しまった、ルゼトウって略すと、まるでルゼ×トウマみたいじゃないか
いやまぁトウマは淡泊過ぎてルゼトウみたいにならなくもないけど
あんまりムラムラきて襲ったりするようなタイプじゃないからなあ
逆にルゼの方がムラムラきて襲ったりするようなタイプ
まぁ煮え切らないトウマのせいなんだけれども
そしてそんな段階にはまだまだ全然辿り着けないけれども
初期なのでキャラが定まっていないと言うか、
ルゼはもう少しは男らしさのあるキャラのはずなのですが
どうもバランスが難しい
という事で一応、その2です
いやまぁトウマは淡泊過ぎてルゼトウみたいにならなくもないけど
あんまりムラムラきて襲ったりするようなタイプじゃないからなあ
逆にルゼの方がムラムラきて襲ったりするようなタイプ
まぁ煮え切らないトウマのせいなんだけれども
そしてそんな段階にはまだまだ全然辿り着けないけれども
初期なのでキャラが定まっていないと言うか、
ルゼはもう少しは男らしさのあるキャラのはずなのですが
どうもバランスが難しい
という事で一応、その2です
街を出てしばらくすると、ルゼは馬車の中から地図を引っ張り出してきた。街から出るのは10年ぶりと言っていたが、地図は読めるらしい。
「次の町は……宿場町かな。この距離なら今日中には着くね」
ルゼはしばらく地図を眺めていた。トウマは手綱を握ったまま、ちらとその横顔を見る。楽しそうな顔をしていた。
「……何処に向かうのが目的なのですか」
「うん? 帰って来る事だよ。行先は何処でもいいさ、気の向くままにね。最終的にこの街に帰って来れれば、それでいい。幸いこの世界は丸いから、そのうちぐるっと回って帰れるだろう。……トウマは何処か行きたい所は有るかい?」
「……いえ」
「……トウマもここの民ではないよね。生まれは何処?」
「北方の山脈地帯です。国はもう有りません。数年前に内乱で消滅しました」
「そう……か。出来るなら行ってみよう。……それにしても、馬車は案外揺れるね。気を付けていないと、すぐに腰が痛くなってしまいそうだよ」
馬車はかなり高級な物だったが、それでもガタガタと細かく揺れた。ルゼは苦笑して腰を摩っている。トウマはそれをチラと見て、静かに言った。
「……ベッドで休まれていては? 布団が有れば振動も和らぐでしょう」
「うーん、トウマが退屈しないように、ここに居たいと思うんだ。……あ。あのベッド、君には無理そうだね」
簡易ベッドは小さい。ルゼは寝れるかもしれないが、トウマでは身体がはみ出してしまうだろう。トウマは「ああ」と呟いて、首を振る。
「俺は何処ででも眠れますから」
「そう? でも申し訳無いな。なるべく宿が取れるようにしよう」
ルゼはそう言いながら、地図を馬車の中にしまう。しばらくこそこそとして、中から水筒を取り出すと、トウマの側に置いた。自分の分は手に持っている。
「……トウマは何故、私の護衛を引き受けたんだい?」
「仕事の話が来たから、です」
「それだけ、か。まぁ仕方無いね。お互いまだ何も知らない。仲良くしていこう」
ルゼはそう笑って、それからあれこれと話し始めた。それはとても他愛の無い話ばかりだった。好きな食べ物、好きな花、好きな風景。そういう話ばかりした。ルゼは熱心に語りかけてきたし、トウマはそれに静かに答え続けた。正直に言えば、それが少々鬱陶しかったが、トウマはその事は黙っていた。
「……なんだか、私ばかり喋っているようだね。うるさい、かな」
「……いえ」
気付いたらしい。ルゼは申し訳なさそうな顔をしていた。トウマは否定したが、ルゼも何か感じ取ったらしい。首を振って、苦笑する、
「うーん、でも少し黙る事にするよ。少し中に入るね」
ちょっとやりたい事も有るし。ルゼはそのような事を言い残して、馬車の中に姿を消した。中ではごそごそと音がしている。しばらく出て来る様子が無いので、トウマはふうと溜息を漏らした。
悪い人間、というほどではない。ただやはり信用ならなかった。最初は体面が良い人間も、いずれは化けの皮が剥がれるものだ。油断は出来ない。気を許してはいけない。
それにトウマにはルゼを嫌悪する理由が有る。彼はわざわざ、トウマに対して「ルゼ=イル=シャニア」と名乗った。「ルゼ=リヴァーイン」ではなくて、「イル」のついた名を。
(イルの名は所有物の証。見た目も良いし、大方主人に尻でも出して地位をもらったか……何にせよ、男らしい人間でもないし、そういう種類の奴隷だったんだろう。名をもらってもわざわざイルを使うという事は、その主の名をひけらかしたいという事だろうし……)
トウマはシャニア、という家の名について考えたが、どうにも思い出せなかった。だがどうでもいい事だ。ルゼは元奴隷で、恐らく性奴だ。男のそれがどう扱われるか、トウマも知っている。そして彼らはおぞましい事に、いずれその地位に甘んじて、主に媚を売る。その生き様がトウマは好きではない。そしてルゼは「イル」の名を失ったのだから、そうして媚を売った末に、自由と地位を手に入れたのだろう。とても好く事は出来そうになかった。
(馬鹿な話だ。期待していたのか、俺は。……まぁいい、俺の害になるクズなら、殺してしまおう。幸い非力そうだし、かなりの財産を積んでいるようだ……)
「トウマ」
そんな事を考えていたから。急に声をかけられて、トウマは思わずびくりと振りかえった。幸いカーテンは閉まったままで、ルゼに怪しまれる事はなかった。
「トウマは何色が好きかな」
「……紫、ですかね。ヤマアヤメの、深い青紫です」
平静を装って、静かに答える。カーテンの向こうから、ルゼの「いいね」という柔らかい声が聞こえた。
「トウマによく似合う色だと思うよ。銀色の髪に合う。君の髪はとても素敵だね、時々青くも見えて、神秘的な感じがするよ」
そんな風に言われたのは初めてで、トウマは呆けてしまった。自分の髪は白い。老人のようだとからかわれる事は多かったが、綺麗などと。しかも青く見える? トウマには理解出来なかった。自分の顔など、よく見た事も無い。
やがてルゼがカーテンを開けて戻って来た。手には深い青紫色の布が握られている。
「とりあえず、今はこれぐらいしか無いみたいだ。腰巻にでも使って。やっぱり自分の好きな色を身につけていると、気分が良いしね」
「いえ、そんなわけには……」
「いいから。これはお近づきの印、って奴だからね」
差し出された布を、トウマは仕方なく受け取った。トウマの一番好きな色だ。清楚で、静かなヤマアヤメの花の色。トウマは少し感心した。自分の好きな色を、数多い布と色の中から選び出す事が出来るのだ。地位は実力も有って手に入れたのかもしれない、と僅かに思う。巻くのは後にして、布は側に置いておいた。
ルゼはまたトウマの隣に座って、今度は静かにしていたので、仕方なくトウマが声をかけた。
「……ルゼ様は、何色がお好きなのですか」
こういう時は、聞かれた事を聞き返すに限る。トウマが尋ねると、ルゼはトウマを見ないまま、答えた。
「私は、黒だよ。黒は全ての色を内包しているという。すごいよね。私には理解出来ないし、見えないけれど、でも時々その片鱗を見る事が出来た時、とても感動するんだ。でもなかなか見る事が出来ない。黒は縁起の悪い色と言われているしね。でも私はとても好きなんだ」
ルゼは少し嬉しそうな顔をしていた。トウマはそう言われて黒い物を思い浮かべたが、彼には黒は、ただ深いばかりの闇にしか思えなかった。
日が暮れる前に宿場町に着いた。名も無い街だ。道沿いに宿屋と酒場、僅かな店とその店主達の民家が有るばかりの、集落。その奥にはそれは高い塔が立っている。この世界の人間達が、国同士で激しく争っていた頃の名残、らしい。時を経てもそれは朽ちないまま、静かにそびえ立っていた。
馬車を宿の側まで進め、店主に相談する。幸い部屋は空いていた。馬車は専用の小屋に入れる事も出来る。
「良かったね、宿が取れて。……お金の節約のために、同じ部屋に寝るので……構わない、かな」
「はぁ……ルゼ様がそれでよろしいのなら」
「うん。じゃあ一部屋にしよう」
ルゼはそう言って、店主と話を付け始める。トウマは先に外へ出て、馬車を小屋とやらに入れた。それが終わって宿に戻ろうとしていると、ルゼが声をかけてきた。
「トウマ。この町には塔が有るだろう? それに登ってもいいんだそうだ。今からなら日が暮れるまでには頂上に着くだろうって。素晴らしい眺めらしいよ。少し登って来るね」
ルゼがそう言って塔に向かって歩き始めたので、トウマは仕方なく追いかけた。
「お供いたします」
そう言うと、ルゼは少しきょとんとした顔をしたが、やがて「ありがとう」と微笑んだ。そうして感謝をされる事は殆ど無かったから、トウマは少し困惑した。ルゼはそんなトウマに気付かないまま、塔へと足を踏み入れる。
石造りの古い塔だ。物見台や連絡手段の為に用意されたもので、数階に一度、壁が開けて景色が見えた。最初は木々や家の屋根が見えるばかりだったが、やがてどの建物より高くなる。階段は全て吹き抜けになっていて、少々物騒だった。
しばらく登ると、時折ルゼが立ち止まるようになった。特に何も言わず、また歩き出すのでトウマはあまり気にしなかった。階段を上るという事は、疲れる事だから。
やがてルゼは壁に手をついて、もたれかかる。流石にそれにはトウマも気付いて、「大丈夫ですか」と声をかけた。ルゼは苦笑して、頷く。
「結構登るんだね。意外と辛いや……」
そういうルゼの左手が、太股に乗せられている。トウマはそれを見て、「痛みますか」と問うた。するとルゼは「えっ」と驚いたような顔をする。
「あっ……いや、平気だよ。少し疲れてしまっただけだよ。休めば大丈夫。……でもこのペースでは、日暮れまでには間に合わないね。せっかくここまで登って来たけれど……また明日、出直そうか」
少し外を見ると、日が傾き始めていた。こうなると日暮れまでにはそう時間は無い。上を見上げると、頂上はもう少しのようだ。間に合わないほどではない。けれどルゼは間に合わないと言っている。否定はしているが、足が痛むのだろう。無理もない、とトウマは思う。貴族という種族は、大抵の場合、運動が得意ではない。
トウマは何人かの主と共に旅をした事が有る。彼らは尊大で、トウマを家畜のように扱った。こうした高台に昇った時は、すぐに疲れてトウマに文句を言い、運ぶように命令したものだ。なのにルゼは、強がるばかりで要求しない。それが少し新鮮で、トウマは知らぬ間に、
「……背負いましょうか」
と言ってしまっていた。
「え……背負うって……いいのか?」
ルゼは少し困った顔をして、トウマを見る。
「でも、悪いよ。迷惑をかけてしまうし……」
「どの道いつかは登るのでしょう。それに、左脚を傷めておりますね。判ります。遠慮せずとも、俺は貴方の従者なんですから。どうぞお使い下さい」
遠慮する主など初めてだ。だからトウマの方が押すしかなかった。少しかがんで、ルゼに乗るよう促す。彼はしばらく悩んでいたが、やがて恐る恐る、トウマに身を預けて来た。
「重くないかい?」
「平気です。……掴まっていて下さい」
そっと背負い上げ、階段を上る。人を背負っての登りは少し辛かったが、出来るだけ急いで登る。日が暮れるまでに頂上に着かなければ、無駄足だ。
階段は何処までも続いたが、やがてそれが途切れ、広く開けた頂上に着いた。トウマはルゼを下ろしてやり、その縁へと向かう。
「わぁ……トウマ、すごいね、高い……!」
その景色を見て、ルゼは眼を輝かせた。塔は森や家々を睥睨し、遥か彼方までを見通している、悠然と聳える山脈が遠くにかすんで見えた。その手前には深い森が泉のように満ち、その隙間を縫うように細い道が流れていた。道の先には石で出来た壁があり、その中に色とりどりの建物がひしめいている。
「私達はあそこから来たんだね。こうして見ると、なんて狭い場所に住んでいたんだろう。私はあそこに10年も居たんだね……」
「……」
トウマも街を見る。王都は美しい。色どり豊かな屋根や壁が、一種のタイル画のように見える。中央には宮殿が有るが、それもまた小さく見えるばかりだ。街に居た頃は、あれほど大きく見えたというのに。
やがて夕日が世界を照らし始めると、色は橙に変わり、色彩が全て変わり始める。それにルゼは静かに微笑んだ。
「夕日がこんなに眩しいなんて。世界の色彩がおかしいね。黒と橙……青に紫。すごい景色だ。素敵だね……世界にはこんなに色が有る。世界はこんなに広い。……私はなんてちっぽけなんだろう。……」
「……帰りましょう。日が暮れるまでに」
トウマが促すと、ルゼは気を悪くした風も無く、頷く。
「うん……下りは平気だよ」
「下りが一番脚に負担がかかります。遠慮なさらず」
トウマが再び促すと、ルゼは申し訳なさそうに、トウマの背中に触れた。その柔らかい手の触れ方は、嫌いではなかった。
+++
この話はあくまであるお話の番外編なので、世界設定には詳しく触れませんが
一応簡単に説明しておくと、ここで言われている世界は、お盆のような
丸い大地で、その淵には切り立った山脈がぐるりと有って、そこから出た者は
帰って来ないから、外には何も無いのだろうという概念の世界です
だから世界は即ち大陸です 中央よりやや西には大きな湖が有りますが
概念上それは海と呼ばれています 四季は春夏秋の繰り返しで、
20年に一度、冬が来ます。丸一年近くの冬で生態系は脅かされますが
なんとか生きています。冬が来るのは、この世界を守っているドラゴンが
退屈になって飛び立つからだと言われています。
そんな感じです。
「次の町は……宿場町かな。この距離なら今日中には着くね」
ルゼはしばらく地図を眺めていた。トウマは手綱を握ったまま、ちらとその横顔を見る。楽しそうな顔をしていた。
「……何処に向かうのが目的なのですか」
「うん? 帰って来る事だよ。行先は何処でもいいさ、気の向くままにね。最終的にこの街に帰って来れれば、それでいい。幸いこの世界は丸いから、そのうちぐるっと回って帰れるだろう。……トウマは何処か行きたい所は有るかい?」
「……いえ」
「……トウマもここの民ではないよね。生まれは何処?」
「北方の山脈地帯です。国はもう有りません。数年前に内乱で消滅しました」
「そう……か。出来るなら行ってみよう。……それにしても、馬車は案外揺れるね。気を付けていないと、すぐに腰が痛くなってしまいそうだよ」
馬車はかなり高級な物だったが、それでもガタガタと細かく揺れた。ルゼは苦笑して腰を摩っている。トウマはそれをチラと見て、静かに言った。
「……ベッドで休まれていては? 布団が有れば振動も和らぐでしょう」
「うーん、トウマが退屈しないように、ここに居たいと思うんだ。……あ。あのベッド、君には無理そうだね」
簡易ベッドは小さい。ルゼは寝れるかもしれないが、トウマでは身体がはみ出してしまうだろう。トウマは「ああ」と呟いて、首を振る。
「俺は何処ででも眠れますから」
「そう? でも申し訳無いな。なるべく宿が取れるようにしよう」
ルゼはそう言いながら、地図を馬車の中にしまう。しばらくこそこそとして、中から水筒を取り出すと、トウマの側に置いた。自分の分は手に持っている。
「……トウマは何故、私の護衛を引き受けたんだい?」
「仕事の話が来たから、です」
「それだけ、か。まぁ仕方無いね。お互いまだ何も知らない。仲良くしていこう」
ルゼはそう笑って、それからあれこれと話し始めた。それはとても他愛の無い話ばかりだった。好きな食べ物、好きな花、好きな風景。そういう話ばかりした。ルゼは熱心に語りかけてきたし、トウマはそれに静かに答え続けた。正直に言えば、それが少々鬱陶しかったが、トウマはその事は黙っていた。
「……なんだか、私ばかり喋っているようだね。うるさい、かな」
「……いえ」
気付いたらしい。ルゼは申し訳なさそうな顔をしていた。トウマは否定したが、ルゼも何か感じ取ったらしい。首を振って、苦笑する、
「うーん、でも少し黙る事にするよ。少し中に入るね」
ちょっとやりたい事も有るし。ルゼはそのような事を言い残して、馬車の中に姿を消した。中ではごそごそと音がしている。しばらく出て来る様子が無いので、トウマはふうと溜息を漏らした。
悪い人間、というほどではない。ただやはり信用ならなかった。最初は体面が良い人間も、いずれは化けの皮が剥がれるものだ。油断は出来ない。気を許してはいけない。
それにトウマにはルゼを嫌悪する理由が有る。彼はわざわざ、トウマに対して「ルゼ=イル=シャニア」と名乗った。「ルゼ=リヴァーイン」ではなくて、「イル」のついた名を。
(イルの名は所有物の証。見た目も良いし、大方主人に尻でも出して地位をもらったか……何にせよ、男らしい人間でもないし、そういう種類の奴隷だったんだろう。名をもらってもわざわざイルを使うという事は、その主の名をひけらかしたいという事だろうし……)
トウマはシャニア、という家の名について考えたが、どうにも思い出せなかった。だがどうでもいい事だ。ルゼは元奴隷で、恐らく性奴だ。男のそれがどう扱われるか、トウマも知っている。そして彼らはおぞましい事に、いずれその地位に甘んじて、主に媚を売る。その生き様がトウマは好きではない。そしてルゼは「イル」の名を失ったのだから、そうして媚を売った末に、自由と地位を手に入れたのだろう。とても好く事は出来そうになかった。
(馬鹿な話だ。期待していたのか、俺は。……まぁいい、俺の害になるクズなら、殺してしまおう。幸い非力そうだし、かなりの財産を積んでいるようだ……)
「トウマ」
そんな事を考えていたから。急に声をかけられて、トウマは思わずびくりと振りかえった。幸いカーテンは閉まったままで、ルゼに怪しまれる事はなかった。
「トウマは何色が好きかな」
「……紫、ですかね。ヤマアヤメの、深い青紫です」
平静を装って、静かに答える。カーテンの向こうから、ルゼの「いいね」という柔らかい声が聞こえた。
「トウマによく似合う色だと思うよ。銀色の髪に合う。君の髪はとても素敵だね、時々青くも見えて、神秘的な感じがするよ」
そんな風に言われたのは初めてで、トウマは呆けてしまった。自分の髪は白い。老人のようだとからかわれる事は多かったが、綺麗などと。しかも青く見える? トウマには理解出来なかった。自分の顔など、よく見た事も無い。
やがてルゼがカーテンを開けて戻って来た。手には深い青紫色の布が握られている。
「とりあえず、今はこれぐらいしか無いみたいだ。腰巻にでも使って。やっぱり自分の好きな色を身につけていると、気分が良いしね」
「いえ、そんなわけには……」
「いいから。これはお近づきの印、って奴だからね」
差し出された布を、トウマは仕方なく受け取った。トウマの一番好きな色だ。清楚で、静かなヤマアヤメの花の色。トウマは少し感心した。自分の好きな色を、数多い布と色の中から選び出す事が出来るのだ。地位は実力も有って手に入れたのかもしれない、と僅かに思う。巻くのは後にして、布は側に置いておいた。
ルゼはまたトウマの隣に座って、今度は静かにしていたので、仕方なくトウマが声をかけた。
「……ルゼ様は、何色がお好きなのですか」
こういう時は、聞かれた事を聞き返すに限る。トウマが尋ねると、ルゼはトウマを見ないまま、答えた。
「私は、黒だよ。黒は全ての色を内包しているという。すごいよね。私には理解出来ないし、見えないけれど、でも時々その片鱗を見る事が出来た時、とても感動するんだ。でもなかなか見る事が出来ない。黒は縁起の悪い色と言われているしね。でも私はとても好きなんだ」
ルゼは少し嬉しそうな顔をしていた。トウマはそう言われて黒い物を思い浮かべたが、彼には黒は、ただ深いばかりの闇にしか思えなかった。
日が暮れる前に宿場町に着いた。名も無い街だ。道沿いに宿屋と酒場、僅かな店とその店主達の民家が有るばかりの、集落。その奥にはそれは高い塔が立っている。この世界の人間達が、国同士で激しく争っていた頃の名残、らしい。時を経てもそれは朽ちないまま、静かにそびえ立っていた。
馬車を宿の側まで進め、店主に相談する。幸い部屋は空いていた。馬車は専用の小屋に入れる事も出来る。
「良かったね、宿が取れて。……お金の節約のために、同じ部屋に寝るので……構わない、かな」
「はぁ……ルゼ様がそれでよろしいのなら」
「うん。じゃあ一部屋にしよう」
ルゼはそう言って、店主と話を付け始める。トウマは先に外へ出て、馬車を小屋とやらに入れた。それが終わって宿に戻ろうとしていると、ルゼが声をかけてきた。
「トウマ。この町には塔が有るだろう? それに登ってもいいんだそうだ。今からなら日が暮れるまでには頂上に着くだろうって。素晴らしい眺めらしいよ。少し登って来るね」
ルゼがそう言って塔に向かって歩き始めたので、トウマは仕方なく追いかけた。
「お供いたします」
そう言うと、ルゼは少しきょとんとした顔をしたが、やがて「ありがとう」と微笑んだ。そうして感謝をされる事は殆ど無かったから、トウマは少し困惑した。ルゼはそんなトウマに気付かないまま、塔へと足を踏み入れる。
石造りの古い塔だ。物見台や連絡手段の為に用意されたもので、数階に一度、壁が開けて景色が見えた。最初は木々や家の屋根が見えるばかりだったが、やがてどの建物より高くなる。階段は全て吹き抜けになっていて、少々物騒だった。
しばらく登ると、時折ルゼが立ち止まるようになった。特に何も言わず、また歩き出すのでトウマはあまり気にしなかった。階段を上るという事は、疲れる事だから。
やがてルゼは壁に手をついて、もたれかかる。流石にそれにはトウマも気付いて、「大丈夫ですか」と声をかけた。ルゼは苦笑して、頷く。
「結構登るんだね。意外と辛いや……」
そういうルゼの左手が、太股に乗せられている。トウマはそれを見て、「痛みますか」と問うた。するとルゼは「えっ」と驚いたような顔をする。
「あっ……いや、平気だよ。少し疲れてしまっただけだよ。休めば大丈夫。……でもこのペースでは、日暮れまでには間に合わないね。せっかくここまで登って来たけれど……また明日、出直そうか」
少し外を見ると、日が傾き始めていた。こうなると日暮れまでにはそう時間は無い。上を見上げると、頂上はもう少しのようだ。間に合わないほどではない。けれどルゼは間に合わないと言っている。否定はしているが、足が痛むのだろう。無理もない、とトウマは思う。貴族という種族は、大抵の場合、運動が得意ではない。
トウマは何人かの主と共に旅をした事が有る。彼らは尊大で、トウマを家畜のように扱った。こうした高台に昇った時は、すぐに疲れてトウマに文句を言い、運ぶように命令したものだ。なのにルゼは、強がるばかりで要求しない。それが少し新鮮で、トウマは知らぬ間に、
「……背負いましょうか」
と言ってしまっていた。
「え……背負うって……いいのか?」
ルゼは少し困った顔をして、トウマを見る。
「でも、悪いよ。迷惑をかけてしまうし……」
「どの道いつかは登るのでしょう。それに、左脚を傷めておりますね。判ります。遠慮せずとも、俺は貴方の従者なんですから。どうぞお使い下さい」
遠慮する主など初めてだ。だからトウマの方が押すしかなかった。少しかがんで、ルゼに乗るよう促す。彼はしばらく悩んでいたが、やがて恐る恐る、トウマに身を預けて来た。
「重くないかい?」
「平気です。……掴まっていて下さい」
そっと背負い上げ、階段を上る。人を背負っての登りは少し辛かったが、出来るだけ急いで登る。日が暮れるまでに頂上に着かなければ、無駄足だ。
階段は何処までも続いたが、やがてそれが途切れ、広く開けた頂上に着いた。トウマはルゼを下ろしてやり、その縁へと向かう。
「わぁ……トウマ、すごいね、高い……!」
その景色を見て、ルゼは眼を輝かせた。塔は森や家々を睥睨し、遥か彼方までを見通している、悠然と聳える山脈が遠くにかすんで見えた。その手前には深い森が泉のように満ち、その隙間を縫うように細い道が流れていた。道の先には石で出来た壁があり、その中に色とりどりの建物がひしめいている。
「私達はあそこから来たんだね。こうして見ると、なんて狭い場所に住んでいたんだろう。私はあそこに10年も居たんだね……」
「……」
トウマも街を見る。王都は美しい。色どり豊かな屋根や壁が、一種のタイル画のように見える。中央には宮殿が有るが、それもまた小さく見えるばかりだ。街に居た頃は、あれほど大きく見えたというのに。
やがて夕日が世界を照らし始めると、色は橙に変わり、色彩が全て変わり始める。それにルゼは静かに微笑んだ。
「夕日がこんなに眩しいなんて。世界の色彩がおかしいね。黒と橙……青に紫。すごい景色だ。素敵だね……世界にはこんなに色が有る。世界はこんなに広い。……私はなんてちっぽけなんだろう。……」
「……帰りましょう。日が暮れるまでに」
トウマが促すと、ルゼは気を悪くした風も無く、頷く。
「うん……下りは平気だよ」
「下りが一番脚に負担がかかります。遠慮なさらず」
トウマが再び促すと、ルゼは申し訳なさそうに、トウマの背中に触れた。その柔らかい手の触れ方は、嫌いではなかった。
+++
この話はあくまであるお話の番外編なので、世界設定には詳しく触れませんが
一応簡単に説明しておくと、ここで言われている世界は、お盆のような
丸い大地で、その淵には切り立った山脈がぐるりと有って、そこから出た者は
帰って来ないから、外には何も無いのだろうという概念の世界です
だから世界は即ち大陸です 中央よりやや西には大きな湖が有りますが
概念上それは海と呼ばれています 四季は春夏秋の繰り返しで、
20年に一度、冬が来ます。丸一年近くの冬で生態系は脅かされますが
なんとか生きています。冬が来るのは、この世界を守っているドラゴンが
退屈になって飛び立つからだと言われています。
そんな感じです。
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浦崎谺叉琉と美流=イワフジがてんやわんや。
二人とも変態。永遠の中二病。
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