その4ですっけ
ここも短めなんで次との調整かなあ
ここも短めなんで次との調整かなあ
キツネ君に出会ってから二週間が経った。今日は六月一五日。村は大騒ぎだ。一つには、こんなに時間が経ったのに、まだ次期村長が決まっていないから。もう一つの理由は、今日が大きな祭りの日だから。その名も龍神祭。村の神社で、色々とやるらしい。
梅雨なのに朝から晴天そのもので、祭日和だ。そんなお祭りに顔を出さないのは不自然だから、俺も行く事にした。夕方から夜にかけてが本番らしいので、俺はいつも通りに仕事をして、早めに診療所を閉め、一六時に会場に向かう事にした。会場には簡易のテントが有って、救護班も居るらしいから、俺はよほどの事が無い限り必要無い。そしてよほどの事なら、携帯に電話をかけてもらう事にしている。
帰りは遅くなりそうだから、懐中電灯も持って、のんびりと歩いて祭りの会場に向かうと、まあ、この小さな村の何処にこんなに人が隠れていたのか、と思うぐらい、人で溢れかえっていた。若いのもそこそこ居る。どうやら少し早目の花火も上がるから、余所からも来ているらしい。都会の祭りほどの混雑でも無いが、それでもいつもの静かな村とは大違いだ。
神社に続く道は屋台で溢れていて、提灯がほんのり赤く揺れている。山際の道は既に少し暗くなってきていて、見れば空はどんよりと曇っている。これは雨が降るかもしれないな、祭の間は落ちて来ないといいが。
あれこれ屋台を見ていると、妙に懐かしい気持ちになる。都会で働いていた頃は、祭りになんて来る余裕は無かった。子供の頃は無邪気だったよな、となんとなく童心に帰って、リンゴ飴やらイカ焼きやら焼きそばやら、気持ちの赴くままに買っていると、結構なビニール袋の数になった。さて、これらを何処かで食べないといけないが、と思いつつ歩いていると、「や、先生先生」と明るい声をかけられる。振り返ると、永尾さんだ。
「ああ、永尾さん、こんばんは。今日は人間の食べ物を食べていますか?」
「あっはっは、今日はそこそこ」
そう言いながら、手に持った大量の食べ物とビールを見せてくる。ガタイが良いだけに、よく食べる人だ。感心していると、「先生、神楽見ないかい、神楽」と永尾さん。
「神楽、ですか?」
「うんうん。もう少ししたら、神社でやんのよ。場所取ってあるから、座って見れるしさ、良かったら」
あまり人と接触するのも危険かと思ったが、今日は指輪も持って来ているし、まあいいか、と着いて行く。神楽は神社の側の広場で行われるらしい。舞台が用意してあって、松明が照明として付けられている。この辺りは大きな木が多くて、一層暗い。それだけに、妙に雰囲気が有った。が、舞台の周りには花見よろしくブルーシートやらレジャーシートが一面に敷かれていて、既に宴会騒ぎが起こっていた。これでは神聖な神楽も台無しでは無いのだろうか。
永尾さんに促されるまま着いて行くと、なるほど地元の作業員の集まりらしい、数人の若い衆が、既に酒盛りをしてやんややんやと騒いでいた。これは大変そうだ、と思ったが、永尾さんは俺を隅に座らせてくれたので、酔っ払いに絡まれるでもなく、かといって永尾さんが時々話しかけてくれるから、暇でもなく、良い雰囲気で食事にありつけた。いや、永尾さんがこんなに気のきく人だとは思わなかった。ゲテモノ食いというイメージしか無かったから、評価を改める事にしよう。
さてしばらくすると、場内が静かになった。しゃらん、という鈴の音が鳴ると、今まで大騒ぎをしていた宴会組も静かになって、それで神楽が始まった。
白い装束、顔に仮面。そういういで立ちの男達が、何やら舞をしている。どうもストーリー性がありそうだが、やたらに登場人物も多いし、セリフも特に無いし、よく判らない。ただ、どうもキツネだとかタヌキだとか、見覚えの有る仮面が有るので、たぶん魔法使いの事を表しているんだろうとは思う。
すると永尾さんが、「先生、ホレ」とビラをくれた。薄暗くて見にくいが、どうやら神楽の内容を簡単な童話調にして書かれているらしい。村の実行委員会が、観光目的で配布しているんだとかなんとか。
どれどれ、と内容を読んでみる。
「昔々、戦に負けて国を追われた人々かこの村に住み着いた時、この山は荒れ果て川も無く食べ物もありませんでした。苦しむ民衆の姿に心を痛めた龍神様は、雨を降らせてこの村に川を通し、森の様々な生き物を使いとして降ろし、人々を導いたのでした。最初にやって来たのは天狗で、大きな内輪で風を起こして、森の朽ちた木の枝や葉をひとところに集めて、これで畑を作ると良いと言いました。次にやって来たのはウサギで、実のなる木を教えてくれました。
蛇は道を作り、牛は畑を耕し、スズメは作物の実りを告げ、熊が魚の捕り方を教えました。六月になると鹿が龍神様を祀る事を教え、人々は奉納の為の祭りを開く事にしました。タヌキは色々な物に化けて見せて、この村に足りない役割を補ったのでした。さて安定したように見えたこの村でしたが、戦火は迫りつつありました。そこで強い村にするために、雉が鳴いて村の長を定めるべきだといいました。村長を決めるのは、この村をじっと見て来た猫になりました。猫はこの村で一番賢い男を村長に決めました。犬がこの男に人々を動かす方法を教えました。
ところがイタズラ好きな狐は、これは面白そうだと森に火などを灯したように見せて、まるで戦火が迫っているように思わせたのでした。慌てた村の衆でしたが、村長は見事に対処して、これをキツネの火だと見破ったのでした。悔しがった狐は何度も人々を驚かそうとするのですが、少しも村長は驚きません。そうこうしているうちに、このままでは本当の窮地に陥った時に、人々がまた狐の仕業だと思ってしまうかもしれなくなったので、村長は龍神様に狐をこらしめるようにお願いしました。すると狐は妖力の殆どを取り上げられて、自分の姿を変える事しか出来なくなったのでした。
おもしろくない狐は、人間に化けて村長を誘惑するのですが、これも簡単に見破られてしまいます。反省の色が見えない狐を、村の人々は暗い穴倉に閉じ込めてしまったのでした。こうして村に平和な日々が訪れたのでした」
大体こんな内容だ。なるほど、キツネの魔力が一番弱い、という理由がコレなのかもしれない。それにしては、今では魔法使いの末端として普通に仕事をしているんだから、よく判らない話だ。
「キツネは随分酷い扱いなんですね、この神楽」
ポツリと呟くと、永尾さんは「そうなんだよな」と頷く。
「まあ、童話って言ったら、キツネは大体悪い奴だよな。タヌキは同じ化かす感じでも、ちょっと間が抜けてるっていうか。でもキツネはほら、美女に化けたり、怖い話も多いだろ?」
「ああ、なんでしたっけ。中国の妖怪とかにもキツネは多いような」
「そうそう。ま、だからキツネがそういう扱いなのも仕方無いかもな。実際、この村の魔法使いの中でも、一番弱いらしいし。今じゃあすっかり大人しくなって、使いっぱしりみたいなもんらしいよ」
「そうなんですか?」
「詳しくは判らないけど、一番弱いって事は、他の魔法使いにいつ襲われてもおかしくないって事だから。色々と媚売って生き残るしかないんじゃねえのかな。実際、キツネは毎回、タヌキに御子の情報を売ってるって話だし」
「……でも、今年は……」
「そーなんだよ。今年は全然村長が決まらない。何が起こってんだろうね?」
ふーむ、俺にも良く判らない。キツネ君が保身の為にタヌキに御子を明かしていたとしたら、元々キツネ君とタヌキは協力関係みたいなものじゃないか。なのに今回に限って、キツネ君はどうもタヌキを裏切っているらしい。キツネ君は何がしたいんだろう、と考えていると、永尾さんが「もしかしたらさ」と笑う。
「魔法使いもさ、抱いたら魔力が上がるっていうし。キツネも本当は、他の魔法使いを狙ってんじゃないのかね」
「と、いうと?」
「御子を教える代わりに抱かせろ……とかさ。キツネとかイヌとかは、かなり魔力が弱いから抱かれたら命に関わるとかいうけど、他の魔法使いはちょっと吸われるぐらいだから。キツネも魔力が欲しくてたまんないんだと思うぜ、昔はすごい力を持ってたって感じだもんな、この神楽の内容からして」
だから、効果的な相手に御子を売り渡す為に、時間をかけてるのかもしれねえな、いや、俺の勝手な予想だけどさ。
永尾さんはそう言って笑ったので、俺も「なるほど」と微笑んで、それでこの話は終わった。
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