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めでぃのくの日記
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2025-01-19 (Sun)
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2008-06-02 (Mon)
 月日が流れるのは早いですなあ
 そして時代が流れるのは早いですなあ
 
 17日……うおおお

 そういえばついに怒って525円のスピーカー買って来ました
 これでこのパソからも音が出ます。やった。

 以下、鬼の4

 元親は時折元就と会話するようになった。もちろん、元就に信用させるためだ。ここから出るには元就が元親を信用していると周りの人間に思われなければいけないのだ、と元親は理解していた。だから気を許したふりをしてそこから出させ、脱走しようと考えていた。生まれ故郷へ帰ろう、と。

 そのために元親は彼を「元就」と呼び、時折笑顔で会話し、そして毎日「ここは退屈だ、いつ出られるんだ」と尋ねた。元就は困ったような顔をして、こう答えた。

「まだ出すわけにはいかぬのだ。何故かと言うとな、そなたは鬼だ。人というのは決して、人以外の生き物を信用せぬし、また許さぬ。もしそなたが我を騙し、ここを脱走するような事が有れば、人は総力を上げてそなたを殺すだろう。それはもう、問答無用で……しかもとびきり残忍な方法で、だ。

 我はそなたを引き取った。だからそなたに辛い思いはさせたくない。判ってくれ。そなたのためにも、簡単にここから出すわけにはいかぬ。だがそれは他ならぬそなたを守るためには仕方無い事なのだ。すまぬが、もうしばらくの間、耐えてくれ」

 しかし「もうしばらく」というのが一体いつまでなのか判らない元親は、次第に焦れてきた。所詮は元親を大人しくさせるために嘘を吐いている可能性も有る。元親はそれから何日も耐えていたし、様子を探っていたが、あまりにも元就の態度に変化が無いので、ついに嘘であると断定し、脱走を決行するに到った。

 元親はまず元就の足音を覚えた。人間に比べて遥かに優れた聴覚が有るので、すぐに聞分けられるようになった。そしてその日、元親はじっと待って、そして近付いてくる足音が元就のものである事を確信すると、腹を抱えて床に転がり、苦しげに呻き始めた。自分の腹に爪を立て血を流し、痛みに堪える事で本当に辛そうに見えるようにした。

 少しすると元就がやって来る。元就は元親を見るや否や「元親!?」と声を上げて、格子に近付いた。元親は気付いていないふりで呻き続ける。

「元親、どうした……元親!」

 元就は一瞬考えて、それから格子の中に入って来た。元親はしめたと思いながらも演技を続けた。

「元親、大丈夫か!?」

 元就は躊躇いもせずに元親の側に駆けて来た。そして元親は素早く跳び上がると、そのままの勢いで元就に襲い掛かった。元就は咄嗟の事に何が起こったのかも判らないまま地面に押し倒され、圧し掛かられる。

 元親はそのまま彼の首に手をかけて、低い声で言う。

「従者を呼べ、格子を開けさせろ、でなけりゃあてめぇの首をへし折ってやる……!」

 元就はしばらく呆然と元親を見上げていたが、やがて事態を認識すると、悲しげに顔を歪めた。

「出て、どうするつもりだ?」

「決まってるだろうが……!」

「……ならぬ、そなたを出すわけにはいかぬ」

 元就がそう言ったので、元親は手に力を込める。元就の表情が苦悶に歪んだ。息苦しい程度に首を絞めて、元親は更に言う。

「脅しじゃねえ、殺すぞ。……そうだな、人間の流儀に則って、あんたをとびきり残忍に扱ってやる。嫌なら今すぐ従者を呼べ、ここから俺を出すんだ……!」

「……っ、な、らぬ、……判らぬか、そなたの、ためだ。今、ここから出ると、……そなたは死ぬ。そなたを、ころさせは、せぬ……!」

「黙れ! てめぇの言ってる事は嘘だ! 俺を一生ここに閉じ込めて、他の連中と同じように嘲笑い痛めつける気だ! 俺はな、知ってるんだ! 人間っていう連中は、残忍で、残酷で、薄汚くて、卑劣で! お前もその仲間だ、俺は騙されねえぞ……!」

「もとちか、」

「てめぇらの思い通りにされるぐらいなら、ここから出て勝手に死ぬ、その前にな、今までの分、存分に人間なんか殺してやる! 俺にはその力が有る! ええ、判るだろうが、あとちょっと力を入れたら、てめぇの首だって簡単に折れる、脅しじゃねえ、お前を殺すぞ、だから今すぐ従者を呼べ……!」

「ならぬ、そなたを、……っ、ぐ、」

 なおも聞き入れない元就の首を、元親はさらに絞めた。血流が妨げられるらしく、言葉を作れなくなった元就は元親の手を解こうと延ばされたが、どうにもならなかった。そもそも人間と鬼では力が違う。格子に閉じ込め焼け鉄で脅さなければ御する事も出来ない。元親は元就の苦しげな様子に、暗い笑いを漏らした。

「どうした、苦しいか。俺はな、人間より強い、鬼だ。いいか、鬼なんだ。お前らとは違う。あの格子さえ無けりゃあ、お前も人間も怖くねぇ、殺してやる、今すぐ、だから、だから頷け、従者を呼べ! ここから俺を出せ! 俺は自由になるんだ、帰るんだ、だから頷け、頷け、頷け!」

 元親はそう怒鳴ったが、元就は首を横に振った。更に首を強く絞めると、いよいよ呼吸が出来なくなった元就は苦しげに身を捩って。

 そして。

「……っ」

 口だけで「ならぬ」と言い、元親の頬に手を伸ばした。その手が優しく頬を撫でたものだから、元親は驚いて、……そして「ちくしょう!」と叫ぶと、手を緩めた。

「か、はっ、は、……は……」

 解放された元就は咽ながらも床に転がったままで逃げなかった。元親はその様を見てまた叫んだ。

「ちくしょう、てめぇはなんなんだ!? 命が惜しくねえのか!? 俺は本気で、あんたを、なのに、なんで、……俺の事なんてどうでもいいだろうが、たかが家畜に、……っなんなんだちくしょう! ちくしょう! ちくしょうっ!」

 元親はわけも判らぬまま床を叩き、叫んだ。元就の行動が、考えが理解出来ない。思い通りにならない悔しさと、……そしてどうしようもなく元就が正しいという事に腹が立った。

 元親はここが何処であるか、また自分が生まれ育った黄泉が何処であるか知らない。家畜として飼い殺しにされていたので、人間の文化も何も知らない。一度だけ鉄砲という物の試し撃ちの的にされた事が有るが、あんな恐ろしい物がこの世に幾つも有るとしたら元親には戦いようも逃げようも無かった。

 額からいびつに生えた角が、見た者に瞬時に自分が人間でない事を教えてしまう。何日逃げればいいのか、まして何処に帰ればいいのかも判らずにこの屋敷から出ても仕方が無いのだ。それは判っていた。元就の言う事は腹立たしいほど正しい。他ならぬ元親のために、ここから出てはいけないのだという事ぐらいは。

 それでも事を起こしてしまったのはどうしようも無い焦りなどを感じたせいで。……これだけ恵まれているにも関わらず感謝もせず、元就をただ憎み続けた自分が心底愚かしく思えた。

 元就が俺に何をした、大きな部屋を、着物を、李を、水を、くれて、それでその元就に俺は何をした、騙して、襲い掛かって、首を絞めて、殺そうとまで。

 元親はわけが判らなくなってまた唸って床を叩いた。と、そこに騒ぎを聞きつけたらしい従者が一人駆けて来た。

「も、……元就様! おのれ、鬼め!」

 若い従者は格子の中に元就が転がっているのを見ると、すぐに近くに有った棒を掴み、中に入って来ようとした。そんな彼に元就はすっと手を上げてみせ、

「問題無い、仕事に戻れ」

 と静かに言った。従者は「しかし、」と言ったが、あくまで受け入れず「元春、去れ」とそれだけ繰り返した。元春と呼ばれた従者はしばらく元親を睨んでいたが、やがて棒を置くと頭を下げて去って行った。

「……元親、……元親、おいで」

 元就に呼ばれたが、元親は反応を示さなかった。そのままでいると、「元親」とまた名を呼ばれる。

「来てくれ。……少し筋を痛めた。起き上がれぬのだ……」

 元就が苦しげに言うので、元親は振り返った。元就は床に転がったまま、天井を見ている。元親を見ていない。その手を床につけ、足を曲げて起き上がろうとしているが、何処か痛むらしく出来ないようだった。元親はしばらく考えてから、そっと近付いた。

 首の後ろに手を差し入れ、優しく抱き起こす。元就は眉を寄せながらも「すまぬ」と言って元親に身を任せた。

「……さっきあんな事した奴に頼む事か? あいつにでも助けてもらえば良かったじゃねえか」

「そうしたらそなたからの信頼は決して手に入れられるまい……元春に我を助け出させるのは簡単だ、あれは腕が立つ故。だがそうしたら、我がそなたを信頼していると証明出来まい……」

「殺されるところだったんだぜ」

「そなたは我を殺せぬ。……そなたは賢い。本当は判っておるのだ、……元親、すまぬ。時間が必要なのだ」

 元就は元親の頬を撫でると、静かに言う。

「ここからそなたを出すためには、我がそなたを信用し、そなたが我を信頼し服従を誓わねばならぬ。だが今のそなたにはその気持ちは無い。だからここからは出せぬ。そなたを殺したくないのだ、判るであろう」

「……」

「飼い犬とて最初は野犬と変わらぬ。狼と変わらぬ凶暴な生き物だ。酷な事とは思うしこのような言い方は好まぬではあろうが、躾けて初めて我等は野犬を飼い犬として飼え、細い綱一本で放ったらかしにする事が出来る。それは飼い犬自身がそこに居たいと思うからこそ出来る事であろう。綱は噛み千切れる、だのに彼らは逃げぬ。そこが信用出来るからだ。そうであろう」

「……俺にそうなれ、と?」

「そなたは賢い。そなたは本当は判っておる。ただそなたの絶望は深く、そなたはそのあまりに我を恐れておる。……怖がる事は無い。そなたの申すとおり、人は脆い。そなたの手にかかれば我の首など容易くへし折れる。腹の一つも殴れば血を吐いて死ぬ。何故人を恐れる、何故我を恐れる。こう思えば良いのだ。優しいそなたは、我を今すぐ殺せるのに、……あえてそうせぬのだ、と。そなたの領域の中で我は無力だ。何をそんなに恐れる」

「恐れてなど」

「怖いのであろう。我が、他の飼い主と違うから」

 元就は苦笑して、そしてのろりと立ち上がり、元親から離れた。元親もそれを追ったり捕まえたりはしなかった。

「我もな、恐ろしかったのだ。明智が。明智を、信じる事が、長い間出来なんだ。だがな、元親。……明智は待ってくれたのだ、……こんな意固地で臆病な我を、……心から愛してくれた。……だから我も、な」

 元就はそう言うと、格子から出て行った。元親はしばらく俯いてじっとしていたが、やがて元就が戻って来た。手ぬぐいと何やら薬のような物を持っている。

「腹から血が出ておるぞ。手当てをしてやろう」

 元就は躊躇いも無く格子の内側に入って来て、元親に近寄った。元親はただそんな元就の挙動に、呆気に取られるしかなかった。





 

「元就様は死体捨て場で拾われたと聞きました」

 次の日。可愛に元就の事を尋ねると、特に変わらないという事と、そして元就の生い立ちを教えてくれた。

「死体捨て場」

「病気などで死んだ死体を、積み上げておるのです。埋葬する金も場所も時間も無い時は、そうしてゴミのように扱うのですよ。我等のような奴隷には良くある事でした。元就様も、……その山の中に捨てられていたと聞きました」

 可愛は悲しげに眉を寄せて言う。

「想像出来ますか。周りは死んだ人間に囲まれて、ただ一人生きたまま骸と共に……しかもその時には既にお年は15だったと聞いております。物事も何もかも判る歳の元就様が、…………その頃の元就様はまるで人形のようで、なんの反応もせず、明智様にも長い間心を開かれなかったそうです。私が従者になった時には元就様も人らしい生活を送っておられましたが、……」

 可愛は溜息を吐いて、空を見上げる。

「元就様が明智様の所へ行くまで、どのような暮らしをしていたのか、私達は想像するしかありませぬが。……鬼さんも判るでしょう、私達は地獄に居たのです。心を取り戻し誰かを信じ愛する事は、怖い事です。一度は何もかも考えない事にして、全てを憎んだのに、……誰かを愛するだなんて、そんな事、……簡単には出来ませんでしょう? なのに元就様はある時から急速にお心を取り戻されて、明智様のご恩に答えようと必死に勉学に励まれて。そしてそれから何年もせぬうちにこの屋敷を頂き、独立なさったのです。

 それはあの方が本当に強い方なのか、……それともあの方をそうまで強くさせる何かが有るという事なのだと思うのです。あの方は明智様を心から信じておられる。あの地獄から戻って来たのに、人を信じ愛する事を取り戻された。

 ……あの方は少々変な方ですけれど。……貴方に襲われたと聞いて皆顔を青くさせていたのに、あの方だけは心配無いと平然としておられて、……おかしな方ですけれど、本当にお強く、真っ直ぐな方なのです。だから……だから鬼さんも怖いでしょうけど、どうかあの方を信じてみて下さい。……ああそうだ、こうしましょう。もし私の言った事が嘘だったら、私を好きにいいですよ、頭から食べちゃって下さいな。それでもかまいません。私達にとって明智様は元就様は、これまでの全てに勝る、……幸福の証なのですから」

 可愛はそう言って笑うと、元親を見て言った。

「でももう元就様に暴力を振るうのは、この可愛も許しませんよ。次は元春様にこてんぱんにさせますからね!」

 そう言って腕をまくってみせた可愛に、元親は困ったように笑って尋ねる。

「その元春ってのは、強いのか?」

「ええお強いですよ! 山で迷った折、出て来た熊から以前のご主人を守りおおせたのです。もちろんその頃は奴隷でしたから、服も粗末、武器はそこに落ちている木の枝や石だけ! 傷だらけになっても熊と戦い、ついに引き下がらせ、主人を守りきったのでございます。その力が認められてきちんとした道場に入れてもらい、さらにそこでの実力を認められ、明智様に元就様の護衛として雇われたのです。だから鬼さんにだって絶対に負けませんよ!」

 可愛がそう興奮したように言うので、元親も顔を綻ばせて言う。

「あんた、その元春ってのが好きなんだな」

「……な、何を仰いますか! 鬼さん、私が言いたいのはそういう事じゃなくて、」

「ああはいはい、……可愛、俺は元親って言うんだ。長曾我部元親」

 元親がそう言うと、可愛はきょとんとした顔をして、それから笑った。

「では今度からは元親さんと呼ばせていただきますね」

 その笑顔を見ていると元親も本当に柔らかく笑んでいて、……その事に気付くと元親は複雑な思いで空を見上げた。

 ここは、信じられるかもしれない。あいつは、信じられるかもしれない。愛せるかもしれない。

 けれど、……怖い。

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