あれは大谷さんじゃないかとは思うんですけど
どんなキャラになるんだよ
いつも公式が予想の斜め上を突っ走るのですごいなぁと思う
以下、ナリチカナリの4
どんなキャラになるんだよ
いつも公式が予想の斜め上を突っ走るのですごいなぁと思う
以下、ナリチカナリの4
結論から言って、毛利は非常に勤勉だった。
毎朝定時にしっかり会社に来るようになったし、上等のスーツも革靴も止めて、何処から調達したのやらスニーカーを履き、会社の作業着を着てきた。アイツは小柄だから少し大きいみてえが、作業の邪魔になるほどじゃあなかった。
初めての元就には、小型の機械を作らせる事にした。ベテランなら二日で作れるが、素人がやると一週間はかかるだろう。おまけに基本的には立ち仕事で、奥の方を作業する場合にはかがむから腰も痛くなる。俺も、部下達も皆、アイツは根を上げるだろうと期待して見てた。
だが元就は不満も言わず黙々と作業をした。本当に何も知らない素人だから、いつも俺が付き添ってやったが、真面目なもんだ。背が低いから、高い場所での作業に苦労していたが、毎日他の奴らと同じ時間働いた。休憩時間にはさすがにぐったりしてたけど、根も上げなかったし、文句も言わない。そんな奴の姿を見て、社員達も評価を少しだけ改めたみたいだ。
機械が完成間近になると、勇気を出した奴が毛利に話しかけた。談笑、と言えるほどの会話は成り立たなかったが、話しかけられればアイツは答えたし、冗談を言えば僅かだが笑みも浮かべた。巷の話は殆ど通じなかったから、結局仕事の話をするしかない。そうするとアイツは「そなたらの仕事を我は評価している」と呟く。
これだけの肉体労働を毎日こなすそなたらが居るからこそ、日本は安泰で居られるのだ、と。それが本心なのか建前なのかは判らないが、あの毛利がそういう発言をしたというだけで、皆嬉しい気持ちになった。形はどうあれ、認められる事は良い事だ。
案外自分達の事を悪く思っていないらしい、と判った社員達は、時折毛利に声をかけたり、アドバイスしたりするようになった。作業者独自のコツなどを教えられ、アイツの仕事も少しはかどった。結局六日目には完成したので、及第点というところだろう。
今後は作業の時間を十分取れない、仕事に参加するのはひとまず今日までだ、とアイツが言うので、じゃあ皆で打ち上げ会をしようという話になった。要は口実で、皆、酒盛りをするのが好きなだけだ。毛利も「打ち上げか」と特に嫌そうでもなかったし、俺はその場の勢いで、「じゃあ今日は、社長のおごりで!」と冗談で言った。が、毛利のほうは真面目な顔で、「我のおごりで?」と首を傾げる。社員達は「御馳走になります!」と頭を下げる。毛利はしばらくきょとんとしていたが、「構わぬが」と頷いた。
行きつけの居酒屋に向かって、皆とわいわい飲む。前社長が居た頃も、週に一度ぐらいはこうして皆で酒盛りをしてたもんだ。社長のおごりだった事も多い。思えば、そうやって無理させてたのかもしれねぇなあ、と今更思う。オッサンは元気にしてるんだろうか。首なんか吊ってなけりゃあいいけど。
この間みたいな失態を晒さないように、今日は控えめに飲む。時々部下とわいわい歌ったり笑ったりして、いい時間を過ごす。その間も毛利は、隅の方でちびちびやっているばかりだ。少し気になって、隣に座ると、毛利は「長曾我部」と小さな声で言う。
「我が社の給料は安すぎるか?」
「は?」
「皆、酒代がタダになるぐらいで、こんなに喜んでおる。もっと増やすべきか?」
「あー……」
苦笑して、「そうじゃなくて」と首を振ってこたえてやる。
「あんたがどうかは知らないけど、皆、タダってのは嬉しいんだよ。それだけだ。別に今の分で不満は無いさ。まぁ増えるってんならありがたいけど、そんな簡単な話でもないだろ」
「うむ、そう簡単ではない。……タダなのは、嬉しい事なのか」
「まぁ、庶民ってのはな。金はいくら有っても嬉しいし」
「そうなのか」
毛利は妙に興味深そうに頷いた。コイツはそんな当たり前の事も知らないんだろうか。改めて可哀想な奴だと思う。毛利は恐らく、金持ちの息子って奴で、金に苦労した事も無いし、そんな状況も知らないんだろう。知らないのに理解しろというのは無理な話だ。奴の全てが嫌な感じに見えても、仕方ない。俺達が見ている物を、毛利は見ていないんだ。俺達が金持ちの言動を理解出来ないように、コイツも俺達の言動を理解出来ない。歩み寄るためには、ひとまずその壁を取っ払って、お互いに見える物を見せなくちゃならない。
それは酷く面倒な行為で、しかも無駄な可能性もかなり高い。お互い歩み寄る歩数を合わせなけりゃあ、上手くいかない。とてつもなく難しい。だから皆、諦める。言葉が通じない、生きている世界が違う、と理解しているような顔で、心の中で無視をする。貴方の意見は尊重すると言いながら、流す。でも、せっかく出会えて、そして話せるなら、理解したい。同じ意見にはなれなくても、理解はしたいし、して欲しい。見える距離に居るのに、通じ合えないなんて悲し過ぎるじゃねぇか。隣の奴とも理解しあえなくて、異文化コミュニケーションだとかおこがましい事だぜ。だから俺は通じないかもしれないが、毛利と色んな話をした。
俺の家はバブルの時に大層儲けて、そして大層な勢いで失墜した。本当にガキの頃は、なんでも買ってもらえたのに、それから数年もすりゃあ夜逃げして公園で寝泊まりした。飯を何日も食えなかった事も有る。今までどんなに優しかった人も、俺達に手を伸ばしてもくれなかった。最後に行き着いたのは富士の樹海で、俺はこのまま皆死ぬんだと思った。
どっこい、俺達を招いたのはあの世の連中ではなく、遠い親戚だった。親戚というより、血が僅かばかし繋がっている、程度のモンだ。母方のお袋の妹の婿の姉の……みたいな話だ。その一度だって見た事の無いオバサンが、俺達を助けてくれた。家を貸してくれて、仕事先を探してくれた。それで俺達一家は何とか再生する事に成功した。俺は運がいい事に大学を出られて、こんな中小企業で、だが、製造部長なんて役職に就けている。オバサンに恩を返そうと、俺も仕送りをしているが、噂によれば全て封筒に入れてしまわれているらしい。オバサンは何処までも良い人で、だからこそ俺はああいう人が世の中を救うのだと信じている。一人でもいい、誰か救えるなら救いたい。そう思う。
最近知った事だが、オバサンには子供が居たそうだ。生きていれば俺と同じぐらいだった。オバサンは、夢を俺に、俺達に託したにすぎなかった。それでも俺は幸せだ。オバサンには感謝してもし足りない。
そんなわけで俺は幸か不幸か、途方も無い裕福と途方も無い貧乏って奴をどちらも知っている。まだ小さかったから、その全貌は見えなかったけど、少しは判る。裕福である間は、何も見えないのだ。誰にも何も見えない。落ちていく自分の姿さえ見えない。隣の人間が上に行ったように見えてびっくりした時には、どん底に落ちているものなのだ。
だから毛利に、卵かけご飯がどれほど旨いか、冬の公園がどれほど寒いか、初給料の袋を神様みたいに崇めた事とか、毛利が知ろうと思っても知れない、ましてや、そんなところに落ちてほしくはない事を延々と喋った。毛利は始終、興味深そうに頷いて俺の話に付き合ってくれた。
本当の事を言えば、俺は単に不幸自慢がしたかったのかもしれない。そういう心のカギが開閉する瞬間ってのは、確かに有る。毛利があまりに興味深そうに聞いてくれるから、俺の扉は閉まらなかった、そういう事だ。酒を飲みながら、つまみを突つきながら大いに喋った。
宴会も終わる時間になって、皆で毛利に「御馳走様」と頭を下げた。毛利は「うむ」とか返事をして、会計にカードを渡して、それで支払は終わった。楽なもんだ。毛利にとってはそれが正しい。それだけの事だ。
さぁ帰ろうか、と思っていると、部下が声をかけてきた。
「アニキは今日も社長と?」
「え? なんでだ?」
「帰る方向が一緒だって言ってたじゃないッスか。それに、金持ちのボンボンが一人の夜道は危ないって」
「あー……」
んな事言ったのかなあ。まぁ確かに、こんな世間知らずのヒョロヒョロが一人で帰るのは危険かもしれねぇな。「じゃあ、そうするわ」と笑い返して、俺は毛利の所へ向かう。
毛利はこれからどうしようか、というような風に空を見たりしていた。「一緒に帰ろうぜ」と声をかけると、毛利は少し驚いたような顔をした後で、小さくうなづいた。
夜道を二人で帰り始める。今日は俺もそれほど酔っていない。毛利ももちろんそうだ。ひんやりする夜風を浴びながら、二人でのろのろと街を歩く。
「今日は酔っていないのか」
「この間ほどじゃあねぇな。あん時はすまなかったなぁ、べろんべろんになっちまって。迷惑もかけたろう」
「気にしていない。……我は、うらやましいのだ」
「うらやましい? 何が?」
毛利は困ったような笑みを浮かべて、俺を見ないままに答える。
「我は、酔った事が無い。……酒に強いというわけではないのだが、……飲んでも楽しくないのだ。社交辞令としてたしなむが、それ以上ではない。カロリーばかり高くて、旨くもない。出来れば飲みたくないと思っておる。だから、あそこまで酒を旨そうに飲んで、楽しげに笑っているそなたらが、うらやましい」
「……そうだなあ、そりゃ、つまらないだろうなあ」
なるほど、それでいつも隅っこで静かにしていたのか。しかしそこまでしても酔えないというのは、酒豪というよりはむしろ心理的な物が有るのかもしれねぇな、と思う。もしかしたら、酒で嫌な思いをしたのかもしれない。まぁそんな想像をしたってキリがない。下世話な話だしな。
「でもよ、気の合う連中と一緒に飲み食いするってのは、それだけで楽しいもんだぜ。くだらない話で時間を潰すのも、それはそれで楽しいし。酒に酔えなくても、場を楽しむって事は出来るだろう? そりゃ酔っぱらいどもが出来あがっちまったら、素面の人間にゃあどうにもできねぇけどよ。それなりの時間は、楽しく過ごそうと思えば過ごせるぜ。……今日、楽しかったか?」
「うむ」
即答。だから嘘じゃねぇんだろう。
「そなたと話が出来て良かった」
よせやい、恥ずかしい。
「そなたと一緒に居ると、色んな事が知れる。そなたと一緒に居る時間は好きだ。……気持ちが、良かったしな……」
……ん?
気持ちが、良かった?
………………。
「も、毛利、」
「ん?」
「いや、その……あの晩……」
本当に、本当に寝たのか、と聞きそうになって、慌てて口を噤む。聞いたところでどうなる、第一、まず間違いなくやってる。しかし毛利は俺の言おうとした事を違う方向に理解したようだ。
「……ああ、あの続きが読みたいな。沙希はあの後どうなるのか、気になっておった」
少女マンガの続きが気になるらしい。沙希というのは漫画の主人公だ。テーブルに置いてあったのは最初の2巻だけで、しかも沙希がまだどん底のあたりだ。まだ本題に入ってない。
「そうだな、じゃあ、……じゃあこれから……」
うちに来いよ。自然とそう言いそうになった。言えなかったのは、いつぞの男がいつの間にか側に立っていて、
「元就様、お迎えにあがりました」
と言ったからだ。
「……」
「連日の御勤務にて、スケジュールが狂っております。何日も先延ばしに出来る話ではありません。これから本家の方へ向かいます。よろしいですね」
「……これから、か」
「これからです」
毛利は少し残念そうにため息を吐いて、それから俺に言う。
「長曾我部。……続きはまた、いつか。……仕事についても、沙希についても」
「お、おう」
頷いてやると、毛利は少しだけ笑んだ。そして男に連れられて、高級車へと向かって歩いて行く。
毛利がダメになったのは、周りの環境のせいだ。
彼らの背中を見ながら、漠然とそう思った。
+++
この従者は誰にしようかなあと考え中
いっそ義弟?
毎朝定時にしっかり会社に来るようになったし、上等のスーツも革靴も止めて、何処から調達したのやらスニーカーを履き、会社の作業着を着てきた。アイツは小柄だから少し大きいみてえが、作業の邪魔になるほどじゃあなかった。
初めての元就には、小型の機械を作らせる事にした。ベテランなら二日で作れるが、素人がやると一週間はかかるだろう。おまけに基本的には立ち仕事で、奥の方を作業する場合にはかがむから腰も痛くなる。俺も、部下達も皆、アイツは根を上げるだろうと期待して見てた。
だが元就は不満も言わず黙々と作業をした。本当に何も知らない素人だから、いつも俺が付き添ってやったが、真面目なもんだ。背が低いから、高い場所での作業に苦労していたが、毎日他の奴らと同じ時間働いた。休憩時間にはさすがにぐったりしてたけど、根も上げなかったし、文句も言わない。そんな奴の姿を見て、社員達も評価を少しだけ改めたみたいだ。
機械が完成間近になると、勇気を出した奴が毛利に話しかけた。談笑、と言えるほどの会話は成り立たなかったが、話しかけられればアイツは答えたし、冗談を言えば僅かだが笑みも浮かべた。巷の話は殆ど通じなかったから、結局仕事の話をするしかない。そうするとアイツは「そなたらの仕事を我は評価している」と呟く。
これだけの肉体労働を毎日こなすそなたらが居るからこそ、日本は安泰で居られるのだ、と。それが本心なのか建前なのかは判らないが、あの毛利がそういう発言をしたというだけで、皆嬉しい気持ちになった。形はどうあれ、認められる事は良い事だ。
案外自分達の事を悪く思っていないらしい、と判った社員達は、時折毛利に声をかけたり、アドバイスしたりするようになった。作業者独自のコツなどを教えられ、アイツの仕事も少しはかどった。結局六日目には完成したので、及第点というところだろう。
今後は作業の時間を十分取れない、仕事に参加するのはひとまず今日までだ、とアイツが言うので、じゃあ皆で打ち上げ会をしようという話になった。要は口実で、皆、酒盛りをするのが好きなだけだ。毛利も「打ち上げか」と特に嫌そうでもなかったし、俺はその場の勢いで、「じゃあ今日は、社長のおごりで!」と冗談で言った。が、毛利のほうは真面目な顔で、「我のおごりで?」と首を傾げる。社員達は「御馳走になります!」と頭を下げる。毛利はしばらくきょとんとしていたが、「構わぬが」と頷いた。
行きつけの居酒屋に向かって、皆とわいわい飲む。前社長が居た頃も、週に一度ぐらいはこうして皆で酒盛りをしてたもんだ。社長のおごりだった事も多い。思えば、そうやって無理させてたのかもしれねぇなあ、と今更思う。オッサンは元気にしてるんだろうか。首なんか吊ってなけりゃあいいけど。
この間みたいな失態を晒さないように、今日は控えめに飲む。時々部下とわいわい歌ったり笑ったりして、いい時間を過ごす。その間も毛利は、隅の方でちびちびやっているばかりだ。少し気になって、隣に座ると、毛利は「長曾我部」と小さな声で言う。
「我が社の給料は安すぎるか?」
「は?」
「皆、酒代がタダになるぐらいで、こんなに喜んでおる。もっと増やすべきか?」
「あー……」
苦笑して、「そうじゃなくて」と首を振ってこたえてやる。
「あんたがどうかは知らないけど、皆、タダってのは嬉しいんだよ。それだけだ。別に今の分で不満は無いさ。まぁ増えるってんならありがたいけど、そんな簡単な話でもないだろ」
「うむ、そう簡単ではない。……タダなのは、嬉しい事なのか」
「まぁ、庶民ってのはな。金はいくら有っても嬉しいし」
「そうなのか」
毛利は妙に興味深そうに頷いた。コイツはそんな当たり前の事も知らないんだろうか。改めて可哀想な奴だと思う。毛利は恐らく、金持ちの息子って奴で、金に苦労した事も無いし、そんな状況も知らないんだろう。知らないのに理解しろというのは無理な話だ。奴の全てが嫌な感じに見えても、仕方ない。俺達が見ている物を、毛利は見ていないんだ。俺達が金持ちの言動を理解出来ないように、コイツも俺達の言動を理解出来ない。歩み寄るためには、ひとまずその壁を取っ払って、お互いに見える物を見せなくちゃならない。
それは酷く面倒な行為で、しかも無駄な可能性もかなり高い。お互い歩み寄る歩数を合わせなけりゃあ、上手くいかない。とてつもなく難しい。だから皆、諦める。言葉が通じない、生きている世界が違う、と理解しているような顔で、心の中で無視をする。貴方の意見は尊重すると言いながら、流す。でも、せっかく出会えて、そして話せるなら、理解したい。同じ意見にはなれなくても、理解はしたいし、して欲しい。見える距離に居るのに、通じ合えないなんて悲し過ぎるじゃねぇか。隣の奴とも理解しあえなくて、異文化コミュニケーションだとかおこがましい事だぜ。だから俺は通じないかもしれないが、毛利と色んな話をした。
俺の家はバブルの時に大層儲けて、そして大層な勢いで失墜した。本当にガキの頃は、なんでも買ってもらえたのに、それから数年もすりゃあ夜逃げして公園で寝泊まりした。飯を何日も食えなかった事も有る。今までどんなに優しかった人も、俺達に手を伸ばしてもくれなかった。最後に行き着いたのは富士の樹海で、俺はこのまま皆死ぬんだと思った。
どっこい、俺達を招いたのはあの世の連中ではなく、遠い親戚だった。親戚というより、血が僅かばかし繋がっている、程度のモンだ。母方のお袋の妹の婿の姉の……みたいな話だ。その一度だって見た事の無いオバサンが、俺達を助けてくれた。家を貸してくれて、仕事先を探してくれた。それで俺達一家は何とか再生する事に成功した。俺は運がいい事に大学を出られて、こんな中小企業で、だが、製造部長なんて役職に就けている。オバサンに恩を返そうと、俺も仕送りをしているが、噂によれば全て封筒に入れてしまわれているらしい。オバサンは何処までも良い人で、だからこそ俺はああいう人が世の中を救うのだと信じている。一人でもいい、誰か救えるなら救いたい。そう思う。
最近知った事だが、オバサンには子供が居たそうだ。生きていれば俺と同じぐらいだった。オバサンは、夢を俺に、俺達に託したにすぎなかった。それでも俺は幸せだ。オバサンには感謝してもし足りない。
そんなわけで俺は幸か不幸か、途方も無い裕福と途方も無い貧乏って奴をどちらも知っている。まだ小さかったから、その全貌は見えなかったけど、少しは判る。裕福である間は、何も見えないのだ。誰にも何も見えない。落ちていく自分の姿さえ見えない。隣の人間が上に行ったように見えてびっくりした時には、どん底に落ちているものなのだ。
だから毛利に、卵かけご飯がどれほど旨いか、冬の公園がどれほど寒いか、初給料の袋を神様みたいに崇めた事とか、毛利が知ろうと思っても知れない、ましてや、そんなところに落ちてほしくはない事を延々と喋った。毛利は始終、興味深そうに頷いて俺の話に付き合ってくれた。
本当の事を言えば、俺は単に不幸自慢がしたかったのかもしれない。そういう心のカギが開閉する瞬間ってのは、確かに有る。毛利があまりに興味深そうに聞いてくれるから、俺の扉は閉まらなかった、そういう事だ。酒を飲みながら、つまみを突つきながら大いに喋った。
宴会も終わる時間になって、皆で毛利に「御馳走様」と頭を下げた。毛利は「うむ」とか返事をして、会計にカードを渡して、それで支払は終わった。楽なもんだ。毛利にとってはそれが正しい。それだけの事だ。
さぁ帰ろうか、と思っていると、部下が声をかけてきた。
「アニキは今日も社長と?」
「え? なんでだ?」
「帰る方向が一緒だって言ってたじゃないッスか。それに、金持ちのボンボンが一人の夜道は危ないって」
「あー……」
んな事言ったのかなあ。まぁ確かに、こんな世間知らずのヒョロヒョロが一人で帰るのは危険かもしれねぇな。「じゃあ、そうするわ」と笑い返して、俺は毛利の所へ向かう。
毛利はこれからどうしようか、というような風に空を見たりしていた。「一緒に帰ろうぜ」と声をかけると、毛利は少し驚いたような顔をした後で、小さくうなづいた。
夜道を二人で帰り始める。今日は俺もそれほど酔っていない。毛利ももちろんそうだ。ひんやりする夜風を浴びながら、二人でのろのろと街を歩く。
「今日は酔っていないのか」
「この間ほどじゃあねぇな。あん時はすまなかったなぁ、べろんべろんになっちまって。迷惑もかけたろう」
「気にしていない。……我は、うらやましいのだ」
「うらやましい? 何が?」
毛利は困ったような笑みを浮かべて、俺を見ないままに答える。
「我は、酔った事が無い。……酒に強いというわけではないのだが、……飲んでも楽しくないのだ。社交辞令としてたしなむが、それ以上ではない。カロリーばかり高くて、旨くもない。出来れば飲みたくないと思っておる。だから、あそこまで酒を旨そうに飲んで、楽しげに笑っているそなたらが、うらやましい」
「……そうだなあ、そりゃ、つまらないだろうなあ」
なるほど、それでいつも隅っこで静かにしていたのか。しかしそこまでしても酔えないというのは、酒豪というよりはむしろ心理的な物が有るのかもしれねぇな、と思う。もしかしたら、酒で嫌な思いをしたのかもしれない。まぁそんな想像をしたってキリがない。下世話な話だしな。
「でもよ、気の合う連中と一緒に飲み食いするってのは、それだけで楽しいもんだぜ。くだらない話で時間を潰すのも、それはそれで楽しいし。酒に酔えなくても、場を楽しむって事は出来るだろう? そりゃ酔っぱらいどもが出来あがっちまったら、素面の人間にゃあどうにもできねぇけどよ。それなりの時間は、楽しく過ごそうと思えば過ごせるぜ。……今日、楽しかったか?」
「うむ」
即答。だから嘘じゃねぇんだろう。
「そなたと話が出来て良かった」
よせやい、恥ずかしい。
「そなたと一緒に居ると、色んな事が知れる。そなたと一緒に居る時間は好きだ。……気持ちが、良かったしな……」
……ん?
気持ちが、良かった?
………………。
「も、毛利、」
「ん?」
「いや、その……あの晩……」
本当に、本当に寝たのか、と聞きそうになって、慌てて口を噤む。聞いたところでどうなる、第一、まず間違いなくやってる。しかし毛利は俺の言おうとした事を違う方向に理解したようだ。
「……ああ、あの続きが読みたいな。沙希はあの後どうなるのか、気になっておった」
少女マンガの続きが気になるらしい。沙希というのは漫画の主人公だ。テーブルに置いてあったのは最初の2巻だけで、しかも沙希がまだどん底のあたりだ。まだ本題に入ってない。
「そうだな、じゃあ、……じゃあこれから……」
うちに来いよ。自然とそう言いそうになった。言えなかったのは、いつぞの男がいつの間にか側に立っていて、
「元就様、お迎えにあがりました」
と言ったからだ。
「……」
「連日の御勤務にて、スケジュールが狂っております。何日も先延ばしに出来る話ではありません。これから本家の方へ向かいます。よろしいですね」
「……これから、か」
「これからです」
毛利は少し残念そうにため息を吐いて、それから俺に言う。
「長曾我部。……続きはまた、いつか。……仕事についても、沙希についても」
「お、おう」
頷いてやると、毛利は少しだけ笑んだ。そして男に連れられて、高級車へと向かって歩いて行く。
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