リクエスト頂いたので昨日の続きです
今年も一年ありがとうございました!!!
今年も一年ありがとうございました!!!
元就の部屋はワンルームで、お世辞にも広いわけではなかったのに、元親の部屋よりもずっと広々として見えた。家具が殆ど無いのだ。学生寮には元々備え付けてある物も多いが、それ以外に個人で買い足した物があまり無い。セミダブルのベッドの上に、掛け布団がきちんと畳んである。タンスやクローゼットは無く、壁にかけるかカラーボックスに押し込んで終わりのようだ。
二人は一緒に元就の部屋に入る。すぐ元就は元親にシャワーを浴びるように促した。でもお前は、と反論すると、そんなびしょぬれで部屋に上がられては困ると言われ、合えなくバスルームに追いやられた。
仕方なくシャワーを浴びる。安っぽいシャンプーを使い、何も無かったので手で石鹸を泡立てて体を洗った。シャワーを終えて外を見ると、ただのタオルが2枚と、バスローブが一枚置かれている。
タオルを駆使して水気を切り、バスローブを羽織る。少し小さくて、脚が飛び出した。すぐ側で洗濯機が廻っている。服を洗ってくれているようだった。
部屋に戻ると、ベッドの上に腰掛けて、元就はテレビを見ていた。正月前のテレビ番組は酷く明るくどうしようもなく中身が無い。元就はテレビの方を見ていたが、番組を見ているようではなかった。声をかけるとすぐに気付いて、「その辺でくつろいでおけ」と言うと、今度は彼がバスルームに消えた。
元親は仕方なく、元就のベッドに腰掛けていた。
テレビは今年の暗い世相を振り返り、来年はいい年になると大笑いしている。そんな事は無い。来年は今年の次の日だ。来年から、俺はどうすればいいんだろう。元親はたまらなく不安になった。
ふとテーブルの上にカップが置いてある事に気付いた。二つ有る。片方はもう飲んだらしく、空っぽだ。もう片方には湯気を上げる、ポタージュが入っている。
元親は一瞬迷ったが、そろりとカップに手を伸ばした。少しぬるかったが、それでもポタージュは暖かくて、元親は酷く安心した。
ここは、ひとまず、元親を受け入れている。
体も温まって、心も何故だが落ち着いてきた。元親はふと部屋を見回す。簡素で質素な部屋に、正月らしさなどは見受けられなかった。カレンダーを改めてみると、もう正月まで何日も無い。なのに何の用意も無い。
皆で旅行に行った。旅行先で馬鹿みたいに酒を飲んで、皆でカウントダウンした。明けましておめでとうと叫んで、皆で笑って騒いで、体調は最悪の元旦を迎えて初詣に行った。
今年は何も無い。
それが酷く物悲しくて、元親はバスルームを見た。元就はまだ出てこない。
ふと元就の事を考える。元親が思い出せる限り、元就は特に変わった男というわけでもなかった。一人で静かにクラスの居て、ただ勉強をしているという風だった。けれど暗いというわけではない。静かなのだ。だからいじめられるような存在でもなかった。元親はいじめというのが嫌いだった。人を苛める事で誰かに憎まれる自分が嫌いだった。だから誰とも平等に接した。それ故、クラスに苛めは無かった。
元親は元就にも声をかけたし、時折は遊びにも誘った。そのたびに元就は拒絶しなかったし、着いて来た。けれど楽しんでいる様子も無かったし、元親に従う様子も無かった。それを元親も気には留めなかった。好かれている自分と、嫌われていない自分があればそれでいいのだ。元就に嫌われていないなら、それで満足だった。
元親にとってその程度の人間だった元就。ならば元就にとっても、元親はその程度の人間だろうに、では何故、元就だけが自分を助けるのか。元親は判らなくて、やはり首を傾げた。
テレビは明日の天気を占っている。予報なんてのは占いと同じだと元親は思っている。当たるも八卦、当たらぬも八卦。楽しむものなのだと。元親にとって天気とはその程度の存在だった。金は、ばら撒くものだった。使いたい時に使って、欲しい者が手に入れればいい。その程度の存在だった。
けれど、元親が欲しがっても、金は誰からも貰えなかった。
元就がバスルームから出てきた。Tシャツとゆったりとしたズボンを身につけた彼は、すぐに洗濯機の様子を見に行った。それを見て、元親ははたと気付く。
そうだ、あいつは俺に金が無くなった事は、知らないんだ。
今までその事を言った途端に、皆、態度が豹変した。元親は困っていたし、途方に暮れていたが、今ここで元就にその事実を告げ、元就さえ豹変してしまったら、と元親は恐くなった。この暖かな場所に、せめて縋りたかった。
相談は、しない事にした。
「毛利、里帰りとかしないの?」
「旅費がもったいない」
「じゃあ、正月のお祝いは?」
「餅ぐらいなら焼くつもりだが」
元就は洗濯機から服を取り出しながら答える。乾燥機などは無いから、部屋に干すしかない。ハンガーにかかった何着かの服を、部屋中にかけていく。それを見ながら、元親は言う。
「俺、今年、田舎に帰れなくて」
「ふむ」
「で、俺、一人で」
「うむ」
「だから、その、良かったら、その」
元親はもごもごと口ごもって、それから、
「良かったら、一緒に、お祝いしねぇか、その、飯ぐらいなら、作れるから、その」
そう言い。
「……我は、構わぬが」
元就はそれだけ答えて、そして元親を受け入れた。
一緒にスーパーに行き、正月飾りや食材を買った。元親のサイフは限り無く心細かったが、元親はその事を元就に言えなかった。元就は我が出すと言ってくれたが、元親にはそれに甘える術がなかった。いいよ、俺が出すよ、とサイフを開いて、そのたびに背筋が冷たくなった。けれど、止めるわけにはいかなかった。
元就と共に、元就の部屋を飾り付ける。鏡餅を飾って、正月ムードが出て来た。元親は元就のキッチンで料理を作る。女に異常に喜ばれるから、料理の練習だけはしていたのが役に立った。元就も喜んでくれたし、彼の部屋に居座る口実が出来た。
泊まって行ってもいいか、と言っても、元就はいつもの調子だった。布団は無いから、持って来いと言う。それだけだった。
おやすみ、と挨拶をして、ベッドと床に分かれて、目を閉じる。暗い。静かだ。それが元親には酷く恐かった。嫌な事ばかり考えて、妙に目が冴えた。どうすればいいんだろうと不安になって、たまらなく恐くなった。がばりと布団から起き上がり、ベッドを見る。元就は静かに横たわっている。目は開いていた。元親を見ている。
「もうり」
名を呼んで、ベッドに潜り込む。元就はそれでも、拒まない。
「毛利、なぁ、毛利」
「……なんだ」
元就を抱きしめて、抱きついて、ぎゅっと目を閉じる。元就は、温かい。逃げない。
「毛利、俺、あんたに、こうして、いたいんだ」
「……なら、しているといい」
「恐いんだ」
「何が恐い」
「俺、俺、今まで、したいようにしてきた、好きな物を好きって言って、欲しい物を欲しいって言った。でも、今は、それじゃダメなんだ、でも、でも俺はそれ以外知らなくて、だから、どうしていいか、判らない、から、恐い」
元親はぎゅうぎゅうと元就の体に顔をうずめて。
「……それでよいではないか」
元就の声は、低く、体の奥から、直接、届く。
「そなたはそうして、愛する物を愛せばいい。我にそうしたいなら、すればいい。我を好きにするといい。もし我がそれを厭うなら、我はそなたを拒む。拒まないなら、我はそれを受け入れているのだ。……少なくとも、我はな。だから、怖がる事は無い。ここに居たければ居るといい。こうしていたければ、いればいい。それだけだ」
酷く、酷く、低いのに、何故だか優しい声で、元親は声も出さずに、元就の背に顔をうずめて、ただただ静かに泣いた。
元就は何も知らないのに、まるで何もかも知っているようで、それさえ元親は恐かった。なのに、そこに居たかった。そこに、居る事を許されたかった。
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二人は一緒に元就の部屋に入る。すぐ元就は元親にシャワーを浴びるように促した。でもお前は、と反論すると、そんなびしょぬれで部屋に上がられては困ると言われ、合えなくバスルームに追いやられた。
仕方なくシャワーを浴びる。安っぽいシャンプーを使い、何も無かったので手で石鹸を泡立てて体を洗った。シャワーを終えて外を見ると、ただのタオルが2枚と、バスローブが一枚置かれている。
タオルを駆使して水気を切り、バスローブを羽織る。少し小さくて、脚が飛び出した。すぐ側で洗濯機が廻っている。服を洗ってくれているようだった。
部屋に戻ると、ベッドの上に腰掛けて、元就はテレビを見ていた。正月前のテレビ番組は酷く明るくどうしようもなく中身が無い。元就はテレビの方を見ていたが、番組を見ているようではなかった。声をかけるとすぐに気付いて、「その辺でくつろいでおけ」と言うと、今度は彼がバスルームに消えた。
元親は仕方なく、元就のベッドに腰掛けていた。
テレビは今年の暗い世相を振り返り、来年はいい年になると大笑いしている。そんな事は無い。来年は今年の次の日だ。来年から、俺はどうすればいいんだろう。元親はたまらなく不安になった。
ふとテーブルの上にカップが置いてある事に気付いた。二つ有る。片方はもう飲んだらしく、空っぽだ。もう片方には湯気を上げる、ポタージュが入っている。
元親は一瞬迷ったが、そろりとカップに手を伸ばした。少しぬるかったが、それでもポタージュは暖かくて、元親は酷く安心した。
ここは、ひとまず、元親を受け入れている。
体も温まって、心も何故だが落ち着いてきた。元親はふと部屋を見回す。簡素で質素な部屋に、正月らしさなどは見受けられなかった。カレンダーを改めてみると、もう正月まで何日も無い。なのに何の用意も無い。
皆で旅行に行った。旅行先で馬鹿みたいに酒を飲んで、皆でカウントダウンした。明けましておめでとうと叫んで、皆で笑って騒いで、体調は最悪の元旦を迎えて初詣に行った。
今年は何も無い。
それが酷く物悲しくて、元親はバスルームを見た。元就はまだ出てこない。
ふと元就の事を考える。元親が思い出せる限り、元就は特に変わった男というわけでもなかった。一人で静かにクラスの居て、ただ勉強をしているという風だった。けれど暗いというわけではない。静かなのだ。だからいじめられるような存在でもなかった。元親はいじめというのが嫌いだった。人を苛める事で誰かに憎まれる自分が嫌いだった。だから誰とも平等に接した。それ故、クラスに苛めは無かった。
元親は元就にも声をかけたし、時折は遊びにも誘った。そのたびに元就は拒絶しなかったし、着いて来た。けれど楽しんでいる様子も無かったし、元親に従う様子も無かった。それを元親も気には留めなかった。好かれている自分と、嫌われていない自分があればそれでいいのだ。元就に嫌われていないなら、それで満足だった。
元親にとってその程度の人間だった元就。ならば元就にとっても、元親はその程度の人間だろうに、では何故、元就だけが自分を助けるのか。元親は判らなくて、やはり首を傾げた。
テレビは明日の天気を占っている。予報なんてのは占いと同じだと元親は思っている。当たるも八卦、当たらぬも八卦。楽しむものなのだと。元親にとって天気とはその程度の存在だった。金は、ばら撒くものだった。使いたい時に使って、欲しい者が手に入れればいい。その程度の存在だった。
けれど、元親が欲しがっても、金は誰からも貰えなかった。
元就がバスルームから出てきた。Tシャツとゆったりとしたズボンを身につけた彼は、すぐに洗濯機の様子を見に行った。それを見て、元親ははたと気付く。
そうだ、あいつは俺に金が無くなった事は、知らないんだ。
今までその事を言った途端に、皆、態度が豹変した。元親は困っていたし、途方に暮れていたが、今ここで元就にその事実を告げ、元就さえ豹変してしまったら、と元親は恐くなった。この暖かな場所に、せめて縋りたかった。
相談は、しない事にした。
「毛利、里帰りとかしないの?」
「旅費がもったいない」
「じゃあ、正月のお祝いは?」
「餅ぐらいなら焼くつもりだが」
元就は洗濯機から服を取り出しながら答える。乾燥機などは無いから、部屋に干すしかない。ハンガーにかかった何着かの服を、部屋中にかけていく。それを見ながら、元親は言う。
「俺、今年、田舎に帰れなくて」
「ふむ」
「で、俺、一人で」
「うむ」
「だから、その、良かったら、その」
元親はもごもごと口ごもって、それから、
「良かったら、一緒に、お祝いしねぇか、その、飯ぐらいなら、作れるから、その」
そう言い。
「……我は、構わぬが」
元就はそれだけ答えて、そして元親を受け入れた。
一緒にスーパーに行き、正月飾りや食材を買った。元親のサイフは限り無く心細かったが、元親はその事を元就に言えなかった。元就は我が出すと言ってくれたが、元親にはそれに甘える術がなかった。いいよ、俺が出すよ、とサイフを開いて、そのたびに背筋が冷たくなった。けれど、止めるわけにはいかなかった。
元就と共に、元就の部屋を飾り付ける。鏡餅を飾って、正月ムードが出て来た。元親は元就のキッチンで料理を作る。女に異常に喜ばれるから、料理の練習だけはしていたのが役に立った。元就も喜んでくれたし、彼の部屋に居座る口実が出来た。
泊まって行ってもいいか、と言っても、元就はいつもの調子だった。布団は無いから、持って来いと言う。それだけだった。
おやすみ、と挨拶をして、ベッドと床に分かれて、目を閉じる。暗い。静かだ。それが元親には酷く恐かった。嫌な事ばかり考えて、妙に目が冴えた。どうすればいいんだろうと不安になって、たまらなく恐くなった。がばりと布団から起き上がり、ベッドを見る。元就は静かに横たわっている。目は開いていた。元親を見ている。
「もうり」
名を呼んで、ベッドに潜り込む。元就はそれでも、拒まない。
「毛利、なぁ、毛利」
「……なんだ」
元就を抱きしめて、抱きついて、ぎゅっと目を閉じる。元就は、温かい。逃げない。
「毛利、俺、あんたに、こうして、いたいんだ」
「……なら、しているといい」
「恐いんだ」
「何が恐い」
「俺、俺、今まで、したいようにしてきた、好きな物を好きって言って、欲しい物を欲しいって言った。でも、今は、それじゃダメなんだ、でも、でも俺はそれ以外知らなくて、だから、どうしていいか、判らない、から、恐い」
元親はぎゅうぎゅうと元就の体に顔をうずめて。
「……それでよいではないか」
元就の声は、低く、体の奥から、直接、届く。
「そなたはそうして、愛する物を愛せばいい。我にそうしたいなら、すればいい。我を好きにするといい。もし我がそれを厭うなら、我はそなたを拒む。拒まないなら、我はそれを受け入れているのだ。……少なくとも、我はな。だから、怖がる事は無い。ここに居たければ居るといい。こうしていたければ、いればいい。それだけだ」
酷く、酷く、低いのに、何故だか優しい声で、元親は声も出さずに、元就の背に顔をうずめて、ただただ静かに泣いた。
元就は何も知らないのに、まるで何もかも知っているようで、それさえ元親は恐かった。なのに、そこに居たかった。そこに、居る事を許されたかった。
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