[PR] 賃貸住宅 オクラサラダボウル [美流]ルゼとトウマ4 忍者ブログ
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めでぃのくの日記
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2025-01-19 (Sun)
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2010-06-05 (Sat)
 昨日今日と落ち着かない環境だったので、いっそ楽しい事だけやろうと
 続きを書いてみました。ちょっと急ぎ足で書いたので文章的にアレですが……
 良かったら。

 翌日は朝食を終えると、すぐに出立するという予定で動いていた。次の街には6時間ほどで着く。早めに到着して、街を見て回ろうと考えていた。

 と、出立の準備をしている所に、カタリナがやって来た。ナイトドレスではなく、質素な服を着ている。彼女はトウマに近寄ると、「おはよう」と明るく挨拶をする。

「アンタの話を聞いてたら、悪い人じゃなさそうだし、来てみたのよ。少し商品を見せてもらえないかしらね? リフィトルの服って本当に好きなの。お金はあんまり無いから、買えないかもしれないけど」

「しかし……」

 カタリナの頼みとはいえ、買うかどうかも判らない相手に商品を見せられるかどうか。どうやって断るか、とトウマが考えていると、そこに荷物を持ったルゼがやって来た。

「どうしたんだいトウマ。……あ、おはようございます」

 ルゼはにこりと微笑んで、カタリナに頭を下げる。カタリナも「おはようございます」と挨拶をした。トウマは少し考えて、ルゼに事情を説明する。と、彼は嬉しそうに笑う。

「なんだ。そういう話なら大歓迎だよ。さぁ遠慮無く見て行って下さい。リフィトルの服飾も、見るだけならタダですからね!」

 ルゼはそう言って、いそいそと馬車に入って行った。カタリナも嬉しそうに笑って、トウマに「話の判る子じゃないか!」と小声で言った。トウマはただ困惑して、事の顛末を見守る事しか出来なかった。

 ルゼはカタリナに対して、持って来た商品を次々と見せて行った。時間等気にせず、いつまでも二人は笑ってあれこれ話し続ける。そうして商品を見せても、ルゼは一度も購入の話はせず、トウマはそれがとても不思議に感じる。

 大きなフリルの袖が付いた赤い服を取り出した時、カタリナは「まあ!」と声を上げる。

「これはすごく綺麗ね! こんな大きなフリル、貴族様が着そうだけど……何故かしら、全然嫌味ったらしくないのね。上品に感じるのは、ちょっと透けてるせい?」

「それはリヴァーイン織と名付けて頂いたのですが、私が考えた生地なんです。薄く透けているから軽いですし、華美になり過ぎないのが特徴です。一応、リフィトルでしか扱っていないんですよ。触り心地もとてもいいです。どうぞ触ってみて下さい」

「あら、いいの?」

「ええ、もちろん」

 そうしてルゼはカタリナに好きなだけ服を見せたし、触らせ、時には身につける事も許した。トウマはそれを茫然と見ていた。

 トウマの知っている豪商達は、庶民など全く相手にしなかった。触らせるどころか、見せる事だって決してしなかったし、むしろ近寄る事さえ許さなかった。なのにルゼは楽しそうに、買いもしないだろうカタリナに商品を見せる。それがトウマには全く理解出来なかった。

 一通り商品を見終わって、カタリナは結局ストールを一枚買った。白いそれはやはり薄い生地で作られていて、とても上品だが、カタリナも大喜びするほど安かったようだ。ルゼが商品を片付けている間に、カタリナはそのストールを首に巻いて、嬉しそうに微笑みながら、トウマに話しかけてくる。

「アンタ、この人はホンモノだよ」

「ホンモノって、なんだ?」

「アンタはこの人に着いて行くよ。間違いない」

「何を根拠に」

「女の勘よ。大体アンタ、主人の事には今まで興味無かったってのに、ずーーーっと見てたじゃあないの」

「……いや、それは……」

 確かにずっと見ていた。気になったのだ。リフィトルの服が好きなのは、トウマも同じだ。その品の良い服を見ているのは好きだった。カタリナが本当に嬉しそうに笑うのが、妙に気になって。そして主であるルゼが、楽しそうにしているのが不思議で。

 トウマがなんと答えていいものか考えている間に、カタリナは「大丈夫、あの人とはきっと、よくやっていけるよ」と断言してしまった。それに答える間も無く、片づけを終えたルゼが「そろそろ出立します」と言う。

 引き止めて悪かったね、というカタリナにも、ルゼは笑顔で「かまいませんよ」と言うだけで、トウマはますますルゼが判らなくなった。出立しても、御者台からルゼはいつまでも手を振っていたし、カタリナもそれに応えていた。

 しばらく道を進んで、トウマは静かに問うた。

「よろしかったのですか」

「何がだい?」

「俺も何人かの商人に仕えてきましたが……商品を自由に見せたり、触らせたりというのは、今まで無かったので……」

「ああ。私はね、それは怠惰だと思っているんだよ」

「怠惰……ですか?」

 トウマが首を傾げると、ルゼは「そう」と頷いて、トウマを見る。

「例えば買い手と限らない人には見せずに、冷たくしたとするだろう? そうすると嫌な奴っていうイメージが庶民に広がる。で、私の商品を欲しいと思う人が少なくなるよね。ブランド力ってどれくらい人に憧れられてるかって事だろう。そうして皆に自分の商品を見せていかないと、どんなにいい物でも評価されなくなるんだ。だから買ってもらえないからって、商品を見せないというのは怠惰なんだよ」

「……しかし、彼女は結果的に買いましたが、本当に買わない者も居るでしょう。触らせたりしていたら、商品が傷むのでは?」

「確かにね。でも商品は作る事が出来る。信頼は容易に作る事が出来ない。確かに買ってもらえないかもしれない。でも私の商品を良いと言ってくれる人が増えれば、結果としてブランド力が高まるよね。だから見てもらえるだけで、触ってもらえるだけでいいんだよ。そうして得る信頼に比べて、服なんて安いものさ。頑張れば作れる物なんだから」

 ルゼは苦笑して、空を見上げる。

「人は往々にして楽をしたがるから、そうして現在の自分の力に慢心してしまうんだ。確かに今は力が有るかもしれない。でも力は必ず衰える物だよ。あらゆる形でね。だから私達は常に努力し続けなければならない。なのにそれを怠るのはいけない事なんだ。……そうして知らぬ間に落ちぶれて行った人を、私は知っているからね」

 トウマはそれがシャニア家の事なのだろうと感じた。ほんの数十年前まで、この世界は戦争に明け暮れていたという。西の国と北の国、東の国が互いに牽制し合い、際限無く争い続けた。それが解消され、平和協定が結ばれる。その時に人殺しの道具としての銃は、全く売れなくなっただろう。

 それについてルゼがどう思っているのかは判らない。ただ先ほどの「怠惰」の話を考えれば、ルゼはシャニア家が「人殺し」の道具である銃を、進化し続けねばならなかったと言っているような気がした。それが出来なかったから、シャニアは衰えたのだと。そしてそれを見てきたルゼは、自らはその道を歩むまいと努力を続けているのだ、と。

 そういう姿勢は、嫌いではない。少なくとも、踏ん反り返って笑っているような連中よりは。

 トウマはカタリナの嬉しそうな顔を思い出して、少し笑った。少なくとも自分が嫌いではない相手が、喜んでいるのは気分が良い。そしてそれを齎したのが自分の主人だと言う事が、少々、少々だが、誇りに思えない事も無かった。






 結局夕方に次の街についた。ちょっとした街だったので、今日も宿を取る事が出来る。店に許可を貰って、宿の前に馬車を置き、服を展示しているとすぐに人が群がって、幾つかの服が売れた。

「このペースだと、作らないと無くなっちゃうかもしれないな。少しづつでも縫っていこうか……」

 日が暮れ、宿に戻って。ルゼは今日売れた商品を帳面に付けながらそう呟く。荷物の中には布や裁縫道具、それに使い道は判らないが金属の機械のような物も有ったので、それで作るのだろう。トウマがそう考えていると、ルゼが「あ、そうだ」と思い出したように言う。

「トウマ、出来る事ならお土産をもって帰りたいんだ。その土地の事が判るような何か、とか。トウマは何か知っているかな」

「……この辺りは陶磁器の生産が盛んだったように思います。それと果物の栽培が有名ですね。今の季節ならイチジクとか……」

「よし、じゃあそれを買って行こう」

 ルゼは嬉しそうに笑って、馬車から荷物を持ちこんだ。テーブルの上に機械を置く。武骨なそれが何か判らず、トウマがじっと見ていると、「危ないから触らないでね」とルゼ。

「それはミシンって言うだよ」

「ミシンですか? ……こんなに小さいのは見た事が有りません」

 トウマの知っている物は、固定して使うタイプの大型の物で、今眼の前に有る小さな物は知らなかった。ルゼは「特注したからねぇ」と笑った。

「小さいからちょっと動力が頼りないけど。手縫いよりは楽かなってところだね。折角旅に出ているんだから、一品物を作った方がいいのかな。どうだろう。そうだなあ、華美な服はまぁ売れ残るだろうから、ハンカチとかストールとか、あの辺りを追加しようか……」

 ルゼはそんな事を呟きながら、箱から布を取り出しては見比べて、あれこれと考えている。トウマは作業の内容はよく判らなかったが、他にする事も無かったのでそれをいつまでも見ていた。ルゼの細長い指が、軽やかに布とミシンを操る姿は、見ていて心地良い。ルゼは何事かぶつぶつと呟き、時々紙に何か書きとめながら、結局この日はハンカチを数枚作ったところで、眠る事になった。

 +++

 二日目終了。

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