ちょっと悩んだんですけど、一応こっちに置いてみます。
なんだかんだ不安なんで、出来たらサイトは更新したくないんですよね……
という事で。
・9時間9人9の扉の二次創作
・72ほのぼの?
・2が根暗でベタベタの予定
な短文のその1です。ネタバレ満載です。
なんだかんだ不安なんで、出来たらサイトは更新したくないんですよね……
という事で。
・9時間9人9の扉の二次創作
・72ほのぼの?
・2が根暗でベタベタの予定
な短文のその1です。ネタバレ満載です。
振動は徐々に激しく、大きくなり、彼にもその船が傾きかけているという事を感じられるようになっていた。
彼は螺旋階段を駆け上がっている。長い長いそれの先に、何が待ち受けているのか、彼にはまだ判らない。ただ今居るこの船が、沈みかけている事は判る。だから彼は急いでいた。
彼の眼の前には、少年の後ろ姿が有る。ライト、と呼ばれていた。あまりしっかりと動けているから最初気付かなかったが、どうやら眼が見えていないらしい。それにしては沢山の事を不自由無くやっている、とは思う。階段を駆け登るという行為にも、それほど手間取っている様子が無い。
ただ、船の揺れは増し、傾き始めている。少々登るペースが下がって来ていた。だから彼は焦り始めている。焦れば焦るほど、足がもつれる。そんなライトの後ろ姿を見ながら、彼はいつ手を差し伸べるべきか、悩んでいた。
手助け、というのは難しい。自分の手で何かをしようとしている人間に、手を出すのは基本的に失礼な事だ。もはやライトを抱えて走った方が早いと、はっきり判っている。だがそうすると、自尊心を傷つけてしまうだろう。
彼は長い間悩んでいたが、ついにライトが足を踏み外して、転んでしまった。だからそのタイミングで、彼の事を抱え上げる。中学生ぐらいの人間だから、そうして子供のように扱われるのも嫌だろうな、と思いながら、ライトに言う。
「悪ぃな、このままじゃ間に合わないかもしれない。掴まってろ!」
ライトは困惑した様子だったが、すぐにぎゅうとしがみ付いてきた。それを抱えて、螺旋階段を全力で登る。その先に希望が有るかどうか、彼にも判らなかった。流石に人を抱えての階段はきつく、脚が悲鳴を上げた。が、堪えて登りきる。
出口では葵と茜が待っていた。さらにその先にノナが居る。
「早く! こっち!」
ノナが手を振り、走り始める。後を追うと、先に行かせた子供達が、脱出ボートに乗って待っていた。
どういうゲームが行われていたのか、彼も少しは聞いていた。だから彼らが待っていてくれた事に、感謝すると共に驚いている。まだ子供だと言うのに、彼らは立派だ。この極限状態を耐え抜いて、そして互いに信頼し合っている。そして全員で生き残る事が出来た。
それに比べて、このゲームを行った大人達の、なんと卑劣な事。刑事として、一人の人間として嫌悪感を覚えた。必ず、必ずその連中を捕まえて、相応の罪を問うてやる。
そう考えながら走っていたから、彼はライトの小さな声に気付かなかった。
もう10年も前の話である。
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
扉を開けて出て来たライトを見て、セブンはまた顔を顰める事になった。前より痩せたんじゃあないか、と会う度に言っている気がする。その度に、そんな事はないよと返されるのが常だ。相変わらずライトの顔色は優れないし、歳よりも随分と老けて見えた。しかも身長が馬鹿に高いものだから、尚更こけて見えるのだ。セブンはしばらく考えて、「よう」とそれだけ言った。
「じゃあ来てすぐで悪いんだけど、早速頼めるかな」
ライトは特に気にした様子も無く、セブンを家に招き入れる。相変わらず、物はあまりない家だ。戸棚類は全て閉まっているし、小物などが殆ど外に出されていない。家具は直線的に置かれていて、なんだか妙な感じだ。
ライトは少し前に、このマンションへ引っ越した。一人暮らし、という事に四葉もその家族も抵抗したらしいが、ライトはいずれそうなるのだから、と押し切った。その時も手伝いに来たが、今回は模様替えと、客間の整備をセブンが手伝いに来た形になる。
「こういう力仕事はやっぱり、僕には少しね。それに家族を呼ぶと、やっぱり実家に戻れって言われそうで……」
ライトはそう言いながら、客間に案内する。客間はまだ家具がきちんと並んでいない。物によっては、梱包されたままで放ってある。その隙間にベッドが一つ出されていた。
引っ越しした当初、客間は自分で地道になんとかするから、とライトは言っていた。だが少しも変わった様子が無い。やはり眼が見えないのに家具の設置というのは、苦労が多過ぎたらしい。そのうち放り出してしまったようだが、今回ライトがセブンを呼んでまでなんとかしようと思ったのは、どうやら四葉のせいらしい。
彼ら兄妹には不思議な繋がりが有って、それを形態形成場と呼ぶのかどうかは判らないが、時々シンクロして相手の行動が読める、らしい。特に四葉の行動をライトが読んでいるようだ。彼の直感は、そう遠くない未来、四葉が無理矢理部屋に押し入ってくると告げていた。
「その時こんな有様じゃあね。示しがつかない。という事で、セブン、手伝いを頼むよ」
「そりゃあまぁ、いいけどよ……お前、なんだってそんなに一人暮らしにこだわるんだ? 実家に戻ってもいいだろ、一人で暮らすのは事実辛いんだからよ」
「うん? 僕は一人暮らしがしたいわけじゃあないよ。結果的にそうなるだろうから、今から練習しておきたいだけ。別に一人で居たいわけじゃあない」
客間に入りながら、ライトは言う。「何から手をつけようかな」と腕を組んでいる彼に、セブンは尚も尋ねた。
「なら別に今じゃなくてもいいだろうが。何か無理な事が有るなら、家族にも相談しろよ。心配してるぜ、きっと」
「うん、だろうね。でも若い間に苦労した方が、後で修正が出来るじゃあないか。今回の事で、僕は最初の設置は全部しておかなきゃあ駄目だって判ったよ。家族が居なくなってからではどうしようもないし……」
「だから、お前何で、自分以外の人間が居なくなる前提で話してるんだ?」
セブンが眉を寄せると、ライトはきょとんとした顔でセブンを見る。そうした表情の時、ライトは歳よりも随分小さな子供のようにも見えた。
「だって……そうじゃあないか。僕にはハンデが有る。事実としてね。卑下じゃあない。僕は自分のハンデで家族の暮らしを縛るのにはうんざりなんだ。四葉はいずれいい旦那様を見つけるだろうし、家族にも彼らの幸せを優先してほしい。僕が居るとどうしても彼らは僕に構ってしまうだろう? 四葉なんて良い例だよ。まだ彼氏も出来ないなんて……」
いや、それはたぶん、強烈なブラコンのせいだとは思うけどよ。セブンはそう思ったが、言わないでおいた。
「それで僕が彼らの邪魔をしなかったら、彼らは相応の暮らしを始めるわけだろう。そうしたら、僕は彼らに構われなくなる。僕は僕で、たぶんこのまま恋人とかも出来ずに一生を終えるだろうから、最終的にずっと一人だし。その時に苦労するぐらいなら、今したほうがましだろう? 今なら家族も生きているし、セブンの言うとおり本当に困ったら呼び出せる。それにセブンもこうして来てくれる。でも、……10年、20年経ったらどう? その時もセブンは、僕の部屋を片付けてくれる?」
セブンは少しだけ考える。今自分は46歳で、10年後は56歳、20年後には66歳……ああ、なるほど、と納得した。一方でニルスの方は35歳、45歳。まだまだ人生は長い。だのに彼の生き方は既に排他的だ。今後知人が増える可能性は少ない。そうなればライトは自動的に取り残される。その事を言っているのだ。
随分とネガティブな思考だな、とセブンは思いながら、ライトの頭を撫でてやる。セブン? と怪訝な顔をする彼に、言ってやる。
「心配すんな。足腰が立つ間は、お前の事も面倒見てやるよ。俺がダメなら、俺のダチにだって、知り合いにだって声はかけられる。人間は忙しいが、一人ぐらいに構えないほど忙しい奴ぁ、そうはいねぇ。暗い事ばっかり考えてないで、お前もその幸せとやら掴む努力しなけりゃあな」
「……」
ライトは返事をしないまま、曖昧に微笑んで、また家具の方へと向き直った。セブンもそれ以上言わず、床の梱包に手を伸ばした。目下、部屋の片づけが一番の問題である。なにしろ、今日はこの客間に泊まる予定なのだから。
+++
ライトさんは気にしてない気にしてないって一々言うけど、
そういうところが気にしてると思うから、ほんとは暗い人なんだと思う
彼は螺旋階段を駆け上がっている。長い長いそれの先に、何が待ち受けているのか、彼にはまだ判らない。ただ今居るこの船が、沈みかけている事は判る。だから彼は急いでいた。
彼の眼の前には、少年の後ろ姿が有る。ライト、と呼ばれていた。あまりしっかりと動けているから最初気付かなかったが、どうやら眼が見えていないらしい。それにしては沢山の事を不自由無くやっている、とは思う。階段を駆け登るという行為にも、それほど手間取っている様子が無い。
ただ、船の揺れは増し、傾き始めている。少々登るペースが下がって来ていた。だから彼は焦り始めている。焦れば焦るほど、足がもつれる。そんなライトの後ろ姿を見ながら、彼はいつ手を差し伸べるべきか、悩んでいた。
手助け、というのは難しい。自分の手で何かをしようとしている人間に、手を出すのは基本的に失礼な事だ。もはやライトを抱えて走った方が早いと、はっきり判っている。だがそうすると、自尊心を傷つけてしまうだろう。
彼は長い間悩んでいたが、ついにライトが足を踏み外して、転んでしまった。だからそのタイミングで、彼の事を抱え上げる。中学生ぐらいの人間だから、そうして子供のように扱われるのも嫌だろうな、と思いながら、ライトに言う。
「悪ぃな、このままじゃ間に合わないかもしれない。掴まってろ!」
ライトは困惑した様子だったが、すぐにぎゅうとしがみ付いてきた。それを抱えて、螺旋階段を全力で登る。その先に希望が有るかどうか、彼にも判らなかった。流石に人を抱えての階段はきつく、脚が悲鳴を上げた。が、堪えて登りきる。
出口では葵と茜が待っていた。さらにその先にノナが居る。
「早く! こっち!」
ノナが手を振り、走り始める。後を追うと、先に行かせた子供達が、脱出ボートに乗って待っていた。
どういうゲームが行われていたのか、彼も少しは聞いていた。だから彼らが待っていてくれた事に、感謝すると共に驚いている。まだ子供だと言うのに、彼らは立派だ。この極限状態を耐え抜いて、そして互いに信頼し合っている。そして全員で生き残る事が出来た。
それに比べて、このゲームを行った大人達の、なんと卑劣な事。刑事として、一人の人間として嫌悪感を覚えた。必ず、必ずその連中を捕まえて、相応の罪を問うてやる。
そう考えながら走っていたから、彼はライトの小さな声に気付かなかった。
もう10年も前の話である。
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
扉を開けて出て来たライトを見て、セブンはまた顔を顰める事になった。前より痩せたんじゃあないか、と会う度に言っている気がする。その度に、そんな事はないよと返されるのが常だ。相変わらずライトの顔色は優れないし、歳よりも随分と老けて見えた。しかも身長が馬鹿に高いものだから、尚更こけて見えるのだ。セブンはしばらく考えて、「よう」とそれだけ言った。
「じゃあ来てすぐで悪いんだけど、早速頼めるかな」
ライトは特に気にした様子も無く、セブンを家に招き入れる。相変わらず、物はあまりない家だ。戸棚類は全て閉まっているし、小物などが殆ど外に出されていない。家具は直線的に置かれていて、なんだか妙な感じだ。
ライトは少し前に、このマンションへ引っ越した。一人暮らし、という事に四葉もその家族も抵抗したらしいが、ライトはいずれそうなるのだから、と押し切った。その時も手伝いに来たが、今回は模様替えと、客間の整備をセブンが手伝いに来た形になる。
「こういう力仕事はやっぱり、僕には少しね。それに家族を呼ぶと、やっぱり実家に戻れって言われそうで……」
ライトはそう言いながら、客間に案内する。客間はまだ家具がきちんと並んでいない。物によっては、梱包されたままで放ってある。その隙間にベッドが一つ出されていた。
引っ越しした当初、客間は自分で地道になんとかするから、とライトは言っていた。だが少しも変わった様子が無い。やはり眼が見えないのに家具の設置というのは、苦労が多過ぎたらしい。そのうち放り出してしまったようだが、今回ライトがセブンを呼んでまでなんとかしようと思ったのは、どうやら四葉のせいらしい。
彼ら兄妹には不思議な繋がりが有って、それを形態形成場と呼ぶのかどうかは判らないが、時々シンクロして相手の行動が読める、らしい。特に四葉の行動をライトが読んでいるようだ。彼の直感は、そう遠くない未来、四葉が無理矢理部屋に押し入ってくると告げていた。
「その時こんな有様じゃあね。示しがつかない。という事で、セブン、手伝いを頼むよ」
「そりゃあまぁ、いいけどよ……お前、なんだってそんなに一人暮らしにこだわるんだ? 実家に戻ってもいいだろ、一人で暮らすのは事実辛いんだからよ」
「うん? 僕は一人暮らしがしたいわけじゃあないよ。結果的にそうなるだろうから、今から練習しておきたいだけ。別に一人で居たいわけじゃあない」
客間に入りながら、ライトは言う。「何から手をつけようかな」と腕を組んでいる彼に、セブンは尚も尋ねた。
「なら別に今じゃなくてもいいだろうが。何か無理な事が有るなら、家族にも相談しろよ。心配してるぜ、きっと」
「うん、だろうね。でも若い間に苦労した方が、後で修正が出来るじゃあないか。今回の事で、僕は最初の設置は全部しておかなきゃあ駄目だって判ったよ。家族が居なくなってからではどうしようもないし……」
「だから、お前何で、自分以外の人間が居なくなる前提で話してるんだ?」
セブンが眉を寄せると、ライトはきょとんとした顔でセブンを見る。そうした表情の時、ライトは歳よりも随分小さな子供のようにも見えた。
「だって……そうじゃあないか。僕にはハンデが有る。事実としてね。卑下じゃあない。僕は自分のハンデで家族の暮らしを縛るのにはうんざりなんだ。四葉はいずれいい旦那様を見つけるだろうし、家族にも彼らの幸せを優先してほしい。僕が居るとどうしても彼らは僕に構ってしまうだろう? 四葉なんて良い例だよ。まだ彼氏も出来ないなんて……」
いや、それはたぶん、強烈なブラコンのせいだとは思うけどよ。セブンはそう思ったが、言わないでおいた。
「それで僕が彼らの邪魔をしなかったら、彼らは相応の暮らしを始めるわけだろう。そうしたら、僕は彼らに構われなくなる。僕は僕で、たぶんこのまま恋人とかも出来ずに一生を終えるだろうから、最終的にずっと一人だし。その時に苦労するぐらいなら、今したほうがましだろう? 今なら家族も生きているし、セブンの言うとおり本当に困ったら呼び出せる。それにセブンもこうして来てくれる。でも、……10年、20年経ったらどう? その時もセブンは、僕の部屋を片付けてくれる?」
セブンは少しだけ考える。今自分は46歳で、10年後は56歳、20年後には66歳……ああ、なるほど、と納得した。一方でニルスの方は35歳、45歳。まだまだ人生は長い。だのに彼の生き方は既に排他的だ。今後知人が増える可能性は少ない。そうなればライトは自動的に取り残される。その事を言っているのだ。
随分とネガティブな思考だな、とセブンは思いながら、ライトの頭を撫でてやる。セブン? と怪訝な顔をする彼に、言ってやる。
「心配すんな。足腰が立つ間は、お前の事も面倒見てやるよ。俺がダメなら、俺のダチにだって、知り合いにだって声はかけられる。人間は忙しいが、一人ぐらいに構えないほど忙しい奴ぁ、そうはいねぇ。暗い事ばっかり考えてないで、お前もその幸せとやら掴む努力しなけりゃあな」
「……」
ライトは返事をしないまま、曖昧に微笑んで、また家具の方へと向き直った。セブンもそれ以上言わず、床の梱包に手を伸ばした。目下、部屋の片づけが一番の問題である。なにしろ、今日はこの客間に泊まる予定なのだから。
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そういうところが気にしてると思うから、ほんとは暗い人なんだと思う
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