最後まで小ネタだった
例の奴の最終話になります、一応。
例の奴の最終話になります、一応。
「つまり、お前は」
元就が黙ってしまったので、代わりに元親が続けるしかなかった。
「ヘコんでた時に、俺の写真を見て、早い話が……惚れちまってだ。やる気が出て頑張ってたら、たまたま俺と共演なんて話になって」
「うむ」
「それでもまぁ隠そうとしてたのに、俺達がお前にちょっかい出すもんだから、お前もどうしていいか判らなくなって、ますます好きになっちまって、その結果ああなって、ついでにこうなったと」
「そういう事だ」
「で、わけわからないまま、俺が機嫌を損ねてお前の事を嫌いになる前に、全部話しておこうと」
「嫌われるなら、直接嫌われたほうが、マシだ……」
元就が酷く小さな声で答えた。元親は元就を見る。彼は俯いていて、表情は判らなかったが、ドラマの役柄さながらの不安そうな顔をしているのだろうと元親は思った。あれは元就でもあったんだ、と元親は思う。元就の中にも、あの不器用な青年は居たのだ、と。そして彼は殺された事にはなったけれど、相変わらず元就と共に、元就として生きているのだ。
元親は納得して、そしてきっぱりと言った。
「嫌ったりはしねぇよ、嫌ったりはよ」
「だが、気持ち悪いであろう、男が男をだなどと」
「ん、でも、俺は、女が苦手だし、まぁだからってホモってわけでもねぇとは思うんだけど、だけどだな、おい待て」
元就が心底悲しそうな顔をしたものだから、元親は慌てて付け足す。
「つまり、あぁ待てよ、だから、そうだ、さっき俺はお前に抱きついただろ、それってのはあれだ、好きじゃない相手にはしないだろうが」
「……それはつまり、その、そういう、意味か?」
「……」
元親は少し考えて、それから「うーん」と首を傾げた。
「たぶん、そうだと思うんだけどなあ」
「たぶん、とはなんだ、自分の事ぐらい、自分で判らぬのか」
「お前にだけは言われたくねえぜ」
元親は少し考えて、それから元就の顔をじっと見た。彼は困ったような顔をして、眼を反らす。
「それにしても、なんだって俺をそんなに気に入っちまったんだ」
「……綺麗、だったから」
「綺麗?」
元親は自分の体を見て首を傾げる。綺麗などと言われるような容姿ではない。
「髪と、瞳が」
元就は付け足して、そして元親を見る。
「銀色の髪が、光って、青い瞳と、緑の瞳が、深くて」
だから、思わず、手を伸ばしてしまったのだ、あの日と同じように、触れて、知らぬ間に、手に取っていた。
元就がまた俯く。元親は己の頬に手を当てた。
こんな髪、こんな眼、日本人のはずないでしょう、こんな子は私の子じゃないの、そうよ浮気をして出来たんだとしたら、もっと日本人らしいはずでしょう、この子はどこの誰の子なのかも判らないのよ、ええそうですとも、こんな髪、こんな、こんな眼!
ふいに母親の顔を思い出した。何度も何度も繰り返していた。自分の子だと判ってからも元親の造りばかり褒めて、髪や、瞳について全く触れなかった。元就はそれを綺麗だと、手を伸ばして、触れずに、……引き寄せられずにはいられないと。
「……毛利」
元親は一度深く息を吐いてから、言った。
「説明つかねぇけど、俺、今、とびきりあんたの事を抱きしめたいぜ」
「……なら何故せぬ?」
「テーブルが邪魔だからだ」
元親がそう言うと、元就はしばらく黙ってから、
「邪魔ならば、退ければ良いのだぞ」
と、呟いた。
元親はスッとテーブルを避けて、元就を力の限り抱きしめて、そして息を呑む元就の唇に食らいついた。
どうにもならなかった。どうにも説明がつかなかった。ただただ、愛したいと、愛されたいと思った。それが誰をだとか、誰にだとか、そんな事はどうでもよくて、ただ今すぐ抱きしめて抱きしめられて愛していると愛されていると知りたかった。言葉も何も要らなくて、指が、温もりが、静かな、それでいて激しい時間が必要だった。元親は元就をぎゅうぎゅう抱きしめて、そろりと背中に伸ばされた手も絡みとって、そして本人の許可も得ないまま、元就をカーペットに引き倒すと、貪るように愛した。
獣のじゃれあいのような、激しく、稚拙な、愛だった。
元親はゲイではなかったし、元就も同様で、それ故彼らは適切な愛の確認方法など知らなかった。だから彼らはただ求めるままに絡み合い、撫であい、口付けを落として名を呼んだ。若くまた拙い彼らの情事は、それでいて彼らを存分に満たした。一つになりたいと願ったが、今はまだそれだけで十分だった。手を、指を触れ、名を呼び、共に有り、熱を分かつだけで、それだけで良かった。
ふと元親は目を覚ました。あまりの心地良さに、元就とベッドで眠っていたようだった。元就を見ると、彼は良く寝ているようで、元親はそろりと布団から這い出た。とりあえず服を着て、それからもう少し休もうと横になったとたんに睡魔に負けたのだ。元親はのろのろとテーブルに向かったが、酷く喉が乾いていたので、元就の分まで茶を飲んだ。それから、元就が起きたら水分を欲しがるだろう、と元親は部屋を出た。人の家のキッチンに入るのは気が引けたので、様子を見てみようと思ったのだ。
廊下でばったり、元就のマネージャーに出くわした。
元親はぎょっとして、それから赤くなって、「あの、ずっと居たんですか」とやはり敬語で聞いた。彼女はそれには答えずに、「長曾我部君、元就と仲良くしてくれて、ありがとうございます」と頭を下げた。それがなんとも言えず不気味で、元親はあの、と尚も声を上げたが、彼女は微笑んで首を振る。
「貴方達若い男の子が互いに交友を持って、一晩趣味の事で語り明かすぐらい、普通ですから。別に怪しまれる事もないでしょうし」
「あの、そうじゃなくて、俺、」
「それに私もいいんです。私はあの子の母にはなれないし、あの子からお父さんを奪ったのだし、あの子は私を一生愛さないでしょうし、私もまたあの子を心から愛する事など一生出来ないんです」
「そんな事、」
「それでも私はあの子を大事に思っていますから、あの子が望むなら、それで幸せなのなら、私はどんな事にも眼を瞑るし、耳を塞ぐし、どんな敵の前にも立ちふさがるし、どんな壁でも乗り越えます。だから、貴方は元就と仲良くしてあげて下さい。もちろん、貴方が良ければ、ですけど……」
「おれ、は、」
彼女はやはり元親の言う事など一つも聞かずに、頭を下げると廊下を進んで行ってしまった。元親は呆然としていたが、やがてまたのろのろと元就の部屋に戻った。
元就はまだ眠っている。元親はそろりとその横に戻った。それで目が覚めたらしい、元就は僅かに目を開けて、むずがるような声を出した。元親は「悪い」と小声で謝って、そして元就を撫でる。
誰もが愛を求めて、愛を与えて、愛に惑って、愛に狂って、愛を失うのだ。
元親はそう考えて、なんとも悲しい気持ちになった。母は、浮気をしたのだと元親は思っていた。証拠は何も無いけれど、でなければあれほど取り乱すはずが無い。元親は母を愛していなかった。母が元親を愛さないように。
元就は父親を愛しているんだろうか。元親は少し考えて、すぐに止めた。元就を知れば判る事なのだ。他人の愛など考えたところで何も見えない。眼が曇るばかりだ。
母にも愛されないこの髪が、瞳が、元就を満たすなら、美しい時間を切り取られるだけのために生きているこの体が、元就を抱きしめられるなら、それでいい、それで元就が愛されていると、幸せだと思うのなら、それで、それで今はいい。
元親はそう考えて、元就の髪に一つ口付けを落とした。元就は、力無く元親の手を探っている。元親はそれを握り返して、そしてその温かさにくすりと笑んだ。
元就が、元就自身が認めていない元就が、俺を愛してくれるなら、俺もまた今はそれでいい。
そこはどうしようもなく、抗いようもなく、温かかった。
++++
一応これで終わり。小ネタでした。長い。
お付き合いありがとうございました。
元就が黙ってしまったので、代わりに元親が続けるしかなかった。
「ヘコんでた時に、俺の写真を見て、早い話が……惚れちまってだ。やる気が出て頑張ってたら、たまたま俺と共演なんて話になって」
「うむ」
「それでもまぁ隠そうとしてたのに、俺達がお前にちょっかい出すもんだから、お前もどうしていいか判らなくなって、ますます好きになっちまって、その結果ああなって、ついでにこうなったと」
「そういう事だ」
「で、わけわからないまま、俺が機嫌を損ねてお前の事を嫌いになる前に、全部話しておこうと」
「嫌われるなら、直接嫌われたほうが、マシだ……」
元就が酷く小さな声で答えた。元親は元就を見る。彼は俯いていて、表情は判らなかったが、ドラマの役柄さながらの不安そうな顔をしているのだろうと元親は思った。あれは元就でもあったんだ、と元親は思う。元就の中にも、あの不器用な青年は居たのだ、と。そして彼は殺された事にはなったけれど、相変わらず元就と共に、元就として生きているのだ。
元親は納得して、そしてきっぱりと言った。
「嫌ったりはしねぇよ、嫌ったりはよ」
「だが、気持ち悪いであろう、男が男をだなどと」
「ん、でも、俺は、女が苦手だし、まぁだからってホモってわけでもねぇとは思うんだけど、だけどだな、おい待て」
元就が心底悲しそうな顔をしたものだから、元親は慌てて付け足す。
「つまり、あぁ待てよ、だから、そうだ、さっき俺はお前に抱きついただろ、それってのはあれだ、好きじゃない相手にはしないだろうが」
「……それはつまり、その、そういう、意味か?」
「……」
元親は少し考えて、それから「うーん」と首を傾げた。
「たぶん、そうだと思うんだけどなあ」
「たぶん、とはなんだ、自分の事ぐらい、自分で判らぬのか」
「お前にだけは言われたくねえぜ」
元親は少し考えて、それから元就の顔をじっと見た。彼は困ったような顔をして、眼を反らす。
「それにしても、なんだって俺をそんなに気に入っちまったんだ」
「……綺麗、だったから」
「綺麗?」
元親は自分の体を見て首を傾げる。綺麗などと言われるような容姿ではない。
「髪と、瞳が」
元就は付け足して、そして元親を見る。
「銀色の髪が、光って、青い瞳と、緑の瞳が、深くて」
だから、思わず、手を伸ばしてしまったのだ、あの日と同じように、触れて、知らぬ間に、手に取っていた。
元就がまた俯く。元親は己の頬に手を当てた。
こんな髪、こんな眼、日本人のはずないでしょう、こんな子は私の子じゃないの、そうよ浮気をして出来たんだとしたら、もっと日本人らしいはずでしょう、この子はどこの誰の子なのかも判らないのよ、ええそうですとも、こんな髪、こんな、こんな眼!
ふいに母親の顔を思い出した。何度も何度も繰り返していた。自分の子だと判ってからも元親の造りばかり褒めて、髪や、瞳について全く触れなかった。元就はそれを綺麗だと、手を伸ばして、触れずに、……引き寄せられずにはいられないと。
「……毛利」
元親は一度深く息を吐いてから、言った。
「説明つかねぇけど、俺、今、とびきりあんたの事を抱きしめたいぜ」
「……なら何故せぬ?」
「テーブルが邪魔だからだ」
元親がそう言うと、元就はしばらく黙ってから、
「邪魔ならば、退ければ良いのだぞ」
と、呟いた。
元親はスッとテーブルを避けて、元就を力の限り抱きしめて、そして息を呑む元就の唇に食らいついた。
どうにもならなかった。どうにも説明がつかなかった。ただただ、愛したいと、愛されたいと思った。それが誰をだとか、誰にだとか、そんな事はどうでもよくて、ただ今すぐ抱きしめて抱きしめられて愛していると愛されていると知りたかった。言葉も何も要らなくて、指が、温もりが、静かな、それでいて激しい時間が必要だった。元親は元就をぎゅうぎゅう抱きしめて、そろりと背中に伸ばされた手も絡みとって、そして本人の許可も得ないまま、元就をカーペットに引き倒すと、貪るように愛した。
獣のじゃれあいのような、激しく、稚拙な、愛だった。
元親はゲイではなかったし、元就も同様で、それ故彼らは適切な愛の確認方法など知らなかった。だから彼らはただ求めるままに絡み合い、撫であい、口付けを落として名を呼んだ。若くまた拙い彼らの情事は、それでいて彼らを存分に満たした。一つになりたいと願ったが、今はまだそれだけで十分だった。手を、指を触れ、名を呼び、共に有り、熱を分かつだけで、それだけで良かった。
ふと元親は目を覚ました。あまりの心地良さに、元就とベッドで眠っていたようだった。元就を見ると、彼は良く寝ているようで、元親はそろりと布団から這い出た。とりあえず服を着て、それからもう少し休もうと横になったとたんに睡魔に負けたのだ。元親はのろのろとテーブルに向かったが、酷く喉が乾いていたので、元就の分まで茶を飲んだ。それから、元就が起きたら水分を欲しがるだろう、と元親は部屋を出た。人の家のキッチンに入るのは気が引けたので、様子を見てみようと思ったのだ。
廊下でばったり、元就のマネージャーに出くわした。
元親はぎょっとして、それから赤くなって、「あの、ずっと居たんですか」とやはり敬語で聞いた。彼女はそれには答えずに、「長曾我部君、元就と仲良くしてくれて、ありがとうございます」と頭を下げた。それがなんとも言えず不気味で、元親はあの、と尚も声を上げたが、彼女は微笑んで首を振る。
「貴方達若い男の子が互いに交友を持って、一晩趣味の事で語り明かすぐらい、普通ですから。別に怪しまれる事もないでしょうし」
「あの、そうじゃなくて、俺、」
「それに私もいいんです。私はあの子の母にはなれないし、あの子からお父さんを奪ったのだし、あの子は私を一生愛さないでしょうし、私もまたあの子を心から愛する事など一生出来ないんです」
「そんな事、」
「それでも私はあの子を大事に思っていますから、あの子が望むなら、それで幸せなのなら、私はどんな事にも眼を瞑るし、耳を塞ぐし、どんな敵の前にも立ちふさがるし、どんな壁でも乗り越えます。だから、貴方は元就と仲良くしてあげて下さい。もちろん、貴方が良ければ、ですけど……」
「おれ、は、」
彼女はやはり元親の言う事など一つも聞かずに、頭を下げると廊下を進んで行ってしまった。元親は呆然としていたが、やがてまたのろのろと元就の部屋に戻った。
元就はまだ眠っている。元親はそろりとその横に戻った。それで目が覚めたらしい、元就は僅かに目を開けて、むずがるような声を出した。元親は「悪い」と小声で謝って、そして元就を撫でる。
誰もが愛を求めて、愛を与えて、愛に惑って、愛に狂って、愛を失うのだ。
元親はそう考えて、なんとも悲しい気持ちになった。母は、浮気をしたのだと元親は思っていた。証拠は何も無いけれど、でなければあれほど取り乱すはずが無い。元親は母を愛していなかった。母が元親を愛さないように。
元就は父親を愛しているんだろうか。元親は少し考えて、すぐに止めた。元就を知れば判る事なのだ。他人の愛など考えたところで何も見えない。眼が曇るばかりだ。
母にも愛されないこの髪が、瞳が、元就を満たすなら、美しい時間を切り取られるだけのために生きているこの体が、元就を抱きしめられるなら、それでいい、それで元就が愛されていると、幸せだと思うのなら、それで、それで今はいい。
元親はそう考えて、元就の髪に一つ口付けを落とした。元就は、力無く元親の手を探っている。元親はそれを握り返して、そしてその温かさにくすりと笑んだ。
元就が、元就自身が認めていない元就が、俺を愛してくれるなら、俺もまた今はそれでいい。
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