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めでぃのくの日記
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2010-01-16 (Sat)
 で、ここからが黒いと言う事で。
 ほのぼののまま終わったほうがいい方は、ここからは読まない方がいいです
 死にネタです 色々黒いです。


 あきらめの10

 元就が、居なくなった。




 最初は、何処かに出かけたのだろうと思っていた。元親は元就の家で帰りを待ったが、夜になっても戻らない。これはおかしいと、方々に元就を見なかったか聞いた。誰もが知らないと首を振った。

 警察に連絡した。村の主な場所を捜索したが、元就は見つからなかった。あとは森と山だ。夜の捜索は危険なので、明日の朝一番から、という話になり、元親も諦めて家に戻った。しかし眠れなかった。心配で居ても立っても居られなかった。元就の家に向かって、朝まで寝ずに待った。元就はやはり、帰って来なかった。

 翌朝、捜索隊が出る。警察と、村の男衆が皆で、森に入った。元親も名前を呼びながら、山を歩き回った。そうして数時間が過ぎた時、「居たぞー!」と声がした。だから当然、元親はそちらに走って行った。

 誰かが元親を止めた。見ちゃだめだと。近寄らない方が良いと。元親にはわけが判らなかった。引き止める手を振り解いて、元親はそちらに駆け寄った。

 岩の上に、元就がうつ伏せになっていた。元親は「毛利!」とその肩に手をかけて、その身体をこちらに向けた。

 元就の眼が、無かった。

「……も、……もう、……り……?」

 くたりとした身体には体温が一切無かった。首には青いような、赤いような、酷い筋が走っていて、両眼を叩き潰されていた。頭から赤黒い液体が沢山出ている。元親は訳が判らなかった。何故、何故元就がこんな姿になっているのか。笑っていた。いつも飄々としていた。自分をからかって、色んな事を楽しんで、そして幸せだと言っていた。

 それが、どうして、どうして。

「――っ、ぅ、……ぅうあぁあああああああ!」

 身体の底から叫んだ。どうして、どうして、どうして。どうして。誰が、何故、どんな理由が有って。元親は元就を掻き抱こうとした。誰かがそれを引き止める。現場維持がどうとか。元親はそんな言葉を理解出来る状態に無かった。胸が張り裂けて死んでしまうのではないかと思った。元就は元親の手の中で、力無く揺れるばかりで、名を呼んでも息を吹き返したりはしない。もう元親を見てくれない。もうキスをしてくれない。名を呼んでくれない。……死んだのだから。

「毛利、もうり、っ、なんでだ、なんで、……誰だ、誰がこんな……っちくしょおおお、ころして、殺してやる! 殺してやる……っ!」

 誰かが元親を元就から引き剥がす。でたらめに暴れて叫んだが、誰かに腹を殴られて、元親は意識が朦朧としてきた。誰かが司法解剖とかなんとか言っていた。この上毛利を切り刻むのか、毛利を、まだ許さないのか。まだ。

 元親は、叫んだ。






 何も、聞きたくなかった。

「絞殺です。まだ死んでから、顔を潰されているのが、不幸中の幸いかもしれません。毛利殿は、最低限の痛みだけで死ねたかもしれない……」

 何も、知りたくなかった。

「爪から皮膚が検出されたようです。もう警察側は、犯人の目星を付けているらしく……実は、毛利殿の兄、興元と言うんですが、彼が先日……養子に出された先の祖父母を、絞め殺したらしく」

 何も、考えたくなかった。

「手口も、凶器もほぼ同じ。ただ違うのは、眼が潰されている事だけです。恐らくは……同一犯ではないかと、警察が。つまり毛利殿は……」

 何も、認めたくなかった。

「毛利殿は、実の兄に、殺された事に……なります」

 何も、何も、何も。

 元親は、ただうずくまって、返事もせず、ただ泣き続けた。





 元就の死にまつわる情報は、光秀が教えてくれた物で全てだった。元就は、兄に絞殺された。死後、元就の顔は、何らかの理由で潰された。石か何かで叩いたらしい、と言われた。首を絞めたのは、細い……恐らくネクタイか何かではないかと判った。

 ネクタイ。元就の母が、首を吊った物。

 元親には判らなかった。何故、弟を殺すのか。何故、元就は死んでまで弄ばれねばならなかったのか。何故、逃げ切れなかったのか。何故、その時側に居てやれなかったのか。

 守れたかもしれない。側に居れば。山奥まで逃げていた。村にも助けてくれる人は居たはずだ。なのに元就は、山に向かって逃げてしまった。動物達は彼を特別避けもしなかったし、守りもしなかった。元就の身体は傷だらけで、泥だらけだった。走って、逃げ回って、そしてその末に殺されたのだ。

 幸いな事には、窒息死ではなかったそうだ。もしかしたら、一瞬だったかもしれない。母と同じように、吊られたのかもしれない。要するに、一般的な絞殺とは少し違った。極めて楽に死ねる形だった。祖父母の方は、そうではなかったらしい。何重にもなった絞め跡は、何度も何度も絞めて、殺さなかった事を示している。実弟への扱いは、極めて優しい。だが、だがそれでも。それでも、殺したのだから、同じだった。

 元親は殺してやりたいと思った。大切な人を奪った男を。しかし彼は元就の兄だ。元就が、悲しむかもしれないと一瞬思った。すぐに消し飛んだ。

 毛利がどう思おうが、関係無い。俺は、……俺はお前を殺した奴を、同じように、殺してやる……! 絞め殺して、顔面を叩き割ってやる……!

 元親の中に、どす黒い憎しみが渦巻いていた。光秀は根気良く元親を諭したが、全く耳に入らなかった。殺してやる、復讐してやると、それだけが元親の全てだった。

 しかし犯人は見つからなかった。何処に隠れているのやら、判らない。元就の家には物色された跡も無かった。証拠品集めの為、しばらく元就の家は封鎖されていたが、すぐに開かれた。元就達は、家の中では争っていなかった。また、興元は家に上がっていない。調べても無駄だった。

 元親は次の日に、元就の家へ向かった。遺品を片付けてやらなければ、と思った。尤も、元就の物など殆ど無い。文明に触れていなかったのだから。

 居間を通り過ぎ、二階へ。しんと静まり返った廊下を歩いて、敷きっぱなしの布団以外に何も無い寝室を過ぎ。そして、決して入れてもらえなかった、元就の私室へ入る。

 そこもまた、質素だった。勉強机が一つ置いてある。随分古い物だった。そこに、真新しい写真が数枚置かれていた。先日、皆で川遊びをした時の写真だった。元就は手掴みで魚を捕って、皆を驚かせた。そして隙あらば何かを食べていた。だから元就はどの写真でも、愉快そうに何かを食べていた。焼き魚や、得体の知れない草や、花を齧っていたりもした。

「ごめんな」と一言言って、一番上の引き出しを開ける。紙がたくさん入っていた。ぱらぱらと見ると、どうやら学生時代の手紙や何かのようだ。酷くへたくそな字で、誰かが「もとなりくん、ずっとともだちだよ」と書き殴った手紙。通信簿。汚い字の作文。算数のドリル。子供の頃の写真。見知らぬ少年達の中に、制服を着た元就が居た。満面の笑みを浮かべていた。元親は涙が込み上げてきた。慌てて引き出しを閉めて、二段目を開ける。

 そこは通帳の類が入っているようだ。ただ印鑑が有る様子はなかった。特に眼を引く物は無かったので、3段目へ。そこで元親は固まってしまった。

 日記帳らしき物が数冊と、元親のCDが大事に入れられていた。のろのろ取り出して見る。元就は全てを雑然として扱うのに、CDだけが大切に扱われていた。傷一つ無かった。さらに引き出しの奥を見ると、CDプレイヤーが入っている。新品のように綺麗だった。そう考えれば、元就がどうやってCDを聞いたのか、疑問にも思わなかった。

 あの野性児が、自由人が。何らかの方法を使って、プレイヤーを手に入れたのだ。元親のCDを聞く為だけに。その為だけに。たまらない気持ちになって、そっと日記帳に手をつけ、開いてみる。それは書きたい日にだけ書いた、というような、非常にルーズな日記帳だった。

 内容はその殆どが、○○は食べられる、××は食べられない、というものだったが、時折元親の事が書かれた。その中で元就は、長曾我部ではなく「もとちか」と書いていた。

 もとちかは、やさしい。もとちかと遊べて、嬉しい。もとちかは馬鹿だ。もとちかは賢い。もとちかは、もとちかは、もとちかは……。

 一言だけの記述が、いくつもいくつも有った。元親はついに泣きだしてしまった。元就が愛しかった。元就に会いたかった。本当はそこら辺をほっつき歩いていて、あれは全くの別人で、「どうした長曾我部。そなた、とても面白い顔をしておるぞ」とからかってくれる気がした。

 後ろから、声をかけて。長曾我部、と。いつものように――。

 その時、元親は確かな気配を感じた。はっと振り返るのよりも、背後の人物の方が早かった。ガツン、を頭を殴られて、激痛が走り、視界が歪む。そのまま床に倒れた所に、男が馬乗りになった。そして腕を捩じりあげられ、絞められる。

「――っ、ぁ、」

 痛みに眉を寄せ、朦朧とする意識で何とか背後を見た。

 元就によく似た男が見下ろしていた。髪はひどく短かった。眼だけがギラギラ光っていて、何か薄暗い笑みを浮かべている。その手には、ネクタイが握られていた。

「……っ、てめぇ、毛利の……っ」

 元親は暴れたが、元就の兄――興元は見た目以上に腕力が有るらしい。決して元親を逃さなかった。そうして押さえている間も、興元は笑みを浮かべたままで、やがて元親の首にネクタイを巻きつける。

「そっかあ。お前なのかあ」

 興元はそう言って笑った。元親は何の事か判らない。頭や腕が痛んで、考えがまとまらない。喉に、ネクタイが食い込んで来た。

「な、に……」

「お前のせいだよ、お前のせいで、俺は元就を殺さなくちゃいけなくなっちゃったじゃないか。俺はお前が憎いよ、憎くてたまらない。だから――」

 だから、じっくり時間をかけて殺してやるよ。

 興元はそう笑って、ネクタイを左右に引き絞った。

 +++

 ほんとごめんなさい。 
 背後からの首絞めは個人的にトラウマです
 首つりもトラウマです。まぁ死にまつわる事は大概の事が怖いです
 エスカレーターとか。

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