12月まで夏休みの予定だったのにどっさり仕事が入って来て
ようやく夏休み明けのようです 嬉しいような悲しいような
以下、例の続き
ようやく夏休み明けのようです 嬉しいような悲しいような
以下、例の続き
今日の撮影は野外だ。ちょっとした森林のシーンが必要なので、近くの公園が撮影現場になる。皆でそれぞれ走り回るシーンを撮った。状況としては元就が一度目の埒監禁に会う場面となる。
元就は犯行の動機、方法等を具体的に調べるという位置付けに有る。それらは解答ではなく、あくまでヒントでは有るが、他のメンバーに比べて解答にかなり近い。最後に閃いて事件を解決するのは必ず元親になるが、その直前のかなり具体的な情報は元就が導き出す。それゆえに元就は頻繁に狙われ、拉致監禁されたあげくに小屋を燃やされるだの湖に沈められるだの大変な目に合う。それを間一髪で助け出すのがパターンだ。
だから行方を晦ませた元就を探して、メンバーがあちこち走り回るシーンは多い。とうの元就は先ほどから監禁されているシーンを撮っているので、他のメンバーは休憩を取っていた。撮影が行われている小屋は狭くて、スタッフ以外は入れそうにもなく、元親はがっかりした。監禁され、殺されるかもしれない恐怖に怯える演技というのを見てみたいものだ、と思っていたのだ。
しばらくは台本に目を通していたが、やがて耐えられなくなって他のメンバーと息抜きに会話し、仕舞いに元親はブラブラと散歩を始めた。撮影現場の方に行くと迷惑がかかりそうなので、少し離れた木陰のベンチへと向かう。
と、そこに元就のマネージャーが座って、なにやらスケジュール表を確認していた。元親は咄嗟に避けようとしたが、ふと思い止まる。
元就の空白の4年間の正体を、彼女は知っているんじゃないか。
それはほぼ確実な推測だった。元親はしばらく考えてから、彼女の側に行った。挨拶をすると、彼女はにこりと笑って元親を隣に促して、すぐにスケジュール帳を閉じる。
「あ、仕事、いいんですか」
「いいんです、確認をしていただけですから」
彼女は微笑んで、元親に体を向ける。
「いつもありがとうございます。おかげで近頃は元就も明るくなってきていて。長曾我部君のおかげです」
彼女はそう言ったが、元親には実感が湧かなかった。明るい元就も何も、いつだって同じように淡々としているじゃあないか。だが元親はそれは口にせず、少し声を潜めて切り出した。
「……あの、こんな質問、失礼かもしれませんけど。……これまで4年、元就は何をしていたんですか?」
彼女は少し黙ってから、また微笑を浮かべて答えた。
「学生をしていたんですよ」
「元就は気付いた時には役者になっていたんです。お父様が、……夫が、前の奥様との間に出来た子供、……元就には兄が居たんですが、彼が幼くして死んでしまって。奥様も亡くして、残った元就を抱えて、彼は絶望した後で自棄になりました。どうせ皆死ぬなら、思いっきり人生を楽しもうとね。それ自体は悪い事ではありませんでした。
元就をオーディションに出させて、発音や演技の練習をさせて。それは最初、親子の相互関係としては正常なものでした。何も判らない子供は、お父様から褒められ、ご褒美にケーキやチョコレートを貰うのが心底楽しかったでしょう。次々と舞い込んでくる仕事に、お父様は有頂天だった。もっと元就を良い役者にしようと、……正確にはもっと稼ごうと、元就を徹底的に役者にしようとしました。
子供には労働時間の規制が有りますから、撮影の仕事をしていない時間は、元就はそういったトレーニング施設でレッスンをしました。とにかく大人も顔負けの熱心さで、元就は努力しました。その結果、テレビの視聴率も好感度もうなぎのぼり、彼ら親子は忙しかったけれど、幸せだった事でしょう。
ところが、元就は気付いてしまったんです。仕事が数日途絶えて、久しぶりにまともに学校に行った元就は、周りの皆と話が出来ない事に気付いた。日常の事や、昨日のテレビ番組の事から、教科書の内容まで元就は何も知らず、それゆえに同世代の子供と付き合う事が出来なかった。他の子供達から見れば元就は大スターでしたけど、元就にとっては普通の子供達が羨ましかった。たまらなかったんです。
そこで元就は気付いてしまったわけです。自分の意思ではなく、父親に強制されて仕事をしているのだとね。もう、ケーキやチョコレートでは個人の意思を誤魔化せる歳ではなくなっていたのです。そして元就は勇気を出して、お父様に言いました。少しの間でいい、学校に行かせて欲しい、一度自分が本当にしたい事かどうか考える時間が欲しい、普通に暮らしたい、と。
お父様は元就を打って言ったそうです。お前はただの神童だ、神童は成長したら凡人になるのが定めだ、今稼がないでいつ稼ぐ、くだらない事を言っている暇があったら愛嬌でも磨け、と。
元就は、誰よりも自分の父が、自分がこの先落ちぶれるという事を信じている事に驚愕し、落胆し、そして絶望しました。幼い子供にとって、親の言葉は絶対です。その必ず自分が落ちるのだという絶望は、呪詛となって元就を追い詰め、彼はついに言葉を失ってしまいました。一時的なものでしたけれどね。それが精一杯の父親への反抗でした。言葉が出ないんだから、演技など出来ない、だから学校に行かせて欲しい。
けれど元就の期待は裏切られました。お父様は元就を激しく折檻し、声を出せと執拗に責めました。あまりの事に周りの大人達が手を回して、元就をお父様から引き剥がす事にしたのです。このままでは元就がいずれ虐待によって命を落とすかもしれない、とね。
それは最善の選択だったかもしれないし、最悪の選択だったかもしれない。そんな父親でも、元就にとっては唯一の家族で、その人から元就を引き剥がす事は、まだ年齢的に酷でした。ただでさえ情緒不安定な時期ですから。元就は私と暮らすようになりましたが、決して心を開いてはくれませんでした。その代わり、きっぱりと演劇の仕事を止めて、学問に打ち込むようになりました。それでも普通の子供達と普通に過ごす事は出来なかったようですけれどね。
元就の4年間はただの学生生活です。何の変哲も無い。元就はただ、普通になりたかっただけなのです。面白い話など、何も無いんですよ」
彼女の話がそこで終わって、元親はしばらく何も言えなかった。彼女もまた、何も言わなかった。遠くの方で休憩の合図。どうやら元就単独のシーンが終わったようだ。元就は縛られていたから、少し休む必要が有るのだろう。元親はしばらくそちらを見ていたが、やがて、
「じゃあ、……なんで元就は帰って来たんですか、ここに」
と尋ねた。すると彼女はにっこりと笑って、
「4年間、普通の暮らしをして、そして彼が、本当に自分は演劇が好きだったのだと思ったから、それだけです」
と答えた。
「今度は誰かに強要されるでなく、自分の意思で。それで自分に才能が無くて、将来凡人になったとしても、気にする事は無い、好きでやっているのだから……そういう事です。少々回り道をしましたけど、ここに帰る事になったんですよ。あの子はようやっとお父様から解放されたんです」
「……」
「それでも、元就は相変わらずあの調子でしたから。貴方達に出会って、元就がもっともっと変われれば、……自分を愛する事が、他人を愛する事が出来れば何よりと思っています。それは貴方達と関わる事で少しづつ知っていく事でしょうから、貴方達が元就と仲良くしてくれて、とても嬉しいんです。図々しいお願いですが、あの子を導いてやって下さい。尤も、あの子は賢いから、私が何か配慮しなくても、自然と色々な事を学んでいるのかもしれませんけれど……」
彼女はそう言って苦笑すると、目を細めて遠くを見た。元就が腕を擦りながらも休憩用の椅子に向かっていた。そこには他の3人が居て、元就にミネラルウォーターを勧めて笑っている。元就もぎこちなく笑んでそれを受け取った。それを見届けて、元親も彼女に会釈すると、彼らの所に向かって歩いた。彼らは気付くと元親を手招きし、笑いながら何やら台本の裏に書いた一発書きの落書きを見せて来た。
ヘンテコなそれが子供向けアニメのキャラクターだとわかって、そのあまりの脱力加減に元親は吹き出した。それから元就は仕事中に不謹慎だと怒るかもしれない、と不安になって彼を見た。彼は僅かに顔を背けて、小さく震えていた。それが何故だかたまらなく嬉しくて、元親は椅子に座ると、元就を笑わせてやろうと他の4人と冗談を言いまくったが、元就は最後まで耐えて声を出しては笑わなかった。
おかげで次の本番の直前、元就以外の4人は慌てて台本を読み直すはめになった。
+++
幸せってなんなんでしょうね
個人的には今を不幸だと思わない事が幸せなんじゃないかとは思うけど
じゃあ全ての人が幸せなんだろうか 本当だろうか
元就は犯行の動機、方法等を具体的に調べるという位置付けに有る。それらは解答ではなく、あくまでヒントでは有るが、他のメンバーに比べて解答にかなり近い。最後に閃いて事件を解決するのは必ず元親になるが、その直前のかなり具体的な情報は元就が導き出す。それゆえに元就は頻繁に狙われ、拉致監禁されたあげくに小屋を燃やされるだの湖に沈められるだの大変な目に合う。それを間一髪で助け出すのがパターンだ。
だから行方を晦ませた元就を探して、メンバーがあちこち走り回るシーンは多い。とうの元就は先ほどから監禁されているシーンを撮っているので、他のメンバーは休憩を取っていた。撮影が行われている小屋は狭くて、スタッフ以外は入れそうにもなく、元親はがっかりした。監禁され、殺されるかもしれない恐怖に怯える演技というのを見てみたいものだ、と思っていたのだ。
しばらくは台本に目を通していたが、やがて耐えられなくなって他のメンバーと息抜きに会話し、仕舞いに元親はブラブラと散歩を始めた。撮影現場の方に行くと迷惑がかかりそうなので、少し離れた木陰のベンチへと向かう。
と、そこに元就のマネージャーが座って、なにやらスケジュール表を確認していた。元親は咄嗟に避けようとしたが、ふと思い止まる。
元就の空白の4年間の正体を、彼女は知っているんじゃないか。
それはほぼ確実な推測だった。元親はしばらく考えてから、彼女の側に行った。挨拶をすると、彼女はにこりと笑って元親を隣に促して、すぐにスケジュール帳を閉じる。
「あ、仕事、いいんですか」
「いいんです、確認をしていただけですから」
彼女は微笑んで、元親に体を向ける。
「いつもありがとうございます。おかげで近頃は元就も明るくなってきていて。長曾我部君のおかげです」
彼女はそう言ったが、元親には実感が湧かなかった。明るい元就も何も、いつだって同じように淡々としているじゃあないか。だが元親はそれは口にせず、少し声を潜めて切り出した。
「……あの、こんな質問、失礼かもしれませんけど。……これまで4年、元就は何をしていたんですか?」
彼女は少し黙ってから、また微笑を浮かべて答えた。
「学生をしていたんですよ」
「元就は気付いた時には役者になっていたんです。お父様が、……夫が、前の奥様との間に出来た子供、……元就には兄が居たんですが、彼が幼くして死んでしまって。奥様も亡くして、残った元就を抱えて、彼は絶望した後で自棄になりました。どうせ皆死ぬなら、思いっきり人生を楽しもうとね。それ自体は悪い事ではありませんでした。
元就をオーディションに出させて、発音や演技の練習をさせて。それは最初、親子の相互関係としては正常なものでした。何も判らない子供は、お父様から褒められ、ご褒美にケーキやチョコレートを貰うのが心底楽しかったでしょう。次々と舞い込んでくる仕事に、お父様は有頂天だった。もっと元就を良い役者にしようと、……正確にはもっと稼ごうと、元就を徹底的に役者にしようとしました。
子供には労働時間の規制が有りますから、撮影の仕事をしていない時間は、元就はそういったトレーニング施設でレッスンをしました。とにかく大人も顔負けの熱心さで、元就は努力しました。その結果、テレビの視聴率も好感度もうなぎのぼり、彼ら親子は忙しかったけれど、幸せだった事でしょう。
ところが、元就は気付いてしまったんです。仕事が数日途絶えて、久しぶりにまともに学校に行った元就は、周りの皆と話が出来ない事に気付いた。日常の事や、昨日のテレビ番組の事から、教科書の内容まで元就は何も知らず、それゆえに同世代の子供と付き合う事が出来なかった。他の子供達から見れば元就は大スターでしたけど、元就にとっては普通の子供達が羨ましかった。たまらなかったんです。
そこで元就は気付いてしまったわけです。自分の意思ではなく、父親に強制されて仕事をしているのだとね。もう、ケーキやチョコレートでは個人の意思を誤魔化せる歳ではなくなっていたのです。そして元就は勇気を出して、お父様に言いました。少しの間でいい、学校に行かせて欲しい、一度自分が本当にしたい事かどうか考える時間が欲しい、普通に暮らしたい、と。
お父様は元就を打って言ったそうです。お前はただの神童だ、神童は成長したら凡人になるのが定めだ、今稼がないでいつ稼ぐ、くだらない事を言っている暇があったら愛嬌でも磨け、と。
元就は、誰よりも自分の父が、自分がこの先落ちぶれるという事を信じている事に驚愕し、落胆し、そして絶望しました。幼い子供にとって、親の言葉は絶対です。その必ず自分が落ちるのだという絶望は、呪詛となって元就を追い詰め、彼はついに言葉を失ってしまいました。一時的なものでしたけれどね。それが精一杯の父親への反抗でした。言葉が出ないんだから、演技など出来ない、だから学校に行かせて欲しい。
けれど元就の期待は裏切られました。お父様は元就を激しく折檻し、声を出せと執拗に責めました。あまりの事に周りの大人達が手を回して、元就をお父様から引き剥がす事にしたのです。このままでは元就がいずれ虐待によって命を落とすかもしれない、とね。
それは最善の選択だったかもしれないし、最悪の選択だったかもしれない。そんな父親でも、元就にとっては唯一の家族で、その人から元就を引き剥がす事は、まだ年齢的に酷でした。ただでさえ情緒不安定な時期ですから。元就は私と暮らすようになりましたが、決して心を開いてはくれませんでした。その代わり、きっぱりと演劇の仕事を止めて、学問に打ち込むようになりました。それでも普通の子供達と普通に過ごす事は出来なかったようですけれどね。
元就の4年間はただの学生生活です。何の変哲も無い。元就はただ、普通になりたかっただけなのです。面白い話など、何も無いんですよ」
彼女の話がそこで終わって、元親はしばらく何も言えなかった。彼女もまた、何も言わなかった。遠くの方で休憩の合図。どうやら元就単独のシーンが終わったようだ。元就は縛られていたから、少し休む必要が有るのだろう。元親はしばらくそちらを見ていたが、やがて、
「じゃあ、……なんで元就は帰って来たんですか、ここに」
と尋ねた。すると彼女はにっこりと笑って、
「4年間、普通の暮らしをして、そして彼が、本当に自分は演劇が好きだったのだと思ったから、それだけです」
と答えた。
「今度は誰かに強要されるでなく、自分の意思で。それで自分に才能が無くて、将来凡人になったとしても、気にする事は無い、好きでやっているのだから……そういう事です。少々回り道をしましたけど、ここに帰る事になったんですよ。あの子はようやっとお父様から解放されたんです」
「……」
「それでも、元就は相変わらずあの調子でしたから。貴方達に出会って、元就がもっともっと変われれば、……自分を愛する事が、他人を愛する事が出来れば何よりと思っています。それは貴方達と関わる事で少しづつ知っていく事でしょうから、貴方達が元就と仲良くしてくれて、とても嬉しいんです。図々しいお願いですが、あの子を導いてやって下さい。尤も、あの子は賢いから、私が何か配慮しなくても、自然と色々な事を学んでいるのかもしれませんけれど……」
彼女はそう言って苦笑すると、目を細めて遠くを見た。元就が腕を擦りながらも休憩用の椅子に向かっていた。そこには他の3人が居て、元就にミネラルウォーターを勧めて笑っている。元就もぎこちなく笑んでそれを受け取った。それを見届けて、元親も彼女に会釈すると、彼らの所に向かって歩いた。彼らは気付くと元親を手招きし、笑いながら何やら台本の裏に書いた一発書きの落書きを見せて来た。
ヘンテコなそれが子供向けアニメのキャラクターだとわかって、そのあまりの脱力加減に元親は吹き出した。それから元就は仕事中に不謹慎だと怒るかもしれない、と不安になって彼を見た。彼は僅かに顔を背けて、小さく震えていた。それが何故だかたまらなく嬉しくて、元親は椅子に座ると、元就を笑わせてやろうと他の4人と冗談を言いまくったが、元就は最後まで耐えて声を出しては笑わなかった。
おかげで次の本番の直前、元就以外の4人は慌てて台本を読み直すはめになった。
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じゃあ全ての人が幸せなんだろうか 本当だろうか
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