世の中は嫌な事でいっぱいです
私如きが知っている嫌な事でもこんなに有るのですから、
世の中はよほど酷いものなのでしょう
以下、例の小話
次……で終わらせようかな。
私如きが知っている嫌な事でもこんなに有るのですから、
世の中はよほど酷いものなのでしょう
以下、例の小話
次……で終わらせようかな。
毛利元就のその後の人生も、決して楽な物ではなかった。
元就が持ち帰った金は確かに毛利家を潤したが、しかし家族も当然、突然湧いて出た大金について疑問を抱いた。正直に話しても家族は納得しなかったが、それでもその金の存在はあまりにありがたい。結局、ひとまずは使う事にした。
兄は腎臓を傷めたが、治療のおかげで健康状態を取り戻した。家族は話し合う事の大切さを再認識し、互いに互いの気持ちを打ち明けた。それでようやっと判った事の一つには、兄は勉強が嫌いで大学にはそもそも行きたくないという事、そして元就は勉強が好きで、大学に出来れば行きたいという事が有った。
それならば、と父と兄は協力して、元就の学費を稼ぐ事にした。元就も悪いと思い、バイトなどした事も有ったが、すぐに家族に止められた。曰く、勉学に励むのが元就の最大の役目だという。元就は納得いかなかったが、それならばと国立大学を志した。
塾に行かずに勉強をするのは大変だったが、元就は努力した。人よりは努力しただろう、受かったのだから。元就は大学に入学し、哲学を学んだ。哲学以外にも沢山の事を学んだ。図書館にも良く行き、膨大な本を読んだつもりだ。それでも元就は、まだまだ知らない事が多いと思っている。元就は熱心に学んだし、何でも知りたがった。
そういう姿勢を教授達は良く思ったし、学生達は良く思わなかった。元就は大人に気に入られたが、同世代には好かれなかった。おかげで大層上手い女性と初体験に持ち込めた。けれどそれ以上にはならなかった。性の甘美な誘いに、元就は大して興味を持てなかった。所詮は一夜の夢、何もかも終わって元通り、そんなものに意味は無いと元就は思っている。
元就は熱心な学生だったし、その貧困ぶりも教授達の知り及ぶところになっていた。それ故、就職活動ともなると、彼らの縁故採用というものの恩恵を受ける事になった。元就はそれに抵抗が無かった。目下必要なのは金である。建前ではない。泣いて頭を下げて請うても得られないものだ。上辺だけのものなど必要無かった。
元就はたくさんの受け口を得たが、その中に居場所を選んだ。即ち保険会社。あの時、それさえあれば、不幸は避けられた。元就は備える事の大切さを知った。そしてその重要性に反して、維持する事は難しく、手放すのは容易いという事も。
元就は新入社員として働き始めた。そして収入を得た。家族の貯めた金と共に、返済を考えた。金を持って、店に赴き。けじめをつけようと思った。
恩を返す。礼をする。そのためにも、自分は抱かれなければならない、と。
「俺を変態だと思ってんのか」
男――長曾我部元親は呆れた顔をして、元就を見ていた。元就は「そういうわけでは」と短く答えて、オレンジジュースを飲んだ。
父が荒れたせいか、元就は酒というのが苦手だ。だから元親に連れて来られた居酒屋でも、ジュースばかり飲んだ。それで元親には「やっぱりガキだな」とからかわれたが、元就はあまり気にしなかった。子供扱いされるのはいつもの事だ。
「だが、条件を出された。そなたはそうでないと言うが、恩が有る。親族も、普段優しい顔をしていたどんな人間も、泣いても、縋っても、地べたに頭を付いても、誰も貸してなどくれなかった。それを見ず知らずの人間に、何の条件もつけず。その事のほうがおかしいのだ。だから我はその条件をせめて満たしたい。それだけだ」
「そんじゃあなにか、あんた、あんたは抱かれてもいいと思ってんのか? 俺にだぞ? 判ってんのか?」
「……き、生娘でもあるまいし、判っている……」
「入ると思うのか? 自慢じゃないが、俺のは結構なもんだぞ」
「……が、……頑張る」
果たして頑張って入るものなのかは知らない。元就は男性との経験が無い。だから本当の事を言うと、とてつもなく怖いのだ。怖いが、けじめをつけたい。その一心で、ここに居る。
元親は困ったように溜息を吐いて、「わっかんねぇな、そんなにけじめが大事かねえ」と枝豆の皿を元就の方に出した。元就もそれをもぐもぐやって元親を見る。彼は焼酎をちびちびやっていた。どうも抱きたくないようである。自分で条件を出しておいて、やりたがらないというのはどういう事なのか。元就は判らなかった。最初から抱く気が無かったのだとしたら、本当に無担保という事になる。自分だったら出来たろうか、と考えるに、絶対に出来ないと元就は思う。知らない空き巣に現金を与えるなど。だからこそ、元就は礼がしたいし、親切にしてくれた理由を知りたかった。
「我にしてみれば、そなたの事のほうが、よほど理解できぬ。空き巣を見逃すどころか、金をやるだなどと。我が調子付いて、また来ないとも限らぬではないか。まして、あの金額は使うには少ないが、貯めるには多い。それを無条件で渡すなど、どうかしているとしか思えぬ」
「そりゃそうだろうな。でも俺だって、誰にでも渡すってわけじゃないんだぜ」
意外な事に元親は頷いた。
「どういう意味だ? 我はあれでも、選ばれていたと?」
「んー」
元親は少し考えるような顔をして、店員におつまみをいくつか頼んで、それから答える。
「なんて言うんだろうな、世の中ってのは何でも見てるし気付いてるし、同情してるんだけど、それを苦に方向性を間違えちまった奴ってのを許さないだろ? 俺は常々、そういうのが嫌だなと思ってたからよ。なんてんだろ、その、防ぐ努力はしなかったのに、やった奴を責めるっていう……まぁその、好きじゃねぇんだ」
注文した物が来た。元親は軽く会釈して、話を続ける。
「例えば、お前の家だって苦労してたわけだろ。で、苦労してるって、金が要るって事をお前が相談した親戚だって知ってたはずだ。自分達が見捨てたら、お前らが追い詰められて何をしでかすか判らないとは思えたはずだろ。だけど何もしなかったわけじゃねぇか。そいつらに何を言う権利が有るってんだ?
ましてお前は空き巣には入っても、強盗しようとは思ってなかったろ、懐中電灯しか持ってなかったし。俺の工場を壊したり荒らしたりもしなかった。何ていうか、お前は確かに間違えたけど、でもじゃあ何が正しかったのかなんて、誰にも判らないだろ。だから見逃したし、ここで追い払っても結局は同じだろうから、なら俺が断ち切ってやろうって、そう思った、それだけだよ。あとはまぁ、お前が若かったってのも有るけど」
「我が、若かったから?」
「若い連中に絶望は教えちゃいかんだろ、大人は」
元親はそう苦笑して、溜息を吐く。
「俺もこんななりだし、若い頃は苦労してな。馬鹿な事で金が必要になったりもした。結構な額で、友人にも相談したけどよ、皆哀れんで飯は奢ってくれたけど、金の話はしてくれなかったよ。辛くてなあ。だからあの時のお前の気持ちも、なんとなく判る気もしたしよ」
「……」
「……だから俺が勝手に考えてやった事だから、お前は別に何もしなくていいんだぜ。お前がこの先幸せに生きてりゃあ、それが一番の恩返しって奴だ。そうだろ?」
「……だ、……だが、我は、……そなたに抱かれねばならぬ」
元就がそう言うと、元親は呆れたような顔をして、それから。
「……もしかして、お前……」
「……?」
「俺に抱かれたいだけじゃないのか?」
と、怪訝な顔で尋ねた。
「な、何を言う、それではまるで、」
まるで我が変態みたいではないか、と言いそうになって元就は飲み込んだ。遠回しに元親を変態扱いしていると宣言する事になる。
「俺に感謝して好きになって抱かれたいとか、そういう事じゃねぇの?」
固執しすぎだぜ、お前。
元親はそれだけ言って、おつまみを食べ始めた。元就は何も返せず、ただただ俯いていた。
我が、抱かれたい? 彼に? そんなまさか、そんなはずはない。ただ、恩を返すために、礼をするために、……いや、彼本人が望んでいないなら、それは恩返しにはならないはずだから、ならば何をどうすればいい? 幸せになれと言っているが、しかしそれでは我の気が治まらない、では我は何を望んでおるのだ。
元就はいつぞのようにパニックになってしまった。混乱している元就を見て、元親はまた少し笑って。
「まぁ、時間はいくらでも有るわけだし、納得いかねえならもうちっと待てや。とりあえず時々でいいから一緒に飲まねぇか? 俺、お前の事、嫌いじゃねえし」
そして二人は、しばらくこの関係を維持する事になった。
元就が持ち帰った金は確かに毛利家を潤したが、しかし家族も当然、突然湧いて出た大金について疑問を抱いた。正直に話しても家族は納得しなかったが、それでもその金の存在はあまりにありがたい。結局、ひとまずは使う事にした。
兄は腎臓を傷めたが、治療のおかげで健康状態を取り戻した。家族は話し合う事の大切さを再認識し、互いに互いの気持ちを打ち明けた。それでようやっと判った事の一つには、兄は勉強が嫌いで大学にはそもそも行きたくないという事、そして元就は勉強が好きで、大学に出来れば行きたいという事が有った。
それならば、と父と兄は協力して、元就の学費を稼ぐ事にした。元就も悪いと思い、バイトなどした事も有ったが、すぐに家族に止められた。曰く、勉学に励むのが元就の最大の役目だという。元就は納得いかなかったが、それならばと国立大学を志した。
塾に行かずに勉強をするのは大変だったが、元就は努力した。人よりは努力しただろう、受かったのだから。元就は大学に入学し、哲学を学んだ。哲学以外にも沢山の事を学んだ。図書館にも良く行き、膨大な本を読んだつもりだ。それでも元就は、まだまだ知らない事が多いと思っている。元就は熱心に学んだし、何でも知りたがった。
そういう姿勢を教授達は良く思ったし、学生達は良く思わなかった。元就は大人に気に入られたが、同世代には好かれなかった。おかげで大層上手い女性と初体験に持ち込めた。けれどそれ以上にはならなかった。性の甘美な誘いに、元就は大して興味を持てなかった。所詮は一夜の夢、何もかも終わって元通り、そんなものに意味は無いと元就は思っている。
元就は熱心な学生だったし、その貧困ぶりも教授達の知り及ぶところになっていた。それ故、就職活動ともなると、彼らの縁故採用というものの恩恵を受ける事になった。元就はそれに抵抗が無かった。目下必要なのは金である。建前ではない。泣いて頭を下げて請うても得られないものだ。上辺だけのものなど必要無かった。
元就はたくさんの受け口を得たが、その中に居場所を選んだ。即ち保険会社。あの時、それさえあれば、不幸は避けられた。元就は備える事の大切さを知った。そしてその重要性に反して、維持する事は難しく、手放すのは容易いという事も。
元就は新入社員として働き始めた。そして収入を得た。家族の貯めた金と共に、返済を考えた。金を持って、店に赴き。けじめをつけようと思った。
恩を返す。礼をする。そのためにも、自分は抱かれなければならない、と。
「俺を変態だと思ってんのか」
男――長曾我部元親は呆れた顔をして、元就を見ていた。元就は「そういうわけでは」と短く答えて、オレンジジュースを飲んだ。
父が荒れたせいか、元就は酒というのが苦手だ。だから元親に連れて来られた居酒屋でも、ジュースばかり飲んだ。それで元親には「やっぱりガキだな」とからかわれたが、元就はあまり気にしなかった。子供扱いされるのはいつもの事だ。
「だが、条件を出された。そなたはそうでないと言うが、恩が有る。親族も、普段優しい顔をしていたどんな人間も、泣いても、縋っても、地べたに頭を付いても、誰も貸してなどくれなかった。それを見ず知らずの人間に、何の条件もつけず。その事のほうがおかしいのだ。だから我はその条件をせめて満たしたい。それだけだ」
「そんじゃあなにか、あんた、あんたは抱かれてもいいと思ってんのか? 俺にだぞ? 判ってんのか?」
「……き、生娘でもあるまいし、判っている……」
「入ると思うのか? 自慢じゃないが、俺のは結構なもんだぞ」
「……が、……頑張る」
果たして頑張って入るものなのかは知らない。元就は男性との経験が無い。だから本当の事を言うと、とてつもなく怖いのだ。怖いが、けじめをつけたい。その一心で、ここに居る。
元親は困ったように溜息を吐いて、「わっかんねぇな、そんなにけじめが大事かねえ」と枝豆の皿を元就の方に出した。元就もそれをもぐもぐやって元親を見る。彼は焼酎をちびちびやっていた。どうも抱きたくないようである。自分で条件を出しておいて、やりたがらないというのはどういう事なのか。元就は判らなかった。最初から抱く気が無かったのだとしたら、本当に無担保という事になる。自分だったら出来たろうか、と考えるに、絶対に出来ないと元就は思う。知らない空き巣に現金を与えるなど。だからこそ、元就は礼がしたいし、親切にしてくれた理由を知りたかった。
「我にしてみれば、そなたの事のほうが、よほど理解できぬ。空き巣を見逃すどころか、金をやるだなどと。我が調子付いて、また来ないとも限らぬではないか。まして、あの金額は使うには少ないが、貯めるには多い。それを無条件で渡すなど、どうかしているとしか思えぬ」
「そりゃそうだろうな。でも俺だって、誰にでも渡すってわけじゃないんだぜ」
意外な事に元親は頷いた。
「どういう意味だ? 我はあれでも、選ばれていたと?」
「んー」
元親は少し考えるような顔をして、店員におつまみをいくつか頼んで、それから答える。
「なんて言うんだろうな、世の中ってのは何でも見てるし気付いてるし、同情してるんだけど、それを苦に方向性を間違えちまった奴ってのを許さないだろ? 俺は常々、そういうのが嫌だなと思ってたからよ。なんてんだろ、その、防ぐ努力はしなかったのに、やった奴を責めるっていう……まぁその、好きじゃねぇんだ」
注文した物が来た。元親は軽く会釈して、話を続ける。
「例えば、お前の家だって苦労してたわけだろ。で、苦労してるって、金が要るって事をお前が相談した親戚だって知ってたはずだ。自分達が見捨てたら、お前らが追い詰められて何をしでかすか判らないとは思えたはずだろ。だけど何もしなかったわけじゃねぇか。そいつらに何を言う権利が有るってんだ?
ましてお前は空き巣には入っても、強盗しようとは思ってなかったろ、懐中電灯しか持ってなかったし。俺の工場を壊したり荒らしたりもしなかった。何ていうか、お前は確かに間違えたけど、でもじゃあ何が正しかったのかなんて、誰にも判らないだろ。だから見逃したし、ここで追い払っても結局は同じだろうから、なら俺が断ち切ってやろうって、そう思った、それだけだよ。あとはまぁ、お前が若かったってのも有るけど」
「我が、若かったから?」
「若い連中に絶望は教えちゃいかんだろ、大人は」
元親はそう苦笑して、溜息を吐く。
「俺もこんななりだし、若い頃は苦労してな。馬鹿な事で金が必要になったりもした。結構な額で、友人にも相談したけどよ、皆哀れんで飯は奢ってくれたけど、金の話はしてくれなかったよ。辛くてなあ。だからあの時のお前の気持ちも、なんとなく判る気もしたしよ」
「……」
「……だから俺が勝手に考えてやった事だから、お前は別に何もしなくていいんだぜ。お前がこの先幸せに生きてりゃあ、それが一番の恩返しって奴だ。そうだろ?」
「……だ、……だが、我は、……そなたに抱かれねばならぬ」
元就がそう言うと、元親は呆れたような顔をして、それから。
「……もしかして、お前……」
「……?」
「俺に抱かれたいだけじゃないのか?」
と、怪訝な顔で尋ねた。
「な、何を言う、それではまるで、」
まるで我が変態みたいではないか、と言いそうになって元就は飲み込んだ。遠回しに元親を変態扱いしていると宣言する事になる。
「俺に感謝して好きになって抱かれたいとか、そういう事じゃねぇの?」
固執しすぎだぜ、お前。
元親はそれだけ言って、おつまみを食べ始めた。元就は何も返せず、ただただ俯いていた。
我が、抱かれたい? 彼に? そんなまさか、そんなはずはない。ただ、恩を返すために、礼をするために、……いや、彼本人が望んでいないなら、それは恩返しにはならないはずだから、ならば何をどうすればいい? 幸せになれと言っているが、しかしそれでは我の気が治まらない、では我は何を望んでおるのだ。
元就はいつぞのようにパニックになってしまった。混乱している元就を見て、元親はまた少し笑って。
「まぁ、時間はいくらでも有るわけだし、納得いかねえならもうちっと待てや。とりあえず時々でいいから一緒に飲まねぇか? 俺、お前の事、嫌いじゃねえし」
そして二人は、しばらくこの関係を維持する事になった。
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