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めでぃのくの日記
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2025-01-20 (Mon)
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2009-05-22 (Fri)
 もそもそ考えていた小ネタ
 あくまでシチュエーション萌えということで……

 その時の毛利元就には、冷静さも、思慮深さも、ましてやモラルも体裁も、即ち人らしい殆どのものが存在していなかった。

 あえて言うならば、幸せになりたいと、現状を何とかしたいという、最も基本的な願いに囚われ、それ以外の感情、理論、倫理が疎かになっていた。周りの全てが見えていなかった。元就は主観の世界にどっぷりと沈み込んでしまっていて、客観どころか、自分の主観さえ狭め、ある事象にのみ目を向けてしまっていた。

 つまり、金が要る。大金が、今すぐ。最も効率的にそれを成す手段は何か。誰かから、奪う事だ。

 元就はそうする事で、今後の己の人生が、家族の人生が、奪われた者の人生がどうなるかなど、考えられなかった。考えられるなら、そもそも罪など犯そうはずもない。衝動にかられて犯罪に手を染める物が、その事実を冷静に見ているはずがない。その時の彼らは、一般論も倫理も、今後の展開も何もかも見えていないのだ。

 だから元就は何も見ていなかった。元就に見えているのは、大金を手にした自分の姿だけだ。そしてそのおかげで笑っている自分の姿だけだ。その後の事など、それ以外の事など、念頭にも無い。そして現状さえ全く見えていない。

 忍び込んだ小さな店。人気は無かった。夜も更けている。灯りもついていない。田舎の店は無用心にも鍵を閉めていなかった。元就は懐中電灯を片手に、中へと忍び込んだ。

 足音が響く。元就は息を潜めて、のろのろと進んだ。小さな物音にもびくりと辺りを見渡して、金目の物を探した。

 机の引き出しを開け、戸棚を開き。しかし大した物は見つからない。やはり金庫か何かに入っているのだろうか、と元就は考える。家具屋に売っているような、大きな金庫を探したが、特に無い。代わりに、床に取っ手が付いているのを見つけた。地下の貯蔵スペースだ。元就はここが怪しいと踏んで、懐中電灯を置くと、取っ手を握り、力いっぱい引っ張った。

 早い話、ぴくりともしなかった。元就はどちらかと言うと貧弱なほうであったし、とても一人で持ち上げられるような重さではなかった。

 さらに、突然店内に灯りがともった。元就は思わず目を閉じた。暗闇に慣れた眼には眩し過ぎる。それから、逃げなければと思った。元就はそのまま踵を返し、店の入り口に向かって走ろうとした。

 すぐさま誰かが覆いかぶさって来た。元就は暴れたが、先ほども言ったとおり、彼は逞しくない。一方の相手は、随分と体格も良く、力も有る。腕を後ろにねじり上げられて、元就は身動きも出来なくなった。痛い。折れてしまう、と思った。少なくとも、腕を折った事の無い元就はそう思った。

 ガタガタとなにやら机の上を漁る音がして、それからビリビリ音がした。顔だけで見ると、逆光でよくは判らないが、男が布テープか何かを用意している。縛るつもりなのだ。

「み、見逃してくれ」

 元就は何故だかそう口に出していた。急に冷静さが戻ってきたのかもしれない。求めていた金が見つからず、その上警察に突き出されでもしたら、人生が終わってしまう。その事に元就はようやく気付いた。最も出来たシナリオしか見ていなかったのだから、本当にその時初めて、そのような可能性を考えたのだ。元就は青くなった。男はグルグルと元就に布テープを巻きつけて、完全に捕獲してしまった。足まで縛られている。

 これではどちらが盗人か判らない。

 元就は泣きたくなった。こんなはずではなかったのだ。こんなはずでは。何についてそう感じているのかも、もはや良く判らない。そもそも、何故こんな風に、金を求めなくてはならなくなったのだろう。そこから既に、おかしかったのだ。

 縛り終えて、男は元就を壁に押し付けて座らせた。元就は改めて男を見る。元就は殺されると思った。屈強な体格、年はいまいち判らないが、少なくとも自分と違って、成人して何年も立っているだろう。服の上からでも筋肉が有るのが判る。しかも白い髪に、片目は火傷でもしているのか潰れていて、顔立ち自体は美形に入るのだろうが、そんな顔が睨んでいるのだから心底怖い。元就は思わず眼をそらした。

「なんだ、まだガキじゃねぇか」

 低い声。少し掠れたような静かな声で、男は不機嫌そうに元就の顔を覗き込んでいる。

「空き巣のつもりだったのか? 隣の部屋に俺が居たのに? お前が入った時からずっと見てたんだぜ? あんなに物音させて気付かれないつもりか?」

「……」

「大体、閉店してんのに、鍵かけてないなんてないだろ。どうせうちはあんまり客も来ないし、早めに電気は切ってんだよ。でも入り口が開いたらアラームが鳴るようにはしてんだ。玄関開けてどうどうと入って来る泥棒が居るか? あぁ? ……お前、素人か」

 元就は何も言えなかった。怖くてたまらなかったのだ。今まで止まっていた思考がグルグルとすさまじい勢いで動き出して、元就はもうパニックになっていた。だから男が言っている事の半分も理解出来ない。ただ、まずい、どうすれば、どうしようというような、極単純な事しか考えられない。

 このまま警察に引き渡されれば、今後の人生がどうなるかも判らない。だがこの男にこのまま殴り殺されたら、今後の人生も何も有ったものではない。元就は泣き出したかった。いっそわんわん泣いて、縋って、謝り倒して、事情を説明すれば、あるいは見逃してくれるかもしれない。そうは思うのだけれど、涙も言葉も、何も元就からは出なかった。そもそも説明すべき事情さえ、先ほどからの混乱でぐちゃぐちゃになってしまっている。上手く言葉になるような気もしなかった。

 男はしばらく無言で元就を見ていたが、やがてどっかりとその正面に腰を下ろした。

「で、お前。なんで盗みに入った」

 男はシャツの胸ポケットからタバコを出し、火をつける。元就はタバコがあまり好きではなかったが、文句を言えるような立場でもない。ただ、理由を言おうと考えるが、上手くまとまらない。

「なんか言え」

「あ……」

「少しづつでいいから、言ってみろ」

 顎で促されて、元就は恐る恐る、とてつもなくたどたどしく、言葉を紡いだ。



 元就の要領を得ない説明を要約すると、こうである。

 元就はまだ高校生で、極普通の家庭に育った。しかし母が病気で早くに他界し、父は二人の息子を養うために必死で働き、家庭に尽くした。それが元で父は心臓を傷めてしまった。過労である。
 
 悪い事には、父の収入が激減するや否や、兄が荒れた。尤も、兄が荒れたのは家族のためだったと後に判明している。彼は学業を疎かにする代わりに、収入を得た。父や弟に負担をかけさせまいとしての行動ではあったが、何も言わずに判るほど、人間は上手く出来てはいない。父は心労で疲れ果て、元就もまたどうしようもない不安の中に生きていた。

 遂には父が自暴自棄になり、酒に手を出し始めた。家庭は圧迫され、保険を解約した。その矢先の事である。兄が、病に倒れた。

 病自体は大したものではない。一昔ならどうか判らないが、今なら適切な処置さえすれば直る。しかし入院費が出ない。保険を解約したのだから。父は兄に激怒し、面倒は見ないと言い張ったが、その後兄が家族を思って働いていた事が判ると、態度を変え、兄の為にと金をなんとか用意した。しかしどうにも足りない。

 そして彼は彼なりに考えて、そして、短慮の果てに、空き巣を決行したのだった。




「まぁ、不幸は重なるっていうからなあ。そりゃ、気の毒な事だ」

 男は特に抑揚の無い声で言った。タバコは既に3本が灰皿に放り込まれている。元就は腕も足も痺れてきた。頭も冷えてきて、随分と自分が馬鹿で浅はかな事をしたという自覚も芽生えてきた。むしろ、未遂に終わって良かったのだ、とさえ思っている。この上、他人に迷惑をかけては、何をしてもだめだ、と。

「……本当に申し訳無い事をしてしまった。反省している。無理な願いとは判っているが、どうか見逃してくれないか」

 元就は男を見ないまま言った。男は大きな溜息を吐き出して、タバコの火を消す。

「で?」

「……で?」

「それで、どうすんだ。見逃して、その後だよ。金はどうすんだ」

「……その後……」

 元就はまたのろのろと考えをめぐらせて、そして小さな声で答える。

「真っ当に、働いて……」

「働くったって、先立つもんが居るだろうよ。貸してくれるような奴は居ねぇのか? 親族とかよ」

「一通り当たってみたが……」

「じゃあ、借りる先は限られてくるな。銀行が貸してくれるとも思えない。消費者金融か、闇金か。どっちにしろ、この先が厳しいだろうよ」

「……」

「で?」

「……?」

 何を促されているのか判らず、元就は男を見た。何故だか、男は妙に優しく笑んでいる。

「いくら、要るんだ」

「……少なくとも、100万……」

「じゃあ諸費用みこんで200って所か? そうだな……」

 男は少し考えるように遠くを見てから、

「貸してやろうか?」

 と言った。

「え」

「その代わりタダとは言わねぇ。利息と担保の代わりに……お前、俺に抱かれてみるか?」

 元就は急激に、目の前の男が違う意味で怖くなった。

「だ、……抱かれる、というのは……」

「そうだな」

 男は一つ息をして、それから一息に、それは親切丁寧に何をするのかを教えてくれた。例えばキスをするにしたって、舌を潜り込ませて絡めるだとか、何処をどう責めるだとか、最終的には尻に男の性器を、などとそんな説明をされて、元就はみるみる背筋が冷たくなってきた。断ってもされそうな気がしたのだ。

「で、どうする」

 一通り説明を終えて、男はまた抑揚の無い声で尋ねて来た。どちらでもいい、といった態度である。「その代わり一度でいいんだからよ」と付け足されて、元就は本当に困ってしまった。

 すぐさま殴ったり、警察に突き出しもせず、まして金を貸してもいいと言っている彼は、そこらの親戚などよりはよほどいい男だ。それでもされる内容を思い出すとぞわぞわする。大体、体内に物を入れるなんて、と考えると吐き気もしてきた。

 けれど、と元就は考える。このまま見逃してもらって働くとして、やはり先立つものは要るのだ。その金を誰に借りても利息が付く。どんどん増える。それを返済する日々が来るのだ。それに比べれば、いや比べても、いや、いや……。

 元就はしばらく考えて、そして、小さな声で、

「……ひ、……ひどい事は、し、……しないか……?」

 と問うた。男はきょとんとした顔をして、そしてはっは、と豪快に笑うと元就の頭を撫でた。

「馬鹿言え、人の弱みに付け込んで好きにするのの、何処が酷くないってんだ? ん?」

 不思議と男の声は優しくて、元就はますます混乱する。そんな元就を他所に、男は立ち上がると、先ほど元就が空けようとした床を開く。中に封筒がいくつか入っている。男はそれを確かめて、そして元就の膝の上にぽいと放る。

「ん」
 
 男はそれだけ言うと、床を元に戻して、元就に巻いたテープを剥ぎ始めた。

「あの」

「ん?」

「よ、よいのか」

「うん」

「な、何故」

「どうでもいいじゃねぇか。どうでもいいから、もう二度と来るなよ」

 男はそれだけ言って元就を解放した。元就は拍子抜けして、「だが」とか「でも」とか繰り返していたが、

「何か気になる事が有るなら、お前がその不幸を脱してからにしな」

 とそれだけ言って、男は元就を店から放り出した。その手にはやたらに分厚い封筒。

「あ……」

 振り返ると、扉から男が笑みをみせている。

「元気でな」

 男はそれだけ言って、ドアを閉めた。ガチャガチャと鍵が閉まる音がする。元就はしばらく呆気にとられていたが、封筒の中身を確かめて、やはり信じられない気持ちでドアを叩いた。けれど反応が無い。

「本当に、いいのか?」

 問うても返事など無い。元就は封筒をぎゅっと強く握り。

「必ず返しに来る」

 と、言うと、踵を返した。

 

 6年ほど前の話である。

 +++

 アニキがただのエロいオッサンになりそうだった

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