これが終わったら72を書こうと思っているんですが……
なんだかエロ疲れしたので、72はほのぼののみでいこうかなと
でもまぁ根が腐りきってるんで、そのうちエロエロも書くと思います
まぁそんなわけで主従の3 久しぶりに弟です
なんだかエロ疲れしたので、72はほのぼののみでいこうかなと
でもまぁ根が腐りきってるんで、そのうちエロエロも書くと思います
まぁそんなわけで主従の3 久しぶりに弟です
元就の中国制圧も、元親達の支援が有ったとは言いながら、決して楽な物ではなかった。
謀略と外交、そして小規模な戦の繰り返しで、大国達を打ち破った。運が良かった、とも言える。大国同士が潰し合い、疲弊したそれらを手に入れた。漁夫の利という奴で、当然、亡国の武士達は毛利をよく思っていない。
根気良く外交に当たり、それらの抵抗勢力を抑えてはいる。だが奥地に行けばやはり情勢は不安定だ。山賊まがいの行為で毛利家を脅かす。放っておけば、騒ぎが大きくなるかもしれない。だから鎮圧に向かわなければならない。
旧尼子家の領地について、元就はその政務を義弟元綱に一任している。元綱の誠実な態度に、尼子の残党達も落ち着いてきてはいる。元就は一度その現状を確認しておく必要が有ると思っていた。東が動く前に、領地の安定を確保しておきたかったのだ。
だから、元親が四国に帰ると船を出した日、元就は元綱に案内を頼み、北へと向かおうとしていた。
ところが屋敷を出るか出ないかという時に、客が訪れる。明智光秀だ。織田との関係上、重要な人物である。元就は少し考えて、北方の視察を取りやめた。代わりに元綱を行かせる事にする。
命令を受けて元綱は素直に頷いたが、元就の側から去ろうとはしなかった。元就が不審に思っていると、彼がおもむろに口を開く。
「元就様は、……どうお考えなのですか」
「何の事だ。それと、人前でないなら、その名で呼ばずとも良いと、幾度も……」
「では兄上。四国長曾我部の事を、どうお思いなのですか。兄上のお耳にも入っておられるでしょうが……」
元就は僅かに眉を寄せた。元綱はやや俯いて、こちらの様子を窺っている。
彼が何を言おうとしているのか、元就にも判る。噂だ。四国長曾我部は、中国毛利を土産に織田に下る気ではないか、と。その為に、当時弱小国でしかなかった毛利を配下にし、都合のよい時に切り捨てるのではないか。悪い事には、毛利の長は、長曾我部に依存しきっている――。そんな噂だ。元就の耳にも届いてはいる。だが特に気にしなかった。風聞に惑わされるのは愚かな者達だ。
だから、元綱もその一人かと思った。が、どうも事情は違うらしい。
「家臣の者達が、不安に思っておりまする。兄上はいつまで、長曾我部に傅いておられるのですか。元就様は今や一国の主、領土も領民も増え、長曾我部に頼る必要はもはやありません。むしろ、彼らのからくり兵器や民衆を養う為に、こちらから資源を奪われてばかりではありませんか。家臣達は不満を持っています。いずれ火がつけば、何らか動きがあるかと……」
「ほう。それで、火種はそなたか、元綱」
「め、滅相も有りません。ただ私は……噂が真の可能性も有ると。であるならば……先手を打つべきではないのかと……」
「先手」
元就は敢えて元綱の話に付き合う事にした。普段なら下らないと言い捨てればいいところだが、織田との戦を前に、最も近い配下である彼の言い分を聞いておくべきだと判断したのだ。
元綱は今度は元就の眼を見て、口を開く。本気だ、という意思表示である。
「もし。万が一、噂が真なら。毛利家は、長曾我部家を手土産に、織田に下るべきではないかと……」
「……」
「織田はあまりに強大、加えて東は長らく戦に明け暮れ、当然ながら戦上手でありましょう。我々は所詮、この領地を横から奪ったにすぎません。彼らと真っ向から当たって、勝てるかどうか……。ならばいっそ、……」
「元綱」
それ以上得られる事は無いだろうと思い、元就は口を開く。努めて淡々と、元綱に言う。
「噂とはそれ自体、謀略の可能性が有る。あるいは、織田が我らの相互不信の煽る為に流しているかもしれぬ。噂という程度の物に、左右されるべきではない」
「しかし、火の無い所に煙は立たぬと申しますし、」
「仮に火が有ったとして。噂が真だったとして、それでその後どうなると思う。四国が中国を土産に織田に下る。四国にはめぼしい資源も何も無い。一気に疲弊する。そして未練も無い土地を、焼き滅ぼして終わりだ。長い目で見れば無意味な選択ぞ。まして、織田が下った相手を守るとも思えぬ。元々こちらとの和平協定を破った相手。いかな形で友好を迫ったところで、あちらの気分次第で破棄されるだけだろうて。つまらぬ話だ」
「……」
「それともそなたは、それを望んでおるのか。我らが四国から独立する事を」
「いえ、ですが、……ですが、長曾我部は我々を利用しているだけではないかと……」
「元綱。我を信じておるか」
「は? あ、はい、それは、もう」
「なれば我の信じるものを信じよ。それが信じられぬなら、我の事も信じるな。……これで話は終わりだ。良いな。我を信じろ」
元綱は尚も何か言いたげではあったが、やがて深く頭を垂れると、立ち去った。
ただでさえ、そんな話をされて不機嫌だった元就は、それから面会した光秀に対しても、柔らかく接する事など到底出来なかった。
光秀はふらりと従者もろくに連れず、元就の屋敷を訪れる。お互い帯刀したままで部屋に入った。互いに一騎打ちになったところで、仕留められるとは思っていない。したところで意味が有るとも思えない。少なくとも元就の側には無い。
「最後の御挨拶にと思って、参りましてね」
「最後の……?」
「西方攻略の任を解かれましてね。少し貴方達に入れ込みすぎました。今後は新たに命を受けた、豊臣殿の補佐、ですよ。聞こえはいいですが、要はお役御免です。私は明日から何をすればいいんでしょう。ああ、悲しい悲しい」
光秀は薄らと笑みを浮かべたまま、そう言う。少しも悲しそうではない。元就は特に取り合わず、「豊臣とは?」と問う。
「信長公はあまり気に入っていない大男ですよ。智謀の方は少しね。お抱えの軍師が得意です。厄介ですよ」
「知り合いか」
「ええ、腐れ縁という奴ですね。……ともかく、私は貴方達に情を持っていましたから、手加減もしましたし、良いようにしようと思いました。ですが彼らはそうはいかないでしょう。貴方も長曾我部殿も良い将ですが……恐らくこれが今生の別れでしょうね。黄泉にてお会いしましょう」
「……」
「おや。お別れの御挨拶もしていただけないのですか? 寂しいですねえ……」
光秀が微笑んだまま首を傾げる。それを冷ややかに見つめながら、元就は「それで」と続きを促す。
「それで、とは?」
「そのような用向きのみで来たわけではなかろう。……そなた、我が国に良からぬ噂を振り撒いているのではあるまいな」
「私が? まさか……そういう姑息な手は好きではありませんよ。それならいっそ、この場で貴方を斬った方が楽ではありませんか。ねぇ、毛利殿」
光秀が己の刀の柄を撫でる。からかっているのだ、と判っているから、元就は微動だにしない。ただ一言、「真だな」と問うた。光秀もまた、「えぇ」と一言答える。
「もしそのような事が起こっているなら、私ではない人の仕業でしょう。陰険で姑息な、嫌な男ですよ。己の望みを主に叶えさせようという不届き者。しかもその事に彼自体気付いていないのです。全く愚かな男ですよ……あぁ、話がそれましたね」
「……それで。ならば何の為に参った」
「……毛利殿は、独立に興味はお有りで?」
元就は眉を寄せた。不快だと訴える為である。しかし光秀は微笑んだまま、話を続ける。
「今が最後の機会だと思うのです。貴方は長曾我部殿の事も良く知っておられる。容易く首を取れるでしょう。元々、信長公は四国平定を望んでいますから、あるいは毛利殿が、彼の首を捧げれば、信長公も中国を悪いようには、」
びゅん、と刀が空を切る。刃は光秀の肌に吸いつくように止まる。首に刃を突き付けられて尚、光秀は微笑んでいる。元就は刀を光秀に押しつけたまま、彼を見据える。
「それ以上下らぬ事を申せば、貴様を首にするぞ」
「怖い怖い……怒らせてしまいましたか? 私はあくまで可能性の話をしているのですよ。まだ斬らないで下さい、やりたい事が残ってるのでね」
元就はそれからしばらくそうしていたが、やがて刀を鞘に戻すと、溜息を一つ吐いて、庭を見る。椿が風に揺れていた。少し眉を寄せて、また光秀に視線を戻す。
「貴様は首になってもその口を開くだろうな」
「よくお判りで」
「それで。本題は」
「おや、今のが本題だとは思われない」
「噂の域を出ぬ提案なぞ、そなたがしに来るとも思えぬ。何を言いに参った」
光秀は、「そうですか、そういう噂ですか」などと納得したように幾つか頷いて、改めて元就を見つめる。ねっとりとした視線。元親とは違う意味で、奥まで覗き込む不躾な眼だ。元就はそれが好きではない。
「前々から申しておりますように、私は貴方の才を評価しています。貴方はあの粗暴な男の下でくすぶるような人間ではない。そう思うからこそ、今が最後の機会だと申しているのです。織田に御出でなさい。私が守って差し上げますから」
「粗暴な男を見捨てて、魔王につけと? ましてや今まさに、そなたは我らを守れなかったというのに、そのような事を申すか」
「これは手厳しい。いつから私は貴方にそう嫌われたのでしょうね」
「初めて会うた時からぞ。……それに、我は長曾我部の家臣。主を裏切るような事は決して出来ぬ。主が死ぬるなら、それに着き従うのが定めよ」
「……それは本音ですか?」
「何……」
「いえ、……あるいは貴方は何も考えていないのではないかと思いましてね」
元就がまた眉を寄せると、光秀は「いえいえ、違うのです」と首を振る。こういう回りくどいところや、やたらに気に入られているところが、元就には不快である。
「古い契約に縛られて、他に選択の余地が無いと思いこんでおられるのではないかと。……そう思っただけですよ。本当に主と共に散る御覚悟が有るのか、聞きに来たのです」
「……」
元就はしばらく考え、そして止めた。それは確かに、考えても仕方ない事だった。だから元就は考えない。元親の為に死ぬのだと、それ以外の事は。
「そなたこそ。我を本気で引き抜きたいなら、誠意を見せるがいい」
「誠意、とは」
「我は魔王には傅かぬ。そなたにならまだしもな。ならばそなたがすべき事は、そなた自身が魔王と袂を分かつか、……あるいは、そなたこそが魔王の首、取って参るかだ」
光秀はその言葉に初めて動揺した。それは元就にとっても予想外の事で、二人は共に驚いていたが、互いにそれを明らかにはしなかった。光秀は明らかに表情を変えていたが、すぐに元の微笑みを取り戻して、小さく笑う。
「貴方も無茶をおっしゃる」
「そなたは魔王に信頼されておる。首を取るのは他の誰より容易かろう」
「私に主殺しになれと」
「我にそう促しておいて、己はその覚悟が無いか? 我は主を見限らぬ。今のそれに勝る者が現れぬ限りな」
光秀は、答えなかった。
光秀が屋敷を出て、しばらくすると、今度は元親がやって来た。出航した筈ではなかったか、と元就がいぶかしんでいると、彼は笑って、「忘れ物をした」と言う。
彼はそのまま元就の手を取り、そして肩に手を置き、眼をじっと見つめて来る。それがやはり怖い。探られるような気がして、眼を合わせたくない。だがそれを悟られたくないから、しっかりと見つめ返す。尋常ではない精神力を要した。
「もう一回言うぞ。自分を大事にしろよ。我も所詮は駒の一つとか、ふざけた考えで進めるんじゃねぇからな」
「そなた、そのためだけに……」
「大事な事だ。何度でも言う。お前は俺にとって大切な仲間だ。絶対に失うわけにはいかない。だから俺に決して嘘は吐くな。俺を裏切るな。いや、裏切ったっていい、でも決して死ぬな。……つまらねぇ噂が流れてる。乗じてつまらねぇ連中が動くかもしれない。気ぃつけろ」
元親はそう小さな声で告げると、二度元就の肩を叩いて、踵を返す。
それだけのために、船を返したと。
元就は呆れながら、その背を見送った。
+++
珍しく弟が生きてます
謀略と外交、そして小規模な戦の繰り返しで、大国達を打ち破った。運が良かった、とも言える。大国同士が潰し合い、疲弊したそれらを手に入れた。漁夫の利という奴で、当然、亡国の武士達は毛利をよく思っていない。
根気良く外交に当たり、それらの抵抗勢力を抑えてはいる。だが奥地に行けばやはり情勢は不安定だ。山賊まがいの行為で毛利家を脅かす。放っておけば、騒ぎが大きくなるかもしれない。だから鎮圧に向かわなければならない。
旧尼子家の領地について、元就はその政務を義弟元綱に一任している。元綱の誠実な態度に、尼子の残党達も落ち着いてきてはいる。元就は一度その現状を確認しておく必要が有ると思っていた。東が動く前に、領地の安定を確保しておきたかったのだ。
だから、元親が四国に帰ると船を出した日、元就は元綱に案内を頼み、北へと向かおうとしていた。
ところが屋敷を出るか出ないかという時に、客が訪れる。明智光秀だ。織田との関係上、重要な人物である。元就は少し考えて、北方の視察を取りやめた。代わりに元綱を行かせる事にする。
命令を受けて元綱は素直に頷いたが、元就の側から去ろうとはしなかった。元就が不審に思っていると、彼がおもむろに口を開く。
「元就様は、……どうお考えなのですか」
「何の事だ。それと、人前でないなら、その名で呼ばずとも良いと、幾度も……」
「では兄上。四国長曾我部の事を、どうお思いなのですか。兄上のお耳にも入っておられるでしょうが……」
元就は僅かに眉を寄せた。元綱はやや俯いて、こちらの様子を窺っている。
彼が何を言おうとしているのか、元就にも判る。噂だ。四国長曾我部は、中国毛利を土産に織田に下る気ではないか、と。その為に、当時弱小国でしかなかった毛利を配下にし、都合のよい時に切り捨てるのではないか。悪い事には、毛利の長は、長曾我部に依存しきっている――。そんな噂だ。元就の耳にも届いてはいる。だが特に気にしなかった。風聞に惑わされるのは愚かな者達だ。
だから、元綱もその一人かと思った。が、どうも事情は違うらしい。
「家臣の者達が、不安に思っておりまする。兄上はいつまで、長曾我部に傅いておられるのですか。元就様は今や一国の主、領土も領民も増え、長曾我部に頼る必要はもはやありません。むしろ、彼らのからくり兵器や民衆を養う為に、こちらから資源を奪われてばかりではありませんか。家臣達は不満を持っています。いずれ火がつけば、何らか動きがあるかと……」
「ほう。それで、火種はそなたか、元綱」
「め、滅相も有りません。ただ私は……噂が真の可能性も有ると。であるならば……先手を打つべきではないのかと……」
「先手」
元就は敢えて元綱の話に付き合う事にした。普段なら下らないと言い捨てればいいところだが、織田との戦を前に、最も近い配下である彼の言い分を聞いておくべきだと判断したのだ。
元綱は今度は元就の眼を見て、口を開く。本気だ、という意思表示である。
「もし。万が一、噂が真なら。毛利家は、長曾我部家を手土産に、織田に下るべきではないかと……」
「……」
「織田はあまりに強大、加えて東は長らく戦に明け暮れ、当然ながら戦上手でありましょう。我々は所詮、この領地を横から奪ったにすぎません。彼らと真っ向から当たって、勝てるかどうか……。ならばいっそ、……」
「元綱」
それ以上得られる事は無いだろうと思い、元就は口を開く。努めて淡々と、元綱に言う。
「噂とはそれ自体、謀略の可能性が有る。あるいは、織田が我らの相互不信の煽る為に流しているかもしれぬ。噂という程度の物に、左右されるべきではない」
「しかし、火の無い所に煙は立たぬと申しますし、」
「仮に火が有ったとして。噂が真だったとして、それでその後どうなると思う。四国が中国を土産に織田に下る。四国にはめぼしい資源も何も無い。一気に疲弊する。そして未練も無い土地を、焼き滅ぼして終わりだ。長い目で見れば無意味な選択ぞ。まして、織田が下った相手を守るとも思えぬ。元々こちらとの和平協定を破った相手。いかな形で友好を迫ったところで、あちらの気分次第で破棄されるだけだろうて。つまらぬ話だ」
「……」
「それともそなたは、それを望んでおるのか。我らが四国から独立する事を」
「いえ、ですが、……ですが、長曾我部は我々を利用しているだけではないかと……」
「元綱。我を信じておるか」
「は? あ、はい、それは、もう」
「なれば我の信じるものを信じよ。それが信じられぬなら、我の事も信じるな。……これで話は終わりだ。良いな。我を信じろ」
元綱は尚も何か言いたげではあったが、やがて深く頭を垂れると、立ち去った。
ただでさえ、そんな話をされて不機嫌だった元就は、それから面会した光秀に対しても、柔らかく接する事など到底出来なかった。
光秀はふらりと従者もろくに連れず、元就の屋敷を訪れる。お互い帯刀したままで部屋に入った。互いに一騎打ちになったところで、仕留められるとは思っていない。したところで意味が有るとも思えない。少なくとも元就の側には無い。
「最後の御挨拶にと思って、参りましてね」
「最後の……?」
「西方攻略の任を解かれましてね。少し貴方達に入れ込みすぎました。今後は新たに命を受けた、豊臣殿の補佐、ですよ。聞こえはいいですが、要はお役御免です。私は明日から何をすればいいんでしょう。ああ、悲しい悲しい」
光秀は薄らと笑みを浮かべたまま、そう言う。少しも悲しそうではない。元就は特に取り合わず、「豊臣とは?」と問う。
「信長公はあまり気に入っていない大男ですよ。智謀の方は少しね。お抱えの軍師が得意です。厄介ですよ」
「知り合いか」
「ええ、腐れ縁という奴ですね。……ともかく、私は貴方達に情を持っていましたから、手加減もしましたし、良いようにしようと思いました。ですが彼らはそうはいかないでしょう。貴方も長曾我部殿も良い将ですが……恐らくこれが今生の別れでしょうね。黄泉にてお会いしましょう」
「……」
「おや。お別れの御挨拶もしていただけないのですか? 寂しいですねえ……」
光秀が微笑んだまま首を傾げる。それを冷ややかに見つめながら、元就は「それで」と続きを促す。
「それで、とは?」
「そのような用向きのみで来たわけではなかろう。……そなた、我が国に良からぬ噂を振り撒いているのではあるまいな」
「私が? まさか……そういう姑息な手は好きではありませんよ。それならいっそ、この場で貴方を斬った方が楽ではありませんか。ねぇ、毛利殿」
光秀が己の刀の柄を撫でる。からかっているのだ、と判っているから、元就は微動だにしない。ただ一言、「真だな」と問うた。光秀もまた、「えぇ」と一言答える。
「もしそのような事が起こっているなら、私ではない人の仕業でしょう。陰険で姑息な、嫌な男ですよ。己の望みを主に叶えさせようという不届き者。しかもその事に彼自体気付いていないのです。全く愚かな男ですよ……あぁ、話がそれましたね」
「……それで。ならば何の為に参った」
「……毛利殿は、独立に興味はお有りで?」
元就は眉を寄せた。不快だと訴える為である。しかし光秀は微笑んだまま、話を続ける。
「今が最後の機会だと思うのです。貴方は長曾我部殿の事も良く知っておられる。容易く首を取れるでしょう。元々、信長公は四国平定を望んでいますから、あるいは毛利殿が、彼の首を捧げれば、信長公も中国を悪いようには、」
びゅん、と刀が空を切る。刃は光秀の肌に吸いつくように止まる。首に刃を突き付けられて尚、光秀は微笑んでいる。元就は刀を光秀に押しつけたまま、彼を見据える。
「それ以上下らぬ事を申せば、貴様を首にするぞ」
「怖い怖い……怒らせてしまいましたか? 私はあくまで可能性の話をしているのですよ。まだ斬らないで下さい、やりたい事が残ってるのでね」
元就はそれからしばらくそうしていたが、やがて刀を鞘に戻すと、溜息を一つ吐いて、庭を見る。椿が風に揺れていた。少し眉を寄せて、また光秀に視線を戻す。
「貴様は首になってもその口を開くだろうな」
「よくお判りで」
「それで。本題は」
「おや、今のが本題だとは思われない」
「噂の域を出ぬ提案なぞ、そなたがしに来るとも思えぬ。何を言いに参った」
光秀は、「そうですか、そういう噂ですか」などと納得したように幾つか頷いて、改めて元就を見つめる。ねっとりとした視線。元親とは違う意味で、奥まで覗き込む不躾な眼だ。元就はそれが好きではない。
「前々から申しておりますように、私は貴方の才を評価しています。貴方はあの粗暴な男の下でくすぶるような人間ではない。そう思うからこそ、今が最後の機会だと申しているのです。織田に御出でなさい。私が守って差し上げますから」
「粗暴な男を見捨てて、魔王につけと? ましてや今まさに、そなたは我らを守れなかったというのに、そのような事を申すか」
「これは手厳しい。いつから私は貴方にそう嫌われたのでしょうね」
「初めて会うた時からぞ。……それに、我は長曾我部の家臣。主を裏切るような事は決して出来ぬ。主が死ぬるなら、それに着き従うのが定めよ」
「……それは本音ですか?」
「何……」
「いえ、……あるいは貴方は何も考えていないのではないかと思いましてね」
元就がまた眉を寄せると、光秀は「いえいえ、違うのです」と首を振る。こういう回りくどいところや、やたらに気に入られているところが、元就には不快である。
「古い契約に縛られて、他に選択の余地が無いと思いこんでおられるのではないかと。……そう思っただけですよ。本当に主と共に散る御覚悟が有るのか、聞きに来たのです」
「……」
元就はしばらく考え、そして止めた。それは確かに、考えても仕方ない事だった。だから元就は考えない。元親の為に死ぬのだと、それ以外の事は。
「そなたこそ。我を本気で引き抜きたいなら、誠意を見せるがいい」
「誠意、とは」
「我は魔王には傅かぬ。そなたにならまだしもな。ならばそなたがすべき事は、そなた自身が魔王と袂を分かつか、……あるいは、そなたこそが魔王の首、取って参るかだ」
光秀はその言葉に初めて動揺した。それは元就にとっても予想外の事で、二人は共に驚いていたが、互いにそれを明らかにはしなかった。光秀は明らかに表情を変えていたが、すぐに元の微笑みを取り戻して、小さく笑う。
「貴方も無茶をおっしゃる」
「そなたは魔王に信頼されておる。首を取るのは他の誰より容易かろう」
「私に主殺しになれと」
「我にそう促しておいて、己はその覚悟が無いか? 我は主を見限らぬ。今のそれに勝る者が現れぬ限りな」
光秀は、答えなかった。
光秀が屋敷を出て、しばらくすると、今度は元親がやって来た。出航した筈ではなかったか、と元就がいぶかしんでいると、彼は笑って、「忘れ物をした」と言う。
彼はそのまま元就の手を取り、そして肩に手を置き、眼をじっと見つめて来る。それがやはり怖い。探られるような気がして、眼を合わせたくない。だがそれを悟られたくないから、しっかりと見つめ返す。尋常ではない精神力を要した。
「もう一回言うぞ。自分を大事にしろよ。我も所詮は駒の一つとか、ふざけた考えで進めるんじゃねぇからな」
「そなた、そのためだけに……」
「大事な事だ。何度でも言う。お前は俺にとって大切な仲間だ。絶対に失うわけにはいかない。だから俺に決して嘘は吐くな。俺を裏切るな。いや、裏切ったっていい、でも決して死ぬな。……つまらねぇ噂が流れてる。乗じてつまらねぇ連中が動くかもしれない。気ぃつけろ」
元親はそう小さな声で告げると、二度元就の肩を叩いて、踵を返す。
それだけのために、船を返したと。
元就は呆れながら、その背を見送った。
+++
珍しく弟が生きてます
PR
■ この記事にコメントする
プロフィール
Google Earthで秘密基地を探しています
HN:
メディアノクス
性別:
非公開
趣味:
妄想と堕落
自己紹介:
浦崎谺叉琉と美流=イワフジがてんやわんや。
二人とも変態。永遠の中二病。
二人とも変態。永遠の中二病。
カレンダー
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
カテゴリー
メロメロパーク
ひつじです。
ブログ内検索
最新コメント
[02/11 美流]
[02/10 通りすがリィ]
[02/10 通りすがリィ]
[07/28 谷中初音町]
[07/02 美流]
最新記事
(04/26)
(04/26)
(04/23)
(04/21)
(04/20)
カウンター
"オクラサラダボウル"