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めでぃのくの日記
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2025-01-20 (Mon)
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2009-08-21 (Fri)
 よくバイオハザードな夢とかも見るんですけど
 それよりとんでもないトイレに入って右往左往する夢をよく見ます
 個室内に便器が二つあるとか、便器が明らかに幅1mぐらい有るとか
 仕切りが布だけとか、水が溢れてるとか、壁と壁の隙間の小さい奴とか
 あるいはシャワーの真下に便器があるとかユニットバスにも程がある
 そういうトイレに遭遇してあわわわわわとか言ってる夢ばかり見る
 まぁ今までの夢で一番あわあわしたのは
 ボタンが36個ついてるポップン台を見た奴ですけれどもね
 お、押せない

 以下、ナリチカナリの3

 たまの休みに掃除でも、と思い立って、ゴソゴソやってる時に、毛利に見せた漫画の事を思い出した。

 大雑把に言ってしまえば、やたら眼のでかい少女が、不幸のどん底から這い上がって行く青春もので、恋をしたり、友人と一緒に苦しんだりしながら成長していくストーリーだ。それ自体はありふれたモンだが、そこから先が違う。主人公の少女はたくましく成長し、あろうことか自覚の無い悪女へと変貌する。自覚が無い分性質が悪い。そんな自分が居ませんか、と語りかけてくる作品だ。少女は大人になっても大いに苦しむ。幸せなはずなのに、何故こんなに苦しいのかと問うのに、誰も答えてくれない。読者は知っている。そんな感じの作品だ。薄暗くて、でも何か考えさせられて、彼女の幸せを願うしかない。だから結局全巻買ってしまった。

「あ」

 と、唐突に記憶が戻ってくる。思い出そうとしても全然来ないのに、ふと神経細胞でもつながったのか、あの晩の風景が実にくっきりと浮かび上がってくる。




 俺はアイツの肩に腕を回して、くだを巻いている。アイツは別に不愉快そうな顔でもない。俺達は何故だか夜の街を歩いている。タクシーでも探しながら、よたよた進んでいた。

「あんたぁ、可哀想な奴じゃねぇか。なあ。俺知ってるぜ、そういうの。なぁウチに来いよ、あんたの助けになるかもしれねえぜ」

 俺はぐでぐでだ。アイツが付き合ってるのが不思議なぐらいに酔ってる。アイツは酔っているとは思えないぐらいしゃっきりしていて、「そうだな」と短く返事をする。

「あんたぁ、そんなんじゃぁ辛かったろうなぁ。もしかして女と付き合った事も無いとか、そういうんじゃねぇのか、ほら、あれだ、犯罪者とか、狂信者とかになるタイプじゃねぇのか」

 とんでもない事を面と向かって言ってる。それでもアイツは別に表情も態度も変えない。

「付き合った事は無いが、寝た事は有る」

「なんでぇ、ヘルスか、風俗か」

「知り合いの、……そうだな、あえて言うなら高級娼婦というべきか」

「そんなの、気持ち良く無ぇだろうがよぉ。ああ、いや、テクの話じゃあないぜ、気持ちの問題だ。可哀想になぁあんた、愛情っての知らないんだなあ。そうだ、俺と寝ればいいんじゃないか。な、きっと気持ち良いぜ」

 俺、俺は何をぬかしてるんだ。

「……お前と寝たら、気持ちが、気持ちの問題が、良いと?」

 アンタも何を納得しようとしてるんだ。

「当ったり前だろうがよ、俺はあんたの事気に入ったぜ、あんただってそうだろ? だから気持ち良いに決まってる! ヘルスの姉ちゃんは女だが、俺は男だ。絶対に良い。な、ウチに来いよ。色々教えてやる。あんたは色んな事を勉強してるけどよ、この世界には知識じゃどうにもならない事だって確かに有るんだぜ。な、いいだろ」

 そしてアイツはやっぱり「そうだな」と短く返事をした。

 


 記憶はまたそこで途切れる。俺は思わず頭を抱えた。どう考えてもビアガーデンの帰り道では、既に意気投合している。その前に何か有ったはずだ。肩を組んで、可哀想だと、気に入ってると俺が言いだすような、何かが有ったんだ。何だそれは。思い出そうとしてもやっぱり帰って来ない。来るのはひたすら、恥ずかしさばかりだ。

 思いっきり誘ってる。寝ようと言ってる。俺が教えてやると、気持ち良くしてやると言っている。あぁ、死にたい。

 ガシガシと頭を掻いて、とりあえず近くに有った椅子に腰かける。

 あの晩、俺はアイツを好いていたし、アイツも俺に全てを許した。そりゃどうしてだ。アイツの何が可哀想だったんだ? ブルジョワで、毎日社長出勤で、エリートで、頭も良くて……でも人としてはまるっきりダメなアイツの、何処が。

 それ以上に。

 俺は酔っていたとはいえ、その状態で気に入ったのなんだのと言っておきながら、全てを忘れて、また険悪な関係を取り戻してしまった。それは、非常に、申し訳無い。毛利に対して。きっとあの晩、毛利は俺に全てを許した。なのに俺は、一夜明けたら全てを撤回した事になる。毛利、毛利に申し訳無い。謝るのも変だし、あぁ一体俺はどうりゃあいいんだ?

 せめてあの晩、何が有って、どうしてあんな展開になったのか、その原因が判れば。

 俺はどんどんわけが判らなくなっていった。


 +++


「長曾我部、聞いておるか」

 毛利に声をかけられて、俺は我に返った。話が有る、と事務所に呼び出されても、どうしてコイツと、という事を考えてしまって、上の空になっていたようだ。ああ悪い、何の話だったっけ、と言うと、その話だ、と答え。

「その話?」

「貴様は全ての製造者の模範となるべき管理職に当たる。その貴様が仕事中に上の空では、作業効率云々の話も全く説得力が無くなってしまうであろう。最近、目に余る。何か有ったのか」

「何か有ったかって……」

 そりゃあ、あんたと寝たけど。心の中で思う。今更蒸し返して、あの晩何が有ったのか、当人に聞いてもいいものだろか? いや良くない。絶対良くない。ビンタされてもおかしくない質問だ。

 しばらくすると毛利はどう思ったのやら、「まぁ良い」と首を振る。

「ともかく、事情はどうあれ、仕事中はしっかりと仕事をしてもらわねば困る。我は効率の問題を考えて、多少のゆとりは容認するが、近頃の貴様はその範囲を超えておる。他の従業員の信頼のためにも、もう少し集中してくれ」

 従業員の信頼ねえ。そんな言葉がこいつの口から出るとは思わなかった。実益以外の点でこれほど信頼されていない社長もあまりいないだろうに。まぁそれを言っても仕方ないので、「気ぃつける」と素直に頭を下げておいた。こんなタメ口のダメな製造部長を泳がせてくれてるんだから、感謝するべきところではあるしな。

「それはそうとしてだ」

 と、毛利はまだ話が有るらしい。少し考えるようなしぐさをしてから、切り出してくる。

「一度、そなたらの仕事をしたいのだが」

「ハァ?」

 思わず変な声が出てしまった。毛利は流石にそれには気を悪くしたらしく、「いや、よい」と提案をひっこめようとする。そんな事自体初めてで、俺はまたしても「は?」と言う羽目になった。

「どういう風の吹きまわしだよ。経営者なんてのは机の前でふんぞり返ってりゃいいんじゃあねえのか」

 毛利のイメージをそのまま言ったつもりだが、良く考えればこれは大層失礼な発言だ。だが毛利はそれには触れずに、小さな声で言う。

「そなたらの仕事内容を知らないままに、経営をしようと思うてもそれは無理な、いや無理ではないが、その、なんといえば良いのか」

 珍しく歯切れが悪い。気味が悪いが、とりあえず言葉を待ってやる。

「つまり、仕事の実情を知らずに、新たな仕事、あるいは相手の会社に対して話をする事は無理ではないが不利ではあるし、それにそなたらが実際に働き、どの程度の苦労をしておるかが判らなければ、所詮は標準時間も机上の空論となってしまうし、それにだな……」

 毛利はそれに、それにといつまでも理由をぐだぐだ探している。俺はなんとなく毛利の言わんとしている事を察して、

「つまり、あんた、俺達の仕事がしてみたいんだな」

 と言ってやったが、アイツは困ったような顔で首を振る。

「いや、そうではない。経営戦略的にみても、未経験だと不利であるし、それに……」

「あーーもう、判った判った。もういい。で、あんたは作業を実際にしたいのか? それとも見るのでいいのか? 説明だけでもいいのか?」

 このままだといつまでも言い訳が続きそうだったから切り上げると、毛利はまた少し考えてから、

「出来る事なら、作業をしたほうが良いだろう。現場というものが判る故」

 と何故だか申し訳なさそうに言う。俺は呆れてため息を吐いて、「いいぜ」と頷く。

「その代わり、仕事に手ぇ出すんなら、完成するまで付き合えよ。途中で他の仕事が有るからとかって抜けるな。それと定時で働け。手を止めない努力を惜しむな、判らない事が有ったら俺に聞け。それがルールだが、出来るか?」

「……良いのか」

「良いも悪いも、あんたがしたいんだろ」

 毛利はやはり、しばらくすると「そうだな」と頷いた。

 随分と、不器用な奴だ。呆れるのを通り越して、なんだか可哀想になってきた。なるほど、こいつは確かに、可哀想でだ。だから、手を引いてやらなければならない。そうだったんだと思う。

 +++

 幸せを掴むほどに人は不幸になっていくのですね

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