我慢するのは体に悪い。後々爆発するから。
だったら我慢せずに両立させればいいんだ。
それが出来れば苦労はしないけども。
以下、こた。
だったら我慢せずに両立させればいいんだ。
それが出来れば苦労はしないけども。
以下、こた。
梅雨と言うのはどうも好かないな、長雨も風流だという連中の言いたい事も判らないでもないが、そんなものは現実逃避に過ぎないと私などは思うがね。この不快さを楽しもうという気力は評価するが、それを他人に強要するのはいかがなものか。
久秀はそんな事を考えながら床に寝転がっていた。
その日は梅雨の合間のようで、連日の雨が嘘のように空は晴れ上がっている。だが庭はぬかるみ水溜りが出来ていて、それが照りつける太陽に干上がる蒸し暑さはすさまじい。
近所の学生が「日輪よー!」などと叫んでいたが、確かに晴れる事は嬉しい、洗濯物が溜まっているから、だがこれほどまでの湿度では乾くのか、ましてやこれでは単に雨のほうが不快指数は低いのではないか……。
久秀は多々の理由から新聞を取りに行くのさえ億劫になっていて、部屋の中に転がっていた。
と、ピンポン、と控えめにチャイムが鳴る。久秀はまた連中でも来たのだろうか、とうんざりしながら、ノロノロと玄関に向かった。
「……!」
玄関に居たのは小太郎で、新聞を二日分ほど持って立っていた。小太郎は久秀を見るとぎょっとした様子で息を呑んだが、久秀のほうは嬉しそうに笑んだ。
「やあ小太郎君、ああ新聞をありがとう、……うん?」
ここ二日ほど新聞を取りに行けてなかったので、久秀はそれの礼を言ったのだが、小太郎が何やら素早い動作で言葉を連ねるので、眉を寄せる。
「ああ、ええと……ん? もっとゆっくり、……ああ、まだダメだな、最後が疑問系だという事しか判らない。いや言葉というのは存外不便だな、要するにどうしたのか聞きたいのかね?」
久秀がのんびり尋ねると、小太郎はこくこくと頷いて、そっと久秀に触れた。
それもそのはず、久秀は全身包帯だらけだったのだ。
事の発端から説明すれば、全ては久秀の自業自得なのだが、普通の人間は自分の責任について触れないようにする事で、自分が被害者であるという部分を守る。
だから久秀は事の詳細を小太郎に語らなかったが、実際に久秀に起こった事はこうだ。
久秀は昨年から一人の青年を資金援助していた。つまり援助交際をしていたのだが、次第にその関係に飽きていた。が、青年は若者らしい欲を出して、久秀に絡んでくる。それが簡単に言ってウザくなった久秀は、彼を苛める方向に進もうとした。
まぁその苛め方と言うのがとても大声で言えるような事ではなく、警察に被害を届け出ようにも出られないような方法であったので、青年は泣き寝入りして久秀との関係を打ち切る他無いように思われた。
だがついでにからかって遊んでいた、その青年の保護者(右目殿、と仮名する)がその事について大変に怒ったわけで、つい先日、右目殿はバット片手に久秀宅を訪れた。
やあ、野球でもするのかねと言った久秀に次の言葉を許さず、右目殿は久秀を殴打した。どうやらバットは気合だけだったらしく、暴力は素手のみに留まったので、久秀は死にも大怪我もしなかった。いやはや、喧嘩の仕方を知っている人間は違うな、と久秀は感心したものだが、怪我をした事は確かで、久秀はその日は寝込んでいた。
三好三人衆が定期連絡に家を訪れたのが幸いして、久秀は病院に運び込まれたが、外傷も浅く問題無いという事で、包帯を巻かれると久秀は帰宅する。いやはやまったく、上手なものだなと久秀は改めて感心すると共に、もう暇つぶしに人を苛めるのはなるべくやめておこうと少しだけ考えた。
その日は寝込んでいたのだが、梅雨のじめじめとした空気は久秀に安眠を与えず、全身が痛いわ、湿度で不快だわと久秀はストレスを溜めていた。
その矢先の小太郎の訪問を、久秀はとてつもなく喜んだのであるが、小太郎の方にしてみれば説明されたのが「何処かの怖いお兄さんにしこたま殴られてね」だけなので、あまりの事に涙を流すしかなかった。
「ああ、そんな、泣かなくてもいいのだよ。大丈夫、いつもの事なんだ、どういう訳か、私は嫌われてね、こういう事も初めてではないし、慣れているから平気なんだよ、ほら何処も折れていないし」
久秀がそう慰めてくるのに、小太郎は益々ショックを受けたらしい。はらはらと泣き続ける小太郎に、久秀は困惑して、そして自分の体の中で、まだ痛みの少ない左腕で彼をそっと抱き寄せる。
「ああだめだよ、こんなろくでなしの為に泣いたりするものではない。卿はもっと相応しい人の為に涙を流すべきだ……なんだね? いやすまない、勉強が足りないな」
小太郎が何か反論をしてるようだというのは判るのだが、久秀はまだ手話を完全に会得出来ておらず、細かい意味が判らない。ただ唇を引き結んでいるあたり、どうやら怒っているようで、久秀は困惑する。
「何故、卿が怒るのだね? ああ、……ああ、泣かないでくれ」
小太郎は何度か同じ仕種をしたが、やがてそれが伝わらないという事に気付くと、「どうして判ってくれないのか」とでも言いたげに、久秀の胸を叩いた。その場所はちゃんと包帯の巻かれていない場所で、久秀は眉を寄せて、そして小太郎を撫でる。
「すまない、もっと勉強をしてみるよ……しかし参った、人の泣き顔を見るのは嫌いではないのだが、卿の泣く顔を見るのは何故だか心が痛む。これは卿を泣かせないために、私は品行まで改めなくてはいけないのか? いや卿と居るとやる事に困らないな……」
小太郎はどうやら怒っているようだし、ショックを受けているし、それに泣いていて、久秀はどうにも扱いに困ってしまった。久秀にはどうして小太郎がそんな反応をしてしまうのか、判らなかったのだ。他にそういう反応をした人間が居なかったから、久秀は困惑するしかなく、ただ、時が過ぎるのに身を任せるしかなかった。
小太郎はしばらく怒っていたようだが、やがて泣き止むと、久秀を部屋に連れ戻し、布団に押し込んだ。何か言おうとする久秀に隙を与えずに部屋を出て行くと、勝手にキッチンのあたりでごそごそやり始めた。久秀が見に行くと、小太郎はまた怒った様子で久秀を無理やり布団に押し戻して、念を押すように久秀の胸を叩いた。
つまり、寝てろと言いたいのかね。久秀の問いに当たり前だといわんばかりに大きく頷いてみせて、そして小太郎はキッチンに行ってしまった。
卿は休みなんだろう、遊びに来てくれたのに、何かをさせては悪いではないか、そうだ茶を淹れるから、卿は客なのだから卿こそ大人しくしていてほしいものなのだがね。
久秀は比較的大きな声でそう言ったが、それは独り言以上の何にもならず、久秀は溜息を吐く。
まったく、人生も折り返したというのに、何故今更判らない事が出てくるのか。
久秀は首を傾げながらも、布団の中で大人しくしていた。やがて小太郎が持ってきたお粥を互いに無言のまま食べて、また寝ると、小太郎は「また」という言葉だけを残して帰ってしまった。
私は何か、彼に悪い事をしたのだろうか? そんなつもりはなかったのだが。
久秀は己の何がそうまで小太郎を怒らせたのか理解出来ず、その日はずっと寝込んでいた。あまりに悩んだせいか、蒸し暑さは気にならなくなっていた。
小太郎は怒っていたし悟っていた。
小太郎は佐助から度々、「そういう事を言うもんじゃないよ」と怒られていたのだが、小太郎には怒られる理由が判らなかった。本当の事を言って何が悪いのか理解出来なかった。
だが先程、本当の事を言ったのだろう久秀に、小太郎は怒った。そしてようやく佐助が何を怒っていたのか理解したのだった。
小太郎は小学校の頃、クラスのペットだった。特に苛められるような事も無く、時折存在を思い出されて愛でられる生き物だった。
それが変化し始めたのは中学へ入った頃からで。小太郎は他の人間より成長が遅れたし、声を出せないのが小太郎に中性的な部分を持たせてしまったらしい。小太郎は無視されない程度にクラスから孤立していたが、その理由を小太郎は知らなかった。
何故知り合う人間が皆「こたちゃん」だとか「ちゃん」で自分を呼ぶのか、小太郎は深く理由を考えた事が無かったから、自分がどのような眼で見られているのか判らなかったし、判るはずもなかった。
だから小太郎はクラスメイトに「ちょっと付き合って」と言われても素直に着いて行ったし、……その先で起こった事に対しても、理解出来ない以上、怒りも嘆きもしなかった。
そうこうするうちに小太郎は手出ししても何も言わない、という事が他者にも伝達されたらしく、小太郎は時折手招きされると着いて行き、そしてそれまで小太郎が知らなかった事を教えられた。男にも女にも教えられた。小太郎はそれが何かよく判らなかったし、判らない以上、何の反応もしなかった。
今ではその行為の必要性や意味を理解しているが、それが己になされる理由は未だに判っていない。ただそういう事が頻繁に有ったので、小太郎の中でその行為は特に言うべき事の無い、日常の一つになっていた。
そういった空気は誰にでも判るのか、高校に行っても、バイトを始めても、一人ぐらいは小太郎に手を出してくる人間が居たし、小太郎は断り方も知らなければ断る理由も無いので受け入れた。それに関して佐助などは(彼も小太郎に手を出した人間の一人なのに)、そういう事を許すべきではない、と説教をする。
慣れているから、なんて、言わないでくれ。佐助がそう怒ったように、嘆くように、祈るようにそう言う理由が小太郎には判らなかったのだ。だが、久秀が同じように「慣れているから」と自分に言った瞬間、小太郎は理解出来た。
そんな事を慣れていて欲しくないのだ、悲しいから。
知らないうちに「そんな事を言わないで」と紡いでいた自分に気付いた時、小太郎は泣いた。
自分は汚い。汚れているから、自分が汚れている事に気付かない。俺を抱いた人間は大抵、俺の事を綺麗だとか、天使だとか言うけれど、俺はそんな物じゃあない。俺はとびきり嫌な奴だ、こうやって何食わぬ顔で周りのみんなを傷つけているんだから……。
ああでも。それじゃあ、松永さんも汚い人になってしまう。それは困る。こんなに優しい人が、そんな人のはずはない、俺と松永さんは違うんだ、俺は嫌な人間だけど、松永さんはそうじゃない、困るんだ、そうだと困る、だって松永さんはこんなに優しい、だからもう、そんな風に言わないで、でないと俺はどうしていいか判らなくなるから……。
小太郎は自分がどうしたいのか、何が言いたいのか、まるで判らなくなって、そしてただ、久秀の胸を叩いた。
仮に言葉が有っても伝わらないだろう思いを、とん、と掌でぶつけると、ただ柔らかく抱き寄せられて、小太郎は目を閉じる。
ほらやっぱり俺は嫌な奴だ、怪我をしている人間に気を遣わせて。泣き止め、俺は人を助けるんだ。俺が不幸にしただけの人達を助けなきゃいけないんだ……。
小太郎はそう己に言い聞かせて、そして久秀を布団に押し込んだ。
++++
たぶん他の松永氏や小太郎君や佐助はこんなキャラじゃないと思う。
現パラだから仲いいんであって、
戦国だったら松永と小太郎はもっと殺伐としてると思う。
久秀はそんな事を考えながら床に寝転がっていた。
その日は梅雨の合間のようで、連日の雨が嘘のように空は晴れ上がっている。だが庭はぬかるみ水溜りが出来ていて、それが照りつける太陽に干上がる蒸し暑さはすさまじい。
近所の学生が「日輪よー!」などと叫んでいたが、確かに晴れる事は嬉しい、洗濯物が溜まっているから、だがこれほどまでの湿度では乾くのか、ましてやこれでは単に雨のほうが不快指数は低いのではないか……。
久秀は多々の理由から新聞を取りに行くのさえ億劫になっていて、部屋の中に転がっていた。
と、ピンポン、と控えめにチャイムが鳴る。久秀はまた連中でも来たのだろうか、とうんざりしながら、ノロノロと玄関に向かった。
「……!」
玄関に居たのは小太郎で、新聞を二日分ほど持って立っていた。小太郎は久秀を見るとぎょっとした様子で息を呑んだが、久秀のほうは嬉しそうに笑んだ。
「やあ小太郎君、ああ新聞をありがとう、……うん?」
ここ二日ほど新聞を取りに行けてなかったので、久秀はそれの礼を言ったのだが、小太郎が何やら素早い動作で言葉を連ねるので、眉を寄せる。
「ああ、ええと……ん? もっとゆっくり、……ああ、まだダメだな、最後が疑問系だという事しか判らない。いや言葉というのは存外不便だな、要するにどうしたのか聞きたいのかね?」
久秀がのんびり尋ねると、小太郎はこくこくと頷いて、そっと久秀に触れた。
それもそのはず、久秀は全身包帯だらけだったのだ。
事の発端から説明すれば、全ては久秀の自業自得なのだが、普通の人間は自分の責任について触れないようにする事で、自分が被害者であるという部分を守る。
だから久秀は事の詳細を小太郎に語らなかったが、実際に久秀に起こった事はこうだ。
久秀は昨年から一人の青年を資金援助していた。つまり援助交際をしていたのだが、次第にその関係に飽きていた。が、青年は若者らしい欲を出して、久秀に絡んでくる。それが簡単に言ってウザくなった久秀は、彼を苛める方向に進もうとした。
まぁその苛め方と言うのがとても大声で言えるような事ではなく、警察に被害を届け出ようにも出られないような方法であったので、青年は泣き寝入りして久秀との関係を打ち切る他無いように思われた。
だがついでにからかって遊んでいた、その青年の保護者(右目殿、と仮名する)がその事について大変に怒ったわけで、つい先日、右目殿はバット片手に久秀宅を訪れた。
やあ、野球でもするのかねと言った久秀に次の言葉を許さず、右目殿は久秀を殴打した。どうやらバットは気合だけだったらしく、暴力は素手のみに留まったので、久秀は死にも大怪我もしなかった。いやはや、喧嘩の仕方を知っている人間は違うな、と久秀は感心したものだが、怪我をした事は確かで、久秀はその日は寝込んでいた。
三好三人衆が定期連絡に家を訪れたのが幸いして、久秀は病院に運び込まれたが、外傷も浅く問題無いという事で、包帯を巻かれると久秀は帰宅する。いやはやまったく、上手なものだなと久秀は改めて感心すると共に、もう暇つぶしに人を苛めるのはなるべくやめておこうと少しだけ考えた。
その日は寝込んでいたのだが、梅雨のじめじめとした空気は久秀に安眠を与えず、全身が痛いわ、湿度で不快だわと久秀はストレスを溜めていた。
その矢先の小太郎の訪問を、久秀はとてつもなく喜んだのであるが、小太郎の方にしてみれば説明されたのが「何処かの怖いお兄さんにしこたま殴られてね」だけなので、あまりの事に涙を流すしかなかった。
「ああ、そんな、泣かなくてもいいのだよ。大丈夫、いつもの事なんだ、どういう訳か、私は嫌われてね、こういう事も初めてではないし、慣れているから平気なんだよ、ほら何処も折れていないし」
久秀がそう慰めてくるのに、小太郎は益々ショックを受けたらしい。はらはらと泣き続ける小太郎に、久秀は困惑して、そして自分の体の中で、まだ痛みの少ない左腕で彼をそっと抱き寄せる。
「ああだめだよ、こんなろくでなしの為に泣いたりするものではない。卿はもっと相応しい人の為に涙を流すべきだ……なんだね? いやすまない、勉強が足りないな」
小太郎が何か反論をしてるようだというのは判るのだが、久秀はまだ手話を完全に会得出来ておらず、細かい意味が判らない。ただ唇を引き結んでいるあたり、どうやら怒っているようで、久秀は困惑する。
「何故、卿が怒るのだね? ああ、……ああ、泣かないでくれ」
小太郎は何度か同じ仕種をしたが、やがてそれが伝わらないという事に気付くと、「どうして判ってくれないのか」とでも言いたげに、久秀の胸を叩いた。その場所はちゃんと包帯の巻かれていない場所で、久秀は眉を寄せて、そして小太郎を撫でる。
「すまない、もっと勉強をしてみるよ……しかし参った、人の泣き顔を見るのは嫌いではないのだが、卿の泣く顔を見るのは何故だか心が痛む。これは卿を泣かせないために、私は品行まで改めなくてはいけないのか? いや卿と居るとやる事に困らないな……」
小太郎はどうやら怒っているようだし、ショックを受けているし、それに泣いていて、久秀はどうにも扱いに困ってしまった。久秀にはどうして小太郎がそんな反応をしてしまうのか、判らなかったのだ。他にそういう反応をした人間が居なかったから、久秀は困惑するしかなく、ただ、時が過ぎるのに身を任せるしかなかった。
小太郎はしばらく怒っていたようだが、やがて泣き止むと、久秀を部屋に連れ戻し、布団に押し込んだ。何か言おうとする久秀に隙を与えずに部屋を出て行くと、勝手にキッチンのあたりでごそごそやり始めた。久秀が見に行くと、小太郎はまた怒った様子で久秀を無理やり布団に押し戻して、念を押すように久秀の胸を叩いた。
つまり、寝てろと言いたいのかね。久秀の問いに当たり前だといわんばかりに大きく頷いてみせて、そして小太郎はキッチンに行ってしまった。
卿は休みなんだろう、遊びに来てくれたのに、何かをさせては悪いではないか、そうだ茶を淹れるから、卿は客なのだから卿こそ大人しくしていてほしいものなのだがね。
久秀は比較的大きな声でそう言ったが、それは独り言以上の何にもならず、久秀は溜息を吐く。
まったく、人生も折り返したというのに、何故今更判らない事が出てくるのか。
久秀は首を傾げながらも、布団の中で大人しくしていた。やがて小太郎が持ってきたお粥を互いに無言のまま食べて、また寝ると、小太郎は「また」という言葉だけを残して帰ってしまった。
私は何か、彼に悪い事をしたのだろうか? そんなつもりはなかったのだが。
久秀は己の何がそうまで小太郎を怒らせたのか理解出来ず、その日はずっと寝込んでいた。あまりに悩んだせいか、蒸し暑さは気にならなくなっていた。
小太郎は怒っていたし悟っていた。
小太郎は佐助から度々、「そういう事を言うもんじゃないよ」と怒られていたのだが、小太郎には怒られる理由が判らなかった。本当の事を言って何が悪いのか理解出来なかった。
だが先程、本当の事を言ったのだろう久秀に、小太郎は怒った。そしてようやく佐助が何を怒っていたのか理解したのだった。
小太郎は小学校の頃、クラスのペットだった。特に苛められるような事も無く、時折存在を思い出されて愛でられる生き物だった。
それが変化し始めたのは中学へ入った頃からで。小太郎は他の人間より成長が遅れたし、声を出せないのが小太郎に中性的な部分を持たせてしまったらしい。小太郎は無視されない程度にクラスから孤立していたが、その理由を小太郎は知らなかった。
何故知り合う人間が皆「こたちゃん」だとか「ちゃん」で自分を呼ぶのか、小太郎は深く理由を考えた事が無かったから、自分がどのような眼で見られているのか判らなかったし、判るはずもなかった。
だから小太郎はクラスメイトに「ちょっと付き合って」と言われても素直に着いて行ったし、……その先で起こった事に対しても、理解出来ない以上、怒りも嘆きもしなかった。
そうこうするうちに小太郎は手出ししても何も言わない、という事が他者にも伝達されたらしく、小太郎は時折手招きされると着いて行き、そしてそれまで小太郎が知らなかった事を教えられた。男にも女にも教えられた。小太郎はそれが何かよく判らなかったし、判らない以上、何の反応もしなかった。
今ではその行為の必要性や意味を理解しているが、それが己になされる理由は未だに判っていない。ただそういう事が頻繁に有ったので、小太郎の中でその行為は特に言うべき事の無い、日常の一つになっていた。
そういった空気は誰にでも判るのか、高校に行っても、バイトを始めても、一人ぐらいは小太郎に手を出してくる人間が居たし、小太郎は断り方も知らなければ断る理由も無いので受け入れた。それに関して佐助などは(彼も小太郎に手を出した人間の一人なのに)、そういう事を許すべきではない、と説教をする。
慣れているから、なんて、言わないでくれ。佐助がそう怒ったように、嘆くように、祈るようにそう言う理由が小太郎には判らなかったのだ。だが、久秀が同じように「慣れているから」と自分に言った瞬間、小太郎は理解出来た。
そんな事を慣れていて欲しくないのだ、悲しいから。
知らないうちに「そんな事を言わないで」と紡いでいた自分に気付いた時、小太郎は泣いた。
自分は汚い。汚れているから、自分が汚れている事に気付かない。俺を抱いた人間は大抵、俺の事を綺麗だとか、天使だとか言うけれど、俺はそんな物じゃあない。俺はとびきり嫌な奴だ、こうやって何食わぬ顔で周りのみんなを傷つけているんだから……。
ああでも。それじゃあ、松永さんも汚い人になってしまう。それは困る。こんなに優しい人が、そんな人のはずはない、俺と松永さんは違うんだ、俺は嫌な人間だけど、松永さんはそうじゃない、困るんだ、そうだと困る、だって松永さんはこんなに優しい、だからもう、そんな風に言わないで、でないと俺はどうしていいか判らなくなるから……。
小太郎は自分がどうしたいのか、何が言いたいのか、まるで判らなくなって、そしてただ、久秀の胸を叩いた。
仮に言葉が有っても伝わらないだろう思いを、とん、と掌でぶつけると、ただ柔らかく抱き寄せられて、小太郎は目を閉じる。
ほらやっぱり俺は嫌な奴だ、怪我をしている人間に気を遣わせて。泣き止め、俺は人を助けるんだ。俺が不幸にしただけの人達を助けなきゃいけないんだ……。
小太郎はそう己に言い聞かせて、そして久秀を布団に押し込んだ。
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たぶん他の松永氏や小太郎君や佐助はこんなキャラじゃないと思う。
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