こういう気分の時ははっぱ隊を踊りながら唄うと元気が出ますよ
やった! やった! いきがーすえるー いきがーはけるー!
一人でやるととても虚しい気持ちになりますが
たまにはっぱ隊の歌詞とか見てると泣けてくる
若い人は知らないのかなあ……何処からが若いのかもう良く判らない
とりあえず個人的には小中学生がめちゃくちゃ恐いです
なんだろう。嫌なこともいっぱい有ったし、それにあの時期の子供は
なんにしても容赦がないと思います
以下、鬼の続き。本能のままに書いとるので
また再掲載の時には加筆修正しようかと
やった! やった! いきがーすえるー いきがーはけるー!
一人でやるととても虚しい気持ちになりますが
たまにはっぱ隊の歌詞とか見てると泣けてくる
若い人は知らないのかなあ……何処からが若いのかもう良く判らない
とりあえず個人的には小中学生がめちゃくちゃ恐いです
なんだろう。嫌なこともいっぱい有ったし、それにあの時期の子供は
なんにしても容赦がないと思います
以下、鬼の続き。本能のままに書いとるので
また再掲載の時には加筆修正しようかと
元親は元就に心を許さなかった。
元就の屋敷に来てから数日。元就は毎日元親の顔を見に来たが、何をしてくるでもなかった。
元親は平穏な日々を過ごしていたが、格子の中に閉じ込められている事は確かだ。元親はなんとか脱走しようと格子を丹念に調べたが、逃げ出せそうな隙は無かった。従者や元就を人質に格子を開けさせようかと思ったが、彼らは元親に一定以上近付かず、格子から手を出せない元親には捕まえようもなかった。
代わりに可愛という従者は大層明るく良く喋ったので、元親は彼女が部屋を通りかかるたびに話しかけた。この屋敷の内情を知るためだ。脱走の役に立つ事も聞けるだろうと、元親はいつも格子の側で彼女を待って、他愛も無い話をした。
今、綺麗な花は、美味しいものは、と彼女の話は穏やかな内容で、元親は自然と心が安らいだ。暴力も振るわれず、静かな日々が続く事が確かに喜ばしかった。
しかし期待してはならない、とも思う。高みに居るほど堕ちる地獄は深い。だからこそ元親は元就に決して気を許さない。どれ程優遇されていたとしても、裏切られる可能性は無くならない。その時に落胆するぐらいなら、最初から信じないほうが楽だと元親は思っていた。演技でやっているならば、そのうち痺れを切らして本性を現すだろう、と。
だから元親は根気比べをしているようなものだと考えていた。鬼は人間と違い生命力が強く、一度食事を取れば三日ほどは腹が減らない。水も必要ではない。それ故に人よりも忍耐強い。それが不幸だった事も多かったが、役に立った事も有った。元親は今度もその忍耐強さが役に立つだろうと思った。
きっとあいつも諦めて、俺を痛めつける。その時に俺はやっぱりなと思ってやるのだ。
そういう事を考えているとふいに虚しい気分になったが、それは仕方が無い事だった。それだけ多くの回数元親は裏切られた。今更信じろといわれても、もはや何をどう信じて良いのかも判らなくなっていたのだ。
その日、可愛は元親の側にのんびりと腰を下ろしていた。その日は数少ない非番だったらしく、可愛はわざわざ元親と話しに、元就の屋敷に来たようだった。元親も可愛の事は嫌いではないので、長い間話しこんで、時々笑った。
ふいに会話が途切れた時、元親は思い切って尋ねてみた。
「なぁあんた。なんで俺とこんな風に話してくれるんだ? 俺の事が怖くないのか?」
すると可愛はしばらく考えるように空を見た後、笑って言った。
「怖くないわけないですよ、だって鬼さんですもの。けれど、……怖い思いはいっぱいしてきたから、こうやってお話が出来る貴方の事は、それほど怖いとは思いません」
「怖い思い……」
「ええ。貴方も判るかもしれないですけど、私もいっぱい酷い目にはあったんですよ。叩かれたり、蹴られたり、それに私は女ですから、慰み者にもされました。おかげでもう、ややこが産めない体なんですよ」
可愛はそう言ってけらけら笑った。その明るさの底にどれほどの暗い感情が埋もれたのか、想像するだけで悲しい気持ちになって、元親は「悪い」と言ったが、彼女は「いえいえ」と首を振って言う。
「もう昔の事なんです。明智様に拾って頂いて、元就様のお世話をし始めてから、そういう事は一切無くなって。私は幸せ者です」
「……だが明智って奴は、……いい趣味をしてるんだろう?」
元親が尋ねると、可愛は一瞬きょとんとして、そして「ええ、ええ、それはもう」と大きく頷いた。
「ですが、明智様は良くも悪くもはっきりした方でしたから。粗相をした者は確かに趣味の良い目に合いましたよ。でもちゃんと働く者には相応の褒賞を下さりましたし、……元就様も明智様にお働きが認められて、自由を手に入れたのです。私も元就様も、それにここの従者達も、明智様や元就様から理由の無い暴力は受けていないのですよ」
可愛はそう言ったが、元親は「信じられねえな」と首を振った。
「あんたは自由が欲しくないのか? 従者なんか辞めて、……自由になりたくは?」
「……欲しくないと言えば嘘ですよ。幼かった頃の事を思い出すと、今でも涙がこみ上げてきます。自由は恋しいですとも。……ですが、……子も産めぬ女が一人で外に出て、何が出来ましょう? それに私は今、幸せです。信じないと思いますが、私は明智様に拾われるまで、無口の根暗だったのでございますよ」
「そりゃ信じられねえな」
元親が笑うと、可愛も笑って言った。
「本当ですよ。でも私は今笑える。こうして鬼さんとおしゃべりが出来る。それが私が本当に幸せだという証でございましょう? 自由は恋しいです。ですが、高すぎる望みは身を滅ぼしますゆえ。私はここで元就様のお側にあって、この幸せをいただけた事を日々感謝し、その恩を一生返し続けるのです。それこそが、私の喜びなのです」
「……」
元親はなんとも返事に困った。それは違うと言いたいが、彼女の笑みがあんまり明るくて、違うのは自分ではないかと思ってしまった。自由を望みながら妥協して、けれどこんなに明るく笑う人が不幸だと俺は断言できるだろうか、と。
元親は良く判らなくなって、それきりその話をしなかった。二人はまた、花や鳥や空や着物の話をして、長い時間を過ごした。
その日は朝から妙に慌しかった。
従者の男達が忙しく歩き回っていて、なにか準備をしたり掃除をしたりしている。元親が声をかけても返事をしないほどだった。元親は不思議に思って、ある時側を駆けた可愛に声をかける。
「おい」
「あ、な、なんですか? ごめんなさい、急いでいるので、今日はお話は出来そうにないのです」
可愛は本当に困ったというような顔をしてそう言った。元親は「悪い」と言って、「どうしたんだ?」と尋ねた。すると可愛は、
「明智様がお見えになるのです」
とそれだけ答えると頭を下げて、そして行ってしまった。
つまり元就の主人である光秀が、屋敷にやって来る、だから招く準備に忙しい、という事だった。元親は納得して、そして床に転がった。何が有ったとしても元親は変わらない。ただ暇を持て余して、畳の上に転がって空を見るだけなのだと思っていた。
ところが。
「鬼!」
部屋に駆けてやって来た元就は、大声を出して元親を呼んだ。元親も仕方なく顔を上げると、彼は手に大きな紅色の着物を持っていた。
「なんとか間に合った! 鬼、これはな、特別にあつらえさせたそなたの着物だ。着てくれ、頼む! 明智にそなたを合わせたいのだ。この紅色はな、特に明智が好む色ゆえ、すまぬが、着てくれまいか」
そういう元就を元親は睨んだ。俺を見せ物にする気か、と不愉快そうな顔をして見せると、元就は「すまぬ」と言う。
「鬼、不愉快であろうがそなたのためだ。この着物は明智が発注したものでな、つまりそなたに着せようと思うて作らせたものなのだ。明智はそなたが今日、これを着ているものと思うておる。もしそなたが着ていなかったら、そなたが我に懐柔せぬと判断して、あの老人に言いつけて返品しようなどと言い出したり、あるいは代わりに躾けようなどと言い出しかねぬのだ。そなたは知らぬかもしれぬが、明智はな、とても怖いのだ。明智の機嫌を損なわせてはならぬ。そなたのためだ。不愉快だろうが、そなたも恐ろしい目には合いたくなかろう? 頼む、着てくれ、この通りだ」
元就はそう言うと、着物を格子の内側に入れ、そして元親に深く頭を垂れた。その事に元親が驚いていると、元就は頭を上げて、
「すまぬ、間も無く来るのだ。急いで着てくれ。頼む。判ったな? そなたのためなのだ」
そう念を押すと、足早に廊下を駆けて行った。
元親はしばらく不審そうに着物を見ていたが、やがてそろりと手に取った。紅色のそれは先日のものに比べると地味で、それ故に男物であると思えた。試しに羽織ってみると、丈は大体良いようだ。元親も見せ物にされるのは気分が悪かったが、その着物自体は気に入った。
さて帯を締めてみようか、と思っていると、足音が近付いてきた。慌てて帯を持って奥に戻り、きちんと着ようとしたが、急ぐと何事も上手くいかないというのは本当のようで、どうにも帯が締まらない。
そうこうしているうちに、部屋の前に男が現れた。
白い長い髪を垂らした、痩躯の男だった。側には元就も居て、それが明智光秀という奴なのだと元親も悟る。光秀は元親を見て、ゆっくりと首を傾げた。
「羽織っているだけですね」
「あ、……ああ、まだ着方を教えておらぬのだ。だが纏っておる。気に入ったのであろう」
元就はそう言うと、着物の話を打ち切ろうとした。その気配は光秀も感じたようで、彼は笑って元就に言う。
「何を急いておられるのですか」
「急いてなど」
「なら良いのですが。……上手くいっていますか? 色々と」
「うむ……鬼の事は良く判らぬが、暴れたり逆らったりはせぬ。大人しくしておる。いずれ外に出してやろうと思うておる」
「それはいいですね。早く貴方の隣に立つ彼を見てみたいものです」
光秀はそう言って笑うと、元親を一瞥し、そして歩き始めた。その手が元就の腰に回っているのを見て、元親は直感的に彼らの関係を理解した。そして顔を顰める。幸い光秀は既に行き先を見ていたので、見られる事は無かった。元就は何か後ろめたそうに顔を伏せて、光秀と共に去って行った。
元親は顔を顰めたまましばらくじっとしていたが、やがて紅色の着物を脱ぎ捨てると、部屋の奥に行って座り込んだ。
あの、淫売野郎。
元親はそう小声で毒づいて、床に転がる。
人の文化に詳しくない元親でも知っている事はいくつか有る。貴族というのは少年を子飼いにして、女のように扱う事で喜ぶ。扱われたほうも貴族に媚びて、色を使って様々な物を手に入れる。着物や、金子や、それに地位などを。
あの野郎も一緒だ、明智とか言うやつに尻を差し出して貴族になった成金じゃねぇか、何が真っ直ぐな方だ、反吐が出る。
元親は不愉快な気持ちになって、そのまま布団に潜った。期待していなかったはずの自分が、何故か少し落胆しているのを感じて、元親は思わず唸った。
信じかけていた。俺はなんて馬鹿なんだ。あれほど信じないと言っていたのに。
元親は布団をぐしゃぐしゃと押さえながら、獣のように唸り、しばらくそうして憤っていた。
翌日はいつまで経っても誰も元親の側に来なかった。夕方になってようやく従者の男がやって来たが、それ以外に、……毎日来ていた元就も来なかった。
更に次の日からは従者達は平常通り屋敷をうろつき始めたが、相変わらず元就は来ない。昼過ぎに可愛がやって来たので、元親は声をかける。
「おい。あいつはどうした?」
可愛は気付いて元親に近寄ると、「あいつとは?」と尋ねた。元親は悪意を込めて「両方だよ」と言ってやる。可愛は悲しげな顔をして、「鬼さん」と静かに言った。
「元就様は明智様に多大な御恩が有るのです。元就様もまた私達と同じく、明智様に地獄から救って頂いた、だから元就様は明智様に抗う事など出来ませぬし、そもそもそのような気持ちも無いんです」
「ああそうだろうよ、あいつは明智様とやらに大層かわいがられているみたいじゃねえか、こんな立派な屋敷に従者が五人ももらえるなんて、随分と努力したみてぇだな」
元親が冷たくそう言うと、可愛はますます悲しげな顔をする。
「鬼さん。……信じてくれるとは思えないですが、……元就様は生まれは良かったのだと伺っております。読み書きは出来、気品に溢れ、……そのような方が、私達と同じ地獄に落ちていたのです。その絶望たるや、私達のそれとは比べ物にならないでしょう」
「……」
「元就様は明智様に拾われてから、確かに努力なさいました。お上にお仕えする明智様を補佐なさろうと、学問に励み礼儀作法を身につけ、……元就様は貴方が思っているようなやり方で、ここに来たわけではないのです」
「どうだかな」
「……」
可愛は一度溜息を吐いて言う。
「鬼さん。本当に媚びる者は、媚びる事にこそ全身全霊を注ぎ、それが報われてこそ喜ぶというもの。けれど元就様はそういう方ではありません。お判りでしょう? もし元就様がそのような方なら、貴方にここまでの御好意を寄せようはずもなく、まして元就様が独立しこの屋敷に住まう事も無かった筈です。あくまで元就様は明智様の恩義を忘れず、今もなお関係を維持はしておられますが。……鬼さん。……元就様にも色々有るのです。貴方に色々有るように」
「……信じろ、と?」
「私には要求は出来ません。ただ、……元就様は私達を救って下さったお方。事情を知らぬとはいえ、貴方様にそうして嫌われるのは辛い。それだけです」
可愛はそう言うと頭を下げて行ってしまった。元親は取り残されて、ただ悶々と考えるしかなかった。
夕方になると、元就がのろのろとやって来た。いつも優雅に歩く彼が、なにやら覚束ない足取りで来ると、ペタンと格子の前に座り込み、近くの壁にもたれかかって、元親を見てくる。そのけだるげな感じがなんとなく元親には恐ろしかった。そういう人間は酒を飲んでいたり、薬を飲んでいたりで、元親にとって脅威でしかなかった。彼らは気まぐれに元親を傷つけた。
だが元就はぽうっと元親の事を見詰めるばかりで、特に何もしない。元親は見られているがなんとなく嫌で、元就に背を向けた。
「……気にいらなんだか?」
元就がふいにそう言った。元親は振り返って、元就が言おうとしているのは着物の事だと理解した。紅色の着物は床に放り捨てたままで、元親は今、白衣を適当に羽織っただらしのない格好をしていたからだ。
光秀と元就の関係を知った今、光秀が選んだというその着物を身につける事には抵抗が有った。だがそれをそこまで邪険にする理由は無かった。元就が感じたような事を、元親は感じさせたいとは思わなかった。だから元親はのろのろと着物の所まで行くと、丁寧に畳み直してそれから床に戻した。元就を見ると、彼は少しだけ笑んでいた。
「そうか、気に入ってはもらえたのか。それは良かった。明智は趣味は悪いが、目は良い。我にも紅を着せようとしておったが、似合わぬと判っておったらしくて、いつもこの緑ばかり着せてな。そなたはよう似合うな、色が白いゆえ……」
元就はそこで一つ溜息を吐いて、そして静かに言う。
「我を笑うか? 嫌うか? 鬼よ。しかし我はこうしてしか生きられぬのだ。人は誰しも自由が欲しいものだし、誰しも幸せを欲するもの。我の幸せは自由には直結せぬが、だが我の求める幸福は未だ我の手に届かず、我がそれを手に入れるためにはまだもう少し努力をせねばならぬのだ。それが、……それが明智と寝る事であっても、必要ならば我はそうする。……我を厭うか? だが幸福を願うのは人の本質だ」
元就は優しく笑んで元親を見る。どうも少し眠いらしく、彼はそのまま力を抜いて、のんびりと言葉を続ける。
「そなたが熱心にこの部屋から出ようとするように、我も我の求める物を求めるに熱心なのだ。それだけだ。……鬼よ。我はな、いずれそなたを出そうと思うておる。いずれは我は我の望みを叶える。そうすれば、我はそなたを飼うておる理由が無くなる。その時にはな、そなたに自由を与えても良いと思うておるのだ」
「……」
「だがな、そのためには、まずはそなたが信用出来る者だと証明せねばならぬ。それより先に、我がそなたにとって信頼出来る者にならねばな。先は長い……鬼、……なぁそなた、名前は何と言うのだ? 好きな花は有るか。冬は好きか? 我は嫌いだ。寒いゆえな」
元就はそう静かに尋ねて、そして黙った。元親が見ると、彼は目を閉じてうたた寝をしているようで。元親は溜息を吐いて、静かに彼に近寄った。目を開ける気配は無い。
「……俺はな、……元親だ。長曾我部、元親」
小さな声で言ってやると、元就は僅かに眼を開けて。
「もとちか。……よい名だ、……」
とそれだけ呟くと、また目を閉じた。元親はなんとも言えない気持ちになって、……けれど何を出来るでもなく、元就から離れると布団に潜った。しばらくすると従者が元就を起こして連れて行ったが、元親はその夜ずっと落ち着かず、ついに眠る事が出来なかった。
+++
元就の従者は、隆元、可愛、元春、隆景、
もう一人どうしようかな……たぶん名前が出ることはありませんが。
元就の屋敷に来てから数日。元就は毎日元親の顔を見に来たが、何をしてくるでもなかった。
元親は平穏な日々を過ごしていたが、格子の中に閉じ込められている事は確かだ。元親はなんとか脱走しようと格子を丹念に調べたが、逃げ出せそうな隙は無かった。従者や元就を人質に格子を開けさせようかと思ったが、彼らは元親に一定以上近付かず、格子から手を出せない元親には捕まえようもなかった。
代わりに可愛という従者は大層明るく良く喋ったので、元親は彼女が部屋を通りかかるたびに話しかけた。この屋敷の内情を知るためだ。脱走の役に立つ事も聞けるだろうと、元親はいつも格子の側で彼女を待って、他愛も無い話をした。
今、綺麗な花は、美味しいものは、と彼女の話は穏やかな内容で、元親は自然と心が安らいだ。暴力も振るわれず、静かな日々が続く事が確かに喜ばしかった。
しかし期待してはならない、とも思う。高みに居るほど堕ちる地獄は深い。だからこそ元親は元就に決して気を許さない。どれ程優遇されていたとしても、裏切られる可能性は無くならない。その時に落胆するぐらいなら、最初から信じないほうが楽だと元親は思っていた。演技でやっているならば、そのうち痺れを切らして本性を現すだろう、と。
だから元親は根気比べをしているようなものだと考えていた。鬼は人間と違い生命力が強く、一度食事を取れば三日ほどは腹が減らない。水も必要ではない。それ故に人よりも忍耐強い。それが不幸だった事も多かったが、役に立った事も有った。元親は今度もその忍耐強さが役に立つだろうと思った。
きっとあいつも諦めて、俺を痛めつける。その時に俺はやっぱりなと思ってやるのだ。
そういう事を考えているとふいに虚しい気分になったが、それは仕方が無い事だった。それだけ多くの回数元親は裏切られた。今更信じろといわれても、もはや何をどう信じて良いのかも判らなくなっていたのだ。
その日、可愛は元親の側にのんびりと腰を下ろしていた。その日は数少ない非番だったらしく、可愛はわざわざ元親と話しに、元就の屋敷に来たようだった。元親も可愛の事は嫌いではないので、長い間話しこんで、時々笑った。
ふいに会話が途切れた時、元親は思い切って尋ねてみた。
「なぁあんた。なんで俺とこんな風に話してくれるんだ? 俺の事が怖くないのか?」
すると可愛はしばらく考えるように空を見た後、笑って言った。
「怖くないわけないですよ、だって鬼さんですもの。けれど、……怖い思いはいっぱいしてきたから、こうやってお話が出来る貴方の事は、それほど怖いとは思いません」
「怖い思い……」
「ええ。貴方も判るかもしれないですけど、私もいっぱい酷い目にはあったんですよ。叩かれたり、蹴られたり、それに私は女ですから、慰み者にもされました。おかげでもう、ややこが産めない体なんですよ」
可愛はそう言ってけらけら笑った。その明るさの底にどれほどの暗い感情が埋もれたのか、想像するだけで悲しい気持ちになって、元親は「悪い」と言ったが、彼女は「いえいえ」と首を振って言う。
「もう昔の事なんです。明智様に拾って頂いて、元就様のお世話をし始めてから、そういう事は一切無くなって。私は幸せ者です」
「……だが明智って奴は、……いい趣味をしてるんだろう?」
元親が尋ねると、可愛は一瞬きょとんとして、そして「ええ、ええ、それはもう」と大きく頷いた。
「ですが、明智様は良くも悪くもはっきりした方でしたから。粗相をした者は確かに趣味の良い目に合いましたよ。でもちゃんと働く者には相応の褒賞を下さりましたし、……元就様も明智様にお働きが認められて、自由を手に入れたのです。私も元就様も、それにここの従者達も、明智様や元就様から理由の無い暴力は受けていないのですよ」
可愛はそう言ったが、元親は「信じられねえな」と首を振った。
「あんたは自由が欲しくないのか? 従者なんか辞めて、……自由になりたくは?」
「……欲しくないと言えば嘘ですよ。幼かった頃の事を思い出すと、今でも涙がこみ上げてきます。自由は恋しいですとも。……ですが、……子も産めぬ女が一人で外に出て、何が出来ましょう? それに私は今、幸せです。信じないと思いますが、私は明智様に拾われるまで、無口の根暗だったのでございますよ」
「そりゃ信じられねえな」
元親が笑うと、可愛も笑って言った。
「本当ですよ。でも私は今笑える。こうして鬼さんとおしゃべりが出来る。それが私が本当に幸せだという証でございましょう? 自由は恋しいです。ですが、高すぎる望みは身を滅ぼしますゆえ。私はここで元就様のお側にあって、この幸せをいただけた事を日々感謝し、その恩を一生返し続けるのです。それこそが、私の喜びなのです」
「……」
元親はなんとも返事に困った。それは違うと言いたいが、彼女の笑みがあんまり明るくて、違うのは自分ではないかと思ってしまった。自由を望みながら妥協して、けれどこんなに明るく笑う人が不幸だと俺は断言できるだろうか、と。
元親は良く判らなくなって、それきりその話をしなかった。二人はまた、花や鳥や空や着物の話をして、長い時間を過ごした。
その日は朝から妙に慌しかった。
従者の男達が忙しく歩き回っていて、なにか準備をしたり掃除をしたりしている。元親が声をかけても返事をしないほどだった。元親は不思議に思って、ある時側を駆けた可愛に声をかける。
「おい」
「あ、な、なんですか? ごめんなさい、急いでいるので、今日はお話は出来そうにないのです」
可愛は本当に困ったというような顔をしてそう言った。元親は「悪い」と言って、「どうしたんだ?」と尋ねた。すると可愛は、
「明智様がお見えになるのです」
とそれだけ答えると頭を下げて、そして行ってしまった。
つまり元就の主人である光秀が、屋敷にやって来る、だから招く準備に忙しい、という事だった。元親は納得して、そして床に転がった。何が有ったとしても元親は変わらない。ただ暇を持て余して、畳の上に転がって空を見るだけなのだと思っていた。
ところが。
「鬼!」
部屋に駆けてやって来た元就は、大声を出して元親を呼んだ。元親も仕方なく顔を上げると、彼は手に大きな紅色の着物を持っていた。
「なんとか間に合った! 鬼、これはな、特別にあつらえさせたそなたの着物だ。着てくれ、頼む! 明智にそなたを合わせたいのだ。この紅色はな、特に明智が好む色ゆえ、すまぬが、着てくれまいか」
そういう元就を元親は睨んだ。俺を見せ物にする気か、と不愉快そうな顔をして見せると、元就は「すまぬ」と言う。
「鬼、不愉快であろうがそなたのためだ。この着物は明智が発注したものでな、つまりそなたに着せようと思うて作らせたものなのだ。明智はそなたが今日、これを着ているものと思うておる。もしそなたが着ていなかったら、そなたが我に懐柔せぬと判断して、あの老人に言いつけて返品しようなどと言い出したり、あるいは代わりに躾けようなどと言い出しかねぬのだ。そなたは知らぬかもしれぬが、明智はな、とても怖いのだ。明智の機嫌を損なわせてはならぬ。そなたのためだ。不愉快だろうが、そなたも恐ろしい目には合いたくなかろう? 頼む、着てくれ、この通りだ」
元就はそう言うと、着物を格子の内側に入れ、そして元親に深く頭を垂れた。その事に元親が驚いていると、元就は頭を上げて、
「すまぬ、間も無く来るのだ。急いで着てくれ。頼む。判ったな? そなたのためなのだ」
そう念を押すと、足早に廊下を駆けて行った。
元親はしばらく不審そうに着物を見ていたが、やがてそろりと手に取った。紅色のそれは先日のものに比べると地味で、それ故に男物であると思えた。試しに羽織ってみると、丈は大体良いようだ。元親も見せ物にされるのは気分が悪かったが、その着物自体は気に入った。
さて帯を締めてみようか、と思っていると、足音が近付いてきた。慌てて帯を持って奥に戻り、きちんと着ようとしたが、急ぐと何事も上手くいかないというのは本当のようで、どうにも帯が締まらない。
そうこうしているうちに、部屋の前に男が現れた。
白い長い髪を垂らした、痩躯の男だった。側には元就も居て、それが明智光秀という奴なのだと元親も悟る。光秀は元親を見て、ゆっくりと首を傾げた。
「羽織っているだけですね」
「あ、……ああ、まだ着方を教えておらぬのだ。だが纏っておる。気に入ったのであろう」
元就はそう言うと、着物の話を打ち切ろうとした。その気配は光秀も感じたようで、彼は笑って元就に言う。
「何を急いておられるのですか」
「急いてなど」
「なら良いのですが。……上手くいっていますか? 色々と」
「うむ……鬼の事は良く判らぬが、暴れたり逆らったりはせぬ。大人しくしておる。いずれ外に出してやろうと思うておる」
「それはいいですね。早く貴方の隣に立つ彼を見てみたいものです」
光秀はそう言って笑うと、元親を一瞥し、そして歩き始めた。その手が元就の腰に回っているのを見て、元親は直感的に彼らの関係を理解した。そして顔を顰める。幸い光秀は既に行き先を見ていたので、見られる事は無かった。元就は何か後ろめたそうに顔を伏せて、光秀と共に去って行った。
元親は顔を顰めたまましばらくじっとしていたが、やがて紅色の着物を脱ぎ捨てると、部屋の奥に行って座り込んだ。
あの、淫売野郎。
元親はそう小声で毒づいて、床に転がる。
人の文化に詳しくない元親でも知っている事はいくつか有る。貴族というのは少年を子飼いにして、女のように扱う事で喜ぶ。扱われたほうも貴族に媚びて、色を使って様々な物を手に入れる。着物や、金子や、それに地位などを。
あの野郎も一緒だ、明智とか言うやつに尻を差し出して貴族になった成金じゃねぇか、何が真っ直ぐな方だ、反吐が出る。
元親は不愉快な気持ちになって、そのまま布団に潜った。期待していなかったはずの自分が、何故か少し落胆しているのを感じて、元親は思わず唸った。
信じかけていた。俺はなんて馬鹿なんだ。あれほど信じないと言っていたのに。
元親は布団をぐしゃぐしゃと押さえながら、獣のように唸り、しばらくそうして憤っていた。
翌日はいつまで経っても誰も元親の側に来なかった。夕方になってようやく従者の男がやって来たが、それ以外に、……毎日来ていた元就も来なかった。
更に次の日からは従者達は平常通り屋敷をうろつき始めたが、相変わらず元就は来ない。昼過ぎに可愛がやって来たので、元親は声をかける。
「おい。あいつはどうした?」
可愛は気付いて元親に近寄ると、「あいつとは?」と尋ねた。元親は悪意を込めて「両方だよ」と言ってやる。可愛は悲しげな顔をして、「鬼さん」と静かに言った。
「元就様は明智様に多大な御恩が有るのです。元就様もまた私達と同じく、明智様に地獄から救って頂いた、だから元就様は明智様に抗う事など出来ませぬし、そもそもそのような気持ちも無いんです」
「ああそうだろうよ、あいつは明智様とやらに大層かわいがられているみたいじゃねえか、こんな立派な屋敷に従者が五人ももらえるなんて、随分と努力したみてぇだな」
元親が冷たくそう言うと、可愛はますます悲しげな顔をする。
「鬼さん。……信じてくれるとは思えないですが、……元就様は生まれは良かったのだと伺っております。読み書きは出来、気品に溢れ、……そのような方が、私達と同じ地獄に落ちていたのです。その絶望たるや、私達のそれとは比べ物にならないでしょう」
「……」
「元就様は明智様に拾われてから、確かに努力なさいました。お上にお仕えする明智様を補佐なさろうと、学問に励み礼儀作法を身につけ、……元就様は貴方が思っているようなやり方で、ここに来たわけではないのです」
「どうだかな」
「……」
可愛は一度溜息を吐いて言う。
「鬼さん。本当に媚びる者は、媚びる事にこそ全身全霊を注ぎ、それが報われてこそ喜ぶというもの。けれど元就様はそういう方ではありません。お判りでしょう? もし元就様がそのような方なら、貴方にここまでの御好意を寄せようはずもなく、まして元就様が独立しこの屋敷に住まう事も無かった筈です。あくまで元就様は明智様の恩義を忘れず、今もなお関係を維持はしておられますが。……鬼さん。……元就様にも色々有るのです。貴方に色々有るように」
「……信じろ、と?」
「私には要求は出来ません。ただ、……元就様は私達を救って下さったお方。事情を知らぬとはいえ、貴方様にそうして嫌われるのは辛い。それだけです」
可愛はそう言うと頭を下げて行ってしまった。元親は取り残されて、ただ悶々と考えるしかなかった。
夕方になると、元就がのろのろとやって来た。いつも優雅に歩く彼が、なにやら覚束ない足取りで来ると、ペタンと格子の前に座り込み、近くの壁にもたれかかって、元親を見てくる。そのけだるげな感じがなんとなく元親には恐ろしかった。そういう人間は酒を飲んでいたり、薬を飲んでいたりで、元親にとって脅威でしかなかった。彼らは気まぐれに元親を傷つけた。
だが元就はぽうっと元親の事を見詰めるばかりで、特に何もしない。元親は見られているがなんとなく嫌で、元就に背を向けた。
「……気にいらなんだか?」
元就がふいにそう言った。元親は振り返って、元就が言おうとしているのは着物の事だと理解した。紅色の着物は床に放り捨てたままで、元親は今、白衣を適当に羽織っただらしのない格好をしていたからだ。
光秀と元就の関係を知った今、光秀が選んだというその着物を身につける事には抵抗が有った。だがそれをそこまで邪険にする理由は無かった。元就が感じたような事を、元親は感じさせたいとは思わなかった。だから元親はのろのろと着物の所まで行くと、丁寧に畳み直してそれから床に戻した。元就を見ると、彼は少しだけ笑んでいた。
「そうか、気に入ってはもらえたのか。それは良かった。明智は趣味は悪いが、目は良い。我にも紅を着せようとしておったが、似合わぬと判っておったらしくて、いつもこの緑ばかり着せてな。そなたはよう似合うな、色が白いゆえ……」
元就はそこで一つ溜息を吐いて、そして静かに言う。
「我を笑うか? 嫌うか? 鬼よ。しかし我はこうしてしか生きられぬのだ。人は誰しも自由が欲しいものだし、誰しも幸せを欲するもの。我の幸せは自由には直結せぬが、だが我の求める幸福は未だ我の手に届かず、我がそれを手に入れるためにはまだもう少し努力をせねばならぬのだ。それが、……それが明智と寝る事であっても、必要ならば我はそうする。……我を厭うか? だが幸福を願うのは人の本質だ」
元就は優しく笑んで元親を見る。どうも少し眠いらしく、彼はそのまま力を抜いて、のんびりと言葉を続ける。
「そなたが熱心にこの部屋から出ようとするように、我も我の求める物を求めるに熱心なのだ。それだけだ。……鬼よ。我はな、いずれそなたを出そうと思うておる。いずれは我は我の望みを叶える。そうすれば、我はそなたを飼うておる理由が無くなる。その時にはな、そなたに自由を与えても良いと思うておるのだ」
「……」
「だがな、そのためには、まずはそなたが信用出来る者だと証明せねばならぬ。それより先に、我がそなたにとって信頼出来る者にならねばな。先は長い……鬼、……なぁそなた、名前は何と言うのだ? 好きな花は有るか。冬は好きか? 我は嫌いだ。寒いゆえな」
元就はそう静かに尋ねて、そして黙った。元親が見ると、彼は目を閉じてうたた寝をしているようで。元親は溜息を吐いて、静かに彼に近寄った。目を開ける気配は無い。
「……俺はな、……元親だ。長曾我部、元親」
小さな声で言ってやると、元就は僅かに眼を開けて。
「もとちか。……よい名だ、……」
とそれだけ呟くと、また目を閉じた。元親はなんとも言えない気持ちになって、……けれど何を出来るでもなく、元就から離れると布団に潜った。しばらくすると従者が元就を起こして連れて行ったが、元親はその夜ずっと落ち着かず、ついに眠る事が出来なかった。
+++
元就の従者は、隆元、可愛、元春、隆景、
もう一人どうしようかな……たぶん名前が出ることはありませんが。
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浦崎谺叉琉と美流=イワフジがてんやわんや。
二人とも変態。永遠の中二病。
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