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めでぃのくの日記
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2010-03-16 (Tue)
 あーーーーーーかまいたち2怖ぇえええええええ
 毎日トラウマ作ってるようなモンだ……ガクブル


 一応書きあがったので 主従のその2
 また3は間空きます

「おい」

 声をかけられて、元就は元親を見る。彼は不審そうに眉を寄せ、元就の顔を覗き込んでいた。

「また何か考え込んでんな。ろくでも無ぇ事、考えてんじゃないだろうな」

「ろくでもない事、とは」

「判ってるだろ。聞いてるぜ。こっちのほうで戦をする時、お前がどんな戦いをしてるかってな」

「ほう。どう聞いた」

「お前が自分を囮にするって話だ」

 大将首をちらつかせて、敵をおびき出す。元就の最も使う手ではある。謀略や外交で手に負えぬ相手とは、刃を交えなければならない。お互い早期に戦が終わる事を望んでいるのだから、こちらが首を見せれば、相手は喜び勇んで突撃してきた。無論、元就もそれを狙っているのだから、やすやすと切りこまれるような事にはならない。待ち伏せて挟撃したり、身動きを取れなくさせて矢を浴びせた。そうして元就は幾つかの戦いで勝利している。

「兵の犠牲は最小限で済む。そなたの望む戦い方であろう」

「俺はそんな戦は望んでない」

「一人として無駄には死なせない。それがそなたの方針ではなかったか」

「勿論。今はそれでいいがな、いずれ囮じゃなく餌になる日が来るぜ。あらかたの敵は倒した。残ってる連中は馬鹿じゃない。これからの戦では、簡単にはいかねえ。それでもまだそういう戦い方をしていたら……お前、いつか死ぬぜ」

「我はそなたの駒だ。そなたの為に死ぬならそれでも……」

「元就」

 元親は元就の言葉を遮り、じっと元就の眼を見る。片方だけの瞳はいつでも、元就の奥深くまで見通すようで。元就はそれが少々怖い。

 悟られまいと眼は反らさなかったが、効果が有ったかどうか。元親は元就の肩に手を置き、口を開く。

「前から言ってるように、俺は俺達の天下を物にしたいんだ。そこにお前がいなけりゃあ、意味が無い。判るな。お前は死んじゃあならない。もちろん、皆もだ。必要な犠牲なんて物は無い。皆で幸せにならなきゃあいけない。そうだろうが。だから、二度とそんな事言うな」

 無茶ばかり言う。元就は表情を変えぬまま思った。そうして無理難題ばかり押し付けるのだ、この男は、と。

 人一人死なない戦が有るものか。自分を囮にすれば、敵は皆こちらに来る。容易く討ち取られるほど、己が弱いとは思っていない。だが自らを囮にしないなら、戦はもっと長引く。容易ではない戦略を練らなければならない。ましてそれで犠牲を出すなと言う。皆で幸せにならなければならないと。

 人の領土を奪い、殺しておいて、何が幸せだ。元就は元親の持っている矛盾に気付いている。しかし彼は気付いていない。いや、あるいは判っていて、それでも押し通しているのかもしれない。彼の繰り返す海賊行為について、元就が苦言を呈した時の彼の返事は、「欲しい物は、欲しい奴の側に有るほうが良いだろう?」だった。あまりに身勝手、あまりに幼稚。元就は元親の事を冷ややかな眼で見ている。

 しかし元親は元就にとって、大切な主君。呆れるしかないような男だと判っていても、元就は彼を見限れなかった。むしろ、ますます彼の為に尽力する羽目になっている。その状況が、心地良いような、でもないような。元就には理解出来なくなりつつある。だからこそ、元就は近頃よく考える。答えの出ない事を、ただひたすらに。

 いずれ元親は、自らが育て上げた矛盾にぶち当たり、何らかの形で破綻するだろうと思っている。その時、元就は彼を守らなければならない。その為にも生き延びなければならないが、さてこの状況で、どう切り抜けていけばいいものか……。元就の悩みは尽きない。

「また、何か考えてるな」

 元親が不満そうな声を出す。彼は元就が黙って何か考えているのを、何処か嫌がっている。思った事は口に出すような男であるから、回りくどいのを嫌うのだ。元就は一つ溜息を吐いて、言った。

「そなたの言う事は尤もだ。しかしその為には、大変な力が必要だ。知略も、兵も、糧も、何もかもがな。我を生き延びさせたければ、そなたはそなたの仕事に尽力するがよい。件のからくり……あれは真の事であろう?」

「おぅ。新兵器の開発が出来るはずだ。それが出来れば、戦はもっと楽になる」

「ならばそれに全力を注ぐがよい。間違ってもまたぶらりと船を漕ぎ出すでないぞ。今まではそれでも何とかなったが、これからの相手は一段と強敵、今までのようには行かぬのはお互い様だ」

「あぁ……判った。判ったよ。……俺は開発を急ぐ。だから……だからこっちの事は任せたぜ、元就」

「無論」

「でも、勝手に話は進めるなよ。あと絶対自分を囮にするな。判ったか」

「……」

 元就は小さく頷いた。約束をするつもりはない。話は判った、という返事だ。そうするとは言わない。必要と有れば自らは死ぬべきだと、元就は思っている。それが最善手ならば、打つしかないと。

 そうと決まったら、早速設計に移るぜ。そう笑った元親に、元就は思わず言う。

「そなた、我を疑わぬのか」

「あん?」

「長らくこちらで政務をしておる。そなたが知らぬうちに、独立の準備をしている可能性も有るだろう。我の言う事を信じて良いのか」

「ああ」

「……ああ、ではなくて……」

 元就が眉を寄せると、元親はにやりと笑う。

「仮にお前が俺から独立するとしよう。俺はお前を殴り飛ばして、連れ戻す」

「……」

「お前が罠を張って、俺を陥れたとしよう。俺は生き延びて、お前を殴り飛ばして、回心させる。それだけだ。だから疑うなんて意味が無い。そうだろ? それにお前は俺を裏切ったりしない。俺もお前を裏切ったりしない。そうだろうが」

 元親の眼帯に眼をやった。すぐに元就は眼をそらす。やはり、これは脅しだ。元就は深い溜息を吐いた。

 やはり、自分は騙されているのだ。しかも、それが判っていて、どうしようもない。元就はただ頷く事しか出来ないのだ。





 元就が鬼の親子の眼に止まったのは、彼が幼い頃から兄の補佐に当たるべく、勉学に勤しんでいたからかもしれない。いずれにしろ、国親は当初から元親と元就を近づけようとしていた。それも疑われる理由となったが、真意を語らないまま国親は隠居してしまった。だから本当の事など判らない。今更聞きたいとも思わない。

 また、父の弘元は、どういうわけか国親に好意的だった。その理由も判らない。ただそれ故、彼は元就に、国親や元親と懇意にするよう促した。不安げな元就に、弘元は優しく言った。

「大丈夫、彼らはとても身勝手な連中だが、それ故、身内には良くする。それが理由で身を滅ぼす者も居るがね。お前は頭が良い。彼らを導いておやり。なに、国親殿からも、元親殿とお前は対等だと言われている。友を得たと思って、慕い、尽くしなさい。いいね」

 当時の元就はまだ幼く、およそ自分の意思などという物は持ち合わせていなかった。父がそう言うなら、そうするのが良いのだろう。そうとだけ感じて、元親と過ごした。

 元親は頻繁に毛利家を訪れた。国親が本土での教育を望んだからで、元親は元就と一緒に勉学に励んだが、二人の才は全く違うと元就はすぐ気付いた。

 元就は物事を深く考えて、良く理解しているが故に具体的な答えを見出すのが苦手だった。いつまでも思考の渦にはまってしまい、長い時間抜け出せない。逆に元親は物事を深く考えようとはしなかったが、真意を汲み取るのは得意だった。何も考えていないような顔で(実際考えていないのかもしれないが)確信に迫ってくる。

 元就にとってこれ程怖い相手は他に居ない。加えて、元就はいつも長い長い思考を経て、元親と同じ結論を出してしまうものだから、何とも言えない劣等感に苛まれる事になった。

 また元親は本土の派手な着物をいたく気に入り、元就の義母である杉から、鮮やかな桃色の着物を貰うと大喜びで身につけたりもした。それを見て元就はやはり複雑な思いにかられる。感情を表に出すのも苦手だ。己の好きな物は、そっと隠しておきたい。好きだという事は、自分だけが知っていれば良いと元就は思っている。

 様々な点において、二人は正反対だったが、しかし元就はそんな彼に惹かれずにいられなかった。己とは違う、己より才が有る、己よりも好ましい男。その存在はたまらなく不愉快で、しかしたまらなく魅力的だ。彼に認められたいと、好かれたいと思う。そう思わせる事がまた気に入らない。煩わしい。消えてほしいとさえ思う。だのに側に居たい。話をしたい。

 年若い元就には、まだその感情の意味が、判らなかった。

 それでも元就は父に言われた通り、元親と懇意にしていた。ある時、まだ生きていた兄の興元が、元就に忠告する。

「元就、あまりあいつに気を許すな」

「元親の事ですか?」

「そうだ。こう言っちゃなんだが、どうもあいつはおかしい」

 妙な奴だという事は重々承知していた。女物の着物を好んでいる事や、戦をするなら、味方も敵も出来るだけ死なない方が良いと言う事や、ろくに勉学もしないのに、色々な事を理解している事。しかし、興元はそれだけではないと言う。

「いいか、元就。人間には表と裏が有る。人に見せる面と、見せない面だ。本来人は、見せない面を本当の自分として、外には少し飾った自分を出しているんだ。……まだお前には難しいかな。でもお前だって、兄に隠している事ぐらい有るだろう」

 元就はしばし考えて、こくんと頷いた。例えば、本当は花が好きだという事を、元就は隠している。花を愛でるのは女子のする事だと思っていたから、誰にも言わず、心の中だけで好いていた。それがいけない事なのだと思って、元就は「申し訳有りません」と言ったが、興元はまた首を振る。

「いや、それはいいんだ。誰にだってそれは有る。俺だってお前に隠し事はする。表と裏の間には、少し距離が有ってな。俺の本心と、実際に口に出す言葉や行動は少し違うんだ。そういうものだから、それはいい。お前は少し、その間が長いのが欠点だな。もう少しさらさらと表を作れればいいんだが……まぁいい。問題はあの親子だ。あいつらは、どう考えても、表と裏が無いか、もしくは表と裏がとてつもなく遠い」

「……?」

「奴らはいつでもすぐに喋る。なんでもすぐにやる。しかもそれが、人から見て好意的だろう? それがおかしいんだ。普通はそんな事にはならない。少しぐらいは考える。自分に不利な事が有れば、嫌な顔だってする。少なくともそういう気配を感じさせる。あいつらにはそれがない。あいつらは、表裏が無いとてつもない馬鹿か、もしくは表裏が離れた、とてつもない狸だ。いや、狐かな。連中が自称している通り、鬼かもしれん。とにかく、表で付き合うのはいい。でも裏まであいつを信用するな。どうも俺は連中を好きになれん。……思い過ごしかもしれないが、用心するに越した事はないからな」

 興元はそう言って、忌々しげな顔をした。元就にはまだ判らなかった。興元が何を言っているのか。しかし、漠然とした不安だけは受け取った。そしてその不安は、10年を経た今も、元就の片隅に残されている。

 
 


 元親は頭が切れる。あれでいて、賢い。知らぬ間に面を被り、彼自身知らない間に平気で嘘を吐き、矛盾を作り出して、全て壊す。だから元就は、興元が言ったとおり、元親は裏表がとても遠いのだろうと感じている。

 だからこそ、元就は元親に騙されたのだと思う。今まさに騙されているのだと。お前は俺の右腕だ、大事だ、一緒に戦おう、居ないとだめだ、死んではならない。全ての言葉がとても軽い。誰にでもそう言って、誰が実際に死んでも、恐らくほんの少しの間悲しむだけだろう。そう思う。それが何故だか妙に、悲しいのだ。


 +++

 この毛利は思考の渦にハマりまくって
 ここ10年自分の気持ちにさえ気付いていない模様です

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