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めでぃのくの日記
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2025-01-19 (Sun)
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2008-08-11 (Mon)
 さっきの続き
 完結になります
 もうちょっと書くべきかどうか……やたら時間かけてごめんなさい。

 光秀は鎌を投げ捨てて、元就へと駆けて行った。彼は地面にうつぶせに倒れていて、手はなにやら光秀に向って伸ばされているだけで、何も手にしていなかった。黒がうぞうぞと市の体に戻っていくのを避けながら、光秀は元就の側に駆け寄り、抱き起こす。

 こうやって抱き起こすのは何度目だろう、と一瞬考えて、それから光秀は元就の名を呼んだ。元就はう、と少し呻いて、それから目を開ける。不安になって着物を開いてみれば、折角手当てした傷が開いたらしく、布が血に染まっていた。光秀はすぐに布を解き、巻きなおす作業に取り掛かった。が、元就は何処かぼうっとした様子で、己の右手を見ている。

「何故、ここに来たのですか。まさかあの人が案内するわけは無いでしょう?」

「明智に言わなければならぬ事が有るから、連れて行けと頼み込んだのだ、忍に」

「忍に? それにしたところで、……どうしてこんな無理をして。……私に、言わなくてはならない事、とは?」

 ぐ、と布を引っ張りながら尋ねると、元就は眉を寄せて、苦しげに答える。

「そなたを、忘れた事は無かったのに、覚えておらなんだ……」

「……」

「我は知っておったのだ、我はそなたと出会い、そなたとの事を覚えておった。なのに、そなたがそれであると気付かなんだ。逃げたのは長曾我部で戦ったのは我だと思い込んでおった。だが良く考えてみれば、逃げたのは我で、戦ったのはそなただった……」

「貴方は逃げたわけではないでしょう。毛利家のため、貴方の望みを叶える為に、貴方なりに戦っていたではないですか」

「……」

 元就は己の右手を握ったり閉じたりしながら答える。

「本当は、知っておったし、考えた事も有るのだ。……兄や、幸松丸ではなく、我が采配を握れば、中国はより強く、より豊かになるだろうと。他の誰でもなく、我が毛利を守ろうと、思った事は有るのだ。……そうしなかったのは、……家族を愛していたのも有るかもしれぬし、……だが今考えてみると、怖かったのだ。本当は。全ての責任を、毛利を、何もかもを背負って、采配を振るうのが恐ろしかったのだ。だから我は何もしなかった、……我は逃げたのだ」

 それにな。元就は光秀を見ないまま続ける。

「そなたを忘れたのは事実だ。そなたに会っても、何も感じなかった。そなたが我を救いに来たというのに。守られている事も判らず、そなたを憎んだり疎んだり、さぞ不愉快であったろう……尤も、あの頃そなたの髪はもっと短かったし、結い上げておったから、それで判らなかったのも有ったかもしれぬが……」

「白い髪の人間など、そうそう居ません。私の後に長曾我部殿と会い、似たような会話をしたなら、そちらを覚えてしまうのは当然の事ですよ。それに私は貴方の影、貴方を憎むような事はしません」

「だが……」

「さぁ、もう喋らないで、じっとして下さい。傷口がいつまでも塞がりませんよ」

 光秀はそう言って、元就を背負い上げた。幼子が親にそうされるような格好に、元就は少し抵抗したが、やがて諦めて身を任せた。

「……そなたの背は細いな、……明智」

「なんです?」

「……我はな、日輪に認められかかったぞ」

 元就がそう言うので、光秀は僅かに振り返ったが、元就の顔は見えなかった。

「そなたを助けようと無我夢中で、何をしたのかもよう判らぬが。我は確かに、日輪より力を授かりそうになった。だが、……まだ我は、それを手にするには早いのだ。きっと。だから取り上げられてしまった。だがそれで良い気がする。まだ我の心も体も不完全で、……明智、こんな我だが、……我はもう逃げぬ。有るべき場所とやらに向かうぞ。……だから……」

 そのなんとも歯切れの悪い言葉に、光秀は小さく笑って、それから答えた。

「ええ、ずっとお側に居ますよ。影という物は、その主を選べない物なのですから、何処までも着いて行きますとも。全てが無くなるその時まで」






 お市は死に、闇は無へと戻った。壊れた物や命は元に戻らないが、傷付いた者達は癒え、立ち上がった。

 織田家は滅亡し、その主体を失い、その傘下に有った国々は続々と自由になった。だが本州側の主だった街道はお市に荒らされ、独立するには時間がかかった。

 東北では小競り合いの末に一時的な優位を得た武田が京へと下るが、そのあまりの荒廃ぶりに天下取りの話はひとまず据え置きとなり、街の復興に尽力した。結果的に民からの指示を得て、京付近の地域は武田に天下をとの動きを取った。伊達、上杉も肝心の京が荒れ果てた状態では何も出来ず、ひとまず武田に全てを任せる流れとなる。

 また中国地方は地道に復興しつつあったが、幸いな事にはあらゆる勢力から攻められる事が無かった。噂の流布により他国が侵略するのを嫌った事も有るが、何より四国長曾我部が中国制圧に動かず、さらには瀬戸内の守りを固め、結果的に西国より中国一体を守る事となった。

 そこに元就が帰還する。家臣の賛同を得て家督を受け継いだ元就は、思うがままに采配を振るう。まずは四国長曾我部と同盟関係を結び、留守中の守りを固めた事に対する礼として開港を約束した。これにより四国は本州との繋がりを持つ事が出来るようになる。

荒れた田畑や街を復興するため、ありとあらゆる人材を派遣し作業に当たらせ、時には自らが現場に赴き、平民と変わらぬ作業を行った。ただし彼は青年としては立派な体格とは言えず、結果的には大した戦力にはならなかったが、民に近い領主は好かれるというもので、次第に元就に対する評価は上がっていった。

 




 砂浜に、元親と元就が立っていた。中国に新しい主が立った祝いに、四国からも元親が土産を持って来たのだ。おかげで宴と言うより大騒ぎのほうが近い事になってしまったが、元就はそれを不愉快とは思わなかった。一通りの儀式も終わり、改めて同盟のあり方なども話し合った後、船の出港を待つ間、二人は領主としてではなく一人の人間としてようやっと話す事が出来た。

「お前も覚悟決めたって事か。……甥の事は残念だったが、こう言っちゃ悪いが死んだ人間の歳を数えても何も起こらねぇって言うからよ。……あんたも、無理すんじゃねえぞ。何か有りそうだったらこっちにも話を寄こしてくれや。まぁ10日ほど遅れちまうのは仕方無ぇが……」

「その為にもな、瀬戸内の各島に駐屯地を作ろうかと思うておる」

「へぇ、船が早く行き来出来るようにか?」

「建前は、四国を制圧する為の布石だが、実情はそうだ」

「おいおい、普通は逆じゃねえのか、そりゃあ」

 元親は眉を寄せたが、元就は東の空に眼をやって言う。

「戦が始まる。織田を失った東国は再び荒れる。次の覇者が誰になるかはまだ判らぬが、誰であろうと我に毛利を手放せと迫るならば、我は戦う。毛利を守る為に。……今しばらくは、例えその必要が有ろうと、四国を攻め入る事は出来ぬ。家臣の中にはそなたらと親睦を深める事を良しとせぬ者も居る故、建前はいずれ四国に攻め入るためと言っておるに過ぎぬ。……長曾我部、そなたも己の国を守りたければ、いましばらくは動かぬ事だ」

「信用無ぇな。俺はあんたの敵にはならない。そう約束したろ」

「他ならぬ我が多くの約束を破った。安易に信じる事が出来ぬのよ……呆れた話だ」

 元就は苦笑して、そして元親を見た。

「……そなたと戦いたくない。……そのために、我は戦おう」

「……おうよ。こっちも新しい兵器を作ってやっから、お前ら助けに行ってもびびって腰抜かすんじゃねえぞ?」

 元親が笑ったので、元就も僅かに笑んで、そして二人は別れた。







 部屋に戻ると光秀が書を読んでいた。見るとどうやら源氏物語のようで、元就は眉を寄せた。

「何も、そのような物、読まなくとも、やる事は沢山有るであろう?」

「ええ、そのやる事の一つですよ。実に興味深い。いえね、こうしてのんびりと書を読むのは久方ぶりなので……」

 光秀はそう言いながら、きりのいい所まで書を読んでからそれを閉じた。元就は光秀の側に座り、溜息を吐き出す。

「気が乗りませんか、戦は」

 問われて、元就はしばらく考えるように天井を見上げてから「そうだな」と小さく呟いた。

「毛利は、重い」

「……」

「我の采配一つで全てが終わると思うとな、……これを兄や幸松丸に押し付けたのかと思うと、……いや、……考えても仕方ない事だ、……我は償いの為にも、毛利家を守り抜こう……」

 元就は一度眼を閉じて、そして静かに息を吐き出す。

「……既に羽を汚された蝶だ、空に昇るのは容易ではないが……それでも我の側に居るのか?」

「ええ、居ますよ」

 光秀があんまりきっぱりとそう言ったものだから、元就は流石に呆れて彼を見たが、しかし何も言わないまま、また天井を見上げた。

「……空は遠いな……」

「そうですね。殆どの者はその高さ故に辿り着けぬまま死んでしまうでしょう。貴方にはその資格は与えられましたが、昇る事が出来るかは、貴方次第ですから……」

「うむ……」

「……」

「……」

「……」

「……明智」

「はい?」

 元就は光秀を見ないまま、尋ねた。

「光と闇は対となるが、……互いの関係が近いほど強まるのではないか?」

「そう思われますか?」

「でなければあの女があれほどの力を、……魔王の妹とは言え、あまりに強大だった。相応しい対は出会い、交わってこそその力を増す……そんな話が有るのではないか?」

「……有るとして、……それでどうなさるつもりです? 私と交わる、と?」

「……」

 元就はまたしばらく黙って、それから光秀を見る。困惑したような表情を浮かべていた。光秀は首を少し傾げて、彼の顔を見る。白い髪が、さらりと流れて揺れた。

「そなたが我を失って壊れぬように、……我がそなたを失って壊れぬように、互いの絆を深めるのは必要な事であろう」

「要不要の話では無いと思いますが……」

「そなたはどうなのだ。そなたは、我と交わりたいのか」

「ええ、そうですね」

 またきっぱりと言ったものだから、元就は今度は眉を寄せた。この方は存外、私の前では表情豊かな方だ、と光秀は思ったが、口にはしなかった。

「だがそなたは、我が暴漢に襲われた折、……おかしくなった我を、抱かなかったではないか」

「だって、あの時抱いていたら貴方、一生私に心を許してくれなかったでしょう? 蛇の生殺しというのを体験させていただきましたよ、あの時は、ええ、本当に」

 光秀が真面目くさった顔でそう言うので、元就は一層眉を寄せて、そして呆れたように溜息を吐いた。これ以上話しても仕方無い、という風に首を横に振って、そして手を差し出す。

「そなたがしたいようにすればよい。今の我は拒まぬぞ」

「つまり、私と交わりたいわけですか」

「そうは言わぬ」

「言っているのと変わりませんよ」

「そなたがそう思うのは自由だ」

 元就があくまで肯定しないので、今度は光秀が呆れる番だった。毛利殿、と名を呼べば、元就はまた首を振って言う。

「そなたの噂は知っておる、随分な性癖を持っておるらしいが、……我に怪我をさせぬなら、そなたの好きなようにして構わぬ。……そなたが悪いのだ、こんな我を、あんなにも必要必要と言うものだから、」

「絆されてしまったんですか」

「そうは、言っておらぬ」

「そうですね」

「……だから、……我にもそなたが、……必要になったのだ」

 元就が小さな小さな声でそれだけ言ったので、光秀は微笑んで彼の手を取った。

「私は貴方を愛しますよ。私には貴方が必要だったのです。ずっと昔から、……貴方と触れ合う日を待っていた」

「……だがそなたは大層な魔王狂いだったという」

「それはそれ、これはこれ、ですよ」

 光秀はそっと元就を自らに抱き寄せながら、言った。

「慈しむ心が有れば、壊したくなる衝動も有る、人とはそういう物でしょう? 前者を愛と言い、後者を恋と言う。私は貴方を慈しむ。……そして何かを壊す。そういうもの、なのですよ。即ち、愛すべきものを失った時、人は壊さずには居られないのです……それがなんであれ、ね……」

 元就はその答えが不服だったようで、不満そうに顔を顰めていたが、やがて諦めたように目を閉じた。互いに言葉が足りず、けれども互いに求めているものが同じならば、言葉を扱う事自体が無意味だった。元就はそろと光秀の胸に身を預け、光秀は元就の髪を梳き、優しく口付けた。

 全てはそれだけで、よかった。

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