何で二年前のファッション誌とか見るとありえねえーって
気持ちになるんでしょう。きっと二年後のファッション誌を
見たってありえねーと思うんでしょうけど
でも現在進行形の奴はふーんとか思ってしまうんだ
流行って恐ろしい
以下、鬼の9
ところでこのシリーズ、どのへんで今後の展開は読めるんでしょうか
気持ちになるんでしょう。きっと二年後のファッション誌を
見たってありえねーと思うんでしょうけど
でも現在進行形の奴はふーんとか思ってしまうんだ
流行って恐ろしい
以下、鬼の9
ところでこのシリーズ、どのへんで今後の展開は読めるんでしょうか
笑っていた光秀が、ところで少々お話が有るのですが、と元親に言ったので、二人は屋敷の客間に行く事になった。光秀は可愛から茶を受け取ると障子をぴっちりと閉じて、床に座ると、静かに切り出した。
「どう思います」
「何がだ」
「毛利殿の仰った事ですよ。嘘を吐くような人ではありません。つまり彼が見た青い龍というのは本物と言う事です」
「ああ、そうなんだろうな」
元親が素直に頷くと、光秀は言う。
「つまり、青い龍が雷を体に取り込み天に昇ったというわけです。それは我々が一般に知っている人外の常識では考えられない事なのですよ。神仏の類と龍は違うと教えられて来たのです。近頃捕獲され、売買されている龍は地を這う蛇の化け物と考えられていた。ですが、……時期から考えて、その龍は恐らく、例の商人から盗まれたものだと思うのです。あれもあまり多くは出回りませんから」
「……つまり、……ただの家畜だと思って捕まえた龍が、実は本当に神仏の龍だったって事か?」
「ええ。神仏だとすれば、人間に飼われる事を許さない方々が居ます。所謂神職の方々です。彼らは神仏と語らい天からの声を聞きます。我々はずっと、彼らはただの戯言を言っているのだと信じてきましたが、……実は彼らは本当に神仏と繋がっているのかもしれない」
光秀はそう言ったが、元親には良く判らなかった。人間の世界の事はまだ良く判らない。神職と言われても、どういうものなのか具体的には判らなかったし、光秀が何故そんな事を言い出したのかも判らなかった。
「……つまり、あんたは何が言いたいんだ? 悪いが、良く判らないんだ」
元親が素直にそう言うと、光秀は柔らかく笑んで答えた。
「この世には数多くの神仏と、実在する人外が居ます。その神仏と人外は別のものだと考えられてきたのですが、……もしかすると同一の物が何らかの形で力を失ったものが、所謂人外なのではないかと思ったのですよ。貴方も本当は我々が伝承の中で伝え聞く鬼だったのかもしれない、けれど何らかの理由で力を失い、ただの巨漢になった可能性は有る」
「俺達が、本当に地獄に住んでいる鬼だったって?」
「確証は有りませんし、だとしたら何故そのような生き物が地上に現れ、しかも隠れ住んでいるのか、私にも良く判りません。……ただこれは私の憶測ですが、彼らは人間と血を交えたのではないでしょうか」
「血を交える。……子を成したって事か」
「血は混ざり、力は徐々に失われていった。そして人間と殆ど変わらぬ、少し外見の異なる種族が生まれた。けれどそれらは力を持たず、経緯を忘れた人間達には奇異に見え、迫害し追い詰め、そして人外と呼ばれた彼らは隠れ里に忍んだ。……そういう可能性も有るんじゃないかと、思いましてね」
「……なんでそんな事、考えるんだ? どうだっていい事じゃないか」
元親が不思議そうに首を傾げると、光秀は一層声を潜めて言った。
「これは私と貴方、そして毛利殿だけの秘密ですよ」
「……お、おう」
「……私が毛利殿に与えた妖刀です。人に操れぬ力を毛利殿は操った。そして毛利殿を襲った男は雷で人を切り裂き、そしてその男は龍の子を天に帰した」
「……」
「龍を天に帰すという使命で人を殺めるなど、まして雷を操るなど、常人の成す事ではない。よほど強く龍に繋がっている人物です。当然、彼は賊などでは無かったはずだ。恐らく、神職の方です。龍神を祀っている一派の誰かが、龍を助け出したのでしょう」
「それと、元就になんの関係が?」
「いいですか、元親殿」
光秀は元親に近寄ると、小さな声で言った。
「それに対抗して引き抜いたなまくら刀が、光を帯びた。それを見て男は言った。見たところ俺達と同類のようだ、とね。……つまりですよ、毛利殿は恐らく、元は神職なのです」
元親は怪訝な顔をして、光秀を見る。
「あんた、あいつの飼い主だったんだろ、その辺の事情は知らないのか」
「彼は己の過去を固く閉じている。私にも判らない事が多いのです。もし毛利殿の言った事が全て正しいのなら、毛利殿は神仏と繋がる事が出来る神職の血を引いている。……ここで、何故神職はそのような奇異な力を使いこなす事が出来るか、と考えると、貴方達人外の存在や祀る神仏の数を考えて、……これは憶測に過ぎませんが、神職の人間は神仏との血が混ざり薄まった者なのではないかと思うのです」
「……つまり、元就を襲った奴は、龍と人の子って事か?」
「直接龍の子ならば、龍の外見が多く残るでしょうから、もっと何代も何代も人と交じり合って、限り無く人に近くなっていと仮定するなら、人の中で暮らし、かつ特殊な力を使いこなすのにも納得がいきます。またそのような特殊な力を、人々の役に立つ形で使ったならば、無知な民より信仰されて神職となる事も出来るでしょう。もし人に害をなす力を使ったならば、悪鬼の類として迫害される。そのような流れもあるでしょう」
「……」
「だとしたら、毛利殿があの刀を使いこなした事も、彼が神仏の力を持っていると考えれば説明はつきますし、それに私が彼を、そして貴方が彼を気に入っている理由にもなる」
「……………………ん?」
元親はそこで首を傾げた。何か話がおかしいような気がしたのだ。
「……俺はともかく、……あんたが元就を気に入っている理由って、……その事に関係有ると、……したら……」
元親が言いながら気付いて、まさか、と光秀を見ると、彼は柔らかく笑んだ。
「だから、貴方と私と毛利殿の秘密、なのですよ。判りましたか?」
「……」
元親が呆然としていると、光秀は茶を飲み、そして一息吐いてから「それはさておき」と呟く。
「聞いていますよ。道場で厄介な事を起こしたそうですね」
「……!」
元親は驚いて光秀を見る。彼は元親を見ないまま、もう一度茶を飲んで言った。
「私は毛利殿の上司に当たります。当然、私のところにも報告は来ますとも」
「そ、そっか……」
「判っているとは思いますが、規約を破った者は引き裂きの刑です。手足を縛り、それぞれを器具に取り付け、ゆっくりと引っ張ります。絶命するまでには一刻ほどかけるのが私の一番好むところです」
「……」
元親はその死に様を想像して顔を青くさせたが、やがて首を振った。
「そういう規約なら、俺も大人しく、従うしかねえ……それがあいつのためにもなるんだろ……?」
元親が静かに言うと、光秀は小さく笑った。
「元親殿は歴史は繰り返すという言葉をご存知ですか?」
「……?」
「同じ事が何度も起こるのです。大きな事にしろ、小さな事にしろ、ね。……貴方への処置は毛利殿に一任しております。私の知るところではありません。後日改めて毛利殿に処罰されるがよろしいでしょう」
「……」
「では、そろそろ私は帰ります。毛利殿の怪我もそれほど悪くないようですし。……傷が癒えた頃に、また来ます。まあ、貴方には用は無いですがね」
光秀はそう言うと部屋から出て行った。元親はただそれを見送る以外に何も出来なかった。
元親が元就に呼び出されたのは、光秀が帰ってからしばらくした時だった。元親は覚悟を決めて、静かに元就の所へ向かった。部屋に入ると、元就は上体を起こして、元親をじっと見ている。元親はその側に座って、畳ばかり見て元就と眼を合わせなかった。
「聞いたぞ。道場で騒ぎを起こしたそうだな。挙句に人を傷付けたとか。確かか?」
「ああ……」
元親が素直に頷くと、元就は溜息を吐いて言う。
「理由無く人間を傷付けてはならぬ。それは良く理解しておったはずだ。何故、暴れた? 理由を申せ」
「……」
「元親」
元就が促すので、元親は仕方なく口を開いた。道場の人間に、元就の悪口を言われた、それが許せなくて、カッとなってしまったのだ、と。
事情を聞き終わると、元就は優しく笑んで言った。
「つまらぬ理由だ。理由にもならぬ。そなたは刑に処さねばならぬ」
「だが、……だが、あいつらは、お前の事を、」
「元親」
元就は元親の言葉を制して言う。
「人として暮らすなら、本当の事を言われて怒ってはならぬ」
「本当の事って、」
「そなたも知っておるはずだ。我は奴等の言うとおりの淫売よ。明智に身を任せ、その見返りに地位を得た成金に相違無い。それにそなたが知らぬだけで、我もそれなりに薄汚い事をして成り上がったのだ。その事を怒るなどと無意味もいいところ」
まして、と元就は続ける。
「下らぬ陰口程度に怒りを露にし、挙句暴れまわるようでは子供と変わらぬ。人間と共に生きるならば上手く立ち回らねば、この先何度でも揉め事を起こす事になるぞ。以後、気を付けるがよい」
「以後って、……俺、死ぬんだろう」
元親が言うと、「ああ」と元就は頷いて言う。
「だがそもそも、規約を破っていないならば問題が無いだろう」
「何言ってんだ、俺は人を傷付けた。それもあんたの言うところの、下らない理由でだぞ」
元親が怪訝な顔をすると、元就は柔らかく笑む。
「仏の顔も三度までと言うてな。だが我は人だ、だから一度までだ。二度は許さぬ。此度は我が何とかするが、……次は無いぞ。良いな、元親」
「なんとかって、……なんとかなるのか?」
「一度しか使えぬ手だ、なんとかなるものではない。次は殺す」
元親はその言葉に、頭を下げた。すまねぇ、と言うと、元就は一つ溜息を吐いて、言った。
「……だがな、元親。そなたが我を庇った事は、……嬉しい」
ありがとう。
元就はそう言って元親の頭を撫でた。元親はたまらず顔を上げて、元就に抱きついた。怪我が痛まぬよう、優しく引っ付くと、元就は苦笑して、元親の頭を撫でた。
元就の容態が安定すると、元就は元親を連れて道場を訪れた。師範は元就に気付くと、問題の怪我をした三人を呼び、奥の部屋へ入る。元就達もそれに続いた。
三人はにやにやと元就と元親を見ていた。師範は静かに元就を見ている。元親は不安になって元就を見たが、彼もまた薄く笑っていた。
「この度は、我の家畜が怪我をさせたとか。まことならば深く詫び、責任を取りこれを引き裂きの刑に処するが、間違いは無いか」
元就が言うと、「ええ」と三人は大きく頷いた。師範を見ると、彼は「申し訳ない」と言う。
「私が外出していた時の出来事で、私にはなんとも……」
「では、御三方が怪我をしたという事で相違無いな」
元就はそう言うと納得したように頷いて言った。
「では我等は責任を持ち、この家畜を処分致す。真に申し訳無い事をした。処刑に際しては広く下々にもその有様を見せ、今後同様の事が起こらぬようにすべきと考えるが、いかがか」
「そうしていただけるとありがたい」
三人は嬉しそうに笑った。元親は不安げに元就を見たが、彼はやはり笑っていた。
「ならば、御三方はこの道場にて武術を学びながら、鬼を退治出来ずに怪我をなさった武人という事を世間に知らしめねばなりますまい。この道場の評判も、御三方の家の評判も地に落ちようが、それは致し方無い事。処罰に際しては必要な犠牲と覚悟なされよ」
元就がそう言うと、三人はぎょっとした顔で元就を見た。師範はただ黙ってそんな様子を見ている。
「も、毛利殿、それはあまりな事」
「何を仰るか。御三方は我の家畜に襲われ、怪我をなさった。つまり飼い犬に手を咬まれたようなもの、そのような不届きな犬は殺すに限る。御三方は犬に手を咬まれたと思うておられれば良い。道場にて武術を学び、まして訓練用の武具を持っていてまで鬼に負けたという事は、今後鬼を飼う者にとっても良い教訓になる。退治するはずの人間が鬼に負けるという事を、世間に知らしめるのは当然の事。その結果、御三方とこの道場は何の力も無いものと世間が判断してもそれは仕方の無い事」
「何も知らしめずとも、秘密裏に処断しては、」
「何を仰るか!」
元就はそこで大声を上げた。三人はびくりとして黙る。元就は怒ったような表情を浮かべて、強い口調で言う。
「罪人を罰するは、同じ過ちが繰り返されぬ事を望むが故、ならば世間に知らしめずして処分に何の意味が有るか。それにもまして、不当な裁きをせぬがために公で罰するのであり、それを拒み秘密裏に行う事をお望みならば、不当が有ると暗に知らしめる事になりますぞ。軽率にそのような事を申しませぬよう。……では、早速手はずを致します故」
元就がそう言って立ち上がろうとすると、三人のうちの一人が慌てて声を上げた。
「も、毛利殿!」
「まだ何かお有りか。ああまだ頭を下げておらなんだ、これはいかぬ事。今下げます故……」
「そ、そうではなく! あ、……わ、私どもはその……け、怪我は致しましたが、その鬼のせいではなく!」
その言葉に元就は首を傾げる。
「はて、先ほどまでと仰っている事が異なるが」
「よ、よくよく思い出したら、そう、段差に躓いて転んだだけで!」
「転んだだけ」
「つまり、その、……鬼のせいではありませぬ! 我らが勝手に転んだだけですので、今回の事はお気になさらず、あ、謝るような事もありませぬ! なあ」
男は他の二人にもそう言って、そして彼らも頷いた。元就は首を傾げたまま、
「それでは、御三方は鬼に負け、怪我をしたという事では無いと」
と言う。三人が大きく頷いたので、元就も笑って頷く。
「それは良かった、苦労して手に入れた家畜故、殺すのは惜しかったのだ。いや、御三方、ならば御養生なさるといい。頭のほうも少々打っているものとお見受けする」
では、これにて。
元就はそう言うと、元親を連れて出て行った。元親は呆気に取られていたが、先を行く元就が「二度は使えぬ手だ、次からは気を付けるように」と念を押したので、慌てて尋ねる。
「どうしてあいつら、引き下がったんだ?」
「奴等は親が貴族に成った連中だ。親の力をいい事に大きな顔をしているだけでな。それ故、今回の失態を親に隠さねばならぬのだ。もしそなたを処罰するために事を進めれば、我の申した通りの事が起こる。貴族は武人としての名も高くなければならぬから、伝承によれば人に退治されるはずのものに勝てぬとあれば貴族も、それに武術を仕込む道場も出来損ないというわけよ。そのような事態、許すわけにはいくまい」
だが、次は無いぞ。
元就はそう言って元親に振り返った。
「見ろ、我はそなたが思っておるほど聖人ではない」
そう言って笑うので、元親は首を振って言った。
「あんたはいい人だよ、俺を庇ってくれた。俺はあんたの事が好きだ」
「……」
元就はしばらく反応しなかったが、やがて悲しそうに笑うと、「すまぬな」とそれだけ呟いて、また歩き始めた。
「どう思います」
「何がだ」
「毛利殿の仰った事ですよ。嘘を吐くような人ではありません。つまり彼が見た青い龍というのは本物と言う事です」
「ああ、そうなんだろうな」
元親が素直に頷くと、光秀は言う。
「つまり、青い龍が雷を体に取り込み天に昇ったというわけです。それは我々が一般に知っている人外の常識では考えられない事なのですよ。神仏の類と龍は違うと教えられて来たのです。近頃捕獲され、売買されている龍は地を這う蛇の化け物と考えられていた。ですが、……時期から考えて、その龍は恐らく、例の商人から盗まれたものだと思うのです。あれもあまり多くは出回りませんから」
「……つまり、……ただの家畜だと思って捕まえた龍が、実は本当に神仏の龍だったって事か?」
「ええ。神仏だとすれば、人間に飼われる事を許さない方々が居ます。所謂神職の方々です。彼らは神仏と語らい天からの声を聞きます。我々はずっと、彼らはただの戯言を言っているのだと信じてきましたが、……実は彼らは本当に神仏と繋がっているのかもしれない」
光秀はそう言ったが、元親には良く判らなかった。人間の世界の事はまだ良く判らない。神職と言われても、どういうものなのか具体的には判らなかったし、光秀が何故そんな事を言い出したのかも判らなかった。
「……つまり、あんたは何が言いたいんだ? 悪いが、良く判らないんだ」
元親が素直にそう言うと、光秀は柔らかく笑んで答えた。
「この世には数多くの神仏と、実在する人外が居ます。その神仏と人外は別のものだと考えられてきたのですが、……もしかすると同一の物が何らかの形で力を失ったものが、所謂人外なのではないかと思ったのですよ。貴方も本当は我々が伝承の中で伝え聞く鬼だったのかもしれない、けれど何らかの理由で力を失い、ただの巨漢になった可能性は有る」
「俺達が、本当に地獄に住んでいる鬼だったって?」
「確証は有りませんし、だとしたら何故そのような生き物が地上に現れ、しかも隠れ住んでいるのか、私にも良く判りません。……ただこれは私の憶測ですが、彼らは人間と血を交えたのではないでしょうか」
「血を交える。……子を成したって事か」
「血は混ざり、力は徐々に失われていった。そして人間と殆ど変わらぬ、少し外見の異なる種族が生まれた。けれどそれらは力を持たず、経緯を忘れた人間達には奇異に見え、迫害し追い詰め、そして人外と呼ばれた彼らは隠れ里に忍んだ。……そういう可能性も有るんじゃないかと、思いましてね」
「……なんでそんな事、考えるんだ? どうだっていい事じゃないか」
元親が不思議そうに首を傾げると、光秀は一層声を潜めて言った。
「これは私と貴方、そして毛利殿だけの秘密ですよ」
「……お、おう」
「……私が毛利殿に与えた妖刀です。人に操れぬ力を毛利殿は操った。そして毛利殿を襲った男は雷で人を切り裂き、そしてその男は龍の子を天に帰した」
「……」
「龍を天に帰すという使命で人を殺めるなど、まして雷を操るなど、常人の成す事ではない。よほど強く龍に繋がっている人物です。当然、彼は賊などでは無かったはずだ。恐らく、神職の方です。龍神を祀っている一派の誰かが、龍を助け出したのでしょう」
「それと、元就になんの関係が?」
「いいですか、元親殿」
光秀は元親に近寄ると、小さな声で言った。
「それに対抗して引き抜いたなまくら刀が、光を帯びた。それを見て男は言った。見たところ俺達と同類のようだ、とね。……つまりですよ、毛利殿は恐らく、元は神職なのです」
元親は怪訝な顔をして、光秀を見る。
「あんた、あいつの飼い主だったんだろ、その辺の事情は知らないのか」
「彼は己の過去を固く閉じている。私にも判らない事が多いのです。もし毛利殿の言った事が全て正しいのなら、毛利殿は神仏と繋がる事が出来る神職の血を引いている。……ここで、何故神職はそのような奇異な力を使いこなす事が出来るか、と考えると、貴方達人外の存在や祀る神仏の数を考えて、……これは憶測に過ぎませんが、神職の人間は神仏との血が混ざり薄まった者なのではないかと思うのです」
「……つまり、元就を襲った奴は、龍と人の子って事か?」
「直接龍の子ならば、龍の外見が多く残るでしょうから、もっと何代も何代も人と交じり合って、限り無く人に近くなっていと仮定するなら、人の中で暮らし、かつ特殊な力を使いこなすのにも納得がいきます。またそのような特殊な力を、人々の役に立つ形で使ったならば、無知な民より信仰されて神職となる事も出来るでしょう。もし人に害をなす力を使ったならば、悪鬼の類として迫害される。そのような流れもあるでしょう」
「……」
「だとしたら、毛利殿があの刀を使いこなした事も、彼が神仏の力を持っていると考えれば説明はつきますし、それに私が彼を、そして貴方が彼を気に入っている理由にもなる」
「……………………ん?」
元親はそこで首を傾げた。何か話がおかしいような気がしたのだ。
「……俺はともかく、……あんたが元就を気に入っている理由って、……その事に関係有ると、……したら……」
元親が言いながら気付いて、まさか、と光秀を見ると、彼は柔らかく笑んだ。
「だから、貴方と私と毛利殿の秘密、なのですよ。判りましたか?」
「……」
元親が呆然としていると、光秀は茶を飲み、そして一息吐いてから「それはさておき」と呟く。
「聞いていますよ。道場で厄介な事を起こしたそうですね」
「……!」
元親は驚いて光秀を見る。彼は元親を見ないまま、もう一度茶を飲んで言った。
「私は毛利殿の上司に当たります。当然、私のところにも報告は来ますとも」
「そ、そっか……」
「判っているとは思いますが、規約を破った者は引き裂きの刑です。手足を縛り、それぞれを器具に取り付け、ゆっくりと引っ張ります。絶命するまでには一刻ほどかけるのが私の一番好むところです」
「……」
元親はその死に様を想像して顔を青くさせたが、やがて首を振った。
「そういう規約なら、俺も大人しく、従うしかねえ……それがあいつのためにもなるんだろ……?」
元親が静かに言うと、光秀は小さく笑った。
「元親殿は歴史は繰り返すという言葉をご存知ですか?」
「……?」
「同じ事が何度も起こるのです。大きな事にしろ、小さな事にしろ、ね。……貴方への処置は毛利殿に一任しております。私の知るところではありません。後日改めて毛利殿に処罰されるがよろしいでしょう」
「……」
「では、そろそろ私は帰ります。毛利殿の怪我もそれほど悪くないようですし。……傷が癒えた頃に、また来ます。まあ、貴方には用は無いですがね」
光秀はそう言うと部屋から出て行った。元親はただそれを見送る以外に何も出来なかった。
元親が元就に呼び出されたのは、光秀が帰ってからしばらくした時だった。元親は覚悟を決めて、静かに元就の所へ向かった。部屋に入ると、元就は上体を起こして、元親をじっと見ている。元親はその側に座って、畳ばかり見て元就と眼を合わせなかった。
「聞いたぞ。道場で騒ぎを起こしたそうだな。挙句に人を傷付けたとか。確かか?」
「ああ……」
元親が素直に頷くと、元就は溜息を吐いて言う。
「理由無く人間を傷付けてはならぬ。それは良く理解しておったはずだ。何故、暴れた? 理由を申せ」
「……」
「元親」
元就が促すので、元親は仕方なく口を開いた。道場の人間に、元就の悪口を言われた、それが許せなくて、カッとなってしまったのだ、と。
事情を聞き終わると、元就は優しく笑んで言った。
「つまらぬ理由だ。理由にもならぬ。そなたは刑に処さねばならぬ」
「だが、……だが、あいつらは、お前の事を、」
「元親」
元就は元親の言葉を制して言う。
「人として暮らすなら、本当の事を言われて怒ってはならぬ」
「本当の事って、」
「そなたも知っておるはずだ。我は奴等の言うとおりの淫売よ。明智に身を任せ、その見返りに地位を得た成金に相違無い。それにそなたが知らぬだけで、我もそれなりに薄汚い事をして成り上がったのだ。その事を怒るなどと無意味もいいところ」
まして、と元就は続ける。
「下らぬ陰口程度に怒りを露にし、挙句暴れまわるようでは子供と変わらぬ。人間と共に生きるならば上手く立ち回らねば、この先何度でも揉め事を起こす事になるぞ。以後、気を付けるがよい」
「以後って、……俺、死ぬんだろう」
元親が言うと、「ああ」と元就は頷いて言う。
「だがそもそも、規約を破っていないならば問題が無いだろう」
「何言ってんだ、俺は人を傷付けた。それもあんたの言うところの、下らない理由でだぞ」
元親が怪訝な顔をすると、元就は柔らかく笑む。
「仏の顔も三度までと言うてな。だが我は人だ、だから一度までだ。二度は許さぬ。此度は我が何とかするが、……次は無いぞ。良いな、元親」
「なんとかって、……なんとかなるのか?」
「一度しか使えぬ手だ、なんとかなるものではない。次は殺す」
元親はその言葉に、頭を下げた。すまねぇ、と言うと、元就は一つ溜息を吐いて、言った。
「……だがな、元親。そなたが我を庇った事は、……嬉しい」
ありがとう。
元就はそう言って元親の頭を撫でた。元親はたまらず顔を上げて、元就に抱きついた。怪我が痛まぬよう、優しく引っ付くと、元就は苦笑して、元親の頭を撫でた。
元就の容態が安定すると、元就は元親を連れて道場を訪れた。師範は元就に気付くと、問題の怪我をした三人を呼び、奥の部屋へ入る。元就達もそれに続いた。
三人はにやにやと元就と元親を見ていた。師範は静かに元就を見ている。元親は不安になって元就を見たが、彼もまた薄く笑っていた。
「この度は、我の家畜が怪我をさせたとか。まことならば深く詫び、責任を取りこれを引き裂きの刑に処するが、間違いは無いか」
元就が言うと、「ええ」と三人は大きく頷いた。師範を見ると、彼は「申し訳ない」と言う。
「私が外出していた時の出来事で、私にはなんとも……」
「では、御三方が怪我をしたという事で相違無いな」
元就はそう言うと納得したように頷いて言った。
「では我等は責任を持ち、この家畜を処分致す。真に申し訳無い事をした。処刑に際しては広く下々にもその有様を見せ、今後同様の事が起こらぬようにすべきと考えるが、いかがか」
「そうしていただけるとありがたい」
三人は嬉しそうに笑った。元親は不安げに元就を見たが、彼はやはり笑っていた。
「ならば、御三方はこの道場にて武術を学びながら、鬼を退治出来ずに怪我をなさった武人という事を世間に知らしめねばなりますまい。この道場の評判も、御三方の家の評判も地に落ちようが、それは致し方無い事。処罰に際しては必要な犠牲と覚悟なされよ」
元就がそう言うと、三人はぎょっとした顔で元就を見た。師範はただ黙ってそんな様子を見ている。
「も、毛利殿、それはあまりな事」
「何を仰るか。御三方は我の家畜に襲われ、怪我をなさった。つまり飼い犬に手を咬まれたようなもの、そのような不届きな犬は殺すに限る。御三方は犬に手を咬まれたと思うておられれば良い。道場にて武術を学び、まして訓練用の武具を持っていてまで鬼に負けたという事は、今後鬼を飼う者にとっても良い教訓になる。退治するはずの人間が鬼に負けるという事を、世間に知らしめるのは当然の事。その結果、御三方とこの道場は何の力も無いものと世間が判断してもそれは仕方の無い事」
「何も知らしめずとも、秘密裏に処断しては、」
「何を仰るか!」
元就はそこで大声を上げた。三人はびくりとして黙る。元就は怒ったような表情を浮かべて、強い口調で言う。
「罪人を罰するは、同じ過ちが繰り返されぬ事を望むが故、ならば世間に知らしめずして処分に何の意味が有るか。それにもまして、不当な裁きをせぬがために公で罰するのであり、それを拒み秘密裏に行う事をお望みならば、不当が有ると暗に知らしめる事になりますぞ。軽率にそのような事を申しませぬよう。……では、早速手はずを致します故」
元就がそう言って立ち上がろうとすると、三人のうちの一人が慌てて声を上げた。
「も、毛利殿!」
「まだ何かお有りか。ああまだ頭を下げておらなんだ、これはいかぬ事。今下げます故……」
「そ、そうではなく! あ、……わ、私どもはその……け、怪我は致しましたが、その鬼のせいではなく!」
その言葉に元就は首を傾げる。
「はて、先ほどまでと仰っている事が異なるが」
「よ、よくよく思い出したら、そう、段差に躓いて転んだだけで!」
「転んだだけ」
「つまり、その、……鬼のせいではありませぬ! 我らが勝手に転んだだけですので、今回の事はお気になさらず、あ、謝るような事もありませぬ! なあ」
男は他の二人にもそう言って、そして彼らも頷いた。元就は首を傾げたまま、
「それでは、御三方は鬼に負け、怪我をしたという事では無いと」
と言う。三人が大きく頷いたので、元就も笑って頷く。
「それは良かった、苦労して手に入れた家畜故、殺すのは惜しかったのだ。いや、御三方、ならば御養生なさるといい。頭のほうも少々打っているものとお見受けする」
では、これにて。
元就はそう言うと、元親を連れて出て行った。元親は呆気に取られていたが、先を行く元就が「二度は使えぬ手だ、次からは気を付けるように」と念を押したので、慌てて尋ねる。
「どうしてあいつら、引き下がったんだ?」
「奴等は親が貴族に成った連中だ。親の力をいい事に大きな顔をしているだけでな。それ故、今回の失態を親に隠さねばならぬのだ。もしそなたを処罰するために事を進めれば、我の申した通りの事が起こる。貴族は武人としての名も高くなければならぬから、伝承によれば人に退治されるはずのものに勝てぬとあれば貴族も、それに武術を仕込む道場も出来損ないというわけよ。そのような事態、許すわけにはいくまい」
だが、次は無いぞ。
元就はそう言って元親に振り返った。
「見ろ、我はそなたが思っておるほど聖人ではない」
そう言って笑うので、元親は首を振って言った。
「あんたはいい人だよ、俺を庇ってくれた。俺はあんたの事が好きだ」
「……」
元就はしばらく反応しなかったが、やがて悲しそうに笑うと、「すまぬな」とそれだけ呟いて、また歩き始めた。
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