明日から8月ですよ! 時が流れるのは早いなあ
予定どおり明日には作品を一部下げるつもりなので
よろしくお願いします。
ついでに鬼のログも乗せようと思ったのですが
ちょっと長かったので二回に分けて。
ほんの少しだけ加筆しようと思います。
以下、緋扇5
予定どおり明日には作品を一部下げるつもりなので
よろしくお願いします。
ついでに鬼のログも乗せようと思ったのですが
ちょっと長かったので二回に分けて。
ほんの少しだけ加筆しようと思います。
以下、緋扇5
中国陥落は四国の長年の夢であったし、あまりにもその報が急であったから、いかな元親といえども、報告に来た部下の口を塞ぐ事が出来なかった。昼、四国各地を視察していた元親達の所に、早馬が駆けて来て、部下は飛び降りるなり元親にこう叫んだのだ。
「中国が、毛利が、落ちました!」
その報はたった数ヶ月前にももたらされた物で、それ故にその報が示すものがどれほど恐ろしい物か、元親は瞬時に悟ると、慌てて部下に「待て」と言った。側には光秀も元就も居たのだ。この急報をこれ以上聞かれてはいけない、と元親は咄嗟に判断したが、しかし全ては手遅れだった。
「中国が、落ちた?」
元就の声が聞こえて、元親は振り返った。元就は愕然とした表情を浮かべ、元親ではなくその部下を見ていた。
「毛利が、落ちた?」
元就はそう繰り返し、そしてややすると険しい表情を浮かべ、報告に来た男に歩み寄った。元親は「毛利」と名を呼んだが、元就は答えなかった。
「詳しく聞かせよ。毛利が落ちたと?」
男は困惑したような表情で元就を見、それから元親を見た。元親は首を横に振ったが、男がその通り黙っていると、今度は元就が怒鳴った。
「聞かせよと言っておる!」
「毛利殿、」
「言え!」
元就はおよそ彼とは思えないような形相で怒鳴り、ついには刀に手をかけた。咄嗟に周りの長曾我部の者も身構えたが、元親が「止せ」と制止し、そして部下に先を言うよう促す。彼は元就の次の挙動を恐れ、身構えたまま答えた。
「まだ急報なんで、詳しい話は判らないですが、どうやら数日前、軍勢に襲われ、毛利家は敗れて散り散りになったとかで……当主の幸松丸も行方知れず、城は破壊され田畑も焼かれ、荒廃し、まさに滅んだとしか言いようの無い有様で……」
元就はその言葉を静かに聞いていた。部下の報告が終わってもしばらくはそのままでいた。元就の姿を正面から見ているのは、その部下だけで。彼はややして元就を見て、「ひっ」と息を呑んで後ずさった。
「……明智……」
毛利がそれはそれは低い声を出した。その声音に、光秀も元就が何を考えたのか理解した。長曾我部の面々も自ずと理解し、そして困惑したように光秀を見る。
毛利は織田の属国だった。毛利を付けねらう長曾我部はこの通り落とされている。九州勢はまだ内乱が収まっておらず、出兵したとしてもこの速さで落とせるはずが無い。
ならば、毛利を滅ぼしたのは。
結論はあまりにも簡単に出た。その安易さが真実で有るかどうか、今はまだ判らない。だが元就が抱いた疑惑と、それに対する結論は容易に想像出来た。
つまり、毛利を滅ぼしたのは、盟約を破った織田であり、この場に居る光秀もまた、その展開を知っていたであろう、と。
その時元就が動いた。素早く刀を引き抜くと、元就は光秀に向かって駆け出した。構えは刺す形で、それが尚更、彼の殺意を示していた。元就は駆けたが、光秀は動かなかった。代わりに元親が駆けた。
光秀にあと数歩という所で、元就は元親に羽交い絞めにされた。「放せ!」と叫ぶ元就を力づくで押さえつけ、部下に目配せし、彼の手から刀を取り上げた。それでも元就は暴れ続け、元親はその獣を必死で宥めるしかなかった。
「毛利、毛利、落ち着け、まだ決まったわけじゃねえ!」
「うるさい黙れ! 明智、明智が、明智が謀ったのだ! 我を、我から、我の全てを奪って楽しかったか明智! 我が絶望するのを待つのはさぞ愉快だったであろう! 我の、我の、ああ、あ、あ、幸松丸、幸松丸、毛利、兄上、――っ、明智! 許さぬ、殺してやる、明智も、織田も、なにもかも!」
「毛利、毛利っ、頼むから……っ、おい、誰か何か、薬を……っ」
「我を、我を我を我を、我を返せ、我の全てを返せ! これから先はどうする事になっておるのだ! 逆上した我がそなたを殺し、そして我を織田が制裁と称して火あぶりにでもするか!? 属国が裏切った見せしめと四国にでも見せるか!? それが望みなら叶えてやろう、殺せ、我を殺すがいい、こ、っぐ、」
何も薬が無いという報告に、元親は最後の手段に出た。元就を力づくで落ち着かせるしかなかった。がつ、と腹に一撃入れられ、元就は苦しげに呻いて、そして静かになった。それでも元就は意識を失うまで、光秀を睨みつけていたが、彼はただ悲しげに元就を見るばかりで。
「……毛利殿」
そして光秀は小さく。
「私は貴方を裏切りません。私は何も知らなかったのです、毛利殿。裏切られたのは、私達、なのですよ……」
そう呟いた。だが元就はそれを信じる事は出来ないまま、意識を手放した。
眼を覚ますと、元就は刀を取り上げられ、座敷牢に入れられていた。格子に縋りつき、誰かと声を上げると、元親がやって来た。
「長曾我部、ここから出せ」
「あんたが明智を殺しにかかる限りは出せねえ」
「何故明智を庇う!?」
「決まりきってんだろ。四国を守るためだ」
その言葉に元就は笑った。なるほど、元就を解放し光秀を殺されてしまえば、四国も加担したと言われ、制裁の対象になってしまう。だから元就を自由には出来ない。少なくとも四国で元就に光秀を殺されるわけにはいかないのだ。元就は暗い笑みを浮かべた。
「良い主になったではないか、立派な事よ」
「毛利……なぁ、頼む。まだ事実は判らねぇ。急報なんざ、大まかなもんで当てにならない。しかも中国を襲ったのが何処の軍勢か判らない。普通は旗印とかで判るもんなのに、何故だか判らないんだ。おかしいじゃねぇか。確かに織田がやった可能性は高い、だがこれじゃあ判らない意味が無ぇだろう。毛利、あんたを騙そうとしている奴が誰なのか、良く考えなけりゃいけねえよ。あんたは策士だ。目先の情報に踊らされちゃあ駄目だろ」
「……ならば誰が毛利を滅ぼしたというのだ」
「判らねぇよ、一揆とかの可能性も無くはないし、織田の事だ、属国が裏切って勝手に行動したかもしれねえ。九州が思いのほか動いたのかもしれないし、もっと言えばお前を逆上させるために俺が流した誤報かもしれねえだろうが。明智の話も聞いてやれよ。必要なら船は用意してやる、自分の目で中国に行って確かめりゃいい、それからでも遅くは無ぇだろう。どうせ事がもう、動いた後なんだとしたらな」
「……」
元就はその言葉に黙った。毛利が、毛利が滅んだ、幸松丸が、毛利が、兄上の、父上の、我の守ろうとしたものが。考えれば考えるほど、心が深く沈んで、絶望の闇に飲み込まれていくような感覚が襲って来た。崩れ落ちてしまいそうな元就に、元親は言う。
「これから明智を呼んでくるから。良く話し合って決めてくれ。その結果どうするのかに俺達は、害の無い範囲で協力する。それが四国の立場だ。判ってくれ」
元就は「そうだな」と静かに頷いて、そして格子から離れ、すぐ側の壁にもたれて座った。こつ、と頭を壁に預け、天井を見上げる。疲れた、と感じた。何もかも、疲れた、と。
やがて光秀が格子の側にやって来た。彼はやはり静かに立っているばかりで、元就はやりきれなくなった。これでは益々惑ってしまう、いっそ何か言ってくれれば、裏切り者と信じ、憎む事も出来るのに、と。
やがて光秀が口を開いた。いつもよりも小さな声だった。
「私が信長公から受けた命、また指示された計略は、全て貴方にお話した通りです。即ち、毛利、長曾我部を属国とし、優遇する事で天下の敵意を緩和しようとのお考えと伺っていました。それ以上の事を、私は知りません。ご存知のとおり、私は西国の攻略を任されており、その全ては独断で進め、事後連絡を送る程度で、私は信長公から指示らしい指示を受け取っていません。それは貴方を登用し、貴方の計略に従って四国を落とした時も変わりません。今回の事が仮に信長公のした事だとすれば、私はその全てを知らされていません。裏切られたという点では、私もそうです」
ですが、と光秀は続ける。
「もし仮に、他の勢力が毛利を滅ぼしたなら、それは公然と信長公に逆らう者が現れたという事です。しかも数日で毛利を落としてしまうような強大な勢力だ。そうだとすれば私は一刻も早く、信長公のお側に戻り、その勢力を潰す算段をしなくてはならない」
毛利殿、と名を呼ばれて、元就は光秀を見た。彼は今までになく真剣な表情で言った。
「貴方がどう思おうとそれは自由です。ですが、まだもう少し、私の事を生かしておいてはくれませんか。私は事実が知りたい。信長公が私を捨てたのか、あるいは脅かされているのか、どちらにしても私は公の元へ戻らなくてはなりません。そのためには事実を確かめるため、中国に向かう必要が有ります。私を殺すなら、その後でもいいでしょう、毛利殿。だから私を今は信じて下さい。私は貴方を裏切りません」
元就はしばらく返事をしなかったが、やがて静かに言った。
「ならば出発は、早い方が良いであろうな」
中国の有様は酷いものだった。田畑は焼け焦げ、城は朽ち、人々は死に惑い嘆いていた。このような国を奪っても仕方有るまい、と元就が思うほどの惨状だった。もはやそこは国ではなかった。
元就は光秀と共に安芸へと向かった。毛利の住んでいた城は焼け落ちていて、元就はその前で立ち尽くし、やがて膝を付いて震えた。光秀はそんな元就を慰める事もせず、ただ住民達に話を聞いていたが、彼らはただ逃げ惑っていたばかりで何が起こったのかも理解出来ていない様子だった。
元就はしばらくそのまま絶望していたが、ふいに近付いてくる影が有る。明智か、と元就は顔を上げ、そして眼に入った姿に驚いた。
「福原!」
みすぼらしい格好をしたその老爺の顔を見て元就が叫ぶと、彼はぱぁっと明るい笑みを浮かべ、元就に駆け寄って来た。それは紛れも無く元就の外祖父である福原広俊だった。
「おお、元就様、ご無事で、良くお帰りに!」
広俊はそう言うとそのまま元就を抱きしめて、大声で泣き始めた。元就はその背を擦りながら、「福原、何が有った、幸松丸は」と問う。広俊は子供のように泣きじゃくりながら、途切れ途切れに答えた。
「何処の、誰とも判らぬ、とにかく大群で、あっという間に、毛利が、毛利が」
「福原……」
「幸松丸様は、重傷で、……日に日に具合も悪く、まだ幼いというのに、何故この老体が生きておるのに、わしの子供達は次々と……」
「幸松丸は生きておるのか!」
広俊の嘆きをあえて受け入れず、元就が問うと、広俊もそれで良いとばかり、大きく頷いて答えた。
「元就様が生きておられれば、そなたは中国の、毛利の光……さぁ元就様、こちらに、幸松丸様の所に案内せねば」
広俊はそう言うとよろよろと歩き始めた。元就は一度振り返り、光秀の姿を探したが生憎見つからず、後で報告すればよいと広俊の後を追って駆けた。
+++
ウィキみたら福原広俊が3人も居てびっくりして毛利元春が二人居るのにびっくりしてもういい加減にしてくれと思いました。こんがらがる。
福原さんは大河のイメージで。愛すべきおじいちゃんだったなあ。意外とクセものだったし。
「中国が、毛利が、落ちました!」
その報はたった数ヶ月前にももたらされた物で、それ故にその報が示すものがどれほど恐ろしい物か、元親は瞬時に悟ると、慌てて部下に「待て」と言った。側には光秀も元就も居たのだ。この急報をこれ以上聞かれてはいけない、と元親は咄嗟に判断したが、しかし全ては手遅れだった。
「中国が、落ちた?」
元就の声が聞こえて、元親は振り返った。元就は愕然とした表情を浮かべ、元親ではなくその部下を見ていた。
「毛利が、落ちた?」
元就はそう繰り返し、そしてややすると険しい表情を浮かべ、報告に来た男に歩み寄った。元親は「毛利」と名を呼んだが、元就は答えなかった。
「詳しく聞かせよ。毛利が落ちたと?」
男は困惑したような表情で元就を見、それから元親を見た。元親は首を横に振ったが、男がその通り黙っていると、今度は元就が怒鳴った。
「聞かせよと言っておる!」
「毛利殿、」
「言え!」
元就はおよそ彼とは思えないような形相で怒鳴り、ついには刀に手をかけた。咄嗟に周りの長曾我部の者も身構えたが、元親が「止せ」と制止し、そして部下に先を言うよう促す。彼は元就の次の挙動を恐れ、身構えたまま答えた。
「まだ急報なんで、詳しい話は判らないですが、どうやら数日前、軍勢に襲われ、毛利家は敗れて散り散りになったとかで……当主の幸松丸も行方知れず、城は破壊され田畑も焼かれ、荒廃し、まさに滅んだとしか言いようの無い有様で……」
元就はその言葉を静かに聞いていた。部下の報告が終わってもしばらくはそのままでいた。元就の姿を正面から見ているのは、その部下だけで。彼はややして元就を見て、「ひっ」と息を呑んで後ずさった。
「……明智……」
毛利がそれはそれは低い声を出した。その声音に、光秀も元就が何を考えたのか理解した。長曾我部の面々も自ずと理解し、そして困惑したように光秀を見る。
毛利は織田の属国だった。毛利を付けねらう長曾我部はこの通り落とされている。九州勢はまだ内乱が収まっておらず、出兵したとしてもこの速さで落とせるはずが無い。
ならば、毛利を滅ぼしたのは。
結論はあまりにも簡単に出た。その安易さが真実で有るかどうか、今はまだ判らない。だが元就が抱いた疑惑と、それに対する結論は容易に想像出来た。
つまり、毛利を滅ぼしたのは、盟約を破った織田であり、この場に居る光秀もまた、その展開を知っていたであろう、と。
その時元就が動いた。素早く刀を引き抜くと、元就は光秀に向かって駆け出した。構えは刺す形で、それが尚更、彼の殺意を示していた。元就は駆けたが、光秀は動かなかった。代わりに元親が駆けた。
光秀にあと数歩という所で、元就は元親に羽交い絞めにされた。「放せ!」と叫ぶ元就を力づくで押さえつけ、部下に目配せし、彼の手から刀を取り上げた。それでも元就は暴れ続け、元親はその獣を必死で宥めるしかなかった。
「毛利、毛利、落ち着け、まだ決まったわけじゃねえ!」
「うるさい黙れ! 明智、明智が、明智が謀ったのだ! 我を、我から、我の全てを奪って楽しかったか明智! 我が絶望するのを待つのはさぞ愉快だったであろう! 我の、我の、ああ、あ、あ、幸松丸、幸松丸、毛利、兄上、――っ、明智! 許さぬ、殺してやる、明智も、織田も、なにもかも!」
「毛利、毛利っ、頼むから……っ、おい、誰か何か、薬を……っ」
「我を、我を我を我を、我を返せ、我の全てを返せ! これから先はどうする事になっておるのだ! 逆上した我がそなたを殺し、そして我を織田が制裁と称して火あぶりにでもするか!? 属国が裏切った見せしめと四国にでも見せるか!? それが望みなら叶えてやろう、殺せ、我を殺すがいい、こ、っぐ、」
何も薬が無いという報告に、元親は最後の手段に出た。元就を力づくで落ち着かせるしかなかった。がつ、と腹に一撃入れられ、元就は苦しげに呻いて、そして静かになった。それでも元就は意識を失うまで、光秀を睨みつけていたが、彼はただ悲しげに元就を見るばかりで。
「……毛利殿」
そして光秀は小さく。
「私は貴方を裏切りません。私は何も知らなかったのです、毛利殿。裏切られたのは、私達、なのですよ……」
そう呟いた。だが元就はそれを信じる事は出来ないまま、意識を手放した。
眼を覚ますと、元就は刀を取り上げられ、座敷牢に入れられていた。格子に縋りつき、誰かと声を上げると、元親がやって来た。
「長曾我部、ここから出せ」
「あんたが明智を殺しにかかる限りは出せねえ」
「何故明智を庇う!?」
「決まりきってんだろ。四国を守るためだ」
その言葉に元就は笑った。なるほど、元就を解放し光秀を殺されてしまえば、四国も加担したと言われ、制裁の対象になってしまう。だから元就を自由には出来ない。少なくとも四国で元就に光秀を殺されるわけにはいかないのだ。元就は暗い笑みを浮かべた。
「良い主になったではないか、立派な事よ」
「毛利……なぁ、頼む。まだ事実は判らねぇ。急報なんざ、大まかなもんで当てにならない。しかも中国を襲ったのが何処の軍勢か判らない。普通は旗印とかで判るもんなのに、何故だか判らないんだ。おかしいじゃねぇか。確かに織田がやった可能性は高い、だがこれじゃあ判らない意味が無ぇだろう。毛利、あんたを騙そうとしている奴が誰なのか、良く考えなけりゃいけねえよ。あんたは策士だ。目先の情報に踊らされちゃあ駄目だろ」
「……ならば誰が毛利を滅ぼしたというのだ」
「判らねぇよ、一揆とかの可能性も無くはないし、織田の事だ、属国が裏切って勝手に行動したかもしれねえ。九州が思いのほか動いたのかもしれないし、もっと言えばお前を逆上させるために俺が流した誤報かもしれねえだろうが。明智の話も聞いてやれよ。必要なら船は用意してやる、自分の目で中国に行って確かめりゃいい、それからでも遅くは無ぇだろう。どうせ事がもう、動いた後なんだとしたらな」
「……」
元就はその言葉に黙った。毛利が、毛利が滅んだ、幸松丸が、毛利が、兄上の、父上の、我の守ろうとしたものが。考えれば考えるほど、心が深く沈んで、絶望の闇に飲み込まれていくような感覚が襲って来た。崩れ落ちてしまいそうな元就に、元親は言う。
「これから明智を呼んでくるから。良く話し合って決めてくれ。その結果どうするのかに俺達は、害の無い範囲で協力する。それが四国の立場だ。判ってくれ」
元就は「そうだな」と静かに頷いて、そして格子から離れ、すぐ側の壁にもたれて座った。こつ、と頭を壁に預け、天井を見上げる。疲れた、と感じた。何もかも、疲れた、と。
やがて光秀が格子の側にやって来た。彼はやはり静かに立っているばかりで、元就はやりきれなくなった。これでは益々惑ってしまう、いっそ何か言ってくれれば、裏切り者と信じ、憎む事も出来るのに、と。
やがて光秀が口を開いた。いつもよりも小さな声だった。
「私が信長公から受けた命、また指示された計略は、全て貴方にお話した通りです。即ち、毛利、長曾我部を属国とし、優遇する事で天下の敵意を緩和しようとのお考えと伺っていました。それ以上の事を、私は知りません。ご存知のとおり、私は西国の攻略を任されており、その全ては独断で進め、事後連絡を送る程度で、私は信長公から指示らしい指示を受け取っていません。それは貴方を登用し、貴方の計略に従って四国を落とした時も変わりません。今回の事が仮に信長公のした事だとすれば、私はその全てを知らされていません。裏切られたという点では、私もそうです」
ですが、と光秀は続ける。
「もし仮に、他の勢力が毛利を滅ぼしたなら、それは公然と信長公に逆らう者が現れたという事です。しかも数日で毛利を落としてしまうような強大な勢力だ。そうだとすれば私は一刻も早く、信長公のお側に戻り、その勢力を潰す算段をしなくてはならない」
毛利殿、と名を呼ばれて、元就は光秀を見た。彼は今までになく真剣な表情で言った。
「貴方がどう思おうとそれは自由です。ですが、まだもう少し、私の事を生かしておいてはくれませんか。私は事実が知りたい。信長公が私を捨てたのか、あるいは脅かされているのか、どちらにしても私は公の元へ戻らなくてはなりません。そのためには事実を確かめるため、中国に向かう必要が有ります。私を殺すなら、その後でもいいでしょう、毛利殿。だから私を今は信じて下さい。私は貴方を裏切りません」
元就はしばらく返事をしなかったが、やがて静かに言った。
「ならば出発は、早い方が良いであろうな」
中国の有様は酷いものだった。田畑は焼け焦げ、城は朽ち、人々は死に惑い嘆いていた。このような国を奪っても仕方有るまい、と元就が思うほどの惨状だった。もはやそこは国ではなかった。
元就は光秀と共に安芸へと向かった。毛利の住んでいた城は焼け落ちていて、元就はその前で立ち尽くし、やがて膝を付いて震えた。光秀はそんな元就を慰める事もせず、ただ住民達に話を聞いていたが、彼らはただ逃げ惑っていたばかりで何が起こったのかも理解出来ていない様子だった。
元就はしばらくそのまま絶望していたが、ふいに近付いてくる影が有る。明智か、と元就は顔を上げ、そして眼に入った姿に驚いた。
「福原!」
みすぼらしい格好をしたその老爺の顔を見て元就が叫ぶと、彼はぱぁっと明るい笑みを浮かべ、元就に駆け寄って来た。それは紛れも無く元就の外祖父である福原広俊だった。
「おお、元就様、ご無事で、良くお帰りに!」
広俊はそう言うとそのまま元就を抱きしめて、大声で泣き始めた。元就はその背を擦りながら、「福原、何が有った、幸松丸は」と問う。広俊は子供のように泣きじゃくりながら、途切れ途切れに答えた。
「何処の、誰とも判らぬ、とにかく大群で、あっという間に、毛利が、毛利が」
「福原……」
「幸松丸様は、重傷で、……日に日に具合も悪く、まだ幼いというのに、何故この老体が生きておるのに、わしの子供達は次々と……」
「幸松丸は生きておるのか!」
広俊の嘆きをあえて受け入れず、元就が問うと、広俊もそれで良いとばかり、大きく頷いて答えた。
「元就様が生きておられれば、そなたは中国の、毛利の光……さぁ元就様、こちらに、幸松丸様の所に案内せねば」
広俊はそう言うとよろよろと歩き始めた。元就は一度振り返り、光秀の姿を探したが生憎見つからず、後で報告すればよいと広俊の後を追って駆けた。
+++
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