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めでぃのくの日記
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2008-06-07 (Sat)
 掲載スピード落とすと言っておいて
 実際落ちたのは文章の質だとは思う
 だがこのモチベーションは長くは続かないから
 勢いに任せて最後まで書ききる以外に方法が無いのだ
 最後まで書きたいならそうしないとかかる時間が5倍ぐらいに増える
 そんな感じです


 以下、鬼の7

 元親は元就を信じる事にした。

 元就の中の暗い物は確かに存在するし、彼が自分達と同じ地獄を知っている事は間違いない。その恐ろしく暗い記憶は元親も決して思い出したくないものだ。それを引きずり出してまで逃げなかった元就を、それ以上苦しめるような事は、元親には出来なかった。

 元就はそれからまた数日、元親の前に姿を現さなかったが、ある日、可愛と元春を連れてやって来た。元春は槍を持って格子の外に控えている。

「すまぬな。万が一の時に備えて、どうしても言うのだ」

「いや、かまわねぇよ。ただ何もしてないのに刺したりはしねぇでくれよ?」

「心配無い。あれも武人ゆえ、卑怯な真似はせぬ」

 元就はそう言って、可愛を元春の側に残すと元親の側に寄った。手には首輪と枷が有ったが、鎖などは付いていなかった。

「すまぬが、そなたを仮の自由にするには、3つの条件が有る。一つ、常にこの5つの枷を身に着ける事。これには我が家紋と、そなたに与えられた名が刻まれておる。これがそなたを守る。これを外すと殺されると思うておけ」

「……判った」

「二つ、我ら毛利家、そして明智家の者、あるいはそなたを信頼していると確実に言える者の側に、常にある事。可愛ら従者でもよい。決して一人にならぬ事。一人で出歩けば枷の有る無しに関わらず殺される。よいな」

「……随分な自由だな」

 元親が苦笑すると、元就も苦い顔をする。

「我等の間でそなたとの信頼が築けても、世間には認められておらぬ。飼い犬を放し飼いには出来ぬように、そなたの事も、そなたへの信頼が世間一般のものにならぬ限りは監視しておかねばならぬ。だが定められた規定を守り、人らしく生きられると判れば、制限は軽くなり、いずれは自由を得る事も出来る。それまでは三つの規約を厳守するように」

「仕方無ぇな……三つ目は?」

「何、簡単な事よ。理由無く人を傷付けてはならぬ。判りやすかろう。これを破った場合は、我が責任を持ってそなたを引き裂きの刑に処する故、覚悟しておく事だ」

「……引き裂き、って……」

「四肢に縄を括りつけ、それぞれをじわじわと引っ張り、死ぬまで続ける。……明智家の伝統的な処罰だ、我の趣味ではない故、誤解はするな」

「……」

 元親は露骨に嫌そうな顔をしてみせたが、元就は「その代わり、良く働いた者には独立を許す。何事も極端なのだ、明智は」と言って、枷を差し出した。

「以上の規約に従うなら、これを着け、ここから出せる。従うか?」

 元親はすぐに「もちろんだ」と頷いた。元就は笑んで、自ら枷を元親に括りつけた。

「これで良い。可愛、格子を開け」

 元就が命じると、可愛いが戸を開く。元春は槍を握り直したが、構えはしなかった。

「すまぬが、我はこれから用事で外出する故、側に居てやれぬ。可愛と元春が屋敷を案内する。良い子にしておるのだぞ」

 元就はそう言うと開いた戸から出て行ってしまった。元親は恐る恐る格子に近寄ると、入り口に手を翳した。格子の結界に触れるのはかなり痛いのだ。手に衝撃が走らない事を確認すると、元親はゆっくりと戸をくぐった。無事廊下に出る事が出来、安心していると、可愛が声をかけてきた。

「さ、元親さん、行きましょう。元春様の事はお気になさらず。戦うのが仕事の方なのですから」

 可愛はそう言って笑うと、元親の前を歩き始めた。元親はその後を大人しく着いて行く。更に元春が続いた。元親は槍を向けられているので落ち着かなかったが、元春はただ万が一に備えているだけなのだ、と言い聞かせて信じた。そもそも元就や可愛のように、あっさり鬼を信用しきってしまうほうがおかしいのだ。

 可愛は屋敷の中を案内してくれた。元親が思っていたよりも、屋敷は狭かった。元親の部屋と同じような部屋が6つあり、その殆どが質素だった。元就の部屋は二つ有り、一つは貴族らしく珍しい物を並べた華美なもので、仕事場でもある所、もう一つは寝室で、こちらには全く変わった物は無かった。その他に厨房や客間、従者の部屋が有ったが、どこも必要な物しか置いていない。

「元就様は成功しお上に認められるためなら何でもなさるお方ですが、逆に言うと、それに必要無い物事には全く関心が無いのです」

「へぇ。じゃああの部屋の物は、文字通り飾りってわけか」

「名品、珍品を理解し所有する事は、貴族としての格を示せますから。特に茶道具や、刀、人外さんなどが良く収拾され……あ、ごめんなさい」

「いや、いいよ。そうなんだろうとは思ってたからな」

 貴族間で何度も売買された元親も、それぐらいの事は理解出来ていた。高価で珍しい物を持っているほど、貴族の発言力は上がる。元就自身もそれが目的だと元親を買う時に言っていたから、特に嫌な気持ちにはならなかった。

「凶暴な鬼を飼い慣らしたとありゃあ、名も上がるんだろうな」

「それは……そうですけれど、元就様は必要以上に元親さんを見せびらかしたりはしないと思いますよ、きっと」

 可愛はそう言って、元春を見た。

「それはそうと、……元就様がお団子を用意してくださったんです。三人で食べましょう。縁側で、お花でも見ながら。ねぇ元春様」

 元春は頷かなかったが、拒みもしなかった。可愛は早速厨房に入って、団子をいくつかと茶を運んで来た。三人は縁側に腰掛けて、空や花を見ながらそれを食べる。

 青空が眩しく、風は柔らかかった。陽の光は木の葉に揺らぎ、花は鮮やかに揺れた。初めて食した団子という物は、とても甘く美味で、元親は思わず顔を綻ばせた。元春も槍を置いて食べている。少しは警戒も解けてきたらしい。全てが喜ばしくて、元親は笑った。

「……じゃあよう、あいつがお上ってのに仕えて、そんなに立身出世したい理由ってなんなんだ? 貴族様の趣味に興味が無ぇなら、金が欲しいわけでもないだろうし、明智って奴に恩を感じてるったって、それなら独立なんてしないで、ずっと明智の下で働くもんだろ? あんたらみたいに」

 元親が尋ねると、可愛と元春は顔を見合わせる。やがて可愛の方が困ったような顔で言った。

「元就様はあまりご自分の事を詳しく語る方ではありませんから、私共も確かな事は判らないのですが……」

「が?」

「貴族として成功しないと手に入らない物が有る、というような事をおっしゃっていました。……これは推測ですけれど、人は誰しも幸福を求めるものでしょう? あの方がここまで必死になられるのも、きっとそれに関係しているのだと思うのです」

「つまり、あいつにとっての幸せってのは、貴族として成功したら手に入る物を、手に入れる事ってわけか? ……しかし、そりゃ何だ?」

「さぁ、私達凡人には判りかねますが、……邪推するに、殿方がそれ程必死に求められるのなら、もしかしたら女人かもしれませんね」

「女ぁ?」
 
 元親が素っ頓狂な声を上げると、可愛はくすくす笑って言う。

「恋をすると誰しも狂うと言いますもの。高貴な女性とは地位の低い者は会う事も出来ませんし、案外この線はいいかもしれませんよ」

「どうしても会いたい女、ねぇ」

 確かに元就の行動は少々異常だ。人を狂わせるという恋が原動力だとしたら、彼の奇行も説明がつくかもしれなかった。誰か、そんなにまで会いたい人が彼には居るのかもしれない。そう考えると何故だか少し不愉快な気持ちになって、元親は訳も判らず首を傾げた。





 元親は新たな部屋を用意してもらい、そこで生活する事になった。

 毎日自由に屋敷の中をうろついて、時間を潰した。初めこそ従者達は元親を警戒していたが、彼が特に問題を起こさないので、やがて心を許した。元親に人としての常識や文字などを教えるようになった。元親はその礼にと進んで力仕事を受け持ち始めた。

 従者達と笑い話をしたり、一緒に食事を摂ったりして元親は毎日自由を楽しみ喜び、そしてその幸福に涙した。

 生きてこんな極楽に来れるなど、元親は考えた事も無かった。自由は求めたが、それがどういうものなのか想像も出来なかった。ずっとこの先も地獄で生きてそして死ぬのだと信じていた。

 こんなに温かい連中に囲まれて、笑って暮らせるなんて。

 元親は毎晩名も知らぬ何かに感謝し涙したが、やがて毛利家の人々が従者も含めてする、朝日への祈りを始めた。朝が来たのだ、と元親は平伏しながら考えた。そしてその末に、この屋敷の人間全員と変わらぬ結論を出した。





「我の役に立ちたい?」

 夜、元親は元就の部屋を訪れた。なにやら書状を読んでいた元就はそれを机に置いて、元親に向き直る。そんな彼に元親は頷いて言う。

「あんたからはたくさんのものをもらった。何より自由をくれた。あんたにしたって楽じゃないのに、良くしてくれた。だから今度は俺があんたのために、何かしたい」

「……可愛から聞いたが、力仕事をしておるそうではないか。それで充分だ」

「いや、俺はあんたのために、働きたいんだ」

 元親がそう言い切ると、元就はふぅと溜息を吐く。

「元親。いや、これはここに来てくれる皆に言いたい事だが、我はそなたらが思っておるような聖人君子ではない。そなたを買ったのは我の目的のためで、自由にしたのもその方が世話が楽だからだ。いずれそなたを自由にするという名目で手放すためでもある。全て我が自らのためにした事だから、そなたが恩を感じる必要など少しも無いのだぞ」

「あんたがどういうつもりで俺を自由にしたのかは、この際関係無い。俺はあんたに救われた。だから恩を返したい。それだけなんだ。頼む、何かやらせてくれ」

 元親はそう言って頭を下げる。元就はしばらく黙っていたが、やがて少し笑った。

「そなたはまるで昔の我だな。明智も我に言った、私は善人ではないし、貴方を助けたかったわけではないのですよ、とな。だが我はしつこく色々言って、ついに明智を負かせ、仕事をもらったのだが。……ふむ」

 元就は元親を下から上までじっくり眺めてから言った。

「ならばそなた、元春と共に武術を学んではどうだ」

「武術?」

 元親が顔を上げる。元就は書状を見ながら言う。

「物騒な世の中よ。先日、そなたを買った店の主人が殺されたが、それ以外にも多くの人斬り、乱闘、盗みなど、悪事は後を絶たぬ。我は見ての通り、体は小さく武術は不得手。元春が居るがあれらの従者は、今尚明智の従者でな。我が自由に連れ歩く事は出来ぬ。

 その点、そなたは正式な我の所有物、しかもその体格ならば側に居るだけで不届き者を追い払えよう。ただそなたは三つの規約により、理由無く人を傷付けてはならぬ。この理由というのがくせものでな、まず問答無用と考えて間違いない。

 となれば、そなたはまず相手を傷つけずに追い払い、あるいは捕まえる技術を身に着けねばならぬ。そなたのためにもな。そなたは己の力を存分に振るった事もあまり無かろうし、このままではいざという時に力加減を誤るかもしれぬからな」

 更に、と元就は続ける。

「いずれそなたを自由にした時、我がそなたを黄泉まで送って行けぬ可能性も有る。その時、己の身を守り、かつ人の村や町を無事通過するためにも、人との付き合いを学ばねばならぬ。……以上の理由から、そなたは元春の馴染みの道場にて武術と社交術を学ぶべきと考えた。この二つが揃えば、常に我の側で我を守る事が出来、その結果、我に恩を返す事も出来るであろう。……どうだ、やってみるか」

 元親にはその提案を断る理由は無かった。「判った」と大きく頷くと、元就は微笑んで、「では、そのように」と言った。

 こうして元親は武術と人を学ぶ事となった。

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