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めでぃのくの日記
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2025-01-19 (Sun)
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2010-03-15 (Mon)
 試しに主従物のその1を。ほんとタイトルどうにかならんのかな。
 一応傾向と注意書き
 必然的にネタバレです。一応ドラッグで。

元親が主で、元就が家臣の一人ですが、名目上の事であり実際は対等
10年前に毛利家は長曾我部家に吸収されています
現時点で二人に性的関係は全く有りません。

 一応そんな感じです。

 その時、元就は確かに、信じかけていた。まだ信じきる事は出来なかったが、それでも。心を許そうとしていた。その矢先だ。

 父と、兄が。何者かに毒殺された。長曾我部の者は、毛利の者がやったと言い、毛利の者は、長曾我部の者がやったと言い、指差し、罵り合った。

 まだ年若く、しかも肉親を全て失った元就には、事実がどうなのか考えるような余力も無い。ただ毎日泣いた。彼の周りで、互いの家の臣が怒鳴り合った。間に挟まれて、元就はただ俯く。

 誰も信用出来ない。毛利の者も、長曾我部の者も。誰が敵で、誰が味方かも判らない。しばらくの間、そういう状態が続いた。

 椿。

 椿の紅が、鮮やかに咲き、空の青に映える頃。

「長曾我部は断じて、毛利の者を陥れない。必ず守る。今回の事も全て、こちらのした事ではない。だから、その証を見せよう、毛利の長よ。いいな? 元親」

 銀糸の髪が。揺れて。揺らめいて。止めろと声を出す間も無く。

 椿。

 椿の、紅が、鮮やかに。

「俺達を信じてくれ、元就。俺達は決して、お前を傷付けない」

 銀糸の髪を赤く染めて、その親子は笑う。その赤が、空の青に映えた。悪夢のように、美しい、恐ろしい光景。その中で笑う、鬼の親子。

 そして無力な元就は、若い元就は。差し出された手を握り返し、頷く事しか、出来なかった。




 今にして思えば。

 元就はふいに庭へ目をやり、咲き誇る椿を見て考える。

 我は、騙されたのだ。様々な点において。

 元就は溜息を一つ吐き、のろりと立ち上がると、庭へと歩み出る。

 騙されたのは、もう10年も前の事だ。





 毛利はまだ、この地方に存在している小さな国の領主でしかなかった。僅かな領地を家臣だけを抱え、大国に挟まれ、あちらへこちらへと頭を垂れるばかりの家だった。

 ある時、四国土佐、伊予を制圧した長曾我部が、同盟を申し込んでくる。主従関係を結び、長曾我部の配下になる事を促していた。事実上、脅しでもある。従わない場合は、しかるべき行動をとらせてもらう、と。

 毛利は抵抗した。ただでさえ大国に挟まれた情勢で、名も知らぬ者に国を任せるわけにはいかない。仮に話を受けたなら、それを口実に周りから攻められる事は疑いようも無い。話を断れば、長曾我部が攻めてくる。八方塞がりだった。もう終わりなのだ、と毛利の誰もが信じ、覚悟を決める。

 毛利は次々と戦に負け、あっという間に城に迫られた。自害を考える毛利家の人々に、長曾我部から使者が来た。城に通して毛利の者達は驚いた。使者は長曾我部の長、国親だったのだ。

「あんたらの考えている事は判る。ただじゃあこっちの条件を呑む事は出来ない。そうだろう? だから口実を与えてやったぜ。攻められたから従属した。決して裏切ったわけじゃあない。そうだろ? さぁ、今こそ長曾我部と同盟を結べ。案ずるな。長曾我部は毛利を滅ぼさない。守ってやる。どうだ、いい話だろう」

 毛利の者達は困惑して、彼の言葉を聞く。彼は本土に足掛かりを欲していた。情報も物品も、本州の方が流れがいい。四国には資源も無い。だが本土には有る。しかし京の方角は、戦で荒れている。中国に行くしかない。そして毛利家に目を付けた。

 一度は断るだろうと判っていた。だから、戦でも出来るだけ毛利の兵を殺さないようにした。こうして負けてしまえば、周りの国も毛利家に口出しをする事は出来ない。仮に攻めてきたとしても、長曾我部の兵を滞在させるから、防衛も出来る。

 長曾我部の言う事を真に受けるなら、毛利にとっても悪い話ではなかった。毛利は領地も少なく、山林ばかりで資源も無い。兵も無い。大国に挟まれて、最前線に放り込まれるだけの国だ。そこに兵を与えてくれるなら、それはありがたい話だ。尤も、全て本当の事だとしたら、だが。

 毛利の者達は最初、彼を信用しなかった。ただ当主の弘元は、すぐに彼の言う事を信じていたらしい。というよりもはや、選択肢は無いと悟っていたようだ。あくまで突っぱねれば、家が終わる。家が続くのならそれでいいと納得していたようだった。

 そしてそう長い時間を経ずに、毛利家は長曾我部に吸収される形となった。ただし最初の盟約により、本土の領地については全面的に毛利家の物、という事にされる。毛利の長にも、長として正当な権利を与える、と。

 しばらくはそれで上手くいっていた。しかしある時、弘元とその長子の興元が毒殺される。いよいよ本性を現したな、と毛利の者は長曾我部の仕業と決めつけた。そして国親とその嫡男元親は、潔白を証明するために、自らの左眼を抉りだした。

 改めて調べてみると、毒は毛利の家臣が盛った物だった。この一連の事件により、毛利家は長曾我部家に対し絶対の信頼関係を結ぶ事になる。





 何が、潔白の証だ。信頼の証だ。あれは脅しだったのだ。

 10年が経ち。元就は縁側に佇み、一人考える。

 自らの眼を抉ってみせて。こうまでしたのだから、従えと、信じろと。そう言っておったのだ、奴らは。

 椿が咲いている。いっそくどいほどの紅。その鮮やかさに眉を寄せる。どうも好きにはなれない。しかし、切り倒す気にもならない。元就は溜息を吐いて、廊下を歩む。何やら、海岸の方が騒がしい。

 浜に行くと、長曾我部の船が乗りつけていた。長曾我部の者はうるさい、と元就は思っている。いつもわいわいと笑って、叫んで、酒を呑めば暴れて。とても四国を統一出来るような連中には思えない、と元就は常々思う。

 長曾我部の長、元親が、その子分達と話しながら、何やら浜に積み荷を降ろしている。結構な量の木箱だ。屈強な海の男達が重そうにしているのだから、相当な重量だろう。元就は一度眉を寄せて、それから元親に歩み寄る。

「よう、元就! 久しいな」

「……これは何だ」

 それを許されていたから、対等な立場で物を言う。元親は「おう」と笑って、木箱を見る。

「京に行ったついでによう、いい職人を見つけたんだ。それで部品を作ってもらった。いや、あっちの奴らは流石、手先が器用でなあ。こっちじゃあどうしても作れなかった物も、簡単に作っちまって。これで新しいからくりが作れるぜ、元就。楽しみにしてろよ!」

「……ほう。結構な量だが? 全て作らせたのか」

「おうよ。折角職人に頼むんだ、多けりゃ多い方がいいってもんだろ?」

「……して。……幾らかかった」

「……え?」

「幾ら払ったのだと申しておる」

 自慢げだった元親が、途端にうろたえたような顔をする。それだけで答えとしては十分だった。元就は心底冷たい視線を浴びせて、淡々と言う。

「そなたが兵器開発に金をつぎ込むのは勝手だが、前も申した通り、我が国の財政状況は極めて芳しくない。そなたの国には収入源たる物も無く、我らの石見などが有るからまだよいが、そう金を使われてはもはやこちらの軍備を整えるのも一苦労というもの。からくりだけでは戦は動かせぬぞ。兵糧、砦、兵共の装備に領地の管理、あらゆる事に金が必要なのだ。そなたばかりがそうして気まぐれに大金を使っていては……」

「ああ、ああ、判った、判った悪かったよ! でもな、元就。この部品が有れば、新しい兵器の開発が……!」

「能書きは良い。ならば早々にその新兵器とやら、完成させてみよ。下らぬ自慢話などしている暇が有ったらな。……そなたにはもう少し言ってきかせねばならぬようだ。屋敷へ来い」

 元就は不愉快そうに言い捨て、屋敷へと踵を返す。元親は参ったな、という顔をして、子分達に「じゃあ後は頼むぜ」と笑う。彼らも「アニキ、頑張って来て下さいよ!」と笑った。まるで妻に説教される夫である。

 元就は屋敷の自室に戻り、座る。元親もそれを追って、障子を閉めた。と、元就が不愉快な顔を止め、元親をじっと見る。元親も真顔に戻った。

「それで。京の方は」

「良かったぜ、女は綺麗でよ。酒も旨い」

 そう言いながら元就の前に胡坐を掻く。元就は特に取り合わなかった。

「茶番はもう良い。そなたらの家臣共を安心させるには十分であろう。それで、どうだったのだ」

「そうだな。酷ぇもんだよ。噂は全部本当さ。たぶん、明智の文も嘘は言ってない。殆どな」

「なれば……織田の所業は真か」

「たぶん、あいつの努力も虚しく、こっちに来るだろうな」

 元親は深い溜息を吐いて、天井を仰ぐ。

「いよいよ、本当に戦をする羽目になりそうだぜ、元就」

 その言葉に元就も眉を寄せる。

 噂は飛び交っていた。尾張の織田が、天下統一を目指して進撃している、と。敵対勢力は全て火と灰にする、第六天魔王が来る、と。元親はその真偽を確かめる為にも、京へと行ったのだ。そしてそれが真実だったと知る。

「酷ぇもんさ。山一つ焼いてやがる。俺達だって必要ならするが、民にまでは手は出さねえ。そうだろ」

「……見境無し、か」

「明智の下衆野郎が傅いてるわけだぜ。奴にとっちゃあたまらなく楽しい仕事だろうしな」

 元親は明智光秀の顔でも思い出しているのか、嫌そうに眉を寄せている。光秀は元親の縁戚だ。その縁で元就とも交流が有る。尤も、それは親交ではない。互いに情報交換をする間柄、という程度だ。事実、元就も元親も、光秀の事を好いてはいない。ただ、その理由が少々違う。元親は光秀の性癖が気に入らないらしいが、元就はそれ以外にも理由が有った。

 ただ有力な情報源である事は間違いない。元親が京に行ったのも、彼がよこした文が理由だ。

 見かけによらず、する事はする人間であるから、光秀は一定条件を持ち出して、織田に中四国責めを思い留まらせた経緯が有る。つまり中四国は一切織田が攻撃してこない限り敵対せず、また一定の物資を提供する。だから攻めるな、と光秀は信長に交渉した。それは一度成立した。ところがまた信長が中四国攻めを考え始めたようだ。約を破られては、交渉に当たった自分の顔が立たないが、しかしこうなっては何か言ったところで止まるような方とも思えない。そういう半ば諦めたような文が届いた。最後は「十分な備えをしておくがよろしいでしょう」で締めくくられる。

 それが罠である可能性も有った。中四国が軍備を整えている、攻撃の構えを見せている、と織田に名目を与える為の物かもしれない。だから元親は京に赴いた。本土であるという理由から、政策に当たっているのは元就の方で、元親は顔をあまり知られていない。だからただの酔狂な問屋などのふりをすれば、怪しまれもしない。さらには元親にはとても真面目に物を考えているように見せない天性の才が有る。容易く人を騙す事が出来る。それを知っているのは元就だけだ。彼が知らぬ間に面を被っている事を、多くの者が知らない。

 尤も、恐らく元親自身も知らないのだ。だから元就は、騙されたのだと感じている。あの時、無実を訴え、信じろと言ったその瞳はもはや片方だけだ。そしてその真摯な瞳が、本当の事を言っていたのか判らない。元親にも判っていないだろう。いずれにしろ、そのおかげで元就はあれから十年、長曾我部家の為にその手腕を振るい、戦ってきた。兵を操り、中国を制圧するにまで至れたのは全て長曾我部の助けが有ったからだと理解している。それでも元就は歳を取れば取るほどに、元親に騙されたのだと感じた。理由は判らない。元親の事を嫌いではない。今でも信用している。彼の為なら死ぬのが道理だと理解している。だが、何故かそう思う。自分は騙されたのだと。

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 一応書き始めたので一話を置いてみました。

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