頑張ろう……それなりに忙しい(笑)
以下、例の
以下、例の
視聴率はなかなかのものだった。
元親も録画していた本編を見たが、いや素人がやった割りにはなかなか面白かったと自分でも思った。ただ自分が出ているシーンはとても見ていられなかったので、なんともむずがゆい思いをする事になった。
撮影中は見えなかった、監禁されて怯えている元就も見る事が出来た。小さな彼の体はますますちっぽけに見えて、逃げようともがく姿がなんともいえず哀れで、出来る事なら助けてやりたいと思わせる。実際、視聴者からの感想の中には元就は母性本能を刺激しすぎると絶賛する声も混じっていた。
母性本能、か。
元親はそれについては納得出来た。何故だか元就を守りたいという衝動が生まれるのだ。だが撮影中、素の姿の元就にはそんな要素は全く無くて、元親は撮影に向かってもそのギャップに首を傾げるのだった。
撮影は滞りなく進んで行ったし、視聴率もそこそこ取れたようだ。事件が起こるという事は、何か悲劇がそこに有るという事で、安っぽい悲劇に若年層は大いに涙し、大人達も全体的にコミカルなそのドラマを気に入ってくれたようだ。
そこで脚本が少しばかり変更になる事になった。
元から看板として出演している元就の役が、思ったよりも人気が出た。可愛い、守ってあげたい、という女性が多く、人気キャラクターであればそっけなく殺すのはもったいない、という話になり、元就が死亡するシーンを作る事になった。
俺だったら好きなキャラが殺されるトコなんて見たらトラウマもんだけどな、と元親は思ったが、しかしいきなり死体になった元就というのもあまりに味気無いのも確かだ。元就も了承し、元就が殺害されるシーンを撮る事になったが、それは元就だけのシーンなので、元親達とは別の場所で撮影が行われた。だから実際にどんなシーンになるのか、元親達には後からしかわからなかった。
元就は最終回4話前に死んで、3話前に死体となって発見される。死体は元就の映像を合成して作るので、元就は他のメンバーよりも早く撮影が終了する。元就のほうのスケジュールが立て込んでいるらしく、早めに切り上げて他の仕事に移るようで、最終日の打ち上げ会にも出席出来そうに無い、との事だった。
であれば、とメンバー達は撮影の合間に元就との交流を深めた。笑い話をしたり、慶次が簡単な手品をして見せて驚かせたり、幸村と佐助、ついでに何故か政宗もスタント顔負けの肉体技を見せたりした。尤も、政宗はその後で小十郎にこっぴどく叱られたので、以降やらなかったが。
その成果もあって、ついに元就は自分の携帯のメールアドレスを皆に教えるに到った。「使った事が無いから、返信は遅いかも知れぬが」と断りを入れる元就に、皆すぐさまばかすかとメールを送りつけて、操作方法も良く判っていない元就は携帯相手に悪戦苦闘していた。その様があまりに可愛くて、元親は思わず元就の頭を撫でたりしたが、元就は特に反応もせずに、必死で携帯をつつきまわしていた。
元就の最後の撮影が終わった時に、一度目の打ち上げ会が行われた。焼肉パーティーというなんともラフなものだった。出演者に若年層が多いから、という理由で、スタッフのほうが合わせてくれたらしい。本当の打ち上げ会は老舗料亭などで静かにやるらしいので、元親達にとってはこちらの方が楽しかった。
撮影中、なんどか食事を共にして判っていたのだが、元就は意外なほどよく食べた。しかも丁寧に食べるものだから、いつまでもいつまでも食べてその上、誰よりもよく食べた。ところがパーティーの時、元就は何故だかあまり食事に手をつけなかったので、元親は心配したが、元就はなんでもない、とキャベツあたりを生でポリポリやっていた。
大人達はビールでベロベロになってラーメン屋に向かってしまうし、飲酒が出来ない未成年組が何故か大人の世話をしつつ帰る事になった。政宗と小十郎、元親、元就とそのマネージャーはいったん現場のビルに帰る事になった。駐車場に車を止めているのだ。
小十郎も元就のマネージャーも素面でおどけて見せる技は身につけていたが、流石に疲れた様子だった。駐車場についてすぐに小十郎は車に乗り込んだが、元就のマネージャーのほうが「あっ」と声を上げる。
「ごめんなさい、忘れ物をしたみたい」
と、彼女は鞄を漁って言った。
「何をだ?」
と元就が尋ねる。聞けば筆記用具の類のようだが、これで撮影は終わりなので、今日持って帰らなければ、というマネージャーに、元就は
「我が取って来よう」
と提案した。
「でも」
「杉は車を回しておいてくれ。すぐに帰る」
元就はそう言ってエレベーターに向かった。元親はなんとなく、そんな気分になって、じゃあ俺も途中まで着いて行くよと言った。
「なんでだよ、チカ」
政宗は不思議そうに言ったが、もう時間も夜だったし、誰も居ない撮影所に入るのは勇気が要るだろうから、と説明して、元親は元就と共にエレベーターに乗り込んだ。
静かだった。
元就は特に何も喋らないし、元親も何も言うべき事は無い。ただ気まずさに耐えかねて、元親は「お疲れさん」とそれだけ言った。元就は「うむ」とそれだけ答えて、また黙った。
ピン、と間抜けな音がして、エレベーターのドアが開く。元親が先に行って、電気を付けた。真っ暗な現場は本当に薄気味悪くて、なんとなく放課後の学校を思い出した。いつも日常的にそこに居たのに、誰も居なくなるとそこは急に別の空間になってしまうのだ。それがなんとなく不思議で、不気味で、元親は早く帰りたいと心から思った。幸い元就はがさごそと机の上を探して、すぐにそれを探し当てた。緑色のペンケースだ。中身を確認して、元就は「よし」と小さく頷くと、元親の所に帰って来た。
戸締りをして、再びエレベーターに乗る。また静かだった。けれど、今度は元就が口を開いた。
「今まで、世話になった」
「ん?」
「こんなに楽しく仕事を出来たのは、久しぶりだ」
元就は僅かに笑んで、呟くように言う。元親もなんとなく嬉しくなって、笑んだ。
「そりゃありがてぇ。楽しんでもらえりゃなによりだよ。俺達は馬鹿なところが取り得だからな」
「……お前は、優しい」
元就はぽつりと。
「だから、好きだ」
そう呟いた。元親はまた一瞬固まったが、あぁそうだ、皆好きだと続くんだ、と解釈した。だが言葉は続かなかった。
元就がするりと動いた。あまりにも滑らかな動きで、元親はぼさっとそれを見ている事しか出来なかった。元就は精一杯背を伸ばすと、片方の手で元親の頬に触れて、そして反対の頬に触れるだけのキスをした。
それはずっと前に政宗が元就にしたものに、良く似ていたが、しかし、大きく異なる部分も有った。これで2人は分かれるのだから。
元就はまた滑らかに元親から離れ、「この時間の事は忘れぬ」とそう呟く。元親はそれでもまたぽかんとして、ただ元就を見ていた。良く良く見ると、元就の左手は僅かに、微かに、震えていた。
またピン、と音がして、エレベーターが開く。今度は元就がすぐに滑り出た。彼は側に来ていた車にさっさと乗り込むと、そのまま走り去ってしまった。元親はエレベーターから出たものの、どうしていいのか判らず、ただ小さくなっていく車を見つめていた。
「おい、チカ、どしたんだよ、早く乗れって」
いつのまにか寄って来ていた車の窓から、政宗が顔を出して言った。それでようやく我に返った元親は、「悪い」と小さく答えて車に乗り込んだ。
頬が、なにやら、熱かった。
+++
あと2話ぐらいかなあ
元親も録画していた本編を見たが、いや素人がやった割りにはなかなか面白かったと自分でも思った。ただ自分が出ているシーンはとても見ていられなかったので、なんともむずがゆい思いをする事になった。
撮影中は見えなかった、監禁されて怯えている元就も見る事が出来た。小さな彼の体はますますちっぽけに見えて、逃げようともがく姿がなんともいえず哀れで、出来る事なら助けてやりたいと思わせる。実際、視聴者からの感想の中には元就は母性本能を刺激しすぎると絶賛する声も混じっていた。
母性本能、か。
元親はそれについては納得出来た。何故だか元就を守りたいという衝動が生まれるのだ。だが撮影中、素の姿の元就にはそんな要素は全く無くて、元親は撮影に向かってもそのギャップに首を傾げるのだった。
撮影は滞りなく進んで行ったし、視聴率もそこそこ取れたようだ。事件が起こるという事は、何か悲劇がそこに有るという事で、安っぽい悲劇に若年層は大いに涙し、大人達も全体的にコミカルなそのドラマを気に入ってくれたようだ。
そこで脚本が少しばかり変更になる事になった。
元から看板として出演している元就の役が、思ったよりも人気が出た。可愛い、守ってあげたい、という女性が多く、人気キャラクターであればそっけなく殺すのはもったいない、という話になり、元就が死亡するシーンを作る事になった。
俺だったら好きなキャラが殺されるトコなんて見たらトラウマもんだけどな、と元親は思ったが、しかしいきなり死体になった元就というのもあまりに味気無いのも確かだ。元就も了承し、元就が殺害されるシーンを撮る事になったが、それは元就だけのシーンなので、元親達とは別の場所で撮影が行われた。だから実際にどんなシーンになるのか、元親達には後からしかわからなかった。
元就は最終回4話前に死んで、3話前に死体となって発見される。死体は元就の映像を合成して作るので、元就は他のメンバーよりも早く撮影が終了する。元就のほうのスケジュールが立て込んでいるらしく、早めに切り上げて他の仕事に移るようで、最終日の打ち上げ会にも出席出来そうに無い、との事だった。
であれば、とメンバー達は撮影の合間に元就との交流を深めた。笑い話をしたり、慶次が簡単な手品をして見せて驚かせたり、幸村と佐助、ついでに何故か政宗もスタント顔負けの肉体技を見せたりした。尤も、政宗はその後で小十郎にこっぴどく叱られたので、以降やらなかったが。
その成果もあって、ついに元就は自分の携帯のメールアドレスを皆に教えるに到った。「使った事が無いから、返信は遅いかも知れぬが」と断りを入れる元就に、皆すぐさまばかすかとメールを送りつけて、操作方法も良く判っていない元就は携帯相手に悪戦苦闘していた。その様があまりに可愛くて、元親は思わず元就の頭を撫でたりしたが、元就は特に反応もせずに、必死で携帯をつつきまわしていた。
元就の最後の撮影が終わった時に、一度目の打ち上げ会が行われた。焼肉パーティーというなんともラフなものだった。出演者に若年層が多いから、という理由で、スタッフのほうが合わせてくれたらしい。本当の打ち上げ会は老舗料亭などで静かにやるらしいので、元親達にとってはこちらの方が楽しかった。
撮影中、なんどか食事を共にして判っていたのだが、元就は意外なほどよく食べた。しかも丁寧に食べるものだから、いつまでもいつまでも食べてその上、誰よりもよく食べた。ところがパーティーの時、元就は何故だかあまり食事に手をつけなかったので、元親は心配したが、元就はなんでもない、とキャベツあたりを生でポリポリやっていた。
大人達はビールでベロベロになってラーメン屋に向かってしまうし、飲酒が出来ない未成年組が何故か大人の世話をしつつ帰る事になった。政宗と小十郎、元親、元就とそのマネージャーはいったん現場のビルに帰る事になった。駐車場に車を止めているのだ。
小十郎も元就のマネージャーも素面でおどけて見せる技は身につけていたが、流石に疲れた様子だった。駐車場についてすぐに小十郎は車に乗り込んだが、元就のマネージャーのほうが「あっ」と声を上げる。
「ごめんなさい、忘れ物をしたみたい」
と、彼女は鞄を漁って言った。
「何をだ?」
と元就が尋ねる。聞けば筆記用具の類のようだが、これで撮影は終わりなので、今日持って帰らなければ、というマネージャーに、元就は
「我が取って来よう」
と提案した。
「でも」
「杉は車を回しておいてくれ。すぐに帰る」
元就はそう言ってエレベーターに向かった。元親はなんとなく、そんな気分になって、じゃあ俺も途中まで着いて行くよと言った。
「なんでだよ、チカ」
政宗は不思議そうに言ったが、もう時間も夜だったし、誰も居ない撮影所に入るのは勇気が要るだろうから、と説明して、元親は元就と共にエレベーターに乗り込んだ。
静かだった。
元就は特に何も喋らないし、元親も何も言うべき事は無い。ただ気まずさに耐えかねて、元親は「お疲れさん」とそれだけ言った。元就は「うむ」とそれだけ答えて、また黙った。
ピン、と間抜けな音がして、エレベーターのドアが開く。元親が先に行って、電気を付けた。真っ暗な現場は本当に薄気味悪くて、なんとなく放課後の学校を思い出した。いつも日常的にそこに居たのに、誰も居なくなるとそこは急に別の空間になってしまうのだ。それがなんとなく不思議で、不気味で、元親は早く帰りたいと心から思った。幸い元就はがさごそと机の上を探して、すぐにそれを探し当てた。緑色のペンケースだ。中身を確認して、元就は「よし」と小さく頷くと、元親の所に帰って来た。
戸締りをして、再びエレベーターに乗る。また静かだった。けれど、今度は元就が口を開いた。
「今まで、世話になった」
「ん?」
「こんなに楽しく仕事を出来たのは、久しぶりだ」
元就は僅かに笑んで、呟くように言う。元親もなんとなく嬉しくなって、笑んだ。
「そりゃありがてぇ。楽しんでもらえりゃなによりだよ。俺達は馬鹿なところが取り得だからな」
「……お前は、優しい」
元就はぽつりと。
「だから、好きだ」
そう呟いた。元親はまた一瞬固まったが、あぁそうだ、皆好きだと続くんだ、と解釈した。だが言葉は続かなかった。
元就がするりと動いた。あまりにも滑らかな動きで、元親はぼさっとそれを見ている事しか出来なかった。元就は精一杯背を伸ばすと、片方の手で元親の頬に触れて、そして反対の頬に触れるだけのキスをした。
それはずっと前に政宗が元就にしたものに、良く似ていたが、しかし、大きく異なる部分も有った。これで2人は分かれるのだから。
元就はまた滑らかに元親から離れ、「この時間の事は忘れぬ」とそう呟く。元親はそれでもまたぽかんとして、ただ元就を見ていた。良く良く見ると、元就の左手は僅かに、微かに、震えていた。
またピン、と音がして、エレベーターが開く。今度は元就がすぐに滑り出た。彼は側に来ていた車にさっさと乗り込むと、そのまま走り去ってしまった。元親はエレベーターから出たものの、どうしていいのか判らず、ただ小さくなっていく車を見つめていた。
「おい、チカ、どしたんだよ、早く乗れって」
いつのまにか寄って来ていた車の窓から、政宗が顔を出して言った。それでようやく我に返った元親は、「悪い」と小さく答えて車に乗り込んだ。
頬が、なにやら、熱かった。
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