病院の待ち時間があんまり長いんで書き終わっちまった
ひとしきり書きたい事は書いたので、また休眠に入ります。
以下、斬撃。描写は無いけどやってます。
ひとしきり書きたい事は書いたので、また休眠に入ります。
以下、斬撃。描写は無いけどやってます。
ヘルギは宛がわれた部屋の窓から外を眺め、溜息を吐いた。石の家は酷く寒くて、よく眠れなかった。おまけに夜中は外で死霊共が賑やかにしていたから、安眠できる方がおかしいというものだ。日の出と共に眼を覚ましたヘルギは、ぼうっと外の景色を眺めている。
ロキを倒した。巨神族の最後だ。そう思っていたのに、地の底から死霊達が這い上がり、闊歩し始めた。こんな状況では戦いにならない。王都へと逃げ帰ったものの、それからは防衛一方の毎日。嫌にならないはずがない。
敵は何処からともなく湧き上がって来る死霊だ。幸い建物内には侵入して来ないが、死せる巨神は平気で壊してくる。屋内だからと言って安心も出来ない。まだ敵の本拠地や、数が判れば気が楽だが、敵はニブルヘイムに居て、死んだ者の数だけ居る。勝てるわけがない。腐臭の漂う石の王都で、皆絶望に気を呑まれ始めていた。
ヘルギもその一人だった。憂鬱な気持ちで外を眺めていると、チラと視界の端に何かが映った。最初、ヘルギはそれを気のせいだと思おうとした。まさかそんなわけがないと。だが一度気にし始めたら、忘れる事等出来なかった。ヘルギは最小限の荷物を持って、建物から走り出る。
皆死霊を恐れて建物に籠っていたから、外には誰も居ない。だから尚更目立つ。見覚えの有る服に、明るい色の髪。間違い無く、外を歩いているのはヴェルンドだ。
「おい!」
声をかけると、彼は立ち止り、振り向いてくれた。また戦支度をしている。今度は誰の救援に行くつもりだ、と言うと、彼は不思議そうな顔をした。
「何故バレた? こっそり出たつもりだったんだがな」
「お前……お前そんな派手な格好で、こっそりもクソもねぇぜ」
「……? ああ、そうか、これは脱いで行った方がいいか?」
「いやそうじゃなくて、お前、何処行くんだよ。外は危ないぞ。あいつら何処から出て来るか判りゃしねえんだから……」
「俺は北に帰る」
きっぱりと言い返されて。ヘルギは眼を丸くした。ヴェルンドがそのまま歩き出したものだから、ヘルギは慌てて彼の肩を掴み、引き止める。
「ま、待て待て待て! 北に帰るぅ!? 冗談じゃないぜ、あそこは巨神族の巣だぞ、おまけに死霊共がうようよしてるんだ、絶対に死んじまうぞ!」
「だからなんだ」
「だからなんだって……お、……お前、頭大丈夫か?」
本気で心配になってきた。ヘルギがそう言うと、ヴェルンドは苦笑して、それから微笑みを浮かべる。
「そうだな、死ぬかもしれない。だがここに居ても同じだ。いつ死ぬか判らない。なら、故郷で死にたい。……こんな冷たい石の上で、死にたくない。死ぬ場所ぐらい自分で選ぶ。……ここは嫌いだ。嫌な事ばかり考える。それもこれも全部、石のせいだ。俺は北に帰るよ。先祖も皆、北で死んだ。……俺もそこで死ぬ」
「ヴェルンド……」
「……悪いが、シグムンドにそう伝えておいてくれ。俺一人が居なくなっても、今更大した話にはならんだろう。好きにさせてくれ。……何かと世話になった。ヴァルハラでまた会おう」
ヴェルンドはそう言って、ヘルギの手をどけると、また北へと向かって歩き出す。
ヘルギはヴェルンドに色んな事が言いたかった。お前馬鹿じゃねえの、頭良いんじゃなかったのかよ、そんでお前俺にそんな事言って何がしてぇわけだよ、そんな、お前、そんな、無理言うなよ、馬鹿じゃねえの、馬鹿なんじゃねえの。
ヘルギはしばらく考えて、盛大に溜息を吐くと、彼を追った。横に並んで歩きだすと、ヴェルンドは驚いたような顔をする。
「ヘルギ」
「あのなあ、シグムンドに「ヴェルンド一人で行かせましたー」って言ってみろ。俺がシグムンドに殺されちまわぁ。でもお前だって止めても聞かないんだろ、だったら一緒に行くしかないじゃねぇか。俺も行くよ。二人で行きゃあ、辿り着ける確率も上がんだろ。間違っても北に着くまでに死ぬんじゃねえぞ」
「……ヘルギ、いいのか」
「いいさ。あんまり聞くな。今でもどうするのが正解か判らねぇんだ」
ヘルギがそう言って笑うと、ヴェルンドも僅かに笑った。
「……馬鹿だな、お互い」
「どうせ馬鹿なら思いっきりいかねえとな。俺もこんな所はもう嫌なんだ。米だぁ麦だぁ、俺達は牛かなんかか? 家は窮屈だしよ、それにブルグントの連中と顔を合わせるのもうんざりだ。北に帰ったら、こっそり兎でも狩ってやろう、丸焼きにしたらきっとすげぇ旨いぜ。そんで死霊共に匂いでも嗅がせてやりゃあ、あいつら死んでる事を悔しがるに違いねぇって。それでざまぁみろって生きれるだけ生きてやろう、毎日怯えて暮らすより、そっちのほうがよっぽど楽しいや」
「……そうだな。お前と居ると、楽しい」
ヴェルンドは少しずれた事を言ったが、ヘルギは気にしなかった。無茶苦茶な事を言っていると、気持ちも楽になって来て、これから楽しい旅が始まるような気さえした。実際は、自殺しに行くようなものだったが。
「おいヴェルンド見ろ! 山小屋が残ってるぞ!」
声をかけられて、ヴェルンドは顔を上げた。ヘルギが指差している方には、小高い丘が有り、その頂上に小屋が建っている。ライン河を渡ってしばらく経った頃だった。だからそれは木で造られた物だ。しかも立地は人間にとってはいいものだが、巨神や死霊にとっては良くない。
「あそこにわざわざ登る巨神は居ないな。奴らには足場が狭いだろう。それに小屋の中なら死霊からも身を守れる。……今日はあそこで休むか」
日が暮れかかっていた。二人は急いでその小屋に向かう。中は家財道具が残っていて、まだ使えそうだった。ヘルギはお世話になります、と誰ともなく言って、ベッドや布団を確認していた。使えそうだ。かつ、もうここには誰も住んでいないようだった。
「流石に煮炊きをすると連中にバレるかもしれない。大人しく干し肉でも食っておくか」
ヴェルンドはそう呟きながら、ベッドに腰掛ける。と、ヘルギが嬉しそうな顔をしながら、鞄の中から瓶と木の皮で包んだ物を取り出す。
「へへへ、塩漬け肉と、葡萄酒の旨いの持って来たぜ。一緒に食おう」
「……急な事だったのに、よく準備出来たな」
「お前一人がフラフラ歩いてたら、そりゃ俺だって準備ぐらいすらぁ。ロクな事にならねぇからな。いつ死んでもおかしくねぇんだ。旨いモンは食っちまおう。ほら」
ヘルギが肉と葡萄酒を手渡してくる。少し考えて、小屋の中を漁った。皿とコップを用意して、二人で食事を楽しんだ。量は少なかったが、格別旨く感じた。
「……そうだな。お前が居る時は、ロクな事が無い」
「違うだろ、ヴェルンドが一人で居ると、ロクな事にならねぇんだ」
「そうか?」
「そうだよ」
「……そうか。なら最後まで一緒に居てもらおう。良い事が有るかもしれん」
窓から外を見る。日が沈みかけていた。灯りをつけると、敵が寄って来るかもしれない。夜になったら、大人しく寝たほうが良いだろう、とヴェルンドは考えて、溜息を吐いた。
無事に故郷に辿りつけるだろうか。シグムンド達は、今日も死霊と戦ったのだろうか。彼は最後まで戦い続けるだろう。出来ればついて行きたかった。シグムンドは命を賭けるに相応しい男だ。死ぬまで彼の側に居たかったものだが、もうそれも叶わない。
ふとヘルギを見る。いつの間に手に入れたのやら、リンゴを齧っている彼は、いつもシグムンドの側に居た。その後ろに隠れようとしていた。図体がデカいのだから、隠れられるはずもないのに。
「……お前、なんで俺について来た? シグムンドの側に居ればいいのに」
「……そりゃお前、さっきも言ったけど、」
「アレは言い訳だろう。お前がシグムンドを本気で恐れるわけがない。北に行く方がよほど怖いに決まっている。……何故ついて来た?」
「……えーと」
ヘルギは困ったようにしばらく考えて、のろのろと答える。
「それがその……俺っちにもよく判らねぇって言うか。俺だってシグムンドと一緒に居たかったぜ、北に帰るなんて正気の沙汰じゃねえと思うよ。でも……でもさ、ヴェルンド一人じゃ行かせられねェよ。俺には見ないふりなんて出来ねぇもん。絶対死ぬって。そうと判ってて、一人にさせられねぇ。……たぶん、そんだけ」
「たぶんとはなんだ、たぶんとは」
「だーかーら、俺にもよく判らねぇんだって。放っとけないんだよ。お前の事……守るって約束もしたし」
その言葉にあの日の事を思い出して、ヴェルンドは恥ずかしくなった。一時の気の迷いとはいえ、とんでもない事をしたものだ。誘ったわけだし、しかもブルグントの連中にされた事と同じはずなのに、妙に気持ち良くて、結果的にヴェルンドの願いは叶えられてしまった。今こうして冷静に見てみれば、ヘルギは美男子というわけでも、逆に逞しい男というわけでもない。ただ身体が大きいだけの、小心者だ。縋るのは酷な話だろう。
その小心者が、死ぬと判っているのについて来てくれている。改めてありがたいと感じた。北に帰ると言いながら、自分がただの自棄を起こしているだけだとは判っていたから、北に戻る事も出来ずに死んでいたかもしれない。いやもしかしたら、ロキの復活を待たずに死んでいたかもしれない。何もかもシグムンドとヘルギのおかげだ、とヴェルンドは考えて苦笑した。こんな時でも、まず思いつくのはシグムンドの名のほうだった。
ヘルギは本当に何処に隠していたのやら、リンゴをいくつも齧っている。腹を膨らまそうとしているのだろう。人より身体が大きいから、よく食べる。ヴェルンドが見ていると、リンゴを差し出してきたから笑って受け取る。少し酸いので、ヴェルンドは一つしか食べなかった。そうして食事が終わる頃には、もう辺りは暗くなっていた。
暗くなってはやる事も無い。ヘルギはヴェルンドをベッドに追いやって、自分は床で寝ると言い出した。ヴェルンドは「そんなのは申し訳無い、俺が床で寝る」と言い、散々言い争った挙句、二人で床に寝た。
「馬鹿じゃないのか、俺達は」
「違いねぇや」
固い床で寝心地の良い体勢を探していたら、手が触れた。その後ももぞもぞする度に触れたので、どちらが先とも判らないが笑って、そして二人してベッドに潜った。ずっとクスクス笑っていたら、そういう雰囲気になってしまったので、ヴェルンドはヘルギの頬にキスをした。そこからは、なし崩しだった。
キスをして、身体を撫で合って、愛し合う。それでも大声を出したら、死霊だの巨神だのに見つかりそうだったから、ヴェルンドは必死に声を殺していた。そうして密かに行う行為はまた、妙に気持ち良く、熱く、激しいものなのに、相変わらずヘルギのそれは酷く時間がかかって、ヴェルンドはまた彼に縋るより、他になかった。
そしてぎゅうと抱きしめられた時、もしかしたらと思う。もしかしたら、もしかしたら。しかしそれ以上の答えが出なかったから、ヴェルンドは言葉を紡がなかった。
もしかしたら自分は、ヘルギを好いているのかもしれない。
明日になったら、夜が明けたら、きっと二人で死ぬのだから、そこには何かしら有るのではないか。ヴェルンドはそう思ったが、聞く事もせず、言う事もせず、ただ、ただ、ヘルギの身体に縋りついていた。
+++
で、本編の後、ヴィーグリースの決闘? に続く。つまり次で退場。
ロキを倒した。巨神族の最後だ。そう思っていたのに、地の底から死霊達が這い上がり、闊歩し始めた。こんな状況では戦いにならない。王都へと逃げ帰ったものの、それからは防衛一方の毎日。嫌にならないはずがない。
敵は何処からともなく湧き上がって来る死霊だ。幸い建物内には侵入して来ないが、死せる巨神は平気で壊してくる。屋内だからと言って安心も出来ない。まだ敵の本拠地や、数が判れば気が楽だが、敵はニブルヘイムに居て、死んだ者の数だけ居る。勝てるわけがない。腐臭の漂う石の王都で、皆絶望に気を呑まれ始めていた。
ヘルギもその一人だった。憂鬱な気持ちで外を眺めていると、チラと視界の端に何かが映った。最初、ヘルギはそれを気のせいだと思おうとした。まさかそんなわけがないと。だが一度気にし始めたら、忘れる事等出来なかった。ヘルギは最小限の荷物を持って、建物から走り出る。
皆死霊を恐れて建物に籠っていたから、外には誰も居ない。だから尚更目立つ。見覚えの有る服に、明るい色の髪。間違い無く、外を歩いているのはヴェルンドだ。
「おい!」
声をかけると、彼は立ち止り、振り向いてくれた。また戦支度をしている。今度は誰の救援に行くつもりだ、と言うと、彼は不思議そうな顔をした。
「何故バレた? こっそり出たつもりだったんだがな」
「お前……お前そんな派手な格好で、こっそりもクソもねぇぜ」
「……? ああ、そうか、これは脱いで行った方がいいか?」
「いやそうじゃなくて、お前、何処行くんだよ。外は危ないぞ。あいつら何処から出て来るか判りゃしねえんだから……」
「俺は北に帰る」
きっぱりと言い返されて。ヘルギは眼を丸くした。ヴェルンドがそのまま歩き出したものだから、ヘルギは慌てて彼の肩を掴み、引き止める。
「ま、待て待て待て! 北に帰るぅ!? 冗談じゃないぜ、あそこは巨神族の巣だぞ、おまけに死霊共がうようよしてるんだ、絶対に死んじまうぞ!」
「だからなんだ」
「だからなんだって……お、……お前、頭大丈夫か?」
本気で心配になってきた。ヘルギがそう言うと、ヴェルンドは苦笑して、それから微笑みを浮かべる。
「そうだな、死ぬかもしれない。だがここに居ても同じだ。いつ死ぬか判らない。なら、故郷で死にたい。……こんな冷たい石の上で、死にたくない。死ぬ場所ぐらい自分で選ぶ。……ここは嫌いだ。嫌な事ばかり考える。それもこれも全部、石のせいだ。俺は北に帰るよ。先祖も皆、北で死んだ。……俺もそこで死ぬ」
「ヴェルンド……」
「……悪いが、シグムンドにそう伝えておいてくれ。俺一人が居なくなっても、今更大した話にはならんだろう。好きにさせてくれ。……何かと世話になった。ヴァルハラでまた会おう」
ヴェルンドはそう言って、ヘルギの手をどけると、また北へと向かって歩き出す。
ヘルギはヴェルンドに色んな事が言いたかった。お前馬鹿じゃねえの、頭良いんじゃなかったのかよ、そんでお前俺にそんな事言って何がしてぇわけだよ、そんな、お前、そんな、無理言うなよ、馬鹿じゃねえの、馬鹿なんじゃねえの。
ヘルギはしばらく考えて、盛大に溜息を吐くと、彼を追った。横に並んで歩きだすと、ヴェルンドは驚いたような顔をする。
「ヘルギ」
「あのなあ、シグムンドに「ヴェルンド一人で行かせましたー」って言ってみろ。俺がシグムンドに殺されちまわぁ。でもお前だって止めても聞かないんだろ、だったら一緒に行くしかないじゃねぇか。俺も行くよ。二人で行きゃあ、辿り着ける確率も上がんだろ。間違っても北に着くまでに死ぬんじゃねえぞ」
「……ヘルギ、いいのか」
「いいさ。あんまり聞くな。今でもどうするのが正解か判らねぇんだ」
ヘルギがそう言って笑うと、ヴェルンドも僅かに笑った。
「……馬鹿だな、お互い」
「どうせ馬鹿なら思いっきりいかねえとな。俺もこんな所はもう嫌なんだ。米だぁ麦だぁ、俺達は牛かなんかか? 家は窮屈だしよ、それにブルグントの連中と顔を合わせるのもうんざりだ。北に帰ったら、こっそり兎でも狩ってやろう、丸焼きにしたらきっとすげぇ旨いぜ。そんで死霊共に匂いでも嗅がせてやりゃあ、あいつら死んでる事を悔しがるに違いねぇって。それでざまぁみろって生きれるだけ生きてやろう、毎日怯えて暮らすより、そっちのほうがよっぽど楽しいや」
「……そうだな。お前と居ると、楽しい」
ヴェルンドは少しずれた事を言ったが、ヘルギは気にしなかった。無茶苦茶な事を言っていると、気持ちも楽になって来て、これから楽しい旅が始まるような気さえした。実際は、自殺しに行くようなものだったが。
「おいヴェルンド見ろ! 山小屋が残ってるぞ!」
声をかけられて、ヴェルンドは顔を上げた。ヘルギが指差している方には、小高い丘が有り、その頂上に小屋が建っている。ライン河を渡ってしばらく経った頃だった。だからそれは木で造られた物だ。しかも立地は人間にとってはいいものだが、巨神や死霊にとっては良くない。
「あそこにわざわざ登る巨神は居ないな。奴らには足場が狭いだろう。それに小屋の中なら死霊からも身を守れる。……今日はあそこで休むか」
日が暮れかかっていた。二人は急いでその小屋に向かう。中は家財道具が残っていて、まだ使えそうだった。ヘルギはお世話になります、と誰ともなく言って、ベッドや布団を確認していた。使えそうだ。かつ、もうここには誰も住んでいないようだった。
「流石に煮炊きをすると連中にバレるかもしれない。大人しく干し肉でも食っておくか」
ヴェルンドはそう呟きながら、ベッドに腰掛ける。と、ヘルギが嬉しそうな顔をしながら、鞄の中から瓶と木の皮で包んだ物を取り出す。
「へへへ、塩漬け肉と、葡萄酒の旨いの持って来たぜ。一緒に食おう」
「……急な事だったのに、よく準備出来たな」
「お前一人がフラフラ歩いてたら、そりゃ俺だって準備ぐらいすらぁ。ロクな事にならねぇからな。いつ死んでもおかしくねぇんだ。旨いモンは食っちまおう。ほら」
ヘルギが肉と葡萄酒を手渡してくる。少し考えて、小屋の中を漁った。皿とコップを用意して、二人で食事を楽しんだ。量は少なかったが、格別旨く感じた。
「……そうだな。お前が居る時は、ロクな事が無い」
「違うだろ、ヴェルンドが一人で居ると、ロクな事にならねぇんだ」
「そうか?」
「そうだよ」
「……そうか。なら最後まで一緒に居てもらおう。良い事が有るかもしれん」
窓から外を見る。日が沈みかけていた。灯りをつけると、敵が寄って来るかもしれない。夜になったら、大人しく寝たほうが良いだろう、とヴェルンドは考えて、溜息を吐いた。
無事に故郷に辿りつけるだろうか。シグムンド達は、今日も死霊と戦ったのだろうか。彼は最後まで戦い続けるだろう。出来ればついて行きたかった。シグムンドは命を賭けるに相応しい男だ。死ぬまで彼の側に居たかったものだが、もうそれも叶わない。
ふとヘルギを見る。いつの間に手に入れたのやら、リンゴを齧っている彼は、いつもシグムンドの側に居た。その後ろに隠れようとしていた。図体がデカいのだから、隠れられるはずもないのに。
「……お前、なんで俺について来た? シグムンドの側に居ればいいのに」
「……そりゃお前、さっきも言ったけど、」
「アレは言い訳だろう。お前がシグムンドを本気で恐れるわけがない。北に行く方がよほど怖いに決まっている。……何故ついて来た?」
「……えーと」
ヘルギは困ったようにしばらく考えて、のろのろと答える。
「それがその……俺っちにもよく判らねぇって言うか。俺だってシグムンドと一緒に居たかったぜ、北に帰るなんて正気の沙汰じゃねえと思うよ。でも……でもさ、ヴェルンド一人じゃ行かせられねェよ。俺には見ないふりなんて出来ねぇもん。絶対死ぬって。そうと判ってて、一人にさせられねぇ。……たぶん、そんだけ」
「たぶんとはなんだ、たぶんとは」
「だーかーら、俺にもよく判らねぇんだって。放っとけないんだよ。お前の事……守るって約束もしたし」
その言葉にあの日の事を思い出して、ヴェルンドは恥ずかしくなった。一時の気の迷いとはいえ、とんでもない事をしたものだ。誘ったわけだし、しかもブルグントの連中にされた事と同じはずなのに、妙に気持ち良くて、結果的にヴェルンドの願いは叶えられてしまった。今こうして冷静に見てみれば、ヘルギは美男子というわけでも、逆に逞しい男というわけでもない。ただ身体が大きいだけの、小心者だ。縋るのは酷な話だろう。
その小心者が、死ぬと判っているのについて来てくれている。改めてありがたいと感じた。北に帰ると言いながら、自分がただの自棄を起こしているだけだとは判っていたから、北に戻る事も出来ずに死んでいたかもしれない。いやもしかしたら、ロキの復活を待たずに死んでいたかもしれない。何もかもシグムンドとヘルギのおかげだ、とヴェルンドは考えて苦笑した。こんな時でも、まず思いつくのはシグムンドの名のほうだった。
ヘルギは本当に何処に隠していたのやら、リンゴをいくつも齧っている。腹を膨らまそうとしているのだろう。人より身体が大きいから、よく食べる。ヴェルンドが見ていると、リンゴを差し出してきたから笑って受け取る。少し酸いので、ヴェルンドは一つしか食べなかった。そうして食事が終わる頃には、もう辺りは暗くなっていた。
暗くなってはやる事も無い。ヘルギはヴェルンドをベッドに追いやって、自分は床で寝ると言い出した。ヴェルンドは「そんなのは申し訳無い、俺が床で寝る」と言い、散々言い争った挙句、二人で床に寝た。
「馬鹿じゃないのか、俺達は」
「違いねぇや」
固い床で寝心地の良い体勢を探していたら、手が触れた。その後ももぞもぞする度に触れたので、どちらが先とも判らないが笑って、そして二人してベッドに潜った。ずっとクスクス笑っていたら、そういう雰囲気になってしまったので、ヴェルンドはヘルギの頬にキスをした。そこからは、なし崩しだった。
キスをして、身体を撫で合って、愛し合う。それでも大声を出したら、死霊だの巨神だのに見つかりそうだったから、ヴェルンドは必死に声を殺していた。そうして密かに行う行為はまた、妙に気持ち良く、熱く、激しいものなのに、相変わらずヘルギのそれは酷く時間がかかって、ヴェルンドはまた彼に縋るより、他になかった。
そしてぎゅうと抱きしめられた時、もしかしたらと思う。もしかしたら、もしかしたら。しかしそれ以上の答えが出なかったから、ヴェルンドは言葉を紡がなかった。
もしかしたら自分は、ヘルギを好いているのかもしれない。
明日になったら、夜が明けたら、きっと二人で死ぬのだから、そこには何かしら有るのではないか。ヴェルンドはそう思ったが、聞く事もせず、言う事もせず、ただ、ただ、ヘルギの身体に縋りついていた。
+++
で、本編の後、ヴィーグリースの決闘? に続く。つまり次で退場。
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