違う小ネタ
でも鬼とシチュエーション被っちゃったかなあ
でも鬼とシチュエーション被っちゃったかなあ
今日の俺は最高にツイている。長曾我部元親はそう思いながら、夜空を見上げていた。
根気良く自動販売機を探したおかげで、所持金がなんと384円にもなった。これは大きい。元親は久しぶりに贅沢をする事にした。自分へのご褒美にと、カップラーメンを買った。熱い湯気や、少し硬いくらいの麺は最高に贅沢で、元親は大事に大事に、スープまで残さず食べた。それで今日の食事は終わりだ。後は水で腹を太らせて、とにかく寝る。
さらに運の良い事には、公園内に空いているベンチを発見した。元親は大喜びでそのベンチを住所にした。新聞と段ボールの布団を被り、硬いベンチに横たわる。
夜空には星が無い。都会は明る過ぎて、闇が無いのだ。そう、闇などは無い。ここは光に満ちている。何も怖くない。何も、何も。
そう何度も自分に言い聞かせて、元親は眼を閉じる。辺りがうるさい。車の走る音、どこかで誰かがしゃべる声、カツコツうるさいハイヒール、街灯にぶち当たる虫の羽音……なにもかもが、うるさい。いつもの事だ。寝苦しさに呻く。けれど他の場所は危ない。何度かホームレス狩りにも会った。尤も、返り討ちにしてやったが。
元親はただ眼を閉じ続ける。人間は器用なもので、慣れてしまえばどんな環境でも眠れる。根気良く眼を閉じていれば、そのうちには朝が来る。そんなものだ。
だから元親は眠れなかったが、じっと眼を閉じ、睡魔が意識をさらうのを待っていた。
と。
足音が近づいてくる。カツコツいわないから、男だろう。ホームレス狩りの連中だろうか、と思ったが、彼らは普通、一人では行動しない。トイレでも探してんのか、と考えながらも、元親は眼を開けなかった。足音はどんどん近付いてくる。
ついに目の前まで来たようだ。しかもそこで足音は止まる。すぐそこに人の気配を感じた。それでも元親は眼を開けない。ただ、神経を研ぎ澄ませる。攻撃してくるなら、容赦はしない、と。
気配は攻撃をしてはこなかった。しばらく互いにじっとして過ごす。なんなんだよ、と元親はイラついた。
「隣に、座っても良いか」
ふいに男が声をかけてきた。元親は特に返事をしない。男も答えを待たないまま、ベンチに腰掛けてきた。横になった元親と、隙間に座った男。二人とも動かず、口を開かず、また静かな時間が流れる。元親は、もしや幽霊か何かに絡まれているのではないか、と思った。このベンチに良く出たりして、それでここは空いていたのではないか、と。
恐る恐る眼を開ける。僅かに顔をあげて、男を見る。上等のスーツに身を包んだ、若い男だ。何を考えているのやら、虚空を見ている。生気は有ったが、どこか薄気味悪い。元親は心の中で良く知りもしない念仏を唱えてみたが、男はぴくりともしなかった。
「……流石に夜は少々冷え込むな」
男がふいに口を開く。
「まだ本格的ではないが、もう少しすれば冬が来る。新聞紙や段ボールではこたえるだろうな。凍えてしまう」
「……」
「……不思議なものだ。人は誰しも人助けをしたいと願うのに、実際どんなに身近に困っている人間が居ても避けるばかりだ。例えば街中で急に外国人に声をかけられたりしても、さて彼を助けてやれるだろうか、一瞬でも「逃げたい」とは思わないだろうか?」
「……何が言いてぇ?」
思わず問えば、男は僅かに眼を細める。
「我は特に理由も無いが、お前を助けようかと思っている」
「……」
「だが我にも目的は有る。ボランティアで人助けをする程、我も気楽ではない。……お前、我を抱かぬか」
我の夜の相手をするなら、お前を我の部屋に入れてやる。むろん嫌なら逃げればいい。金を払うわけではないから、売春や買春には直接当たらぬ。衣食住を提供してやるだけだからな。しかし、すぐには決められぬだろうから、来週ここで結論を聞かせてくれ。
元親は頭のおかしい人間に絡まれたのだと思っていた。
見ず知らずのホームレスに声をかけて、助けてやると、あまつさえ自分を抱けという男。変態以外の何者でもない。頭がおかしいのだ。あんな奴に構う事は無い、と。
だのに何故だか、その後もずっと、その男の事を考えていた。例えば公園の水道で体を洗う時、ゴミ箱の中から弁当を探している時、自販機の釣銭を探し、ようやっと溜まった85円でパンを一つ買った時。
惨めで涙が出そうになる、そんな時に、男の顔や言葉が悪魔のように浮かんでは消えた。
元親はホームレスとしては新参者で、小奇麗な部類に入る。経済成長期からバブルを経て、過労死やリストラが問題視される中、フリーターという甘美な響きに未来を感じて、彼は日本において大層大切な「新卒」という肩書を安売りしてしまった。現実など一つも見えていなかったのだ。自分は社会人なのだと、必要とされてるのだと、仕事などいくらでも有ると楽観視していた。
そして不景気が日本を覆う頃、不幸な事故で左眼を失ってしまった元親は、入院中に職も失くした。それでも諦めず仕事を探したが、とにかく、不思議なぐらいに見つからない。白い地毛を染める金も無くなって、ついにアパートを追い出された。
見通しが甘かったのだ、という事ぐらいは、元親にも判っていた。自分は間違えたのだと。国語で習った通り、世界は泡や幻のようなもので、常に変わり続けている。だのに「今」がずっと続くような気でいたのだ。良い時代が有って、運のいい人間はそれでも上手く生きられるかもしれない。しかし、長い歴史を振り返ってみれば、世の中が安定し、どんなでたらめをしていても生きていけた時代など、ほんの数年しかなかった事は明白だ。だのに自分はその運の中に入れるのだと、疑いもせず、備えもしなかった。
しかし今更やり直せるほど人生は甘くない。金も無い。家も無い身で何が出来るだろうか。面接に行く服も無い。電話もかけられない。履歴書も手に入らない。
雨風を凌ぐ住居も、温かい食事も、冷たい氷水も、良く眠れる柔らかな布団も、安心して入れる風呂も、自分を迎えてくれる場所も、地位も、肩書も、住所も、明日も、何も無い。
何も無いのだ。
ならば、失う物も、何も無い。
元親は悩みに悩んで、決断した。
「それがお前の懺悔か? 別にお前のこれまでにも、ましてやこれからにも、我は興味など無い。大切なのはそれで、我の家で、我を抱くのかという事だけだ」
あの日から一週間。同じベンチに二人は腰掛けていた。元親のこれまでの経歴をつまらなそうに聞いた後、男は口を開いた。
「我の家に住み、我を抱けばそれで良い。家事労働は他の者に任せておる。衣食住を保障しよう。それでどうする。ここに来たという事は、呑むという事か」
男の問いに、元親はのろのろと答える。
「その……俺は、女とは経験は有るんだが、男とは……だから今日明日、あんたをその……最後まで抱くってのは、流石に無理だと思うんだ。やり方も知らねぇし……いやもちろん、あんたが教えてくれるってんなら、話は別だけどよ」
「……」
「だから、いきなり本番ってわけにはいかないけど、その、触ったり、するぐらいなら、出来ると思うんだ、たぶん……たぶんな。それでも良いってんなら、……俺はあんたの所に行くよ。幸いあんた、男としては華奢な方だし、顔もまぁそれなりだ」
「では」
「いやでも」
「……まだ何か?」
男は少し不愉快そうな顔をした。元親は慌てて問う。
「本当にいいのか? 俺で。こんな馬鹿で浅はかで汚い俺で。もしかしたら、あんたを殺して物を盗むかもしれねぇんだぜ」
「お前こそ、我がこうして身寄りのない男を捕まえては殺す、猟奇殺人犯だったらどうするのだ。それにな、言っておくが、別にお前を特別扱いしているわけではない。お前が断るなら、他の人間を捕まえるだけだ。変わりはいくらでも居る。それと我はお前達を多少、信頼している」
「信頼? 何を?」
「しようと思えば出来るのに、他人を陥れてまで生きようとしない点だ。お前達に残されている矜持、……いや違うな、モラルというべきか? いずれにせ、我を騙し、陥れ、奪うような下衆ではないと信じておる。尤も、我の提案を呑む時点でモラルも何も無いと言われれば、それまでの話ではあるがな」
さぁ着いて来い。我が名は毛利元就。今日からお前の同居人だ。
元就と名乗った男はそう言うと、さっさと歩き始めた。元親は少し迷って、それから足早に彼の後を追った。
+++
今日も明日も確かじゃないから堅実な生き方なんてそもそも無い
根気良く自動販売機を探したおかげで、所持金がなんと384円にもなった。これは大きい。元親は久しぶりに贅沢をする事にした。自分へのご褒美にと、カップラーメンを買った。熱い湯気や、少し硬いくらいの麺は最高に贅沢で、元親は大事に大事に、スープまで残さず食べた。それで今日の食事は終わりだ。後は水で腹を太らせて、とにかく寝る。
さらに運の良い事には、公園内に空いているベンチを発見した。元親は大喜びでそのベンチを住所にした。新聞と段ボールの布団を被り、硬いベンチに横たわる。
夜空には星が無い。都会は明る過ぎて、闇が無いのだ。そう、闇などは無い。ここは光に満ちている。何も怖くない。何も、何も。
そう何度も自分に言い聞かせて、元親は眼を閉じる。辺りがうるさい。車の走る音、どこかで誰かがしゃべる声、カツコツうるさいハイヒール、街灯にぶち当たる虫の羽音……なにもかもが、うるさい。いつもの事だ。寝苦しさに呻く。けれど他の場所は危ない。何度かホームレス狩りにも会った。尤も、返り討ちにしてやったが。
元親はただ眼を閉じ続ける。人間は器用なもので、慣れてしまえばどんな環境でも眠れる。根気良く眼を閉じていれば、そのうちには朝が来る。そんなものだ。
だから元親は眠れなかったが、じっと眼を閉じ、睡魔が意識をさらうのを待っていた。
と。
足音が近づいてくる。カツコツいわないから、男だろう。ホームレス狩りの連中だろうか、と思ったが、彼らは普通、一人では行動しない。トイレでも探してんのか、と考えながらも、元親は眼を開けなかった。足音はどんどん近付いてくる。
ついに目の前まで来たようだ。しかもそこで足音は止まる。すぐそこに人の気配を感じた。それでも元親は眼を開けない。ただ、神経を研ぎ澄ませる。攻撃してくるなら、容赦はしない、と。
気配は攻撃をしてはこなかった。しばらく互いにじっとして過ごす。なんなんだよ、と元親はイラついた。
「隣に、座っても良いか」
ふいに男が声をかけてきた。元親は特に返事をしない。男も答えを待たないまま、ベンチに腰掛けてきた。横になった元親と、隙間に座った男。二人とも動かず、口を開かず、また静かな時間が流れる。元親は、もしや幽霊か何かに絡まれているのではないか、と思った。このベンチに良く出たりして、それでここは空いていたのではないか、と。
恐る恐る眼を開ける。僅かに顔をあげて、男を見る。上等のスーツに身を包んだ、若い男だ。何を考えているのやら、虚空を見ている。生気は有ったが、どこか薄気味悪い。元親は心の中で良く知りもしない念仏を唱えてみたが、男はぴくりともしなかった。
「……流石に夜は少々冷え込むな」
男がふいに口を開く。
「まだ本格的ではないが、もう少しすれば冬が来る。新聞紙や段ボールではこたえるだろうな。凍えてしまう」
「……」
「……不思議なものだ。人は誰しも人助けをしたいと願うのに、実際どんなに身近に困っている人間が居ても避けるばかりだ。例えば街中で急に外国人に声をかけられたりしても、さて彼を助けてやれるだろうか、一瞬でも「逃げたい」とは思わないだろうか?」
「……何が言いてぇ?」
思わず問えば、男は僅かに眼を細める。
「我は特に理由も無いが、お前を助けようかと思っている」
「……」
「だが我にも目的は有る。ボランティアで人助けをする程、我も気楽ではない。……お前、我を抱かぬか」
我の夜の相手をするなら、お前を我の部屋に入れてやる。むろん嫌なら逃げればいい。金を払うわけではないから、売春や買春には直接当たらぬ。衣食住を提供してやるだけだからな。しかし、すぐには決められぬだろうから、来週ここで結論を聞かせてくれ。
元親は頭のおかしい人間に絡まれたのだと思っていた。
見ず知らずのホームレスに声をかけて、助けてやると、あまつさえ自分を抱けという男。変態以外の何者でもない。頭がおかしいのだ。あんな奴に構う事は無い、と。
だのに何故だか、その後もずっと、その男の事を考えていた。例えば公園の水道で体を洗う時、ゴミ箱の中から弁当を探している時、自販機の釣銭を探し、ようやっと溜まった85円でパンを一つ買った時。
惨めで涙が出そうになる、そんな時に、男の顔や言葉が悪魔のように浮かんでは消えた。
元親はホームレスとしては新参者で、小奇麗な部類に入る。経済成長期からバブルを経て、過労死やリストラが問題視される中、フリーターという甘美な響きに未来を感じて、彼は日本において大層大切な「新卒」という肩書を安売りしてしまった。現実など一つも見えていなかったのだ。自分は社会人なのだと、必要とされてるのだと、仕事などいくらでも有ると楽観視していた。
そして不景気が日本を覆う頃、不幸な事故で左眼を失ってしまった元親は、入院中に職も失くした。それでも諦めず仕事を探したが、とにかく、不思議なぐらいに見つからない。白い地毛を染める金も無くなって、ついにアパートを追い出された。
見通しが甘かったのだ、という事ぐらいは、元親にも判っていた。自分は間違えたのだと。国語で習った通り、世界は泡や幻のようなもので、常に変わり続けている。だのに「今」がずっと続くような気でいたのだ。良い時代が有って、運のいい人間はそれでも上手く生きられるかもしれない。しかし、長い歴史を振り返ってみれば、世の中が安定し、どんなでたらめをしていても生きていけた時代など、ほんの数年しかなかった事は明白だ。だのに自分はその運の中に入れるのだと、疑いもせず、備えもしなかった。
しかし今更やり直せるほど人生は甘くない。金も無い。家も無い身で何が出来るだろうか。面接に行く服も無い。電話もかけられない。履歴書も手に入らない。
雨風を凌ぐ住居も、温かい食事も、冷たい氷水も、良く眠れる柔らかな布団も、安心して入れる風呂も、自分を迎えてくれる場所も、地位も、肩書も、住所も、明日も、何も無い。
何も無いのだ。
ならば、失う物も、何も無い。
元親は悩みに悩んで、決断した。
「それがお前の懺悔か? 別にお前のこれまでにも、ましてやこれからにも、我は興味など無い。大切なのはそれで、我の家で、我を抱くのかという事だけだ」
あの日から一週間。同じベンチに二人は腰掛けていた。元親のこれまでの経歴をつまらなそうに聞いた後、男は口を開いた。
「我の家に住み、我を抱けばそれで良い。家事労働は他の者に任せておる。衣食住を保障しよう。それでどうする。ここに来たという事は、呑むという事か」
男の問いに、元親はのろのろと答える。
「その……俺は、女とは経験は有るんだが、男とは……だから今日明日、あんたをその……最後まで抱くってのは、流石に無理だと思うんだ。やり方も知らねぇし……いやもちろん、あんたが教えてくれるってんなら、話は別だけどよ」
「……」
「だから、いきなり本番ってわけにはいかないけど、その、触ったり、するぐらいなら、出来ると思うんだ、たぶん……たぶんな。それでも良いってんなら、……俺はあんたの所に行くよ。幸いあんた、男としては華奢な方だし、顔もまぁそれなりだ」
「では」
「いやでも」
「……まだ何か?」
男は少し不愉快そうな顔をした。元親は慌てて問う。
「本当にいいのか? 俺で。こんな馬鹿で浅はかで汚い俺で。もしかしたら、あんたを殺して物を盗むかもしれねぇんだぜ」
「お前こそ、我がこうして身寄りのない男を捕まえては殺す、猟奇殺人犯だったらどうするのだ。それにな、言っておくが、別にお前を特別扱いしているわけではない。お前が断るなら、他の人間を捕まえるだけだ。変わりはいくらでも居る。それと我はお前達を多少、信頼している」
「信頼? 何を?」
「しようと思えば出来るのに、他人を陥れてまで生きようとしない点だ。お前達に残されている矜持、……いや違うな、モラルというべきか? いずれにせ、我を騙し、陥れ、奪うような下衆ではないと信じておる。尤も、我の提案を呑む時点でモラルも何も無いと言われれば、それまでの話ではあるがな」
さぁ着いて来い。我が名は毛利元就。今日からお前の同居人だ。
元就と名乗った男はそう言うと、さっさと歩き始めた。元親は少し迷って、それから足早に彼の後を追った。
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