ここまで書いといて言うのもなんですけど
これ絶対ログとか上げれませんね
以下、SFねこの12
これ絶対ログとか上げれませんね
以下、SFねこの12
明智光秀は「前の明智光秀」のコピーである。元々性能が低かった「光秀」は、クローンを1つしか作らなかった。研究者にも26になってようやくなれたぐらいで、頭もそれほど良く無かったと光秀は思っている。要するに、「光秀」を軽蔑しているのだ。
知能も低く、そして研究者としての格も低かった。彼は実験によって命を殺す事に怯えていた。弱い人間だった。優しい人間とも言う。そんな「光秀」を、光秀は心から軽蔑していたし、だからこそ彼は、一人の人間である前に研究者であろうとした。それ故、彼は「光秀」を上回る知能と、残忍さを得る事になった。
「光秀」は遅く研究界に参入したが、その頃は「元就」はまだ正常で、その手腕を発揮していた。数々の論文を発表し、次々に研究結果を出す。モルモットの使用に一切の迷い無く、生きる事全てを研究に注ぎ、そしてその世界の頂点に立とうとしていた。それは光秀から見ても輝かしいものだった。そんな「彼」に「光秀」が惹かれたのも無理は無いし、そして「彼」に丸めこまれてラボを際限なく拡張したのも仕方ない。
利用されていたのだ、と光秀は思っている。「元就」は研究資材を集めていた。「光秀」にラボを作らせて、自分の実験結果として発表しようとしていたのだと。だがその目標は達せられなかった。「元就」が発病したのだ。
論文に書いてある字が読めない。そもそも何の話をしていたのか判らない。「元就」の冴えわたる知性は、それ故にその欠落を如実に示した。すぐさま、多くの研究者が元就を見捨てた。一人ぼっちになった「元就」の背を、それでも支えたのは「光秀」だけだった。
「元就」が「光秀」に縋るようになるのも当然で、それ故、光秀は「彼ら」を軽蔑している。研究者は研究者として生まれ、研究者として死ぬべきだ。その中に感情や感傷を入れていたら、研究がままならない。「光秀」は「元就」の介護などせず、研究を続ければよかった。けれど「彼」は介護の道を、そして心中の道を選んだ。光秀はそれが理解出来ない。
自分の生まれてきた意味は、研究に有るのだ。一人の人間である前に、研究者なのだから。その為には、いかなる感情も、感傷も、記憶も、人情も、何もかも必要無いのだ。
だから。
だから、本当は。……本当は。
光秀はのろのろとラボの廊下を歩いていた。薄暗い廊下、明かりもつけないままに、光秀は歩いて行く。静かだった。光秀の足音しか、しなかった。
やがて光秀は一つの扉に辿りつき、そっと開く。部屋の中央に、檻が一つ。もう二度と脱走出来ないように、何重にも閉められた檻だ。その中で、大きな猫が慟哭している。光秀はゆらゆらと彼に近づくと、その前に膝を着いた。
猫――元親が顔を上げ、光秀を睨みつける。
「何でだ、何で、何で殺した? どうして元就を殺した? あんた、あいつの事を憎からず思ってたはずだ!」
「殺していませんよ、死んでいません。意識が無いだけです。生死とは、生命活動が有るか否かを問題にするのです。貴方の定義がどうかは知りませんがね」
「どうして元就を実験になんか! 俺にすれば良かった! 身体が生きてても、今のあいつはもう、心が死んでる! 何も無い、何も感じられないんだよ! 元就の声が聞こえない! あんたが、あんたが殺したんだ!」
「殺したのは、我々、ですよ……」
「いいや、お前だ、お前が、お前が元就を……!」
元親は怒りのあまり床を叩き、己の髪を引き掴む。ううう、と呻きながら、涙をこぼす。そんな彼を見ながら、光秀は酷く疲れていた。何故だか、無性にむなしかった。
「以前の毛利殿は決してあのような選択をする人ではありませんでした。あれでいて自己愛の有る人で、だからこそ保身を大事にしていた。誰かの為に死ぬような、愚かな人ではなかった。……変えたのは貴方です。貴方が死にたくないあまりに毛利殿の所へ逃げ込み、毛利殿を変えたから、彼は死を選ぶ事が出来るようになってしまった。そして私は根っからの研究者。全ての条件がそろったのです。それが良いようへ転べば奇跡と呼び、悪い方へ転べば運命と呼ぶ」
光秀は僅かに笑って、首を横に振る。
「毛利殿に言われるまでも無い。私は、ずっとずっと毛利殿を実験に使いたかった。その細い首を引き掴んで、カプセルに押しこんで、その頭蓋をノコで裂いてやりたかった! ……でも、出来なかったんです。私は研究者なのに、彼がただ一人の友人だと、それだけの理由で、……あれほど無防備な存在を、陥れる事が出来なかったのです。研究者としてあるまじき事。私はずっとずっと我慢していました。彼が自分からその事を切り出して来ない限り、私は我慢し続けるつもりでした。永遠に、彼をカプセルに入れるような事は、したくなかった……」
「……狂ってる、あんた、おかしいよ、あんた達は皆おかしい……元就、元就は死ななくても良かった……」
「えぇ、そうですね。私達は狂っている。遥か故郷の星には、ドッペルゲンガーという魔物が居たそうです。まぁ、脳の異常だと言われていますがね。もう一人の自分に会うと死ぬとか、そういう話ですよ。気が狂っているから、他人が自分に見えるという説も有る。私はね、「私」に育てられました。尤も軽蔑する男です。そして「毛利博士」は私をも罵倒しました。憎むべき男です。鏡を見れば、心から軽蔑する男の顔がそこに有る。私の守るべき唯一の友人は、最も憎むべき男の顔で、私を見上げてくる……! いつもそこに居るのです、鏡を見る度、毛利殿に会う度! おかしくならないほうが、おかしいというものです……!」
光秀は笑った。ひとしきり笑った後で元親を見る。酷く疲れた顔をしていた。
「馬鹿らしい。私達が遺伝子まで使って、この何十年という時間をかけた研究が、……その結果が。毛利殿を二度殺しただけだったなど。馬鹿らしい、馬鹿らしい、馬鹿らしい……」
私と貴方が、彼を殺したんです。貴方が居なければ、毛利殿は死ななかった。毛利殿が死んだから、貴方は生き残れる。満足でしょう。貴方は生き続けたくて、私から逃げていたのだから。
光秀はそう呟いて、そして笑った。地面だけを見て、ただ泣くように、笑い続けた。
実験は失敗していない。完璧だった。実験用カプセルに入れ、麻酔を打ち。脳に打ち込んだ薬品の量も、全く問題が無かった。実験は成功しているのだ。
それ故、カプセルを開いて。神経系の全てを確認し、意識と呼べるものが完全に失われた元就を見て、光秀は初めて自分のした事がいかに恐ろしい事だったのか、ようやく理解した。
実験したかった。自分の、自分達の研究の成果を確実なものにしたかった。その欲求に従い、取り返しのつかない事をしてしまった。光秀は身動き一つしない元就を見て、初めてそれを自覚した。
研究成果は、相手の知性及び意思、全てを破壊するものだった。元就はそこにただ転がっているだけだ。光秀は何度も元就の名を呼んだ。彼は目を開けたけれど、それは生理的な反応で、それ以外の何も伴わない。脳波も調べた。なんの反応も無い。ただ生きている、それだけのものになっていた。
+
元親はチカという名前を持って生まれた。個体識別に用いる物だから、名前に意味など無かったし、全を以って個とする種の中で、元親の存在は特別ではなかった。幼い頃、人間達に襲われ、左眼を失った。
侵略者達に虐げられ、見下される生活に嫌気のさした元親は、単身群れを離れた。そして光秀に出会う。元親は新しい何かを探していた。自分達と彼らは、もっと違う形で生きていけるはずだと思っていた。友好的な個体も居るはずだと。最初、光秀がそれだと思っていた。
歓迎されていたのが、実験に使うためだからと気付いた時にはもう遅かった。檻に入れられ、実験に使われるのを待つばかりだった。彼はその時初めて死を意識し、そして逃げたいと、生きたいと願った。こんな所で、そんなふうに終わるのが自分の人生ではないと。
そんな時、元就を見た。彼の心は光秀に比べて澄んでいて、冷えていて、そして何より、自分達に対して敵対心を抱いていなかった。一つの希望を掛けて、元親は脱走し、元就の所へと走った。
元就との生活は、元親にとって素晴らしい物だった。他種族との穏やかな交流、それこそ元親の望んだものだ。元就は優しい人間ではなかったが、冷酷でもなかった。元親を撫でると、元就が微笑む。その心が温かくなる。それを感じて、元親も幸せな気持ちになれた。元親は幸せだった。
元就が幸せになれば、俺も幸せになれる。だから元就を幸せにするんだ。
光秀が自分を見つけた事を感じ取り。元親は元就の側から消える決意をした。元就を守らなくてはならない。自分の居た証拠を隠蔽して、自ら光秀に捕まりに行った。元就が黙っていれば、彼は罪に問われないし、そしてここまで逃げてそれでダメなら、もう逃げる事は出来ないのだから、いっそ大人しく運命に従うべきだと思った。元就を幸せに出来た、それで自分の人生には価値が有ったと、そう思った。
ふと気付くと、檻が開いている。光秀は檻にもたれて、ぼうっとしていた。
「おい、開いてるぞ」
そう言っても、光秀はつまらなそうに頷くばかり。
「えぇ、貴方の所有権は毛利殿に移りました。後は出て行くなり、私を殺すなり好きにすればいい。……あぁ、今なら判ります、彼の気持ちが。彼は……彼はずっと、不本意ながら心中したのだとばかり……毛利殿の居ない世界に、何の意味が有ると、生き続けて何の意味が有ると……今なら、判るんです。それを毛利殿を殺すまで判らないだなんて、私はとんだ間抜けですよ……」
ふふ、と笑い続ける光秀を見て、元親は気の毒に思った。彼の心もまた、冷え切ってしまっている。悲しみと後悔と怒りがないまぜになって、自棄になっているのだ。だがそれが一時的なものになるだろう事は判った。人はそのタイミングを逃すと、行動が出来ない。光秀は元就を追って死ぬ時期を逃した。後は生き続けるしかない。
「……あんた、間違えてるんだよ。人間って生き物は、役職以前に人間なんだ。あんた研究を大事に思ってた、でもそれ以上に大事な存在だと判ってたはずだ……。……なぁ、……元就に会いたい。……何処だ?」
「あれは毛利殿ではありません。毛利殿の形をした、肉の塊です……」
「それでもいい、会いたいんだ。なぁ。……あんたを殺したりなんかしねぇよ。あいつは最後まであんたを信じてたんだろ……あんたのせいじゃない、強いて言えば、あんたの言うとおり、俺のせいなんだ」
光秀はのろのろと顔を上げ、元親の顔を見ると、小さな声で「28号室です」と答えた。
28号室には、簡易ベッドだけが置かれていた。その上に、元就が転がっている。
服と布団を着せられ、ただ横たわっている。元親は光秀の事を知っているから、死んだ実験材料をどう扱うかは判っていた。だから光秀がどれほど元就を大切にしているか、すぐに判る。元就はまだ「人」として、丁重に扱われていた。
のろのろと近寄り、そっと頬に触れる。温かい。眼は僅かに開いていた。虚ろな眼がこちらを見る事は無く、彼の心を探ってみても、何一つ判らない。伝わって来ない。何も無いのだ。何も。何一つ。
「……元就」
試みに名を呼んだ。そっと喉をくすぐってみる。――反応は無い。心も、身体も微動だにしない。元親はそれでも何度か名を呼び、しばらくその身体を撫でていた。
「元就、俺はあんたを幸せにしたかったよ」
手を握り、指を絡める。確かに温かいのに、何も無い。元親にははっきり判る。何も宿っていないのだ、この身体には。
「あんたは幸せだったんだろう、笑ってたし、あんな選択をしたって、後悔はしてなかったから。……俺達は、相手の幸せこそ、自分の幸せだと言い伝えて来た。でもよぉ、元就ぃ……俺、……俺今、全然幸せじゃねぇよ」
ぎゅっと手を握り、元就の額を撫でる。脳に直接語りかけるように、髪を、頭を撫でても、やはり何も感じ取れない。冷たくさえない。何も、無いのだ。
「なぁ、なぁ、なぁ元就、なぁ、撫でてくれよ、なぁ。こんなの、こんなの幸せじゃねえよ。なぁ。あんたが幸せだとしても、俺は、……俺はよぉ、元就……こんな……こんな風にするために、あんたの側に居たわけじゃないんだよ……」
こんなのは違う、こんなのは。絶対に。絶対に違う。
元親は元就をぎゅっと抱き寄せた。
こんなのは、違う。だから、……だから、待とう。元就が、元に戻るのを。戻らないはずがない。こんなのは違うのだから、正しい形に戻るはずなのだ。
元親はそう考えて、涙をこぼした。心と本音が別の事を考えていた。けれど見ないふりをして、元親は元就を抱きしめ、撫で続けていた。
+++
あと2回……か1回……か
早く書き上げてアホエロに突入したい……
知能も低く、そして研究者としての格も低かった。彼は実験によって命を殺す事に怯えていた。弱い人間だった。優しい人間とも言う。そんな「光秀」を、光秀は心から軽蔑していたし、だからこそ彼は、一人の人間である前に研究者であろうとした。それ故、彼は「光秀」を上回る知能と、残忍さを得る事になった。
「光秀」は遅く研究界に参入したが、その頃は「元就」はまだ正常で、その手腕を発揮していた。数々の論文を発表し、次々に研究結果を出す。モルモットの使用に一切の迷い無く、生きる事全てを研究に注ぎ、そしてその世界の頂点に立とうとしていた。それは光秀から見ても輝かしいものだった。そんな「彼」に「光秀」が惹かれたのも無理は無いし、そして「彼」に丸めこまれてラボを際限なく拡張したのも仕方ない。
利用されていたのだ、と光秀は思っている。「元就」は研究資材を集めていた。「光秀」にラボを作らせて、自分の実験結果として発表しようとしていたのだと。だがその目標は達せられなかった。「元就」が発病したのだ。
論文に書いてある字が読めない。そもそも何の話をしていたのか判らない。「元就」の冴えわたる知性は、それ故にその欠落を如実に示した。すぐさま、多くの研究者が元就を見捨てた。一人ぼっちになった「元就」の背を、それでも支えたのは「光秀」だけだった。
「元就」が「光秀」に縋るようになるのも当然で、それ故、光秀は「彼ら」を軽蔑している。研究者は研究者として生まれ、研究者として死ぬべきだ。その中に感情や感傷を入れていたら、研究がままならない。「光秀」は「元就」の介護などせず、研究を続ければよかった。けれど「彼」は介護の道を、そして心中の道を選んだ。光秀はそれが理解出来ない。
自分の生まれてきた意味は、研究に有るのだ。一人の人間である前に、研究者なのだから。その為には、いかなる感情も、感傷も、記憶も、人情も、何もかも必要無いのだ。
だから。
だから、本当は。……本当は。
光秀はのろのろとラボの廊下を歩いていた。薄暗い廊下、明かりもつけないままに、光秀は歩いて行く。静かだった。光秀の足音しか、しなかった。
やがて光秀は一つの扉に辿りつき、そっと開く。部屋の中央に、檻が一つ。もう二度と脱走出来ないように、何重にも閉められた檻だ。その中で、大きな猫が慟哭している。光秀はゆらゆらと彼に近づくと、その前に膝を着いた。
猫――元親が顔を上げ、光秀を睨みつける。
「何でだ、何で、何で殺した? どうして元就を殺した? あんた、あいつの事を憎からず思ってたはずだ!」
「殺していませんよ、死んでいません。意識が無いだけです。生死とは、生命活動が有るか否かを問題にするのです。貴方の定義がどうかは知りませんがね」
「どうして元就を実験になんか! 俺にすれば良かった! 身体が生きてても、今のあいつはもう、心が死んでる! 何も無い、何も感じられないんだよ! 元就の声が聞こえない! あんたが、あんたが殺したんだ!」
「殺したのは、我々、ですよ……」
「いいや、お前だ、お前が、お前が元就を……!」
元親は怒りのあまり床を叩き、己の髪を引き掴む。ううう、と呻きながら、涙をこぼす。そんな彼を見ながら、光秀は酷く疲れていた。何故だか、無性にむなしかった。
「以前の毛利殿は決してあのような選択をする人ではありませんでした。あれでいて自己愛の有る人で、だからこそ保身を大事にしていた。誰かの為に死ぬような、愚かな人ではなかった。……変えたのは貴方です。貴方が死にたくないあまりに毛利殿の所へ逃げ込み、毛利殿を変えたから、彼は死を選ぶ事が出来るようになってしまった。そして私は根っからの研究者。全ての条件がそろったのです。それが良いようへ転べば奇跡と呼び、悪い方へ転べば運命と呼ぶ」
光秀は僅かに笑って、首を横に振る。
「毛利殿に言われるまでも無い。私は、ずっとずっと毛利殿を実験に使いたかった。その細い首を引き掴んで、カプセルに押しこんで、その頭蓋をノコで裂いてやりたかった! ……でも、出来なかったんです。私は研究者なのに、彼がただ一人の友人だと、それだけの理由で、……あれほど無防備な存在を、陥れる事が出来なかったのです。研究者としてあるまじき事。私はずっとずっと我慢していました。彼が自分からその事を切り出して来ない限り、私は我慢し続けるつもりでした。永遠に、彼をカプセルに入れるような事は、したくなかった……」
「……狂ってる、あんた、おかしいよ、あんた達は皆おかしい……元就、元就は死ななくても良かった……」
「えぇ、そうですね。私達は狂っている。遥か故郷の星には、ドッペルゲンガーという魔物が居たそうです。まぁ、脳の異常だと言われていますがね。もう一人の自分に会うと死ぬとか、そういう話ですよ。気が狂っているから、他人が自分に見えるという説も有る。私はね、「私」に育てられました。尤も軽蔑する男です。そして「毛利博士」は私をも罵倒しました。憎むべき男です。鏡を見れば、心から軽蔑する男の顔がそこに有る。私の守るべき唯一の友人は、最も憎むべき男の顔で、私を見上げてくる……! いつもそこに居るのです、鏡を見る度、毛利殿に会う度! おかしくならないほうが、おかしいというものです……!」
光秀は笑った。ひとしきり笑った後で元親を見る。酷く疲れた顔をしていた。
「馬鹿らしい。私達が遺伝子まで使って、この何十年という時間をかけた研究が、……その結果が。毛利殿を二度殺しただけだったなど。馬鹿らしい、馬鹿らしい、馬鹿らしい……」
私と貴方が、彼を殺したんです。貴方が居なければ、毛利殿は死ななかった。毛利殿が死んだから、貴方は生き残れる。満足でしょう。貴方は生き続けたくて、私から逃げていたのだから。
光秀はそう呟いて、そして笑った。地面だけを見て、ただ泣くように、笑い続けた。
実験は失敗していない。完璧だった。実験用カプセルに入れ、麻酔を打ち。脳に打ち込んだ薬品の量も、全く問題が無かった。実験は成功しているのだ。
それ故、カプセルを開いて。神経系の全てを確認し、意識と呼べるものが完全に失われた元就を見て、光秀は初めて自分のした事がいかに恐ろしい事だったのか、ようやく理解した。
実験したかった。自分の、自分達の研究の成果を確実なものにしたかった。その欲求に従い、取り返しのつかない事をしてしまった。光秀は身動き一つしない元就を見て、初めてそれを自覚した。
研究成果は、相手の知性及び意思、全てを破壊するものだった。元就はそこにただ転がっているだけだ。光秀は何度も元就の名を呼んだ。彼は目を開けたけれど、それは生理的な反応で、それ以外の何も伴わない。脳波も調べた。なんの反応も無い。ただ生きている、それだけのものになっていた。
+
元親はチカという名前を持って生まれた。個体識別に用いる物だから、名前に意味など無かったし、全を以って個とする種の中で、元親の存在は特別ではなかった。幼い頃、人間達に襲われ、左眼を失った。
侵略者達に虐げられ、見下される生活に嫌気のさした元親は、単身群れを離れた。そして光秀に出会う。元親は新しい何かを探していた。自分達と彼らは、もっと違う形で生きていけるはずだと思っていた。友好的な個体も居るはずだと。最初、光秀がそれだと思っていた。
歓迎されていたのが、実験に使うためだからと気付いた時にはもう遅かった。檻に入れられ、実験に使われるのを待つばかりだった。彼はその時初めて死を意識し、そして逃げたいと、生きたいと願った。こんな所で、そんなふうに終わるのが自分の人生ではないと。
そんな時、元就を見た。彼の心は光秀に比べて澄んでいて、冷えていて、そして何より、自分達に対して敵対心を抱いていなかった。一つの希望を掛けて、元親は脱走し、元就の所へと走った。
元就との生活は、元親にとって素晴らしい物だった。他種族との穏やかな交流、それこそ元親の望んだものだ。元就は優しい人間ではなかったが、冷酷でもなかった。元親を撫でると、元就が微笑む。その心が温かくなる。それを感じて、元親も幸せな気持ちになれた。元親は幸せだった。
元就が幸せになれば、俺も幸せになれる。だから元就を幸せにするんだ。
光秀が自分を見つけた事を感じ取り。元親は元就の側から消える決意をした。元就を守らなくてはならない。自分の居た証拠を隠蔽して、自ら光秀に捕まりに行った。元就が黙っていれば、彼は罪に問われないし、そしてここまで逃げてそれでダメなら、もう逃げる事は出来ないのだから、いっそ大人しく運命に従うべきだと思った。元就を幸せに出来た、それで自分の人生には価値が有ったと、そう思った。
ふと気付くと、檻が開いている。光秀は檻にもたれて、ぼうっとしていた。
「おい、開いてるぞ」
そう言っても、光秀はつまらなそうに頷くばかり。
「えぇ、貴方の所有権は毛利殿に移りました。後は出て行くなり、私を殺すなり好きにすればいい。……あぁ、今なら判ります、彼の気持ちが。彼は……彼はずっと、不本意ながら心中したのだとばかり……毛利殿の居ない世界に、何の意味が有ると、生き続けて何の意味が有ると……今なら、判るんです。それを毛利殿を殺すまで判らないだなんて、私はとんだ間抜けですよ……」
ふふ、と笑い続ける光秀を見て、元親は気の毒に思った。彼の心もまた、冷え切ってしまっている。悲しみと後悔と怒りがないまぜになって、自棄になっているのだ。だがそれが一時的なものになるだろう事は判った。人はそのタイミングを逃すと、行動が出来ない。光秀は元就を追って死ぬ時期を逃した。後は生き続けるしかない。
「……あんた、間違えてるんだよ。人間って生き物は、役職以前に人間なんだ。あんた研究を大事に思ってた、でもそれ以上に大事な存在だと判ってたはずだ……。……なぁ、……元就に会いたい。……何処だ?」
「あれは毛利殿ではありません。毛利殿の形をした、肉の塊です……」
「それでもいい、会いたいんだ。なぁ。……あんたを殺したりなんかしねぇよ。あいつは最後まであんたを信じてたんだろ……あんたのせいじゃない、強いて言えば、あんたの言うとおり、俺のせいなんだ」
光秀はのろのろと顔を上げ、元親の顔を見ると、小さな声で「28号室です」と答えた。
28号室には、簡易ベッドだけが置かれていた。その上に、元就が転がっている。
服と布団を着せられ、ただ横たわっている。元親は光秀の事を知っているから、死んだ実験材料をどう扱うかは判っていた。だから光秀がどれほど元就を大切にしているか、すぐに判る。元就はまだ「人」として、丁重に扱われていた。
のろのろと近寄り、そっと頬に触れる。温かい。眼は僅かに開いていた。虚ろな眼がこちらを見る事は無く、彼の心を探ってみても、何一つ判らない。伝わって来ない。何も無いのだ。何も。何一つ。
「……元就」
試みに名を呼んだ。そっと喉をくすぐってみる。――反応は無い。心も、身体も微動だにしない。元親はそれでも何度か名を呼び、しばらくその身体を撫でていた。
「元就、俺はあんたを幸せにしたかったよ」
手を握り、指を絡める。確かに温かいのに、何も無い。元親にははっきり判る。何も宿っていないのだ、この身体には。
「あんたは幸せだったんだろう、笑ってたし、あんな選択をしたって、後悔はしてなかったから。……俺達は、相手の幸せこそ、自分の幸せだと言い伝えて来た。でもよぉ、元就ぃ……俺、……俺今、全然幸せじゃねぇよ」
ぎゅっと手を握り、元就の額を撫でる。脳に直接語りかけるように、髪を、頭を撫でても、やはり何も感じ取れない。冷たくさえない。何も、無いのだ。
「なぁ、なぁ、なぁ元就、なぁ、撫でてくれよ、なぁ。こんなの、こんなの幸せじゃねえよ。なぁ。あんたが幸せだとしても、俺は、……俺はよぉ、元就……こんな……こんな風にするために、あんたの側に居たわけじゃないんだよ……」
こんなのは違う、こんなのは。絶対に。絶対に違う。
元親は元就をぎゅっと抱き寄せた。
こんなのは、違う。だから、……だから、待とう。元就が、元に戻るのを。戻らないはずがない。こんなのは違うのだから、正しい形に戻るはずなのだ。
元親はそう考えて、涙をこぼした。心と本音が別の事を考えていた。けれど見ないふりをして、元親は元就を抱きしめ、撫で続けていた。
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