かくかくうしうしだった。なに新年早々全力で間違えてんだ。
次で終わりだなーたぶん
以下、昨日の続き
次で終わりだなーたぶん
以下、昨日の続き
「……は? い、意味が、判んねぇ」
元親はうろたえた。元就の方は、静かにテーブルに戻る。床に座り、一度元親を見て、そして今度は少し俯いた。視線は、テーブルの上か、あるいはその間に向けられている。
「そなたは、知らなかったし、知ろうとしなかった」
「何、」
「そなたは我の事を何も知らなかったし、知ろうとしなかった。それが、我にとっては何よりも救いだったのだ」
元親は元就の言っている事があまり判らなかった。ただ、自分が誰の事も特に知ろうとしなかったのは確かだ。元就の事に限った話ではない。誰にも興味が無かった。自分が好きだったのだ。誰からも愛される自分だけが好きだった。金さえばらまいていれば、皆愛してくれた。だから誰の事も知らないといえばそうだった。
と、元就の事を少しだけ思い出した。
元親が声をかけるまで、元就は誰とも話さなかったし、一定の距離を保っていた。クラスが一緒になって、最初に話しかけるまで、教師以外と話している所を見た事が無かった。文化祭の出し物について、元親が元就に尋ねたのが、教師以外と初めて喋った時だった。
そう言われてみれば、と元親は思う。その少し後に、クラスの他の人間が、「アニキ、毛利さんも呼ぶんですか?」とわざわざ尋ねて来た。良く考えてみれば、歓迎していないような響きだった。元親は自分が愛される事が一番だったので、元就が他の人間にどう思われていても関係無かった。だから特に何も思わなかったが、もしかしたら、何か有ったのかもしれない、と元親は考えた。
そしてその考えは当たっていた。
「そなたは知らなかっただろうが、我は幼い頃から避けられていた」
「……なんで?」
「……」
元就は一度溜息を吐いてから、静かに言う。
「一家が、心中したのだ。それも、正気とはとても思えぬやり方だった。我は、ただ一人生き残ってしまった」
「……」
「普通なら悲劇の孤児だ。だが心中の仕方が、……とても正気とは思えぬやり方だった。だから、そう、我の家庭が、我らの血が、歪んでいるのだと、穢れているのだと世間は決めた。そうでなければ、何も変わらぬ平凡な家庭が、男が、人格が、あれほど簡単に狂ってしまうと認める事になる。そんな事は出来ぬ。人は、己の持つ僅かな平和を守り、信じなければならない。そのために、我の家庭が、血が、おかしかったのだと結論付けるしかなかった。
我は幸い祖父に引き取られた。苛めや迫害などは無かった。ただ皆、平等に我を避けた。我に関わると、我の穢れが移ると信じて。我を傷付ければ、報復されると信じて。だから彼らは我を苛めはしなかった。ただ距離を保った。常に安全な距離をな。……子供の頃からずっとそうだった。だから、ずっとそうなのだと信じていた。我もまた、彼らとの距離を保って生きていた。ずっとそうして生きていくのだと信じていたのだ。……そなたが、我に話しかけるまでは、な……」
元就は一度ちらと元親を見て、また虚空を見つめる。
「そなたは良くも悪くも自由で、我をその世界に連れ出そうとした。それはそれほど強い力ではなかったが、けれどそれまでの我には見えなかったものを、見せてくれた。今までは諦めていたものが、もしかしたら、手に入るのかも知れないと、思えた。……それまでの我は自棄になっていて、何もかも嫌になっていたのだ。けれど、そなたとの短い時間の中に、我は希望を見出せた。真っ当な生き方を貫いて、幸せになる権利ぐらいは、我にも有るのだと思えた。……我にとっては大きな変化だった。
大学にも行こうという気になったし、努力をする気にもなった。田舎を離れたら噂も効力を失い、人付き合いも出来るようになった。全てはそなたが、そなたが教えてくれたのだ」
「でも、俺は大した事、」
「そなたにとっては大した事ではなかったかも知れぬ。だがな、長曾我部。居場所を与えられ、許される事はとてつもなく幸せな事だ。そなたが、大した仲でも無い我に泣いて縋るほどに」
元親は「でも、」と繰り返したが、それ以上言葉が出ない。元就は元親が返そうとした封筒を、また元親に渡しながら言う。
「長曾我部。そなたがどう思っていようと、そなたは我の大切な恩人だ。その恩人が今まさに、窮地に陥っている。そんな様を見て、我が何もせずにいれると思うか? 我に出来る事ならなんでもしたい。ここに居たいなら居てもいい、金が無いなら出してもいい。ただ、我に用意出来るそれは、そなたが持っていた物の比ではない。我は無力だが、そなたに応えたい、何かをしたいのだ」
「……」
「それに長曾我部、今は皆、うろたえておる。時が経てば、皆そなたへの態度を決める事が出来る。今はまだ、決めかねているのだ。我は既に決まっていた、それだけだ。そなたはそなたが思っているほど一人ぼっちではない。少なくとも、我はそなたを受け入れる。……長曾我部、状況を変えるには、自らが変わらねばならぬ。そなたがそなたの態度を決めなければ、他も決める事が出来ぬ。……そなたの立場を決めるためにも、そなたはこの金で、田舎に帰るのだ。その結果、どうなろうと、我はそなたの味方だ。頼りにはならぬかもしれぬが、な……」
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元親はうろたえた。元就の方は、静かにテーブルに戻る。床に座り、一度元親を見て、そして今度は少し俯いた。視線は、テーブルの上か、あるいはその間に向けられている。
「そなたは、知らなかったし、知ろうとしなかった」
「何、」
「そなたは我の事を何も知らなかったし、知ろうとしなかった。それが、我にとっては何よりも救いだったのだ」
元親は元就の言っている事があまり判らなかった。ただ、自分が誰の事も特に知ろうとしなかったのは確かだ。元就の事に限った話ではない。誰にも興味が無かった。自分が好きだったのだ。誰からも愛される自分だけが好きだった。金さえばらまいていれば、皆愛してくれた。だから誰の事も知らないといえばそうだった。
と、元就の事を少しだけ思い出した。
元親が声をかけるまで、元就は誰とも話さなかったし、一定の距離を保っていた。クラスが一緒になって、最初に話しかけるまで、教師以外と話している所を見た事が無かった。文化祭の出し物について、元親が元就に尋ねたのが、教師以外と初めて喋った時だった。
そう言われてみれば、と元親は思う。その少し後に、クラスの他の人間が、「アニキ、毛利さんも呼ぶんですか?」とわざわざ尋ねて来た。良く考えてみれば、歓迎していないような響きだった。元親は自分が愛される事が一番だったので、元就が他の人間にどう思われていても関係無かった。だから特に何も思わなかったが、もしかしたら、何か有ったのかもしれない、と元親は考えた。
そしてその考えは当たっていた。
「そなたは知らなかっただろうが、我は幼い頃から避けられていた」
「……なんで?」
「……」
元就は一度溜息を吐いてから、静かに言う。
「一家が、心中したのだ。それも、正気とはとても思えぬやり方だった。我は、ただ一人生き残ってしまった」
「……」
「普通なら悲劇の孤児だ。だが心中の仕方が、……とても正気とは思えぬやり方だった。だから、そう、我の家庭が、我らの血が、歪んでいるのだと、穢れているのだと世間は決めた。そうでなければ、何も変わらぬ平凡な家庭が、男が、人格が、あれほど簡単に狂ってしまうと認める事になる。そんな事は出来ぬ。人は、己の持つ僅かな平和を守り、信じなければならない。そのために、我の家庭が、血が、おかしかったのだと結論付けるしかなかった。
我は幸い祖父に引き取られた。苛めや迫害などは無かった。ただ皆、平等に我を避けた。我に関わると、我の穢れが移ると信じて。我を傷付ければ、報復されると信じて。だから彼らは我を苛めはしなかった。ただ距離を保った。常に安全な距離をな。……子供の頃からずっとそうだった。だから、ずっとそうなのだと信じていた。我もまた、彼らとの距離を保って生きていた。ずっとそうして生きていくのだと信じていたのだ。……そなたが、我に話しかけるまでは、な……」
元就は一度ちらと元親を見て、また虚空を見つめる。
「そなたは良くも悪くも自由で、我をその世界に連れ出そうとした。それはそれほど強い力ではなかったが、けれどそれまでの我には見えなかったものを、見せてくれた。今までは諦めていたものが、もしかしたら、手に入るのかも知れないと、思えた。……それまでの我は自棄になっていて、何もかも嫌になっていたのだ。けれど、そなたとの短い時間の中に、我は希望を見出せた。真っ当な生き方を貫いて、幸せになる権利ぐらいは、我にも有るのだと思えた。……我にとっては大きな変化だった。
大学にも行こうという気になったし、努力をする気にもなった。田舎を離れたら噂も効力を失い、人付き合いも出来るようになった。全てはそなたが、そなたが教えてくれたのだ」
「でも、俺は大した事、」
「そなたにとっては大した事ではなかったかも知れぬ。だがな、長曾我部。居場所を与えられ、許される事はとてつもなく幸せな事だ。そなたが、大した仲でも無い我に泣いて縋るほどに」
元親は「でも、」と繰り返したが、それ以上言葉が出ない。元就は元親が返そうとした封筒を、また元親に渡しながら言う。
「長曾我部。そなたがどう思っていようと、そなたは我の大切な恩人だ。その恩人が今まさに、窮地に陥っている。そんな様を見て、我が何もせずにいれると思うか? 我に出来る事ならなんでもしたい。ここに居たいなら居てもいい、金が無いなら出してもいい。ただ、我に用意出来るそれは、そなたが持っていた物の比ではない。我は無力だが、そなたに応えたい、何かをしたいのだ」
「……」
「それに長曾我部、今は皆、うろたえておる。時が経てば、皆そなたへの態度を決める事が出来る。今はまだ、決めかねているのだ。我は既に決まっていた、それだけだ。そなたはそなたが思っているほど一人ぼっちではない。少なくとも、我はそなたを受け入れる。……長曾我部、状況を変えるには、自らが変わらねばならぬ。そなたがそなたの態度を決めなければ、他も決める事が出来ぬ。……そなたの立場を決めるためにも、そなたはこの金で、田舎に帰るのだ。その結果、どうなろうと、我はそなたの味方だ。頼りにはならぬかもしれぬが、な……」
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二人とも変態。永遠の中二病。
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