[PR] 賃貸住宅 オクラサラダボウル 【美流】ルゼとトウマ 16-1 忍者ブログ
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めでぃのくの日記
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2011-04-30 (Sat)
 ついでなので何気に書いていたルゼとトウマの続きとか。
 16の話は色々説明すっ飛ばしますが、そのへんの理由は
 本来ルゼとトウマは、ミュカという女の子のお話しの
 脇役ABに過ぎなかったから、ですw


 以下、本文

「トウマ、本当にこの村があの有名なリュンカなのかい? 私にはさびれた農村にしか見えないけれど」

 馬車の御者台。隣に腰掛け、しばらく景色を眺めていたルゼが、小声で尋ねて来る。トウマも小さく苦笑して、手綱を操りながら答えた。

「その通りです。リュンカはドラゴニカ教の聖地であり、ドラゴンが卵を産むと言われている山の麓に有ります。そして幻の生物と呼ばれた、角狼が生息する貴重な地域でも有りますが。……しかしながら、ここは今尚、ただの農村です」

 ルゼはその言葉に首を傾げていた。周りの景色は確かに農村そのものだ。山に囲まれた盆地で、木で作られた小さな家が乱立し、畑や牧場等が広がっている。店らしい店も特に見当たらず、また聖地と呼ばれる割にそれらしい観光案内も、大きな宿も無い。少々変わっていると言えば、遥かにそびえ立つ白銀の竜の山と、その一部、まるで竜の巣のような形をした崖。そしてそこから流れ落ちる滝ぐらいだ。崖はリュンカの聖なる高台、滝は竜の尻尾と呼ばれている。

 リュンカが農村のままである理由の一つには、ドラゴニカ教の聖地が既にいくつも存在している事がある。王都のドラゴニカ教総本山でもある、赤の神殿、またドラゴンが実際に住むと伝えられている、大山脈の麓に築かれた竜の玉座殿、ドラゴンがこの地に命をもたらしたという神話を、彫刻で作り上げた砂漠の遺跡シェガンダなどが有名で、その他の物は聖地と呼ばれこそすれ、参拝する者もあまり居ないのが現状だ。

 また角狼の生息地と判明したとはいえ、角狼は森の奥深くにひっそりと生きており、見られるようなものでもない。だからこの村は知名度の割に、人が訪れる事も少なく、またそれを受け入れる用意もあまりしていない。ルゼは少々落胆したようだが、すぐに機嫌を直した。

「でも伝説の多い村ってのは事実だものね。一段落したら色々見たり聞いたりしたいよ。角狼は本当に賢いのか、とかね」

 それに対してトウマも僅かに微笑んだ。そういうところが、好ましいと思う。何でも不満ばかり言っていた主人達とは大違いだ。それが嬉しい。けれど、時折不安にもなる。ルゼはそうやって明るく、不満の無いようなフリをしているだけかもしれない、と。それが心配になる。そういう事自体、トウマは初めてでどうしていいか判らない。胸が痛むが、それが何故だか判らないのだ。

 リュンカはしかしこの辺りの集落としては大きい村でもあり、物流はそれなりに有った。村の奥には行商用のコテージがいくつか用意されている。きちんと中は店が出せるよう、棚やテーブル等も置いてある。ルゼとトウマはコテージの一つを借りて、いそいそと荷物を運び下ろした。

 その間にも、村の者達が様子を見に来た。服飾の行商だと聞くと、彼らは一様に少々落胆し、それから糸や裁縫道具等は売っているかと尋ねた。備蓄程度しかなく、販売は出来ないと言うと、彼らはすぐに去ってしまう。

「服は売れないかもしれないね。……糸や裁縫道具、か。そういうのが何より大切な地域も有るんだなあ……」

 ルゼは作業をしながらポツリと呟いた。実際、店を開いたものの、客は全く来なかった。ルゼもすぐに諦めて、店を開くだけ開いて、スケッチやあるいはなにかのデザインをしたり、ずっと考え事をしたりして過ごした。



 クノー、という中年の男が訪ねて来たのは、日も傾きかけた頃だ。痩せた長身に短い黒の髪。顔には少々、皺が浮かび始めていたが、若い頃はそれなりの顔立ちだったろう。低く静かな声で、彼はルゼに話しかけた。こんな村でも洋裁の店ぐらいは有って、クノーはそこの店主をしていた。

 同業者として商品を見てみたいと言うのにも、ルゼは嫌な顔一つしなかった。アイデアを盗まれるのでは、とトウマは心配したが、ルゼ曰く、盗まれるような物なら放っておけばいいのさ、だそうだ。トウマにはわけが判らなかった。

 クノーはルゼの作った服やデザイン画に大層感激して、あれこれと話を聞いてきた。やれ糸の選び方、布の選び方に美しいシルエットの出し方。ルゼは一つ一つ丁寧に答えていた。トウマが心配になる程、丁寧に。

 すっかり日も落ちた頃、クノーは長話をした事を詫び、そしてまた来ても良いかと尋ねた。ルゼはもちろんと頷き、クノーは嬉しそうに帰って行った。

「よろしいのですか、あのように何でも話されて」

 トウマが問うと、ルゼは「かまわないさ」と微笑んだ。

「聞いただけで何とかなるほど、世の中は甘くないからね。彼が私から聞いた事で儲ける事が出来るなら、それもまた彼の実力って事だよ」

「そんなもの、ですか?」

「そうだよ。だからどんな形であれ、成功した者は賞賛されるのさ。皆、成功はしたくても出来ないのだからね」

 だからこそ、人は妬まずには居られないのさ。ルゼはそう呟いて、少し俯いた。彼の左膝は、嫉妬に駆られた同業者に壊されたと聞いている。トウマは僅かに眉を寄せた。相変わらず、ルゼはそれらの負の感情を許そうとするような傾向が有る。

「ならば、だからこそ、余計な事で荒立てないようとしないのが、人として正しい姿でしょう。隣の子供が持っている玩具を羨ましがるのは結構、しかし子供のように泣き喚いて奪おうとし、挙句に傷付ける等、論外です。それを制御するのが、人とか大人とかそういうものでしょう」

「そう簡単にはいかないさ。私にだってそういう感情は有るしね」

「ルゼ様に、ですか?」

「人が人として生きて行く以上、皆不完全なら尚の事、聖人君子なんかでは居られないものさ」

 さあ、お夕飯の時間だ。ルゼはそう言って、話を打ち切った。トウマは釈然としなかったが、どうにもしようがなかった。夕飯の準備をしながら、ただ考える。ルゼが聖人君子で無いとしたら何なのか。彼が持っている、制御出来ない感情とは何なのか。

 きっとそれは、シャニア家、そして彼の主だったカナンとやらに起因するのだろう、とトウマは漠然と思った。ルゼの全てを、トウマは知らない。そしてルゼの全てを、カナンはきっと知っている。それが少々不愉快で、トウマは眉を寄せた。

 ルゼにとってはしょせん、自分はただの仕事づきあいの護衛なのだと思うと、とても気持ちが荒れた。




 翌日も結局は物など売れなかったが、ルゼはクノーという話し相手をとても気に入っていた。クノーもルゼの話を聞きたがったし、ルゼも本当に楽しそうに仕事の話をした。トウマは服飾の事は良く判らない。だからただ聞いているだけだったが、それでも多少は理解出来る事もあった。

 見せる縫い方と、実用的な縫い方は違うと言う事や、糸が隠れるように上手く縫う方法が有るという事。ルゼはデザイナーでもあったし、自ら裁縫を出来る人間でもある。

「シャニアの御屋敷に居た頃は、あらゆる家事を女給達と一緒にしていたからね。仕立てが特に楽しかった。だからカナン様も、私がこの道に進む事を望んだんだろうね」

 そう言いながら微笑むルゼの指先は、器用に針を操る。トウマの無骨な指では、そんな事は出来ない。だから、美しいと思う。自分は人を殴るか、掴み上げるか、家事と言えば調理しかしていないし、それだって料理というよりは食うための手順といったふうで、せいぜい芋の皮を剥くぐらいしか上手には出来ない。それもあって、自分と違うルゼを特別だと思う。

 そして少々、クノーと盛り上がっているルゼが、気にくわない。

 +++

 そろそろイライラしっぱなしのトウマさんの頭髪が心配です

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