ほんといろいろもうしわけない
こいつは、おかしい。
元親は元就の隣で、ぼうっとテレビを見つめながら、ただそう思った。
こいつは、おかしい。世間様とやらの評価は実に正しい。こいつの頭はおかしいんだ。皆が決めたように、こいつに流れた血のせいかもしれないし、あるいは世間様がそう迫害する事によって、自然とこいつが歪んでいったのかもしれない。もしくは、歪みかけていたこいつに最後のとどめをさしちまったのは、俺かもしれない。いずれにしろ、こいつはおかしい。
テレビは大晦日の天気を伝えている。幸い、晴れそうだ。ただ酷く冷え込む。雪になるかもしれない。
こいつがおかしいんじゃなけりゃあ、世間がおかしい。毛利にとって俺はそこまでして守るべき存在か? こいつにとっちゃこの金だって大金だろう。同じ部屋に他人を入れるのは嫌だろう。そうじゃねぇのか。なんでこいつは俺を助ける? おかしいから、それ以外に理由が有るのか?
料理番組が始まった。簡単おせちの作り方。そうだ、おせちを作らないと、と元親は思う。
正月まではここに居させてもらって、それで、正月を越したらさっさと出て行こう。こんなおかしい奴とは、おさらばして、……して。
元親は元就を見る。彼はまた何処とも知れない空間を見つめて、テレビの事は見ていないようだった。それは単に、彼の癖らしい。人の顔や、あるいは全てのものを、はっきり見る事が出来ないのだ。だから他人から見ると、少し不気味だが、それはただの癖というだけで。
……俺が、おかしいのかな。
元親はふいにそう思った。
これだけ世話になって、こんなに愛されてるし、心配してくれてる、たった一人の人間を、こんな風に思っちまう、俺がおかしいのかもしれない。そうだ、毛利だって言ってたじゃねぇか、俺の思うようにすればいいって。だったら、今までの俺と同じように、毛利と接しなけりゃあ、毛利に失礼だ。こんなに俺の事を好いてくれるのに。好かれるのは好きだ。だから俺も、毛利を好かなけりゃいけねぇ。
「毛利」
「ん?」
「毛利、栗きんとん好き?」
元親に問われて、元就は僅かに笑んで、好きだ、と小さく頷いた。
結局、元親は元就から金を受け取った。必ず返す、と約束して。元就は返さなくていいと言ったが、元親は譲らなかった。これ以上、何かに甘えるわけにはいかない、と。さらに、生きていく方法を教えてくれと頼んだ。例えば金を手に入れる方法、働く方法、金を貯める方法、あるいは払う方法。
元就は幸いな事に経済学を知っていた。元就は元親に丁寧に経済を解き、生き方を教えた。それは随分と元就らしく偏った内容だったが、それでも無いよりはましだった。元親は生まれて初めて、金は条件が整わないと湧き出てこないのだと知った。
元親はそのお礼にと、料理をした。元就は大層な倹約家だったが、行き過ぎている節も有る。放っておくと二食しか食べていなかったり、その栄養がかなり偏っていたりした。作り貯めもしているようだが、酷い味で元親は呆れた。以来、毎食元親がキッチンに立った。
そうこうしているうちに、大晦日になった。
朝から二人でお節を作る事にした。元就は作った事も無いし、とても不器用だったので、元親は大いに笑わされた。元就もつられて笑って、それで元親は始めて、彼の笑う顔を見た。
こんな風に笑えるんだ、本当は。
元親はなんとなく嬉しい気持ちになって、何故だか、大丈夫だと思えるようになった。何が大丈夫なのか判らない。何も変わってないし、金は無い。両親の安否も判らない、明日がどうなるかも判らない。
だのに、何故だか、大丈夫だと感じた。
年越し蕎麦は、夕飯にするというので、元親もそれに従った。蕎麦を茹でて、二人して年末のテレビを見る。歌を聴き、格闘技を見、時折二人してああでもないこうでもないと批評し、笑った。
楽しかった。元親は己を深く恥じた。少しでも、こいつをおかしいと、こいつから離れるべきだと思った俺がおかしかったのだ、と。こいつは普通だ。ちょっと変なところが有るのは、誰だって一緒だ。だとしたら毛利もまた、ただの普通の男なのだ。そして、たぶん自分も。
なら、きっとなんとかなる。
元親は何度も繰り返し、そう思った。きっと、なんとかなる。恐らく。そうしたいと思うなら。
のんびりしている間に、カウントダウンが始まってしまった。元親は例年と変わらず、大声でカウントダウンに参加した。元就はあっけにとられていたが、ついにカウントが終わり、元親が「ハッピーニューイヤー!」と叫ぶと、苦笑して、「明けましておめでとう」と言い。
「そなたにとってこの年が、良き物になるように」
元就はそう微笑み。元親はそんな元就を抱きしめて言った。
「毛利が居てくれれば、きっとそうなる。悪い思いは全部去年に置き去りだ。俺、なんとかなるよ、なんとかするよ。だから毛利、そん時に側に居てくれ、こんな俺だけど、こんなダメな俺だけど、きっと、きっとなんとかするよ」
元就はまた少しだけ笑って、元親の頭を撫でた。
「そなたほど素晴らしい男、そうは居らぬ。誇りに思え。そなたはそなたらしく在ればいい。我はそれを受け入れる。……そうだな。きっとなんとかなる。我も、手伝う故。今年は……良い年になる、長曾我部」
元親もまた笑って、テレビを見た。
年が、明けたのだ。
+++
この後の毛利と長曾我部の運命とか考えたら
死ぬほど暗い気持ちになったので
明るく終わってみました
新年早々なんちゅーもんをかいとんのだ
元親は元就の隣で、ぼうっとテレビを見つめながら、ただそう思った。
こいつは、おかしい。世間様とやらの評価は実に正しい。こいつの頭はおかしいんだ。皆が決めたように、こいつに流れた血のせいかもしれないし、あるいは世間様がそう迫害する事によって、自然とこいつが歪んでいったのかもしれない。もしくは、歪みかけていたこいつに最後のとどめをさしちまったのは、俺かもしれない。いずれにしろ、こいつはおかしい。
テレビは大晦日の天気を伝えている。幸い、晴れそうだ。ただ酷く冷え込む。雪になるかもしれない。
こいつがおかしいんじゃなけりゃあ、世間がおかしい。毛利にとって俺はそこまでして守るべき存在か? こいつにとっちゃこの金だって大金だろう。同じ部屋に他人を入れるのは嫌だろう。そうじゃねぇのか。なんでこいつは俺を助ける? おかしいから、それ以外に理由が有るのか?
料理番組が始まった。簡単おせちの作り方。そうだ、おせちを作らないと、と元親は思う。
正月まではここに居させてもらって、それで、正月を越したらさっさと出て行こう。こんなおかしい奴とは、おさらばして、……して。
元親は元就を見る。彼はまた何処とも知れない空間を見つめて、テレビの事は見ていないようだった。それは単に、彼の癖らしい。人の顔や、あるいは全てのものを、はっきり見る事が出来ないのだ。だから他人から見ると、少し不気味だが、それはただの癖というだけで。
……俺が、おかしいのかな。
元親はふいにそう思った。
これだけ世話になって、こんなに愛されてるし、心配してくれてる、たった一人の人間を、こんな風に思っちまう、俺がおかしいのかもしれない。そうだ、毛利だって言ってたじゃねぇか、俺の思うようにすればいいって。だったら、今までの俺と同じように、毛利と接しなけりゃあ、毛利に失礼だ。こんなに俺の事を好いてくれるのに。好かれるのは好きだ。だから俺も、毛利を好かなけりゃいけねぇ。
「毛利」
「ん?」
「毛利、栗きんとん好き?」
元親に問われて、元就は僅かに笑んで、好きだ、と小さく頷いた。
結局、元親は元就から金を受け取った。必ず返す、と約束して。元就は返さなくていいと言ったが、元親は譲らなかった。これ以上、何かに甘えるわけにはいかない、と。さらに、生きていく方法を教えてくれと頼んだ。例えば金を手に入れる方法、働く方法、金を貯める方法、あるいは払う方法。
元就は幸いな事に経済学を知っていた。元就は元親に丁寧に経済を解き、生き方を教えた。それは随分と元就らしく偏った内容だったが、それでも無いよりはましだった。元親は生まれて初めて、金は条件が整わないと湧き出てこないのだと知った。
元親はそのお礼にと、料理をした。元就は大層な倹約家だったが、行き過ぎている節も有る。放っておくと二食しか食べていなかったり、その栄養がかなり偏っていたりした。作り貯めもしているようだが、酷い味で元親は呆れた。以来、毎食元親がキッチンに立った。
そうこうしているうちに、大晦日になった。
朝から二人でお節を作る事にした。元就は作った事も無いし、とても不器用だったので、元親は大いに笑わされた。元就もつられて笑って、それで元親は始めて、彼の笑う顔を見た。
こんな風に笑えるんだ、本当は。
元親はなんとなく嬉しい気持ちになって、何故だか、大丈夫だと思えるようになった。何が大丈夫なのか判らない。何も変わってないし、金は無い。両親の安否も判らない、明日がどうなるかも判らない。
だのに、何故だか、大丈夫だと感じた。
年越し蕎麦は、夕飯にするというので、元親もそれに従った。蕎麦を茹でて、二人して年末のテレビを見る。歌を聴き、格闘技を見、時折二人してああでもないこうでもないと批評し、笑った。
楽しかった。元親は己を深く恥じた。少しでも、こいつをおかしいと、こいつから離れるべきだと思った俺がおかしかったのだ、と。こいつは普通だ。ちょっと変なところが有るのは、誰だって一緒だ。だとしたら毛利もまた、ただの普通の男なのだ。そして、たぶん自分も。
なら、きっとなんとかなる。
元親は何度も繰り返し、そう思った。きっと、なんとかなる。恐らく。そうしたいと思うなら。
のんびりしている間に、カウントダウンが始まってしまった。元親は例年と変わらず、大声でカウントダウンに参加した。元就はあっけにとられていたが、ついにカウントが終わり、元親が「ハッピーニューイヤー!」と叫ぶと、苦笑して、「明けましておめでとう」と言い。
「そなたにとってこの年が、良き物になるように」
元就はそう微笑み。元親はそんな元就を抱きしめて言った。
「毛利が居てくれれば、きっとそうなる。悪い思いは全部去年に置き去りだ。俺、なんとかなるよ、なんとかするよ。だから毛利、そん時に側に居てくれ、こんな俺だけど、こんなダメな俺だけど、きっと、きっとなんとかするよ」
元就はまた少しだけ笑って、元親の頭を撫でた。
「そなたほど素晴らしい男、そうは居らぬ。誇りに思え。そなたはそなたらしく在ればいい。我はそれを受け入れる。……そうだな。きっとなんとかなる。我も、手伝う故。今年は……良い年になる、長曾我部」
元親もまた笑って、テレビを見た。
年が、明けたのだ。
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二人とも変態。永遠の中二病。
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