病院行く前にあげておきます。鬼の12
あと3話かなあ(伸びた)
あと3話かなあ(伸びた)
それからしばらく、平穏な日々が流れた。
元親は武術を学び、そして元就から人として生きる知識を学んだ。金銭、食料、外交、建築など浅く広く知識を得ると、人としてそれなりの生活が出来るようになった。そして元親の枷は首輪一つになる。
それと同時に元親は元就と共に行動する事を許された。つまりお上の仕事に着いて行くようになったのだ。元親は元就の少し後ろに常に立っていて、黙って話を聞いていた。その姿が鬼を飼い慣らした貴族と有名になり、元就の位は着々と上がっているようだった。
元親にはあくまで難しい話は判らなかったが、元就が大層恐ろしい事を平気でやる人間だというのは判った。国のためなら大小の人死には仕方無いと割り切っているようだし、自らが落ちた地獄についても割り切っていた。人間には負の部分が有る。それは否定出来ない事実であるから、その負を発散させる何かが無ければ、人は生活していけないのだ。そのために奴隷が必要なのならば、必要なのだろうと考えているようで、特に自分の境遇から弱者への救済を志すような人間ではなかった。
ただ奴隷階級が必要であるという事実は事実として受け止めているだけで、その事を推奨しているわけではないようで、他の貴族が奴隷を連れていると、気付かれぬように溜息を吐いたりもしていた。元親はその元就が持っている感情が偽善と呼ばれる物だと知っていた。元就も知っている。だから元就はそれについて口に出したりはしない。
社会という物を形成するには、綺麗事だけではいけないのだ。元親はそう考えて、時折首を傾げた。そうまでして社会を作らなければならないのか、元親には今一歩判らない。自分達のように日々食料を探し、雨が降れば木陰で眠り、晴れの日には雲の形を物に例えて遊ぶ、そんなふうに生きていったほうがいいんじゃあないか、と思う。一方でそうした暮らしが決して楽なものでは無かった事も覚えている。
皆等しく苦しい生活を選ぶか、より豊かな者とより苦しい者の二者がが居る生活を選ぶか、それだけなのだ。
元親はそう考えて、溜息を吐いた。そしてより豊かな者の場所を奪い合っているのがこいつらの世界なのだと考えるとげんなりしたが、それでも元就の事は嫌いにはなれなかった。そんな世界に生まれた以上、綺麗事を並べていれば突き落とされるに決まっている。元就がどう思っていようと、容易く蹂躙されぬ生活が欲しければ、それこそ心を鬼にせねばならないのだろうから。
案外、可哀想な生き物なんだな、人間ってのは。
元親は時折そう思うようになり、そしてそのとびきり可哀想な生き物を抱きしめた。元就はやはり抵抗もせず、ただ元親に抱かれていた。淋しがりだな、と文句を言う事もあったが、だからと言って撥ねつけるわけではないのだから、きっと淋しがりなのはお互い様なのだろうと元親は考え、ただただ元就に甘え、そして同時に甘えさせた。
月に一度は光秀が訪れ、元就と二人で部屋に入って行ったが、その事に関して元親は何も考え無い事にした。光秀には元就が必要なのだし、元就にも光秀が必要なのだ。光秀は元就の上司で、元就を昇進させたり色々な知識人との会合などを開き、元就を売り込んでいるのだ。元就は貴族として成功するためにも光秀が必要なのだ。
彼らがお互い了承し必要だからしている行為に、元親は何も感じないつもりだった。それでも光秀が泊まっている晩は何故だか胃がむかむかとして、その事について可愛は「それは嫉妬というものですよ」と教えてくれた。何の解決にもならなかったが。
元親は元就に良く話しかけ冗談を言った。元就は時々笑った。元就が笑うと、元親の心まで綻んで、どうしようもなく幸せな気持ちになった。元就を笑わせようと、色々な冗談やその季節の美しい花や、鳥の鳴き声などを覚えた。元親の努力に元就は応えてくれる。彼は元親が何かを話しに来るたびに、柔らかく笑んで、その笑みを見ると元親も嬉しくなって笑えるのだった。
その日は大切な会合が有るというので、元親は留守番をしていた。従者などに漏らされては困る話は、当事者のみでするのが決まりだ。だから元親はのんびりと元就に与えられた書などを読みながら、時間を潰した。
夕方になると元就が帰って来た。随分と機嫌が良さそうで、何かいい事が有ったのか、と元親も少し嬉しくなった。元就はその晩、元親の布団に押し入って来て、嬉しそうに言った。
「元親、喜べ。我の目的の物が見つかったのだ」
元就はそう言って元親を撫でた。その手の動きがあまりに優しくて、元親も元就を撫でる。
「目的の物って?」
「秘密だ。手に入れてから教えてやろう。……珍しい物が好きな貴族が居ってな。茶道具ばかり収集している変わり者だが、その男が知っておったのだ。収集家はお互い認め合ってこそ、互いの知識を見せ合うという。そなたをここまでにした事が認められ、ついにその男が教えても良いと言ってくれたのだ」
貴族として成功し名をはせ、より珍しい物を所持する事で、他のそういう趣味を持った人間から珍しい物の引き合いが来るのだ、判るか、我はずっとその日を待っておったのだ。
元就がそう言うので、元親も笑った。
「そりゃ長年の苦労が報われて、良かったじゃねえか」
「うむ。明日、その貴族の屋敷に向かう。一泊して帰る故、良い子にしておれ」
「俺は連れて行ってくれないのか?」
元親が不満そうにいうと、元就は苦笑して言った。
「あちらも人外を飼っておるのよ。それが異国の鳥人でな、言葉が通じぬ故、そなたを連れて行ったら怖がらせてしまうかもしれぬ。下手に騒ぎになって話がこじれては困る故、此度は留守番をしてくれぬか」
そういう事情ならしょうがねえ、と元親は頷いて、そして元就を抱きしめた。良かったな、本当に良かったな、と繰り返すと、元就も、良かった、とそれだけ繰り返して元親に擦り寄った。
「元就様の欲しい物って、なんなんでしょうね?」
翌朝。従者全員で元就を見送って、それから可愛が首を傾げた。
「元就様がそれほどまで欲しい物って」
「ん……なんだろうなあ」
元親も首を傾げると、元春が言う。
「珍しい物だろう、高名な人間しか知らないような。例えば、うーん、不老不死の妙薬とか」
「元就がそんな物、欲しがるかな。可愛はどう思う」
「私はやっぱり女性絡みだと思います」
可愛は大きく頷いて言った。
「それこそなんとか物語のように、求婚するためにとてつもなく珍しい物が必要だったりとか……」
「だがそりゃあなんだ?」
「……さあ……」
可愛はまた首を傾げて、そして元親を見る。
「元親さんは何か聞いてないんですか? 元就様が欲しい物が、何なのか」
「聞いてるも何も、秘密だって言ってたしなあ……ああでも」
元親はふと光秀の言っていた事を思い出す。
「あいつ、過去に戻りたがってるとか言ってたな、そういえば」
「過去に? 時を戻す何かですか?」
「そんな物、本当に有るのか? 聞いた事が無いぞ」
元春に尋ねられて、元親は首を傾げる。
「俺だって知らねぇよ。……あぁでも、元就にとって幸せな過去ってのは、家族と仲良く出来てた頃だろ? もしかしたら、生き返りの薬かもしれない」
「生き返り……あ、反魂香という奴かもしれませんよ!」
可愛がぽんと手を叩いて言うと、元春も頷く。
「なるほど、それなら聞いた事も有るし、もしかしたら在るかもしれないな」
「はんごんこう?」
「知らないんですか? 死んだ人の魂を呼び戻す御香なんです。つまり生き返りの薬みたいな物って事ですよ」
「なるほど、それなら元就の望みも叶うな。あんたらが知ってるぐらいだ、本当に有ってもおかしくねえし」
元親がそう頷くと、可愛も「そうですよ、きっとそうなんです」と嬉しそうに言ったが、元春だけは顔を顰めて、
「でも、死者を生き返らせるって、それなんだか怖くねえか?」
と言った。
「元就様が一人になられてから何年も経ってるんだろ? 死体なんて骨も残って無いはずだ。そんなのが生き返るって、なんだか恐ろしい化け物の類になりそうな気もするんだが」
「もう、元春様は夢が無いですね。なんとかがなんとかを助けに黄泉まで行ったお話が有ったでしょう?」
「なんとかが多すぎるぞ」
元春にそう言われて可愛は「ええと」と悩みながら言う。
「奥さんが、死んだか何かで、えーと、旦那様が助けに行くんですけど、振り返っちゃいけないとかで」
「ああ、あれか。出口に着いたと思って振り返ったら、奥さんが鬼だったとかって言う」
「鬼」
「ああ、でもこれは物語ですから。元親さん達と同じ鬼とは限りませんよ」
鬼、という言葉に眉を寄せた元親に、可愛は慌てて言う。
「つまり、そんな風に魂だけ呼び戻して、器は別に用意出来たりするんじゃないかなと思うんです。そうしたら、元就様はご家族と再会出来て、……きっと幸せになれるんです」
と、隆元がやって来て、「そろそろ仕事に戻りなさい」と言って来た。三人は慌ててそれぞれの持ち場に向かい、仕事を始める。
反魂香かあ。それが有れば、元就は幸せになれる。……逆に言うと、それが無い限り、他に何が有っても元就は幸せになれないのか。
元親はそう考えて小さく溜息を吐いた。それはつまり、元親がどんなに元就を好いても、結局彼を救う事は出来ないのだという事だ。元親は酷く虚しい気持ちになって、鉈を手に取ると、薪を叩き切った。
その日の夜から雨が降り始めた。翌朝になっても雨は降り続け、空は黒く昼だというのに酷く暗い。何か嫌な感じがするな、と元親は思いながらも静かに元就を待っていた。
元就は夜になってやっと帰って来た。従者は殆ど帰り、屋敷には元親と隆元だけが居たので、出迎えには二人で出る。元就は酷くぼうっとした様子で、隆元と元親は顔を見合わせて首を傾げた。ずっと求めていた物が手に入ると喜んで出て行ったのに、この表情を見るに、どうも良くない事が起こったようだった。元就は「今帰った」とそれだけ言うと、のろのろと部屋に入ってしまった。
隆元は夜の番として仕事に戻り、元親は己の部屋に戻ろうとした。と、元就が部屋から顔を出し、「元親、話しが有る」と言う。元親は恐る恐る、元就の部屋に入った。
元就はやはりぼうっとした様子で床を見ていて、もしかして元就が欲しかった物は無かったのだろうか、などと元親が考えていると、元就が静かに溜息を吐いて、そして呟くように言う。
「元親、そなたに話が有るのだ……」
「な、……なんだ?」
元親が問うと、元就は元親の顔を見ないまま、
「そなた、我の為に死んでくれぬか……?」
と、言った。元親は一瞬何を言われたのか判らず、「へ」とそれだけ答えた。元就は静かに続ける。
「……我の欲しい物を手に入れるためにはな、誰か人外の命を捧げねばならぬのだ。我の所有している人外はそなただけだ。そなたは我に恩が有る。そなたは我の物だ。だから我はそなたを自由にして良い。我は欲しい物を手に入れるために、そなたを殺す。……異論は、無いな?」
元親は武術を学び、そして元就から人として生きる知識を学んだ。金銭、食料、外交、建築など浅く広く知識を得ると、人としてそれなりの生活が出来るようになった。そして元親の枷は首輪一つになる。
それと同時に元親は元就と共に行動する事を許された。つまりお上の仕事に着いて行くようになったのだ。元親は元就の少し後ろに常に立っていて、黙って話を聞いていた。その姿が鬼を飼い慣らした貴族と有名になり、元就の位は着々と上がっているようだった。
元親にはあくまで難しい話は判らなかったが、元就が大層恐ろしい事を平気でやる人間だというのは判った。国のためなら大小の人死には仕方無いと割り切っているようだし、自らが落ちた地獄についても割り切っていた。人間には負の部分が有る。それは否定出来ない事実であるから、その負を発散させる何かが無ければ、人は生活していけないのだ。そのために奴隷が必要なのならば、必要なのだろうと考えているようで、特に自分の境遇から弱者への救済を志すような人間ではなかった。
ただ奴隷階級が必要であるという事実は事実として受け止めているだけで、その事を推奨しているわけではないようで、他の貴族が奴隷を連れていると、気付かれぬように溜息を吐いたりもしていた。元親はその元就が持っている感情が偽善と呼ばれる物だと知っていた。元就も知っている。だから元就はそれについて口に出したりはしない。
社会という物を形成するには、綺麗事だけではいけないのだ。元親はそう考えて、時折首を傾げた。そうまでして社会を作らなければならないのか、元親には今一歩判らない。自分達のように日々食料を探し、雨が降れば木陰で眠り、晴れの日には雲の形を物に例えて遊ぶ、そんなふうに生きていったほうがいいんじゃあないか、と思う。一方でそうした暮らしが決して楽なものでは無かった事も覚えている。
皆等しく苦しい生活を選ぶか、より豊かな者とより苦しい者の二者がが居る生活を選ぶか、それだけなのだ。
元親はそう考えて、溜息を吐いた。そしてより豊かな者の場所を奪い合っているのがこいつらの世界なのだと考えるとげんなりしたが、それでも元就の事は嫌いにはなれなかった。そんな世界に生まれた以上、綺麗事を並べていれば突き落とされるに決まっている。元就がどう思っていようと、容易く蹂躙されぬ生活が欲しければ、それこそ心を鬼にせねばならないのだろうから。
案外、可哀想な生き物なんだな、人間ってのは。
元親は時折そう思うようになり、そしてそのとびきり可哀想な生き物を抱きしめた。元就はやはり抵抗もせず、ただ元親に抱かれていた。淋しがりだな、と文句を言う事もあったが、だからと言って撥ねつけるわけではないのだから、きっと淋しがりなのはお互い様なのだろうと元親は考え、ただただ元就に甘え、そして同時に甘えさせた。
月に一度は光秀が訪れ、元就と二人で部屋に入って行ったが、その事に関して元親は何も考え無い事にした。光秀には元就が必要なのだし、元就にも光秀が必要なのだ。光秀は元就の上司で、元就を昇進させたり色々な知識人との会合などを開き、元就を売り込んでいるのだ。元就は貴族として成功するためにも光秀が必要なのだ。
彼らがお互い了承し必要だからしている行為に、元親は何も感じないつもりだった。それでも光秀が泊まっている晩は何故だか胃がむかむかとして、その事について可愛は「それは嫉妬というものですよ」と教えてくれた。何の解決にもならなかったが。
元親は元就に良く話しかけ冗談を言った。元就は時々笑った。元就が笑うと、元親の心まで綻んで、どうしようもなく幸せな気持ちになった。元就を笑わせようと、色々な冗談やその季節の美しい花や、鳥の鳴き声などを覚えた。元親の努力に元就は応えてくれる。彼は元親が何かを話しに来るたびに、柔らかく笑んで、その笑みを見ると元親も嬉しくなって笑えるのだった。
その日は大切な会合が有るというので、元親は留守番をしていた。従者などに漏らされては困る話は、当事者のみでするのが決まりだ。だから元親はのんびりと元就に与えられた書などを読みながら、時間を潰した。
夕方になると元就が帰って来た。随分と機嫌が良さそうで、何かいい事が有ったのか、と元親も少し嬉しくなった。元就はその晩、元親の布団に押し入って来て、嬉しそうに言った。
「元親、喜べ。我の目的の物が見つかったのだ」
元就はそう言って元親を撫でた。その手の動きがあまりに優しくて、元親も元就を撫でる。
「目的の物って?」
「秘密だ。手に入れてから教えてやろう。……珍しい物が好きな貴族が居ってな。茶道具ばかり収集している変わり者だが、その男が知っておったのだ。収集家はお互い認め合ってこそ、互いの知識を見せ合うという。そなたをここまでにした事が認められ、ついにその男が教えても良いと言ってくれたのだ」
貴族として成功し名をはせ、より珍しい物を所持する事で、他のそういう趣味を持った人間から珍しい物の引き合いが来るのだ、判るか、我はずっとその日を待っておったのだ。
元就がそう言うので、元親も笑った。
「そりゃ長年の苦労が報われて、良かったじゃねえか」
「うむ。明日、その貴族の屋敷に向かう。一泊して帰る故、良い子にしておれ」
「俺は連れて行ってくれないのか?」
元親が不満そうにいうと、元就は苦笑して言った。
「あちらも人外を飼っておるのよ。それが異国の鳥人でな、言葉が通じぬ故、そなたを連れて行ったら怖がらせてしまうかもしれぬ。下手に騒ぎになって話がこじれては困る故、此度は留守番をしてくれぬか」
そういう事情ならしょうがねえ、と元親は頷いて、そして元就を抱きしめた。良かったな、本当に良かったな、と繰り返すと、元就も、良かった、とそれだけ繰り返して元親に擦り寄った。
「元就様の欲しい物って、なんなんでしょうね?」
翌朝。従者全員で元就を見送って、それから可愛が首を傾げた。
「元就様がそれほどまで欲しい物って」
「ん……なんだろうなあ」
元親も首を傾げると、元春が言う。
「珍しい物だろう、高名な人間しか知らないような。例えば、うーん、不老不死の妙薬とか」
「元就がそんな物、欲しがるかな。可愛はどう思う」
「私はやっぱり女性絡みだと思います」
可愛は大きく頷いて言った。
「それこそなんとか物語のように、求婚するためにとてつもなく珍しい物が必要だったりとか……」
「だがそりゃあなんだ?」
「……さあ……」
可愛はまた首を傾げて、そして元親を見る。
「元親さんは何か聞いてないんですか? 元就様が欲しい物が、何なのか」
「聞いてるも何も、秘密だって言ってたしなあ……ああでも」
元親はふと光秀の言っていた事を思い出す。
「あいつ、過去に戻りたがってるとか言ってたな、そういえば」
「過去に? 時を戻す何かですか?」
「そんな物、本当に有るのか? 聞いた事が無いぞ」
元春に尋ねられて、元親は首を傾げる。
「俺だって知らねぇよ。……あぁでも、元就にとって幸せな過去ってのは、家族と仲良く出来てた頃だろ? もしかしたら、生き返りの薬かもしれない」
「生き返り……あ、反魂香という奴かもしれませんよ!」
可愛がぽんと手を叩いて言うと、元春も頷く。
「なるほど、それなら聞いた事も有るし、もしかしたら在るかもしれないな」
「はんごんこう?」
「知らないんですか? 死んだ人の魂を呼び戻す御香なんです。つまり生き返りの薬みたいな物って事ですよ」
「なるほど、それなら元就の望みも叶うな。あんたらが知ってるぐらいだ、本当に有ってもおかしくねえし」
元親がそう頷くと、可愛も「そうですよ、きっとそうなんです」と嬉しそうに言ったが、元春だけは顔を顰めて、
「でも、死者を生き返らせるって、それなんだか怖くねえか?」
と言った。
「元就様が一人になられてから何年も経ってるんだろ? 死体なんて骨も残って無いはずだ。そんなのが生き返るって、なんだか恐ろしい化け物の類になりそうな気もするんだが」
「もう、元春様は夢が無いですね。なんとかがなんとかを助けに黄泉まで行ったお話が有ったでしょう?」
「なんとかが多すぎるぞ」
元春にそう言われて可愛は「ええと」と悩みながら言う。
「奥さんが、死んだか何かで、えーと、旦那様が助けに行くんですけど、振り返っちゃいけないとかで」
「ああ、あれか。出口に着いたと思って振り返ったら、奥さんが鬼だったとかって言う」
「鬼」
「ああ、でもこれは物語ですから。元親さん達と同じ鬼とは限りませんよ」
鬼、という言葉に眉を寄せた元親に、可愛は慌てて言う。
「つまり、そんな風に魂だけ呼び戻して、器は別に用意出来たりするんじゃないかなと思うんです。そうしたら、元就様はご家族と再会出来て、……きっと幸せになれるんです」
と、隆元がやって来て、「そろそろ仕事に戻りなさい」と言って来た。三人は慌ててそれぞれの持ち場に向かい、仕事を始める。
反魂香かあ。それが有れば、元就は幸せになれる。……逆に言うと、それが無い限り、他に何が有っても元就は幸せになれないのか。
元親はそう考えて小さく溜息を吐いた。それはつまり、元親がどんなに元就を好いても、結局彼を救う事は出来ないのだという事だ。元親は酷く虚しい気持ちになって、鉈を手に取ると、薪を叩き切った。
その日の夜から雨が降り始めた。翌朝になっても雨は降り続け、空は黒く昼だというのに酷く暗い。何か嫌な感じがするな、と元親は思いながらも静かに元就を待っていた。
元就は夜になってやっと帰って来た。従者は殆ど帰り、屋敷には元親と隆元だけが居たので、出迎えには二人で出る。元就は酷くぼうっとした様子で、隆元と元親は顔を見合わせて首を傾げた。ずっと求めていた物が手に入ると喜んで出て行ったのに、この表情を見るに、どうも良くない事が起こったようだった。元就は「今帰った」とそれだけ言うと、のろのろと部屋に入ってしまった。
隆元は夜の番として仕事に戻り、元親は己の部屋に戻ろうとした。と、元就が部屋から顔を出し、「元親、話しが有る」と言う。元親は恐る恐る、元就の部屋に入った。
元就はやはりぼうっとした様子で床を見ていて、もしかして元就が欲しかった物は無かったのだろうか、などと元親が考えていると、元就が静かに溜息を吐いて、そして呟くように言う。
「元親、そなたに話が有るのだ……」
「な、……なんだ?」
元親が問うと、元就は元親の顔を見ないまま、
「そなた、我の為に死んでくれぬか……?」
と、言った。元親は一瞬何を言われたのか判らず、「へ」とそれだけ答えた。元就は静かに続ける。
「……我の欲しい物を手に入れるためにはな、誰か人外の命を捧げねばならぬのだ。我の所有している人外はそなただけだ。そなたは我に恩が有る。そなたは我の物だ。だから我はそなたを自由にして良い。我は欲しい物を手に入れるために、そなたを殺す。……異論は、無いな?」
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