昨日、2週間ぶりの雨が降ったので今日は涼しいです
部屋の中でムカデが2匹死んでました
もしかして私の部屋でムカデが孵ったんじゃなかろうか。
ムカデは恐いです。夜中に「ばよーん」って音がしたから飛び起きたら
どうやらでかいムカデが天井から落ちてそこに置いてあったボールで
跳ね返ったらしく。ムカデふらふらしてましたよ
昨日はお父さんがなにやらカブトムシのメスを拾って帰って。
会社から出て車に向かってたら正面衝突して、それきり静かになったとか
ハチミツ水をやったらぐいぐい飲んで元気になったので
山に帰しときましたが、
こんな山の中にいきなりきたらびっくりするだろうな。
そういえばセミってカメムシなんですよね
そう思うと全然かわいくなくなってきた、セミ。
以下、緋扇の……9
部屋の中でムカデが2匹死んでました
もしかして私の部屋でムカデが孵ったんじゃなかろうか。
ムカデは恐いです。夜中に「ばよーん」って音がしたから飛び起きたら
どうやらでかいムカデが天井から落ちてそこに置いてあったボールで
跳ね返ったらしく。ムカデふらふらしてましたよ
昨日はお父さんがなにやらカブトムシのメスを拾って帰って。
会社から出て車に向かってたら正面衝突して、それきり静かになったとか
ハチミツ水をやったらぐいぐい飲んで元気になったので
山に帰しときましたが、
こんな山の中にいきなりきたらびっくりするだろうな。
そういえばセミってカメムシなんですよね
そう思うと全然かわいくなくなってきた、セミ。
以下、緋扇の……9
元就を置いて、光秀は久秀の下に戻った。知らない間に随分時間が経っていたらしく、外はもう昼になっていた。久秀は縁側に腰掛けて、庭の雀に餌をくれてやっていた。
久秀は信長を3度も裏切り、最終的には愛する茶釜と共に自爆した事になっている。少なくとも世間的に、久秀は死んだ。以来、歴史の表舞台に出ようともしないし、誰も出そうともしない。
久秀は闇ではなく、それ故に本来、対となる物は必要無い。だが彼が生涯をかけて何かを求め、そして壊していった一因は、彼が対を求めたからだと光秀は思っている。だが光に対する闇と違い、彼の対になる物は見つけにくかった。その間に彼は惑い殺し焼き愛しそして捨てるを繰り返した。その存在はなんとも哀れなもので、光秀は彼を嫌いだったがそれ以上の事は思わなかった。
信長はそうした哀れなものを好んで側に置いた。久秀が自分を裏切り続けても、決して手放しもせず殺しもしなかった。彼が妹を手にかけなかったように。結果的に彼の銃弾は彼女の光を撃ち砕いてしまったが、それは信長の望みではなかったと光秀は知っている。だが事実がどうであろうと、影は光無しで存在出来ない。認めなかった信長は不安定な影を強大にし、その刃にかかってしまった。
久秀は死んだ事になり、この地に隠居する事になった。その際、小田原の主を失った風魔小太郎が彼の下につくようになった。だがこの小太郎と久秀の相性が思ったよりもよく、それ以降久秀は小太郎と共にひっそりと、この屋敷で暮らすようになった。だが久秀がそれほど優遇された事を知られるのは良くないので、信長はその事実を信頼出来る数人にしか明かしていなかった。その一人が光秀で、そして明かされていない者の一人がお市だ。だからここは極めて安全な場所だった。伝説の忍が守る屋敷を、知っている者がもはや光秀しか残っていないのだから。
「松永殿。毛利殿をよろしくお願いします。元気になったら、毛利家に送ってあげてください」
光秀にそう言われて、久秀は小さく笑った。
「何故、私がそこまでしてやらねばならないのかね」
「私は私の求める全てを貴方に見せました。貴方は私の望みに答えると約束した。私の求めるものは、毛利殿が無事、毛利家に戻る事。……していただけますね」
「……なるほど。卿も案外ずるい男だな。いや、今に始まった事ではないがね。……いいだろう。それで卿はどうするつもりだ。興味は無いが、一応聞いておくのが礼儀だろう」
「……本能寺に。あそこは、闇が濃い」
「……そうかね。まぁ気を付けてくれたまえ。私を嫌う人間が減るのは、淋しいのでね」
光秀はそれに対して特に返事をしないまま、踵を返した。そのまま刀を腰に挿し、馬に乗ると、光秀は南へと向かった。
本能寺に、居ると判っていた。全てが、そこに居るのだ。
「……あけち……?」
元就は抱き起こされて眼を覚ました。だが目の前には赤い髪の男が居て、自分の体に布を巻きつけているのが見えた。どうやら、手当てをしてくれているらしい。ぎゅ、と強く布を括りつけられて、元就は小さく呻いたが、やがて「そなた」と彼に声をかける。
「明智は、……明智は何処だ」
「……」
男は答えないまま、元就の体に布を巻きつけていく。力は強かったが乱暴ではなかった。恐らく適切な処置をしてくれているのだろう、と元就は思ったが、それでも彼にただ身を任せているわけにはいかなかった。
「明智、……明智の所に連れて行ってくれ」
「……」
「明智に言わなくてはならぬ事が有るのだ、頼む」
「……」
男はあくまで返事をしなかったし、元就に布を巻き終えると着物を正させ、布団に押し戻してしまった。頼む、と手を伸ばすと、傷が疼いた。思わず顔を顰めた元就に、男は小さく首を振って、布団を軽く叩く。大人しくしておけ、という意味だとは元就も判ったが、しかし引き下がるわけにはいかなかった。
「我は、明智に、用が有る。明智は何処だ」
それでも男は答えず、そのまま部屋を出て行こうとするので、元就は呻き声を上げながら布団から這い出た。男は慌てて元就の所へと戻り、布団に戻そうとする。が、元就は痛みに呻きながらも、男の手から逃げ、部屋を這いながら言う。
「明智に会わせねば、寝ぬぞ。我は、言わなくてはならぬのだ。明智の所へ連れて行け、用が終わったら、その時は大人しく横になる故」
けれども赤毛の男の方は困ったような顔をするばかりで、何も言わない。流石に怪訝に思った元就が「そなた、何とか言えぬのか?」と首を傾げていると、部屋に久秀がやって来た。尤も、久秀は元就を知っていたが、元就は久秀とは初対面なので、それが松永久秀であるとは元就には判らなかった。だが男が久秀のほうを見たので、こちらのほうが位が高いのだろうと推測し、元就は久秀に尋ねる。
「明智は何処だ?」
「彼なら本能寺に行くと言っていたがね」
「本能寺? ……何故そのような、……」
元就はしばらく眉を寄せて考え、それから久秀に言う。
「我をそこへ連れて行ってくれ」
「残念だが、それは出来ないな」
「何故だ」
「卿を無事に毛利家に引き渡すと約束した。だから私は卿を連れて行くわけにはいかない」
元就は顔を顰めて、「そんな約束、我は知らぬ」と呟いた。思い出そうとしても、女に切られて、それから妙に身体が寒くなって、それからの記憶が無い。冷静に考えてみれば、ここが何処で、この男達が誰で、何故こんな所に寝かせられているのか、元就には全く判らなかった。だが「明智に会わなければ」ともう一度繰り返して、そして赤毛の男を見た。
「そなた、そなたは明智と約束をしていないな」
「……」
「そなたが無断で我を連れ出し、親切心で明智の所へ連れて行った、そういう事にすれば良い。そうであろう」
赤毛の男は困ったような顔をして、久秀を見た。久秀は「ふむ」と呟くとしばらく考えて、それから
「そういう事にすれば、卿を厄介払い出来るな」
と頷いた。
本能寺は燃えていた。そこかしこで黒が蠢き、人の身体を包み込んでいる。呻きや悲鳴が時折聞こえたが、光秀は頓着しなかった。己の闇に呑まれるような人間はそもそも弱く脆いのだ。その闇が自身を殺すほどに濃い人間は放っておいても自然と死んで逝く。闇は誰にでも有るから、それと戦って受け入れて、それで初めて人は人になれる。それが多少強引に訪れるだけで、その闇に負けるならばそもそもその人間は生きる気力を失っているのだ。そうした者を救ったところで何の得も無いと光秀は知っている。
ならば元就を救ったのは何故か、と問われれば、彼はお市からの干渉を受けて闇を増幅されていたからで。本来なら時間をかけて元就は闇を受け入れて戻ってきただろうが、お市の力で強くなった闇は、元就を殺そうとしていた。だから光秀は手を出した。そうしなければ、死ぬはずの無い彼が死んでしまうから。
何より光秀は元就を救いたいと心から思った。要は、贔屓なのだと言われればそれまでだった。元就の事は身を捧げてでも守らなくてはならなかった。それは元就が己の対となる光だからかもしれないし、……それだけではないかもしれない。どちらにせよ、元就が死んでしまえば自分もお市のように不安定な存在となり、こうして瘴気と闇をばら撒いて逝く生き物に成り果ててしまうのだから、彼を守らなくてはいけなかった。
そして彼女の兄である信長も、その妻も養子も死に絶えた今、その生き物を有るべき場所に導く人間は、光秀しか居なくなっていた。闇と闇は相性が悪く、互いに命を削りあって共倒れする危険も有ったが、それでも光秀は構わなかった。自分が勝てば、この地に平穏が訪れ、愛した主の仇を討てる。自分が負けても、いつしかこの地には平穏が訪れ、愛した主の元へ逝ける。光秀にとっては全てはどうでも良い事だった。
ただ同族の成れの果てを放っておく事は出来ない。闇は全ての光に引き寄せられる。自分が死んだ後、彼女はまた光を求めて元就を襲うかもしれない。一度は難を逃れたが、次もそうなるとは限らない。だから無駄死には出来ない、と光秀はそれだけは考えていた。
「出来るならば勝ち、あるいは共倒れ程度で終わらせたいものですね」
光秀は一つ溜息を吐いて、得物を手に取った。己の屋敷に置いていた、二振りの大鎌だ。それは今は亡き信長が、光秀のためにと作らせた物だった。まったく、私に似合いの悪趣味な武器だ、と光秀は苦笑して、そして本能寺の中へと歩いて行った。
風魔小太郎、という忍は、時折馬の速度を落として元就の顔色を伺った。傷口を押さえてじっと堪えていた元就はその事に気付くと、「平気だ、先を急いでくれ」と促す。それを何度か繰り返しながら、二人は本能寺へと向かっていた。
「すまぬな、忍。馬に乗らぬ方が早いのではないか? 風魔と言えば伝説の忍の一族であろう」
「……」
元就は忍という種族を良く知らなかったので、風魔という名が特別だとは知っていても、その当主の名が小太郎だとは知らなかった。他ならぬ伝説の忍にしがみ付いて馬に乗っているのだが、元就はそれに気付かないし、小太郎は忍であるが故に、その間違いを正す事が出来なかった。何しろ声が出ないのだから。
万が一、敵に捕まった時、拷問などを受けても情報を漏らさないという意思表示だ。小太郎にはそもそも声が無い。どうしてそうなったのか、小太郎自身も良く知らないが、言葉どころか音も作り出せた事が無かった。だから、自分が風魔の長だと伝えたくても伝わるはずが無かった。その間違いを正しても大した事は起こらないと判断して、小太郎は諦めて馬を走らせ続ける。
そんな小太郎の様子に、忍の事に疎い元就も多少は事情が判ってきたらしい。だが「そなたは無口だな」と言ったので、単に仕事熱心な忍と思われたらしかった。
「我はな、忍というのが好かなかったのだ。……いや、仕事の内容ではなく、その……話によれば、忍とは家を持たず、主家の為に命をかけても褒賞も無いというではないか。我は失敗を犯した者の一族に罰を与えるが、それは褒賞についても同じだ。成功した者には褒賞を与える、それは当然であろう。報われると思わなければ、人殺しなどやっていけぬ」
「……」
「だがそなたらは違う。誰にも褒められず誰にも認められず、ただただ任務をこなして死んでいく。話によれば墓も無いと言うではないか。そのような、……我は好きではない。……しかしそなたらは戦いの達人でもある。……ふむ」
元就はしばらく考えて、「忍」と声をかける。
「我が毛利家を継いだなら、そなたらのような強い忍を新たに育成しようぞ。だが我は彼らに家を与えるし、褒賞も与える。一家臣として他の者達と変わらず接するぞ。そなた、我の所に来ぬか? いやなに、我は忍というのがどういう事をするのかよう知らぬ。訓練の仕方などを教えて欲しいのだが……」
元就がそう言うので、小太郎は静かに振り返った。元就は実に真剣な顔をしていて、だからこそ小太郎は僅かに笑った。
同じ事を言った人を知っている。もうその人は居ないけれど。
小太郎の笑みをどう受け取ったのやら、元就は「すまぬ」とどういう意図で言ったのか判らない言葉を返した。小太郎はまた前を向いて、そして元就の声を聞いた。
「あれでも良い主なのかもしれぬな。我にはそうは見えなかったが……ならば仕方無い」
どうやら久秀の下からは離れられない、という意味に受け取ったらしかった。それもまた誤解ではあったが、しかしそれは事実でも有るので小太郎はやはり否定しなかった。
久秀は信長を3度も裏切り、最終的には愛する茶釜と共に自爆した事になっている。少なくとも世間的に、久秀は死んだ。以来、歴史の表舞台に出ようともしないし、誰も出そうともしない。
久秀は闇ではなく、それ故に本来、対となる物は必要無い。だが彼が生涯をかけて何かを求め、そして壊していった一因は、彼が対を求めたからだと光秀は思っている。だが光に対する闇と違い、彼の対になる物は見つけにくかった。その間に彼は惑い殺し焼き愛しそして捨てるを繰り返した。その存在はなんとも哀れなもので、光秀は彼を嫌いだったがそれ以上の事は思わなかった。
信長はそうした哀れなものを好んで側に置いた。久秀が自分を裏切り続けても、決して手放しもせず殺しもしなかった。彼が妹を手にかけなかったように。結果的に彼の銃弾は彼女の光を撃ち砕いてしまったが、それは信長の望みではなかったと光秀は知っている。だが事実がどうであろうと、影は光無しで存在出来ない。認めなかった信長は不安定な影を強大にし、その刃にかかってしまった。
久秀は死んだ事になり、この地に隠居する事になった。その際、小田原の主を失った風魔小太郎が彼の下につくようになった。だがこの小太郎と久秀の相性が思ったよりもよく、それ以降久秀は小太郎と共にひっそりと、この屋敷で暮らすようになった。だが久秀がそれほど優遇された事を知られるのは良くないので、信長はその事実を信頼出来る数人にしか明かしていなかった。その一人が光秀で、そして明かされていない者の一人がお市だ。だからここは極めて安全な場所だった。伝説の忍が守る屋敷を、知っている者がもはや光秀しか残っていないのだから。
「松永殿。毛利殿をよろしくお願いします。元気になったら、毛利家に送ってあげてください」
光秀にそう言われて、久秀は小さく笑った。
「何故、私がそこまでしてやらねばならないのかね」
「私は私の求める全てを貴方に見せました。貴方は私の望みに答えると約束した。私の求めるものは、毛利殿が無事、毛利家に戻る事。……していただけますね」
「……なるほど。卿も案外ずるい男だな。いや、今に始まった事ではないがね。……いいだろう。それで卿はどうするつもりだ。興味は無いが、一応聞いておくのが礼儀だろう」
「……本能寺に。あそこは、闇が濃い」
「……そうかね。まぁ気を付けてくれたまえ。私を嫌う人間が減るのは、淋しいのでね」
光秀はそれに対して特に返事をしないまま、踵を返した。そのまま刀を腰に挿し、馬に乗ると、光秀は南へと向かった。
本能寺に、居ると判っていた。全てが、そこに居るのだ。
「……あけち……?」
元就は抱き起こされて眼を覚ました。だが目の前には赤い髪の男が居て、自分の体に布を巻きつけているのが見えた。どうやら、手当てをしてくれているらしい。ぎゅ、と強く布を括りつけられて、元就は小さく呻いたが、やがて「そなた」と彼に声をかける。
「明智は、……明智は何処だ」
「……」
男は答えないまま、元就の体に布を巻きつけていく。力は強かったが乱暴ではなかった。恐らく適切な処置をしてくれているのだろう、と元就は思ったが、それでも彼にただ身を任せているわけにはいかなかった。
「明智、……明智の所に連れて行ってくれ」
「……」
「明智に言わなくてはならぬ事が有るのだ、頼む」
「……」
男はあくまで返事をしなかったし、元就に布を巻き終えると着物を正させ、布団に押し戻してしまった。頼む、と手を伸ばすと、傷が疼いた。思わず顔を顰めた元就に、男は小さく首を振って、布団を軽く叩く。大人しくしておけ、という意味だとは元就も判ったが、しかし引き下がるわけにはいかなかった。
「我は、明智に、用が有る。明智は何処だ」
それでも男は答えず、そのまま部屋を出て行こうとするので、元就は呻き声を上げながら布団から這い出た。男は慌てて元就の所へと戻り、布団に戻そうとする。が、元就は痛みに呻きながらも、男の手から逃げ、部屋を這いながら言う。
「明智に会わせねば、寝ぬぞ。我は、言わなくてはならぬのだ。明智の所へ連れて行け、用が終わったら、その時は大人しく横になる故」
けれども赤毛の男の方は困ったような顔をするばかりで、何も言わない。流石に怪訝に思った元就が「そなた、何とか言えぬのか?」と首を傾げていると、部屋に久秀がやって来た。尤も、久秀は元就を知っていたが、元就は久秀とは初対面なので、それが松永久秀であるとは元就には判らなかった。だが男が久秀のほうを見たので、こちらのほうが位が高いのだろうと推測し、元就は久秀に尋ねる。
「明智は何処だ?」
「彼なら本能寺に行くと言っていたがね」
「本能寺? ……何故そのような、……」
元就はしばらく眉を寄せて考え、それから久秀に言う。
「我をそこへ連れて行ってくれ」
「残念だが、それは出来ないな」
「何故だ」
「卿を無事に毛利家に引き渡すと約束した。だから私は卿を連れて行くわけにはいかない」
元就は顔を顰めて、「そんな約束、我は知らぬ」と呟いた。思い出そうとしても、女に切られて、それから妙に身体が寒くなって、それからの記憶が無い。冷静に考えてみれば、ここが何処で、この男達が誰で、何故こんな所に寝かせられているのか、元就には全く判らなかった。だが「明智に会わなければ」ともう一度繰り返して、そして赤毛の男を見た。
「そなた、そなたは明智と約束をしていないな」
「……」
「そなたが無断で我を連れ出し、親切心で明智の所へ連れて行った、そういう事にすれば良い。そうであろう」
赤毛の男は困ったような顔をして、久秀を見た。久秀は「ふむ」と呟くとしばらく考えて、それから
「そういう事にすれば、卿を厄介払い出来るな」
と頷いた。
本能寺は燃えていた。そこかしこで黒が蠢き、人の身体を包み込んでいる。呻きや悲鳴が時折聞こえたが、光秀は頓着しなかった。己の闇に呑まれるような人間はそもそも弱く脆いのだ。その闇が自身を殺すほどに濃い人間は放っておいても自然と死んで逝く。闇は誰にでも有るから、それと戦って受け入れて、それで初めて人は人になれる。それが多少強引に訪れるだけで、その闇に負けるならばそもそもその人間は生きる気力を失っているのだ。そうした者を救ったところで何の得も無いと光秀は知っている。
ならば元就を救ったのは何故か、と問われれば、彼はお市からの干渉を受けて闇を増幅されていたからで。本来なら時間をかけて元就は闇を受け入れて戻ってきただろうが、お市の力で強くなった闇は、元就を殺そうとしていた。だから光秀は手を出した。そうしなければ、死ぬはずの無い彼が死んでしまうから。
何より光秀は元就を救いたいと心から思った。要は、贔屓なのだと言われればそれまでだった。元就の事は身を捧げてでも守らなくてはならなかった。それは元就が己の対となる光だからかもしれないし、……それだけではないかもしれない。どちらにせよ、元就が死んでしまえば自分もお市のように不安定な存在となり、こうして瘴気と闇をばら撒いて逝く生き物に成り果ててしまうのだから、彼を守らなくてはいけなかった。
そして彼女の兄である信長も、その妻も養子も死に絶えた今、その生き物を有るべき場所に導く人間は、光秀しか居なくなっていた。闇と闇は相性が悪く、互いに命を削りあって共倒れする危険も有ったが、それでも光秀は構わなかった。自分が勝てば、この地に平穏が訪れ、愛した主の仇を討てる。自分が負けても、いつしかこの地には平穏が訪れ、愛した主の元へ逝ける。光秀にとっては全てはどうでも良い事だった。
ただ同族の成れの果てを放っておく事は出来ない。闇は全ての光に引き寄せられる。自分が死んだ後、彼女はまた光を求めて元就を襲うかもしれない。一度は難を逃れたが、次もそうなるとは限らない。だから無駄死には出来ない、と光秀はそれだけは考えていた。
「出来るならば勝ち、あるいは共倒れ程度で終わらせたいものですね」
光秀は一つ溜息を吐いて、得物を手に取った。己の屋敷に置いていた、二振りの大鎌だ。それは今は亡き信長が、光秀のためにと作らせた物だった。まったく、私に似合いの悪趣味な武器だ、と光秀は苦笑して、そして本能寺の中へと歩いて行った。
風魔小太郎、という忍は、時折馬の速度を落として元就の顔色を伺った。傷口を押さえてじっと堪えていた元就はその事に気付くと、「平気だ、先を急いでくれ」と促す。それを何度か繰り返しながら、二人は本能寺へと向かっていた。
「すまぬな、忍。馬に乗らぬ方が早いのではないか? 風魔と言えば伝説の忍の一族であろう」
「……」
元就は忍という種族を良く知らなかったので、風魔という名が特別だとは知っていても、その当主の名が小太郎だとは知らなかった。他ならぬ伝説の忍にしがみ付いて馬に乗っているのだが、元就はそれに気付かないし、小太郎は忍であるが故に、その間違いを正す事が出来なかった。何しろ声が出ないのだから。
万が一、敵に捕まった時、拷問などを受けても情報を漏らさないという意思表示だ。小太郎にはそもそも声が無い。どうしてそうなったのか、小太郎自身も良く知らないが、言葉どころか音も作り出せた事が無かった。だから、自分が風魔の長だと伝えたくても伝わるはずが無かった。その間違いを正しても大した事は起こらないと判断して、小太郎は諦めて馬を走らせ続ける。
そんな小太郎の様子に、忍の事に疎い元就も多少は事情が判ってきたらしい。だが「そなたは無口だな」と言ったので、単に仕事熱心な忍と思われたらしかった。
「我はな、忍というのが好かなかったのだ。……いや、仕事の内容ではなく、その……話によれば、忍とは家を持たず、主家の為に命をかけても褒賞も無いというではないか。我は失敗を犯した者の一族に罰を与えるが、それは褒賞についても同じだ。成功した者には褒賞を与える、それは当然であろう。報われると思わなければ、人殺しなどやっていけぬ」
「……」
「だがそなたらは違う。誰にも褒められず誰にも認められず、ただただ任務をこなして死んでいく。話によれば墓も無いと言うではないか。そのような、……我は好きではない。……しかしそなたらは戦いの達人でもある。……ふむ」
元就はしばらく考えて、「忍」と声をかける。
「我が毛利家を継いだなら、そなたらのような強い忍を新たに育成しようぞ。だが我は彼らに家を与えるし、褒賞も与える。一家臣として他の者達と変わらず接するぞ。そなた、我の所に来ぬか? いやなに、我は忍というのがどういう事をするのかよう知らぬ。訓練の仕方などを教えて欲しいのだが……」
元就がそう言うので、小太郎は静かに振り返った。元就は実に真剣な顔をしていて、だからこそ小太郎は僅かに笑った。
同じ事を言った人を知っている。もうその人は居ないけれど。
小太郎の笑みをどう受け取ったのやら、元就は「すまぬ」とどういう意図で言ったのか判らない言葉を返した。小太郎はまた前を向いて、そして元就の声を聞いた。
「あれでも良い主なのかもしれぬな。我にはそうは見えなかったが……ならば仕方無い」
どうやら久秀の下からは離れられない、という意味に受け取ったらしかった。それもまた誤解ではあったが、しかしそれは事実でも有るので小太郎はやはり否定しなかった。
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