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めでぃのくの日記
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2008-07-29 (Tue)
 色んな意味で3
 最近日記書きすぎですね
 ちょっと大人しくしよう……

 以下、緋扇3

 妙な圧迫感を感じて元就は眼を開いたが、見えるのは深い闇ばかりだった。その代わり、耳は複数の音を捉えていたし、体は何かに妙な方向に捻られているのが判った。元就は一度思い切り顔を顰めて、そして体に力を込めると一気に暴れた。

「うわっ」

 誰か男の声がした。元就は自分の側に敵が居ると判断し、尚も暴れたが所詮は無駄な抵抗であるとすぐに気付いた。体は後ろ手に縛られ、両脚も一括りにされている。何も見えないのは暗いからではなく、眼を覆うように布がきつく巻かれているからだ。それに声も出せないよう、口に布を押し込まれている。

 よくもまぁ、ここまで眼が覚めなかったものだ。元就は己に呆れたが、ふいにある事を思い出す。元就は夕食後独りで部屋に戻り、机に向かっていた所、急激な眠気に襲われてそのまま布団に行くのも待たず眠ってしまったのだ。そうか、そういう事かと元就は思いながら、無駄な抵抗を続けた。

 と、左頬に衝撃が走った。殴られたのだと気付くのには時間がかかった。痛みは随分と遅れて僅かに訪れる。それがまた元就には不愉快だった。なにやら、感覚がおかしくなる薬も盛られている、と。

「大人しくしてろ」

 知らない声が聞こえた。

「静かにしているなら、悪いようにはしない」

 既に充分悪い眼に合っている元就は、心の底からその蹂躙者を軽蔑した。こういう言い方をする連中は、決まって元就を女子のように抱こうとするのだ。もっとも、元就はその度にあの手この手で逃れたので、実際に抱かれた事は無い。だが今回ばかりはそれも出来そうにはなかった。

 光秀の部下になる事を了承し、四国遠征の準備のため、元就は光秀の側に置かれた。敵将が下った途端にかなりの地位を得た事を、快く思わない連中は居るだろうと元就も予想していたが、まさかこれほどまで実行力の有る人間がいようとは思わなかった。全く、織田軍は優秀だ、下衆という点でも、と元就は思う。

 尤も、その事に関しては光秀も忠告していた。もし何か妙な事が有ったり、誰かに嫌な事をされそうだったら大声で私を呼んで下さいね、駆けつけますから。そう光秀は言っていたが、果たしてこの暴漢達が光秀の命で自分を襲っているのか否か、判りかねた。元就はまだ光秀を信用していないし、暴漢から救った恩人として光秀を信用させる手口かもしれぬ、と元就は安易に暴れる事を止めた。元就としても痛いのは好きではないし、薬で感覚を狂わされ、おまけに束縛されている身で暴れたところで時間の無駄だと元就は理解していた。

 いい子だ、と男が言った。元就は益々顔を顰めたが、しかしじっと堪えて気配を探った。四、……五人だろうか。近くに居るのはそれぐらいだ。だが元就が光秀の寵愛を受けている事は彼らも知っている。万が一の為に見張りを入り口に残すだろうから、7人程度か。

 元就はそう冷静に考えて、そして溜息を吐いた。ここまで追い詰められて逃げ出す術を、元就は持っていない。何か特別な条件が整わない限り不可能だろう。そもそも視界が塞がれているから歩く事すらままならないだろう。元就はしばらく考えて、そして大人しく力を抜いた。どうにでもなれ、と思った。

 男に好きなよう扱われるのは不本意だが、しかし危険を冒してまで守るほど、己の体は大切ではなかった。子供ではないのだし、性を恐れても仕方が無く、また犯されたといっても女子と違って孕む事も無い。それで彼らが満足するというなら、数日、尻が痛いのを耐えればいいだけの事。それに彼は「悪いようにはしない」と言った。妙な薬も盛られているし、恐らく本当に悪いようにはすまい……と元就は全てを諦める事にした。

 それに気をよくした暴漢達も、今から成そうとしてる悪事を棚上げして、元就に睦言のような優しい声をかける。元就は辟易した。男は背徳感を好むが、最後まで悪である事は拒むのだ。だからこうして気休めの愛情を僅かに注ぎ、己が悪かったわけではないと言い聞かせる。馬鹿らしい。

 やはり、こんな連中に好きにされてたまるか。元就は諦める事を止めた。なんとかしてこの状況を打開する事を考えた。だが表向きは従順な態度を取り続けた。男が元就の着物を開くのが判った。肌が外気に晒され、男達が好奇の目で見て来るのが判った。極めて不快だったが、男の一人が己のわき腹に舌を這わせてきたのに元就は震えて、そして耐え切れなくなった。
 
 あらん限りの力で足を蹴り上げた。その足が何処に有りどう動くのかは判らなかったが、どうやら男の鳩尾辺りに入ったらしい。近くで咽るような呻き声が聞こえて、元就は暴れるようにしながら床を這った。が、すぐに誰かが元就を捕まえて、「てめぇ」と声を出すと今度は腹を殴られた。呼吸が出来なくなり、元就は布の奥で小さく咽た。痛みを堪えて身体を丸めていると、誰かが言った。

「優しくしてりゃあいい気になりやがって」

 誰がいつ我に優しくした。

「てめぇの澄ました顔が歪みでもすりゃあ許してやろうと思っていたのに」

 許すとは何様だ。何故我が貴様に許されねばならぬ。

「こうなったら泣かせてやるから覚悟しな。てめぇなんか要らないんだよ」

 ああ聞き慣れた言葉だ。そうだ我は要らぬ。要らぬ物に何故そうまで情をかけるのだ。我が気に入らぬなら殺すなり消すなりすればいいのに、何故、何故。

「おいっ、聞いてんのか」

 がつ、とまた頭を殴られて、元就は気が遠くなるのを感じた。頭の中がじんと痺れて、何も判らなくなってくる。身体が酷く熱くなって、呼吸も辛い。元就は僅かに床の上で身じろいだが、それきり動けなくなった。そして元就は何もかもがぼんやりしてしまうのを感じて、そして眼を閉じ、辺りは静かになった。





 優しく撫でられて、元就は眼を開けた。視界は開けていた。目の前に光秀が居る。

「大丈夫ですか?」

 光秀が尋ねたが、元就には答えられなかった。何を以って大丈夫と言うのか、縛られて殴られて薬を盛られたうえに男に蹂躙されてしかし生きている事を大丈夫というのか、と元就は考えていたが、一言も言葉にならず、元就はただ光秀の腕に顔を埋めた。酷く身体が重い。

「辛そうですね、薬が効いているんでしょう……今、楽にしてあげますからね」

 光秀はそう言って、元就を撫で始めた。そういえば身体が熱いのは変わっておらず、声は出ないままだった。縛られたままで、元就は衣類を纏っていなかったが、蹂躙の後を見つける事は出来なかった。元就は不思議に思いながらも、光秀に身を預けたままじっとしていた。まるで赤子が母親に抱かれているようだったが、元就はそれを恥ずかしいとも思わなかった。ただただ楽になりたいとそれだけ頭で願ったが、何故そう思うのか元就には判らなかった。

「いい子ですね……」

 つい先ほど誰かが言っていた事を、光秀も言ったが、不思議とこちらは嫌な感じではなかった。光秀はそっと細長い指を伸ばして、元就のそれに触れたが、元就は一度ぴくりとしただけでそれ以上何の反応もしなかった。ただ元就はぼんやりと光秀の顔を見た。光秀も元就を見たので、尋ねてみた。声は出なかった。

「聞こえたのですよ、貴方の声が」

 そんなはずは無い。見ての通り、声は出せないのだから。元就はそう思ったが相変わらず伝える事は出来なかった。光秀は元就の体を慰め始めていて、また薬に毒された元就はそれをこの上ない悦びと判断し、彼にただただ擦り寄る以外に何も出来なかった。そんな元就を光秀は優しく抱いて、そのまま元就を愛し続けた。

「眩い貴方の声は闇にこそ届く。貴方は光、貴方は影ではないのです。まして闇でもない」

 何を、と元就は小さく尋ねたが、光秀は返事とは思えない答えを返した。

「私は闇、私は蛇。貴方は光、貴方は蝶。貴方は自分を誤解なさっている、哀れな月。白く全てを惑わす闇夜の光。貴方の声は私達に悲しいほど届く……」

 元就はあまりに訳が判らなかったので、もう諦める事にした。光秀の下に来てから、元就は毎日のように諦めた。だからその時も諦めて、光秀の首下に顔を埋めると、静かに眼を閉じ、光秀が作るだろう安らぎを求めて深く息を吐いた。そして僅かにその体から血の匂いがした事に、元就は何故だか納得して、また深いまどろみに身を任せた。





「結論から言って、こうなる事は判っていたのです」
 
 翌日、布団の中に沈んでいる元就に、光秀はそう説明した。

「貴方を重用する事に反発する輩は居ると思っていました。私は織田家の中でもかなり引抜を良くする方でしてね、だから貴方と同じような境遇の方は沢山居ます。それでも貴方ほど私に大事にされている方は他に居ませんから、貴方に対する不満が鬱積する事は避けられない事です」

「われが、こうして、ねこむことも、ひつぜんと」

 元就がそう言うと、光秀は苦笑して言う。

「寝込むほどになるとは、私も思ってはいませんでした。いずれ貴方が誰か不穏分子の手にかかるとは思っていましたから、いつでも助け出せるようにと警戒はしていたのですが……正直、あそこまで行動的な方が居るとは思いませんでした。まぁ間に合ったからいいではありませんか。医者も明日には治ると言っていますし」

「……」

「貴方を襲った人間を見せしめに処断致しましたから、貴方への不満は以後、形になりません。ここで、貴方を重用する事が私の贔屓でなく、また貴方の媚でないと証明するためにも、我々は速やかに、かつ出来る限り血を流さず、四国を落とさなければなりません。それが出来れば、少なくとも貴方への理不尽な嫉妬は無くなるでしょう」

「……」

 元就は呆れた顔をして、小さく溜息を吐いた。

「なぜ、それほど、われに、じょうを、かける?」

「言ったではありませんか。私は貴方が必要なんです」

 光秀はさらりとそう言ってしまった。元就は困惑したが、あくまで表情には出さず、聞き返す。

「それほど、われが、いるのか?」

「要るんじゃありません、必要なんです。判りませんか」

「……」

 元就は何を言っていいか判らなくなって、ただ黙って顔を背けた。光秀は静かに笑んで、そして言った。

「ともかく、四国を落としましょう。頼りにしていますよ、毛利殿」

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