毛利変人ネタの続き
まだ考えながら書いているので、後々色々修正するかも……
ちなみにタイトルは
僕らが諦めと共に手に入れる幸せの一つのかたち
長過ぎた
まだ考えながら書いているので、後々色々修正するかも……
ちなみにタイトルは
僕らが諦めと共に手に入れる幸せの一つのかたち
長過ぎた
この村一番の風変わりな変人は、名を毛利元就という。元親より二つ年上だ。二人の縁は小学生の頃に始まっているが、その時から既に元就は変人だった。
「まぁ、飲め」
酒でも勧めるように、元就が湯呑みへ麦茶を注ぐ。それは麦茶と呼ぶには、あまりに黒かった。元親は苦笑して一口飲み、それから「聞いてないのか」と問う。
「何をだ?」
「俺の事だよ」
「我に誰が話しかける? 猫も雀もそんな事は一つも言わない。せいぜい雀が死んだ事ぐらいしか知らぬわ」
そう言って部屋の隅に目をやる。羽と足は、雀のものらしい。元親は小さく笑って、「じゃあ話すよ」と湯呑みを置いた。
「何から話そうかな。そうだ、俺、CD出したんだぜ。知ってたか?」
「それは知っている。そなたの母が、我の所へ持って来た」
「どうだった?」
「そなたは歌が上手いな」
元就はそれだけしか感想を言わなかった。
「……他に何か、無ぇの?」
「すまぬが、我は音楽の事がよく判らぬ。ただそなたの声は綺麗で好きだ」
「……そっか。それで……でもCDは殆ど売れなくてさ。だから食いつなぐために仕事をしたんだ。バイトな。いい所だったけど……そこで事故を起こして、……それで左目を持って行かれちまった」
元親はそう言って、何故か笑ってしまった。事実を説明するのは簡単だ。そしてつまらない。自分が落ち込みきっているのが、馬鹿らしくなった。けれど元就は、深く眉を寄せている。
「毛利?」
「……可哀想に」
同情の言葉は、不思議と不愉快なものではなかった。元就の表情は辛そうで、本気で悲しんでいるのが判る。彼はずいと元親の側に来て、その頬に触れた。
「痛むのか?」
「いや、もう大丈夫だよ」
眼帯にそろりと元就が触れ、そして迷い無く、その上に口付けた。
「……我がかの子であったなら、そなたの全てを癒してやれるだろうに……」
可哀想に、何故そなたがこんな思いを……。しかし定めには従わねばならぬ。仕方ない事とは言え……我は悲しい。悲しくてたまらぬ。しかしな、長曾我部……我は、……我は嬉しい。そなたとこうして、また会えた事が……。
元就の言葉は静かで、真摯で。元親は嫌な気持ちにはならなかった。ただ元就が柔らかく抱き寄せるので、それに任せた。
心地よかった。元就は何も隠さない。上辺の取り繕いに疲れた元親には、その胸や手は温かくてたまらなかった。
「そなたの心だけでも癒せれば良いが。我の手や言葉が、少しでも役に立てば良いのだが……」
背中を撫でられて、元親は微笑む。この場所はいつも温かい。元就は静かで冷たいのに、どこか柔らかくて温かい。いつもそうだった。いつでも、元就は何故か、優しかった。
+
元就と初めて会った時、元親はまだ小学4年生だった。
家系的に白い髪である元親は、この小さな村でのびのびと育っていた。何も無い村に、元就は唐突に現れた。
都会から毛利弘元という男、つまり元就の父がやって来て、裏山の一軒家を畑ごと買い叩いて、リフォームし、そこに子供を連れて来て、住み始めた。弘元は村人と交流しなかったし、元就は学校に行かなかったから、たちまち村中が彼らを厄介な余所者とみなした。
元親はまだそういったしがらみに無頓着なままだった。夏休みのある日、ぶらぶら散歩をしていると、とても綺麗な青い鳥を見つけた。鳥が毛利家の敷地に飛んだのを追いかけて、彼は元就の家にたどり着いた。
二階建ての古い家、プレハブで出来た納屋が二つ、荒れ地のような畑、庭。その草むらの中に、少年が居た。元親は眼が合った時、彼を妖怪か何かだと思った。彼は作務衣を着ていて、こちらをじっと見つめている。
ふいに先ほどの青い鳥が、少年の前の草むらに消えた。少年はそちらを見て、それから元親を手招いた。元親はそれに素直に従う。何故か、そこに行けば良い事が有ると感じていた。
少年は草むらの中に座り込んで、上を見ていた。元親もそちらを見ると、大木の上に巣が有る。そこに青い鳥が居て、甲高い声で鳴いたり、羽をつついたりしていた。
「もっと近くで見れないかな」
元親はそう言ったが、少年は首を振った。
「これぐらいの距離で見るのが、一番良い。近ければ彼らは警戒してしまう。それに、手に届かない物ほど、綺麗な宝物に見えるものだ。こうして眺めるのが、一番楽しい事なのだぞ」
元親はまだ子供の仲間であったから、欲しい物は手に入れるのが、一番楽しい事だと思っていた。だから彼の言葉は意外で、けれどなぜだか納得出来て、元親は彼と一緒に鳥を眺め続けた。
「そなた、名は?」
ふいに少年が尋ねたので、元親は素直に名乗る。
「長曾我部元親」
「ちょ……ちか」
「長曾我部元親」
「そうか」
判ったのか諦めたのか、少年はうなづいて「我は毛利元就」と言う。
「毛利」
「そうだ」
「毛利はなんで学校に来ないんだ?」
元親もその存在を知っていたから、ずっと疑問だった。それをぶつけてみると、元就は元親を見て言う。
「では何故、そなたは学校に行く? そして何故、我が学校に来ない事を疑問に思う? 行きたくないからに決まっておるではないか」
元就はそう言うと笑って、「まあ、上がれ」と元親を家に招いた。
+
ふいに目覚めると、日が暮れかけていた。元就はキッチンに立ち、ありとあらゆる雑草を鍋に放り込んでいる。元親はのろのろと起き上がって、「悪い」と声をかける。
「寝ちまったみてえだな」
「気にする事はない。この家の居間には、眠りの妖怪が住んでおるのだ。睡魔というてな。猫だろうが蛇だろうが、上がってきてはうとうとしておる。……それより、早う帰れ。日が暮れたら帰れぬぞ」
元就はそう言って振り返る。元親は改めて彼をよく見た。顔付きは大人になっていて、少々鋭い。まさかこんな素っ頓狂な事ばかり言う変人のようには見えなかった。髪は自分で切っていると言っていた。最初は酷かったので、元親が切ってやった事もある。今は誰か切っているのか、それとも上手くなったのか、髪は不自然ではなかった。
「毛利、俺……帰りたくない」
「ほう」
「あそこに居ると、息が詰まる」
「ここに居るとそうではないと? 喘息の類なら悪化しそうなものだがな。親戚連中は我の暮らしぶりを見て、悲鳴を上げておったぞ。不衛生この上ないとな」
「……泊めてくれないか」
「良いぞ」
わざとはぐらかしたのに、頼めば拒みはしなかった。そういうところが、元就の優しさだと元親は思っている。元就はいつも、何事も拒みはしなかった。それがとてもありがたい。彼は嫌な事は嫌とはっきり言う人間だったから、勘ぐる必要が無かった。
「なら、電話でもかけておけ。親に心配をかけさせてはならぬ」
「ああ……ああでも、番号忘れちまったな……」
「4511だ。死後いい」
「あー、そうだった。光秀の野郎のおかげで、随分覚えやすい番号になっちまったんだったな……」
元親はそう苦笑して、電話の前に座る。元就はまた正体不明の鍋を混ぜ始めた。その背中に、おそるおそる声をかけた。
「毛利」
「何だ」
「ここに泊めさせてもらうって事は、その……その、……いいんだよな」
「交尾か? かまわんぞ」
元就は相変わらず色気の欠片も無い答えを返して、元親はまた苦笑した。
キスをしたのも、性行為に準ずるものをしたのも、元就が初めてだったのに、彼は気にした様子も無く、元親をいつでも受け入れた。「そういう時期が来たら、動物は交尾をするものだ」とそれだけ答えて、拒まなかった。その割に彼の指や手は震えたから、元親は彼が本当は色んな事を恐れているのだと、そのとき初めて知った。
+++
行ったり来たりすると読みにくいかもしれないんですが。
「まぁ、飲め」
酒でも勧めるように、元就が湯呑みへ麦茶を注ぐ。それは麦茶と呼ぶには、あまりに黒かった。元親は苦笑して一口飲み、それから「聞いてないのか」と問う。
「何をだ?」
「俺の事だよ」
「我に誰が話しかける? 猫も雀もそんな事は一つも言わない。せいぜい雀が死んだ事ぐらいしか知らぬわ」
そう言って部屋の隅に目をやる。羽と足は、雀のものらしい。元親は小さく笑って、「じゃあ話すよ」と湯呑みを置いた。
「何から話そうかな。そうだ、俺、CD出したんだぜ。知ってたか?」
「それは知っている。そなたの母が、我の所へ持って来た」
「どうだった?」
「そなたは歌が上手いな」
元就はそれだけしか感想を言わなかった。
「……他に何か、無ぇの?」
「すまぬが、我は音楽の事がよく判らぬ。ただそなたの声は綺麗で好きだ」
「……そっか。それで……でもCDは殆ど売れなくてさ。だから食いつなぐために仕事をしたんだ。バイトな。いい所だったけど……そこで事故を起こして、……それで左目を持って行かれちまった」
元親はそう言って、何故か笑ってしまった。事実を説明するのは簡単だ。そしてつまらない。自分が落ち込みきっているのが、馬鹿らしくなった。けれど元就は、深く眉を寄せている。
「毛利?」
「……可哀想に」
同情の言葉は、不思議と不愉快なものではなかった。元就の表情は辛そうで、本気で悲しんでいるのが判る。彼はずいと元親の側に来て、その頬に触れた。
「痛むのか?」
「いや、もう大丈夫だよ」
眼帯にそろりと元就が触れ、そして迷い無く、その上に口付けた。
「……我がかの子であったなら、そなたの全てを癒してやれるだろうに……」
可哀想に、何故そなたがこんな思いを……。しかし定めには従わねばならぬ。仕方ない事とは言え……我は悲しい。悲しくてたまらぬ。しかしな、長曾我部……我は、……我は嬉しい。そなたとこうして、また会えた事が……。
元就の言葉は静かで、真摯で。元親は嫌な気持ちにはならなかった。ただ元就が柔らかく抱き寄せるので、それに任せた。
心地よかった。元就は何も隠さない。上辺の取り繕いに疲れた元親には、その胸や手は温かくてたまらなかった。
「そなたの心だけでも癒せれば良いが。我の手や言葉が、少しでも役に立てば良いのだが……」
背中を撫でられて、元親は微笑む。この場所はいつも温かい。元就は静かで冷たいのに、どこか柔らかくて温かい。いつもそうだった。いつでも、元就は何故か、優しかった。
+
元就と初めて会った時、元親はまだ小学4年生だった。
家系的に白い髪である元親は、この小さな村でのびのびと育っていた。何も無い村に、元就は唐突に現れた。
都会から毛利弘元という男、つまり元就の父がやって来て、裏山の一軒家を畑ごと買い叩いて、リフォームし、そこに子供を連れて来て、住み始めた。弘元は村人と交流しなかったし、元就は学校に行かなかったから、たちまち村中が彼らを厄介な余所者とみなした。
元親はまだそういったしがらみに無頓着なままだった。夏休みのある日、ぶらぶら散歩をしていると、とても綺麗な青い鳥を見つけた。鳥が毛利家の敷地に飛んだのを追いかけて、彼は元就の家にたどり着いた。
二階建ての古い家、プレハブで出来た納屋が二つ、荒れ地のような畑、庭。その草むらの中に、少年が居た。元親は眼が合った時、彼を妖怪か何かだと思った。彼は作務衣を着ていて、こちらをじっと見つめている。
ふいに先ほどの青い鳥が、少年の前の草むらに消えた。少年はそちらを見て、それから元親を手招いた。元親はそれに素直に従う。何故か、そこに行けば良い事が有ると感じていた。
少年は草むらの中に座り込んで、上を見ていた。元親もそちらを見ると、大木の上に巣が有る。そこに青い鳥が居て、甲高い声で鳴いたり、羽をつついたりしていた。
「もっと近くで見れないかな」
元親はそう言ったが、少年は首を振った。
「これぐらいの距離で見るのが、一番良い。近ければ彼らは警戒してしまう。それに、手に届かない物ほど、綺麗な宝物に見えるものだ。こうして眺めるのが、一番楽しい事なのだぞ」
元親はまだ子供の仲間であったから、欲しい物は手に入れるのが、一番楽しい事だと思っていた。だから彼の言葉は意外で、けれどなぜだか納得出来て、元親は彼と一緒に鳥を眺め続けた。
「そなた、名は?」
ふいに少年が尋ねたので、元親は素直に名乗る。
「長曾我部元親」
「ちょ……ちか」
「長曾我部元親」
「そうか」
判ったのか諦めたのか、少年はうなづいて「我は毛利元就」と言う。
「毛利」
「そうだ」
「毛利はなんで学校に来ないんだ?」
元親もその存在を知っていたから、ずっと疑問だった。それをぶつけてみると、元就は元親を見て言う。
「では何故、そなたは学校に行く? そして何故、我が学校に来ない事を疑問に思う? 行きたくないからに決まっておるではないか」
元就はそう言うと笑って、「まあ、上がれ」と元親を家に招いた。
+
ふいに目覚めると、日が暮れかけていた。元就はキッチンに立ち、ありとあらゆる雑草を鍋に放り込んでいる。元親はのろのろと起き上がって、「悪い」と声をかける。
「寝ちまったみてえだな」
「気にする事はない。この家の居間には、眠りの妖怪が住んでおるのだ。睡魔というてな。猫だろうが蛇だろうが、上がってきてはうとうとしておる。……それより、早う帰れ。日が暮れたら帰れぬぞ」
元就はそう言って振り返る。元親は改めて彼をよく見た。顔付きは大人になっていて、少々鋭い。まさかこんな素っ頓狂な事ばかり言う変人のようには見えなかった。髪は自分で切っていると言っていた。最初は酷かったので、元親が切ってやった事もある。今は誰か切っているのか、それとも上手くなったのか、髪は不自然ではなかった。
「毛利、俺……帰りたくない」
「ほう」
「あそこに居ると、息が詰まる」
「ここに居るとそうではないと? 喘息の類なら悪化しそうなものだがな。親戚連中は我の暮らしぶりを見て、悲鳴を上げておったぞ。不衛生この上ないとな」
「……泊めてくれないか」
「良いぞ」
わざとはぐらかしたのに、頼めば拒みはしなかった。そういうところが、元就の優しさだと元親は思っている。元就はいつも、何事も拒みはしなかった。それがとてもありがたい。彼は嫌な事は嫌とはっきり言う人間だったから、勘ぐる必要が無かった。
「なら、電話でもかけておけ。親に心配をかけさせてはならぬ」
「ああ……ああでも、番号忘れちまったな……」
「4511だ。死後いい」
「あー、そうだった。光秀の野郎のおかげで、随分覚えやすい番号になっちまったんだったな……」
元親はそう苦笑して、電話の前に座る。元就はまた正体不明の鍋を混ぜ始めた。その背中に、おそるおそる声をかけた。
「毛利」
「何だ」
「ここに泊めさせてもらうって事は、その……その、……いいんだよな」
「交尾か? かまわんぞ」
元就は相変わらず色気の欠片も無い答えを返して、元親はまた苦笑した。
キスをしたのも、性行為に準ずるものをしたのも、元就が初めてだったのに、彼は気にした様子も無く、元親をいつでも受け入れた。「そういう時期が来たら、動物は交尾をするものだ」とそれだけ答えて、拒まなかった。その割に彼の指や手は震えたから、元親は彼が本当は色んな事を恐れているのだと、そのとき初めて知った。
+++
行ったり来たりすると読みにくいかもしれないんですが。
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