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めでぃのくの日記
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2008-08-26 (Tue)
 降って来たのでとりあえず書いとく

 その日も俺は普通に、例の店に向かってたわけだ。例の店ってのは、つまり、あれだ、男が男を捜すバーって奴だ。今日の相手を探してあわよくば恋人になれればいーね、ってわけ。

 俺はちょっと前まで付き合ってた男の子と別れちまって独り身だったし(いやあ確かに童顔だったけどまさか未成年だとはさ。やべえじゃんこのご時勢、必死で別れるしか無いって)、2、3日は仕事も無くて暇だったから、誰か探してバーに向かってたわけだ。

 近道だから裏道の狭いトコを通ってさ、そーいう店の並ぶ路地に出たわけ。そしたらそこに小さな男が立っててさ。俺は気付かずにぶつかっちまったんだ。それがまた運が悪くて、そのままそいつがすっ転んで尻餅着いちまったの。

 俺はすぐに「悪い、大丈夫か」って手を伸ばしたんだけど、そいつは俺を睨みつけると手を無視して自分で起き上がってさ。上着の汚れでも気にしてんのか自分の体を見て、そんで俺を下から上まで眺めて言うわけ。

「大きな図体でこのような狭い道を通るとは。馬鹿か貴様は」

 そんなのお前の知った事じゃねえだろうがよ。俺は言ってやりたかったが、ぶつかっちまった手前、どうしたって悪いのは俺のわけで。俺は素直に引き下がって「悪かったよ。じゃあな」とそれだけ言ってその場を離れたわけだ。

 いつもの店に入ってさ、バーテンのあんちゃんと話してさ。いい子は居ないかなーと思って店を見たら、なんとさっきのあのいけすかねえ男が居るでやんの。やだねえ、陰湿なホモ、とか俺は自分の事を棚に上げて顔をしかめて、そんであんちゃんにカクテルを頼んだ。しばらくはカウンターに居ようと思ったわけだな。陰湿ホモに俺が居るのがバレても嫌だし。

 そんでしばらくあんちゃんと世間話をして粘った。このあんちゃんがいかつい顔でよ、29って言うんだけど35ぐらいに見えるんだ。店長だって言ってるワカゾーにはこじゅうろーって呼ばれてるけど、マジであいつ店長なのかな。まぁ店長だって言い張ってるのはまさむねさま、っていうらしいんだけど、バカで話が合うので気に入ってはいる。ここに良く来るのも、こじゅうろうさんの話や、まさむねさまの話が楽しいからでもある。

 しばらくしたんだけど、好みのタイプの奴は居ないし、誰も話しかけてこないし、げんなりして振り返ったらあいつまだ居るし。でもカクテルを飲んで酔いが程よく回ってきてた俺は、ハメを外すには絶好のコンディションだった。

 俺はあいつに近寄って、隣に座った。奴はちょっと顔を顰めて俺をみたけど、何も言わなかった。

「おめー、カルーアミルクとか飲んでんの。舌がお子様だな」

 奴のグラスを見て言ってやると、あからさまに嫌そうな顔をして俺を見た。「そなたには関係無い」だってよ。そうだな、まぁどうでもいいことだ、味覚の事なんか。

「なぁアンタ、今夜のお相手が見つからないなら、試しに俺にしてみねぇか?」

 別に本気じゃなかった。からかってやろうと思っただけなんだ。あいつだって最初は俺の事、馬鹿じゃねえのって言いたそうな顔で見てたし。

「たまにはそりがあわねぇと思ってるようなタイプと付き合うのも悪くないかもよ」

 このままからかって、アイツが怒って「どっかいけ!」って言ったら、俺だって笑ってカウンターに戻る気だったんだ。

 だのにあいつが、よりによって、「我で、良いのか」とか言い出したもんだから。もう引き下がれなくなっちまった。

 勘定済まして、俺達は一緒にホテル街に行く事になっちまった。俺は本当に困ってたんだ。だってこいつ、眼鏡だし、妙に上等のスーツだし、インテリって奴に違いねぇんだ。おまけに一重でさ、人の事いつも睨みつけてるか、あるいはとてつもなく眠そうな顔してるようにしか見えねぇ。まぁ顔の作り自体はいいんだけどよ。

 小さくって、痩せてて、抱き心地は良さそうにないし、俺はどうしたらいいかなあと真剣に考えてた。

「なぁ、俺が上でいいか?」

 と一応聞いてみたら、あいつちょっとだけ考えて、「よいぞ」っていうから、まぁいいんだろうとは思うけど。インテリホモのセックスなんて陰気臭そうで想像もしたくなかった。

 とりあえず行きつけのなんでも揃うホテルに入る。なんでも揃うってのはつまり、その、なんでもそろうわけだ。引き出しに色々入ってる。

 奴は始終キョロキョロしてたけど、まぁ初めての男と入るホテルなんざ色々と恐いもんだしな、と思いながら、「先にシャワー浴びたら」と促す。奴は一瞬怖い顔をしたけど、「うむ」って頷いてシャワーに入ってった。俺は暇なので、がさごそと戸棚を開けて入ってるものを確かめる。うん、相変わらずいい品揃えだ。おかげで高いんだけど。

 しばらくすると奴が出てきた。男にしちゃあやけに長いシャワーだったが、まぁ気にするほどじゃない。特に受け入れるほうが念入りになるのは当然だし。ただバスローブに着替えた奴がスーツ持ってぼーっとしてるから、掛けるとこあるぜ、とハンガーを指差してやるとノロノロとそっちに歩いていった。その間に俺もシャワーを浴びる。

 バスローブに着替えて部屋に出ると、あいつは何故かベッドの上に正座して待ってた。思わず噴き出して、「お前、面白いな」と言ってやると、ちょっとだけ不快そうな顔をして、「我は、毛利元就」と名乗った。だから俺も「俺は長曾我部元親」と返す。

「長曾我部? 変わった苗字だな。漢字の見当もつかぬ」

「長く付き合う事になったら教えてやるよ」

 俺はそう笑って元就を抱き寄せながらベッドに上がった。元就はなにやら身構えていたが、俺は優しくキスなどをして緊張をほぐしてやる。少し世間話をしたぐらいのほうがお互いに楽しいしな。急いたら受け入れる側の準備が間に合わない。だから俺は元就と一緒に横になって、奴の体を撫でてやりながら、世間話をする。その時は元就のほうが積極的だった。何処の生まれか、どんな暮らしをしているのか、とか。

 俺は別に不都合は無いから、素直に答えた。四国の生まれで、今は機械の設計とかをしてるってな。どんな機械だというから、俺はかなり考えて製造機械だと答えた。色んなモンを作ってるから一つに絞って、まして素人に説明するのは難しい。

 お前は、と聞き返す暇がないほど、元就は俺の事を聞きたがって、いい加減嫌になったので、事を進める事にした。抱きしめて、電気を消して、バスローブをはだけて、中をさぐる。案の定、細くて骨ばった体だ。だけど筋肉も意外なほどあって、ガリガリというわけじゃなかった。これはマトモにスポーツとかはやってるな、と思う。インテリのスポーツマンのホモ。ますます気持ち悪い。

 まぁようは大事なのは今夜の相性なのだ。体の相性が良ければ後の事は大抵なんとかなると個人的に思っているので、俺は事を進めた。ところが元就ときたら、何故だか必死に声を殺している。扱いてやってもビクつくばっかりで喘ぎ声の一つも漏らしやがらない。俺はなんとなく意地悪な気持ちになって、バスローブの紐で元就の手を縛ってやった。奴は驚いて抵抗したが、時既に遅しだ。ガタイの違いは大きいしな。

 そんで、あいつの口に指を押し込んでやって、嫌でも声が出るようにしてやった。一度声を出してしまえば後は簡単だった。元就はさっきまでの頑なな態度がうそみたいにかわいく鳴いた。気持ち悪いと思っていた自分の先入観が吹っ飛ぶような可愛さだった。恥ずかしがってるのが全身で感じられてたまらない。すごく意地悪な気持ちになる。

 尻に指を持っていくと、元就はすげぇびっくりした顔をして、「何をする気だ!?」って。何って、ナニだけど。俺は元就が何を驚いているのか判らなくて、首をかしげた。もっと説明が必要なのかな、と思って、「つまりお前の尻でセックスを、」と言うと、元就は「じょ、冗談じゃない!」と暴れ始めた。

 この野郎、そういうプレイも嫌いじゃないが、俺はあんまり手がかかるのは嫌いだぞ。幸い元就の手首はきつく縛ってあるし、その体を抱え込むのは簡単だった。口にも紐を押し込んでやって黙らせる。元就は俺を睨みつけていたが、俺はもうわかっていた。こいつは恥ずかしい事をされればされるほど感じるタイプだ。こいつの気持ちはさておき、な。

 可愛い奴め、と思いながら、俺は元就を丁寧に抱いてやったよ。よーく時間を掛けてほぐしたし、挿入したってずっとなじむまで待ってやった。あいつは泣きそうな顔をしてたけど、でもすごく感じてるのは良く判った。体温が上がって、震えてるのが良く判る。目は潤んでるし、それに口の紐を取ってやったら、しばらく我慢はしたけどやがて耐え切れなくなってまた可愛い泣き声を出してくれる。

 俺は思いがけず夢中になった。こんなに意地悪な気持ちと相手を可愛いと思う気持ちが大きいのは初めてだった。しかも元就はまるでおぼこみたいに泣いていい反応をして、最終的には解けた手で俺に縋り付いてきた。こんなに可愛い相手は始めてだ、と俺は本当に感動していた。こいつと付き合おう、と即座に決めた。少なくともしばらくは楽しめる……と。

 俺も元就もやばくなってきて、俺達は一緒に抱き合って、それで絶頂に上り詰めた。元就は悲鳴みたいな、そりゃあもうかわいそうになる声を一瞬上げて、それきり静かになってしまった。見るとくったりしていて、荒い呼吸をしているために動く胸以外はピクリとも動かなくて、死んでいるみたいだった。俺は元就が愛しくなって、そんな奴をもう一度抱きしめてやろうとした。

 その時だ。いきなりドアを開けて警官隊が突入してきた。俺はもうわけが判らない。でも元就を守ってやらなけりゃと思って、元就を抱いてバスルームに逃げ込んだが、すぐに追いつかれてぼかぼか殴られた。「元就様、元就様を取り戻せー!」とか「よくも元就様を!」とかめっちゃ叫ばれた。

 何がなんなんだよ、と思ってる間に俺は後ろ手に手錠をかけられて引きずられていった。暴れるとなんかわけわからねえ一撃を食らって俺は落ちてしまったようだった。最後に「まて、」と元就が言った気がしたけど、もう何にもわからなかった。頭の中で暴力警官ども殺してやると思ったのだけは、鮮明に覚えてるけど。



 後から聞いた話によれば、元就は警官で、その日、殺人事件の犯人を探してあの街に潜入捜査してたんだそうだ。

 デカい図体なのに裏道をコソコソ進んできた俺を、元就は怪しいと思った。本部に連絡して、追跡を始めた。で、バーで俺に口説かれた。元就はチャンスだと思った。一緒に着いて行けば、現行犯逮捕できるかもしれないってな。

 で、盗聴器とか発信機とかをオンにして、俺と一緒にホテルに行ったってわけ。つまり、俺と元就の情事、ぜーんぶ署につつぬけ。オイオイ、そりゃどんなプレイだよ。羞恥プレイにもほどがあるぜ。だから元就はあんなに感じてたのか。お前もどんだけ変態なんだよ。かわいいなあもう。

 で、音声でなにやら元就が縛られた事、抵抗している事、口をふさがれた事、その上最終的には悲鳴みたいな声を上げ始めて、なにやら騒がしくなって、あぁもう、つまりそれで元就の危機だと勘違いした警察連中が、山ほど突入してきたってわけだ。それで人殺しだってんならお前全国の家庭で事件は起きてるってもんだ。

 元就はイッたばっかりで放心してるし、突入してきた警官を止めることも出来ず、ってことらしい。まぁあの後、そのまま死ぬんじゃねえかと思うぐらい顔を赤くしてたし、止めるどころじゃなかったのかもしれねぇけど。



 とりあえず元就は俺に詫びてくれて、疑ってすまぬとかなんとか言ってくれたけど、他の連中はなんか「よくも元就様を」みたいな視線で睨みつけてくる。どうやら警官仲間にとってはアイドルだったらしい。事の経緯から考えて、どうやら俺は元就の処女も奪ったようだから、まぁ恨んで当然かもしれねぇけど、気分は良くないわな。

 だからこそ俺はあいつに言ってやったわけだ。「じゃあ、お詫びにこれからも俺と付き合ってくれる?」ってな。あいつも困ったような顔はしたけど、嫌だとは言わなかった。

 それが元就との長ーい付き合いになるとは思わなかったし、まさかそれで事件に巻き込まれるだなんてこれっぽっちも思わなかった。ただ俺は元就が気に入っていて、強いて言うなら処女を奪っちまった手前、責任を取ってやろうとしただけなんだ。

 それがどうしてこんなに好きになっちまったのか、人生は判らないもんだ。ともかく、これからの話はまた長くなるから、今度って事だけど。

 つまり俺達は出会いからしてドタバタだったって事だ。しかもアホみたいな理由のな。



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 やまなし おちなし いみなし

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