また同人誌を注文してしまった……わくわく
采配はあれ、まだ確保出来てないとか、おーい
このざますぎるぞ
以下、ちょっと前の記憶喪失のヤツの続き。
采配はあれ、まだ確保出来てないとか、おーい
このざますぎるぞ
以下、ちょっと前の記憶喪失のヤツの続き。
元就は真っ先に、元親が性質の悪い嫌がらせをしているのだと考えた。自分が誰とも判らなくなっているようなふりをして、困らせようとしているのだと。お世辞にも頭の良い男ではないから、すぐにぼろを出すだろうと踏んでいた。
だが哀れな男の様子は何日が経過してもいっこうに変わらない。ここは何処で、俺は誰で、あんたらは誰で、何で俺は閉じ込められているのか、としきりに問う。障子越しの声は哀れだったし、時折様子を覗かせている従者も、いつも心許無さそうに落ち着かぬ様子だと報告してくる。
元就はようやく、元親は本当に全てを忘れたのかもしれないと考えた。知り合いの医者に聞くと、どうやら稀にではあるが、そのような事は起こるらしい。
「ただ私どもも実物は見た事が有りませぬ故、原因も治し方もさっぱり判りませぬ。もう少したくさんの事柄を見ている、例えば京のほうの方なら判るかもしれませんが」
老いた医師はそう無責任に言って、元親に対する治療を投げた。他の者にも尋ねたが、良い返事が返って来ない。治らなかった時の罰でも恐れているのかと思ったが、どうやら違うらしい。本当にこのような事象は稀で、どうしていいか判らないらしい。
判らないのはお互い様だ、と元就は不愉快に思った。
つい先日まで、敵国の主だった男が、今は隣の部屋で童のように不安げな同一の質問を繰り返している。元就のほうが憂鬱な気持ちになって来る。そして、何故そんな気持ちになるのか判らないものだから、元就はなおさら腹が立った。
元親には出来れば会いたくなかったが、ある夜、隣からすすり泣くような声が聞こえたものだから、耐えきれなくなり、翌日面会した。
面会と言っても戸を開ければすぐに会えるわけで。何日かぶりに見た元親は、少しやつれていて、相変わらず不安そうで、しかも元就を見ると逃げるようにして部屋の隅に行くと、何故か平伏した。
「……何をしておる」
問えば、「あんたはもとなりさまって言って、ここで一番偉い人なんだろう」と返事。何も判らないなりに色々と覚えようとはしたらしい。元就は呆れて、ため息を吐いた。こんな長曾我部元親は見たくない、と漠然と思った。
「そなたは我の部下ではない。故に、我に対し敬意を表す必要は無い」
「でも、あんたは俺の面倒を見てくれてるし、」
「義務のようなものだ。気にするな。顔を上げろ。近くに来い。落ち着いて座れ。今日はそなたの問いに答えに来たのだから」
そう言ってやると、元親は顔を輝かせて近寄ってきた。御伽話でも聞く子供のように、元就を期待の眼差しで見ている。元就は僅かに視線をずらして、目を合わせなかった。
「まずはそなたの名だが、元親という」
「もとちか。この間の、ちょうそかべ、ってのはなんだったんだ?」
「……そなたの上の名だ」
元就は少し考えてから答えた。元親もまた、その言葉の意味をしばらく考えて、
「俺は偉い人間だったのか」
と素っ頓狂な事を言うので、元就はため息を吐いた。
「まぁ、そういう事だと理解しておけばいい」
「じゃあ、俺は誰なんだ。俺はあんたの部下じゃない。部下じゃないけど偉い奴だ。……あんたの敵か?」
「それについては答えられぬ」
「なんで」
元親はいつにもまして童のように素直だった。否定の言葉を口にした途端、彼はあからさまに不満そうな顔をした。元就は呆れながらも、静かに答える。
「一つには、そなたに今、我が事実を伝える事は互いにとって好ましくないからだ」
「……どうしてだよ」
「そなたは、そなたが思っているよりも重要な人物だ。かつ、我の支配下に無い。そのそなたに我が、我の解釈した事実を伝えても、それは事実ではない。まして、我が事実無根の嘘を教えたとしても、そなたには判断出来ぬ。出来ぬ以上、そなたは我の言う事を鵜呑みにする。要は洗脳するような形になる。それは我の倫理に反する故、我はそなたに対する我の知っている情報を与えようとは思わぬ」
「……つまり、俺はあんたとは、いい仲じゃなかったって事だな、たぶん」
元親はまたしばらく考えてから、そう言う。元就は少しだけ感心した。案外、話は通じる。
「少なくとも我はそなたの人となりを知っているほど、そなたに近しい存在ではなかったし、お互いの立場の話をするのも今は難しい。そなたは教えて欲しいだろうが、それは叶わぬ事と今は諦めてはくれまいか」
自然と頼む口調になったのは、それほど参っているからでもあった。もう、問う事は止めて欲しい、でなければ、と思う。けれど、でなければなんなのか、元就には自分の事なのに判らなかった。
「そっか……じゃあ仕方ないなぁ……」
元親は酷く残念そうな声を出して、俯いた。その肩を落とした姿が、酷く哀れで、元就は思わず言葉を続ける。
「我のほうもそなたが一刻も早く、平常に戻れるよう努力はするつもりだ。京の辺りに知人が居る。奴に文を送ってみよう。あの辺りなら、そなたの治し方を知っている者も、あるいは居るかも知れぬ」
知人の名が明智光秀だと言う事は元就自体思い出したくもなかったので、詳しくは話さなかった。
「それと、そなたは生まれも育ちも、まして今もここの人間ではない。別の場所の人間だが、先ほども申した通り、そなたは安易に他から情報を与えられて鵜呑みにしてよいような立場ではない。我がそなたに悪意を持って接する可能性も、まして過去、そなたに関わりが有った人間が、そなたに嘘を教え込む可能性も無いとは言えぬ。したがって我はそなたを元の家に帰す事が出来ぬが、それも容赦してくれ」
「……」
「……何か、言いたい事は有るか」
欲しい物などが有るなら、可能な限り与えるが……と続けると、元親はしばらく考えて、それから、
「あんたの事が知りたい」
と答えた。
「……我とそなたの事は話せぬと、」
「あんたの口ぶりからして、あんたも俺も重要な人物だ。恐らくは、結構な立場の人間なんだろう。でもよ、そりゃあ立場においての人間の話だ。あんたや俺個人の話なら、問題はないだろう?」
「それは、そうだが……」
「あんたは俺と親しくない、だから俺個人の事は良く知らない、教えられない。でも、あんた個人の事は、あんたが一番良く知っているし、お互いの立場の話には直接関与はしねぇだろ? なぁ、あんたを教えてくれよ」
「……だが、」
「不安なんだ、恐いんだ、何もかも判らない、ただ漠然と色んな事は判る、例えばあんたは偉い、俺も偉いらしい、だから何故だか兵が俺を見張ってるし、時々部屋も覗きこんで来る、女中は優しいけど何も話してくれない、笑顔だけ貼り付けて何考えてるのか、あんたは何を考えてるのか、俺はどうなるのか、この先元に戻るのか、何もかも不安定で判らない」
元親は小さく首を横に振る。
「あんたはきっと優しい」
「……我が?」
元就は思わず眉を寄せたが、元親は「うん」と頷いて続ける。
「俺に嘘を教えようとしない。でもそれは優しいからこそ出来る残酷な事だ。俺は今、嘘でもいいから確かな物が欲しい、だけどあんたはそれをくれない、だから、」
だから、あんたを、せめてあんたの事を知りたい。
切に請われて、泣きそうな眼差しを向けられて、まして彼の大きな両の手で己の手を握られては、振り払いようも無かった。彼の手は白くて、ごつごつとしていて、何故だか酷く懐かしく感じた。あぁ、戦をする手だ、と元就は他人事のように感じた。
なぁ、ともう一度繰り返されて、元就はそれで諦めた。そして、小さくため息を吐くと、静かに、
「……すまぬが、我は、そなたに語るべきほどの、我を、持っていないのだ」
と、答えた。何故だか酷く、悲しい、虚しい気持ちになった。
+++
しょげたアニキってすごくかわいいですよね。
だが哀れな男の様子は何日が経過してもいっこうに変わらない。ここは何処で、俺は誰で、あんたらは誰で、何で俺は閉じ込められているのか、としきりに問う。障子越しの声は哀れだったし、時折様子を覗かせている従者も、いつも心許無さそうに落ち着かぬ様子だと報告してくる。
元就はようやく、元親は本当に全てを忘れたのかもしれないと考えた。知り合いの医者に聞くと、どうやら稀にではあるが、そのような事は起こるらしい。
「ただ私どもも実物は見た事が有りませぬ故、原因も治し方もさっぱり判りませぬ。もう少したくさんの事柄を見ている、例えば京のほうの方なら判るかもしれませんが」
老いた医師はそう無責任に言って、元親に対する治療を投げた。他の者にも尋ねたが、良い返事が返って来ない。治らなかった時の罰でも恐れているのかと思ったが、どうやら違うらしい。本当にこのような事象は稀で、どうしていいか判らないらしい。
判らないのはお互い様だ、と元就は不愉快に思った。
つい先日まで、敵国の主だった男が、今は隣の部屋で童のように不安げな同一の質問を繰り返している。元就のほうが憂鬱な気持ちになって来る。そして、何故そんな気持ちになるのか判らないものだから、元就はなおさら腹が立った。
元親には出来れば会いたくなかったが、ある夜、隣からすすり泣くような声が聞こえたものだから、耐えきれなくなり、翌日面会した。
面会と言っても戸を開ければすぐに会えるわけで。何日かぶりに見た元親は、少しやつれていて、相変わらず不安そうで、しかも元就を見ると逃げるようにして部屋の隅に行くと、何故か平伏した。
「……何をしておる」
問えば、「あんたはもとなりさまって言って、ここで一番偉い人なんだろう」と返事。何も判らないなりに色々と覚えようとはしたらしい。元就は呆れて、ため息を吐いた。こんな長曾我部元親は見たくない、と漠然と思った。
「そなたは我の部下ではない。故に、我に対し敬意を表す必要は無い」
「でも、あんたは俺の面倒を見てくれてるし、」
「義務のようなものだ。気にするな。顔を上げろ。近くに来い。落ち着いて座れ。今日はそなたの問いに答えに来たのだから」
そう言ってやると、元親は顔を輝かせて近寄ってきた。御伽話でも聞く子供のように、元就を期待の眼差しで見ている。元就は僅かに視線をずらして、目を合わせなかった。
「まずはそなたの名だが、元親という」
「もとちか。この間の、ちょうそかべ、ってのはなんだったんだ?」
「……そなたの上の名だ」
元就は少し考えてから答えた。元親もまた、その言葉の意味をしばらく考えて、
「俺は偉い人間だったのか」
と素っ頓狂な事を言うので、元就はため息を吐いた。
「まぁ、そういう事だと理解しておけばいい」
「じゃあ、俺は誰なんだ。俺はあんたの部下じゃない。部下じゃないけど偉い奴だ。……あんたの敵か?」
「それについては答えられぬ」
「なんで」
元親はいつにもまして童のように素直だった。否定の言葉を口にした途端、彼はあからさまに不満そうな顔をした。元就は呆れながらも、静かに答える。
「一つには、そなたに今、我が事実を伝える事は互いにとって好ましくないからだ」
「……どうしてだよ」
「そなたは、そなたが思っているよりも重要な人物だ。かつ、我の支配下に無い。そのそなたに我が、我の解釈した事実を伝えても、それは事実ではない。まして、我が事実無根の嘘を教えたとしても、そなたには判断出来ぬ。出来ぬ以上、そなたは我の言う事を鵜呑みにする。要は洗脳するような形になる。それは我の倫理に反する故、我はそなたに対する我の知っている情報を与えようとは思わぬ」
「……つまり、俺はあんたとは、いい仲じゃなかったって事だな、たぶん」
元親はまたしばらく考えてから、そう言う。元就は少しだけ感心した。案外、話は通じる。
「少なくとも我はそなたの人となりを知っているほど、そなたに近しい存在ではなかったし、お互いの立場の話をするのも今は難しい。そなたは教えて欲しいだろうが、それは叶わぬ事と今は諦めてはくれまいか」
自然と頼む口調になったのは、それほど参っているからでもあった。もう、問う事は止めて欲しい、でなければ、と思う。けれど、でなければなんなのか、元就には自分の事なのに判らなかった。
「そっか……じゃあ仕方ないなぁ……」
元親は酷く残念そうな声を出して、俯いた。その肩を落とした姿が、酷く哀れで、元就は思わず言葉を続ける。
「我のほうもそなたが一刻も早く、平常に戻れるよう努力はするつもりだ。京の辺りに知人が居る。奴に文を送ってみよう。あの辺りなら、そなたの治し方を知っている者も、あるいは居るかも知れぬ」
知人の名が明智光秀だと言う事は元就自体思い出したくもなかったので、詳しくは話さなかった。
「それと、そなたは生まれも育ちも、まして今もここの人間ではない。別の場所の人間だが、先ほども申した通り、そなたは安易に他から情報を与えられて鵜呑みにしてよいような立場ではない。我がそなたに悪意を持って接する可能性も、まして過去、そなたに関わりが有った人間が、そなたに嘘を教え込む可能性も無いとは言えぬ。したがって我はそなたを元の家に帰す事が出来ぬが、それも容赦してくれ」
「……」
「……何か、言いたい事は有るか」
欲しい物などが有るなら、可能な限り与えるが……と続けると、元親はしばらく考えて、それから、
「あんたの事が知りたい」
と答えた。
「……我とそなたの事は話せぬと、」
「あんたの口ぶりからして、あんたも俺も重要な人物だ。恐らくは、結構な立場の人間なんだろう。でもよ、そりゃあ立場においての人間の話だ。あんたや俺個人の話なら、問題はないだろう?」
「それは、そうだが……」
「あんたは俺と親しくない、だから俺個人の事は良く知らない、教えられない。でも、あんた個人の事は、あんたが一番良く知っているし、お互いの立場の話には直接関与はしねぇだろ? なぁ、あんたを教えてくれよ」
「……だが、」
「不安なんだ、恐いんだ、何もかも判らない、ただ漠然と色んな事は判る、例えばあんたは偉い、俺も偉いらしい、だから何故だか兵が俺を見張ってるし、時々部屋も覗きこんで来る、女中は優しいけど何も話してくれない、笑顔だけ貼り付けて何考えてるのか、あんたは何を考えてるのか、俺はどうなるのか、この先元に戻るのか、何もかも不安定で判らない」
元親は小さく首を横に振る。
「あんたはきっと優しい」
「……我が?」
元就は思わず眉を寄せたが、元親は「うん」と頷いて続ける。
「俺に嘘を教えようとしない。でもそれは優しいからこそ出来る残酷な事だ。俺は今、嘘でもいいから確かな物が欲しい、だけどあんたはそれをくれない、だから、」
だから、あんたを、せめてあんたの事を知りたい。
切に請われて、泣きそうな眼差しを向けられて、まして彼の大きな両の手で己の手を握られては、振り払いようも無かった。彼の手は白くて、ごつごつとしていて、何故だか酷く懐かしく感じた。あぁ、戦をする手だ、と元就は他人事のように感じた。
なぁ、ともう一度繰り返されて、元就はそれで諦めた。そして、小さくため息を吐くと、静かに、
「……すまぬが、我は、そなたに語るべきほどの、我を、持っていないのだ」
と、答えた。何故だか酷く、悲しい、虚しい気持ちになった。
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しょげたアニキってすごくかわいいですよね。
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