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めでぃのくの日記
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2025-01-19 (Sun)
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2010-03-05 (Fri)
 早くかまいたちをクリアして、平穏な夜を過ごしたい。
 しかしその為にはかまいたちをしなければならない。
 かまいたちをすると夜眠れない。
 なんというジレンマ

 以下、ヒモチカの6

 走った末に、二人はとあるホテルに入った。ラブホテルという奴で、元親はそこを知っていたから、逃げ回るより確実に二人っきりになれる、と提案したのだ。元就も一瞬躊躇したが、頷いた。彼はお世辞にも体力の有るほうでは無かったから、疲れていたらしい。部屋に入るとすぐにベッドに腰掛け、うなだれてしまった。

 元親の方はというと、訳の判らないままで、当然こんな状況に持ち込めた事を喜ぶ余裕もなかった。元就が何か言うのを待っていたが、いつまで経っても彼は口を開かない。元親はしばらくお茶を煎れたりしたが、やがて恐る恐る声をかけてみる。

「あの……いいのか、その……お兄さん、あんな事になっちまって……」

「どうでも良い、あんな奴」

 低く吐き捨てられて、元親は目を見張った。元就がそういう暴言を吐くのを聞いた事が無い。しかもその対象が家族である事に、元親は驚いた。

「あんな奴って……お兄さんなんだろ? 家族は大事にしなきゃあ……」

 孤児である手前、家族というものに対する憧れは大きかった。押しつけるのは良くないと判っていても、思わずそう言えば、「あんなのは、兄ではない」と返事。

「……なんか、……複雑なのか? お前の家」

 これ以上憶測で発言するのは良くないな、と考えて、元親が尋ねる。元就はしばらく床を見つめていたが、やがて大きな溜息を吐き、首を振る。

「……何から話すべきか判らぬから……最初から、正直に話そう。黙っていたから、こんな事になったのだろうし……」

 元就は元親の方に身体を向けて、小さく話し始めた。ただ目はあまり合わなかった。

「我は父の第二夫人の連れ子だ。だからつまり……父とも兄とも、血の繋がりは無い。たぶんな。母が我の本当の父について一切話さないから、真実は判らぬ。それでも、今の父と兄とは欠片も似ておらぬから、恐らくそうだろうとは思う」

 毛利家の最初の正妻は、元就の兄である興元を残して、何処かへ行ってしまった。蒸発という奴で、決して元就の母が、寝取ったというわけではなかったそうだ。しかし事情がどうあれ、母を失った興元が、その後を埋めるようにやってきた女に、不信感を持たないはずが無く、またその連れ子に危機感を覚えないはずが無かった。

「……最初から、兄とは反りが合わなかった。当然だろう、実母の居場所を奪った女の息子だ。弟だと言われて愛せようはずもない。目に付かぬ所で我を苛めた。……今でもそうだ。顔を合わせれば嫌味、皮肉、罵倒……。まあ、兄についての事は、その程度だ」

 元就は一つ溜息を吐いて、それで興元についての話をしめくくった。元親はそれに首を傾げる。だとしたら、何故自分はあんな剣幕で詰め寄られたりしたのか。不思議に思っていると、元就も首を傾げる。

「……なんだ?」

「いや。えーと、それで、……それからどうなったんだ?」

 ひとまず続きを促すと、元就は「ああ」と頷いた。

「それで……我は劣等感や理不尽に対する怒りを解消する為にも、兄のようなクズとは違う、という事を証明しなければならないと思っていた。つまり、出来る人間で、完璧な男でなければ、と。当然失敗などは許されなかった。事実、学生時代は何もかも上手く行っていた、つもりだ。しかし……」

「……まさか……」

「……うむ。就職してすぐ、とてつもない失敗をして……それで人生に躓いてしまった。生まれて初めての失敗で、あんなに怒られた事もなかったから……怖くなってしまったのだ。それでそのまま、退職届けを出して、逃げ出した」

「失敗って、どんな?」

「……電車に、設計図の入った封筒を、……忘れて。会議に間に合わなかった」

 元親は軽い目眩を覚えた。つまりこういう事だ。秀才として学生時代を送り、何もかも順風満帆に生きてきたが為に、たった一度の失敗に耐えきれず、社会から逃げ出した、と。

 成功も失敗も積み重ねる物だ。成功だけを重ねて、この年で失敗したなら相当なショックだろう。子供が叱られたのと同じ状態だ。子供なら泣いてしょげて部屋の隅にでも座っていればいいが、大人はそうはいかない。そういう段階は越えたと判断されるわけで、それに耐えられない人間の事は、ダメな奴としか言いようが無かった。

 元就もそれは理解しているらしい。俯いたまま、ぼそぼそと喋る。学生時代は良かった、とそのような内容だった。引きこもりでも無かったらしい。成功体験から得た自信の塊のような人間だったろう事は、想像に難くなかった。それ故に、今の自己卑下の塊と化した元就が哀れだった。自信を全て失ってしまったのだろう。だが元親にはどうしても、その悲しい生き物を、嫌いになれなかった。

「昔から電気の事が好きで、設計者になれたのにな。馬鹿な事をした、と今では思う。……そなたの名がバリスタだったから、気を許したのだ。もしかしたら同業者、……いや、電気が好きなのかと思って」

 ああ、それで。元親は納得した。だからバリスタという固有名詞を、電子機器のそれだと受け取っていたのだ。勇気をふり絞って、あんな所に書き込みをしたのだろう。そしてたまたま、バリスタという名の人間からメールを受け取って、元就がどれほど喜んだかは判る。

「……それで? 最近連絡が取れなかったのは?」

「……我は、……もう十分判っているだろうが、大層な馬鹿だ。後先というものをロクに考えない。頭はその、悪くないとは思うのだが、どうにも馬鹿な事をしてしまって……おまけに見栄っ張りで、……つまり、我はそなたにふさわしい人間になろうと……安易な結論に飛びついたのだ。その、……服を、買ったのだ。大量に」

「……はぁ」

「ほら、そなたが教えてくれた雑誌。あれに載っていた服をな、片っ端から……」

 元親は眉を寄せる。通常そのような雑誌に掲載される商品は、ブランド物だ。雑誌というものはそれを参考に何処まで近い物を作るか、が目標だと思うのだが、元就は引きこもり故にそれを知らなかったようだ。つまり、雑誌に有る物を買うしかないのだと、考えてしまった。元親はそれに気づいた時点で、大方何が起こったのかは想像出来た。

「貯金はすぐに無くなって、当然収入も無いわけだから、その……借りるしかなくて、しかし無職だから、銀行は無理だろう? だから……」

「……電柱か?」

「え? あ、……いや、そんなに怪しい所では無い、テレビでCMもしているし……」

 元親は大きく溜息を吐いた。つまり、見栄を張る為に借金をしたのだ。返す見込みも宛も無く、そしてこの様子を見るに、大した知識も無く。

「それで、いつの間にかすげぇ額になってた……ってとこか」

「おまけに我は返済能力が無いわけで、家族にバラすと言われてもう、パニックになってしまった。悩んだ末に、そなたから金を借りた。ところが家に帰ったら、家族がそれはもう怒っていて、パソコンも携帯も取り上げられ、仕事をするまで使わせない、と……」

 当然の反応だろう。家族にしてみれば、世話をしてやっていたのに、気付けば借金まで抱えている状況だ。もう我慢ならない、と言うのは当たり前だろう。それに対して元就も深く反省して、彼らの求めるとおり、ネットを止めて仕事を探したそうだ。

「我ももう、自分がどれだけ馬鹿な存在かは理解していたから、無用の自尊心とかその他の物を捨てて、とにかく真面目に働こうと……。幸い、資格を持っていたから、バイトはすぐに見つかって、働き始めたのだが……何しろ前科が有るし、すぐにはパソコンを返してはもらえず。そなたに連絡も取れない状態が続いていて……」

 今夜、珍しく兄が外出したので、部屋に忍び込み、パソコンに触れた。久しぶりに色々見てみたら、誰かが我の名を語って、そなたと会う約束をしているではないか。すぐに兄だと判った。兄がそなたを騙して、何かしようとしている、と。だからメールに書かれていたバーに走って、マスターに聞いたら、公園に行ったと言うから、走り回って……。……それで全てだ。もう隠し事も、嘘も無い。

 元就はそう言って、溜息を吐いた。何処からか、救急車の音が聞こえる。お兄さんじゃなけりゃあいいけど……と元親は思いながら、元就の前に座った。

「……だとしたらよ、お前の家って何か……とんでもない誤解が有るんじゃねぇのか?」

「? 何の事だ?」

「お兄さん、お前が俺に貢ぐために借金したんだって、カンカンだったんだぜ? 俺がお前と付き合ってて、しかも騙してるって。それってつまり、お前の事を心配してて、お前の代わりにぶん殴ってやるって、そういう事だろ?」

「まさか!」

 元就は深く眉を寄せて、首を横に振る。

「考えられぬ。我と懇意にしていると知っていて、そなたに危害を加えようとしたのだ。そうに決まっておる」

「だったら兄だって明かすのはおかしいだろ。身元が特定出来たら嫌がらせの意味が無いじゃあないか」

「……まさか。先ほども言っただろう、兄は我をずっと毛嫌いしていて。この間も、「当たり前の事をして誉められるとは、お前は気楽でいいな」とか、そういう嫌味を言われたし……」

「だからそれはあれ……今更素直になれない、って奴じゃあねえの? 何にせよお前ら、一度良く話し合った方が良いぜ。あっちはたぶん、許しを請うことも失礼だと思ってんだよ。でもそれって悲しいじゃねえか。お兄さん、お前の事ちゃんと弟として愛してんだぜ。家族なんだ。なのに繋がれないなんて、辛いじゃないか」

 元親には家族が無い。だから家族という物にとても憧れている。家族を作る唯一の手段として、結婚を見ているぐらいに、欲しくてたまらないものだ。なのに、それが目の前に有って、尚それを撥ねつけているのかもしれないと思うと、何故だか無性に悲しくなった。欲しいのに、手に入らない。有るのに、欲しがらない。

 とてつもなく、悲しい。

「……仮にそうだとしても、……もう何年もかけて凝り固まった関係だ。それを解消することなど……」

「大丈夫、出来るよ。お前にその気が有るなら」

「……何の根拠が有る? 出来ると言い切れる理由は?」
 
 元就は苦い顔で笑う。とても無理だ、と言いたげな顔だ。そんな彼に、元親は平然と言ってのける。

「だって、出来なかったらそれで終わりだろ。出来るしかないし、やるしかないんだよ」

 その言葉に元就は唖然とした表情を浮かべる。元親はなおも続けた。

「やり直したいと思ったら、そこがチャンスなんだ。まぁそれが罠の時も有るかもしれねぇけど。でもそこでやらなきゃ、今のままだし、やるからには出来なきゃ意味無いだろ? 出来るまでやんなきゃ。大丈夫、きっと出来るさ。出来なけりゃそれで終わり。簡単な事だろ?」

 そうだ、簡単な事だ。元親は自分に言い聞かせる。これではダメだと思ったなら、動くしかない。少なくとも、動かないでいるよりはマシだ。年を取ったと、愛されなくなったと感じるなら、なんらか手を打たなければ、どんどん悪い方へ転がっていく。そんなのは嫌だ。

「俺もさ、今ちょっとやり直したい事が有るから。一緒にやり直そう。金の事は気にすんな。人に金を貸すってのは、返ってこない覚悟を決めてやるもんだし、その事をあーだこーだ言うのは筋違いってモンだろ? だからお前も、重荷に感じる事なんか無い。俺はお前の人生を守りたくて、金を渡したんだから」

 お前が無事なら、それが何よりだ。だから、やり直そう。少なくとも、お前にその気が有るなら。

 元親がそう言っても、元就はしばらく何も反応しなかった。ただ困ったように、天井を見上げたり、壁を見たり。元親もまた、黙って待っていた。その間に、自分の方は覚悟を決める。

 変わらなくちゃあいけない。少なくとも、何処かを、どうにか。

 まだその方向性は決まっていなかったが、少なくとも今のままでいるよりは、よほど気が楽だと思った。何かをしているという事は、人を不安から解放するから。

 ややして元就は小さく笑った。彼はやはり困ったような笑みを浮かべて、元親を見る。

「……そうだな。ありがとう、元親。そなたはいつも我を導いてくれる。泣き言は出来なかった時にしよう。幸い、バイトとはいえ仕事は見つかった。そなたはそう言うが、しかし当面、そなたへ金を返す事を目標に働こう。我は大層なクズだが、それを支えに耐えていかねばな。……大丈夫、逃げ道は塞いであるし、今度は簡単には逃げ出せぬ。……今まで、本当にすまなかった」

「過去形はよしてくれよ。……これからも、……付き合ってくれる……のか?」

 急に不安になってきた。金の切れ目が縁の切れ目と言うし、借金をしている事を引け目に感じて、距離が開くのではないかと思った。元就の方はどう考えていたのか、「いや」と首を振る。

「それはこっちのセリフだ。我のようなダメな人間は、そなたにふさわしくないのではないか? これ以上、迷惑をかけるわけには……」

「いや、たぶんふさわしいとは思うけど……」

「?」

 言葉は届いていなかったらしい。元親は慌てて首を振り、笑顔を作る。

「とにかく、俺はお前と居たい。お前が好きなんだ。たぶん、一番。お前と居る時間が好きだし、楽しいし、幸せなんだ。だから、居させてくれ。俺はお前が嫌だって言わない限り、一緒に居たいよ。……たぶん、……たぶん、愛してるんだ。お前だけを」

 その言葉に元就はきょとんとして、それから静かに、元親から顔を逸らした。とてつもなく困ったような顔をしていた。


 +++

 遅れて申し訳ない上に、この辺で本格的にガチとかぶってきたな、と自分で思います。
 たぶん次で終わりです。

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