仕事がえらい忙しいです……なんやのん。
以下、SFねこの5
暗いです あと倫理的にあまり良くないかも
以下、SFねこの5
暗いです あと倫理的にあまり良くないかも
酷く歪な心を抱えて、彼はいつも嘆き、憤り、そして怒鳴りつけ、見下した。
「前の元就」は幼い頃から研究に明け暮れた、才児だったそうだ。成功の全てを頭脳で勝ち取っていた。だから、彼を蝕んだ病は、残酷な程に彼の人格を壊した。
原因不明。記憶がぽろぽろと零れ落ちて、見えるものが歪んで。聞こえない音が聞こえたり、見えないものが見えたり。いずれにしても、彼が今まで培ってきた全てが、じわじわと、しかし確実に消えていく。
彼は心を病んでいった。自分の存在価値だった物が、あっけなく失われていくのだから当然だ。伴侶だった「前の光秀」も介護に当たったが、彼の記憶はいつまでも零れ落ちて止まらない。だから、「前の光秀」は早々に手を打った。
元就を複製したのだ。そしてその行為そのものが、元就を傷付けた。
もう用無しと言われたのと、同じだった。
「クズ! 貴様はっ、こんな、こんな事も、判らぬのかっ!」
蹴り飛ばされ、罵られ。元就は「前の元就」を見た。能力テストの点数が、低かったというのが、彼の怒りの原因だった。
「何だその反抗的な眼は……貴様の、貴様の無能を棚に上げて、我を恨むとでも……? 貴様は我の複製、コピー、贋作、紛い物! それを自覚するがいい、貴様には我と同じになる以外に価値は無いのだ……!」
「毛利殿、落ち着いてください。5点貴方より低かっただけではありませんか」
「だけ? だけだと? 一問判らなかったという事だ! それは我より劣るという事だ! 我を継承し我の全てを奪うくせに、我より劣る! こんな馬鹿な話が有ってたまるか! 我の頭脳が正常なら貴様など貴様など今すぐたんぱく質に還元してくれるのに、うう、ああ、頭、頭が痛い……!」
「怒鳴るからですよ、ほら、落ち着いて下さい。今、鎮静剤をあげますからね」
「要らぬ、要らぬそんなもの、我は正常だ、我は正常な認識をしておる、しておる、本当だ、我はまだ使える、まだ、まだ……」
そうして「前の光秀」が強引に「前の元就」を連れて何処かに行く。しばらくすると、「光秀」だけが帰って来て、元就に微笑む。
「いつもすいませんね。あの人にとっては、貴方の存在はあまりに複雑で、ああいう形でしか接する事が出来ないのです」
「……」
「信じられないと思いますが、あの人にも正常な判断力が有り、学者として成功し、名声を受け、そして私に微笑んだりしてくれた時期も有るのです。優しい人なのですよ、本当は」
では、何故自分はこんな風に痛めつけられるのか。元就は聞かなかったが、「光秀」は答えた。
「これは産みの苦しみなのです。貴方を単なる世代交代と考えるなら、彼は用済みと思われたも同じ。完全なる存在の否定。それは彼にとって苦しい事でしょう。ただでさえ、記憶が失われる過程で、彼の価値が否定されているのですから。全てを否定されようとしている。少なくとも彼はそう感じているのです。それは辛い事です。そうではないと何度言ったところで、彼の心には容易に届かないし、届けようとした事自体、彼が忘れ去る事もしばしばです。悲しいですよ、あれほどの知性が病によって失われるのは。……まぁ貴方にしてみれば、言い訳にしか聞こえないでしょうが……」
「光秀」はしばらく黙って、それから静かに言う。
「まぁ、辛いでしょうが、受け入れてやって下さい。死に逝く者の断末魔は、聞き苦しいものです。そしてこれは気やすめですが、覚えておいて下さい。オリジナルはいつでもコピーを抹消出来る。それぐらいは今のあの人にも出来る。でもしないのです。その意味ぐらいは、汲み取ってやってください、良い意味でね」
元就もまた、彼らに「頭脳」という価値観を与えられているから、オリジナルの苦しみは理解出来ないものではなかった。苦労して得た知識、勝ち取った地位、何もかもが零れ落ちて無くなり、誰もが憐れんだ目を向けるようになる。考えただけで寒気がした。そこに残っているのは、自分ではないとさえ思う。自分に価値を与えているのは「知識」であり「名声」だから、それが無くなればただの肉と同じだ。
だからオリジナルの苦しみと、怒りと、嘆きのはけ口にされてしまっている事は理解出来る。ましてや、眼の前に正常な自分が立っているなら、羨ましくて、恨めしくて、たまらないだろう。それは判る。判るが、元就は決してオリジナルを愛さなかった。
オリジナルは日に日に病んでいき、何でも無い事で怒り、酷く暴れ、そしてその末に泣きじゃくるを繰り返した。これでは動物だ、と元就は冷めた目で彼を見ていた。理解する事は出来るが、同情は出来なかった。許す事も出来なかった。早く死ねばいいと、本気で思っていた。我がクズなら、貴様もクズだと、小さな背中に声も無く叫んだ。
ある日。
元就が研究に行き詰っていると、オリジナルがよろよろとラボへやって来た。大して歳も取っていないのに、肉体も衰え始めていた。尤も、このような症状はコロニーの中にいくらでも発生していたから、彼がとりわけ不幸というわけでもなかった。
普段は光秀が側に居るはずだから、彼だけが来た事に元就は驚いた。そして何を言うつもりなのか、と身構えたのに、彼はのろのろと側に有った椅子に腰かけると、何も言わずに元就を見る。
これはいよいよ何も判らなくなったのか、と元就がいぶかしんでいると、「何をしておる? 作業を続けよ」と声。
仕方なく彼に見られながら、データの解析をする。しかし一向に判らない。思い悩むあまりに、何も感じられなくなっていたらしい。気づけばすぐ側にオリジナルが立っていて、「どうした」と問う。
元就は少し悩んでから、問題点を説明した。データ上の効果と、実際の酵素の動きに差異が有る。理論上ではC1~C82の間に有効な酵素が有ると思われるが、どれもダメだ、と。オリジナルはしばらく考えてから、そっとコンピューターに触れる。のろのろとデータを眼で追い、時折ボタンを押して関数や資料を開いて比べる。酷く遅い作業で、元就はイラついたが、どうしようもなかった。ただ仕方なく、待つ。
「……これは我の予想だが」
「……」
「……有効な酵素はC36だ。根拠はまだ無いがな……」
「……?」
元就がオリジナルを見る。彼は眉を寄せて、額に手を当てている。
「どうにも公式が出てこない。出てこないし、誰の何と言う公式かも定かではない。確かに有る。それはそなたが探せ。何処かに有るはずだ。それを当てはめれば実験の基準が変わる。そうすればより実験の成功率が上がるだろう。酵素の中には有効な物も見つかるはずだ。だが現在の結果を見比べるに、恐らくC36だ。証拠も何も無いが」
「……」
「信じずともよい、我とて己が信じられぬ。だがな、仮にも我はそなたと同じ脳を持ち、そなたより長く生きた。経験則は時間でしか得られぬ……そなたには無い物だ。そして我の持っていた全ては、そなたに譲り渡された。我の勝っている点はまさにそれだけ、そなたより長生きをしたという、ただそれだけよ」
オリジナルは静かにため息を吐いて、そしてコンピューターから離れる。のろのろと歩くその背中が、揺れている。
「ようやく認める事が出来た。迷惑をかけたな。そなたはそなたの人生を生きるがいい。好きにしろ。我はそなたではないし、そなたも我ではないのだから……馬鹿な事だ、下らぬ事だ、最初からそうしていれば、何を我は、我は、さぁ帰ろう、帰って眠ろう。眠ればきっと楽になれる。静かな場所に行ける。外には海という物が有るそうだぞ。無限に満ちた水が揺れ続ける恐ろしい場所だ。だのに命は全てそこに帰るのだと、母星地球では言われていたそうだ。我らには最初から帰るべき場所が有るのだ。帰りたくないと思うのは傲慢だ、そうだろう、そうだ、そう、そうだ。帰ろう、帰ろう……」
オリジナルは独り言を呟きながら、再びエレベーターに乗り込み、消えて行った。
それが彼の生きている、最後の姿だった。
次に見た時、彼はカプセルの中で、光秀と共に穏やかな顔で死んでいた。
「なァ」
ぐい、と腹に重い物が乗って、元就は飛び起きた。思い出したくも無い事を延々と考えているうちに、眠ってしまったようだ。慌てて見ると、猫が腹に乗ろうとしている。
「ま、待て、待て、うぐぁ!」
押し潰されそうになって、元就は慌てて身を捩る。猫は不満そうに元就の顔を見ている。
「何を不満げな。そなたに乗られたら我はつぶれてしまうぞ。大きくなりよって……」
猫はいつのまにか元就と同じ程の背丈にまで成長してしまった。鳴き声が少し低くなり、まるで人のような声を出す。時々鳴いているのではなく、「なあ、」と声をかけられているのではないかと思うほどだ。
猫はそれでもじっと元就を見ている。何かと思って顔に触れると、僅かに濡れていた。ああ、泣いていたのかもしれない、と元就はようやく理解する。心配されているのだ。
「……心配無い。少し昔の事を思い出しただけだ。……」
猫の頭を撫でてやりながら、元就は小さくため息を吐いた。
「……思えばC36は、奴の遺品だ。奴の言葉の信頼性を検証していなければ、我は未だにC36と特定さえ出来ていないかもしれぬ……」
奴は最後まで我に勝っていたのだ。どんなに落ちぶれてもな。
元就が言っている事が判らないのか、猫は僅かに首を傾げる。元就は苦笑して、その頬を撫でた。
「C36の効能を研究し、その結果を得る事。それが奴への手向けとなり、そして我が奴より優れている証になる。……結局我も、奴と変わらぬな。そうして頭脳を振り絞って手に入れる名声以外に、我には何の価値も無いのだ……」
「なァ」
「……そなたには何の価値が有ると思う? 自分は何のために生きていると思う」
「なァ?」
「……そうだな、難しかったな。……そなた、今幸せか? 我はそうでもないがな……」
C36が使えるようになれば、我の全てが認められれば、我はきっとその時、幸せになれるのだ。
猫は首を傾げたが、やがて満面の笑みを浮かべて、元就に抱きついた。
そうして猫に甘えられている間、元就の表情は穏やかだ。ただ、その事を猫以外誰も知らないだけだった。
+++
こういう話は軽々しく語っちゃいけない気がするので明記はしない方向で……
「前の元就」は幼い頃から研究に明け暮れた、才児だったそうだ。成功の全てを頭脳で勝ち取っていた。だから、彼を蝕んだ病は、残酷な程に彼の人格を壊した。
原因不明。記憶がぽろぽろと零れ落ちて、見えるものが歪んで。聞こえない音が聞こえたり、見えないものが見えたり。いずれにしても、彼が今まで培ってきた全てが、じわじわと、しかし確実に消えていく。
彼は心を病んでいった。自分の存在価値だった物が、あっけなく失われていくのだから当然だ。伴侶だった「前の光秀」も介護に当たったが、彼の記憶はいつまでも零れ落ちて止まらない。だから、「前の光秀」は早々に手を打った。
元就を複製したのだ。そしてその行為そのものが、元就を傷付けた。
もう用無しと言われたのと、同じだった。
「クズ! 貴様はっ、こんな、こんな事も、判らぬのかっ!」
蹴り飛ばされ、罵られ。元就は「前の元就」を見た。能力テストの点数が、低かったというのが、彼の怒りの原因だった。
「何だその反抗的な眼は……貴様の、貴様の無能を棚に上げて、我を恨むとでも……? 貴様は我の複製、コピー、贋作、紛い物! それを自覚するがいい、貴様には我と同じになる以外に価値は無いのだ……!」
「毛利殿、落ち着いてください。5点貴方より低かっただけではありませんか」
「だけ? だけだと? 一問判らなかったという事だ! それは我より劣るという事だ! 我を継承し我の全てを奪うくせに、我より劣る! こんな馬鹿な話が有ってたまるか! 我の頭脳が正常なら貴様など貴様など今すぐたんぱく質に還元してくれるのに、うう、ああ、頭、頭が痛い……!」
「怒鳴るからですよ、ほら、落ち着いて下さい。今、鎮静剤をあげますからね」
「要らぬ、要らぬそんなもの、我は正常だ、我は正常な認識をしておる、しておる、本当だ、我はまだ使える、まだ、まだ……」
そうして「前の光秀」が強引に「前の元就」を連れて何処かに行く。しばらくすると、「光秀」だけが帰って来て、元就に微笑む。
「いつもすいませんね。あの人にとっては、貴方の存在はあまりに複雑で、ああいう形でしか接する事が出来ないのです」
「……」
「信じられないと思いますが、あの人にも正常な判断力が有り、学者として成功し、名声を受け、そして私に微笑んだりしてくれた時期も有るのです。優しい人なのですよ、本当は」
では、何故自分はこんな風に痛めつけられるのか。元就は聞かなかったが、「光秀」は答えた。
「これは産みの苦しみなのです。貴方を単なる世代交代と考えるなら、彼は用済みと思われたも同じ。完全なる存在の否定。それは彼にとって苦しい事でしょう。ただでさえ、記憶が失われる過程で、彼の価値が否定されているのですから。全てを否定されようとしている。少なくとも彼はそう感じているのです。それは辛い事です。そうではないと何度言ったところで、彼の心には容易に届かないし、届けようとした事自体、彼が忘れ去る事もしばしばです。悲しいですよ、あれほどの知性が病によって失われるのは。……まぁ貴方にしてみれば、言い訳にしか聞こえないでしょうが……」
「光秀」はしばらく黙って、それから静かに言う。
「まぁ、辛いでしょうが、受け入れてやって下さい。死に逝く者の断末魔は、聞き苦しいものです。そしてこれは気やすめですが、覚えておいて下さい。オリジナルはいつでもコピーを抹消出来る。それぐらいは今のあの人にも出来る。でもしないのです。その意味ぐらいは、汲み取ってやってください、良い意味でね」
元就もまた、彼らに「頭脳」という価値観を与えられているから、オリジナルの苦しみは理解出来ないものではなかった。苦労して得た知識、勝ち取った地位、何もかもが零れ落ちて無くなり、誰もが憐れんだ目を向けるようになる。考えただけで寒気がした。そこに残っているのは、自分ではないとさえ思う。自分に価値を与えているのは「知識」であり「名声」だから、それが無くなればただの肉と同じだ。
だからオリジナルの苦しみと、怒りと、嘆きのはけ口にされてしまっている事は理解出来る。ましてや、眼の前に正常な自分が立っているなら、羨ましくて、恨めしくて、たまらないだろう。それは判る。判るが、元就は決してオリジナルを愛さなかった。
オリジナルは日に日に病んでいき、何でも無い事で怒り、酷く暴れ、そしてその末に泣きじゃくるを繰り返した。これでは動物だ、と元就は冷めた目で彼を見ていた。理解する事は出来るが、同情は出来なかった。許す事も出来なかった。早く死ねばいいと、本気で思っていた。我がクズなら、貴様もクズだと、小さな背中に声も無く叫んだ。
ある日。
元就が研究に行き詰っていると、オリジナルがよろよろとラボへやって来た。大して歳も取っていないのに、肉体も衰え始めていた。尤も、このような症状はコロニーの中にいくらでも発生していたから、彼がとりわけ不幸というわけでもなかった。
普段は光秀が側に居るはずだから、彼だけが来た事に元就は驚いた。そして何を言うつもりなのか、と身構えたのに、彼はのろのろと側に有った椅子に腰かけると、何も言わずに元就を見る。
これはいよいよ何も判らなくなったのか、と元就がいぶかしんでいると、「何をしておる? 作業を続けよ」と声。
仕方なく彼に見られながら、データの解析をする。しかし一向に判らない。思い悩むあまりに、何も感じられなくなっていたらしい。気づけばすぐ側にオリジナルが立っていて、「どうした」と問う。
元就は少し悩んでから、問題点を説明した。データ上の効果と、実際の酵素の動きに差異が有る。理論上ではC1~C82の間に有効な酵素が有ると思われるが、どれもダメだ、と。オリジナルはしばらく考えてから、そっとコンピューターに触れる。のろのろとデータを眼で追い、時折ボタンを押して関数や資料を開いて比べる。酷く遅い作業で、元就はイラついたが、どうしようもなかった。ただ仕方なく、待つ。
「……これは我の予想だが」
「……」
「……有効な酵素はC36だ。根拠はまだ無いがな……」
「……?」
元就がオリジナルを見る。彼は眉を寄せて、額に手を当てている。
「どうにも公式が出てこない。出てこないし、誰の何と言う公式かも定かではない。確かに有る。それはそなたが探せ。何処かに有るはずだ。それを当てはめれば実験の基準が変わる。そうすればより実験の成功率が上がるだろう。酵素の中には有効な物も見つかるはずだ。だが現在の結果を見比べるに、恐らくC36だ。証拠も何も無いが」
「……」
「信じずともよい、我とて己が信じられぬ。だがな、仮にも我はそなたと同じ脳を持ち、そなたより長く生きた。経験則は時間でしか得られぬ……そなたには無い物だ。そして我の持っていた全ては、そなたに譲り渡された。我の勝っている点はまさにそれだけ、そなたより長生きをしたという、ただそれだけよ」
オリジナルは静かにため息を吐いて、そしてコンピューターから離れる。のろのろと歩くその背中が、揺れている。
「ようやく認める事が出来た。迷惑をかけたな。そなたはそなたの人生を生きるがいい。好きにしろ。我はそなたではないし、そなたも我ではないのだから……馬鹿な事だ、下らぬ事だ、最初からそうしていれば、何を我は、我は、さぁ帰ろう、帰って眠ろう。眠ればきっと楽になれる。静かな場所に行ける。外には海という物が有るそうだぞ。無限に満ちた水が揺れ続ける恐ろしい場所だ。だのに命は全てそこに帰るのだと、母星地球では言われていたそうだ。我らには最初から帰るべき場所が有るのだ。帰りたくないと思うのは傲慢だ、そうだろう、そうだ、そう、そうだ。帰ろう、帰ろう……」
オリジナルは独り言を呟きながら、再びエレベーターに乗り込み、消えて行った。
それが彼の生きている、最後の姿だった。
次に見た時、彼はカプセルの中で、光秀と共に穏やかな顔で死んでいた。
「なァ」
ぐい、と腹に重い物が乗って、元就は飛び起きた。思い出したくも無い事を延々と考えているうちに、眠ってしまったようだ。慌てて見ると、猫が腹に乗ろうとしている。
「ま、待て、待て、うぐぁ!」
押し潰されそうになって、元就は慌てて身を捩る。猫は不満そうに元就の顔を見ている。
「何を不満げな。そなたに乗られたら我はつぶれてしまうぞ。大きくなりよって……」
猫はいつのまにか元就と同じ程の背丈にまで成長してしまった。鳴き声が少し低くなり、まるで人のような声を出す。時々鳴いているのではなく、「なあ、」と声をかけられているのではないかと思うほどだ。
猫はそれでもじっと元就を見ている。何かと思って顔に触れると、僅かに濡れていた。ああ、泣いていたのかもしれない、と元就はようやく理解する。心配されているのだ。
「……心配無い。少し昔の事を思い出しただけだ。……」
猫の頭を撫でてやりながら、元就は小さくため息を吐いた。
「……思えばC36は、奴の遺品だ。奴の言葉の信頼性を検証していなければ、我は未だにC36と特定さえ出来ていないかもしれぬ……」
奴は最後まで我に勝っていたのだ。どんなに落ちぶれてもな。
元就が言っている事が判らないのか、猫は僅かに首を傾げる。元就は苦笑して、その頬を撫でた。
「C36の効能を研究し、その結果を得る事。それが奴への手向けとなり、そして我が奴より優れている証になる。……結局我も、奴と変わらぬな。そうして頭脳を振り絞って手に入れる名声以外に、我には何の価値も無いのだ……」
「なァ」
「……そなたには何の価値が有ると思う? 自分は何のために生きていると思う」
「なァ?」
「……そうだな、難しかったな。……そなた、今幸せか? 我はそうでもないがな……」
C36が使えるようになれば、我の全てが認められれば、我はきっとその時、幸せになれるのだ。
猫は首を傾げたが、やがて満面の笑みを浮かべて、元就に抱きついた。
そうして猫に甘えられている間、元就の表情は穏やかだ。ただ、その事を猫以外誰も知らないだけだった。
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