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めでぃのくの日記
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2008-02-17 (Sun)
 ひさこたの続きです。

 

「やあ、小太郎君、見舞いに来てくれたのかい、いやありがたい……お、これは漬物ではないかね! いやあ! 嬉しいな! まったく!」

 久秀はベッドから起き上がって、小太郎の手を握り、そして見舞いの品である漬物に大いに喜んだ。

 久秀は病院の個室に入っていて、その体は未だに包帯に巻かれていたが、元気そうだった。その事に小太郎は安心して、微笑む。

「ああもう、本当に嬉しいよ! 病院食と言うのはどうしてああも塩気が無いんだろうね! いや本当に! 甘い物が嫌いな人間から塩気まで奪って連中は私の健康を害するつもりなのだろうかね! ああ本当に嬉しいありがたい、ああ、そこに椅子が有るよ、好きに使ってくれ、なに遠慮する事は無い、ここは個室なのだからね! いや金が有るという事は良い事だな、初日は相部屋に入れられてね、隣の若造が恋だの何だのと煩くて敵わなかったのだよ、いやまったく、いいかね私はもう43だ、恋なんて歳じゃないんだよ、なんだいその顔は、私が43なのが不満なのか、それは若いという方にかね、それとも、いや、そうだな、見た目より年齢が上という事にしておこう、その方がいい」

 久秀はそんな事を言いながら、漬物を引き出しの中にしまう。小太郎は久秀に言われたとおり椅子を出そうとした。三つある椅子の一つを引っ張り出していると、壁から3つ千羽鶴がぶらさがっているのに気付いて、小太郎は呆然とそれを見る。

「ああ、それかい、それはまあ言わずとも判るだろうけどね、連中は各々が”大の大人が千羽鶴は折らないだろう”という判断の元、折ったというわけだよ、まったく、そんな時間が有れば新聞でも読めと私は何度も言っているのだがね、連中は何故こうも私に時間をかけようとするのか、理解に苦しむよ、まあもう怒るのも面倒になったのだけどね……なんだい?」

 そういう久秀を見ながら、小太郎が声も出さずに笑っている事に彼は気付いたらしい。久秀が首を傾げるのを見て、小太郎は「すいません」と謝ってから、言葉を紡ぐ。

『お元気そうでなによりです。お怪我のほうはもう大丈夫なんですか?』

「ああ、もう大丈夫、大丈夫だよ、そうラジオ体操だって出来るぐらいさ、いやしないがね。若い頃はこれぐらいの傷なら翌日には歩き回れたものだが、流石にもう歳だろうかな、今回はなかなか傷が塞がらなかった。いや、歳だなんて思うのは止めよう。いい加減に運も尽きてきたと考えたほうがまだマシだ。医者が呆れていたよ、私は怪我をするのが上手いとね。何が上手いって血が出やすい場所を切られているそうでね、なんて事は無い傷なのに血まみれになって相手を慌てふためかせるのが上手だそうだ、いや、私の人生は常にそれだな、なんだ、今で言うところのサプライズというか」

『俺を驚かせて楽しんでいたんですか?』

 小太郎の問いに、久秀は僅かに眉を寄せた。

「卿はなんという事を言うのかね、それは卿なりの冗談か? 今の私のほうが、あの時の卿よりよほど驚いているよ。判った、白状すると私もあの時は少々、あくまで少々だがね、このまま死ぬのかもしれないと思っていたのだよ、病院に行ったら医者が怒るくらいの軽症だった事には私だって驚いたんだ、まったく、卿は案外と人が悪いな」

『そうですか?』

「そうだとも」

『そうですか』

 久秀が頷いたので、小太郎も笑んで頷く。久秀は少し怪訝そうな顔をしたけれど、「失礼」と呟いてベッドに潜った。やはり辛い物は辛いらしい。小太郎は『楽にしていて下さい』と言って、久秀の傍に寄った。




 久秀を襲った強盗は捕まった。少し離れた街の若者で、久秀とは面識が無い。事前に調査して、一人暮らしの老人の家を主に狙っていたそうだ(老人、と聞くと久秀がどう思うか判らないので、この部分は久秀に告げていない)

 何度か空き巣や窃盗を繰り返すと、度胸が付いてきたらしい。人が居ても入るようになって、見つかってもナイフで脅して金を取るようになって、それでもだめなら軽く切ってやって縛ったりもするようになっていたそうだ。感覚が麻痺し始めていた、その矢先だった。

 久秀を刺して殴り、そして大人しくなった所を、金目の物のありかを聞こうとしたのだが、久秀がピクリともしない事に強盗は恐ろしくなったらしい。彼は人を殺す覚悟を決めていたわけではなかった。だから彼は大いに焦った。

 人殺しの罪に合うだけの物を盗まなければいけない、と彼は必死になったが、久秀の金品の隠し方は明らかにおかしく(小太郎は後にコンロの貯金通帳の事を聞いて真っ青になった。知らずに使おうとした事があるのだ)、見つけられなかった。そして二階に上がり、これみよがしに鍵がかけてある部屋を見つけ、この中になら、と躍起になっていた。

 そこにぬらりと現れた血まみれの男が怖くないはずが無い。しかも彼は怯むどころかバット片手にナイフへ向かって来るような有様で、強盗は錯乱して、それからの事は当人達は双方記憶していない。強盗は扉にもたれてぐったりした久秀を前に、ついに殺してしまったと勘違いして、慌てて走って逃げた。逃げたところで、自分がナイフもバットも持っていて、服が血まみれなのに気付いて、さらに自分が怪我だらけだという事に気付いた。

 公園に行って水で血を洗い流そうとしたのだが、一休みすると体中が痛くなった。何故だと思って見てみると、そこらじゅう打撲で紫色になっていて、何か危険すら感じる状態になっていた。人間は不思議と怪我を認知すると途端に痛くてたまらなくなるもので、強盗はその場から動けなくなってしまった。

 なんとか這ってでも家に戻ろうとするのだが、ここまで走って来た事が奇跡のように、彼の足はガタガタになっていて、そして彼は冬の朝の公園で凍えて、そして通行人に、なんでもいいから助けてくれ、と救助を求め、最終的に逮捕されるに到ったのだった。




「しかし解せないな、……小太郎君、卿は何かいい事でもあったのかね?」

『何故ですか?』

「いつもより卿は良く喋る」

『ああ……ちょっと、いい事が有ったんです』

「いい事、かね」

 しばらく話しているとそんな話になって、小太郎は頷くと小太郎側の顛末を語った。

『お父さんに会いに行ったんです。松永さんにはまだ言ってませんでしたけど、俺の家はちょっと複雑で……お父さんとは血が繋がってなくて。お母さんが……裏切って出来た子供が俺なんです。でもお父さんは俺を育ててくれて……俺はお父さんが、本当のお父さんだと思ってます。もちろん違う事は判ってるんです、でも、気持ちはそうなんです。
 
 俺が声が出なくなった時の事、……思い出せて。……お父さんにいっぱい叩かれて、……あの時は確か、俺が何か悪い事をしたからだったと思います。庭で泣いていたら、あの人が、……母が来て。俺に一緒に来ないかって言いました。あの人は俺を使って一儲けするつもりだったんです。でも俺は嫌だ、お父さんが好きだからお父さんと一緒に居るって言いました。そうしたら、あの人は俺の事をひとしきり殴って、それで言いました。

 あんたは私にそっくりの大嘘吐きだよ、吐き気がするような餓鬼だ、きっとお前は悪魔になる、せいぜいそうやって自分に嘘を言い聞かせて生きてりゃいいさ、そのうち何もかも馬鹿らしくなって本性を現すんだ、それが私だからね、……そう言いました。

 ……確かにあの時、俺は嘘を言っていたのかもしれません。お父さんが本当は嫌いだったのかもしれません。でも、嘘もずっと自分に吐いていれば本当になっちゃうんですよ、そんな事も有るんです。俺は本当にお父さんが好きです、それは嘘だったのかもしれないけれど、でも今は本当なんです。

 でも俺はあの人と同じになるのが怖くて、そして嘘が吐けないように、この声を捨ててしまったんだと思います。……でも、……でもそれじゃあ、本当の事だって言えないから。

 だから、俺、お父さんに会いに行きました。お父さんは最初は怖い顔をしていたけど、俺が本当の事を言ったら、……信じられますか、松永さん、お父さんは手話を知ってたんです、俺はずっと、お父さんは知らないと思っていたのに、……お父さんは俺と話すために。

 ……お父さんは泣いていました、俺はお前に酷い事ばっかりしたのに、それでも俺の事をお父さんと呼んでくれるのかって、お前が信じたかったでも怖かったんだって、許してくれるのかって。

 ……俺、お父さんと暮らす事にしたんです。お父さん、体が弱いから。一緒に居てあげたいから。……もうすぐ、声も帰ってくる気がします』

 小太郎の言葉を聞いて、久秀も僅かに笑んで頷く。

「そうだね、卿の声は思っていたよりずっと凛々しかったし」

『やっぱり聞こえてたんですか』

「ああ、いつも卿が可愛いから声まで可愛いものだと信じていたが、いや存外低くて驚いたのだがね。だがまあ嫌いじゃない。好きだよ」

『……俺も、松永さんが、好きです』

 小太郎が継げると、久秀は一瞬驚いたような顔をして、そして笑む。

「……それは、欲しいと言う意味でかね?」

『はい』

「……ならば私も応えなければいけないな。私も卿が欲しいと言う意味で好きだよ、何しろこんな感情は初めてなんだ。いやこの世に未練など無いなんて老人みたいな事を考えているから老いるのだな、まだ私は若いつもりなのだがね」

『松永さんはまだまだ若いですよ』

「そうかね? まあ私ほど自由に生きている人間もそうはいないだろうからな。……よし、ではそうしよう。……小太郎君」

『はい』

「卿の気持ちに応えようと思う」

『……はい』

 小太郎が僅かに眼を伏せて、気持ちを整理していると、久秀は何かを差し出してきた。受け取ると、それは封筒だった。

「……まずは文通から始めると言う事で……」

「……」

「いや私はね、実は体からの付き合い以外をした事がなくて、こういう場合にどうしていいか、……どうしたんだい小太郎君、何故震えて、」

 と、久秀が心配そうに小太郎を見たのと、

「コター、迎えに来たよー」

 と佐助が久秀の部屋に入って来たのと、

 そして、




 ばちーん、



 と、小太郎が久秀の頬を打ったのは、ほぼ同時だった。

 呆然とする久秀と佐助を他所に、小太郎は僅かに頭を下げると、明らかに怒ったような様子で部屋をズカズカと出て行く。久秀も佐助も呆然としていて、追う事さえ出来ない。 

「……なんで私は叩かれたんだ?」

 久秀は佐助に尋ねたが、佐助は「さ、さあ……?」と首を傾げて、それから慌てて小太郎を追った。

 久秀はしばらく首を傾げていたが、ややして「ああ」と手を叩き、引き出しを漁った。

「そうだ、純愛というのを知ったほうがいいのかもしれないな」

 と引き出しから恋愛ドラマのDVDを3つ出して、そして首を傾げた。さて似たようなあらすじだが、どれから見たものか。

 とりあえず小太郎君を怒らせないようにしたいのだが、いったいどうすればいいのだろう、いやこの歳になってから学ぶ事の多い事だ、そうだな、私はまだまだ若い。

 久秀はそんな事を考えながら、ベッドに寝転んだ。






「こ、コタ、待ってよ、どしちゃったの急に!?」

 佐助は小太郎に追いつくと、ぎょっとした。小太郎は笑っていたのだ。

「こ、コタ?」

 声もないのに彼はけらけらといった風に笑っていて、佐助は困惑するが、やがて小太郎の口が、なにやら言葉を作っている事に気付いた。その動きを追って、小太郎が「ぶんつうって、いつのじだいだよ、あのひとは、あのひとったら、あのひと、ああ」みたいなことを繰り返している事に気付く。

「コタ?」

 佐助がもう一度尋ねると、小太郎は佐助を見てにっこり笑う。

 おれ、あのひとがすきだ。

 口だけでそう言った小太郎はそのまままた歩き始めて、佐助は呆れながらも小太郎を追った。そういえば小太郎の前髪が彼の眼を隠していなかったのだが、佐助はあえてそれについて尋ねなかった。

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