を光秀にずらされた事がなんとなく不愉快で。これまたなんとなく、元就に後ろから引っ付いて抱いた。体格が違いすぎるので、元就は後ろに転げそうになって元親の腹に背と頭をつける事になった。そんな彼を優しく抱きとめて、そのままでいると、元就が元親を見上げて言う。
「そなたは本当に甘えん坊だな。このままでは歩けぬ。人に見られたらどうするのだ。放せ」
「やだ」
「やだではない、子供みたいな事を申すな」
「やなんだよ」
「どうしたというのだ」
「俺、あんたが好きだ」
そう言うと、元就はきょとんとした顔をする。
「何を改めて。そんな事は知っておる」
「そんな事だなんて言わないでくれよ」
「元親、どうしたのだ? そなた、変だぞ?」
元就がそう怪訝な顔で言っても、元親は「そうだな、俺は変なのかもしれない」とそれだけ答えて、元就を放さなかった。元就はしばらく辺りを気にしていたが、やがて元親に身を任せて、彼が飽きるまでそうさせていた。
結局元親は何故だか元就を放したくなくて、長い間道端に突っ立って元就を抱いていたが、幸いな事には彼らの身長さがあまりに大きくて、多くの人は元就の存在には気付かなかった。やがてこんな事をしていても仕方無いと元親も思い、そろりと手を離す。元就はそれでもしばらくはそのままで居てくれて、そういう気遣いが元親はたまらなく嬉しくて、けれどたまらなく淋しい。
帰るぞ、と優しく声をかけられ、元親は元就の後ろをまたのろのろと着いて歩いた。そうしていると元親は改めて、彼の事が好きだという事を考える。自分を救ってくれた恩人だ、好きになるのは当たり前だったが、その感情は他の誰に寄せる物とも違う。だがそれが何か判らない。それ故に伝えようも無い。元親はいらいらと頭を掻いて、溜息を吐くしかなかった。
屋敷に戻ると元就が急に立ち止まった。元就の背中ばかり見ていた元親は慌てて立ち止まり、そして元就の前に光秀が立っているのに気付いた。
「毛利殿、おかえりなさい。来ましたよ」
光秀がそう笑んで言うので、元親も彼がここに何をしに来たのか悟った。
「あ、明智。……今日だったのか、……先に言ってくれれば、用意もしたのに」
「いえいえ、用意は可愛がしてくれましたよ。私はただここで貴方の帰りを待っていただけです。一緒に夕餉を楽しもうと思いましてね」
「そ、……そうか。なら、……元親、すまぬがそなたは部屋に、」
「毛利殿」
元就が元親を下がらせようとすると、光秀は笑んだまま、
「元親殿も、ご一緒にどうかと、思うのですが」
と言った。光秀に恩が有る身の元就が、その提案に逆らう事は出来ない。元就は泣きそうな顔をして、元親を一度見て、そして判った、と静かに頷いた。元親は訳が判らなかったが、そのまま彼らに着いて、元就の部屋へと入る事になった。
それから元親は彼らの奇妙な夕餉と情事に同席する事になってしまった。元親は退席も当然参加も許されず、その一月に一度の奇妙な儀式を傍観する事になった。
まずは元就の前に水か酒のような透明な液体の満ちる杯が置かれた。そこに光秀がさらさらと何か粉を流し込んだ。元就はしばらく手をつけなかったが、やがて諦めたのかそれを一息に飲み干した。
そうすると夕餉というのは終わって、寝室に移動する事になった。元親も着いて来いと言われたので着いていくはめになり、挙句作業を手伝う事になってしまった。元就は液体を飲み干してしばらくするとくったりとしてしまい、心配している元親に光秀は縄を手渡してきた。両手両脚を動かないように固定し、ついでに声が出ないように轡をするようにと言われ、元親は仕方無く従った。元親には断る権利は無かった。
元就はぼうっと元親や光秀を見るばかりで、特に反応はしなかった。不器用ながらも元親が元就を縛り終えると、光秀は満足したように頷いて、元就の上半身を抱えておくように言った。元親は訳も判らず元就を抱いていた。
それから始まった情事はなんとも奇妙な物で、ただひたすら光秀は元就に奉仕をしているだけなのだ。元就は時折震えて元親の胸に顔を埋めて、びくりと痙攣しながら精を吐き出した。だが光秀は一向、それ以上の行為に及ぼうとはしない。
ただひたすら元就ばかりが快楽に溺れる、それだけの情事だった。ただその回数が増すたびに元就は辛そうに身を捩らせ、暴れようとするので、それを元親は出来るだけ優しく抱きこんでいる、本当に妙な情事で、元親も訳が判らず、特に嫌な気持ちにもならなかった。
元就は何度も苦しげに呻きながらも達し続けて、しまいにはぴくりともしなくなってしまった。元親は慌てたが、光秀は「大丈夫、いつもこれぐらいになると気を失うのですよ」と淡々と説明し、元就を縛っていた縄を解き始める。その際、「ああこんなに跡が着いて。元親殿、いいですか、人間の関節や筋肉の流れを見極めながら縛らなくては怪我をさせてしまいますよ」などと説教までされて、元親は益々訳が判らなくなった。
疲れ果てて眠ってしまった元就を置いて、二人は廊下に出た。もう夜も更けていた。元親と光秀は縁側に腰掛けて、空を見上げた。星は見えない。
「妙な情事だったでしょう」
「え、……あ、うん、そうだなあ」
元親は他に言いようも無く、ただ頷いた。確かに妙な情事だった。元就はともかく、光秀は何もしていないのと変わらないのだから。
「元親殿、これは秘密ですよ」
「お、おう」
「先日話した通り、恐らく私も純粋な人ではありません。しかも恐らくは人に有害な類です」
光秀はそう穏やかに言って、空を見上げる。
「私もお上に拾われて救われた人外なのです。お上は私がそうとは知らなかったのでしょうが。他ならぬ私が知らない事を他の人間が知っているとは思えませんからね。私は無事に成長しましたが、ある歳から人の命が食べたくなった。それもたまらなくです。月に一度、私は飢えて人を襲った。その度にお上は隠蔽する事になり、多大な迷惑をかけましたよ。
せめて迷惑をかけまいと、死体捨て場に行く事もよく有りました。既に遺棄されている命なら誰がどうしようと文句は言うまいと思って、死体を漁り、辛うじて生きている者を見つけたら食べました。そういう事を何年も繰り返していた時に、毛利殿を拾ったのです。毛利殿は雪の舞う中、ただ一人生きていた。私は毛利殿を連れ帰り、食べるつもりだったのですよ」
光秀はそう言って笑った。だからあの人が私に感謝をするのは筋違いな事なのです、と。
「けれど毛利殿を拾い、清めて食べようとしても、何故だか手が出ない。そのうちにあの人は特別だと、何かがそう訴え始めました。直感……でしょうかね。この子は普通ではない、と。私は彼を殺すのは諦めて、そして新たな方法を考えた。彼の精を死なない程度に食べるのはどうかと思いましてね。色々調べて、特別な薬も手に入れて、彼を一晩中愛でました。するとどうした事か、飢えが満ちましてね。
きっと同じ人外だからでしょうね。何か通い合うものが有るんでしょう。それからは飢える度に毛利殿のお世話になりました。毛利殿も私に恩を感じていたから、拒みはしなかったし、それで私が死体を漁らなくて済むならとむしろ喜んで協力してくれたのですよ。だから、私とあの人は貴方が思っているような関係では無いので、心配しないで下さいね」
光秀はそう言って元親を見た。元親はなんとなく光秀と眼を合わせられず、地面を見た。
「……じゃあ、巷で言われてるのは……」
「毛利殿が私の為に体を差し出しているのは確かですよ。でもそれは彼のためではなく、私のためです。彼が出世したのは、ひとえに彼が努力し、才能も有ったからです。私がつまらない贔屓をする人間に見えますか」
「……」
「毛利殿は良くも悪くも己を大事にしない。だから私の屋敷では昼も夜も無く働いて、私に尽くしてくれましたよ。けれど彼も人間です。彼にだって望みは有った。その望みを叶える為には、独立させねばならなかった。だから私は彼を手放したのです。ただ彼が許してくれる限りは、お世話になろうとは思っていますけどね」
「あいつの、望みって?」
元親が尋ねると、光秀は苦笑して言った。
「貴方にも判ると思いますが、人生で最も幸福だった時間を取り戻す事です。毛利殿は生まれが良かった。子供の頃は大層幸せな人だったんでしょう。ですが、毛利殿は既に大人になり、状況も変わってしまった。過去には決して戻れない。けれど毛利殿は過去を取り戻そうとなさっているのですよ」
「過去……?」
「何の悩みも無かった、幸せな頃に戻りたいんですよ、毛利殿は。家族が居て、友人が居て、何も知らずに毎日笑っていれば良かった頃にね」
不毛な事です。他ならぬ自分自身が時を経て変化してしまったのに、過去が戻るはずも無い。けれど我々は誰も彼がそう思う事を笑い、止める事は出来ません。誰もが輝かしい過去を持っているもので、誰もが叶わぬと判っていてその過去に憧れ涙せずにはいられない。美しくなった過去に救いを求めずにはいられない。毛利殿は特別強く過去に縛られていますが、その傾向は誰にでも有ります。だからもう、彼がしたいようにさせるしかないんですよ。
光秀はそう言うと立ち上がっていった。
「申し訳ありませんが、私は所用が有るので、今夜は帰らなくてはいけません」
「え……」
「毛利殿の側に居てくれませんか。布団に押し入っても構いません。まああの人の布団では貴方の体は飛び出てしまうでしょうが。あの方はあれでいて案外心が弱い方ですから、一人で眼が覚めたら不安になると思うのですよ。一部始終見られたのですから、もう恥ずかしくもないでしょうしね」
「……あんたなあ」
「これは毛利殿にも再三言っている事ですが、私は善人という種類の人間ではないのですよ」
では、よろしくお願いしますね。
光秀はそう言うとさっさと屋敷から出て行ってしまった。元親はしばらく縁側に座っていたが、やがて溜息を一つ吐いて、元就の側に戻った。元就は布団の中で眠っていたが、少し考えて布団の中に押し入った。確かに身体がはみ出すので、なんとか元就を抱え入れようとしていると、流石に元就は目覚めてしまった。
「……どうした、もとちか。われにしつぼうしたのでは、なかったのか」
眠たげにそう言う元就に、元親は笑みを浮かべて言ってやった。
「失望なんかするもんか。俺はあんたの事が好きなんだ。噂どおりの人間じゃなくて、かえって安心してるぐらいだぜ。……ほら、もう寝な。側に居てやるから」
元就は不思議そうな顔で元親を見ていたが、やがて、元親に身を擦り寄せて、目を閉じた。
ようやく判った。こいつら、お上とか言うのも含めて、順々に人助けをしたけど、変に卑屈になってるもんだから素直になれねえんだ。
元親はそんな事を考えながら、元就の頭を撫でて眼を閉じた。
俺はどうだろう。今は幸せだ、元就に感謝している。だけど、それでも俺は自由になりたい、黄泉に帰りたい。子供の頃に戻りたい。それは変わらない。元就の事を偉そうに言える立場じゃない。きっと俺はいつか、元就の側を離れて、黄泉に帰るだろうから。
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メディアノクス
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非公開
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妄想と堕落
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浦崎谺叉琉と美流=イワフジがてんやわんや。
二人とも変態。永遠の中二病。
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