父ちゃんが早くも無双に飽きたらしくTVを映画鑑賞に使っておる
以下、SFねこの9です
以下、SFねこの9です
もぞもぞと動く物を感じて、眼が覚めた。のろ、と見れば、元親がベッドに昇り、布団の中で擦り寄っている。それ自体はいつもの事だったので、元就はまた眼を閉じた。睡魔は瞼を押し下げて、元就を眠りの世界へと導く。うとうとしながら、元親の髪を梳いてやる。そうしてまた眠る。それがいつもの事だったから、元就はしばらく違和感を覚えなかった。
ぺろ、と頬を舐められた。するりと首筋を撫でられ、ちゅ、と音を立てて肌を吸われる。おまけに軽く歯を立てられた。
元就はそこで気付いて、もう一度眼を開く。元親は元就に覆い被さっている。そして密着したまま、首やら頬やらに唇を押しつけ、身体をまさぐっているのだ。
文化の差は有るだろう。もしかしたら元親は「そういう」つもりではないのかもしれない。しれないが、しかしこれは、文句を言うべき事態ではあるまいか。
元就が寝惚けた頭でそう考えている間にも、元親の行為は続き、しかもエスカレートしていた。ついには服の中に手を入れて来たものだから、元就は「こら」と声を上げ、元親を離れさせた。
「……ダメ、か?」
「ダメもなにも。そもそもそなた、何をしようとしておるのだ」
「? ……あぁそうか、あんたらとは意味が違うのかな」
元親は頷いたが、布団から出ようとはしなかった。
「俺達は心っていう不安定なモンで繋がってる。だから時々、親交をより深め、お互いの繋がりを確かめるために抱き合う。男も女も関係無いし、いつでもそうする。相手が好きだと思うなら、誰にでも、いつでも」
「我々人間は、愛する人としかせぬ」
「俺はあんたを愛してるぜ? 元就は俺を愛してないのか?」
「そうではなくて、その、何と言えば良いのか……」
元就が困った顔をすると、元親も眉を寄せて、首を傾げる。
「何だ? ぐるぐるしてるぞ。それに、少し怖がってる」
「……便利なものだな、その力。我らばかりが不利ではないか」
元就はため息を吐いて、元親の頬を撫でた。
「その、な、元親。拒む理由はいくらでも有るのだ。しかしその……それは恐らく、そなたに対しての抑止力にはならぬだろう。我の気持ちが曲がって伝わるかもしれないから、説明する。素直に聞け。我はそなたが好きだ。だが人の「愛」と呼ぶ物は、必ずしもそれと一致しない。それは良く似ているから、判別に時間と覚悟が必要なのだ」
「うん」
「そしてその……我が怖がっている理由だが、我はその……人との経験が、無くてだな……」
「……ん、つまり、処女って事か」
「な、な、何と言う言葉を知っておるのだ、そなた!」
元就は慌てたが、元親は笑って言う。
「女も子供も居るんだ、初心なんかじゃねえよ。たぶんあんたより年上だしな」
曰く、猫には少子化という問題が起こった事が有るのだそうだ。その末に彼らはいくつかの取り決めをした。
男は女と子供の面倒を、個ではなく全で見る。女と子供は種としての財産であり、全ての個体で守る。その代わり、各々に夫婦関係、親子関係の重責を与えない。男は子供を産み捨てさせればいい。そして女と子供を守るため、男達は日ごろから少々の協力をする。
「だから成人した俺達も、子供と変わらない見た目を維持する個体が居る。俺もそうだな。あんたらに狩られるのが本当の子供にならないように、ごまかす事にしたんだ。精一杯の抵抗ってやつだよ。俺は男とも女とも寝たし、子供も何人かは出来たと思う。だから俺個人には、守るべきモンも何も無い。元就を抱きたい。俺は構わない。あんたが怖いなら、大丈夫、優しくするよ」
「な、何を申すか。ならば猫の女とでもすればいい、わざわざ我などでなくても……」
「……? ああ、何だ? 違うのか。そうか。あんた、そういうのいい加減止めた方がいいぜ」
「何を言っておるのだ、さっきから……」
元就が眉を寄せると、元親は真剣な顔で言った。
「あんた、自分が嫌いなんだ。だから俺に好かれる資格が無いと思ってる。でもそれは大きな間違いだ。だって「前のあんた」は、元就を許して死んだんだから」
それは酷く脈絡の無い言葉だったのに、元就にははっきりと、元親の言わんとしている事が判った。
最後ぐらい。
最期の時ぐらいは、優しくしてやりたかった。
どんなに歪んでいても、どんなに憎らしくても。
それが死に逝く者なのだから、最期ぐらい、優しくしてやりたかったのに、出来なかった。
「歳を重ねるごとに、「アイツ」の気持ちが判るようになったんだな。だからますます後悔するようになっちまった。あの時もう少し優しくする事は出来なかったのか、見取ってやる事は出来なかったのかって。それが出来なかったあんたは嫌な奴か? 酷い奴か? 愛される資格が無いってか? そんな事は無いよ、なあ。あんたには辛い事だろうけど、もう一度良く向き合ってみろよ。本当は判ってるんだろう?」
「な、にを……」
「あんたに「アイツ」は酷い事をしたよ。だから「アイツ」があんたに愛されなかったのは、自業自得って奴であって、元就のせいじゃない。あんたはまだ未熟で、「アイツ」の暴力に耐えてまで愛せるような神様じゃなかった、それだけだ。それの何処が悪いってんだ? あんたは「アイツ」の望み通りの生き方をしただけだよ、そうだろ」
「……し、知ったような事を……」
「知ってるよ、大体は。あんたよりたぶん、確かなモノを見てる。「アイツ」は最後にあんたの存在を、生を、あんたとしての人生を認めた。それは「アイツ」からの別れの挨拶だ。そして死んだ。「アイツ」が羨ましいと思ったって、あんたの事恨んだりはしないはずだ。それにもう、この世には存在しない。あんたを苦しめる「アイツ」はもう何処にも居ない。……なら、あんたを呪って苦しめてるのは、あんた自身しか居ないだろ? なぁ、元就。もう自分を許してやれよ」
歳をとって。数多くの研究を重ねて。
そうして勝ち取った物が、全て消えて。全て無意味だと突き付けられて。
「彼」がどれ程辛かったか、苦しかったか。それは理解していた、つもりだった。
壁に向かって公式を呟き続けて。一つ言い淀む度に、また最初から繰り返して。薄暗い研究室で一人、ただ膝を着いて、ただただ自分を確かめて。
そしてついに、完全に失われた公式を見つけ。彼はそれを「思い出そう」と壁を抉る。書いたら思い出すかもしれない。書けば、書いていれば、思い出そうとしていれば。
そうしている間に、自分が何をしていたのか忘れるのだ。公式を書き続け、壁が真っ黒になる頃に、彼はその重さに気付く。自分がしようとしていた事を考え、眼の前の公式を見て、そして理由も公式も「思い出す」事が出来ないと理解した時に、彼はただ泣いた。泣き叫んだ。
心の底から、獣のように、赤子のように。こんなのは嫌だ、違う、と。まだここに生きているのだと。生きているのに、まだ生きているのに、身体が、心が、脳が端から死んでいくのだと。砕けて、崩れて、涙になって零れて。そして「彼」はまた、泣いている理由を忘れるまで、喉がかれるまで泣き続けた。
その背中の、小さな背中の痛みを、元就は確かに覚えている。
そしてその背中を抱いてやれたらと、……それが彼を一層惨めにさせるだけだと理解していたから、そうしなかった事を、覚えている。
「あんたは精一杯やったよ。「アイツ」の望みを叶えたじゃねぇか。自分を残すっていう望みを。そして「アイツ」は他ならぬあんたに、自由を許した。あんたの幸せを願っての事だ、そうだろう。ならあんたは、あんたとして生きて良いんだよ。苦しむ事なんて、あんたがあんた自身を憎む事なんて、誰も望んでない。そうだろ? なぁ……」
元親がそっと、元就の頬を撫でた。優しい、温かい手だった。
「あんたは頑張ってるよ。汚くなんてないし、嫌な奴なんかじゃないよ。俺はもっと恐ろしい物をいっぱい知ってる。あんたは大丈夫だ。だから自分で汚すような事、しなくていい。あんたの事が好きだよ、俺は。俺はあんたの事を愛してる。確かに」
だからあんたも、俺が好きな元就の事、憎まないでやってくれよ。
元就はしばらく何も言えなかった。また色々な感情が、ぐるぐると身体の中を駆け巡って、考えがまとまらない。ただハッキリと「泣きたい」と思った。
「泣けよ」
元親が僅かに笑む。
「泣いていいんだよ、「アイツ」があんたより不幸だったかどうかなんて、関係無いんだよ。なぁ、元就、俺が受け止めてやる、愛してやるから。なぁ」
元就はまた少し考えて、それから、
「そなたは、卑怯だ」
そう呟き、元親を置いてラボに走った。元親もまた茫然としたまま、追っては来なかった。
薄暗いラボの中で、一人で泣いた。
「彼」がどれ程辛かったか、苦しかったか。そんな「彼」を見てどれ程自分が辛かったか、苦しかったか。そうして呆気無く失われるモノに意味は有るのか。こうして守っているラボに、研究に、酵素に、そしてその実験に殺される猫達に意味は有るのか。
何もかも判らず、何もかもに未だ答えは無い。答えの無いモノを求めて問い、叫んでも、やはり何も判らない。
ただただ、命の限り泣いて、笑って、生きるしかないのだ。
「彼」は最後に笑った。だから、それでいい。だから、我も笑うために生きねばならぬのだ。
涙が止まらない。喉が、胸が焼け付くようだ。いつの間にかすぐ側に元親が居て、そっと背中を撫でてくれていた。
そうだ、いつも「彼」の背中を守っていたのは、あの「明智」だった。
「彼」にも居たのだ、愛してくれる人が、一人だけでも、一緒に泣いて、一緒に笑って、そして一緒に死ぬような、そんな人間が。
元就は静かに悟って、そして眼を閉じる。
「彼」は安らかな場所に帰ったのだ。たった一人の人と共に。
だから、だからあんな穏やかな顔で。
救う事は出来たのだ。「彼」の望みは叶えられた。数多くの願いが壊れた後で、たった一つ残ったモノを、叶える事が出来たのだ。
最後に、別れを告げてくれた。「彼」との道はその時離れた。もう、自分は自分として生きて良いのに、ずっと知らないふりをしていたのだ。
+++
オリジナル元就編も書くべきかなと思ったけど、
軽く死にたくなりそうだからやめときます
記憶が溶けていく系は本当に見ていて辛いし考えても辛い
ぺろ、と頬を舐められた。するりと首筋を撫でられ、ちゅ、と音を立てて肌を吸われる。おまけに軽く歯を立てられた。
元就はそこで気付いて、もう一度眼を開く。元親は元就に覆い被さっている。そして密着したまま、首やら頬やらに唇を押しつけ、身体をまさぐっているのだ。
文化の差は有るだろう。もしかしたら元親は「そういう」つもりではないのかもしれない。しれないが、しかしこれは、文句を言うべき事態ではあるまいか。
元就が寝惚けた頭でそう考えている間にも、元親の行為は続き、しかもエスカレートしていた。ついには服の中に手を入れて来たものだから、元就は「こら」と声を上げ、元親を離れさせた。
「……ダメ、か?」
「ダメもなにも。そもそもそなた、何をしようとしておるのだ」
「? ……あぁそうか、あんたらとは意味が違うのかな」
元親は頷いたが、布団から出ようとはしなかった。
「俺達は心っていう不安定なモンで繋がってる。だから時々、親交をより深め、お互いの繋がりを確かめるために抱き合う。男も女も関係無いし、いつでもそうする。相手が好きだと思うなら、誰にでも、いつでも」
「我々人間は、愛する人としかせぬ」
「俺はあんたを愛してるぜ? 元就は俺を愛してないのか?」
「そうではなくて、その、何と言えば良いのか……」
元就が困った顔をすると、元親も眉を寄せて、首を傾げる。
「何だ? ぐるぐるしてるぞ。それに、少し怖がってる」
「……便利なものだな、その力。我らばかりが不利ではないか」
元就はため息を吐いて、元親の頬を撫でた。
「その、な、元親。拒む理由はいくらでも有るのだ。しかしその……それは恐らく、そなたに対しての抑止力にはならぬだろう。我の気持ちが曲がって伝わるかもしれないから、説明する。素直に聞け。我はそなたが好きだ。だが人の「愛」と呼ぶ物は、必ずしもそれと一致しない。それは良く似ているから、判別に時間と覚悟が必要なのだ」
「うん」
「そしてその……我が怖がっている理由だが、我はその……人との経験が、無くてだな……」
「……ん、つまり、処女って事か」
「な、な、何と言う言葉を知っておるのだ、そなた!」
元就は慌てたが、元親は笑って言う。
「女も子供も居るんだ、初心なんかじゃねえよ。たぶんあんたより年上だしな」
曰く、猫には少子化という問題が起こった事が有るのだそうだ。その末に彼らはいくつかの取り決めをした。
男は女と子供の面倒を、個ではなく全で見る。女と子供は種としての財産であり、全ての個体で守る。その代わり、各々に夫婦関係、親子関係の重責を与えない。男は子供を産み捨てさせればいい。そして女と子供を守るため、男達は日ごろから少々の協力をする。
「だから成人した俺達も、子供と変わらない見た目を維持する個体が居る。俺もそうだな。あんたらに狩られるのが本当の子供にならないように、ごまかす事にしたんだ。精一杯の抵抗ってやつだよ。俺は男とも女とも寝たし、子供も何人かは出来たと思う。だから俺個人には、守るべきモンも何も無い。元就を抱きたい。俺は構わない。あんたが怖いなら、大丈夫、優しくするよ」
「な、何を申すか。ならば猫の女とでもすればいい、わざわざ我などでなくても……」
「……? ああ、何だ? 違うのか。そうか。あんた、そういうのいい加減止めた方がいいぜ」
「何を言っておるのだ、さっきから……」
元就が眉を寄せると、元親は真剣な顔で言った。
「あんた、自分が嫌いなんだ。だから俺に好かれる資格が無いと思ってる。でもそれは大きな間違いだ。だって「前のあんた」は、元就を許して死んだんだから」
それは酷く脈絡の無い言葉だったのに、元就にははっきりと、元親の言わんとしている事が判った。
最後ぐらい。
最期の時ぐらいは、優しくしてやりたかった。
どんなに歪んでいても、どんなに憎らしくても。
それが死に逝く者なのだから、最期ぐらい、優しくしてやりたかったのに、出来なかった。
「歳を重ねるごとに、「アイツ」の気持ちが判るようになったんだな。だからますます後悔するようになっちまった。あの時もう少し優しくする事は出来なかったのか、見取ってやる事は出来なかったのかって。それが出来なかったあんたは嫌な奴か? 酷い奴か? 愛される資格が無いってか? そんな事は無いよ、なあ。あんたには辛い事だろうけど、もう一度良く向き合ってみろよ。本当は判ってるんだろう?」
「な、にを……」
「あんたに「アイツ」は酷い事をしたよ。だから「アイツ」があんたに愛されなかったのは、自業自得って奴であって、元就のせいじゃない。あんたはまだ未熟で、「アイツ」の暴力に耐えてまで愛せるような神様じゃなかった、それだけだ。それの何処が悪いってんだ? あんたは「アイツ」の望み通りの生き方をしただけだよ、そうだろ」
「……し、知ったような事を……」
「知ってるよ、大体は。あんたよりたぶん、確かなモノを見てる。「アイツ」は最後にあんたの存在を、生を、あんたとしての人生を認めた。それは「アイツ」からの別れの挨拶だ。そして死んだ。「アイツ」が羨ましいと思ったって、あんたの事恨んだりはしないはずだ。それにもう、この世には存在しない。あんたを苦しめる「アイツ」はもう何処にも居ない。……なら、あんたを呪って苦しめてるのは、あんた自身しか居ないだろ? なぁ、元就。もう自分を許してやれよ」
歳をとって。数多くの研究を重ねて。
そうして勝ち取った物が、全て消えて。全て無意味だと突き付けられて。
「彼」がどれ程辛かったか、苦しかったか。それは理解していた、つもりだった。
壁に向かって公式を呟き続けて。一つ言い淀む度に、また最初から繰り返して。薄暗い研究室で一人、ただ膝を着いて、ただただ自分を確かめて。
そしてついに、完全に失われた公式を見つけ。彼はそれを「思い出そう」と壁を抉る。書いたら思い出すかもしれない。書けば、書いていれば、思い出そうとしていれば。
そうしている間に、自分が何をしていたのか忘れるのだ。公式を書き続け、壁が真っ黒になる頃に、彼はその重さに気付く。自分がしようとしていた事を考え、眼の前の公式を見て、そして理由も公式も「思い出す」事が出来ないと理解した時に、彼はただ泣いた。泣き叫んだ。
心の底から、獣のように、赤子のように。こんなのは嫌だ、違う、と。まだここに生きているのだと。生きているのに、まだ生きているのに、身体が、心が、脳が端から死んでいくのだと。砕けて、崩れて、涙になって零れて。そして「彼」はまた、泣いている理由を忘れるまで、喉がかれるまで泣き続けた。
その背中の、小さな背中の痛みを、元就は確かに覚えている。
そしてその背中を抱いてやれたらと、……それが彼を一層惨めにさせるだけだと理解していたから、そうしなかった事を、覚えている。
「あんたは精一杯やったよ。「アイツ」の望みを叶えたじゃねぇか。自分を残すっていう望みを。そして「アイツ」は他ならぬあんたに、自由を許した。あんたの幸せを願っての事だ、そうだろう。ならあんたは、あんたとして生きて良いんだよ。苦しむ事なんて、あんたがあんた自身を憎む事なんて、誰も望んでない。そうだろ? なぁ……」
元親がそっと、元就の頬を撫でた。優しい、温かい手だった。
「あんたは頑張ってるよ。汚くなんてないし、嫌な奴なんかじゃないよ。俺はもっと恐ろしい物をいっぱい知ってる。あんたは大丈夫だ。だから自分で汚すような事、しなくていい。あんたの事が好きだよ、俺は。俺はあんたの事を愛してる。確かに」
だからあんたも、俺が好きな元就の事、憎まないでやってくれよ。
元就はしばらく何も言えなかった。また色々な感情が、ぐるぐると身体の中を駆け巡って、考えがまとまらない。ただハッキリと「泣きたい」と思った。
「泣けよ」
元親が僅かに笑む。
「泣いていいんだよ、「アイツ」があんたより不幸だったかどうかなんて、関係無いんだよ。なぁ、元就、俺が受け止めてやる、愛してやるから。なぁ」
元就はまた少し考えて、それから、
「そなたは、卑怯だ」
そう呟き、元親を置いてラボに走った。元親もまた茫然としたまま、追っては来なかった。
薄暗いラボの中で、一人で泣いた。
「彼」がどれ程辛かったか、苦しかったか。そんな「彼」を見てどれ程自分が辛かったか、苦しかったか。そうして呆気無く失われるモノに意味は有るのか。こうして守っているラボに、研究に、酵素に、そしてその実験に殺される猫達に意味は有るのか。
何もかも判らず、何もかもに未だ答えは無い。答えの無いモノを求めて問い、叫んでも、やはり何も判らない。
ただただ、命の限り泣いて、笑って、生きるしかないのだ。
「彼」は最後に笑った。だから、それでいい。だから、我も笑うために生きねばならぬのだ。
涙が止まらない。喉が、胸が焼け付くようだ。いつの間にかすぐ側に元親が居て、そっと背中を撫でてくれていた。
そうだ、いつも「彼」の背中を守っていたのは、あの「明智」だった。
「彼」にも居たのだ、愛してくれる人が、一人だけでも、一緒に泣いて、一緒に笑って、そして一緒に死ぬような、そんな人間が。
元就は静かに悟って、そして眼を閉じる。
「彼」は安らかな場所に帰ったのだ。たった一人の人と共に。
だから、だからあんな穏やかな顔で。
救う事は出来たのだ。「彼」の望みは叶えられた。数多くの願いが壊れた後で、たった一つ残ったモノを、叶える事が出来たのだ。
最後に、別れを告げてくれた。「彼」との道はその時離れた。もう、自分は自分として生きて良いのに、ずっと知らないふりをしていたのだ。
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オリジナル元就編も書くべきかなと思ったけど、
軽く死にたくなりそうだからやめときます
記憶が溶けていく系は本当に見ていて辛いし考えても辛い
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