今年の風邪は、地味ですね。なんかそこらじゅう痛いです。
布団に潜ったら必ず寝れます。
以下、ガチの3
布団に潜ったら必ず寝れます。
以下、ガチの3
住む世界が違うのだ、と元就は思った。
元親は皆から愛されているし、たくましい体だし、大層な美形であるし、自分などは釣り合わないと改めて感じる。会社に戻って、紙袋を置き、トイレに行って鏡を見た。どう見ても、釣り合わない。
人に好かれるような人間ではないのだ。人を見下すような表情も、ちっぽけな身長も、ついに筋肉のつかなかった体も。元就は元親の体を思い出して、劣等感のあまり深い深い溜息を吐いた。
「あの、元就様、何か、お悩みですか?」
はっとして振り返ると、部下の男性社員が心配そうにこちらを見ている。慌てて、けれど平然を装って、「なんでもない」とそっけなく返事をし、トイレを出た。
親の七光りで会社に居る我を、兄の庇護下に有る我を、疎んでおる事だろう。
元就はそう信じていたから、部下ともあまり話をしなかった。相手に嫌な思いはさせたくなかったし、なにより自分も傷付きたくはなかった。
元就は経理のけの字も良くは知らないのに、部長職を与えられている。一際立派なデスクに戻ると、また溜息を吐いた。そもそもまだパソコンを使う事さえ慣れていない。デスクに積んだ書類と、そしてそれに対してどうするべきかを記した本を交互に見て勉強をする身だ。そんな情けない上司を皆、嫌っているだろうと元就は信じていた。
と、携帯にメールが入った。まだ休憩時間なので見てみると、元親からだった。
「今日はありがと、次はいつ会える?」
元就は困ってしまった。いつ、と言っても。元就は仕方なく、手短に返事をした。
「我のほうは、いつでも」
+
家に帰ると、何故だか兄の興元が待ち伏せしていた。ただいま帰りました、という元就の手から素早く紙袋を奪って、興元は居間へと走り出す。元就はぎょっとして、その後を慌てて追った。
「元就が、何か持って帰ったぞ、杉!」
「まぁなんでございましょうね!」
杉と興元はわいわいと勝手に紙袋を開けている。元就は「ちょ、ちょっと、」と止めようとした。そこに父の弘元がやって来る。止めてくれるのかと思いきや、
「わしにも見せろ!」
とその騒動に加勢してしまった。
「おお! 元就が! 服を買っている!」
「あの、」
「俺のお下がりか、杉の買って来た服しか着なかった元就が、自分で服を!」
「しかもこんな若々しい……いやあ、なんて素敵な日でしょう! 今晩も赤飯を炊きましょうか!?」
「いや、あの、」
何か言おうとする元就の肩を、興元はうんうんと頷いて叩く。
「杉から聞いているぞ、恋人が出来たそうだな」
「こっ、」
「ああ、ああ、ああ、隠さなくてもいい。今まで俺達はお前に過保護だったんだ。もうお前もいい歳だし、いい子を見つけて付き合っても問題は無いんだよ、朝帰りだって我々家族一同、大いに喜んでいるんだ。会社の部下達も、お前がここのところ悩んでいるといっているし、いや恋は偉大だな!」
「あ、兄上、」
「で、相手はどんな娘なんだ」
「元就の事ですから、さぞかし美人な、頭の良い方でしょうね!」
「そう、元就、写真か何か無いのか? なんならデートするのに車を買ってやっても、……あー、お前、免許無いんだったな、いやしまった、じゃあ知り合いのホテルに部屋でも頼もうか? 夜景が綺麗なところでな、……それより元就、お前、やりかたは知ってるのか?」
興元がそこまで言ったところで、元就はついに、「いい加減にしろ!」と叫んでしまった。
+
「あれ、着て来てくれなかったんだ」
元親はマンションの扉を開けてすぐ落胆したが、元就の方もげんなりとした表情をしていた。
「色々、事情が有って……」
「事情?」
「とりあえず入れてくれ、……監視がついておるかもしれぬ」
「監視?」
元親は首を傾げたが、元就を部屋に入れてくれた。それから、ふぅと溜息を吐いて鞄を漁ると、中からは元親の店で買った服が出て来た。
「なんだ、持って来てたのか」
「家では着替えられなかったのだ」
「なんで?」
「……家族が、……うるさくて」
元就は溜息を吐いて、それから「今からでも着替えたほうがいいか?」と尋ねた。元親は「うーん」と声を出して。
「折角着替えるんなら、家でごろごろするのももったいないし、……どっか行く?」
と尋ね返してくる。元就もまた少し考えて、それから「良いのか?」と問うた。元親も「旨い店で飯でも食おうぜ」と笑って、元就に着替えるよう促した。
服の事は元就も気に入っていた。自分でも驚くぐらい若くなったし、似合っているかいないかは自信が無いが、それでも元親が選んでくれたというだけで何故だか嬉しかった。ただ家で着ると家族がにやにやするし、まして外出などしたらデートだろうと面白半分に追いかけてくる可能性が高かった。過保護なのだ、と元就は今更思った。愛される事はありがたいが、ここまで来ると少々迷惑だと思うのは、贅沢なのだろうか。元就は溜息を吐きながら、着替える。
元就と違って元親は何を着ても映えた。Tシャツ一枚にジーンズ、裸足にサンダルなのに、元親は何故だか華やかで、そういう意味でも元親は釣り合わないと感じた。例えるならばパプリカと小松菜なのだ、と元就は考えたが、自分で思っておいて良く判らなかった。
酷く明るく声も大きく、おまけに華やかで誰とでも打ち解けるパプリカに、クセのある小松菜が着いて歩く。想像して何故だかまた溜息が出た。こんな事ばかり考えているから、気に入られていない部下にまで心配されるのだと。
元親に声をかけられて、元就は慌てて彼の後ろを追った。元親の車に乗り、街へ出る。小さなレストランで食事をして、長々と喋った。つまらない事を、それなのに楽しくお互いに聞きあった。心地良い時間だった。だから元親はモテるのだ、と元就は思う。この男と話していると、なんでもない事までとびきり楽しく感じる。幸せな気持ちになるのだ。
夜も遅くなって、元親の部屋に戻る。シャワーを浴びて、タオルで体を拭くと、また素っ裸で布団に潜る事になった。元親は何故だか始終嬉しそうに笑って、元就を撫でたが、それはいつまで経っても愛撫には変わらず、最終的にそのまま寝る事になった。
+
妙な関係だ。
元就は仕事をしながら、ぼうっと考えた。それとも、手を出すほどの魅力は無いという事なのか。元就は自分が拒否した事を棚に上げて、何故だか悲しい気持ちにさえなっていた。
心がどんよりとしている時は、頭もぼうっとするものだし、何事も億劫で胃がもたれるものだ。だから元就は、自分がその事で悩んでいるのだろうと思って出勤した。
ふと書類のコピーをとろうと、椅子から立ち上がった瞬間、酷い立ちくらみに襲われて、床にへたり込んでも、そうだと思っていた。
「も、元就様、大丈夫ですか?」
部下が心配して手を伸ばしてくる。「心配ない」と一言返して、元就は立とうと思うのに、立ち上がれない。それどころか、
「あっ!」
そのまま倒れそうになったところを、部下になんとか支えられた。悪い事をした、と思いながらも、体に力が入らず、元就はそのまま目を閉じた。「誰か、」と部下が言うのを聞きながら、元就は意識を手放した。
+++
「なぁ、ここにも来てないのか?」
バーを訪れて、元親はすぐにカウンターに向かい、マスターに尋ねた。白い髪の彼は、
「来てないよ」
と答える。「誰の事?」と聞かれる事を期待していた元親は驚いてしまう。
「誰か判るのかよ」
「元就君だろ」
「げ、な、なんで判るんだよ!」
「なんでって、知ってるからだけど? 注文は?」
マスターの方は冷めた反応で、元親は仕方なくいつも飲んでいる物を頼むと、更に尋ねる。
「だから、なんで知ってるんだって」
「……あのねぇ、元親君。僕は一応、この店の主人だよ? 客の動向ぐらいは見ていれば判るよ」
「判るかぁ?」
「第一ね、君の事を気にしてる人間は山程居るんだ。あっちこっちで君が元就君に入れ込んでいるという情報は飛び交ってるよ」
「げ」
「ま、モテるってのも困りものだね。はい、これ」
マスターは元親にグラスを渡して、他の客のところへ行ってしまった。元親はしばらく待って、戻って来た彼に尋ねる。
「なぁ、じゃあ毛利の情報は入ってないのか?」
「入るわけないだろう? 彼には交友関係も無いし」
「本当か? なんか、言ってなかったか、俺の文句とか、悪口とか」
「……聞いて欲しそうだから聞くけど、何か有ったの?」
マスターは面倒そうに尋ねて来る。「それが客商売する人間の態度かぁ?」と文句を言いながらも、事情を説明する。
「メールしても返事が来ないし、電話しても出ないんだ。無視されてんのか、それとも何か事情が有るのか……気になって気になってよ」
「……」
「な、何」
「いや、君も恋する気持ちが判ったのかなぁって」
「こ、こい!?」
元親は声を荒げて「いやいや、違う違う」と言ったが、マスターのほうは冷ややかな目だ。
「今まで君にどれだけの人間が、今の君みたいな気持ちになってきたのか。その愚痴や相談に僕がどれだけつき合わされてきたか、散々泣きつかれた僕の気持ちにもなってみたまえ」
「あ、あの」
「相手からメールが帰って来ないだけでそんなに落ち込んで。君だって真面目にメールなんて返した事は無いだろう? 僕としては知った事かと言ってやりたいところだね。君が客じゃなかったら」
「……あの、なんか、……ごめんなさい」
元親が小さく言うと、マスターはにっこりと笑む。
「ま、いいよ。それで、他に連絡先は判らないのかい? 家とか、勤め先とか」
「一応名刺に会社の番号は書いてあるんだけど、……でもかけたら迷惑だろ? それにもし無視されてるんだったら、ますます嫌がられるだろうし……」
「けど君だってうじうじいつまでも悩んでいたくないだろう? 結論は早い方がいい。それに元就君以外は君の事を知らないんだし、電話したぐらいで迷惑にはならないさ」
「……そうかな」
「そうだよ」
元親はしばらく考えて、「そうかもな」と頷いた。
+
「はい、毛利商事でございます」
女の声が電話口から聞こえた。それまでに緊張していた元親は、何度かどもりながらも用件を伝える。
「あの、そちらに、毛利元就さんが、いらっしゃると思うんですが」
そこまで言って、「毛利商事の毛利元就?」と元親は引っかかったが、すぐさま女性が答えたので考えるのを止める。
「只今毛利は休養を取っております。ご用件をお伝えいたしましょうか?」
「え、あっと……休養って、……あの、俺、友達なんですけど、最近連絡が取れなくて、それで、……あの、元気なんですか?」
「……」
電話の向こうはしばらく黙っていたが、やがて、
「毛利は、ただいま入院しております」
と答えた。
+++
この毛利家のウザさ
元親は皆から愛されているし、たくましい体だし、大層な美形であるし、自分などは釣り合わないと改めて感じる。会社に戻って、紙袋を置き、トイレに行って鏡を見た。どう見ても、釣り合わない。
人に好かれるような人間ではないのだ。人を見下すような表情も、ちっぽけな身長も、ついに筋肉のつかなかった体も。元就は元親の体を思い出して、劣等感のあまり深い深い溜息を吐いた。
「あの、元就様、何か、お悩みですか?」
はっとして振り返ると、部下の男性社員が心配そうにこちらを見ている。慌てて、けれど平然を装って、「なんでもない」とそっけなく返事をし、トイレを出た。
親の七光りで会社に居る我を、兄の庇護下に有る我を、疎んでおる事だろう。
元就はそう信じていたから、部下ともあまり話をしなかった。相手に嫌な思いはさせたくなかったし、なにより自分も傷付きたくはなかった。
元就は経理のけの字も良くは知らないのに、部長職を与えられている。一際立派なデスクに戻ると、また溜息を吐いた。そもそもまだパソコンを使う事さえ慣れていない。デスクに積んだ書類と、そしてそれに対してどうするべきかを記した本を交互に見て勉強をする身だ。そんな情けない上司を皆、嫌っているだろうと元就は信じていた。
と、携帯にメールが入った。まだ休憩時間なので見てみると、元親からだった。
「今日はありがと、次はいつ会える?」
元就は困ってしまった。いつ、と言っても。元就は仕方なく、手短に返事をした。
「我のほうは、いつでも」
+
家に帰ると、何故だか兄の興元が待ち伏せしていた。ただいま帰りました、という元就の手から素早く紙袋を奪って、興元は居間へと走り出す。元就はぎょっとして、その後を慌てて追った。
「元就が、何か持って帰ったぞ、杉!」
「まぁなんでございましょうね!」
杉と興元はわいわいと勝手に紙袋を開けている。元就は「ちょ、ちょっと、」と止めようとした。そこに父の弘元がやって来る。止めてくれるのかと思いきや、
「わしにも見せろ!」
とその騒動に加勢してしまった。
「おお! 元就が! 服を買っている!」
「あの、」
「俺のお下がりか、杉の買って来た服しか着なかった元就が、自分で服を!」
「しかもこんな若々しい……いやあ、なんて素敵な日でしょう! 今晩も赤飯を炊きましょうか!?」
「いや、あの、」
何か言おうとする元就の肩を、興元はうんうんと頷いて叩く。
「杉から聞いているぞ、恋人が出来たそうだな」
「こっ、」
「ああ、ああ、ああ、隠さなくてもいい。今まで俺達はお前に過保護だったんだ。もうお前もいい歳だし、いい子を見つけて付き合っても問題は無いんだよ、朝帰りだって我々家族一同、大いに喜んでいるんだ。会社の部下達も、お前がここのところ悩んでいるといっているし、いや恋は偉大だな!」
「あ、兄上、」
「で、相手はどんな娘なんだ」
「元就の事ですから、さぞかし美人な、頭の良い方でしょうね!」
「そう、元就、写真か何か無いのか? なんならデートするのに車を買ってやっても、……あー、お前、免許無いんだったな、いやしまった、じゃあ知り合いのホテルに部屋でも頼もうか? 夜景が綺麗なところでな、……それより元就、お前、やりかたは知ってるのか?」
興元がそこまで言ったところで、元就はついに、「いい加減にしろ!」と叫んでしまった。
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「あれ、着て来てくれなかったんだ」
元親はマンションの扉を開けてすぐ落胆したが、元就の方もげんなりとした表情をしていた。
「色々、事情が有って……」
「事情?」
「とりあえず入れてくれ、……監視がついておるかもしれぬ」
「監視?」
元親は首を傾げたが、元就を部屋に入れてくれた。それから、ふぅと溜息を吐いて鞄を漁ると、中からは元親の店で買った服が出て来た。
「なんだ、持って来てたのか」
「家では着替えられなかったのだ」
「なんで?」
「……家族が、……うるさくて」
元就は溜息を吐いて、それから「今からでも着替えたほうがいいか?」と尋ねた。元親は「うーん」と声を出して。
「折角着替えるんなら、家でごろごろするのももったいないし、……どっか行く?」
と尋ね返してくる。元就もまた少し考えて、それから「良いのか?」と問うた。元親も「旨い店で飯でも食おうぜ」と笑って、元就に着替えるよう促した。
服の事は元就も気に入っていた。自分でも驚くぐらい若くなったし、似合っているかいないかは自信が無いが、それでも元親が選んでくれたというだけで何故だか嬉しかった。ただ家で着ると家族がにやにやするし、まして外出などしたらデートだろうと面白半分に追いかけてくる可能性が高かった。過保護なのだ、と元就は今更思った。愛される事はありがたいが、ここまで来ると少々迷惑だと思うのは、贅沢なのだろうか。元就は溜息を吐きながら、着替える。
元就と違って元親は何を着ても映えた。Tシャツ一枚にジーンズ、裸足にサンダルなのに、元親は何故だか華やかで、そういう意味でも元親は釣り合わないと感じた。例えるならばパプリカと小松菜なのだ、と元就は考えたが、自分で思っておいて良く判らなかった。
酷く明るく声も大きく、おまけに華やかで誰とでも打ち解けるパプリカに、クセのある小松菜が着いて歩く。想像して何故だかまた溜息が出た。こんな事ばかり考えているから、気に入られていない部下にまで心配されるのだと。
元親に声をかけられて、元就は慌てて彼の後ろを追った。元親の車に乗り、街へ出る。小さなレストランで食事をして、長々と喋った。つまらない事を、それなのに楽しくお互いに聞きあった。心地良い時間だった。だから元親はモテるのだ、と元就は思う。この男と話していると、なんでもない事までとびきり楽しく感じる。幸せな気持ちになるのだ。
夜も遅くなって、元親の部屋に戻る。シャワーを浴びて、タオルで体を拭くと、また素っ裸で布団に潜る事になった。元親は何故だか始終嬉しそうに笑って、元就を撫でたが、それはいつまで経っても愛撫には変わらず、最終的にそのまま寝る事になった。
+
妙な関係だ。
元就は仕事をしながら、ぼうっと考えた。それとも、手を出すほどの魅力は無いという事なのか。元就は自分が拒否した事を棚に上げて、何故だか悲しい気持ちにさえなっていた。
心がどんよりとしている時は、頭もぼうっとするものだし、何事も億劫で胃がもたれるものだ。だから元就は、自分がその事で悩んでいるのだろうと思って出勤した。
ふと書類のコピーをとろうと、椅子から立ち上がった瞬間、酷い立ちくらみに襲われて、床にへたり込んでも、そうだと思っていた。
「も、元就様、大丈夫ですか?」
部下が心配して手を伸ばしてくる。「心配ない」と一言返して、元就は立とうと思うのに、立ち上がれない。それどころか、
「あっ!」
そのまま倒れそうになったところを、部下になんとか支えられた。悪い事をした、と思いながらも、体に力が入らず、元就はそのまま目を閉じた。「誰か、」と部下が言うのを聞きながら、元就は意識を手放した。
+++
「なぁ、ここにも来てないのか?」
バーを訪れて、元親はすぐにカウンターに向かい、マスターに尋ねた。白い髪の彼は、
「来てないよ」
と答える。「誰の事?」と聞かれる事を期待していた元親は驚いてしまう。
「誰か判るのかよ」
「元就君だろ」
「げ、な、なんで判るんだよ!」
「なんでって、知ってるからだけど? 注文は?」
マスターの方は冷めた反応で、元親は仕方なくいつも飲んでいる物を頼むと、更に尋ねる。
「だから、なんで知ってるんだって」
「……あのねぇ、元親君。僕は一応、この店の主人だよ? 客の動向ぐらいは見ていれば判るよ」
「判るかぁ?」
「第一ね、君の事を気にしてる人間は山程居るんだ。あっちこっちで君が元就君に入れ込んでいるという情報は飛び交ってるよ」
「げ」
「ま、モテるってのも困りものだね。はい、これ」
マスターは元親にグラスを渡して、他の客のところへ行ってしまった。元親はしばらく待って、戻って来た彼に尋ねる。
「なぁ、じゃあ毛利の情報は入ってないのか?」
「入るわけないだろう? 彼には交友関係も無いし」
「本当か? なんか、言ってなかったか、俺の文句とか、悪口とか」
「……聞いて欲しそうだから聞くけど、何か有ったの?」
マスターは面倒そうに尋ねて来る。「それが客商売する人間の態度かぁ?」と文句を言いながらも、事情を説明する。
「メールしても返事が来ないし、電話しても出ないんだ。無視されてんのか、それとも何か事情が有るのか……気になって気になってよ」
「……」
「な、何」
「いや、君も恋する気持ちが判ったのかなぁって」
「こ、こい!?」
元親は声を荒げて「いやいや、違う違う」と言ったが、マスターのほうは冷ややかな目だ。
「今まで君にどれだけの人間が、今の君みたいな気持ちになってきたのか。その愚痴や相談に僕がどれだけつき合わされてきたか、散々泣きつかれた僕の気持ちにもなってみたまえ」
「あ、あの」
「相手からメールが帰って来ないだけでそんなに落ち込んで。君だって真面目にメールなんて返した事は無いだろう? 僕としては知った事かと言ってやりたいところだね。君が客じゃなかったら」
「……あの、なんか、……ごめんなさい」
元親が小さく言うと、マスターはにっこりと笑む。
「ま、いいよ。それで、他に連絡先は判らないのかい? 家とか、勤め先とか」
「一応名刺に会社の番号は書いてあるんだけど、……でもかけたら迷惑だろ? それにもし無視されてるんだったら、ますます嫌がられるだろうし……」
「けど君だってうじうじいつまでも悩んでいたくないだろう? 結論は早い方がいい。それに元就君以外は君の事を知らないんだし、電話したぐらいで迷惑にはならないさ」
「……そうかな」
「そうだよ」
元親はしばらく考えて、「そうかもな」と頷いた。
+
「はい、毛利商事でございます」
女の声が電話口から聞こえた。それまでに緊張していた元親は、何度かどもりながらも用件を伝える。
「あの、そちらに、毛利元就さんが、いらっしゃると思うんですが」
そこまで言って、「毛利商事の毛利元就?」と元親は引っかかったが、すぐさま女性が答えたので考えるのを止める。
「只今毛利は休養を取っております。ご用件をお伝えいたしましょうか?」
「え、あっと……休養って、……あの、俺、友達なんですけど、最近連絡が取れなくて、それで、……あの、元気なんですか?」
「……」
電話の向こうはしばらく黙っていたが、やがて、
「毛利は、ただいま入院しております」
と答えた。
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