勢いがついちゃったんでちょっとキリのいいとこまで書きます
ひさこたに興味無い方ごめんなさい。
以下、ひさこたの続き。
かけつきぐらいの長さになりそうかな……
色々変な設定で色々と申し訳無い。暗いし。
ひさこたに興味無い方ごめんなさい。
以下、ひさこたの続き。
かけつきぐらいの長さになりそうかな……
色々変な設定で色々と申し訳無い。暗いし。
天使は人の歌を唄う 3
「へぇ、あの人意外といい人だったりするのかね? しばらく食べるのには困らないじゃん」
自宅であるアパートに戻ると、丁度車から降りて来た佐助に出会った。佐助は小太郎の大荷物を見かねて、運ぶのを手伝ってくれながら、そう言った。
このアパートは佐助が紹介してくれたもので、佐助もここに住んでいる。安アパートとしか言いようが無い古びたものだが、トイレと風呂が個々についているだけでも儲け物と小太郎は思っていた。
無事部屋まで荷物を運ぶと、佐助はすぐに出て行った。これから仕事なのだという事を小太郎は知っていた。けれど小太郎はこれから仮眠を取って、からバイトだ。小太郎は一度佐助に頭を下げて、ドアを閉じる。
狭い部屋に小太郎の私物は殆ど無い。備え付けだったタンス(どうやら前の住人が置いていったらしい)と、小さなちゃぶ台、子供の頃から使っているのを持って来た勉強机と、布団だけの部屋だ。布団は押入れが無いので畳んで部屋の隅に寄せている。
机の引き出しには山のような手紙と、そして一枚の鴉の羽が入っている。それは父が直接小太郎に手渡した、数少ない贈り物の一つだったが、その羽がどういう意図で小太郎に渡されたのか、小太郎には理解出来ていない。だが、忌み子である自分を忌み鳥である鴉と同じだと言いたかったのではないか、と小太郎は解釈はしていた。
そういう意図であろうと推測はしても、小太郎にとっては大切な羽だった。
小太郎は家を出る事になったが、まずは一人暮らしをする先を見つけなくてはならなかった。高校卒業を間近に控え、小太郎は物件をあれこれ探したが、なかなか良い物が見つからなかった。
そもそも小太郎は声が出せないから、健常な人間より収入面で不安定だ。家賃は安いほうがいいが、小太郎にはそういう安アパートを探す方法が判らなかった。誰にも教えられていないからだ。出て行けといった父は、小太郎に全く接触しなくなっていたし、聞くにも聞けない。父は手話を出来ない。筆談をしようにもこちらを向いてくれないのだ。
困り果てた小太郎が、ふらふら歩いている姿は、傍から見ると少々気味が悪かったらしい。交番から警官が出て来て、声をかけられたが、小太郎は驚いて反応出来ない。またそれが警官の不信感を煽ったらしく、ちょっとお話できるかな、と言われて小太郎はまた困る。
とりあえず手話で応じてみるが、通じない。道行く人はそんな小太郎と警官のやり取りを横目で見ながら、ただ通り過ぎていく。
「隣町に住んでるんだってさ」
ふいに声がして、小太郎と警官がそちらを見ると、佐助が立っていて、小太郎を見ている。
「もう一回、さっきのやって?」
何を要求されているのか小太郎は一瞬判らなかったが、気付くと慌ててもう一度言葉を紡ぐ。
「家を探してるんだって。さっきと同じ手話だから本物だよ。この子は声が出ないんだ」
それでどうやら自分が声を出せない事を疑われていたのだと気付いたが、その時には警官は自分にもう興味を失っていたようで、さっさと交番に帰って行った。
小太郎は佐助に「ありがとう」と伝えるが、佐助は苦笑して言う。
「いやー、お金になるかなーと思って齧ったんだけど、こんなトコで使う事になるとはね。スキルって意外と変換出来ないもんだなー」
ところで、家を探してるってどういう意味? 一人暮らし? 何? えーっと、……ごめんこの単語がわからない。えっと……ああ、安いとこ? あ、……君、不動産屋に行くとか判らなかったの? 不動産屋ってのはね……ああそうだ、紹介してあげるよ。いいところ知ってるんだ。
佐助は小太郎の言わんとしている事を辛うじて理解してくれて、そして家を紹介してくれた。そして結果的に、側に手話が通じる人間が居たほうが安全だ、という事で、小太郎は佐助と同じアパートに住む事になった。
佐助はヘルパーの仕事をしていたし、小太郎は佐助によく懐いた。介護の仕方を教えてもらえたし、それに手話もある程度出来るから、会話も出来た。だから小太郎は佐助の事が好きになった。
佐助は事ある事に、苦笑しながら「俺様、こたちゃんが思ってるほどいい人じゃないんだよ?」と言っていたが、小太郎はそうは思わなかった。確かに佐助自体はどうやら介護が好きでしているという風ではなかったが、それでもそういう仕事を選ぶという事は良い事だと小太郎は思っていた。たとえ、佐助が「高齢化社会に向けて、介護が一番儲かるだろうなって思っただけなんだから。意外と重労働で儲からないからガッカリしてるところなんだから」と否定しても、小太郎は佐助を尊敬していた。
その日は小太郎は荷物を冷蔵庫にしまうと、眠った。小太郎の睡眠は深く短い。それが彼の類稀な体力を支えているが、小太郎はそうして自分を守っていただけだった。気まぐれな父に何かされない間に、充分な休息を取らなくてはいけなかった、それだけだ。
翌日、佐助と共に介護先から帰る時、小太郎は佐助に尋ねた。
「お礼? ああ、昨日のお菓子の?」
こくんと頷いて、慌しく手を動かす。最近語彙の増えて来た佐助も、辛うじて小太郎の言わんとしている事を汲み取ってくれる。
「甘い物はダメ。お茶にこだわりが有る。……うーん、そりゃ難しいな。下手な物を持って行っても、迷惑がられちゃうし」
うーん、と佐助は真剣に悩んでくれて、小太郎はそれだけでも安心した。佐助はいつでも小太郎の事を親身に考えてくれる。それが小太郎にはありがたい。
「……あ、そうだ。野菜とかは? ほら、北条のおじいちゃんが注文してる野菜、あれってすごくおいしいじゃん」
そう言われて小太郎は思い出す。氏政はとある地元の有機農法野菜をとても好いていて、そこの野菜でなければ食べないと言う程だったのだ。最初こそ健康に気を使っているのだろうと思っていたが、一度、余り物を貰った時にその味の違いに驚いた。とにかく甘いのだ。
同じ野菜なのにこれほど違うのか、と小太郎も佐助も感心して、それから時折佐助は自分の分も購入しているらしかった。それを久秀にお礼として持って行ったらどうか、というわけだ。
「今度の休みの日に買いに行ってみなよ。後で地図あげるから。おっかなそうな農家の人だけど、案外いい人だから大丈夫、ちゃんとこたちゃんの事情は話しておいてあげるよ」
佐助がそう言ってくれて、小太郎は嬉しそうに頷いて、ありがとうと伝える。佐助はやはり照れくさそうに笑って「やめてよ、そうやって素直に言うの」と言うのだが、小太郎には素直になってはいけない理由が判らなかった。
その日、小太郎は新聞配達を終えて、そして久秀の家を訪れた。久秀は縁側で新聞を読んでいた。
「……ああ、小太郎君、来てくれたのかね?」
ふいに顔を上げた久秀と眼が合うと、久秀は嬉しそうに声を出して、手招きする。小太郎は自転車を置くと、野菜を持って庭へ入った。
「新聞というのは1面のあたりよりもこう真ん中の地味な記事のほうが味わいが有ってね、判るかな、知識と言うのはより多くが持っていない物にこそ価値が……おや、それはなんだい?」
近付いてきた小太郎が持っている野菜を見て、久秀は尋ねた。小太郎は久秀に意思を伝える手段をそれしか持って居なかったので、ずいと差し出す。
「私に? ……これを、かね? ……ああ、この間の礼に? なんだ、困ったな、礼が言いたかったのはこちらのほうだよ、おかげで食品棚が片付いた。……おいしそうなキャベツだな。ありがたくいただこう。……礼にお茶を入れたいが、どうかな。ああしかし今日はチョコレートケーキしか無いから茶は合わないな、紅茶を入れるとしよう」
久秀はそう言って新聞を畳むと歩き始める。それを慌てて止めて、「おかまいなく」と伝えようとする。久秀にもそれは伝わったようで、「遠慮する事は無い、これはお礼だからね」と笑むと、キッチンに行ってしまった。
これじゃあ、お礼合戦になってしまう。
小太郎は困惑したが、要らないと強固になるのも失礼かと考えて、大人しく茶の間に入った。
茶の間には何故だか小太郎用と思われる座布団が敷いてあって、小太郎は妙な気持ちになった。
久秀は愛するという事を知らないし、愛されるという事を知らない。人を嫌う事は知らないのに、人に嫌われる事は良く知っている。欲望という物を良く知っているのに、満たされると言う事は知らなかった。
物心ついた時には、家に複数の女が居た。子供の頃は訳も判らず、彼女達を彼女達の指定する通りオネエサンと呼んだが、その存在の本当の名を、今なら久秀は的確に表現出来る。売女と言うのだ。
そしてまた父やオネエサン達の指定する通り、ババアと呼んでいた人間の本当の名を母という事を、今なら久秀は理解出来る。
父はたくさんのオネエサンをババアと久秀の居る家に連れ込んで、毎日朝から晩までじゃれあった。ババアは献身的に家事をする家政婦で、黙って父とオネエサンの側に佇む人形で、そして一家を支える稼ぎ頭でもあった。そんなババアを久秀もそれほど好いてはいなかったが、父やオネエサンがそうするほどないがしろにはしなかった。むしろその存在に対した興味は無かった。
久秀は宇宙や仏教や哲学といったものに夢中であった(子供の頃、人間は必ず他者とは違う自分を見出そうと妙な専門分野を持ちたがるもので、今ではなんとも恥ずかしい事をしていたものだと久秀も思う)だから久秀は父やオネエサンやババアに関して、対して記憶が無い。
一つ覚えているのは、どうしてそうなったのかは忘れてしまったが、オネエサンの一人とセックスをしたという事だ。オネエサンの求めるまま、体の求めるまま久秀は繋がった。
そしてオネエサンはアンタはあのヒトにそっくりという言葉をくれた。久秀はそれがどういう事か不愉快で、そしてこれまた今になってみれば理解に苦しむ行動を起こした。久秀はそのオネエサンを乱暴に抱き、その上でババアを愛した。その行動原理の単純さに久秀は今でも頭を抱える。要するに父と同じと言われる事が不快で、無闇に暴れてみたのだ。あの頃自分は若かったとそう言えば聞こえはいいが、沢山の恥を重ねた。
オネエサン達は半分久秀に憧れ、半分怯えるようになり、またその反応はババアにも現れて、久秀は随分と良い気分を味わった。自分が父をも凌駕するこの家の主になったような気さえした。
父と殺し合いになったのはそれから間もなくの事で、久秀と父は一晩中殺しあったし、どさくさにまぎれてババアはオネエサンを殺そうとしていたし、そしてババアは父を殺そうともしていた。オネエサンは父の後ろに隠れてなんとか生き残ろうとしていた。父はオネエサンを押しのけて、なんとかババアを久秀に殺させまいとしていた。
その日だけは全員の本音が全身から溢れていて、久秀はそれを酷く心地良いと感じた。彼の足は折れていたし、それはもう家中地獄絵図だったのだけれども、それを久秀はとても幸福に感じた。
間も無く久秀は父に勘当を言い渡され、ババアをおいて家を出た。
それからの人生も久秀は自分の事ながら目を覆いたくなるような酷い道を歩き続けた。今にしてみれば理解に苦しむ選択ばかりしながら、しかし久秀はたくましく生きたし、あろう事か久秀は成功者の一人になっていた。それがまた久秀は理解出来無いし、それに喜ぶ事も出来ない。
成功したからとてなんだというのだ、金が有るから、女に困らないから、だからなんだと。
そして久秀は近年、この世に疲れたという名目で、半ば逃げるようにして仕事を辞め、この家に一人で暮らし始めたのだった。
だから久秀には小太郎の存在が理解出来無いし、単純に嬉しい。
「小太郎君はどうやってコミュニケーションを? ……ああ、それは手話かね? すまない、私は心得が無いから、判らないが……卿と喋ってみたものだなあ、ふむ、近頃何事にもやる気が湧かなかったが、しばらくは卿のために手話の勉強でもしてみようか。だが不思議だな、卿の言わんとしている事が判らなくもないのだよ。つまり卿はこう言いたいのではないかね? どうぞお構いなく、と」
テーブルにぎっしり並べられた菓子を見ながら呆けている小太郎にそう言うと、小太郎は素直に頷いた。それを見て久秀は苦笑する。
「何を卿が遠慮する必要が有るのかね? 私はそうしたいからそうしているのだよ。つまり私は卿をおもてなししたのだ。……ふむ、だがそれを卿が不快に思っているなら別だ。我々人間は、お互いが不快にならない範囲で満足を得ようとする為に交流するわけで……ならば次からは菓子の量を半分に減らしてみようか。いや待て、そもそも卿はまたここに来てくれたりはするのかね?」
久秀が尋ねると、小太郎はしばらく首を傾げていたが、やがてこくんと頷く。
「それは嬉しい。だが卿も気を遣わなくて良いのだよ。私は私が食べない物を卿に食べてもらっているだけだから、卿が負い目に思う事も、礼を考える事も無い。私はどうした事か、卿がここに居てくれるだけで、随分と楽しい気分になれるのだよ。こんな感じがするのは右目を苛める時ぐらいだ、ああ今の発言は気にしないでくれたまえ、別に私はマゾヒストではないのだよ。言葉のあやというかね……まぁいい。またいつでも遊びに来ておくれ。私は大層な暇人でね、日がな一日、縁側で新聞を読む事と、夜10時には就寝する事以外には対した決まりが無いのだよ。だからいつでも来ておくれ、茶を飲みにでも……」
小太郎は僅かに笑んで、頷いてくれる。それが久秀は妙に嬉しくて、笑みを返した。
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