さっそくガチでもなんでもなくなったガチの続き
正直に言って、元就は元親の事を信用してはいなかった。寝るだけだ、と言うが素っ裸になった人間のする事と言えば限られているし、まさか本当に何事も無く寝る事になるとは思わなかったのだ。朝、目を覚まして元就は驚いたほどだった。何も起きず、何もせず、ぐっすりと眠ってしまった。
元親のほうは先に起きていて、湯を沸かしている。既に部屋着を着込んでいる元親の背中を見ながら、元就は溜息を吐いた。自分は一体、何をしているんだろうか。
元親はモテる存在であるし、きっと自分に声をかけ、一晩を過ごしたのも、何か気まぐれのうちなのだろう。元就はそう考えつつ、のろのろと布団を出る。きちんと畳んでおいた服を着ると、キッチンへ向かった。元親はテーブルにカップやお椀を用意していたが、中には何か固形のものが入っていて、どうやらインスタントを出すつもりのようだ。
元親は元就に気付いて「おはよう」と明るく笑った。その笑顔がなんとも言えず魅力的で、元就はただ、うんと気の無い返事をして俯いてしまった。釣り合わない、と感じた。何もかもが、不釣合いで、不自然で、そして馬鹿らしかった。
「もうちょっと待ってな。お湯が沸くから」
その言葉を待たず、元就は元親の側から離れた。気まぐれで接してしまったのは元就も一緒だった。朝、爽やかな日差しを浴びる部屋で、こんな男が二人して朝食を取るだなどと、正気の沙汰ではない。帰りたい、と元就は思った。居心地が悪いのだ。
それでも食事の用意をしているのに帰るのは良くないだろうから、元就は我慢する事にして、元親の部屋を適当に見ていた。ふわふわのカーペット、妙に広いソファ、柔らかい布団、白い壁、そこに貼られている誰かの写真、壁掛け時計、テーブル、……その上の絵。
「……?」
良く見ると、デザイン画のようだった。なにやら色鉛筆で書きなぐられたそれは、Tシャツか何かの原案らしい。酷く繊細な模様に、細かなグラデーションが散っている。元就はそれが綺麗だと思った。それと同時に、元親らしくないと感じる。あれほど大胆に生きている人間なのに、これでは恋する乙女か何かだ。色鉛筆を握って、ちまちまと色を落としている元親を想像して、元就は妙な顔をしてしまった。似合わない。
「あっ」
ふと気付くと元親が側に来ていた。出来た、と言いに来たのだろうが、元就がデザインを見ている事に気付いて、慌ててそれを隠そうとする。
「何故隠す? 綺麗だぞ」
元就が率直に言えば、元親は困ったような顔をして、デザインと、元就の顔を見比べる。
「本当に?」
「嘘を吐いてどうなる。もっと自信を持て。色合いが良いな。それに、そなたの図体に似合わず繊細で、綺麗だ。我は好きだが?」
「……そっか。……ありがと」
元親はまた笑みを浮かべて、そしてデザイン画をテーブルに戻すと、「飯、出来たぜ」と元就の手を引いた。元就はただ促されるままに朝食を共にして、何故だか名刺を渡され、店の地図を渡され、「今度、来てよ」と言われてしまった。
結局その日はそのまま帰ったのだが、来てよ、と言われては行かざるを得まい、と元就は困っていた。服などには特にこだわりは無いし、綺麗だとは言ったが自分は着れないなとも思った。どちらかといえば、ボーイッシュな女性の着る服だし……と元就は困ったのだが、それでも行かないわけにはいかなかった。
家に帰ると義母の杉が、赤飯を炊いていた。なんだめでたい事でも有ったのか、と元就が聞くと、杉はにっこり笑って赤飯を差し出したので、元就は盛大に顔を顰める事になった。
+++
まさか次の日に、来るとは思っていなかった。
元親はのんびりと店を開けて、まったりとカウンターに腰掛けて写真集などを見ていた。何か新しいデザインのヒントでもないか、とぱらぱらやっていると、ドアが開いた音がした。いらっしゃーいと声を出してから顔を上げると、元就が立っていた。
「変わった、店だな」
元就は店を見渡して言う。全部で10畳ほどの小さな店だ。そこに元親がデザインした服がぎっしりと置かれている。店の窓はガラス張りだが、しっちゃかめっちゃかに色紙やシャツを貼り付けているため、結局外から中は見えない。元親は店にありとあらゆる色を持ち込むので、初めて来た客は目がチカチカするという率直な感想を漏らすものだ。
「来てくれたんだ!」
元親がそう声をかけると、元就は困ったような顔をして、「いや」と小さく言う。
「会社が、近くで」
「この辺に有るのか?」
「休憩時間だから」
「今?」
元就は特に返事をしない。妙に会話がかみ合わなかったが、元親はまぁいいと思った。元就が店に来てくれた事が嬉しかった。
「そ、そうだ。せっかく来てくれたんだ、どれか一着、ただでやるよ!」
「いや、我は、」
「そうだな、あんたは色が白いし、……んー、緑だな、緑が似合うかもしれない。待ってろよ!」
「緑など、」
元就は始終何か言いたげだったが、元親は気にせず服を漁った。わさわさと服をかき分けて、緑の服を見つけては元就を見て、そしてまたしまうを繰り返した。どうせなら、自分で一番納得の出来るものを、元就に着て欲しかった。元就ときたらお洒落心の欠片も無いような格好をしていたし、そのせいで老けて見えるのだ。年下だと聞いて本当に驚いた。だから、せめて歳相応に見える格好をさせてやろうと思った。
しばらく漁っていると、細身のTシャツが出て来た。白のグラデーションで模様を描いたもので、元親はこれがいいと思った。すぐに元就に見せると、彼はますます困ったような顔をする。
「き、綺麗だが、我は、そんな、カジュアルな、それに、本当に緑ではないか」
「大丈夫、あんたには似合うって!」
「いや、だが、」
「ほら、試しに着てみな。……そうだなあ、ジーンズも合わせてやらなきゃな。それにジャケットも……」
「ちょ、長曾我部、」
何か言いたげな元就を試着室に押し込み、さらにジーンズやジャケットを選び、アクセサリーをいくつか拾い上げる。全て試着室に放り込んで、しばらく待つ。元就はごそごそとやっていたが、やがて静かになったので、勝手に開けた。元就は「わ!」と声を上げたが、元親は無視して元就の後ろから鏡を覗き込む。
若かった。
「いいじゃねぇか、似合う似合う。絶対、こっちのがいいって」
「そ、そうか? だが、その、少々派手のような」
「大丈夫、あんたはこれぐらいが一番いいよ。うん。いい、いい」
何度も頷いてやると、元就は少し納得出来たようで、「そうか」と呟いて鏡を見た。まんざらでもなさそうな顔だった。元親も嬉しくなって、「これ、やるよ」と言ってしまった。流石にそれには元就も驚いたらしい。
「そんなわけには」
「いいって、どうせ売れ残りだしな。来てくれたお礼」
「だが、」
「じゃあ、あれだ。……今度、それ着てうちに来てくれよ。あぁ、うちってのはその……マンションな」
勢いに任せて誘ってしまった。元親は流石にそれはどうかと思い直したが、困った顔の元就は、「本当に良いのか」と首を傾げた。それが何に対しての確認なのかは判らなかったが、元親はうんと頷いて、そしてそっと試着室を閉めた。
思えば、一緒に部屋に帰って、抱いたり抱かれたりしなかったのは元就が初めてだったし、店を紹介した翌日に来たのも元就が初めてだった。元親は何故だかたまらなく嬉しい気持ちになって、うきうきとカウンターに戻ると、帳簿をつけた。元就が服を持って試着室から出て来たので、服を紙袋につめてやる。「本当にいいのか」ともう一度聞いたので、「いいんだよ」と頷くと、元就は「そうか」と納得したようだった。
「今度、メールしていい?」
交換した名刺にメールアドレスが書いてあった事を思い出して、元親が尋ねると、元就は「返事は遅くなるかも知れぬが」とそれだけ返した。元親はにっこり笑って、「じゃあ、する」と頷いた。
紙袋を手渡していると、店に常連客の男が数人入って来た。アニキー、と明るく声をかけられ、元親も声を返していると、急に元就は「会社に戻る」と小さく言って、それから頭を下げただけで出て行ってしまった。
気ぃ使わせたかな。元親は思ったが、それ以上の事は考えず、新しくやって来た男達の相手を始めた。
+++
白いタンクトップとか来て床にあぐらかいてテーブルに向かって
色鉛筆ちまちましてる背中とか見えたんですけど
白いタンクトップはないかな、と思いました
元親のほうは先に起きていて、湯を沸かしている。既に部屋着を着込んでいる元親の背中を見ながら、元就は溜息を吐いた。自分は一体、何をしているんだろうか。
元親はモテる存在であるし、きっと自分に声をかけ、一晩を過ごしたのも、何か気まぐれのうちなのだろう。元就はそう考えつつ、のろのろと布団を出る。きちんと畳んでおいた服を着ると、キッチンへ向かった。元親はテーブルにカップやお椀を用意していたが、中には何か固形のものが入っていて、どうやらインスタントを出すつもりのようだ。
元親は元就に気付いて「おはよう」と明るく笑った。その笑顔がなんとも言えず魅力的で、元就はただ、うんと気の無い返事をして俯いてしまった。釣り合わない、と感じた。何もかもが、不釣合いで、不自然で、そして馬鹿らしかった。
「もうちょっと待ってな。お湯が沸くから」
その言葉を待たず、元就は元親の側から離れた。気まぐれで接してしまったのは元就も一緒だった。朝、爽やかな日差しを浴びる部屋で、こんな男が二人して朝食を取るだなどと、正気の沙汰ではない。帰りたい、と元就は思った。居心地が悪いのだ。
それでも食事の用意をしているのに帰るのは良くないだろうから、元就は我慢する事にして、元親の部屋を適当に見ていた。ふわふわのカーペット、妙に広いソファ、柔らかい布団、白い壁、そこに貼られている誰かの写真、壁掛け時計、テーブル、……その上の絵。
「……?」
良く見ると、デザイン画のようだった。なにやら色鉛筆で書きなぐられたそれは、Tシャツか何かの原案らしい。酷く繊細な模様に、細かなグラデーションが散っている。元就はそれが綺麗だと思った。それと同時に、元親らしくないと感じる。あれほど大胆に生きている人間なのに、これでは恋する乙女か何かだ。色鉛筆を握って、ちまちまと色を落としている元親を想像して、元就は妙な顔をしてしまった。似合わない。
「あっ」
ふと気付くと元親が側に来ていた。出来た、と言いに来たのだろうが、元就がデザインを見ている事に気付いて、慌ててそれを隠そうとする。
「何故隠す? 綺麗だぞ」
元就が率直に言えば、元親は困ったような顔をして、デザインと、元就の顔を見比べる。
「本当に?」
「嘘を吐いてどうなる。もっと自信を持て。色合いが良いな。それに、そなたの図体に似合わず繊細で、綺麗だ。我は好きだが?」
「……そっか。……ありがと」
元親はまた笑みを浮かべて、そしてデザイン画をテーブルに戻すと、「飯、出来たぜ」と元就の手を引いた。元就はただ促されるままに朝食を共にして、何故だか名刺を渡され、店の地図を渡され、「今度、来てよ」と言われてしまった。
結局その日はそのまま帰ったのだが、来てよ、と言われては行かざるを得まい、と元就は困っていた。服などには特にこだわりは無いし、綺麗だとは言ったが自分は着れないなとも思った。どちらかといえば、ボーイッシュな女性の着る服だし……と元就は困ったのだが、それでも行かないわけにはいかなかった。
家に帰ると義母の杉が、赤飯を炊いていた。なんだめでたい事でも有ったのか、と元就が聞くと、杉はにっこり笑って赤飯を差し出したので、元就は盛大に顔を顰める事になった。
+++
まさか次の日に、来るとは思っていなかった。
元親はのんびりと店を開けて、まったりとカウンターに腰掛けて写真集などを見ていた。何か新しいデザインのヒントでもないか、とぱらぱらやっていると、ドアが開いた音がした。いらっしゃーいと声を出してから顔を上げると、元就が立っていた。
「変わった、店だな」
元就は店を見渡して言う。全部で10畳ほどの小さな店だ。そこに元親がデザインした服がぎっしりと置かれている。店の窓はガラス張りだが、しっちゃかめっちゃかに色紙やシャツを貼り付けているため、結局外から中は見えない。元親は店にありとあらゆる色を持ち込むので、初めて来た客は目がチカチカするという率直な感想を漏らすものだ。
「来てくれたんだ!」
元親がそう声をかけると、元就は困ったような顔をして、「いや」と小さく言う。
「会社が、近くで」
「この辺に有るのか?」
「休憩時間だから」
「今?」
元就は特に返事をしない。妙に会話がかみ合わなかったが、元親はまぁいいと思った。元就が店に来てくれた事が嬉しかった。
「そ、そうだ。せっかく来てくれたんだ、どれか一着、ただでやるよ!」
「いや、我は、」
「そうだな、あんたは色が白いし、……んー、緑だな、緑が似合うかもしれない。待ってろよ!」
「緑など、」
元就は始終何か言いたげだったが、元親は気にせず服を漁った。わさわさと服をかき分けて、緑の服を見つけては元就を見て、そしてまたしまうを繰り返した。どうせなら、自分で一番納得の出来るものを、元就に着て欲しかった。元就ときたらお洒落心の欠片も無いような格好をしていたし、そのせいで老けて見えるのだ。年下だと聞いて本当に驚いた。だから、せめて歳相応に見える格好をさせてやろうと思った。
しばらく漁っていると、細身のTシャツが出て来た。白のグラデーションで模様を描いたもので、元親はこれがいいと思った。すぐに元就に見せると、彼はますます困ったような顔をする。
「き、綺麗だが、我は、そんな、カジュアルな、それに、本当に緑ではないか」
「大丈夫、あんたには似合うって!」
「いや、だが、」
「ほら、試しに着てみな。……そうだなあ、ジーンズも合わせてやらなきゃな。それにジャケットも……」
「ちょ、長曾我部、」
何か言いたげな元就を試着室に押し込み、さらにジーンズやジャケットを選び、アクセサリーをいくつか拾い上げる。全て試着室に放り込んで、しばらく待つ。元就はごそごそとやっていたが、やがて静かになったので、勝手に開けた。元就は「わ!」と声を上げたが、元親は無視して元就の後ろから鏡を覗き込む。
若かった。
「いいじゃねぇか、似合う似合う。絶対、こっちのがいいって」
「そ、そうか? だが、その、少々派手のような」
「大丈夫、あんたはこれぐらいが一番いいよ。うん。いい、いい」
何度も頷いてやると、元就は少し納得出来たようで、「そうか」と呟いて鏡を見た。まんざらでもなさそうな顔だった。元親も嬉しくなって、「これ、やるよ」と言ってしまった。流石にそれには元就も驚いたらしい。
「そんなわけには」
「いいって、どうせ売れ残りだしな。来てくれたお礼」
「だが、」
「じゃあ、あれだ。……今度、それ着てうちに来てくれよ。あぁ、うちってのはその……マンションな」
勢いに任せて誘ってしまった。元親は流石にそれはどうかと思い直したが、困った顔の元就は、「本当に良いのか」と首を傾げた。それが何に対しての確認なのかは判らなかったが、元親はうんと頷いて、そしてそっと試着室を閉めた。
思えば、一緒に部屋に帰って、抱いたり抱かれたりしなかったのは元就が初めてだったし、店を紹介した翌日に来たのも元就が初めてだった。元親は何故だかたまらなく嬉しい気持ちになって、うきうきとカウンターに戻ると、帳簿をつけた。元就が服を持って試着室から出て来たので、服を紙袋につめてやる。「本当にいいのか」ともう一度聞いたので、「いいんだよ」と頷くと、元就は「そうか」と納得したようだった。
「今度、メールしていい?」
交換した名刺にメールアドレスが書いてあった事を思い出して、元親が尋ねると、元就は「返事は遅くなるかも知れぬが」とそれだけ返した。元親はにっこり笑って、「じゃあ、する」と頷いた。
紙袋を手渡していると、店に常連客の男が数人入って来た。アニキー、と明るく声をかけられ、元親も声を返していると、急に元就は「会社に戻る」と小さく言って、それから頭を下げただけで出て行ってしまった。
気ぃ使わせたかな。元親は思ったが、それ以上の事は考えず、新しくやって来た男達の相手を始めた。
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白いタンクトップとか来て床にあぐらかいてテーブルに向かって
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