そもそもこのお話を考えた時に最も力を入れていたのは
国親弘元だったのですが……現状の話の進み具合では殆ど絡んできそうにない
というかもう絡めない状態なわけですが……次からちょいちょい出ます
本当は毛利が負けたところから本編スタートするつもりだったので
大幅にカットされてしまいました……
国親弘元だったのですが……現状の話の進み具合では殆ど絡んできそうにない
というかもう絡めない状態なわけですが……次からちょいちょい出ます
本当は毛利が負けたところから本編スタートするつもりだったので
大幅にカットされてしまいました……
声は壁の向こうから、床に近い位置より聞こえている。元就は辺りを見回して、見張りなどが居ない事を確認すると、腰を下ろして「どうした」と問うた。
「ああ、元就様、御無事で……」
声の主は家臣の一人だった。何用か、と問えば、彼は答える。
「この砦は急造の物でございます。基礎から作ったわけではないのです。櫓等よりよほど簡易に作られている為、……この土を掘ると、下には殆ど何も無いのです。つまり、掘り進めば、外に出られるという事です」
元就は言われて、足元を見た。土間に近いとは思うが、年月が経ったわけでなく、よく踏み固めたわけでもない。確かに軽く小突いてやれば僅かに崩れた。しかしそうであっても、人が通るだけの穴を開けるのには長い時間と、根気が必要だろう。
「……無用ぞ。止めよ」
「は? しかし……」
「出ようと思えばいつでも出られる。問題は出た後の事だ。外には間違いなく兵も居る。彼らと生身で戦えるわけではないし、……こう見通しが悪くては、どちらに逃げるのが良いのかも判らぬ。しばし待て」
「では元就様、本当に術を会得しておられるのですか」
元就は特殊な技を持っている。それが何故得られたものなのか、元就にも判らない。ただ父も使っているのを見た事が有るから、どうやら血筋の物らしい。光に似た何かを作り出す事が出来る。それは確かな存在を持って、しばらくの間効力を発揮する。壁を作り出し、全てを遮断したり、またその壁を物に押しつける事で破壊したり。しかしそれらの技を繰り出せるという事は、隠していた。奥の手であるから、安易に使うべきではない。それに、未だ使いこなすほどには至らず、一度何かしら使ってしまうと、しばらくの間再度使う事は出来ない。
「使う事は出来る。だが、連続では無理だ。この壁を壊して外に出る事は出来る。だがその後で身を守る事は出来ない。……僅かな時間だが。その間に射殺されるかもしれぬ。今はまだ、賭けに出るわけにはな……」
「……ならば、私はやはり、穴を掘りましょう。少しでも元就様のご負担を軽く出来れば……」
「……」
そうまで言われては、元就も止める術を持たない。ざりざり、と僅かな音が響く。元就はただ黙って、自分も少し土を掻いた。すぐに指が痛くなる。穴が開く頃には、爪も無くなるだろうと思った。それでも、自力で脱出するなら、それ以外の方法は無い。元就はしばし考えて、また「止めろ」と命じた。
「は、しかし……」
「待て。必ず機会は訪れる。……その時まで、手は守っておけ。……少し、良いか」
「何なりと。私めでよろしいのならば……」
元就はしばらく考えてから、彼に問う。
「何故我に従う?」
「は?」
「何故我の下に居るのだ?」
「……」
「忌憚無く申せ。我はそれを求めておる」
「……は。それは、その……正直に申しませば、……私の生まれた地の主が、元就様だからであり……」
「……」
「しかし、それは最初の理由に過ぎませぬ。私は、……少なくとも私個人は、それ以外にも理由は持っておりまする」
「ほう、申してみよ」
彼はまた少しの間黙って、それから恐る恐るといった風に言う。
「それがその……も、元就様は、幼少のみぎりより、大殿や兄君を失われ……その心痛を考えますに、相当なものであろうと……。元就様も我等と同じ、人であるからには、その痛みを支えて差し上げたいと……」
「……」
「更に申し上げますれば、元就様はよく前線に赴き、自ら兵を率いて戦場を駆けておられ……、……も、申し訳ございませんが、元就様はかの長曾我部元親のような屈強な男というわけでなく、また武勇優れた将というわけでもなく……見た目や身体の作りという点から言えば、我等と同じか、また……失礼ながら、あるいは我らより劣るかもしれませぬ。そんな方が前線に駆けて行かれる。我等はそれを追わずにおれず、またそんな方を守らずにおれませぬ」
元就は静かに眉を寄せた。それではまるで……戦姫でも抱えているようなものではないか。男は死ぬ理由が無ければ戦えない。誰しも生きて帰りたいと願うのだから。死んでも構わないという何かがなくてはいけない。その何かとして度々祀り上げられるのが、神や、主や、そして最も安易なところで女の存在だ。妻の為、娘の為に戦う男は多い。そして時に、戦場に踊り出る、小生意気な女そのものを守る為に戦う。女を死なせてはならないと、男達は走り、戦う。それもまた一種の戦姫の形だ。
それと同じだと言われているようで、元就は少々不快だった。その沈黙を受け取って、彼はまた慌てたように付け足す。
「いえ、その……元就様は、我等の命を預けてしかるべき方だと、私は思っております。そんな方であれ、やはりお慕い出来るような方でなければ、後に続いたりは致しませぬ。ですから、我々は元就様をお助けしたいと、お守りしたいと思うから、貴方様に何処までも着いて参るのです。……やはり我々も、頂点に立ち、我等を見下ろし、指先で操るような主ならば、守りたいとは思いませぬ。……我々は元就様を信じているのです」
「……信じている?」
「はい。元就様は偽りの無い方ですから……」
「では何故、しきりに促すのだ? 我に四国を見限れと促すのは何故だ」
「は? ……その、……元就様、これは私の個人的な意見でありますから、他の者と同じとは限りませぬが……。我々はそのような事を望んでいるわけでは有りませぬ。我々は元就様の進む道を、共に歩むのみです。……もしそれを歪めようとしている者が居るように、……元就様がそのように感じられるなら、それは……」
「それは、なんだ」
「それは、その……元就様が、……道をお定めになられていないからではないか、と……」
元就は思わず壁を見た。彼の姿は当然見えない。声は次第に小さくなっていく。萎縮しているようだった。
「し、失礼ながら、元就様の有りようを見ておりますと、我々にはとても……とても、元就様が四国長曾我部を、信じているようには思えず……元就様が彼らに対して不満を抱いているように見えるから、下々もまた、彼らを信じる事は出来ないのではないかと……、………………我々は元就様を信じます。ですが、……元就様のお信じになられないものを、何故我々が、信じられると思われるのですか」
元就は信じていなかった。従いもしたし、共に過ごしもしながら、誰の事も信じたりはしなかった。元親の事も、また。
その事実が、部下達の不安を煽った。どうすればいいのか判らない。元就がどうするつもりか判らないから。だから彼らは尋ねた。元就様はどうするつもりなのかと。信じていないからには、いずれ袂を分かつのかと。
そしてそれを聞いて元就は、冷めた気持ちになるのだ。ああこの男も味方ではないのだと。
ああ。
我は、なんと愚かな。
元就は静かに目を閉じ、俯いた。なるほど、答えは見えてしまえば簡単だ。何もかも、元就の疑心暗鬼が原因だったのだと、今ようやく知る。確かに裏切り者は居た。内通者も居るだろう。だが、味方もまた多く居た。それらまで疑い、信じようとしなかった。主であり、慕っている元親の事でさえ。
元親。……元親に会いたいと思う理由を、今少し考えよう。信じていない相手に会いたいと思うのか。そんな筈がない。会いたいという個人的な感情は、相手に好意が有るからこそ、発生するものだ。……つまり、我は元親を好いているのだ。慕っている。心から。
だから会いたい。彼と共に有りたい。彼の為に戦いたい。彼の為になら死んでもいい。……けれど、彼と共に生きたい。行きたい。彼の目指している場所へ。……彼の、天下へ?
ああ。
矛盾だらけだったのは、元親だけではない。我もまた、……だから、元親はあれほど、我に忠告を……明智が覚悟を問うたのも、それが理由か? ……ああ、ああなんだ、そうか、そうか……。
元就は一人、考えを巡らせる。それをどう取ったのやら、部下は「も、元就様、お許しを……」と懇願に似た声を出す。元就は眼を開き、壁に向かって言う。
「よく聞け。我は長曾我部元親の家臣だ。そして我はその立場に何ら不服は無い。そなたらが我を信じ、慕っているように、我もまた、彼を信じ、慕っておる。彼の為に死ぬ事に、いささかの疑問も無い。……今までそれを明言しなかったのは、我の怠慢だ。だがそなたも信じてほしい。四国は我等の敵ではない。少なくとも、今は」
「……元就様……」
「しかし我は今まで、配下の者達にそれを伝えぬまま過ごした。恐らく今頃国は荒れておろう……恐らくな。疾く帰還しなければ……その為にも、死んではならぬ。そなたもだ。急がねばならぬが、焦っては命を落とす。生きて帰るぞ。良いな」
「……は、……は……っ」
泣き出しそうな声で、返事がある。元就はここから逃げ、国に帰る方法を考えるため、また眼を閉じて黙り込んだ。
考える時間はいくらでもあった。答えはあまりに簡単だった。考えているようなつもりで、見ないふりをしていたのだ。だから正面から見据えよう。考えよう。生きて、帰る方法を。
+++
相合元綱からの報が入ったのは、高松城まであと少しという時だった。元綱は一度だけであるが、反元就派毛利家家臣と意見を同じくしていた事が有る。だから元親にとっても、無条件で信用出来る相手というわけではなかった。ただ元綱が元就に反抗していた時間はとても短く、それ故に粛正を免れた面が有る。だから疑ってかかる必要もまた無かった。
元綱からの書によれば、元就は高松城より東の山中に捕らえられている、場所は特定しているが、敵の兵力が多く、一筋縄ではいきそうにもない。こちらは尼子、大内の残党を味方に付けたため、奇襲は出来るかもしれないが、意志疎通に問題が有り、元就を救出するだけの指示系統は維持出来ない可能性が有る……との事だ。全てを信用するなら、何か策が欲しいと言っているようだ。
家臣達が疑うように、元親もまた元綱の言葉の信頼性を考えたが、答えなど出ようはずもない。元綱の報以外に信憑性の高い報が有るわけでもない。元親はしばらく悩んだが、元綱の言葉を信じる事にした。こちらからは、元就が居るだろう場所の正確な位置を教えろ、作戦開始と共に狼煙を上げるので、そちらは敵兵をかく乱する為、山中より奇襲をかけて欲しい。あくまでかく乱が目的で、本体は海より上陸する、と。
+++
どうもポメラの変換機能が信用出来ない。
「ああ、元就様、御無事で……」
声の主は家臣の一人だった。何用か、と問えば、彼は答える。
「この砦は急造の物でございます。基礎から作ったわけではないのです。櫓等よりよほど簡易に作られている為、……この土を掘ると、下には殆ど何も無いのです。つまり、掘り進めば、外に出られるという事です」
元就は言われて、足元を見た。土間に近いとは思うが、年月が経ったわけでなく、よく踏み固めたわけでもない。確かに軽く小突いてやれば僅かに崩れた。しかしそうであっても、人が通るだけの穴を開けるのには長い時間と、根気が必要だろう。
「……無用ぞ。止めよ」
「は? しかし……」
「出ようと思えばいつでも出られる。問題は出た後の事だ。外には間違いなく兵も居る。彼らと生身で戦えるわけではないし、……こう見通しが悪くては、どちらに逃げるのが良いのかも判らぬ。しばし待て」
「では元就様、本当に術を会得しておられるのですか」
元就は特殊な技を持っている。それが何故得られたものなのか、元就にも判らない。ただ父も使っているのを見た事が有るから、どうやら血筋の物らしい。光に似た何かを作り出す事が出来る。それは確かな存在を持って、しばらくの間効力を発揮する。壁を作り出し、全てを遮断したり、またその壁を物に押しつける事で破壊したり。しかしそれらの技を繰り出せるという事は、隠していた。奥の手であるから、安易に使うべきではない。それに、未だ使いこなすほどには至らず、一度何かしら使ってしまうと、しばらくの間再度使う事は出来ない。
「使う事は出来る。だが、連続では無理だ。この壁を壊して外に出る事は出来る。だがその後で身を守る事は出来ない。……僅かな時間だが。その間に射殺されるかもしれぬ。今はまだ、賭けに出るわけにはな……」
「……ならば、私はやはり、穴を掘りましょう。少しでも元就様のご負担を軽く出来れば……」
「……」
そうまで言われては、元就も止める術を持たない。ざりざり、と僅かな音が響く。元就はただ黙って、自分も少し土を掻いた。すぐに指が痛くなる。穴が開く頃には、爪も無くなるだろうと思った。それでも、自力で脱出するなら、それ以外の方法は無い。元就はしばし考えて、また「止めろ」と命じた。
「は、しかし……」
「待て。必ず機会は訪れる。……その時まで、手は守っておけ。……少し、良いか」
「何なりと。私めでよろしいのならば……」
元就はしばらく考えてから、彼に問う。
「何故我に従う?」
「は?」
「何故我の下に居るのだ?」
「……」
「忌憚無く申せ。我はそれを求めておる」
「……は。それは、その……正直に申しませば、……私の生まれた地の主が、元就様だからであり……」
「……」
「しかし、それは最初の理由に過ぎませぬ。私は、……少なくとも私個人は、それ以外にも理由は持っておりまする」
「ほう、申してみよ」
彼はまた少しの間黙って、それから恐る恐るといった風に言う。
「それがその……も、元就様は、幼少のみぎりより、大殿や兄君を失われ……その心痛を考えますに、相当なものであろうと……。元就様も我等と同じ、人であるからには、その痛みを支えて差し上げたいと……」
「……」
「更に申し上げますれば、元就様はよく前線に赴き、自ら兵を率いて戦場を駆けておられ……、……も、申し訳ございませんが、元就様はかの長曾我部元親のような屈強な男というわけでなく、また武勇優れた将というわけでもなく……見た目や身体の作りという点から言えば、我等と同じか、また……失礼ながら、あるいは我らより劣るかもしれませぬ。そんな方が前線に駆けて行かれる。我等はそれを追わずにおれず、またそんな方を守らずにおれませぬ」
元就は静かに眉を寄せた。それではまるで……戦姫でも抱えているようなものではないか。男は死ぬ理由が無ければ戦えない。誰しも生きて帰りたいと願うのだから。死んでも構わないという何かがなくてはいけない。その何かとして度々祀り上げられるのが、神や、主や、そして最も安易なところで女の存在だ。妻の為、娘の為に戦う男は多い。そして時に、戦場に踊り出る、小生意気な女そのものを守る為に戦う。女を死なせてはならないと、男達は走り、戦う。それもまた一種の戦姫の形だ。
それと同じだと言われているようで、元就は少々不快だった。その沈黙を受け取って、彼はまた慌てたように付け足す。
「いえ、その……元就様は、我等の命を預けてしかるべき方だと、私は思っております。そんな方であれ、やはりお慕い出来るような方でなければ、後に続いたりは致しませぬ。ですから、我々は元就様をお助けしたいと、お守りしたいと思うから、貴方様に何処までも着いて参るのです。……やはり我々も、頂点に立ち、我等を見下ろし、指先で操るような主ならば、守りたいとは思いませぬ。……我々は元就様を信じているのです」
「……信じている?」
「はい。元就様は偽りの無い方ですから……」
「では何故、しきりに促すのだ? 我に四国を見限れと促すのは何故だ」
「は? ……その、……元就様、これは私の個人的な意見でありますから、他の者と同じとは限りませぬが……。我々はそのような事を望んでいるわけでは有りませぬ。我々は元就様の進む道を、共に歩むのみです。……もしそれを歪めようとしている者が居るように、……元就様がそのように感じられるなら、それは……」
「それは、なんだ」
「それは、その……元就様が、……道をお定めになられていないからではないか、と……」
元就は思わず壁を見た。彼の姿は当然見えない。声は次第に小さくなっていく。萎縮しているようだった。
「し、失礼ながら、元就様の有りようを見ておりますと、我々にはとても……とても、元就様が四国長曾我部を、信じているようには思えず……元就様が彼らに対して不満を抱いているように見えるから、下々もまた、彼らを信じる事は出来ないのではないかと……、………………我々は元就様を信じます。ですが、……元就様のお信じになられないものを、何故我々が、信じられると思われるのですか」
元就は信じていなかった。従いもしたし、共に過ごしもしながら、誰の事も信じたりはしなかった。元親の事も、また。
その事実が、部下達の不安を煽った。どうすればいいのか判らない。元就がどうするつもりか判らないから。だから彼らは尋ねた。元就様はどうするつもりなのかと。信じていないからには、いずれ袂を分かつのかと。
そしてそれを聞いて元就は、冷めた気持ちになるのだ。ああこの男も味方ではないのだと。
ああ。
我は、なんと愚かな。
元就は静かに目を閉じ、俯いた。なるほど、答えは見えてしまえば簡単だ。何もかも、元就の疑心暗鬼が原因だったのだと、今ようやく知る。確かに裏切り者は居た。内通者も居るだろう。だが、味方もまた多く居た。それらまで疑い、信じようとしなかった。主であり、慕っている元親の事でさえ。
元親。……元親に会いたいと思う理由を、今少し考えよう。信じていない相手に会いたいと思うのか。そんな筈がない。会いたいという個人的な感情は、相手に好意が有るからこそ、発生するものだ。……つまり、我は元親を好いているのだ。慕っている。心から。
だから会いたい。彼と共に有りたい。彼の為に戦いたい。彼の為になら死んでもいい。……けれど、彼と共に生きたい。行きたい。彼の目指している場所へ。……彼の、天下へ?
ああ。
矛盾だらけだったのは、元親だけではない。我もまた、……だから、元親はあれほど、我に忠告を……明智が覚悟を問うたのも、それが理由か? ……ああ、ああなんだ、そうか、そうか……。
元就は一人、考えを巡らせる。それをどう取ったのやら、部下は「も、元就様、お許しを……」と懇願に似た声を出す。元就は眼を開き、壁に向かって言う。
「よく聞け。我は長曾我部元親の家臣だ。そして我はその立場に何ら不服は無い。そなたらが我を信じ、慕っているように、我もまた、彼を信じ、慕っておる。彼の為に死ぬ事に、いささかの疑問も無い。……今までそれを明言しなかったのは、我の怠慢だ。だがそなたも信じてほしい。四国は我等の敵ではない。少なくとも、今は」
「……元就様……」
「しかし我は今まで、配下の者達にそれを伝えぬまま過ごした。恐らく今頃国は荒れておろう……恐らくな。疾く帰還しなければ……その為にも、死んではならぬ。そなたもだ。急がねばならぬが、焦っては命を落とす。生きて帰るぞ。良いな」
「……は、……は……っ」
泣き出しそうな声で、返事がある。元就はここから逃げ、国に帰る方法を考えるため、また眼を閉じて黙り込んだ。
考える時間はいくらでもあった。答えはあまりに簡単だった。考えているようなつもりで、見ないふりをしていたのだ。だから正面から見据えよう。考えよう。生きて、帰る方法を。
+++
相合元綱からの報が入ったのは、高松城まであと少しという時だった。元綱は一度だけであるが、反元就派毛利家家臣と意見を同じくしていた事が有る。だから元親にとっても、無条件で信用出来る相手というわけではなかった。ただ元綱が元就に反抗していた時間はとても短く、それ故に粛正を免れた面が有る。だから疑ってかかる必要もまた無かった。
元綱からの書によれば、元就は高松城より東の山中に捕らえられている、場所は特定しているが、敵の兵力が多く、一筋縄ではいきそうにもない。こちらは尼子、大内の残党を味方に付けたため、奇襲は出来るかもしれないが、意志疎通に問題が有り、元就を救出するだけの指示系統は維持出来ない可能性が有る……との事だ。全てを信用するなら、何か策が欲しいと言っているようだ。
家臣達が疑うように、元親もまた元綱の言葉の信頼性を考えたが、答えなど出ようはずもない。元綱の報以外に信憑性の高い報が有るわけでもない。元親はしばらく悩んだが、元綱の言葉を信じる事にした。こちらからは、元就が居るだろう場所の正確な位置を教えろ、作戦開始と共に狼煙を上げるので、そちらは敵兵をかく乱する為、山中より奇襲をかけて欲しい。あくまでかく乱が目的で、本体は海より上陸する、と。
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どうもポメラの変換機能が信用出来ない。
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